Coolier - 新生・東方創想話

紫『娘たちが心配なだけなんです』

2010/03/07 04:24:47
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 無印作品集102の「なんなんだ一体」
 プチ作品集56の「毘沙門天『それでも俺はやってない』」
 上記の作品と世界観を共有しています。







 
 「はぁい。 ごきげんよう、霊夢」
 
 最近何もやる気が起きない、そんな時。
 
 神社のさい銭箱にもたれかかっていた私の目の前に、紫が現れた。

 「誰かと思えば、暇な年増だったのね」
 
 とっとと追い払うのに嫌味を言ってみせても、アイツはクスクス笑うだけ。

 「あらあら、ひどいですわ」

 高級そうな扇を広げて、優雅な動作で口元に当てている。

 ……むかつく。

 「今は紫に構ってる気分じゃないの。 帰って」

 「魔法の森の人形遣いとうまくいってないのかしら?」

 「……」

 動揺を勘付かれたのか、紫の目の輝きが増した。

 「ふふ……だから言ったでしょう、霊夢? 人間と妖怪は相容れない存在……」

 それは幼いころからずっと言われてきた、今の私には忌むべき言葉。

 「あなたがアリスよりずっと先にヤマの元へ召されたのなら、あの子は一体どうするつもりなのかしらね」

 「うるさいっ! それ以上言わないでッ!」

 隠しておいた封魔針を投げるが、扇に阻まれる。

 「おお、くわばらくわばら」

 「どれだけ頑丈なのよその扇……」

 私の問いには答えずに、まだにやにや笑っているスキマ妖怪をにらみつける。

 「わかっているのなら、これ以上は申し上げませんわ。 それよりも今日は霊夢におつかいに行ってきてほしいの」

 突然私の胸元に手紙が出現した。

 服と肌の境界に潜り込ませたのか。

 「イヤよ、面倒くさい」

 「それを命蓮寺に届けてきてくださらないかしら」

 聞きなさいよ人の話。

 普段は話したがりなくせに。

 「地霊殿から、村紗水蜜、雲居一輪、雲居雲山の正式な封印解除の通知だそうよ」

 「……そういうのってヤマやさとりの仕事なんじゃないの?」

 「閻魔さまたちはご多忙の身……地霊殿の主も、地上には出たくないの」

 「それで私にたらいまわしされてきたわけね……って、ふざけないで。 私は」

 「では、よろしくね」

 また私の抗議を無視して、紫はスキマの奥へ消えていった。

 「はぁ、もう面倒くさいわね……」

 命蓮寺の位置を思い出しながら、私は神社を留守にする準備を始め……。

 それが、今朝のことのはずなのだけれども。

 「……どこよ、ここ」

 気づけば、見知らぬ部屋に寝ていた上に、前後の記憶がきれいさっぱり失われていた。

 「しかも体があちこち痛いって……もー、なんなのよー!」

 博麗の巫女の直感も役立ちそうにない状況に頭を抱えてしまう。

 最近本当にツイていない。

 もう春も近いとはいえ参拝客は相変わらずほとんどやってこないし、いや、もともと零に近いけどね!

 賽銭くれる妖怪なんて一部の真面目なやつしかいないし!

 例えば、アリスとか、アリスとか。

 「いや、ちょっと待て私。 アリスしか思い出せないのか」

 他にも妖夢や慧音だってくれるのに、本当、頭やられてるわね、私。
 
 そんなことを考えて、苦笑しながら頭をあげれば、驚いたような顔が目の前にあった。
 
 「あらまあ、アリスちゃんと知り合いだったのね」

 「!?」

 ……訂正、目の前にあったのは憎いような羨ましいような夢という名の脂肪の塊だった。

 もう少し目線をあげて、今度こそ塊の持ち主の顔と対面する。

 「もう体は大丈夫かしら、霊夢さん?」

 私を霊夢さんと呼ぶやつなんて数えるほどしかいない。

 紅魔館の門番や図書館の使い魔、他にはさとりとか。

 あとは……。

 「聖、白蓮?」

 「こんにちは、霊夢さん」

 「……こんにちは……」

 春の異変とその後の宴会以来、すっかり見ていなかった究極の善人は、今日もニコニコしていた。

 それは、いいのだけれど。

 「い、いつから」

 いたのよ、という言葉までは言えなかった。

 もしかして、もしかしなくても。

 「突然霊夢さんが怒り出して、その後ほっぺを赤くしてうつむくところまでかしら?」

 ……見られていた。

 「独り言聞かれた上に、そんな……うがー!」

 「あらあら?」

 思わず奇声をあげてしまったけれど、そんなことを気にしてる場合じゃない。

 聞かれた!? 見られた!?

