※ このお話は『我ら、紅魔館FC! 第一節』からの続き物になります。
Ⅰ
――人里第一球技場――
「クククッ……。サッカーの雰囲気を掴む為の練習試合とはいえ、やっと実戦が出来るのね!」
これから始まる練習試合に期待を膨らませながらレミリアはサッカーのフィールドを見渡す――。
「まぁ、今回の相手はうちの紅魔館のメイド妖精達だけどね。最初だし、サッカーの試合の流れを掴むには丁度いいんじゃないかしら」
レミリアの隣で分厚い本を脇に抱えたパチュリーが応える。
「相手が何処だろうと誰だろうと構いはしないわ! この私がいるチームが勝つ、それだけの事よ!」
レミリアはそう断言すると、自らのチームメイト達に発破を掛ける為にベンチに戻って行く。
「まぁ、私的にはどっちに転んだっていいんだけれどね」
パチュリーはそう言いながら、自らが天候を操作した曇り空を見上げた――。
「いい加減、サッカーの試合がしたいわ。パチェ」
紫が企画した『幻想郷サッカー大会』の告知以来、大図書館でほぼ毎日恒例(?)で
開催になってしまったレミリア主催の『サッカーで優勝するぞ! 秘密作戦会議』という名の、
紅茶とお菓子を楽しみながらお喋りする時間に、レミリアはパチュリーにそう問いかける。
「サッカーの試合……、ねぇ。一応メンバーは揃ったし、試合は出来ない事は無いけれど……」
パチュリーはレミリアの問いかけにそう応える。
「単純なリフティングとか、フランとの一対一はいい加減飽きてきちゃったのよ」
「試合をするのはいいのだけれど、いきなり言われても相手がいないわ。」
「えぇ~、ツマラナイわねぇ~」
レミリアはそう言って指でティーカップの縁をはじく。
「そんな事言われてもね……。」
パチュリーはそう言って、当ても無く視線を彷徨わす――。
ふと視線を固定すると、大図書館の奥の方で小悪魔が妖精メイド達に本の移動を命じていた。
「――ふむ。レミィ、試合出来るかもしれないわよ?」
小悪魔の指示にあちらこちらと忙しそうに走り回る妖精メイド達を見ながら、
パチュリーはレミリアに応える。
「本当なの!?」
パチュリーの言葉に思わず席を立って聞き返してしまうレミリア。
「ええ。後は球技場の目途さえつけば、何とかなりそうよ」
パチュリーはそう言って紅茶に口を付ける。
(妖精メイド達なら、レミィ達の初めての相手に丁度いいだろうし――)
――こうして、紅魔館FCの初めての対戦相手は自分達の住んでいる館の妖精メイド達に決まったのであった。
「しかし、本当にフィールドに入ると身体能力に制限がかかるんですね。いつもより全然力が出せません」
美鈴が準備運動をしながら咲夜に話しかける。
「あら、そうなの? 私は人間だから特に何も感じないのだけれど」
「紫の奴が、このフィールド全体に『妖怪と人間の身体能力の境界』っていう結界を張っているそうだ。お陰で私も、人間よりわずかに強い程度の力しか出せん」
美鈴と咲夜の会話にレミリアが入ってくる。
「ここ以外にもいくつか同じ様な球技場があるんですよね?」
「ああ。人里に、こことは別にあと一つ。それに妖怪の山にもあるそうだ。
――ちなみに、我が紅魔館にも建設予定さ」
「ほぇ~、まさに幻想郷を巻き込んでのお祭りになってきましたねぇ~」
「それだけに皆の注目度も高い。つまり私の『カリスマ』が幻想郷全土に知れ渡る……、クククッ。
――っと、独り言だ気にするな。それより紅魔館の醜態を晒さない様に気を引き締めて望みなさいよ! 咲夜、美鈴!」
「畏まりましたわ、お嬢様」
「はいっ、頑張ります!」
レミリアの言葉に二人はそう応える。
レミリアは二人の返事に満足すると、サッカーボールを使って一対一の練習をしている小傘とフランドールの方へ向かって行く――。
「えいっ! うわぁ、また抜かれちゃった……。お姉さん凄い!」
「えへへ、ドリブルで人を抜くのはやっぱり楽しいわさ!」
「次は私の番ね! いくよぅ~、それっ!」
「ほらほら。試合前なんだから、そんなに派手に動き回っちゃったらすぐバテちゃうわよ?」
レミリアが楽しそうに一対一に興じている二人に声をかける。
「あはは、ごめんなさい。つい夢中になっちゃった!」
フランドールはそう言うと美鈴達がいる方に走り去って行く。
「もう……。初めての外出だから興奮しちゃってるのね」
レミリアはそんなフランドールの様子を見て呟く。
――しかし、今のフランドールの楽しそうな顔を見るに勇気をだしてフランドールの外出許可に踏み切って良かったと思う。
勿論、すぐに人や物を壊さないようによく言い聞かせてあるが。
「どう? あれから少しはサッカーの知識はついたかしら?」
レミリアは一人残された小傘に問う。
「ん~、あなたに貸してもらった『誰でも分かる!サッカー入門☆』だっけ?
