Coolier - 新生・東方創想話

魔女の誘惑

2010/03/13 13:05:02
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パチュリー・ノーレッジは魔女である。

「そんな事は知ってるぜ」

魔理沙の質問に答えた僕に魔理沙は不満そうな顔をしていた。

「私が知りたいのはあいつの好物だよ。パチュリーって何食って生活してるんだと思う?」
「魔理沙、いつもの事だけど結論を急いじゃいけないよ」

パチュリー・ノーレッジを知ろうとするからには、彼女の種族である魔法使い――さらに言うと魔女の事を知るべきなのである。

「余計な薀蓄はいいんだよ。香霖の話は長いから終わりのところだけ教えてくれ」

魔理沙の態度に少しむっとした僕は答えた。

「彼女の好物は本だよ。図書館に住んでいるくらいだからね」
「ああなるほど」

ぽんと手を打つ魔理沙。それから額に皺を寄せた顔で睨みつけてきた。

「んなわけないだろ。そりゃ本は好きだろうけどさ。本じゃ腹は膨れないぜ」
「歴史食いの妖怪だっているんだ。本を読んで食欲を満たしているのかもしれないよ」
「……いや無いだろう。多分」

暫くの間の後ふるふると首を振っている。

「そもそも何で彼女の好物を知ろうと思ったんだい?」
「あー? あいつなんか病弱だろ。食ってるもんが悪いんじゃないかと思ってさ」

パチュリーには数えるほどしか会ったことはないが、ごほごほと咳をしていたような記憶がある。

「しょっちゅう咳してるしさ。あいつは色々と栄養不足なんだよ」
「なるほど、それで何か作って食べさせてあげようと思ったのかい?」
「そういう事だ。で、どうせなら好きなもん食ったほうがいいだろ?」

魔理沙はこれで案外おせっかいなところがあり、特に人に料理を作るのが好きなのである。

店に怪しげな茸を持ってきては台所に向かい、料理を作り上げるなんてしょっちゅうだ。

「なるほどそれはいい考えだ」
「だろう。きっと喜ぶぜ」
「ああ」

しかし同時に思うことがある。

「それなら彼女から盗んだ本を返してあげるのが一番喜ぶと思うよ」
「盗んだんじゃない、借りてるだけだ。それに今は食い物の話をしてるんだぜ」
「彼女の好物は本だよ。だから本を返してあげれば喜ぶ」
「それはさっき聞いた」

僕の店のツケも帰ってこないし、魔理沙が素直に本を返すとは思えなかった。

「それじゃあやっぱり魔女の話をしなくちゃいけなくなる」
「何でそうなるんだよ」
「魔女の事を知れば自ずとどうすればいいかがわかるからさ」
「私はもう魔法使いだから知る必要ないな。あーもう、香霖はあてにならないから自分で考えるぜ」

自分から聞いてきたのに勝手な事を言って魔理沙は去っていった。

「はぁ」

魔理沙がマイペースなのはいつものことではあるが、ため息をつかざるを得なかった。

「……彼女の好物ね」

僕は考える。

魔理沙は帰ってしまったのだから考えなくてもよいことなのだが、これはもう癖のようなものだ。

それに、また魔理沙が僕に同じ事を聞きに来る可能性だって高い。

彼女の好物を知るには魔女の事をもっと知るべきである。

では魔女とは何だろうか?