 めちゃくちゃ恥ずかしいところを!

 のろけてるところなんて魔理沙にも見せたことなかったのに!

 「うぎぎ……しかもアンタが入ってくるのに気づかないとか、どれだけ考え込んでるのよ私は……」

 「いいじゃないですか、アリスちゃんのことを考えてたときの霊夢ちゃん、かわいかったですよ?」

 「かわいいとか! かわいいとか!」

 しかも霊夢「ちゃん」で呼び名確定。

 「もう、いっそ、殺して……」
 
 「南無三しちゃうの?」

 わたしゃ、神道よ……。

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 霊夢が撃沈される少し前のこと。

 「とっとと手紙渡して帰ろうっと……」

 「おや、博麗の巫女かい」

 「そういうあんたはあの時のネズミね」

 「まあ、間違ってはいないが……。 珍しいね、キミが命蓮寺に来るなんて」

 「紫に仕事押し付けられたのよ。 調度いいわ、これをアンタたちの頭に……」

 「こらー! どこ行ったの!?」

 「あ?」

 「おやおや、またか……」

 「あ、ぬえ! またいたずらして!」

 「いや、私はぬえじゃ……」

 「問答無用! 雲山、トランスフォーム!」

 「一輪!? 彼女は」

 「げんこつスマアアアアアアッシュ!」

-----------------------------------------------------------------------------------------------

 「つまり?」

 「ぬえちゃんが正体不明の種を霊夢ちゃんに植えつけていったみたいで……ごめんなさい」

 あの入道には私がぬえに見えていたわけね。

 「ちゃんと三人ともメッ(南無三)しておいたから、許してあげてね?」

 「どおりで頬に返り……ゲフンゲフン」

 「え?」

 「……なんでもないわ」

 お願いだからその顔で笑わないで欲しい。
 
 怖いから。

 「まあ、私も油断してたし……」

 というかここで許してあげないと一輪と雲山が不憫すぎるわ……。

 「ありがとう、霊夢ちゃん」

 子どもをあやすみたいに、優しく頭を撫でられる。

 霖之助さんとか、紫に同じことをやられると、ただムカつくだけなのに。

 不思議と、怒る気にはなれなかった。

 「怖いからかしら」

 「あら?」

 「なんでもない」

 「それで、霊夢ちゃんは私にご用事だったのかしら?」

 「……あ」

 すっかり忘れていたわ。

 少し、ぐしゃぐしゃになってしまった手紙を服から取り出す。

 「これ、地底から」

 そんなに心配そうな顔しないでも大丈夫よ。

 むしろいい知らせなんだし。

 白蓮を安心させるのに、少しだけ付け加えることにする。

 「あんたのところの三人の正式な封印解除通知よ」

 「!」

 素早く、だけれども丁寧に手紙を受け取って、開封して。

 そして文面に一通り目を通した白蓮は、嬉しそうにため息を一つ。

 最初は面倒くさかったけれど、こうして直接手渡してみてよかったかな。

 「よかったぁ……!」

 うん、よかったわね。

 でもね。

 「なんで抱きついてくるのよ……!」

 「よかった、よかったね……一輪、雲山、村紗……」

 「私は霊夢だって、ば……!」

 まだ正体不明の種がついてるのかしら。

 少し暑いけれど、でも不快ではないし、しばらくはこのままでもいいかしらね……。

 柔らかいものがムカつくけどね。 

 「落ち込むわー……」

-----------------------------------------------------------------------------------------------

