「本日は、魔理沙を講師にした勉強会っぽいお茶会に参加いただき……って、いくら何でもメンツ多すぎよ! こあ、部外者を一掃しなさい!」
「私だけではむりですよう~」
「まあまあ、落ち着けよパチュリー。実は私がみんなを招いたんだ。多い方がこの図書館も賑わうだろ?」
「でも、本来は貴方とアリスしか呼んでないのよ? それなのに、何でこんな、数える気にもならないほど来てるのよ。なにげに美鈴までいるし。ちょっとあなた、門番はどうしたのよ!」
「えへへ。実はですね、ここまで人数が多いと門よりもこっちを見張っていた方が良い、と咲夜さんの判断なんです」
「あらそう。じゃ、ついでに貴方がのんきにクッキー一皿分かじっていたことも後でメイド長に報告しておくわ」
「ええ? いいじゃないですか、これくらい」
「ご安心をパチュリー様。それは、既に閻魔帳に記載していますわ」
「わ! ビックリしたぜ。なんだ、咲夜か。時間を止めてまで私の背後に立つなよ。へ? ああ、すまない。角砂糖はもう一つ入れてくれないか。紅魔館の紅茶はちょっと濃いからな。で、アリスはミルクだけだっけ?」
「ええ」
「隣にいるフランは確か砂糖とミルクたっぷりだったよな。大丈夫か、こんなに大勢いる中で、いい子にしていられるか?」
「ん」
「ささ、妹様。こちらが妹様の御紅茶に御座います。ところで、そこの霊夢達は砂糖、いくついれる?」
「あのねえ咲夜。私は緑茶で、早苗はほうじ茶飲んでるのにそういう質問するわけ?」
「東南アジア等では、緑茶にも砂糖をいれるそうですわ」
「私も霊夢さんも両方日本人ですよ」
「ちょっとしたジョークですわ」
「あ、そうですか……」
「あのさ、ちょっといいか、そろそろ勉強会を始めたいんだが」
「ええ、どうぞ。私はここで黙ってお茶をすすってるから」
「私もここは初めてなので、霊夢さんに習って、同じく隅っこで座ってます」
「じゃあ、始めるぜ。今回のお題は『文章における会話文』だ」
「小説の、ってこと?」
「違うぜアリス。もっと広い意味で受け取ってもらうとありがたい。俗に言えばSSだ。もっと深く言えば、『プチに投稿して丸一日たったのにコメント一つしかない!』とか、『二千点を超えるのが難しい!』といった人々を主なターゲットにしている」
「何言ってるのか分からないわ。それに、私とアリスしか貴方の話聞いてないようだし」
「気にするなパチュリー。とにかく始めるぜ」
「まず、セリフの前に喋った人の名前を入れる、という表現方法がある」
アリス「つまり、こういうことね」
魔理沙「ああ。だが、こういう表現をすると、評価が低くなりがちなんだ」
アリス「どうして?」
「アリス。一般的にみて、こういうのは小説として見られる書き方とだいぶ違うよな?」
「ええ、そうね。外界で流行ってるらしい、携帯小説とかはよく知らないけど」
「前提として知っておきたいのは、名前を括弧書きの前に書く、というやり方は、小説のセリフの書き方と比べて書きやすいんだ。頭の中の発想をストレートに文章で表しやすいのさ」
「そうかもしれない。こあが私小説を書き始めた頃も、確かそういう表現方法だった気がする」
「うん。確かにそのやり方は物を書く事にたいして入門しやすい形式ではあるな。だが、それこそが弱点でもあるんだ」
「と、いうと?」
「アレは文章を初めて書くような人も書けるんだ。逆に言えば、そういう描き方をしてしまえば、小説形式の文章を読み慣れた読者とかには『こいつは物書き初心者だ。キャラの台詞の書き分けができないのか』といった感想を持たれてしまう危険があるのさ」
「でも、実際の所、初心者はどうすりゃいいのよ」
「じつはな、ちょっとした工夫で簡単にスキルアップできるのさ」
「例えば、口調だ。東方では私なんかは書き分けしやすい方だな。語尾に結構『だぜ』がつきやすいし、男口調が多い。だが、いくらなんでも『なんなのぜ』とか『ありえないのぜ』とかはちょっとどうかと思うけど」
「そこまでよ!」
「どうしたんだ、パチュリー?」
「いえ、何か急に言わなきゃいけないような気がして。何でもないわ、先を進めてちょうだい」
「あ、ああ。さらにこれは東方界隈限定だが、キャラごとに特徴的な口調や、原作や二次設定の台詞なんかを上手く取り込む手もある」
「私の孤独ネタとか?」
「それはあんまり関係ないかな。例えば、『あたい』と喋るキャラが同じ台詞中に『最強』と言う言葉を喋ったら、普通誰を思い浮かべる?」
「チルノね。小町やお燐ではないわ」
「そういうことだパチュリー。ほかにも色々あるが……ああイイ場面に出会えた。ほら、あの匿名少女達の会話に耳を澄ませてみろよ。誰が誰の発言をしてるか分かる筈だぜ」
「人に発言させりゃ、みんな気圧が低い気圧が低いって。私は雨女かっての。正直、かなり落ち込むよ」
「いいんじゃない、お姉ちゃん? 匿名の今こそ、愚痴とか毒舌くらい見逃してもらえるわよ、きっと。みんな、聞いて! ここで唐突に重大発表よ。実は、リリカはおっぱい星人なのよー!」
「いや、今の発言くらい誰か分かるから、姉さん」
「躁なのかー」
「はいはい、人のセリフ盗まない」
「わはー」
「それ実は本人のセリフじゃないのよね……って本人だ!」
「実は私、四十肩なのだー」
