「ふ"へ"ぇ"!」
フランは口に含んだコーヒーを、盛大に噴出した。
もちろんワザとじゃない。
コーヒーをより遠くへ吐き出せた人の勝ち! なんて汚い遊びを覚えたつもりはない。
しかし、フランの口から飛び出た黒い雫。
光で反射して、ダイヤモンドのようにキラキラと輝き、綺麗だった。
まさにブラックダイヤ! なんて事はどうでもいい。
なぜコーヒーを噴出したか、それが問題。
それは何者かに突然、フランは背中を叩かれたからで。
犯人は私の後ろでニコニコと笑っている、こいつしかいない!
ゲホゲホと咽返りながら、フランは振り返った。
「やっほー、フランちゃん♪」
「……」
すると後ろには、のほほんと微笑むこいしが立っていた。
やっぱりあんたか……、フランの口から乾いた溜息が出る。
こいしちゃんは可愛いし大好き。
こうやって遊びに来るのはもちろん大歓迎。
だけど唐突に表れるのが厄介なのよね。
私の食事中にも表れるし、お風呂に入っているときも来る。
前なんてトイレの最中にも現れてニヤニヤしていたし……。
そうだ、猫のように鈴でも着けようかしら。
そしたら音で分かる。
こいしにゃんなんて可愛いわね。ネコミミとか絶対似合うわよ!
とにゃんにゃん鳴いてるこいしを想像し、フランはクスッと笑った。
「それで、楽しそうだけど何かあったのこいしちゃん?」
楽しそうなのはフランの方だ!
と言う突っ込みを、敢えてこいしはしなかった。
「うん♪ すっごい面白い話があるんだよフランちゃん!」
「私がコーヒー吹いた話だったら怒るわよ」
「そんなくだらない事じゃないよー。パブロフの犬って知ってる?」
くだらないってあんたが言うな……。
まったく悪びれないこいし様子に、フランもやれやれが止まらない。
渾身のイヤミもさらっと返されてしまった。
こいしが子猫の様に愛らしく笑うのが、さらに厄介。
そんな顔されたら憎めないじゃないの。
しかしパブロフの犬ってなんだろ?
犬って、あいつかな?
フランは頭に「瀟洒」の二文字を思い浮かべる。
「悪魔の犬なら知ってるよ。咲夜って名前なんだけど呼んでくる?」
「咲夜さんは関係ないよー。知らないなら今から説明してあげるよフランちゃん!」
「え? うわっ!!」
そういうとこいしは、イスに座っているフランを地面へと押し倒した。
な、なぜ……。
フランは豆鉄砲を食らった顔になる。
簡単に言うと凄いビックリした顔。
そしてこいしは、倒れているフランの腹に元気よく飛び乗る。
フランの口からぐぇっ! という嫌な音が出た。
その間わずか0.2秒! あまりにも素早い出来事である。
わからない、こいしちゃんの行動がまったくわからない!
当然、フランの頭はパニック状態。
「もー、痛いじゃないのこいしちゃん。早く私の上から降りてよ!」
「ダメだよフランちゃん! これから説明が始まるんだから!」
「……この逆馬乗りのような体勢で?」
「そうだよ♪ 楽しい楽しい説明会の始まりだよ♪」
獲物を制圧するのに成功したこいしは、満足そうな顔をする。
フランが抵抗の「て」の字すら見せる間も無く、彼女の作戦は終了したようだ。
ハメられた! これは罠だったんだ!
普通に説明する気なんて、こいしちゃんには無かったんだ!
フランはあたふたと焦りこいしから逃げようとするが、もう遅かったようだ。
「行くよフランちゃん!」
「にゃひゃひゃひゃひゃへぁ! ちょっとなゃにするのよこいしちゃん!」
こいしはフランの腋をコチョコチョと擽り出した。
「にゃひゃひゃひゃ」と笑い声をあげ、バタバタと暴れるフラン。
それをうっとりと見つめるこいし。
第三者から見れば可愛い子供の戯れに見える。
だがフランは上手い具合に弱点を突かれ、笑い死にしそうな勢いだった。
オマケにこいしはテクニシャン。
彼女のあらゆる手の動きが、フランを笑欲の底へと沈めて行った。
は、早く逃げなきゃ笑いすぎて頭がおかしくなる……。
フランは腰を浮かし、なんとか体勢を変えようとするが、こいしの体がガッチリ密着していて離れられない。
思いっきり爆笑するフランを、さらにこいしは嬉しそうに、ぎゅ~っと抱きしめて来るので手に負えない。
こんなの説明じゃない! むしろこの状況を説明しろ!