魔法使いという括りで言えば、魔理沙だって魔法使いだし、人形遣いのアリス・マーガトロイドも魔法使いである。

しかしパチュリーと魔理沙、アリスが同じであるかといえばそうではない。

それは要するに人間だから霊夢と魔理沙が同じだという様な強引な解釈である。

何故僕は彼女を魔女と定義したか。

彼女は幻想郷にいる魔法使いの中で特に魔女としての特徴が多いからである。

魔法使いと魔女は同じようで大きく異なっている。

それはまず……


カランカラン。



来客を示す音で僕は考えを中断し、顔を上げた。

「……こんにちわ」

人の噂をすればなんとやらという。

その人物は僕が今考えていた当人、パチュリー・ノーレッジだった。

「珍しいね。君自ら来るだなんて」

以前、彼女の遣いと称して赤い髪の少女――小悪魔がやってきた事がある。

彼女はパチュリーの使い魔だそうだ。

「あの子に頼んでも良かったのだけれど、私が直接観ないとわからないだろうと思ったから」

その使い魔こそが僕が彼女を魔女だと定義する要素のひとつである。

魔理沙やアリスも魔法を使うが、使い魔を持ってはいない。

幻想郷の魔法使いで使い魔……悪魔との関係を持っているのはパチュリーだけだ。

魔女は悪魔と契約を結んで得た力で活動する。

その力の源とは……

「ねえ、聞いているの?」
「ん? ああ、すまない。何の話だったかな」

パチュリーは大きくため息をついた。

「今言ったもの。売ってない?」
「……もう一度言ってくれるとありがたい」
「貴方、商売する気ある?」
「君が今考えているよりはあるつもりだよ」

二度目のため息の後告げられた商品を、僕は大急ぎでかき集めた。

「これでどうだろう」
「んー……」

パチュリーは光に当ててみたり指で突いてみたりして、それらをひとつひとつ確かめていった。

「まあ、及第点ね」
「お眼鏡に適ってくれたようで嬉しいよ」

彼女はこんな口調だが、僕が語らずともその品の価値をわかってくれる数少ない相手である。

「お代はこれでいいかしら」

そしてその上に代金まで支払ってくれるという素晴らしい顧客だ。

「毎度ありがとうございます」

僕は深々と頭を下げた。

「こちらこそありがとう。それと、別の用事があるの」
「何だい?」
「今日は貴方を誘惑しに来たのよ」

誘惑とは一体どういうことだろうか。

「これを渡そうと思っていたの」

パチュリーはそう言って一冊の本を差し出した。

それは魔術や魔法使い、魔女について書かれている本であった。

「本を読むのが好きなんでしょう? 魔理沙に聞いたわ」
「くれるのかい」
「貸すだけよ。読んだらちゃんと返してくれたら嬉しいわ。誰かさんみたいに持っていったままじゃなくて」
「……ついさっきその話を魔理沙にしたばかりだよ。彼女は本が好物だから、返してあげたらどうだいって」