「うわあ、聞きたくないアイドルの裏側を聞いちゃった気分だよ……鬱だ」
「とまあ、こんな感じだ。名前を全く言ってないけど、だいたい誰か分かるだろ?」
「ちょっと待ってよ。あの少女が四十肩持ちとかオリジナル設定過ぎでしょ。病気持ちは私だけで十分よ」
「その言い方は危険よ、パチュリー……」
「確かにそうだが、ちょっとした二次、三次設定を気楽にできるのも東方SSの利点の一つだな。それに要点すら押さえていれば、口調すら大幅に変えても良いケースもあるぜ。ほら、あの連中のようにな」
「私ね、ああいう役割をもった存在なんやけど、実は花粉症なんや」
「かふんしょお?」
「ええとなあ。春になると、くしゃみしたり鼻水がでたりするんよ」
「それって風邪引くって事? すげえ、お前馬鹿じゃないんじゃん!」
「いや、風邪とはちゃうねん」
「いいなー。あたいは風邪引かないからいっつもみんなに馬鹿だって言われるのよ」
「ひとのはなしは、よお聞きんさい」
「ごめんね。チルノちゃんはああいう性格だから。でも、貴方が花粉症って、ものすごく辛くない?」
「そうやねー。役割上、春になると私は必ず外にでなあかんし。そうなると絶対に鼻とかぐしゅぐしゅになるやん? でもな、それ以上に、なんや『春が来たでー』ってことみんなに伝えるのが楽しくてしかたないんや」
「――とまあ、こんな感じだ」
「なるほど。でも、それだけじゃ不十分だわ。特徴のある口調とかも、やりすぎは興をそがれるだけよ……む、むきゅー」
「いや無理しなくていいから。だが、確かにパチュリーの言うことも一理ある。だが、今までの台詞では、誰がどの発言をしたか、あまり悩まずにここまでこれたはずだ。……多分」
「それはあなたが判断する事じゃないわね」
「まあな。まず、今までの会話の基本構造を示すとだ。私が喋り役でアリスとパチュリーが聞き役に回っているな。それでかなりのセリフが、その発言の主を特定できる」
「でも、今回のケースでは、私とアリスの発言の区別が付きにくいのではないかしら?」
「そうだな。基本的にはその前後で、適切な頻度で、地の文として『パチュリーは言った』とかを加えるといい。だけど全てのセリフにそういうのをつけるとうざいよな? そういうときは、その前後のセリフを工夫するんだ」
「と、いうと?」
「うんアリス。私がなにもフォローしないと、今の発言をしたのが誰か分からないよな。だが、私が『アリス』といったから、さっきのセリフについて、発言の主が容易に判明する、といった形さ」
「残念、さっきの発言は私でした!」
「おい小悪魔、お前は何も喋ってないだろ。っていうか、さっきから美鈴がなにか言いたそうにお前を見てるぞ」
「小悪魔さん、私たちと一緒に『おいろけたんていフランちゃんごっこ じんもんへん~許容もなく慈悲もなく~』をやりませんか? 私は死体役なんですけど、ちょうど犯人役があまってまして」
「いやですよう、おもいっきり私のリアル死亡フラグが立ってるじゃないですか!」
「さて、話を元に戻そう。会話文でよく見られる形式としては、括弧を重ねたりして、複数の人が話をしていることを表す方法がある」
「例えば、私とアリスが同じセリフを喋る様な場合の時ね」
「そう。つまりだな……お、いたいた。おーい、そこの緑茶しばいてる不人気姉妹」
「「不人気言うな!」」
「と、まあこんな風に言ったりだ、あとは「ちょっと、お姉ちゃんと私を変な二つ名で呼びつけておいて無視する気?」こういう風にセリフの割り込みを表現してする文があるな」
「滅多に見ない気もするけど」
「正直、今のような感じの形態、特に後者は、一般的な小説の文をを読み慣れた人の中には、嫌悪感を示す人もかなりいるだろうな」
「そうかも、正直、この形式に慣れていないと読みにくいでしょうね。アリス、貴方は?」
「ええ、私も思った。特に、文中にある『「』がずいぶん唐突に感じられたわ」
「だから、この辺は作家ごとに色々な工夫をしてると思うが――」
「あんた神様を舐めてんでしょ!」
「止めなさい穣子。神様がそんな、はしたない」
「――不人気言ったのは謝る。とまあ、こんな風にすると、文がスマートに見られる可能性が高い。だが、まあ、このほかにも色々方法があるはずだから、その辺は各自色々工夫してみてくれ」
「でも、魔理沙。あなたの言いぐさだと、SSとやらの文体は小説のそれよりも下だ、といってる風にも聞こえるわ」
「難しい所なんだよ、アリス。私は、文章に貴賎はないと信じたいけど、現実として、小説読みの中に、SSによく見られる文体を低級の物と見なす層が確かにいるんだ。逆はちょっと知らないけどね」
「それだけじゃないわ魔理沙、それにアリス。小説の文体ルールという物は、例えば日本では、平安時代の昔から、人々が営々と積み重ねてきた研鑽の歴史の上で成り立っているの。たくさんの人が試行錯誤を重ねて、その上で、今の文体のルールがあると言っても過言ではないわ。図書館の住人である私としては、物を書く人には、そういう点について敬意を払っていて欲しいという欲求があるわね」
「そうだな。それに文体のルールは決していまの物が無謬ではないし。今現在も、あまたの物書きが試行錯誤を重ねている最中なんだ。そういった文体は、思っているよりも変わる頻度が高いので注意が必要だな」