最初の方は読んだんだけど、後は飽きちゃって読んでないのよ」
「ちょっと! それで大丈夫なんでしょうね?」
「大丈夫、大丈夫! あとはその場のフィーリングだわさ!」
小傘は大丈夫だと大きく胸を張る。
「……ならいいんだけど。――そういえば、あなたってずっと利き足でしかボールを扱わないのね。
どうしてなのかしら?」
「ん~、昔の傘だった頃の名残……かなぁ。なんかそっちの方が落ち着くのよねぇ」
「ふぅん。まぁ、外の世界でも自分の利き足一本で世界を獲った選手がいたそうだし、
別におかしくは無いのかもね」
レミリアがそう応えると、
「で、その『誰でも分かる!サッカー入門☆』の最初の方に書いてあったんだけど、
要するにサッカーっていうのはボールをゴールに入れればいいんでしょ?」
小傘がレミリアに質問する。
「ええ、そうよ。それで得点を競うの」
レミリアがそう応える。
「なら簡単だわさ! 見ててね、えいっ!」
小傘は少しドリブルをしてから、無人のゴールマウスにシュートを放つ。
「こんなもんよ!」
小傘は得意気に振り返り、レミリアを見やる。
「……、それ味方のゴールなんだけど。今はいいけど試合中にそれをやったらブン殴るわよ」
「あれれ!?」
本当に大丈夫なのかしらとレミリアはジト目で小傘を睨んだ。
「――っと、そろそろ時間ね。皆、ベンチ前に集まって頂戴!」
レミリアはそう言ってフィールドに散らばっている全員に声をかけた――。
――『紅魔館FC』試合前ミーティング――
「さて、全員集まったわね。」
レミリアがベンチ前に集まった全員を見渡す。
「今回は急に試合が決まった為、対戦相手はあなた達妖精メイドだけれど遠慮はいらないわ。
全力でかかって来なさい!」
レミリアは最初に今回『紅魔館FC』の対戦相手を務める、自分の館の妖精メイド達に話かける。
ちなみに対戦相手となる妖精メイド達は全員が『紅魔館FC』のユニフォームの上に黄色のビブスを着ている。
レミリアの言葉を聞いていた対戦相手の妖精メイド達は、一瞬顔を見合わせていたものの、すぐに頷き返す。
「ではあなた達は先にフィールドの中に入ってなさい」
レミリアの言葉に、対戦相手の妖精メイド達はフィールドへと散っていく。
そしてベンチ前には『紅魔館FC』のチームメイトだけが残る。
「――ついにこの時が来たわ! 我が『紅魔館FC』の栄光への第一歩となる記念すべき試合よ。
まぁ、負ける事など有り得ないけど皆全力でプレーしなさい! いいわねっ!」
「「「オーーーーー!!!!!」」」
レミリアの鼓舞にチームメイト全員が声高々に応える――。
「……。それでは今回の作戦を発表するわ」
チームメイト達の声が収まるのを十分に待ってからレミリアが作戦を告げる。
「――作戦は簡単よ。全員、私にボールを集めなさい! この私が華麗にゴールネットを揺らしてやるわっ!」
レミリアの頼もしい言葉にチーム内の士気は否応がなしに高まってゆく。
「じゃあ、パチェ。行ってくるよ」
「ええ、ぜいぜい頑張って頂戴。私はベンチ内でゆっくりとあなた達のプレーを見させてもらうわ」
「――あら? パチェの事だから試合を見るより、ベンチで本を読んでいるかと思ったのに」
「――ん、まぁ本なんて何時でも読めるしね」
「クスクス、そうね。ま、ベンチ内っていう最高の特等席で私達のプレーを見ててちょうだいな」
レミリアはそう言ってパチュリーをからかうと、
「さ、いくわよっ!」
そう言ってチームメイトの誰よりも早くフィールドに向かって行った。
※『紅魔館FC』 スターティングメンバー
・GK 1 紅 美鈴
・DF 2 妖精メイド(門番隊所属)
・ 3 妖精メイド(門番隊所属)
・ 4 妖精メイド(紅魔館内勤メイド隊所属)
・ 5 妖精メイド(紅魔館内勤メイド隊所属)
・MF 6 小悪魔
・ 7 妖精メイド(紅魔館内勤メイド隊所属)
・ 11 多々良 小傘
・ 16 十六夜 咲夜
・FW10 レミリア スカーレット
・ 9 フランドール スカーレット
4-4-2 (4-3-1-2) 中盤はダイアモンドタイプ
紅魔館FC VS 紅魔館妖精メイドチーム まもなくキック・オフ――!