フランから当然の疑問が出てくる。
「こいひぃちゃん、意味分かりゃないかりゃ!」
「だからパブロフの犬の説明だよフランちゃん♪ ぬえ! ぬえ! ぬえぇ!」
「だかりゃ何がしちゃいのよこいしひゃん! そんなとこ触っちゃらめっ……ら"め"ぇ"え"え"ッ! ……ゃだ、ダメっ、はぅぅううッ!」
「まだまだ行くよフランちゃん♪ ぬえ! ぬえ! ぬえ! ぬえぇん!」
この惨劇はぬえの仕業か!
と、フランは当たりを見渡すが、奴の姿は影も形も無かった。
しかしこいしはなぜか、「ぬえ」と連呼しながらフランの腋を擽り続ける。
フランの「あひゃあひゃ」という奇声が、館内に響き渡った。
「死ぬぅ! 笑いすぎてひぃんじゃううぅぅぅ!」
「フランちゃんの喘ぎ声可愛いよぉ♪ ぬえだよぬえ! ぬえぬえぬえ!」
無意識とかもう関係ないよこれ! ただの変態だよこいしちゃん!
こんなときお姉様が居れば、助けてくれ……ないよね。
フランは勝手にガッカリした。レミリア涙目である。
しかし実際レミリアがこの場に居ても、悶える妹をワクワクしながら見ているだけだろう。
今のこいしみたいに。
ならば咲夜だったら?
ドアの外でこっちを楽しそうに眺めている、瀟洒なメイドだったら……。
フランの希望は尽きた。
「もぅ、ゃめて……こいひちゃん。 ……ヤダちょ強いよ、にゃぅううっ! ……ッふぁあ、そこりゃめめぇええ!」
「フランちゃんいいよその笑ってる顔! 涙も涎もダラダラで本当に可愛いよ! そーれぬえぬえぬえぬえ!」
「だかりゃもう無理! もう限界にゃんだって! ダメッ……ゥふぁああああ!! あ"っ…………ンンンッ!!!」
こんな事ならもっと腋を鍛えておけばよかった。
巫女がなぜ、極寒の冬でも腋を晒しているのか分かったが、遅かった。
フランはこいしに責められ、薄れ行く意識の中で後悔した……。
☆ ☆ ☆
フランの腹筋がムキムキになる寸前の所で、こいしは彼女の腋から手を離した。
笑い疲れて目が虚ろになったフランを、こいしは嬉しそうに眺める。
フランの喉はカラカラ、心臓はバクバク。
あんなに爆笑したのは、お姉様が(ムラサの能力で)おねしょして大泣きしたとき以来だわ。
あのときは見事な地図を描いていたなぁあいつ。
「私のテクニック、どうだったフランちゃん?」
「ハァー……、ハァー……。おかげさまで鎌を持った巨乳の死神が見えたわ……」
小町曰く、フランの笑い声が五月蝿くて眠れなかったそうな。
しかしやっとこいしの悪行が終わった。
今度はこっちが奴を擽って、さとりの所へ送り返してやる!
餞別にコイン一枚くらいはあげるわよ!