「そうね。例えば、セリフの最後には句点を入れない、というのが結構最近のトレンドだった気がするわ。私の蔵書の中にも、句点を入れてる小説と無いものが混在してるし」
「ああ、パチュリーが言ってるのはこういう文体形式のことね。」
「そうだな。だが、現状でも、文法的には括弧の直前では句点を付けるのが正しいとされているので、寺子屋や学校などの作文では、省略形の文法はいい顔をされないかもしれない。また、現時点では、外界の出版物は省略派が圧倒的だが、まだ句点を入れてる出版物もあるにはある。どちらが絶対的に正しい、とは未だはっきりと言えないのが現状のようだ」
「あ、そういえば」
「どうしたの、パチュリー?」
「たまに、紫に頼んで外界の非商業誌を持ってきてもらう事があるんだけど、そこで気になる書体を見かけたのよ」
「どんな?」
「台詞の中で、台本見たく設定とかを指定したり、文字で表情を表してたりするヤツね」
「今一言ってることが分からないけど」
「ひょっとして、パチュリー。お前が言いたいのは、あそこの命蓮寺の連中が喋ってるような感じか?」
「おや、ご主人の飲み物は般若湯なんですね。実は私とぬえもなんですよ。そうだ、唐突ですが、わたし一発芸やります! (裏声で)やあ、みんな。いいこにしてるかい?」
「それ以上は止めてください、夢の国からエージェントがきちゃう!」
「いいじゃん。星は堅いなあ。じゃあ、ナズに正体不明を貼り付けてみようか///」
「あなたたち、完全に酔っぱらっているじゃないですか!」
「そうそう、あんな感じだった」
「確かにああいった文体は、読者が文章に没頭している場合ならば、案外許容されうるだろう。でも、イマイチの気分で呼んでた場合、かなりの確率で興がそがれると思う」
「じゃあ、どうすれば?」
「基本は地の文でさりげなく説明するのが一番だ。でも、台詞文だけでの解決策も無いわけではないよ。あんなふうに」
「あああ、マイクテスマイクテス。うん、我ながらグッドな裏声だね……ハハッ、著作権はキチンと守ろうネ。僕とみんなとの大切なお約束だよ!」
「ぎゃー、私のナズが危険な姿に!」
「誰がナズとぬえにお酒飲ませたのよ。ムラサ、ひょっとしてあなた?」
「違うよ一輪。聖だよ……」
「その姐さんは?」
「ほら、そこで」
「あはははは、ナズちゃんもぬえちゃんもすごーい! おもしろーい!」
「姐さんも酔ってるのか……」
「後、ここは結構難しい話になるんだが、緊迫した場面などと、のんびりした場面などで、台詞の内容や長さを書き分けられると、その話の雰囲気がグッとわかり良くなる。とりあえず、あそこでお茶してる守矢の神を注目してみよう」
「いやー、紅魔館のお茶はうまいなー。あ、そこなメイドさんや。烏龍茶をもう一杯おくれ」
「おんやあ? 神奈子さんは、早苗の入れるお茶が不味いとおっしゃるのかえ? あ、私も紅茶ちょうだい。ぬるめでよろしく」
「いや、なんていうのかなー。早苗の入れてくれるお茶はさ、風呂上がりに沢庵しばきながら飲める気楽なお茶なんだよ。で、ここのは美味しいけどなんか格式張ってる」
「あー、それはわかる。このビスコッティとかいうお茶請け、ぱさぱさしててい正直あんまり美味しくないし。そういえば、話は全然変わるけど、早苗の次に風呂に入るのは、今日は私だかんね。忘れてないと思うけど、一応クギさしとく」
「そのことなんだが、譲ってくれないか? あ、烏龍茶ありがとう。なんだ、わざわざ温め直してくれたのか」
「いやだ、といったら? ちょっとメイドさん。ミルクたっぷりいれてね」
「分かるだろう……? アチッ! 舌やけどしちゃったよ……」
「早苗も大変ね……」
「今の内容、書面にして彼女に教えてやろうかしら。で、今の雑談にどんな意味が?」
「二人は最後に少し対立していたが、緊迫感はかけらもないだろう? 続けて、あそこの永遠亭の連中に注目」
「やめて師匠、姫様。そんなくだらないことで争わないで!」
「いいえうどんげ。こればかりは貴方の頼みも聞くわけにはいかないわ」
「もう一度言うわ永琳。貴方が今手にしているイナバのパンツをよこしなさい。これは最後の警告よ」
「いやだ、といったら?」
「分かるでしょう……?」
「いや、どちらの会話も緊迫感ないから」
「きついな、アリスは。でも、前者と違って、後者は今にも弾幕戦とかを始めそうな雰囲気だろ?」
「たしかに。比べて、守矢組はお茶飲んでるせいか、今すぐ闘いとかにはなりそうにないわね」
「まあ、そういうことだ。のんびりしたほのぼの日常やその場の雰囲気を表したいのなら、話の焦点を複数にしたり、長めのセリフを書く。やり過ぎると本題が見えなくなってしまうので注意が必要だけどね。シリアスな場面や緊迫感を出したいとき、または読者に流し読みされたくない重要なセリフなら、要点を絞った短めのセリフにするといいだろう」
「つまり今の魔理沙の発言は流し読みしてもかまわない、と」
「それは酷いぜパチュリー。あと、これは蛇足になるが、外界の『こんぴいた』とやらで文を書く場合は、漢字を多用しすぎる事があるから注意した方がいい。例えば、あそこの妖怪を見てくれ」
「フフフ。リグル、御機嫌よう」