僕は思わず苦笑いをした。

「そう。どうだった?」
「望みは薄いと言うしかないね」
「そう」

彼女も半ば諦めているのか、反応が薄かった。

「魔女である君がどうにか出来ないんじゃあ、僕でもどうしようもないよ」
「腐れ縁の貴方でどうにか出来ないんじゃあ、私でもどうしようもないわ」

二人して大きくため息をつく。

「まあいいわ。貴方は本を読んで、自分なりの解釈を魔理沙に伝えて頂戴。魔女とは何なのかを」
「ふむ」

確かにそれは面白そうだ。

「その誘惑に乗ろうとしよう」

僕は本を受け取った。

「それを読めば知りたいことはだいたい分かるはずよ」
「まるで狙っていたようなタイミングだな」
「狙っていた……そうかもしれないわね」

何やら意味ありげである。

「最近はあまり魔女としては活動していなかったけれど、久々にやる気を出してみることにしたの」

いなかったということは今は魔女として活動中なのだろうか。

「これを今日持ってきた理由なんだけどね。昨日持って行かれた本が丁度百冊目だったのよ」
「……それは申し訳ない」

僕はただ平謝りする事しか出来なかった。

なるほど、それで魔理沙も急にパチュリーの好物を知ろうとしたのかもしれない。

「それで、気の毒だけど魔理沙と親しい貴方を誘惑する事にしたわ。貴方は知っておくべきだと思ったのよ」

魔理沙と親しい事が気の毒か。

確かに店の被害を考えるとそう考えざるを得ない点もある。

本質から悪い奴ではないのだが。

「魔女を怒らせると怖いのよ? 本を返してくれないなら、魔理沙の大切なものを盗み返してしまうかもしれないわ」

パチュリーはそう言って不敵に笑った。

「これを読んで話をすれば、魔理沙が本を返すつもりになるのかい?」
「ええ。きっとね」

どうしてそうなるのかは今はわからなかった。

とにかく本を読むしかなさそうだ。

「わかった。とにかくこの本を読んでみるよ」
「そうして頂戴。それじゃあね」

パチュリーはふよふよと飛んで去っていった。

「……そういえば咳ひとつしなかったな」

魔理沙の話ではしょっちゅう咳をしているという事だったのに。

それも魔女として活動している事に関係しているのかもしれない。

色々な疑問を頭に浮かべながら僕はとにかく本を読み進める事にした。







「おーっす香霖」
「やあ魔理沙。いいところに来たね」

翌日、僕なりの考察がまとまったところで魔理沙がやってきた。

「ん?」
「昨日の話だ。パチュリーの好物だよ」
「あー、考えててくれたのか。私は諦めて茸盛り合わせ鍋でも作ろうと思ってたんだが」
「パチュリーが店に来てね。本を貸してくれたんだ」
「あいつが? 珍しいな」

魔理沙も僕と同じ感想を持ったようだ。

「僕はちゃんと借りた本を返せる男だからね」
「そっちに反応したんじゃないぜ」
「知っているよ」

皮肉で言ってるのである。

「とにかく、その本のおかげで色々わかったんだ。聞いてくれると嬉しい」
「ああ」

魔法使いと魔女の違い。

それは何だろうか?

「魔女はね。魔法使いや人間とは食べるものが違うんだ」

もちろん普通の食事も可能ではある。

けれどそれは代替品のようなもので、好物かというとそうではないのだ。

それは何故彼女が紅魔館にいるのかという説明にも繋がってくる。

「どういう事だ? 昨日みたいに本を食うとか言わないよな」
「本ではないよ。魔理沙。君はどうしてパチュリーとレミリアが友人関係になったんだと思う?」
「さあ? ウマが合ったんじゃないか?」
「だろうね。特に好きなものが近かったら、友人になりやすいと思わないかい?」
「ん? じゃあアイツも血を飲んだりしてるのか?」

首をかしげる魔理沙。

「血を吐くのは似合いそうだけど、血を飲むのはあんまり合わなそうだぜ」

何気に酷い言いようである。

「血ではないけれど、近いね。魔法を使う時は魔力が必要だろう?」
「まあな」
「そこに答えがあるんだ」
「んんん?」

魔理沙はさっぱりわからないという顔をしていた。

「魔理沙は自分自身の体から魔力を使い、魔法を使うだろう? だから魔法使いだ」
「んー、まあ確かにそうだな。アリスは魔法で人形を操るから人形遣いでもある」
「対して魔女は魔の女。使いが抜けてるんだ。使いはどこへ行ったと思う?」

使いはどこへ消えたか。その答えは昨日の僕の考察にある。

「わからん」

魔理沙は早々と諦めてしまったようだ。

「使い魔だよ。魔女は使い魔を使う。魔法使いの『使い』は使い魔に譲られたんだ。そして残ったのは魔の女だけになった」

パチュリーから借りた本によると、魔法使いでも使い魔を使役する事があるという。

しかしそれは絶対に必要な事ではなく、用途によって使い分けているだけにすぎない。

魔女にとって使い魔の存在は絶対必要である。

魔法使いからさらに一歩進んだ存在になるために、使い魔が必要なのだ。

「よくわからんぞ。魔女だって魔法を使うじゃないか」
「魔女は使い魔がいてこそさらに強力な魔法を使えるんだよ」
「何でだ?」
「魔女は使い魔……悪魔と契約を結び、必要な力を得るんだ」

使い魔と魔女は繋がっている。

使い魔の小悪魔の得た力は魔女へ伝わるのだ。

「そしてその必要な力こそパチュリーの好物であり、食事だ」
「その答えは?」
「他人の魔力であり……生気さ」

魔女は昔から妖しい、艶めかしいものであると信じられていた。

魔女は人の生きる力を奪うという。

「僕はさっきレミリアの話をしたね。彼女は吸血鬼だ。吸血鬼は血を吸って生きているだろう」

最近は咲夜の手によって、色々な食事に血液を混ぜたりしているようではあるが。

「それと同じように、パチュリーも他人の生気を吸う。噛み付く必要はないけれどね」
「生気ったってなぁ。あいつ図書館に篭りっきりだから他人に会う機会なんて滅多に……あ」