そうフランが手をワキワキとさせたときだった。
「ぬえ!」
「あひゃひゃひゃひゃ、ぁっうう! なゃにこれ! あひぃん!」
こいしが「ぬえ」と叫ぶと同時に、フランは腹の底から可笑しくなった。
まるでさっきこいしに腋を擽られていたときのように。
これはヤバイ、何者かにスタンド攻撃を受けている。
そうフランは確信した。
犯人は目の前で「やったぁ!」と喜んでいる無意識少女に決まっているが。
「どうフランちゃん? これがパブロフランだよ♪」
「意味わからないけど。なんでぬえって言うと、にゃひゃひゃひゃひゃ……っらめぇ! ……ぅぐ、ふぐぅぅぅう!」
「やっぱり笑っているフランちゃん可愛いよ♪ そーれぬえぬえぬえ!」
「こいしちゃん、らめぇだって! ゃめりぇ、はぅっ……ぅ"ぐ"ぅ"う"う"う"!!」
「ぬえ」って単語が不味いと、腹を抱えながらフランは勘付く。
これ以上説明を求めても、こいしは楽しそうにフランを弄ぶだけだろう。
窒息死の危険を感じたフランは、部屋の窓を叩き割り、素早く外へと飛び出していった。
死亡原因が笑い死になんて吸血鬼の沽券に関わる。
姉のレミリアも号泣して喜ぶことだろう。
「うふふ、逃げたってもう遅いよフランちゃん♪ 「ぬえ」はこっちに来るんだから♪」
こいしは逃げていったフランを追いかける事はせず、ゆっくりと紅魔館で寛ぐ事にしたようだ。
そして、フランの飲みかけのコーヒーに口を付ける。
「うー、フランちゃん苦いよこれ……」
☆ ☆ ☆
屋敷を飛び出したフランは、なぜかぬえに助けを求めに行った。
よりにもよって「ぬえ」に。
酸素が足りなくて、冷静な判断が出来なかったのだろう。
それかこいしに「ぬえ」と言われ続けて、頭の中に刷り込まれたかだ。
そしてぬえは霧の湖上空ですぐに見つかった。
ちょうど彼女も紅魔館へ向かう途中だったようである。
フランには、ぬえが救世主に見えた。
だから、嬉しさのあまりつい彼女の名前を叫んでしまう。
「ぬえぇええ!!!」
しまった、とフランは口を押さえたがもう遅かった。
ぬえの前で、盛大に馬鹿笑いをする事となる。
「どうしたのフラン?」
「あなたの力……にゃはははは。凄い、あっはははは、ダメ! 可笑しすぎて、笑いが、止まらないぃ!」
「…………」
あなたの力を、凄い借りたいすら言えなんて!
フランは悔しさと可笑しさで顔を歪ませる。
一方出会いがしらに笑われたぬえは、プルプルと眉間を震わせた。
これはぬえ、怒ってるよね……。
「私の事を馬鹿にしたいのかなフラン?」
「えーと違うのよ……。あなたが悪いのじゃ無くて、こいしちゃんにちょっとね」
フランはさっきの経緯をごにょごにょとぬえに説明する。
やっぱり笑い過ぎたフランにはもう、まともな思考が無かったのだろう。
自分の過ちに気が付いたのは、ぬえがにやーと悪い顔をしたときだった。
その顔に、フランを哀れむ表情は一切無い。
むしろ、「やった! 今日の晩御飯が目の前にいるぞ!」みたいな顔だ。
やってしまった、普段情けないとは言え、ぬえが恐怖を食べる妖怪なのをすっかり忘れていた。
フランはとても焦った。
「そうか、可愛そうなんだねフランは。いいよ、このぬえが何とかしてあげるよ!」
「ちょっひょ! さっきの話聞いてなかっひゃの!」
話を聞いたからこその「ぬえ」宣言なんだろう。
腹筋を押さえながらフランは抗議するが、ぬえのいやらしい笑みは止まらない。
やってしまった、フランはもうぬえのオモチャにされる。
考えてみれば、私だってこんな美味しい状況見逃すはずないのに。
フランは自分の甘さを心の底から悔やんだ。
「ぬぇ! ごめんぬえフラン。しまった! つい、いつものぬえ口癖が!」
「いつかりゃそんにゃ口癖付いたのよあにゃた! にゃひゃひゃひゃひゃ、……ふぁあああんッ!」
「何言ってるのフラン。ぬえは前からぬえって言ってたぬえでしょ」
「うそりゃ!」
やっぱりワザとだ! ぬえは苦しむ私を見て楽しむさでずむだ!
と、フランは確信する
渾身の力でぬえを撃墜しようと思ったが、笑いすぎてまったく力が入らなかった。
フランの腹筋は、人生で一番と言うくらい力が入っているのに。
悔しい、なんちゃって正体不明なんかにこの私が弄ばれるなんて!