Ⅱ
――レミリア達がフィールドに足を踏み入れると、
『ウォォォオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』
もの凄い大音量の歓声にフィールドの空気がビリビリと震える――。
ただの練習試合だというのに、既に人里第一球技場のスタンドは人妖の観客で溢れ返っていた――。
「うわぁ~、スゴイねぇ~! 一体いつの間にこんなに集まったんだろう」
「おおかた鴉天狗の仕業でしょう。――しかし、八雲のスキマ妖怪にその従者。山の神にその巫女。
さらには永遠亭のお姫様一行まで観戦とはね……。――ふん、敵情視察のつもりか。ご苦労な事だ……。」
フランドールの素直な感想にレミリアは鼻を鳴らして応える。
両チームはフィールド内で軽く身体を動かすと、円陣を組み始める。
「さて、難しい事は言わないわ。今、八雲のスキマ妖怪やら、山の神やら、永遠亭のお姫様やらが
私達のチームがどれ程のものか偵察に来ている。今日のプレーで奴等をあっと驚かせてやりましょう! ――勝つわよっ!」
円陣を組み、レミリアがチームメイトに最後の発破をかける――。
「「「オォーーーーーーーッ!」」」
紅魔館FCの面々は周りの大勢の観客の声援に負けないくらいの大きな声で自分自身に、
そしてチームに最後の喝を入れてフィールドに散っていく。
――人里第一球技場 臨時実況席――
『さぁ、いよいよ始まります紅魔館FC VS 紅魔館妖精メイドチーム。既にここ人里第一球技場は
たくさんの人妖で溢れ返っております!さて、当局の情報によりますと今回の試合は紅魔館FCの調整試合という位置付けらしいのですが、そこの所はどう見ますか? 解説のセル○オ天狗さん。』
『いやぁ、僕もね、今回初めて紅魔館FCの試合を見るからね。とても楽しみにしてますよ、はい』
『成る程、試合が始まるのがとても楽しみですね! 今回の試合の実況は射命丸 文。
解説はセル○オ天狗さんでお送りします!』
このスタンドの大観衆を引き起こした張本人である射命丸文は、ちゃっかり実況席まで作り、
いつの間にか実況生中継まで始めていた。文としてはこの『幻想郷サッカー大会』のブームに乗っかり、文々。新聞の発行部数を増大させようという狙いがあったのである――。
一方、フィールド内ではレミリアとフランドールがセンターサークルに入り、
ボールに足を乗せて試合開始を静かに待っていた。
『ピィィイイイイイーーーーー!』
審判の試合開始を告げる笛が人里第一球技場内に響き渡る――。
今、紅魔館FCの初めての試合が幕を開けた――。
審判の笛の音を聞きフランドールがボールを叩き、レミリアがそれを後ろの咲夜に送る。
「咲夜、早速だけど私にボールを寄越しなさい!」
咲夜へボールを送ってすぐに相手陣地に走り込んだレミリアは、走りながら咲夜にボールを要求する。
「分かりましたわ! お嬢様っ!」
ボールホルダーである咲夜にチェックをかけてきた敵妖精メイドを、軽くステップでかわした咲夜は
レミリアの要求通りにパスを送る。
「――上出来っ!」
レミリアはボールを器用にトラップするとそのまま一人でバイタルエリアまでドリブルでボールを持ち込む。
「まずは挨拶代わりよ。――くらいなさいっ! 紅符『スカーレットシュート』!」
注)弾幕は出ていません
レミリアそう言うと、自身の利き足を思いっ切り振りかぶり強烈なミドルシュートを放つ――!
――ギュオィィイイイン!!!!!!
レミリアが放った強烈なミドルシュートはまるで空気を切り裂く様な音を上げ、
低い弾道で敵のゴールマウス隅に突き刺さる――。
『……、ゴ、ゴォォオオオオオオオオオル! ゴール、ゴール、ゴールですっ! 何という事でしょう! 試合開始してわずか数秒でレミリア選手、相手ゴールネットを揺らしましたぁーーーーー!』
『ウォォオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』
いきなりのレミリアのスーパーゴールに実況の射命丸文やスタンドの観衆は一瞬静まり返るが、
実況の文のゴールコールですぐに爆音の大歓声に包まれる。
「お姉さま、凄い凄い! やったねっ!」
「さすがです、お嬢様」
「いやぁ~、すごい大歓声だわさ」
「おめでとうございます! やりましたね!」
すぐさまレミリアの周りに紅魔館FCのチームメイトが駆け寄って先程のスーパーゴールを褒め称える。
「――ふん、まだまだこれからよ。開始15分でこの試合を終わらせてやるわ!」
レミリアはそう豪快に啖呵を切る。
――まさに今のレミリアの背中からは溢れんばかりの『カリスマ』のオーラが漂っていた。
・前半0分 紅魔館FC 1-0 紅魔館妖精メイドチーム
『ウォォオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』
パチュリーは紅魔館FCのベンチ内でスタンドの大歓声を聞いていた。
(まったく、相変わらず派手な演出が大好きなんだから。でも、あなたらしいわね、レミィ)
パチュリーはレミリアの劇的なゴールを真近で観戦し、
レミリアの性格が表に出ているゴールだと一人クスクスと笑う――。
しばらくの間クスクスと笑っていたパチュリーであったが不意に笑うの止め、
後方に表れた何者かの気配に静かに語りかける。
「……。ここは関係者以外立ち入り禁止よ、アリス」
「あら、そうなの? 知らなかったわ」
パチュリーの背後からそう言って出てきたのは森に住む『七色の人形遣い』アリス・マーガトロイドである。
「何をしにここに来たのかしら?」
「――別に来たくてここに来たんじゃないわ。魔理沙とこの球技場で待ち合わせしていたのだけれど
はぐれちゃってね。で、魔理沙を探してウロウロしていたらここに着いたってわけ」
「そう。でもここには魔理沙はいないわよ」
「――みたいね」
パチュリーの返答にアリスは肩をくすませながら応える。
「……」
「……」
お互い話を続けようとせず、場に若干の沈黙がおとずれる。
「魔理沙――、」
「うん?」
しばらく沈黙の場が支配していたが、やがてパチュリーがボソッと魔理沙の名前を口にする。
「魔理沙、人里のチームに入ったんだって? この前、うちに来た時に妹様が魔理沙をチームに誘ったんだけど、そう魔理沙に断られていたから」
「ああ、その話ね。――えぇ、魔理沙は人里のチームに入ったわ。私も誘われたから一緒にね。
本人はチームに入った後、『騙されたー!』って嘆いていたけど」
「そう」
「ええ」
二人はそう言ってまた沈黙し、何事も無かったかの様に視線をフィールドに移していった――。
「そこっ!」
咲夜は相手のパスを華麗にインターセプトすると、すぐにサイドに張っていた味方の妖精メイド(7番)にボールを送る。
「はいは~い! ボール頂戴、ボール!」
それを見ていたフランドールが妖精メイドにアピールし、ボールを受け取る。
すぐさまフランドールに敵妖精メイドのマークが向かってくるが、
フランドールは何故かマークを付けられるまでその場から動かない。
そして自身にマークが来るのを確認すると、マークに来た敵妖精メイドに笑顔で語りかける。
「お、来た来た! 私の遊び相手はあなたね? よぅし、じゃあ追いかけっこしよう!