魔理沙は気付いたようだ。

「だから、具合が悪いんだよ」

レミリアがいる紅魔館は魔力に溢れている。

わざわざ他人から生気を得なくてもそこにいるだけで最低限の力を得られるのだ。

動かないパチュリーの変わりに、小悪魔が生気を補充する。

自ら動かなくても必要なものを満たす事が出来る。

本のある場所に篭る彼女にとってこれほど都合のいい事があるだろうか。

僕は魔理沙にそう語ってみせた。

「じゃあ使い魔が補充をサボってるのか? 香霖の言ってる事が本当ならもうちょっと元気でもよさそうなもんだけどな」
「どちらかというとパチュリーがサボっているのが問題なんだ」

小悪魔からの魔力供給はあくまで補佐的なものであって、元あるものを強化するためのものだ。

「本来はパチュリー自らも生気を得なくてはいけないはずなんだよ」

パチュリーが万全の状態かつ、小悪魔からの供給がなされている状態が理想なのである。

あるいは自分の研究に熱中するがあまり、食事をおろそかにしているだけなのかもしれない。

「デザートばっかり食っててご飯を食べないから具合が悪いみたいなもんか?」
「そんな感じかな」

間食しかしていない状態とでも言おうか。

昨日元気に見えたのは、紅魔館の誰かから生気を吸ったのかもしれない。

つまり魔女としての活動を行ったという事である。

さて、そこで魔理沙は何を行うべきか。

「魔女の好物は生気だ。その好物である生気をパチュリー自身に与える事が、パチュリーの喜ばせる事になるということだね」
「……生気ったってなあ。どう与えりゃいいんだ」
「それは昔から相場が決まっているよ」