と、フランはビクンビクンした。
「ぬぇっぬぇっぬぇっぬぇっ。あー笑い声が止まらない」
「だかりゃあなたいつからそんにゃわりゃい声ににゃったのよ! ッふぁ! ……ッら"め"!」
「ぬぇっぬぇっぬぇっぬぇっ! ん、大丈夫フラン? 何か目が明後日のほう向いてるけど?」
「もー怒った! 絶対ゆりゅさないからね!」
また巨乳の死神が眠そうに表れた所で、フランは決心した。
このままでは本当に笑いすぎて死ぬ。
こいつをヤルしかないと。
ぬえを爆発させて、無理やり話しを終わらせるしかない。
フランは拳を構え、ぬえの「目」を集め出した。
しかし、ぬえのぬえによるぬえの攻撃は止まらない。
「ぬえ! 駄目だよフラン! そんな危ないことしたら、ぬえ怒っちゃうよ!」
「くひょー! だからそれやめりょって! ッんぁ、……ッひゃん!」
フランは掲げた拳を下ろし、ふらふらと空を飛ぶ。
それをぬえはニヤニヤと眺めるが、もうフランはどうでもよかった。
彼女の心は折れた。完全な敗北である。
ぬえの勝利を確信した高笑いすら、フランの耳には届かなかった。
「やめてくれるんだね! わかってくれてぬえは嬉しいよフラン!」
「……あひゃ、あへぇ、んひゃ……。うう、お願いりゃから、……もう、ゃめてょにゅえ……」
「ちょっとフラン……?」
「……らめぇえ、腹筋壊れてしぬぅ……くひゃ、っふぁ……ッンン!」
フランは酸素が足りなくて、自力で飛ぶのすら限界だった。
もう駄目だ、私はこのまま地面に撃墜して死神に会いに行くんだ……。
と、諦めだした。
しかし、そのとき意外な出来事が起きる。
辛そうに羽ばたき、落下寸前だったフランを、ぬえは優しく抱きかかえたのだ。
それは丁度、お姫様抱っこのような形になった。
これ以上私を責める気か、とフランはぬえを睨む。
だけどぬえは、なんだかしょぼんとした顔を見せていた。
「えーとごめんフラン。やりすぎた……」
「はぁ、はぁ……このばか。本当に、昇天すりゅかと思ったじゃないのよ……」
ぜえぜえと舌を出し息を乱だすフランを、ぬえは顔を赤めながら眺める。
二人の体がピッタリと密着し合い、ぬえの鼓動がフランへと伝わった。
笑いすぎたフランの心音はとうぜん速い。
しかしぬえの心音は、彼女よりさらに速く強かった。
当然フランはそれを疑問に感じる。
「なんであなたが心臓バクバクしているのよ……?」
「いや、なんでもないよ……」
「私を甚振ったのがそんなに興奮した?」
「いや、……ごちそうさま」
そしてぬえは恥ずかしそうに、フランからすっと視線を逸らした。
照れているのだろうか?
心なしか、ぬえの抱きつく力が強くなった気がする。
やっぱり照れているんだ。
そんなにわかりやすい態度じゃ、こっちまで恥ずかしくなるじゃない。
フランも少し、気まずくなった。
しかも視線をズラし、両腕が塞がっているぬえは隙だらけ。
今なら、こいつに復讐出来る。
そうフランは思ったが、いまはやめる事にした。
もう少し、ぬえの温もりを、楽しみたくなったから。
「じゃあフランの謎現象をなんとかするか……」
「あら、意外ね。あなたが私の心配をしてくれるなんて」
「いや、その……。私の名前でそんなに喘がれても。なんというか……」
「何が言いたいのよ?」
「もう! なんでもないよ!」
ハッキリとしないぬえにフランが問い詰めるが、彼女の怒鳴り声でこの話題は終了する。
今ぬえが正体不明の能力を自分に使ったら、彼女はりんごに見えるだろう。
そのくらい、ぬえの顔は赤かった。
照れ隠しならもっと静かにやってよ、どうせバレバレなんだから。
と、フランは耳を押さえながら呟く。
「それで、私のこの現象はどうしたらいいかしら?」
「こいしにやめさせるのが一番なんだけどなぁ」
溜息混じりにぬえが言うが、それが出来たら苦労はしない。
力づくでやめさせようとしても、こいしが無意識になったら簡単に逃げられる。
フランの能力で爆発させても、こいしなら0.02秒くらいで復活してくるだろう。
そしてまた「ぬえ」攻撃が始まる。
まったく意味が無い。
「私の能力で、こいしちゃんの腹筋を破壊出来たらねぇ」