――うふふ、ちゃんと着いて来てねっ! いっくよ~!」
そう言ってフランドールはボールをトンッ! と大きく前に蹴り出す。
「――よ~い、ドンッ!」
フランドールは上半身を低く構えたかと思うと、そのまま爆速の勢いで相手サイドを抉ってゆく――!
そのあまりの反応の速さと、足の速さにマークに付いた敵妖精メイドは置いてけぼりを食らってしまう。
「……、なぁ~んだ。つまらないなぁ」
一瞬でマークを置き去りにしたフランドールはそう言って相手ペナルティーエリアを見やる。
「フラン!」
「あいあいさっと!」
レミリアの声にフランドールはノータイムでペナルティーエリアに向けてセンタリングを上げる。
「これで2点目よっ!」
レミリアは自身に向けてやって来るボールをヘディングでゴールマウスに押し込む――。
『ゴォォオオオオオオオオオオオオオオル!!!!! レミリア選手、小さいながらもヘディングでまたもゴールを奪いました!』
「小さいは余計よ! あの鴉天狗、後で覚えときなさいよ……」
レミリアは文の実況に思わずツッコミをいれてしまう。
『あややや。何故だか死亡フラグを立ててしまった気がいたしますが、それにしてもレミリア選手、
短時間で2ゴールとは凄いですね。紅魔館FCのエースストライカーといった感じでしょうか、セル○オ天狗さんはどう思われますか?』
『いやぁ~、彼女のゴールへ向かってゆくスピリット! 素晴らしいですねぇ~。昨今の日本代表にも見習って欲しい所です』
『いや、あのセル○オ天狗さん、日本代表ってなんの事でしょうか?』
『ボールを前に運ばなきゃ永遠に点は取れないんですよ! リスクを恐れては点は取れないんです! ――今の日本代表にはそれが――』
『あやややぁ~』
前半8分 紅魔館FC 2-0 紅魔館妖精メイドチーム
「今の所はいい調子みたいですね」
スタンド内で紅魔館FCの試合を観戦している永遠亭チームの一人、
鈴仙・優曇華院・イナバがチームの中心人物である蓬莱山 輝夜に話かける。
「……えぇ、そうね。――今の所は」
輝夜は鈴仙の問いかけに、目を細めながら応える。
「今の所は――って、何か問題でもあるんですか? 私には至極順調にいっている様にしか見えないんですが……」
鈴仙は自身の仕える姫様の含みを持たせた回答に戸惑いを見せる。
「見ていれば分かるわ。この試合が始まってまだほとんど時間が経っていないけれど、
少し気になる点がある。それが私の杞憂であるのか、『紅魔館FC』の問題点であるのか――。
そしてそれが問題点だったとしても、この試合でそれが是正されるかどうかは分からないわね」
輝夜はそう言って、袖で口元を隠しながら不敵にクスクスと笑った――。
再びフィールド内。僅か前半10分足らずで2点を奪った紅魔館FCは勢いもそのままに尚も相手チームに猛攻をかけていた――。
「そこよっ!」
またも相手のパスをインターセプトした咲夜は、ボールを一旦少し前に蹴り出し
周りの様子を伺う――。
(お嬢様は――、敵のマークがきつそうね。妹様は――、少し距離が遠いか……。
このままサイドバックと連携して敵サイドを抉る? ……悪くはないか。)
咲夜は瞬時に計算し、ゆっくりドリブルを仕掛けながら味方のサイドバックの上がりを待とうとする。
するとその時、
「おぉ~い。」
少し後方から聞き覚えのある声が聞こえた。
「ん?」
咲夜が声がした方向を見ると、小傘が両手を振ってアピールしているのが見える。
「ああ、そういえばいたわね。……あまりにも試合中空気だったから、思わず忘れていたわ」
咲夜はそう言って小傘にパスを送る。
「えへへっ、やっとボールに触れたわさ!」
今まで空気だった小傘の元にボールが渡る。
すると、ボールホルダーである小傘に向かって敵妖精メイド2人がチェックに向かって来る。
「よぅ~し、いっちょやってやるわよ!」
小傘はそう気合をいれると、チェックに来た敵妖精メイド2人に向かって自ら突っかかってゆく――。
『あぁ~~~っと、多々良 小傘選手、何を思ったのか自分から敵選手に突っ込んでいったーーーーー!』