「あ、幽香さん、今晩は。今日もお綺麗ですね。亜細亜的優しさあふれる優美な笑顔も素敵です! そうだ、お茶等如何ですか?」
「見え透いた御世辞は不要よ。じゃあ、貴方の持っている緑茶が飲みたいわ、頂戴」
「じゃあ私、メイドさんに頼んで来ますね――」
「勘違いしないで。私は、貴方が今持っているそのお茶を頂戴、と発言しているの」
「えっ?」
「何を吃驚しているの。貴方は、未だそのお茶には口を付けてないでしょう?」
「あの、そしたら私の飲む分が無くなるんですけど……」
「良いじゃない、その程度」
「とまあ、漢字を多用すると、独特の雰囲気ができてしまう。意図してやるのなら別だが、そうでないのならば、特に難しい漢字や、普段使わない様な漢字は避けた方がいいと、私は思う」
「難しい漢字の多用は、読者に、作者がちょっと背伸びしてる印象を感じてしまうしね」
「五月蠅いわね。私はこういう漢字も普段使うから大丈夫よ。四露死苦! どう、知的でしょ」
「いえパチュリー。どちらかというと思春期の男の子っぽい雰囲気だわ」
「うそ?」
「あと、文章では、たわいのないものや、要点をつかまない会話はほとんど無い。あの紫達をみてくれ」
「いい天気ね、藍」
「ええ、紫様。本当に良い天気で」
「けれど暇ね」
「はい。でもいいことじゃないですか」
「あら、お茶が無くなったわ」
「じゃ、僭越ながら私が補充させてもらいます」
「ところで、この椅子堅いわね」
「いつも紫様が座っていらっしゃるウチの座椅子は柔らかいですからね」
「あ。そういえば、橙には、ちゃんと夕飯食べさせた?」
「ええ、その点は大丈夫ですよ。自信を持って言えます。ていうか、あの子と私達で一緒に食べたじゃないですか」
「あいつら、あたかも自分の家にいるようにリラックスしてるわね。私の図書館を何だと思ってるのかしら?」
「現実にはこういった会話は腐るほどあるが、文章ではあまりないよな? ぶっちゃけ不必要なんだ、これら。雰囲気が無闇に間延びするし、儀礼的な表現はありすぎると読者をイライラさせるだけの結果となってしまう」
「八雲家のご飯と聞いて飛んできました!」
「幽々子じゃない! いつの間に?」
「じゃーん、藍しゃま、私も来ましたよ~」
「さあ、八雲家の晩ご飯を今すぐ出しなさい。でないと妖夢をけしかけるわよ!」
「闘いませんよ、私は! っていうか、ゆゆ様はどこから持ってきたんですか、その、両手のグーで握ってるファンシー柄のフォークとナイフは」
「藍、橙、出番よ、私を守るために闘いなさい……って、何してるの、あなたたちは?」
「藍しゃまの尻尾もふもふ~」
「橙の耳もふかふかー」
「ああ、私も尻尾にくるまれるか猫耳をふにふにしたい……!」
「アリス、よだれ、よだれ。まあ、こういった形で動きがあればそういう間延びを心配する必要もあまりなくなる、というわけだな」
「ハンカチありがとう魔理沙。あと、リズムやテンポに気を配るのも重要ね」
「そうだな。たまに、現実での会話をそのまま文に起こしてる物を見るけど、そういうのはあまりお勧めしない。会話文は、要点を絞って書くべきだと思うぜ。あとアリス。すまないがそれは洗濯してから返してくれ」
「ああ、ごめんなさい。でも、その辺はね。そういったほのぼの的な雰囲気を狙ってわざと書くという手法もあるから、一元的にそれが正しいと決めつけることはできないけれどね」
「最後に。外界には、書き方作法の『さいと』なるものがたくさんあるそうだが、内容がたくさんありすぎるよ、あれは。それに、そこに書かれている内容に律儀に全て従っていれば名文が生まれるという物でもないしね」
「まあね。一般的な文章の作法をいくつか破っていても、文章の評価が高い人もいるわけだし」
「ああ。詳細は自分で調べてもらう事として。欠点だって、自分なりに突き詰めていけば長所となりうるのさ。専業作家の中にだって、短所をたくさん持っていて、それでいて成功している人もいる。まあ、その辺に至るまでは、ひたすら修練あるのみ、なんだけどね」
「継続して書き続ける事が難しいのだけど、書くことを習慣づけてしまえば、まあちょっとは楽になるらしいわね。こあの受け売りだけど」
「文才のことを、才能か何かと勘違いしている人がいるようだけど、私は断固として違うといいたい。文才はレベルでなく経験値そのものなんだぜ。書く分量と、自己反省した回数次第でいくらでも上手くなるのさ」
「ところで」
「なんだ、パチュリー?」
「レミィの姿がどこにも見えないのだけれど、どこにいるか知らない?」
「さあ?」
「さくやー、パチェー。ここどこー? 誰もいないんですけどー。くらいよー。さびしいよー。うー!」
「私だけではむりですよう~」
「まあまあ、落ち着けよパチュリー。実は私がみんなを招いたんだ。多い方がこの図書館も賑わうだろ?」
「でも、本来は貴方とアリスしか呼んでないのよ? それなのに、何でこんな、数える気にもならないほど来てるのよ。なにげに美鈴までいるし。ちょっとあなた、門番はどうしたのよ!」
「えへへ。実はですね、ここまで人数が多いと門よりもこっちを見張っていた方が良い、と咲夜さんの判断なんです」
「あらそう。じゃ、ついでに貴方がのんきにクッキー一皿分かじっていたことも後でメイド長に報告しておくわ」