ありとあらゆる物を破壊できる程度の能力なら、概念的な物も壊せれば便利なのに。
と、フランは残念そうに自分の掌を見つめる。
すると、ぬえが頭に電球を浮かべ、興奮気味に話し出した。
「出来るよフラン。貴方の能力で出来るよ!」
「どうやって?」
「ぬぇっぬぇっぬぇっ! 私に任せさいっ、てごめんフラン」
「だかりゃもぉー! そのぬえって言うのやめりょってば!!! にゃはははは、ッふぐぅぅうう!!!」
その笑い方気に入ったのか……。
変だから今すぐ止めなさい。
そう忠告しようとフランは思ったが、腹筋が壊れてそれどころじゃなかった。
ぬえの腕の中で、またビクンッビクンッと暴れだす。
☆ ☆ ☆
フランの腹筋が復活した頃。
不安そうにしながらも、こいしが待つ紅魔館へとフランは舞い戻った。
ぬえは念のため、外で待機しているらしい。
どんな念があるのかは不明だが。
しかし、あいつのくれた策は本当に効果があるのだろうか。
フランはこいしを前にして、少し緊張して来た。
「お帰りフランちゃん♪ さあ、また可愛がってあげるからね♪」
こいしはのんきに、コーヒーを飲んで待機していた。
テーブルにはミルクと砂糖が置いてある。
咲夜が気を利かせて、持って来てくれたらしい。
そんな事をするなら、先に私を助けろ!
と、フランは悪態をついた。
「さぁフランちゃん! 私の中でお笑いなさい!」
そしてこいしは、勝ち誇ったような顔でフランを見る。
それも当然。
「ぬえ」って言うだけで、こいしはフランに勝てるのだから。
だけどフランには、そのぬえから授かりし取っておきの秘策があった。
これで効果が無かったら、あの巨乳死神の所へ遊びに行こう。
そうフランは覚悟した。
「……行くわよ、こいしちゃん!」
フランは拳を広げ、こいしの緊張してる部分、「目」を集める。
普通の相手だったら、これでフランの勝ちは決まったも同然だ。
しかし、相手は無意識の王者、古明地こいし。
これで終わるわけが無い。
「ドッカーンなら、私には効かないよフランちゃん♪」
「……言われなくても、分かってるよこいしちゃん!」
こいしは余裕しゃくしゃくと言った顔でフランを見つめる。
確かにこいしは破壊しても、ゾンビフェアリーよりも素早く復活してくるだろう。
理由なんか無い。
それがこいしクオリティ。
しかし、フランの狙いは「破壊」では無かった。
やるなら今しかない。
こいしが油断している、今しかチャンスは無い!
フランは、手に集まったこいしの「目」を握りつぶすのでは無く、思いっきり擦りだした!
「……うひゃっ!! え? なになに? 誰か私の事触った?」
こいしはビクッと体を震わし、キョロキョロと辺りを見渡す。
もちろん周りには誰も居ない。
「直接」こいしを触ったものは誰も居ない。
フランが「間接的」にこいしに触れたのだ。
勝った、私の勝ちだ! これでこいしちゃんに勝てる!
自分の能力が通じたフランは、ニヤリと口を緩ませる。
「甘かったわね、こいしちゃん。あなたの緊張している部分が私の掌にあるって事は、こういう事なのよ!」
「ええ? フランちゃんどうゆう事、ゃあ……あふゅ、あひゃひゃ、ひゃん!」
「知りたいなら、今から説明してあげるわよ。あなたの体でね!」
「だめぇぇフランちゃん! ……そんにゃとこ、触っちゃらめぇぇええ!」
こいしの願いを一切聞かず、フランは掌にあるこいしの「目」をこちょこちょと擽り続けた。
ぬえの(緊張してる『目』を擦れば相手がビクンビクンするんじゃない)作戦が見事に成功した瞬間である。
こいしは体を震わし、気持ちよさそうに声を上げる。
それを見て、フランはさらにニヤニヤした。
ああ、なんかこれ楽しい。
「もう……ゃめて、フランちゃん……。 ふぁあ……ゃめりぇ、ンンッ!」
「ふふ、さっきやられたお返し。たっぷりしてあげるわよ!」
悶えるこいしを、フランは目を輝かせながら観察する。
自然と「目」を擦るスピードも加速していった。
こいしの喘ぎ声も大きくなり、さらに悶えだす。
これは、癖になるわね……、最高よこいしちゃん!