『何を考えているんでしょうかねぇ~』
文とセル○オ天狗が小傘の行動に首を傾げる。
「それっ!」
小傘はボールを奪いに来た最初の1人を軽いステップワークでかわし、
すぐさまもう一人の敵の股座にボールを通す事で2人目もヒラリとかわす――。
するともう小傘は相手のディフェンスの最終ラインに到達する。
そうすると相手のセンターバック2人は先程の小傘のドリブル技術を見て焦ってしまったのか、
持ち場を離れてそれぞれバラバラに小傘のボールを奪いに前に出てきてしまう――。
結論から言えば、相手のセンターバックは前に出るべきではなかった。
無闇にボールを獲りにいかず、小傘に時間を掛けさせて味方の援護を待ち、複数で小傘を包囲するべきであった。
何故なら、前に出てくるという事は自身の後ろに広大なスペースを生み出すという事。
そして、今の小傘ならスペースがある=ドリブルで抜けるという事と同義だからである――。
「おっとっと!」
小傘はボールを奪おうと釣りだされたセンターバック2人に、スピードに乗ったまま正面から対峙し、 まず一人目をスピードで振り切り、最後の一人はレミリア戦で使った利き足でボールを浮かせて相手ディフェンダーをかわす技を使い、あっさりと抜き去る――。
そしてぽっかりと開いた広大なスペースに単身で飛び出してゆく――。
「ん~、やっぱり人をドリブルで抜くのは気持ちが良いなぁ~」
最後のセンターバックをかわして一人旅を堪能する小傘に、敵キーパーが突っ込んでくる。
「何してるの!? 早くシュートを打ちなさい! キーパーにボールを取られるわよ!」
敵キーパーの来襲に気づいていない小傘に、レミリアが大声を上げる。
「へ? シュート?」
小傘はレミリアの大声にやっと我に返るが、すでに敵キーパーは小傘の目の前に迫っていた――。
「うわっと!?」
小傘は慌ててボールを足から放す――。
――ファサッ。
小傘が放ったボールは勢い無く、しかし美しい放物線を描いて敵のゴールマウスのネットにかかる。
――。
―――。
――――。
今まで喧騒に包まれていた人里第一球技場は子傘の一連のプレーにより、
まるで凪が訪れたかの様に静まりかえる……。
『ス、スゥウウウウパァアアアアゴォォオオオオオルゥ!!!!! またしてもスーパーゴールが出ましたぁ!!!!! 今回はゴールキーパーも含めれば何と5人抜き!!!!! 5人抜きです!!!!! 最後はゴールキーパーを嘲笑うかの様なループシュート!!!!! これは凄い! 多々良 小傘選手、まさに幻想郷サッカー界のファンタジスタです!』
『これは……、これは驚きましたねぇ~! う~ん、これと同じ様な展開を昔どこかで見た様な気が
するのですが……。いやぁ、それにしても素晴らしい!』
『ウォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』
『ブラボー! 小傘、ブラボー!』
『おいおい、あの小傘って選手スゲーな!』
『オー、紅魔館FC! オオー、紅魔館FC!』
『オイラ、この試合終わったら小傘選手にサイン貰いに行くんだ!』
小傘のスーパープレー&スーパーゴールに球技場の観客のボルテージも否応なしに上がっていく――。
シュートを打った後、尻餅をついてしまった小傘にレミリアが近づいて手を貸す。
「――最後のループシュート、……狙ったの?」
小傘に手を貸しながら、レミリアが疑問を口にする。
「――ううん、偶然だわさ。めちゃくちゃに蹴ったらループになってた」
「――クククッ、何よ、それ」
レミリアは小傘の答えにクスッと笑うと、
「さぁ、3-0になったわね。でも、手を緩めずにどんどん追加点を狙うわよ!」
そう言ってレミリアは小傘と一緒に、小傘のスーパーゴールを祝いにこちらに走ってくるチームメイト達の方へ走っていった――。
前半15分 紅魔館FC 3-0 紅魔館妖精メイドチーム
「……。圧倒的ね」
「まだ前半の15分よ、勝負の行方は全然分からないわ」
「随分悲観的なのね。ここのベンチにいるという事は、あなたは紅魔館FCの監督なんでしょう?