 霊夢が複雑な気分でいる一方で、大図書館には、また妙な空気が鎮座していた。

 今日もまた本を拝借しようとやってきた魔理沙は、タイミングの悪さを呪った。

 おもに茶会に使用されるテーブルに座して、相変わらず医学関係の本を黙々と読み続けるアリス。

 今日、その正面に座っているのは魔理沙でも、パチュリーでもなかった。

 「……」

 寅丸星。

 なぜ、彼女がこの場所にいるのか。

 そして、なぜ近寄らないでオーラ全開のアリスのそばに座っているのか。

 本日も運悪く珍妙な状況に遭遇してしまった魔理沙にはわからないことだらけである。

 「……むきゅ、なんて言うと思ったかしら」

 やはり異常な状況に耐えきれなくなって、壊れ気味なパチュリー。

 「うむむむむむ、匂いますねえ」

 持ち前の好奇心で目を輝かせているのは小悪魔。

 どちらも、魔理沙の混乱を治めてくれそうにない。

 改めて、問題の二人を観察してみる。

 「……」

 アリスは、参考になりそうな資料があったのか、自前の羊皮紙に何かを書き込んでいる。

 「……なるほど、人形の耐久年数ですか」

 「せめてホムンクルスと言ってちょうだい」

 「それは失礼しました」

 アリスが、星を少しにらみつける。

 しかし身じろぎもしないのを見て、また目線を羊皮紙に落とした。

 「なにしにきたんだ、星のやつ……」

 ほとんど共通点もない一介の魔法使いと談笑しにきたわけではないだろう。

 「本当ですよねぇ。 あの人先ほどからああして、アリスさんにちょっかい出して、怒られたら謝るだけなんですよー」

 「まさか、ただからかいに来ただけでもないだろうしなぁ……」
 
 それから、少しの間観察を続けていると、とうとう人形遣いがしびれを切らした。
 
 「ねえあなた、さっきからなんなのよ一体」

 「とあるお方から頼まれまして、アリスさんとお話に来たんですよ」

 「お話? 私はあなたと話すことなんてないわ。 忙しいんだから放っておいてちょうだい」

 「忙しい? 人間を人形扱いすることにですか?」

 魔理沙には、空気が凍ったような気がした。

-----------------------------------------------------------------------------------------------

 白蓮の抱擁から解放された後、私は彼女の私室に通されていた。

 そこで私は、白蓮が魔法使いであることを改めて思い知らされた。

 「はあ、すごい量の本ね……」

 これ、全部香霖堂に売ったら私と魔理沙のツケ、帳消にできるかしら。

 「全て魔界の神綺、という方からいただいたものなんですよ」

 その名前には聞き覚えがあった。

 というか。

 「私、そいつと会ったことあるわ……」

 「あら、すごい偶然!」

 しかも倒したこともあるわ……。

 絶対に言えないけれども。

 「だから、アリスちゃんともお知り合いなのね」

 ああ、そういえば。

 「白蓮はアリスと会ったことがあるの?」

 「魔界にいる間だけ、ね。 こちら側にきてからは一度も」

 「へぇ……」

 人里で評判のおまんじゅうと一緒に出されたお茶をすすりながら、あの頃のアリスの顔を思い浮かべてみた。

 ……うん、かわいい。

 もちろん、今もだけれど。

 でも、そのアリスとは今はちょっとすれ違っていて、全然会えなくて。

 「あら、霊夢ちゃん?」

 「ん……」

 また思考の泥沼にはまりかけていたみたいだ。

 ふと、すぐ近くにある本が目に入った。

 アリスが持っている「ぐりもわーる」と似ている。
 
 ……似ているといえば。

 「?」

 目の前できょとんとしている白蓮が、本当に似ていたからなのか、わからないけれども。

 「あのね、一つ聞いてほしいんだけれども」

 気づけば、自分の口は勝手に悩みを話しはじめていた。

 幽々子の異変の時にアリスと再会したこと。

 それからしばらくして、恋人同士になったこと。

 アリスが変な研究をはじめたこと。
 
 他にも楽しかったことから悲しかったことまで、関係ないことまで言ってしまったけれども、白蓮は真剣に聞いてくれた。

 だんだんと、気が楽になっていくかと思っていたのに。

 逆に私の気持ちはどんどん沈んでいくばかりだった。

 「話してくれてありがとう、霊夢ちゃん」

 全部話し終えた後、白蓮が口に出したのは同情ではなく、感謝だった。

 そしてそれに驚く間もなく、私の体から、どんどん力が抜けていった。

 「あ、れ……?」
 
-----------------------------------------------------------------------------------------------
 