借りた本にもきちんと書いてあった。

「生気を得るのに一番効率がいいのは相手との接触。特に粘液の接触だね」
「粘液?」
「わかりやすく言うと、唾液さ」

そう言って僕は自分の口を指差した。

「は、はあっ?」

魔理沙の顔が真っ赤に染まる。

「じゃあお前、アレか。私にパチュリーとキ、キスしろってか」
「彼女を喜ばせたいのなら、そうするといいんじゃないかな」

本当はもっと大人の世界の話もあるのだが、キスだけでこの反応では止めておいたほうが賢明だろう。

「そんな……だって……私、したことないし……」

魔理沙は俯いたままなにやら呟いていた。

「普通に茸鍋を用意するだけで喜んでくれるとは思うけれどね」
「そうだ、なら香霖と事前に……いやいや何考えてるんだ私!」

自分で自分の頭をぽかぽかと叩いている。

色々と大丈夫だろうか。

「聞いているのかい、魔理沙」
「え? ああ、うん、いや、聞いてるぜ?」
「それと、昨日も言ったけど本を返してあげるのが一番喜ぶと思う」
「あー……」

目線を逸らす魔理沙。

僕はここでもう一押しをする事にした。

なるほど、本を読んで、僕がした解釈を魔理沙に伝えればいいというパチュリーの言葉がようやく理解できた。

「魔女を怒らせると怖いぞ。本を返してくれないなら、魔理沙の大切なものを盗み返してしまうと言っていたよ」
「私の……大切な……」

口元を押さえる魔理沙。

パチュリーは魔女である。

魔女は生気を吸う。

魔理沙の大切なものを盗む。

つまり、そういう事である。

「ば、ばかっ……」

魔理沙の顔はもうゆでだこのようである。

「大切なものを盗まれてしまったら困るだろう、魔理沙」

僕はそう言って笑ってみせる。

「こ、香霖は困らないのか!」

何故僕が困らないといけないのだろう。

「いいんじゃないかな、そういうのも」

返事の変わりに魔理沙が敷いていた座布団が飛んできた。

「香霖の馬鹿! アホ! 眼鏡!」

魔理沙は帰ってしまった。

「……やれやれ」

ずれた眼鏡を直す。

「これで効果はあったのかな」

果たして魔理沙はパチュリーに本を返す気になったのだろうか。

「……本を返しに行く時に聞いてみよう」

僕はきちんと本を返せるんだぞという事をアピールする事も含めて。







「こんばんわ。パチュリー、いるかい」

数日後。

日も暮れた後の紅魔館の大図書館はさらに薄暗く、静かだった。

「ああ。来たのね。いらっしゃい。貴方なら来てくれると思っていたわ」

大図書館の主、パチュリー・ノーレッジは本を片手に僕を出迎えてくれた。

「本、戻ってきたわよ」

彼女はそう言って笑った。

「そうか、それはよかった」

どうやら僕が思っていた以上に効果があったらしい。

紅魔館に来る前に魔理沙が慌てた様子で店にやってきたのだ。

「香霖、まだ紅魔館……パチュリーのところに行ってないよな!」

まだこれからだよと答えると物凄いスピードで飛んでいってしまった。

それを確認したからこそ、僕はここへやってきたのである。

「魔理沙は意味に気付いたんでしょう」
「うん?」

もしかすると、僕が考えていた以上の深い意味があるのだろうか。

「どういう解釈をしたのかしら? 貴方は」
「僕は……」

僕なりの解釈を説明する。

魔女は悪魔と契約し、その使い魔を通じて力を得ている事。

その必要な力とは生気であり、それは魔女の好物でもあるという事。

魔理沙の大切なものを盗むということは魔理沙の生気を頂くぞという意味だろうという事。


「そして僕の考察は、間違っているだろうという事」


パチュリーから借りた本を置いた。

「この本はある魔女の物語だ。物語。つまり創作なんだよ」

僕は創作の魔女の特徴を、本物の魔女の事であるように魔理沙へ語ってみせた。

それがパチュリーの意図した事だと思ったからだ。

「余りそういう事はしたくはなかったが、魔理沙も悪い事をしているからね」

僕の話を本当のことだと思った魔理沙は、パチュリーに生気を吸われるのではないかと不安に思い、本を返す事に決めた。

「そういう事なんじゃないのかい?」
「なるほど、肝心なところが間違っているようね」

パチュリーはそう言って持っていた本を置き、立ち上がった。

「教えてあげるから、ついていらっしゃい」

色々と情報が不足している。

今の僕ではこれ以上の考えは出なさそうだ。

何か意味ありげで気になってしょうがない。

真相を知るために僕はパチュリーへついていった。







やってきた場所はベッドルームだった。

人が4人くらいは軽く乗れそうな大きなベッドが鎮座している。

何故こんなところに来たのだろう。

「そこに座って」

ベッドの上に腰掛けるとふかふかで、僕の店にもこういうものが仕入れられればなと少し思った。

置く場所に果てしなく困りそうだが。

「昨日。言ったわよね。私は貴方を誘惑しにきたと」
「ああ」

誘惑に負けた僕は本を読み、魔女への解釈を魔理沙に伝えた。

「本を返す前に、一度魔理沙が私のところへ来たの。『香霖の言ってた事は本当なのか』って」

やはり僕の考えていたように、魔理沙は生気を吸われる事を不安に思っていたのではないだろうか。

「私は答えたわ。ええ。その通りよと」

パチュリーがそれを違うと言うはずがない。

それでは何のために僕に本を渡したかわからないからだ。

「それで魔理沙は本を返した。めでたしめでたしじゃないか」

何が間違っているのか僕にはわからなかった。

「何故、私は魔理沙に直接じゃなくて貴方に本を渡したんだと思う?」
「それは僕の話なら魔理沙が聞くと思ったからじゃないのかい?」
「そうじゃないわ。貴方が知っておく必要があったからよ」
「どういうことなんだい?」

よくわからなかった。

「あの時言ったでしょう。気の毒だけど魔理沙と親しい貴方は知っておくべきだと」
「ああ」
「貴方は完全に巻き添えで被害者になるから悪いと思ったけれど……そういう意味よ」
「巻き添え? 確かに今は君に協力するような形にはなっているが……」
「そして貴方は私の誘惑に乗った」