仲間の活躍が嬉しくないの?」
「それはレミィが勝手に決めただけよ。私はチームの監督なんて面倒くさい事はしたくないし、
……それに元々これには興味は無いわ」
「ふぅん。――それにしては最初のレミリアのゴールの時、随分と嬉しそうに私には見えたけれど……」
アリスはそう言って横目でパチュリーの顔を流し見る。
「……」
「――まぁ、いいわ。でも、前半でこの点差、勝負は決まった様な物だと思うけどね」
「……、さっきも言ったわ。勝負という物は最後まで分からないものよ」
紅魔館FCのベンチ内でアリスとパチュリーは淡々と語り合う。
……そして、パチュリーの言葉通り紅魔館FCは今までのゴールラッシュがまるで嘘だったかの様に、
残りの30分間の間、相手のゴールネットを揺らす事は無かったのであった――。
Ⅲ
――人里第一球技場 紅魔館FC VS 紅魔館妖精メイドチーム ハーフタイム――
「結局、前半は3-0で終わりましたね」
ハーフタイムになり主人の言いつけで球技場外で屋台を開いている夜雀から、
八目鰻の蒲焼を買ってきた九尾の狐はそう自身の主人に言う。
「もぐもぐ、――そうね。3-0で終わったわね」
従者が買出しに行って来た八目鰻の蒲焼を口一杯に方張りながら、スキマ妖怪こと八雲 紫は応える。
「紅魔館メンバーが主体の『紅魔館FC』――。予想通りのスカーレット姉妹の手ごわさと、
謎の超新星、多々良 小傘……ですか。今日は対戦相手のレベルもありますし、後半は何点取ることやら……。やはり、偵察に来て正解でしたね」
九尾の狐は指を顎に当て、そう自身の主人に問いかける。
「もぐもぐ、――ん、っと。――さて、そろそろ帰りましょうか」
紫はまるで従者の問いかけが聞こえなかったかの様に問いには答えず、
綺麗に八目鰻を食べ終えると観客席から離れはじめる。
「えっ、後半は見ていかないので?」
従者は少し驚いた表情で主人に問いかける。
「さっき私は3-0で終わったって言ったじゃない」
紫は振り返らず、そう答える。
「え? ……済みません、私には紫様の仰っている意味が良く分かりません」
「だから、私はこの試合は3-0で終わったって言ってるのよ。――あぁ、ひょっとしたら後半に一点くらい入って4-0かもね」
「はぁ……、この試合は3-0で終わった、ですか」
いまいち理解が覚束ない自身の従者の為に、紫はクルッと振り返り説明する。
「――藍、前半の30分の間に追加点が入らなかったのは一体何故だと思う?」
紫はそう自身の従者である八雲 藍に問いかける。
「え~と――」
藍は紫に質問を投げかけられ、腕を組んで考え始める――。
すると紫はニヤリと笑い、口を開く。
「答えはね――、」
「「――セルフィッシュだからよ、自分勝手だからよ」」
「自分勝手……、ですか?」
永遠亭のお姫様から答えを教えてもらった鈴仙は、首を傾げながら復唱する。
「そう、『紅魔館FC』はキャプテンであるレミリア スカーレットの自分勝手なプレーによって沢山の得点の機会を失っている。
彼女は常にボールを催促し、自身がボールを持つとほとんどパスをしない。つまりボールを持ったらほぼ100パーセント仕掛けてくる。
ディフェンダーにとって見たら、これ程楽な選手はいないわ。なんせ選択肢が強引な突破しかないんだもの……」
永遠亭の主である蓬莱山 輝夜は、静かにそう語る。
「でも、強引な突破だけっていったら、あの小傘って選手もそうですよ?」
鈴仙はそう反論する。
「あの5人抜き以来、相手ディフェンダーは迂闊に小傘に向かって飛び掛らなくなった。
そして、人数をかけてじわりじわりと小傘を包囲するか、思い切ってディフェンスラインを下げている。これでは小傘の活きるスペースが生まれない」
「ううっ……」
輝夜の論理的な説明に、鈴仙は言葉を詰まらせる。
「――さらに」
「まだあるんですか!?」
さらに説明を続けようとする輝夜に、鈴仙は思わず口を挟んでしまい睨まれてしまう。
「――さらに、前半30分過ぎあたりからレミリアの妹であるフランドール? だったかしら?
その子の運動量がガクッと落ちた。それも追加点が入らなかった要因のひとつね」
ツラツラと『紅魔館FC』の急激な失速の原因を上げていく輝夜に、鈴仙は開いた口が塞がらない。
「うん? 私の言動がそんなに意外だったかしら?」
「――い、いえ。別に、そんな」
輝夜の言葉に、鈴仙は慌てて否定する。
「うふふっ、こう見えても今の私は『永遠亭ムーンラビッツ』の監督なんだから!