 星の真後ろにあった本棚が一つ両断された。

 木端となったそこから糸が這い出てくる。

 おそらくは魔法による代物だろう、殺傷力の増した糸を弾幕で弾きながら、星は少しばかり後悔していた。

 「……少々、怒らせすぎましたか」

 こちらの意図通りになったとはいえ、殺意を持たせてしまったのは誤算だった。

 上下から迫る人形たちを破損させない程度に加減して叩き落し、背後からのレーザーを紙一重で避ける。

 「わわっ!?」

 そこを騎乗槍のようなものを持った人形が掠めていった。

 まさに変幻自在の機動。

 回避行動に専念せざるを得なくなるために、自然と反撃は封じられてしまう。

 たった今殺す気であっただろう一撃を放った少女の姿は、舞い上がった塵や本、弾幕ですでに見えなくなっていた。

 (やはり寅丸さま、じゃなくて毘沙門天様のようには行きませんね)

 千年以上前の星が単純だったのか、おとなしかったのか。

 そんなことを悩みながらも、その目で糸の出所を探りつづける。

 弾幕が少しずつ薄れていき、少しだけ影が出現した。

 それを逃さなかった星のレーザーがアリスを捉えた、かのように見えた。

 小戦場に響き渡ったのは悲鳴ではなく、爆音だった。

 「……火薬入りの人形を中継ぎにしていたわけですか」

 魔力の伝達が途絶えたらしい人形が数体、床に落ちていった。

 そうしているうちに、完全に星の視界が開けた。

 「これは、また……見事な」

 まるで木の根のように張り巡らされた糸、糸、糸。

 それぞれの節目に設置された人形の玲瓏な瞳は、全て星を向いていた。

 一対多数の、人形法廷。

 その中心の開廷者と、被告人以外に生命は存在しなかった。

 否。

 地上の本の海が弾けた。

 「ぶはぁっ! 死ぬかと思った……」

 「小悪魔、後片付け、一日で終わるかしらね」

 「いやーははは……勘弁してください」

 外野三人の無事に安堵しつつ、再びアリスに目を向ける。

 聖が褒め称えていた、透き通るような瞳に、怒りは感じられない。

 人形のようだという評判の、所以か。

 「何か、言い残すことはある?」

 しかし、その声色に含まれていたのは明らかな怒気。

 「ここで死ぬ気はありませんが……そうですね、あなたが真に恐れていることを当ててあげましょう」

 人形たちが魔力の充填をはじめた。

 どうやら審議の間もなく、判決が下されるようだ。

 「あなたは博麗霊夢を失うのを恐れているわけではない」
 
 左手に持った宝塔に光が満ちていくのに、アリスは気づいていないようだった。

-----------------------------------------------------------------------------------------------
 
 「あ、れ……?」

 足がしびれたのか、とも思ったが、違うようだ。

 体の感覚がなくなっていく。

 座っていられなくなって、揺らいだ私を、白蓮が抱きとめた。

 「……ごめんなさいね」

 なにがどうなっているのか、さっぱりわからない。

 どうして、アンタが謝るの。

 ここ数日寝不足だったからかもしれないのに。

 「実行犯は私だから、紫さんをうらまないであげてね」

 なんで、ゆかりのなまえがでてくるの。

 「ねえ、霊夢ちゃん」

 「あに、よ」

 まだ、こえはでるみたい。

 「もしも、もしもだけどね。 アリスちゃんが霊夢ちゃんを本当に人形にしちゃうとしたら、イヤかし ら?」

 「……いや、じゃない」

 ありすと、いっしょにいられるならうれしい。

 でも。

 「そうよね、じゃあなんで喧嘩しちゃったのかな」

 「どうして、か、わたしも、わかんない……」

 わかんなくて、ずっとかんがえてて。

 「きっとね、それは霊夢ちゃんが怖かったから」

 にんぎょうに、なるのが?

 もう、こえもだすのもめんどくさくなってきた。

 「きっと人形になっちゃうこと自体は、こわくないのよね。 アリスちゃんを信じてるから」

 うん、とくびだけふる。

 「霊夢ちゃんは、自分を信じられないのよ、きっと」

 「なんで、そんなこといえるの」

 びゃくれんも、まほうつかいだから?