パチュリーは言葉を遮るようにすっと僕の唇を指差した。

「魔理沙は言ってたのよね。私に好物を食べさせてあげたいって」
「ああ。言っていたよ」
「それ自体はとても嬉しい申し出だわ」

本を勝手に持っていっていることを除けばということだろう。

「私にとって本はとてもとても大切なものなのよ。それと同じくらい魔理沙に大切なもの。何かしら」

パチュリーの白い手が僕の頬にそっと触れる。

「何を――」

言葉は続かなかった。

彼女の唇が、僕の唇と重なり合っていた。

いや、そんな甘いものではない。

「んっ……ちゅ……」

彼女の舌が、唾液が僕の舌の上を、歯茎から歯の裏を、ねちねちと這い回る。

舌と舌とが絡みあい、にちゃ、にちゃと汁音が響き渡った。

混乱する意識の中、執拗に彼女の口撃は続く。

「……ふうっ」

口を離した彼女と僕の間につう、と透明な液が繋がり零れ落ちた。

「はあっ……はぁっ」
「ふふふ……」

パチュリーがそのまま僕に体を覆い被せてくる。

ぼふりと背中にベッドの感触。

密着したパチュリーの柔らかな体と甘い匂いが意識を揺さぶってくる。

正面には、艶やかに笑う彼女の顔。

「魔理沙の大切なもの。それは貴方」
「……僕が?」
「そう。貴方が」
「いや、そんな事は」
「ならどうして魔理沙は本を返したのかしら」

わからない。何も。

「ぼ、僕は」
「貴方は頭はいいけれど自分の考えに囚われすぎ。私も似たようなものだけれど」

首筋をパチュリーの左手の指が這い回る。

右手は心音を確かめるかのように僕の胸に当てられていた。

「迂闊過ぎるのよ。誘われるがままに私についてきて」

覆いかぶさられている僕はなんとか抜け出そうとしたが、まるで身動きが取れなかった。

「物語だから、作り話だから、本当はそうじゃないなんてどうして言い切れるのかしら」
「……パチュリー、君は」

魔女の好物は生気。

「でも貴方みたいな人、嫌いではないわ」

迂闊だった。

この場所に連れて来られた時点で気付くべきだったのだ。

「それとも、知っていてこうなりたいと思って来たのかしら?」

艶やかな笑顔。妖しく光る瞳。

「さて……」

吐息が耳元に吹き付けられる。

「止めてくれ、僕は……」

長い長い間の後、パチュリーはくすりと笑い、言った。





「……とまあ、今までのは全て冗談よ」





どういう事なのだろうか。

「冗談。魔女が生気を吸うだなんて嘘っぱち」
「嘘だって?」

今までのは嘘だというのか?

そんな訳はない。

僕は彼女の瞳を見た。

あれは本気の瞳だった。

「嘘にしたほうが、いいと思わないかしら。本当に食べてしまったら魔理沙に悪いでしょう?」
「……」
「本のツケもあるから、少しだけつまみ食いさせて貰ったの。ええ。とても美味しかったわ。全てを食べてしまいたいくらいに」