チームを立ち上げた以上、キチンとやらないとね。――それに、妹紅のチームには負けられないし!」
そう言って握りこぶしを作って燃える輝夜を見て、鈴仙はああ、やっぱりいつもの姫様だと安堵するのであった――。
「……、成る程。そういう訳ですか」
紫に答えを教えて貰い、納得する藍。
「分かったでしょ? 今の『紅魔館FC』はハッキリ言って私達の敵じゃないわ。」
紫はそう言って空間にスキマを開く。
「……、確かにそうですね」
藍は紫に追従する。
「じゃ、帰るわよ。――『紅魔館FC』、次に会う時はもっと強くなっているといいのだけど」
紫はそう言って観客席からフィールドを見下ろし、藍と供にスキマの中に消えた――。
Ⅳ
――紅魔館FCベンチ内――
「前半で3-0か……。追加点が奪えなかったのは悔しいけど、中々上出来ね!」
スポーツタオルで汗を拭きながら、レミリアはチームメイトにそう語りかけている。
「いやぁ、皆さんのお陰で前半はほとんど私の出番がありませんでした。
まぁ、私の出番なんて無い方がチームにはいいんですが」
「気を抜き過ぎては駄目よ。後半でもしっかり点を狙っていかないと」
「ふぇ~、サッカーって結構疲れるのねぇ」
「皆さん、スポーツドリンク持って来ましたよ。後半に向けてしっかりと水分補給してくださいね」
「ありがとう、小悪魔。あなたも疲れているのに悪いわね」
「ありがとうございます」
「お、ありがたいだわさ!」
ワイワイガヤガヤ、騒がしいベンチ内の光景を私は何をする訳でもなく、ただ漫然と見渡していた。
だだ、サッカーをしている彼女達はとても楽しそうで、何故か私は自分一人だけ部外者であるかの様な疎外感に囚われる。
「しかし、相手チームの妖精メイド達も中々やるわね。正直、もっと点が取れると思っていたんだけど」
「わちきも途中からほとんどドリブルで抜けなかったわさ……」
「――!」
レミリア達のその感想に、私は思わず顔を上げて反応してしまう。
「……」
その私の反応を隣で見ていたアリスは、無言で視線を私に向ける。
――追加点が取れなかった原因を話さないの? と。
「さっきも言ったわ。……私は監督なんて面倒な事はしたくないのよ。最低限の協力はするけれど、
それ以外はノータッチよ」
私は一字一句、自分の言葉を心に確認するかの様にアリスにそう応える。
「――まぁ、私としては敵となるチームが弱い分には全然構わないけどね。それじゃあ、私はそろそろお暇するわ」
アリスはそう言って、ベンチから姿を消した。
(……そう、私は最初から『幻想郷サッカー大会』なんてものには興味が無かった。前にレミィもベンチで本を読んでても構わないって言ってたし、私が本気で『紅魔館FC』の監督をやるなんて思ってないはず――。私だって面倒なのは嫌だし、だから、これでいいのよ……)
「……、妹様?」
ハーフタイム中、珍しく一言も喋らず大人しくベンチに座っているフランドールに気づき、
美鈴は声をかける。
「――えっ?」
声をかけられた事に気がつかず、フランドールはビックリした様に顔を上げる。
「どうかしたんですか? やけに大人しいもので……」
美鈴は心配そうにフランドールの側に近寄った。
「ん? どうかしたの、フラン?」
そんな二人の様子を見ていたレミリアもフランドールに声をかける。
「えっ、うぅん、どうもしてないよ。えへへ……」
急に周りから心配され始めたフランドールは、何事もないと笑顔を作る。
「――、妹様、もしかして疲れていませんか?」
人の感情の機微を察するのが得意な小悪魔がフランドールの様子を見て、ポツリと言葉を零した――。
「「「――えっ!?」」」
小悪魔の思いがけない発言に、パチュリー以外の全員が声を上げて驚く。
「――そうなの? フラン? 正直に言いなさい」
レミリアの問いかけにフランドールは罰が悪そうな顔をして答える。
「えへへ、ほんのちょこっとね。本当にほんのちょこっとだけだけど……」
フランドールの答えに皆、声を失う。
(……、そう、これは私も予想外だった。まさか人外の身体能力を持つ吸血鬼がスタミナ切れを起こすなんてね。
でもよく考えてみれば、妹様は今日までずっと紅魔館の中で生活してきた。つまり、外に出て誰かと全力で遊んだ経験が無い――。
今までは吸血鬼としての身体能力がそれを覆い隠していたけれど、このサッカー大会は私達妖怪の身体能力に制限がかかる。それを考えれば、この結果も十分考えられる事……、か)
私はそんな事を考えながら、この出来事の推移を見守る。
「……、ふぅ。分かったわ、フラン。残念だけれど交代しなさい」
「!? 大丈夫よ! まだやれるわ、お姉さま!」
頭を振ってフランドールの交代の告げるレミリアに、フランドールはまだやれると食い下がる。
「駄目よ、フラン。聞き分けなさい。――それに、試合は今日だけでは無いわ。
だから今日は我慢なさいな」
「――はい、分かりましたわ、お姉さま……」
フランドールは下唇を噛み締めながら元気無く応える。
「えらいわ、フラン。――さぁ、そろそろハーフタイムも終わりね。
後半もバンバン点を取りに行くわよ!」
「「「オーーーーー!!!!!」」」
レミリアの鼓舞に、紅魔館FCのチームメイトはさらに気合を入れなおしてフィールドに散っていく――。
(……。)
フィールドに戻ってゆく親友の後ろ姿を見て、無意識に私は脇に抱えた本を強く握り締めていた――。
『ピッ ピッ ピィィイイイイイイイ!』
『おぉ~と、ここで審判の笛が鳴らされました! 試合終了です! 結果は3-0で紅魔館FCの勝利に終わりました! 結局、紅魔館FCは後半は追加点を奪えませんでしたね。セル○オ天狗さん、今日の試合の総括をお願いいたします』
『いやぁ~、実に楽しみなチームが出てきましたねぇ。レミリア選手のゴールへ向かうスピリット、
小傘選手のドリブルテクニック、咲夜選手の的確な判断とポジショニング、今日の試合は大変見所が
多かった試合でした。さらに今回の試合で他のチームにも動きがあるでしょうし、今から本大会がとても楽しみです!』
『成る程、これからの『紅魔館FC』に注目という事ですね! それでは本日の文々。実況生中継はここまでになります。セル○オ天狗さん、ありがとうございました。――なぉ、文々。新聞も好評発売中であります! 皆様よろしくお願いいたします! それでは皆様、また会う日まで、ご機嫌よう~』
試合終了 紅魔館FC 3-0 紅魔館妖精メイドチーム
「――ふぅ。結局、3-0のまま試合が終わってしまったけど、何はともあれ『紅魔館FC』初試合、
初勝利よ! 終わってみればやっぱり楽勝だったわね。このまま『幻想郷サッカー大会』も我が『紅魔館FC』が戴きよっ!」
試合終了後、ベンチ内で勝利に満足しているレミリアが声高々にそう宣言する。
「「「オーーーーー!!!!!」」」
初勝利の喜びで舞い上がっている『紅魔館FC』の面々は、そんなレミリアの言葉に一斉に賛同の声を上げる。
「ククク、――咲夜。今日は紅魔館に帰ったら盛大に祝勝パーティを上げるわ!