「ええ? いいじゃないですか、これくらい」
「ご安心をパチュリー様。それは、既に閻魔帳に記載していますわ」
「わ! ビックリしたぜ。なんだ、咲夜か。時間を止めてまで私の背後に立つなよ。へ? ああ、すまない。角砂糖はもう一つ入れてくれないか。紅魔館の紅茶はちょっと濃いからな。で、アリスはミルクだけだっけ?」
「ええ」
「隣にいるフランは確か砂糖とミルクたっぷりだったよな。大丈夫か、こんなに大勢いる中で、いい子にしていられるか?」
「ん」
「ささ、妹様。こちらが妹様の御紅茶に御座います。ところで、そこの霊夢達は砂糖、いくついれる?」
「あのねえ咲夜。私は緑茶で、早苗はほうじ茶飲んでるのにそういう質問するわけ?」
「東南アジア等では、緑茶にも砂糖をいれるそうですわ」
「私も霊夢さんも両方日本人ですよ」
「ちょっとしたジョークですわ」
「あ、そうですか……」
「あのさ、ちょっといいか、そろそろ勉強会を始めたいんだが」
「ええ、どうぞ。私はここで黙ってお茶をすすってるから」
「私もここは初めてなので、霊夢さんに習って、同じく隅っこで座ってます」
「じゃあ、始めるぜ。今回のお題は『文章における会話文』だ」
「小説の、ってこと?」
「違うぜアリス。もっと広い意味で受け取ってもらうとありがたい。俗に言えばSSだ。もっと深く言えば、『プチに投稿して丸一日たったのにコメント一つしかない!』とか、『二千点を超えるのが難しい!』といった人々を主なターゲットにしている」
「何言ってるのか分からないわ。それに、私とアリスしか貴方の話聞いてないようだし」
「気にするなパチュリー。とにかく始めるぜ」
「まず、セリフの前に喋った人の名前を入れる、という表現方法がある」
アリス「つまり、こういうことね」
魔理沙「ああ。だが、こういう表現をすると、評価が低くなりがちなんだ」
アリス「どうして?」
「アリス。一般的にみて、こういうのは小説として見られる書き方とだいぶ違うよな?」
「ええ、そうね。外界で流行ってるらしい、携帯小説とかはよく知らないけど」
「前提として知っておきたいのは、名前を括弧書きの前に書く、というやり方は、小説のセリフの書き方と比べて書きやすいんだ。頭の中の発想をストレートに文章で表しやすいのさ」
「そうかもしれない。こあが私小説を書き始めた頃も、確かそういう表現方法だった気がする」
「うん。確かにそのやり方は物を書く事にたいして入門しやすい形式ではあるな。だが、それこそが弱点でもあるんだ」
「と、いうと?」
「アレは文章を初めて書くような人も書けるんだ。逆に言えば、そういう描き方をしてしまえば、小説形式の文章を読み慣れた読者とかには『こいつは物書き初心者だ。キャラの台詞の書き分けができないのか』といった感想を持たれてしまう危険があるのさ」
「でも、実際の所、初心者はどうすりゃいいのよ」
「じつはな、ちょっとした工夫で簡単にスキルアップできるのさ」
「例えば、口調だ。東方では私なんかは書き分けしやすい方だな。語尾に結構『だぜ』がつきやすいし、男口調が多い。だが、いくらなんでも『なんなのぜ』とか『ありえないのぜ』とかはちょっとどうかと思うけど」
「そこまでよ!」
「どうしたんだ、パチュリー?」
「いえ、何か急に言わなきゃいけないような気がして。何でもないわ、先を進めてちょうだい」
「あ、ああ。さらにこれは東方界隈限定だが、キャラごとに特徴的な口調や、原作や二次設定の台詞なんかを上手く取り込む手もある」
「私の孤独ネタとか?」
「それはあんまり関係ないかな。例えば、『あたい』と喋るキャラが同じ台詞中に『最強』と言う言葉を喋ったら、普通誰を思い浮かべる?」
「チルノね。小町やお燐ではないわ」
「そういうことだパチュリー。ほかにも色々あるが……ああイイ場面に出会えた。ほら、あの匿名少女達の会話に耳を澄ませてみろよ。誰が誰の発言をしてるか分かる筈だぜ」
「人に発言させりゃ、みんな気圧が低い気圧が低いって。私は雨女かっての。正直、かなり落ち込むよ」
「いいんじゃない、お姉ちゃん? 匿名の今こそ、愚痴とか毒舌くらい見逃してもらえるわよ、きっと。みんな、聞いて! ここで唐突に重大発表よ。実は、リリカはおっぱい星人なのよー!」
「いや、今の発言くらい誰か分かるから、姉さん」
「躁なのかー」
「はいはい、人のセリフ盗まない」
「わはー」
「それ実は本人のセリフじゃないのよね……って本人だ!」
「実は私、四十肩なのだー」
「うわあ、聞きたくないアイドルの裏側を聞いちゃった気分だよ……鬱だ」
「とまあ、こんな感じだ。名前を全く言ってないけど、だいたい誰か分かるだろ?」
「ちょっと待ってよ。あの少女が四十肩持ちとかオリジナル設定過ぎでしょ。病気持ちは私だけで十分よ」
「その言い方は危険よ、パチュリー……」
「確かにそうだが、ちょっとした二次、三次設定を気楽にできるのも東方SSの利点の一つだな。それに要点すら押さえていれば、口調すら大幅に変えても良いケースもあるぜ。ほら、あの連中のようにな」
「私ね、ああいう役割をもった存在なんやけど、実は花粉症なんや」
「かふんしょお?」
「ええとなあ。春になると、くしゃみしたり鼻水がでたりするんよ」
「それって風邪引くって事? すげえ、お前馬鹿じゃないんじゃん!」