僕は何も言えないまま彼女の言葉を聞いていた。

「ごめんなさいね。貴方には刺激が強すぎたかしら?」
「……驚いただけだよ」

強がって答えてみるが、パチュリーはくすくすと笑っていた。

「ほら、ママのおっぱいでも吸う?」

なんて言って胸を強調させてみせる。

「勘弁してくれ……」

完全に彼女にペースを捕まれてしまっていた。

「もしも」

パチュリーが、再び艶やかな笑みをみせる。

「貴方が魔女の真実を知りたいのだとしたら」

彼女の白い手が僕の頬を撫でた。

「遠慮なく言って頂戴。本当の事を教えてあげるから」

耳元で、熱い吐息とともに囁く。

甘い甘い誘惑の言葉を。



「その時こそ、この世のものとは思えないほどの快楽を与えてあげるわ」



ぺろり、と耳の裏を舐められた。

「ひゃんっ」

まるで少女のような悲鳴を上げてしまう。

「うふふふふ」

満足そうに笑い、パチュリーは僕から離れていった。

「さて、お帰りはあちらよ」
「……」

言葉に操られるかのように、ふらふらと出口へ向かう。

「さっさとくっついちゃいなさいな。そうしたらアレも泥棒もどきなんか止めるかもしれないわよ」

パチュリーが何か言っていたがほとんど聞こえなかった。







「……わからない」

とぼとぼと夜の道を歩く。

果たしてパチュリーの言葉は、行為はどこまで真実だったのだろうか。

彼女はどこまで本気だったのだろうか。

僕の考えは全て正しかったのかも知れない。

あるいは全て間違っていたのかもしれない。

確かめる方法が無かった。

確かめるにはパチュリーの全てを……

ぶんぶんと首を振って否定する。

「出来るか、そんな事は」

そりゃあ興味が無いといえば、嘘になるが。

パチュリーの事を今までそういう目で見たことはないし、彼女は本を取り戻したのだから既に満足しているはずなのだ。

どうして魔理沙が本を返す気になったのかも結局はわからない。

魔理沙に聞いたところできっと誤魔化されるだろう。

僕だってそうだ。今日何があった?と魔理沙に聞かれたら適当に誤魔化す自分が容易に想像できた。

真実は、何もわからない。


ただ言える確かな事は一つだけであった。






パチュリー・ノーレッジは魔女である。




魔女の誘惑に乗ってはいけません。
乗ってしまったが最後、色々と大変な事になります。
乗るんじゃないぞ! 絶対だぞ!
SPII
http://cgi-games.com/esupi2/
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コメント



0.10800簡易評価
3.90名前が無い程度の能力削除
はい、ママのおっぱい吸いたいです・・・
15.90名前が無い程度の能力削除
なんていうんだろ 100点じゃなく90点こそが満点だなぁ、って作品だ
16.100名前が無い程度の能力削除
ニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤ
21.90名前が無い程度の能力削除
パチュリーさんえろい
22.100名前が無い程度の能力削除
パチュ霖……
ぱちゅりん!!これは流行る!!!!
24.100名前が無い程度の能力削除
香霖の「ひゃんっ」に萌えた
27.100名前が無い程度の能力削除
こりゃあたまげたなあ
34.100名前が無い程度の能力削除
……ゴクリ。
これはエロい。
37.100名前が無い程度の能力削除
ぱちゅりん……だと……
38.100名前が無い程度の能力削除
魔女の誘い?乗るだろ常考…
40.100名前が無い程度の能力削除
くそう…、今までそんなに意識したこと無かったのに…
ぱっちぇさんに墜ちてしまう
41.100名前が無い程度の能力削除
こ…これは…なんという霖之助危機一髪
(性的な意味で)
42.100名前が無い程度の能力削除
パチュ霖!これは流行る!
45.90名前が無い程度の能力削除
魔女してるパチュリーさんだなぁ
ここの紅魔館は対象年齢が高そうだわー
47.90名前が無い程度の能力削除
こうなるとおぜうさまも吸血鬼としての本性を発揮しないとな2828
48.100名前が無い程度の能力削除
鳴かせてぇ……俺も霖之助さんを「ひゃんっ」だなんて鳴かせてみてぇ……
50.100名前が無い程度の能力削除
「ひゃんっ」
…この一言に、この一言に……!!

勘違いオチで終わるかと思いきや、まさかタイトル通りとは…
前半から後半への展開に思わず見入ってしまった…
52.100名前が無い程度の能力削除
魔女の誘い?
ノータイムで乗らせていただきますwww
そしてパチュりんは正義
53.100名前が無い程度の能力削除
あの森近霖之助が「ひゃんっ」……だと……?

しでかしたよ。
こいつはしでかしちまったよあんた。
とんでもなくどでかいことをしでかしちまったんだぜ、あんたは。

いいぞもっとやれ! いややってくださいお願いします!!
55.100名前が無い程度の能力削除
これが魔女の本当の姿・・・
その誘い無条件で乗らせていただきます!
59.100名前が無い程度の能力削除
ウ…ウゴゴゴゴゴゴ…
なんという新境地…
62.80名前が無い程度の能力削除
ひゃんっ
66.100名前が無い程度の能力削除
さぁ、早く別ルートでのこの話を完成させるのだ。
創想話でなく夜と(スキマ送り)
72.100七人目の名無し削除
やべえ……続き読みたい。
パチュ霖はもっと流行るべき。
プラトニックな感じのパチュ霖も良いけど、この話みたいなアダルティックな感じのするパチュ霖も良いな。
81.100名前が無い程度の能力削除
おもしろ!
でも霖之助の能力で用途が判明するんじゃないの?偽りとして書いたものか、真実として書いたものか
83.80名前が無い程度の能力削除
ちくしょううらやましい…うぎぎぎぎ
86.100名前が無い程度の能力削除
何このパッチェさん、大人の女
霖之助も、歳は近いか年上だろうに手玉に取られてるよ……何て羨ましい
俺も手の上で転がされてぇ!
89.90名前が無い程度の能力削除
これはいい……。いままでの作者氏の作品の中で一番好きだな。
93.100名前が無い程度の能力削除
ぐああああああああああああああああああ!!
畜生……なんて可愛いんだ……香霖の奴!!