フランの新しい遊びが増えた瞬間だった。
「くそぅ……、にゅえ! ぬにぇ! にゃあ! にゅあ! にゃん!」
「何が言いたいのこいしちゃん? 笑いながら喋ったら、舌噛んじゃうよ」
「くひょ、これひゃえ言えれば。にゃあん! にゃあぁん! に"ゅ"あ"ぁ"ん"!」
「ふふ、こいしにゃんの鳴き声可愛いよ♪」
もちろん、フランはこいしが「ぬえ」と言いたい事はわかってる。
それが出来れば、こいしは逆転出来るのだから。
わかってる上で、呂律が回り「にゃんにゃん」としか言えないこいしをワクワクと眺めているのだ。
楽しいわよこいしにゃん! 本当に面白いよ! ゾクゾクしてきたよ!
フランは弾幕ごっことは違う興奮を覚えた……。
☆ ☆ ☆
こいしが笑い疲れ、ぜえぜえと息が乱れるのを見て、フランは「目」を擦るのをやめた。
これでもう、私の勝ちは決まっただろう。
「さあこいしちゃん。私に仕掛けた犬とやらを解除しなさい!」
「……はぁ、はぁはぁ……、おっぱいのデカイ……死神さんに会ったよ……」
小町は言った、「私はサボタージュで忙しいんだ、邪魔をしないでくれ」と。
そして、フランにヤラれたこいしはガクリと膝を地面に着ける。
涙を流し、肩で息をする彼女の姿は完全に敗者だ。
流石のこいしちゃんも観念しただろう。
そうフランは思い、鼻歌交じりにこいしに近づいたが、
「ぬえ! 絶対許さぬえよフランちゃん!」
「なっ!?」
こいしから返って来た言葉は、すいませんでも御免なさいでもなく「ぬえ」だった。
フランの腹筋がまたピクピクと震え始める。
目は虚ろになったこいしだが、闘志はまだ消えてなかったようだ。
流石こいしちゃん、あの程度で屈服するわけがないよね!
フランは自分の油断を責めるのではなく、こいし諦めない気持ちを素直に褒めた。
やっぱり、遊びはこうでなくっちゃね!
「ハァハァ……、いいわよそっちがその気なら、私もあなたの腹筋を破壊するまでよ!」
「……あふゅん、ひゃぁ! くっ私だって負けないよフランちゃん! ぬえ!ぬえ!ぬえ!」
そして、フランは掌にマメが出来るまで彼女の「目」を擦り、こいしは喉が枯れるまで「ぬえ」と連呼する。
第三者から見れば、子供達の不毛な争い。
ただのイジの張り合いに見えるだろう。
それでもフランは楽しかった。
相手に遠慮せずに、馬鹿な事が出来る。
全力で、笑うことが出来る。
そんな友達の存在が、フランはやっぱり嬉しかった。
パブロフの犬に関係無く、フランの顔がクスッ緩み出す。
それは多分、こいしも同じ。
彼女の顔もフランと同じように、表情が緩んでいたから。
笑って上手くは言えないけれど。
『ありがとう』
と、フランは口パクをした。
そしたらこいしが、
『こちらこそ』
と、フランに口パクで返したような気がした。
いや、返したんだよね……。
☆ ☆ ☆
その光景を窓から見ていたぬえは「ごちそうさま」と嬉しそうに呟く。
元々この企画、腹を満たしたくなったぬえがこいしに提案したのだ。
後はパブロフのフランを上手く扱えば、これでぬえは一人勝ち。
お腹もいっぱいになり、二人のあられもない姿が見れたぬえは大満足。
やっぱりこの私が一番凄いんだ! 正体不明バンザイ!