「いや、風邪とはちゃうねん」
「いいなー。あたいは風邪引かないからいっつもみんなに馬鹿だって言われるのよ」
「ひとのはなしは、よお聞きんさい」
「ごめんね。チルノちゃんはああいう性格だから。でも、貴方が花粉症って、ものすごく辛くない?」
「そうやねー。役割上、春になると私は必ず外にでなあかんし。そうなると絶対に鼻とかぐしゅぐしゅになるやん? でもな、それ以上に、なんや『春が来たでー』ってことみんなに伝えるのが楽しくてしかたないんや」
「――とまあ、こんな感じだ」
「なるほど。でも、それだけじゃ不十分だわ。特徴のある口調とかも、やりすぎは興をそがれるだけよ……む、むきゅー」
「いや無理しなくていいから。だが、確かにパチュリーの言うことも一理ある。だが、今までの台詞では、誰がどの発言をしたか、あまり悩まずにここまでこれたはずだ。……多分」
「それはあなたが判断する事じゃないわね」
「まあな。まず、今までの会話の基本構造を示すとだ。私が喋り役でアリスとパチュリーが聞き役に回っているな。それでかなりのセリフが、その発言の主を特定できる」
「でも、今回のケースでは、私とアリスの発言の区別が付きにくいのではないかしら?」
「そうだな。基本的にはその前後で、適切な頻度で、地の文として『パチュリーは言った』とかを加えるといい。だけど全てのセリフにそういうのをつけるとうざいよな? そういうときは、その前後のセリフを工夫するんだ」
「と、いうと?」
「うんアリス。私がなにもフォローしないと、今の発言をしたのが誰か分からないよな。だが、私が『アリス』といったから、さっきのセリフについて、発言の主が容易に判明する、といった形さ」
「残念、さっきの発言は私でした!」
「おい小悪魔、お前は何も喋ってないだろ。っていうか、さっきから美鈴がなにか言いたそうにお前を見てるぞ」
「小悪魔さん、私たちと一緒に『おいろけたんていフランちゃんごっこ じんもんへん~許容もなく慈悲もなく~』をやりませんか? 私は死体役なんですけど、ちょうど犯人役があまってまして」
「いやですよう、おもいっきり私のリアル死亡フラグが立ってるじゃないですか!」
「さて、話を元に戻そう。会話文でよく見られる形式としては、括弧を重ねたりして、複数の人が話をしていることを表す方法がある」
「例えば、私とアリスが同じセリフを喋る様な場合の時ね」
「そう。つまりだな……お、いたいた。おーい、そこの緑茶しばいてる不人気姉妹」
「「不人気言うな!」」
「と、まあこんな風に言ったりだ、あとは「ちょっと、お姉ちゃんと私を変な二つ名で呼びつけておいて無視する気?」こういう風にセリフの割り込みを表現してする文があるな」
「滅多に見ない気もするけど」
「正直、今のような感じの形態、特に後者は、一般的な小説の文をを読み慣れた人の中には、嫌悪感を示す人もかなりいるだろうな」
「そうかも、正直、この形式に慣れていないと読みにくいでしょうね。アリス、貴方は?」
「ええ、私も思った。特に、文中にある『「』がずいぶん唐突に感じられたわ」
「だから、この辺は作家ごとに色々な工夫をしてると思うが――」
「あんた神様を舐めてんでしょ!」
「止めなさい穣子。神様がそんな、はしたない」
「――不人気言ったのは謝る。とまあ、こんな風にすると、文がスマートに見られる可能性が高い。だが、まあ、このほかにも色々方法があるはずだから、その辺は各自色々工夫してみてくれ」
「でも、魔理沙。あなたの言いぐさだと、SSとやらの文体は小説のそれよりも下だ、といってる風にも聞こえるわ」
「難しい所なんだよ、アリス。私は、文章に貴賎はないと信じたいけど、現実として、小説読みの中に、SSによく見られる文体を低級の物と見なす層が確かにいるんだ。逆はちょっと知らないけどね」
「それだけじゃないわ魔理沙、それにアリス。小説の文体ルールという物は、例えば日本では、平安時代の昔から、人々が営々と積み重ねてきた研鑽の歴史の上で成り立っているの。たくさんの人が試行錯誤を重ねて、その上で、今の文体のルールがあると言っても過言ではないわ。図書館の住人である私としては、物を書く人には、そういう点について敬意を払っていて欲しいという欲求があるわね」
「そうだな。それに文体のルールは決していまの物が無謬ではないし。今現在も、あまたの物書きが試行錯誤を重ねている最中なんだ。そういった文体は、思っているよりも変わる頻度が高いので注意が必要だな」
「そうね。例えば、セリフの最後には句点を入れない、というのが結構最近のトレンドだった気がするわ。私の蔵書の中にも、句点を入れてる小説と無いものが混在してるし」
「ああ、パチュリーが言ってるのはこういう文体形式のことね。」
「そうだな。だが、現状でも、文法的には括弧の直前では句点を付けるのが正しいとされているので、寺子屋や学校などの作文では、省略形の文法はいい顔をされないかもしれない。また、現時点では、外界の出版物は省略派が圧倒的だが、まだ句点を入れてる出版物もあるにはある。どちらが絶対的に正しい、とは未だはっきりと言えないのが現状のようだ」
「あ、そういえば」
「どうしたの、パチュリー?」