 「私も、人間だったから。 死を恐れて、千年以上生きて、とても不安だったことがあったの」
 
 「……どうして?」

 しなないのなら、なにもしんぱいないじゃない。

 ああ、なんかもうなにもかんがえられない。

 「本当に、私は聖白蓮なのか。 聖白蓮であって、私じゃないものになってしまったかもしれない」

 よく、わからない。

 「そんなことばっかり考えてたの。 死を防ぐために妖怪を救っていたのが、少しずつ変わりはじめただったかしら」

 「え、と?」

 「うんと、ね」

 なでられた。

 かみ、ぐしゃぐしゃになっちゃう。

 ねむ、たいな……。 

-----------------------------------------------------------------------------------------------
 
 「何を言ってるのかしら、あなた。 私は霊夢さえいれば……!」

 「アリスさんこそ何をおっしゃいますか。 博麗霊夢が怖いくせに」

 人形への魔力伝達が一瞬乱れた。

 「……!」

 「妖怪と人間の寿命の違いが怖い。 博麗霊夢が変わっていくのが怖い。 恐いものだらけですね、あなたは」

 「このっ!」

 赤い光が人形の手元に生まれていく。

 さながら、星空。

 それを恐れずに、寅柄の毘沙門天は言葉を紡いでいく。

 「冥界に行く彼女に忘れられるのが、輪廻していく彼女に置いていかれるのが怖いのでしょう」

 「やめてっ! それ以上言わないで!」

 「今の博麗霊夢が、ただただ惜しいあなたは、それを人形という器に留め置きたいだけだ!」

 「みんな、そいつを焼いて! 黙らせて!」

 アリスの指令に応じて、人形たちの光が放たれた。

 「人形遣いとしてのあなたを嫌われたくないのでしょう!
 ならばこれだけを心に留め置いて落ちろ!」

-----------------------------------------------------------------------------------------------
 
 「霊夢ちゃん、がんばってこれだけは覚えておいてね」

 うん。

 「あなたの心は、あなたのもの。 この先あなたが人形になっても、おばあちゃんになっても、アリスちゃんを好きなのはあなたの意思」

 うん。

 「だから……」




      *                *                *    







 「霊夢ちゃん、自分を信じて、ね」

 「アリス・マーガトロイド! せめて、想い人くらいのことくらい、信じなさい!」 








      *                *                *    

 「光符『正義の威光』!」

 星の叫びと同時に、宝塔の光が、爆発したように魔理沙には見えた。

 「アリス!? 星!?」

 「ねえ、小悪魔」

 「なんでしょうか、パチュリー様」

 「あの代理、本当に千年以上生きてるのかしらね」

 「さて、どうでしょう?」

 心配そうに魔理沙とは対照的にそっけないパチュリーと、苦笑する小悪魔。

 「若いって言うか、青いわね……ま、嫌いじゃないけれどね」

 面倒くさそうに、再び結界の準備をはじめたパチュリーが空を見上げれば、力を失った人形の雨が降り注いだ。

-----------------------------------------------------------------------------------------------