とぬえは高らかに笑った。
「少し計画とは違う展開になったけど。まさか、フランがあんなに弱っちゃうとは想わなかった……」
と、フランに申し訳ないと思いつつ。
「だけど暖かかったなぁ、フラン……」
彼女のぷにっとした柔らかい感触を思い出し、ぬえの頬が赤く染まった。
しかし、彼女はまだ自分のやった事の愚かさに気がついていない。
いや、直ぐに気がつく事になる。
疲れきって冷静になった二人が、窓の外のぬえを凝視したから。
ぬえの額に嫌な汗が流れる。
「こいしちゃん……、私にいい考えがあるの」
「……私もよ、フランちゃん」
対抗策を持たないぬえが二人に標的にされたら、簡単にオモチャにされてしまうという事を考えるべきだった。
「ヤバイ! 逃げなきゃ!」
危険を察知し、脱兎の如く逃げ出すぬえだが、既に遅かった。
フランはもう、ぬえの「目」を集める作業は終わっていた。
「喰らえぬえっ!」
「あぁん! そこ触っちゃらめっ! らめぇぇえええ! ぬえぇぇえええ!!」
フランが「目」を思いっきり擦ると、ぬえはひょろひょろと下へ墜落していった。
地面でビクンビクンと悶えながらも、なんとかぬえは這って逃げようとする。
しかしすでにフランとこいしは、ぬえのすぐ側へと来ていた。
苦しそうに笑うぬえを、二人は獲物を見るような目で見下ろす。
「ままま、待ってよフラン! こいし! 私が悪かったから、反省するからもう許してぇ!」
ぬえは必死に謝るが、二人の悪魔のような笑みは止まらない。
自業自得とは、まさにこういう事を言うのだろう。
こいしが地面で寝ているぬえの上に乗っかり、フランに目で合図を送る。
そしてフランは、嬉しそうにぬえの「目」を弄る作業を再開した。
この遊びの開幕である。
「ふふ、本番はこれからよぬえ! 貴方の教えてくれた「目」で、たっぷりと遊んであげるからね!」
「大丈夫だよぬえ。心配しなくても虐めないよぬえ。安心してぬえ。気持ちよくしてあげるからねぬえ! ぬえ! ぬえぇぇん!」
「らめぇだってフラン! ゃめてよこいし! ……ふぁああ、あぁぁうう! ッンンン! ぬぇぇええ! ぬ"ぇ"ぇ"え"ぇ"え"え"え"ん"!」
フランがぬえの「目」を擦り、こいしがぬえに「ぬえ」攻撃。
それは弾幕ゴッコのように美しく、見事な連携であった。
やっぱりこうなるんだなぁ。まぁいいや、楽しかったし。
と、ぬえは想い顔を緩ませ溜息を吐いた。
三人の無邪気な音色が、合奏のように幻想郷へと響き渡る……。
>説明してあげてわよ
→『説明してあげるわよ』
誤字報告ありがとうございます。
修正させて頂きました。
>そんにゃとこ」について
それは秘密です。
あと「目」をくすぐるという発想は無かった。
こいしちゃんがだんだん顔を近づけて行くとふらんちゃんはそっと目を閉じる。
「あ~ほら目をつむった♪ これがパブロフの犬ってやつだよ♪」
って頬を紅潮させて虚空に向かって少し唇を突き出したふらんちゃんをからかっていつものケンカになる
みたいな展開かと思ってた。けど、まさかの展開だった。
いや、まあ、それはともかく皆の鳴き声だけでもう…………いや、何でもないです。気にしないでください。
ありだな
この部分に反応した私が通りますよー
幸せな気分になりましたwこの三人凄く良い!
あと、「あひゃあひゃ」が時間が経ってからツボってきたwwww
1人負けと言うのはあるなぁと思いました。ぬえっちの1人負けがw
笑って、ほのぼの出来ました、ごちそうさまでしたw
三人が笑っているところを想像するとこちらまで笑ってしまいました。
いや、フランだけか。
>13さん
やっぱりぬえちゃんは弄りたくなっちゃいます
>ぺ・四潤さん
その展開は素晴らしすぎます。
ぜひえらいほうで見たいです(ry
>17さん
ぬえふらがジャスティスになってきました
ぬえこいもフラこいも正義です
>奇声を発する程度の能力さん
この三人はほのぼのしてて本当にいいです
奇声のところが気に入ってもらえてよかったですw
>22さん
ぬえの見事な負けですねw
>25さん
ありがとうございます。
笑っていただけたようで何よりです
>26さん
毎回読んでくださって、本当に感謝です
>28さん
緊張してる部分というところに反応しましたw
この人のくすぐりテクもはんぱねえぜ。
ぬえぬえぬえぬえぬえぬえぬえぬえぬえぬエヌエヌNNNNnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnn
フラン、何気に最強技を手に入れたのではあるまいか?;ww
Ex全員でやりたい放題する話は面白そうですw
>>ずわいがにさん
ぬえって単語を見るだけで最近うっとりと笑っちゃいますw