紅魔館に所属している者全員の参加を認めるからあなた達、今宵は夜通し騒いで酒を楽しむわよ!」
レミリアはそう言って自身のチームに参加している妖精メイド達を見やる。
「いいなぁ~、あちきも参加したいわさ……」
レミリアの発言に、小傘は指を咥えてポソリと呟く。
「何言ってるの、あんたも参加するに決まってるじゃない。――今日の5人抜き、格好良かったわよ! 思わず嫉妬しちゃうくらいにね」
小傘の呟きを聞き逃さなかったレミリアは、小傘にそう応える。
「えっ! あちきも参加していいの!? やったーーー!」
小傘はそれを聞いて飛び跳ねて喜ぶ。
それを苦笑しながら見ていたレミリアだったが、
「さ、そろそろ引き上げましょう。我らが紅魔館に凱旋するわよ!」
そう言って、全員を引き連れ紅魔館へ帰還しようとする。
「――待って!」
急に発せられた声に何事かと『紅魔館FC』の面々は振り返る――。
「――待って。――今日の試合は決して楽勝なんかではないわ……。
むしろ、今後における『紅魔館FC』の問題点が山積みの試合だった」
ついに我慢出来なくなり、私は言葉を発してしまう。
「パチェ……?」
親友であるレミリアが私の突然の発言と行動に、戸惑いを見せながらそう問いかけてくる。
私は若干話を続けるのを躊躇ってから、それでも一気に言葉を吐き出す――。
「今日の試合は問題が山積みだった。まず小悪魔、あなたは無難なプレーをしすぎるわ。
もっとリスクチャレンジをしなさい。それに小傘、あなたはドリブルをするのはいいけれど
もう少し視野を広く持ちなさい。サッカーはドリブルで相手を抜かしてはい終わりというスポーツでは
ないわ。――咲夜、あなたは全体的に良かったけれど、もう少し自分でも点を取ろうとするプレーを
見せなさい。――妹様、サッカーは90分間のスポーツです。まずは体力のペース配分を覚えましょう。……そしてレミィ、あなたは――」
「パチェ、パチェったら!」
一気に捲くし立てる私の言葉をレミリアは強制的に遮る。
「パチェ、一体どうしちゃったの? そんなに心配しなくても平気よ、現に今日だって3-0で楽勝だったじゃない。だから本大会でも楽勝よ!
何てったって、本日2ゴールを上げたこの私がいるんだからね!」
レミリアはそう言って得意気に親指を自身に向ける。
「レミィ、そんな考えでは――。……いえ、ごめんなさい。さっきの発言は忘れてちょうだい……」
レミリアの言葉に私は頭を大きく振り、一つ息を吐く――。
レミリアの言う通り、本当に私はどうしてしまったんだろう……。
――もしかして私は、今の形式上の監督ではなく割りと本気でこの『紅魔館FC』の監督を務めてみたいと思い始めているのだろうか。
最初はこのサッカー大会なんて、大した興味も無かったはずなのに……。
「……さ、帰りましょう!」
楽しげな雰囲気の所に私が余計な事を言って水を差してしまい、
若干白けてしまった場を取り持つ様にレミリアは努めて明るい声で再度帰還を促す。
――各々が今日の試合の事を興奮しながら、やれこの時はこうだったとか、
あの時は凄かったと話ながら紅魔館へと帰還する中で、私の心のモヤモヤが晴れる事はついに無かったのであった。
文章でサッカーの臨場感を出すなんてすごすぎます!
今後がとても楽しみです。
今回は解説員のセリフ少なかったけど次回から多くなるようなら頭の部分に名前着けるといいかも
毎回名前言うのがなんかアレだし
場面をまざまざと想像させる、とでも言えばいいのか、とにかく話に引き込まれてしまいました。
続きを楽しみに待っているので、『お互い』頑張りましょう^^
シリーズということで、慌てて前回までの分も読んできました。
サッカーをするだけでなくドラマ性があって、そしてそれがまた熱い!
なんなんですか、この先が気になる切り方はwww
次回も楽しみに待っています。
書き方もこういうスポーツを題材にしたSSに合ってる感じで、読んでてめちゃ楽しかったです。
試合の運びも、まぁ対戦相手は妖精メイドたちですし、紅魔館FCのお披露目と実戦慣れが目的なのでこんなもんでしょう。
他の勢力も脅威足りえる雰囲気が出てて、良い演出だと思います。続きも楽しみにしてますので、頑張って下さい。