「たまに、紫に頼んで外界の非商業誌を持ってきてもらう事があるんだけど、そこで気になる書体を見かけたのよ」
「どんな?」
「台詞の中で、台本見たく設定とかを指定したり、文字で表情を表してたりするヤツね」
「今一言ってることが分からないけど」
「ひょっとして、パチュリー。お前が言いたいのは、あそこの命蓮寺の連中が喋ってるような感じか?」
「おや、ご主人の飲み物は般若湯なんですね。実は私とぬえもなんですよ。そうだ、唐突ですが、わたし一発芸やります! (裏声で)やあ、みんな。いいこにしてるかい?」
「それ以上は止めてください、夢の国からエージェントがきちゃう!」
「いいじゃん。星は堅いなあ。じゃあ、ナズに正体不明を貼り付けてみようか///」
「あなたたち、完全に酔っぱらっているじゃないですか!」
「そうそう、あんな感じだった」
「確かにああいった文体は、読者が文章に没頭している場合ならば、案外許容されうるだろう。でも、イマイチの気分で呼んでた場合、かなりの確率で興がそがれると思う」
「じゃあ、どうすれば?」
「基本は地の文でさりげなく説明するのが一番だ。でも、台詞文だけでの解決策も無いわけではないよ。あんなふうに」
「あああ、マイクテスマイクテス。うん、我ながらグッドな裏声だね……ハハッ、著作権はキチンと守ろうネ。僕とみんなとの大切なお約束だよ!」
「ぎゃー、私のナズが危険な姿に!」
「誰がナズとぬえにお酒飲ませたのよ。ムラサ、ひょっとしてあなた?」
「違うよ一輪。聖だよ……」
「その姐さんは?」
「ほら、そこで」
「あはははは、ナズちゃんもぬえちゃんもすごーい! おもしろーい!」
「姐さんも酔ってるのか……」
「後、ここは結構難しい話になるんだが、緊迫した場面などと、のんびりした場面などで、台詞の内容や長さを書き分けられると、その話の雰囲気がグッとわかり良くなる。とりあえず、あそこでお茶してる守矢の神を注目してみよう」
「いやー、紅魔館のお茶はうまいなー。あ、そこなメイドさんや。烏龍茶をもう一杯おくれ」
「おんやあ? 神奈子さんは、早苗の入れるお茶が不味いとおっしゃるのかえ? あ、私も紅茶ちょうだい。ぬるめでよろしく」
「いや、なんていうのかなー。早苗の入れてくれるお茶はさ、風呂上がりに沢庵しばきながら飲める気楽なお茶なんだよ。で、ここのは美味しいけどなんか格式張ってる」
「あー、それはわかる。このビスコッティとかいうお茶請け、ぱさぱさしててい正直あんまり美味しくないし。そういえば、話は全然変わるけど、早苗の次に風呂に入るのは、今日は私だかんね。忘れてないと思うけど、一応クギさしとく」
「そのことなんだが、譲ってくれないか? あ、烏龍茶ありがとう。なんだ、わざわざ温め直してくれたのか」
「いやだ、といったら? ちょっとメイドさん。ミルクたっぷりいれてね」
「分かるだろう……? アチッ! 舌やけどしちゃったよ……」
「早苗も大変ね……」
「今の内容、書面にして彼女に教えてやろうかしら。で、今の雑談にどんな意味が?」
「二人は最後に少し対立していたが、緊迫感はかけらもないだろう? 続けて、あそこの永遠亭の連中に注目」
「やめて師匠、姫様。そんなくだらないことで争わないで!」
「いいえうどんげ。こればかりは貴方の頼みも聞くわけにはいかないわ」
「もう一度言うわ永琳。貴方が今手にしているイナバのパンツをよこしなさい。これは最後の警告よ」
「いやだ、といったら?」
「分かるでしょう……?」
「いや、どちらの会話も緊迫感ないから」
「きついな、アリスは。でも、前者と違って、後者は今にも弾幕戦とかを始めそうな雰囲気だろ?」
「たしかに。比べて、守矢組はお茶飲んでるせいか、今すぐ闘いとかにはなりそうにないわね」
「まあ、そういうことだ。のんびりしたほのぼの日常やその場の雰囲気を表したいのなら、話の焦点を複数にしたり、長めのセリフを書く。やり過ぎると本題が見えなくなってしまうので注意が必要だけどね。シリアスな場面や緊迫感を出したいとき、または読者に流し読みされたくない重要なセリフなら、要点を絞った短めのセリフにするといいだろう」
「つまり今の魔理沙の発言は流し読みしてもかまわない、と」
「それは酷いぜパチュリー。あと、これは蛇足になるが、外界の『こんぴいた』とやらで文を書く場合は、漢字を多用しすぎる事があるから注意した方がいい。例えば、あそこの妖怪を見てくれ」
「フフフ。リグル、御機嫌よう」
「あ、幽香さん、今晩は。今日もお綺麗ですね。亜細亜的優しさあふれる優美な笑顔も素敵です! そうだ、お茶等如何ですか?」
「見え透いた御世辞は不要よ。じゃあ、貴方の持っている緑茶が飲みたいわ、頂戴」
「じゃあ私、メイドさんに頼んで来ますね――」
「勘違いしないで。私は、貴方が今持っているそのお茶を頂戴、と発言しているの」
「えっ?」
「何を吃驚しているの。貴方は、未だそのお茶には口を付けてないでしょう?」
「あの、そしたら私の飲む分が無くなるんですけど……」
「良いじゃない、その程度」
「とまあ、漢字を多用すると、独特の雰囲気ができてしまう。意図してやるのなら別だが、そうでないのならば、特に難しい漢字や、普段使わない様な漢字は避けた方がいいと、私は思う」