でも霖之助さんが120歳以上でパチュリーが100歳前後だから、
霖ちゃんのが年上なんだよな……
94.100名前が無い程度の能力削除
年下の魔女に翻弄される古道具屋…。
ありだと思います!
95.100名前が無い程度の能力削除
これは全力で乗るしかない
104.100名前が無い程度の能力削除
ちくしょう! 「ひゃんっ」で壮絶に噴いたわ。私のコーヒー返してっ!

霖之助ほどの男でも嵌まる魔女の権謀術数、げに怖ろしきよな……。
いえ、もう、ぜひ「この世のものとは思えないほどの快楽」とやらをご教授いただきたい!
115.100名前が無い程度の能力削除
ぜひ続きを希望する!
創想でなくてもいい! 夜と(以下自粛
116.100名前が無い程度の能力削除
不覚にも興奮した
118.100名前が無い程度の能力削除
witch……bitch……なるほど、確かに魔女ですね。
あまり触れられていないけど魔理沙かわいい
123.100名前が無い程度の能力削除
くっ…お前たちは逃げろ!
この魔女は俺が食い止める!
127.90名前が無い程度の能力削除
これがEXパチェの片鱗…!
とりあえず普段の小悪魔についてkwsk
128.100魚学削除
このパチェさんは……間違いない、巨乳だっ(キリッ)
130.100名前が無い程度の能力削除
うっはwwwごちそうさまですwww
134.90名前が無い程度の能力削除
「さて、お帰りはあちらよ」香霖が言われる日が来るとはなー
ところで魔理沙、本を食べる妖怪もいるよ。文学少女とか、文芸部の先輩とか
136.90名前が無い程度の能力削除
マジでエロ展開で焦った!魔理沙ーがんばってー
137.100名前が無い程度の能力削除
パチュ霖とは・・・!!!
な、なんちゅう新境地があったものか!!!!!!!
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いやらしいパチュリー待ってました
143.100ト~ラス削除
えろパチェ様の続きはないのか!

こっちはネクタイのみで正座して待ってるんd(自重
霖之助を手玉にとるぱっちぇさん、マジぱねえッス
146.100名前が無い程度の能力削除
ママのおっぱい吸いたいです(^q^)
むしろパチュリーに吸われたい。根こそぎ搾り取られたい。
さあ!吸い込んでくれぃー
152.80名前が無い程度の能力削除
氏の作品しか読んだ事が無いけど霖之助はどんだけ鈍感なんだ……。
そして大人の世界をご存じないまりさが可愛すぎると空気読まない感想を投げるテスト。
だって可愛いじゃん…!
153.100名前が無い程度の能力削除
パチュリーさんマジエロい
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おああおああおあああああ
最!高!
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これはいいパチュ霖
159.80名前が無い程度の能力削除
いやらしいいやらしいいやらしい

(*´Д`)
162.100名前が無い程度の能力削除
パチェ、私ならいつでもおっけーだぜ
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これはよいニヤニヤ
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なにこれエロイ
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ときめく香霖かわいいですw
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うっお―――っ!! くっあ―――っ!! たまんね―――っ!
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これはお子さまには刺激の強すぎるパッチェさん。
妖しいぜ……
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・・・・・・ふぅ。
このパチュリーはたまりませんね。大人なパチュリー万歳!
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ヒャン
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言えるのはただ一つ・・・エロイです
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誘いというのは乗るために存在する
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このパチュ霖が好き過ぎて呼吸ができない。
ボスケテ
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うっひょー
いいねパッチェさん
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 >「ほら、ママのおっぱいでも吸う?」
あざっす!!
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いい!!
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乗ったッ!
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「ひゃん」て・・・萌えるじゃない!
パチュ霖は大好物ですよww
魔理沙は頑張らないと大事なものを奪われるぞ
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乗ります!
いや、乗らせてくださいお願いします!
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良い作品を見たがあほうなコメントのためかんしゃくが起こるのね。

本当に面白かったです。またこんな作品を見たら良さそうです。
274.100名前が無い程度の能力削除
後ちょっとでオチるなこりゃ