 空はすでに夕日で赤く染まっていた。

 白蓮は、アレからずっと霊夢を膝に載せていた。
 
 「はぁい、首尾はどうだったかしら?」

 目の前の空間が裂けて、紫が首を出した。

 「どうでしょう、霊夢ちゃんも限界だったみたいですし……。 自白剤と睡眠薬なんて、かわいそうなことしちゃいましたね」

 「永遠亭のものだから、危険性はないはずですわ。 それと、薬師は『少し素直になれて、眠気が増す薬』だとおっしゃっていましたわ」

 「だとしても、心の奥底を覗き見てしまいましたから」

 おそらく、霧雨魔理沙などの近しいものを除けば、白蓮は霊夢の一番深いところに触れた人物となってしまっただろう。

 「私や魔理沙では、いけなかったのよ。 生まれながらの妖怪でもなく、ただの人間ではなく」

 「元人間でなければ、ならない。 それが今回の取引のわけでしたものね」

 珍しく白蓮が表情を曇らせたのを見て、紫がため息をついた。

 「だから最初に申しあげたでしょう? あなたにはこういう役は向かないかもしれない、と」

 「いえ、これも私のケジメですから」

 白蓮が封印から解きはなれた後、最初に問題となったのが地底から抜け出した妖怪たちの処遇だった。

 わざわざ紫が地底の管理者たちを説得し、正式な封印解除とあいなったのには、タネがあった。

 「私と星ちゃん……寅丸様がそれぞれ霊夢ちゃんとアリスちゃんとお話しする代価、でしたものね。 今回の通知は」

 「まあ、そのようなことを取引がなくてもあなた方ならあの二人と接触することはわかりきったことでしたもの」

 知り合い同士が喧嘩しているのを見て、この善人が大人しくしていられるとは、誰も断言できないだろう。

 それならば、せめて目の届く範囲でやらせた方がいい、と賢者は言う。

 「まあ、正直なお方」

 紅魔館のある方向から、光の柱が天に伸びていった。

 「あちらも、決着かしらね」

 「はい、あれは宝塔の光……」

 「だったら、そろそろ私もお邪魔ですかしらね」

 紫が隙間を少し広げた。

 「そんな、お気になさらず」

 白蓮は、霊夢を抱き上げた。

 それを受け取りながら紫が冗談まじりに毒づいた。

 「いえいえ、落ち込んだ毘沙門天の代理の慰めなんて面倒ですもの」
 
 「まあ、本当に正直なお方」

 白蓮はくすくすと笑いながらも、否定はしなかった。

 きっと、星は自己嫌悪しながら帰ってくるのだろう。

 そして、ナズーリンとぬえは愚痴りながら、村紗と一輪たちは一生懸命にそれを慰めるのだろう。

 全て、隙間妖怪にはお見通しなのだ。

 「それでは、ごきげんよう」

 再び空間は正常に戻り、聖は一人になった。

 「さて、と!」

 しかし、彼女に寂しがっている時間などない。

 ああ見えて脆い星のために、ごちそうを作ってあげなければならない。

 大食乙女の多い命蓮寺の調理場は、今日も戦場となるのだ。

 自分を疑っている暇なんてないほど、今、聖白蓮の一日は充実している。

 「いざ、台所へ! 南無三!」

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 「終点、博麗神社、博麗神社~。 お忘れもののないようご注意くださ~い」

 命蓮寺発、紅魔館経由のスキマツアーは終了。

 たった二人の乗客は寝室に丁重に放り出された。

 「藍、らーん!」

 隙間をもう一つ開いて式を呼びつける。

 「なにか簡単な夜食でも二人分作っておいてー! なによ太るって……私の分じゃないわよー!」

 文句を言いながら、自らは二人分の布団の用意をはじめる。

 霊夢は、ぐっすりと、アリスはグッタリとしていた。

 「本当にもう……手間のかかる子たちねぇ」

 普段の胡散臭い笑みではなく、母の顔をしながら、きちんと布団をかける。

 「心配ばっかりさせて、ね。 娘の恋愛を見守る母親も楽じゃないわねぇ」

 それは紫だけではなく、当然白蓮も、他にも魔理沙やパチュリーまで。
 
 人妖共存の一つの形である彼女たちは、それだけ注目を集めている。

 「明日には、あなたたちの悩み事がなくなっていることを願います。 今は……」

 おやすみなさい。
 とりあえず、一区切り。

 どうも、リーオです。
 寿命ネタに関しては、すぐに答え出すようなものでもないですし、とりあえず霊夢とアリスの気持ちだけを前面に出してみました。
 二人の気持ちに共感できるかどうかは、人次第でしょうけども、やっぱり変わることと忘れることは怖 いですよね。

 では、長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。
 
 追記:誤字報告ありがとうございました。 修正しました。
    恥ずかしい……ort

 追記2:コメントありがとうございました。
     星が出たわけなんですが、本当は白蓮がアリスと対話する予定でした。
     ただ、霊夢の話し相手として白蓮がぴったりだったので、星が行ったわけです。
リーオ
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コメント



0.1510簡易評価
3.無評価名前が無い程度の能力削除
誤字報告>藍の名前が「蘭」になってます。
6.100名前が無い程度の能力削除
なるほど…
そういう理由で白蓮の起用ですか。
なんとなくまだ続きそうな気配ですね。
15.100奇声を発する程度の能力 in 携帯削除
>思わず奇声をあげてしまった
思わず反応してしまいましたw

二人には幸せになってほしいです!
24.100名前が無い程度の能力削除
この問題は深いからねー。
二人に幸せな結末が訪れることを祈ってます。
27.40名前が無い程度の能力削除
白蓮ならではの話は良かったのですが、星が青いというよりも厨すぎるのがちょっと。
挑発して、怒らせて、手を出させて、説教しながら殴りつける。
頑なな態度を崩すためのショック療法だとしても、それをして有効なのは家族や友人の立場にある者だけなので、星の立場でやっても拗れるだけでしょう。
場面として盛り上げたいがための戦闘だったのかも知れませんが、きっぱりと無意味です。
34.80名前が無い程度の能力削除
良かった!
白蓮と霊夢の会話が中でもとりわけ良かったです。