「難しい漢字の多用は、読者に、作者がちょっと背伸びしてる印象を感じてしまうしね」
「五月蠅いわね。私はこういう漢字も普段使うから大丈夫よ。四露死苦! どう、知的でしょ」
「いえパチュリー。どちらかというと思春期の男の子っぽい雰囲気だわ」
「うそ?」
「あと、文章では、たわいのないものや、要点をつかまない会話はほとんど無い。あの紫達をみてくれ」
「いい天気ね、藍」
「ええ、紫様。本当に良い天気で」
「けれど暇ね」
「はい。でもいいことじゃないですか」
「あら、お茶が無くなったわ」
「じゃ、僭越ながら私が補充させてもらいます」
「ところで、この椅子堅いわね」
「いつも紫様が座っていらっしゃるウチの座椅子は柔らかいですからね」
「あ。そういえば、橙には、ちゃんと夕飯食べさせた?」
「ええ、その点は大丈夫ですよ。自信を持って言えます。ていうか、あの子と私達で一緒に食べたじゃないですか」
「あいつら、あたかも自分の家にいるようにリラックスしてるわね。私の図書館を何だと思ってるのかしら?」
「現実にはこういった会話は腐るほどあるが、文章ではあまりないよな? ぶっちゃけ不必要なんだ、これら。雰囲気が無闇に間延びするし、儀礼的な表現はありすぎると読者をイライラさせるだけの結果となってしまう」
「八雲家のご飯と聞いて飛んできました!」
「幽々子じゃない! いつの間に?」
「じゃーん、藍しゃま、私も来ましたよ~」
「さあ、八雲家の晩ご飯を今すぐ出しなさい。でないと妖夢をけしかけるわよ!」
「闘いませんよ、私は! っていうか、ゆゆ様はどこから持ってきたんですか、その、両手のグーで握ってるファンシー柄のフォークとナイフは」
「藍、橙、出番よ、私を守るために闘いなさい……って、何してるの、あなたたちは?」
「藍しゃまの尻尾もふもふ~」
「橙の耳もふかふかー」
「ああ、私も尻尾にくるまれるか猫耳をふにふにしたい……!」
「アリス、よだれ、よだれ。まあ、こういった形で動きがあればそういう間延びを心配する必要もあまりなくなる、というわけだな」
「ハンカチありがとう魔理沙。あと、リズムやテンポに気を配るのも重要ね」
「そうだな。たまに、現実での会話をそのまま文に起こしてる物を見るけど、そういうのはあまりお勧めしない。会話文は、要点を絞って書くべきだと思うぜ。あとアリス。すまないがそれは洗濯してから返してくれ」
「ああ、ごめんなさい。でも、その辺はね。そういったほのぼの的な雰囲気を狙ってわざと書くという手法もあるから、一元的にそれが正しいと決めつけることはできないけれどね」
「最後に。外界には、書き方作法の『さいと』なるものがたくさんあるそうだが、内容がたくさんありすぎるよ、あれは。それに、そこに書かれている内容に律儀に全て従っていれば名文が生まれるという物でもないしね」
「まあね。一般的な文章の作法をいくつか破っていても、文章の評価が高い人もいるわけだし」
「ああ。詳細は自分で調べてもらう事として。欠点だって、自分なりに突き詰めていけば長所となりうるのさ。専業作家の中にだって、短所をたくさん持っていて、それでいて成功している人もいる。まあ、その辺に至るまでは、ひたすら修練あるのみ、なんだけどね」
「継続して書き続ける事が難しいのだけど、書くことを習慣づけてしまえば、まあちょっとは楽になるらしいわね。こあの受け売りだけど」
「文才のことを、才能か何かと勘違いしている人がいるようだけど、私は断固として違うといいたい。文才はレベルでなく経験値そのものなんだぜ。書く分量と、自己反省した回数次第でいくらでも上手くなるのさ」
「ところで」
「なんだ、パチュリー?」
「レミィの姿がどこにも見えないのだけれど、どこにいるか知らない?」
「さあ?」
「さくやー、パチェー。ここどこー? 誰もいないんですけどー。くらいよー。さびしいよー。うー!」
何よりこの作品を見て、作者さんのペンネームが急に重みを増したような気がします。
私個人の経験としてはこれまでの読書の量も、物を書くにあたって非常に重要な要素だと思ってます。
まあしかし、精進あるのみだわ、ホント……
ただ、本作は内容が内容ですので、フリーレスにて失礼します。では。
東方SSとしても面白かった。
普段思いつくままに書いてる人は、このSSに出てきた工夫などを少し意識してみると、表現の幅が広まるかもしれない。
また、新しい表現方法にも触れていて良かった。
何が正しいだとか、正式な書き方だとかの議論は取り敢えずどうでもいい。
一般的な本はどんな書き方がされているのかや、それぞれの表現方法に対し読者はどう感じるのか。
こういった前提知識や冷静な視点は、それぞれが自分の書き方を考える上で貴重な判断材料になると思う。
上手い人は何を題材に書いても、それなりに人に読ませる作品が作れるんだよなあ
しかし本当に参考になりますねぇ。とても良いメタ話でした。こういう作品はやはりいくつか必要ですよね。
明確なルールや形式が設定されていないSS、そして創想話だからこそ、こういう先人の教えはとてもありがたいものです。
タメになるんだが・・・
どうしても誤字が気になる・・・
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