冬の朝、戸を叩く音がして起きた。
私は昨晩、満月であったため幻想郷の歴史の編集をしていたので夜が明けるまで起きており、寝たのは二時間くらいだろうか。
音で目を覚ました私は戸の向こうで待っている者に少し待つよう伝え、顔を洗い、髪を整え、いつもの服を着て出迎えた。
すると妹紅が立っており、焚き火をしようと言い、腕には乾いた太い木の枝がしっかりと抱きしめられていた。
夜、私は焚き火をする場所へ向かっている。
右手には大量のウィスキーとチーズが入っている袋がかかっている。
妹紅が焚き火をしようと言ったのはこれが初めてでない。
月に一度か二度、彼女は何の前触れもなく私を誘う。
私と妹紅は焚き火を挟むようにして座り、お互いの顔を見るわけではなく焚き火を眺める。
木が爆ぜるパチパチという音は心地よく、また落ち着かせてくれる作用もある。
その中、ちびちびと酒を飲み、つまみを口に運ぶ。
そのときの会話は弾むようなものではないが、どこかしっとりとしたものが重なる。
いつもの焚き火をする川辺に着くとすでに妹紅はいて、手元にはギターが置かれていた。
時々であるが妹紅はギターを鳴らし夜に歌うことがある。
ただどういうわけか妹紅の歌は全てが異国の言葉である。
どこでその曲を知ったのか見当がつかなかった。教えてもくれなかった。
もちろん私にも妹紅にも歌詞の意味が分からないが雰囲気で大抵は愉快な曲であることはお互いに分かった。
そして妹紅はいつも最後の一曲を決めており、その歌はいつも私を追い詰める。妹紅の中で“私が誰かになる”そんな気がしてしまう。不思議な一曲だ。
私が空いている左手を掲げ挨拶すると妹紅のやつは笑って返してくれ、あぐらをかいて座ると、妹紅が乾いた木に火をつけるのを待った。
アイツはいつもこの焚き火をするとき自らの能力で火はつけない、マッチをすりその小さな火からコトコトと大きくしていく。
そのときの妹紅の火に対する態度は大切な客をもてなす様に誠実で柔らかいものだ。
私は寒いので先に暖めさせてもらうためにウィスキーを口に含む。
土臭く、荒々しい香りが広がる。
この香りと裾が汚れたもんぺを履いている妹紅の姿を私の中で並べると余計に土臭く感じる。
悪くはない、むしろ好ましい。
妹紅が息を吐いた。
どうやら眺めているだけでいい所まで火が広がったのだろう。
目の前にはパチパチと音をたてながら揺らめく火があった。
私は妹紅に「お疲れ」と言いウィスキーを渡した。
妹紅はそれを受け取り「ありがとうな」とまた笑い口に含んだ。が顔をしかめた。
即座に「もっとまったりしたものはないの」と言ってきた。
お前の土臭さが良かったんだよとは言えず、代わりのものをさしだした。
だいぶ酔って来たようだ。意識が少しまどろむ。
こんなに酔うなんて自分らしくないなと思いつつ、視線を動かす。
焚き火は暗闇を照らし、パチパチという音を出して私を落ち着かせてくれる。
妹紅の方を窺う。まだ酔っていないようでギターを鳴らし、声には張りがあった。
「なぁ、妹紅よお前は孤独を感じることがあるか」
器用に動かしていた指を妹紅は止めた。
こちらを向いて「急にどうしたのよ」と言い、少し間を開けてから「そりゃあるわよ」と答えてくれた。
「私はな時々お前の夢を見るんだ」
「どんな夢なの」
「お前が孤独を捨ててしまう夢なんだ。お前は永い時に流されて生きて何もかもが曖昧になり、全てに興味を失せてしまうんだ。喜怒哀楽の全ての感情の起伏がなくなり壊れた肝臓みたいにお前の心は機能しなくなる。そして腑抜けたお前は世界に生かされるだけの存在になる。何もない野原の上でお前は自分の生きている世界ではないところを見ているのだ。それは私が今、生きている世界でもない。誰も住んでいない世界を見ているんだ」
私の言葉を聞いて妹紅はすぐに言葉を返してくれなかったが少し経って「それは怖いわね」とポツりと呟いた。
「なぁ、妹紅、そっちに行ってもいいか」
私たちは焚き火のとき一度も横に並んだことはなかった。
「別に構わないわよ」
私は妹紅の隣に座り、手を握り、寄り添い、目を閉じた。
「もう一度聞く、お前は孤独を感じてくれているか」
「あるわよ」
それを聞いた私は急に睡魔に襲われた。
そして妹紅はあの歌を口ずさんでいる“私が誰かになる歌”を
しかし、私はそのときその歌を受け入れた。
妹紅の中で私が誰かになってもかまわない。妹紅が孤独を感じるのであれば。
焚き火は相変わらずパチパチと音を鳴らし私を落ち着かせ意識を閉じさせた。
― ひとりぼっちのあいつ ―
いい雰囲気を味わうことが出きました。
ただ、欲を言えばもう少しお話にもう一膨らみがあれば尚深いSSに仕上がったかもしれません。
次作も期待してますね。
パチパチとしか音が聞こえてこないような、静かな雰囲気が素敵でした。
PS:ボーイスカウトに入っていた頃を思い出しましたw
少し物足りないような、でもかえってこの長さが正解のような。
きっとこの独特の雰囲気が心地よくて、もっと浸っていたかったんだなと思いました。
炎や熾の色を眺めているとほっとします。
2人の気持ちが分かります。
もうちょっと長ければ、もっと良かった。
またお願いします。