「水に流すものと言えばなんだと思う?」
「流し雛!」
「惜しい。答えは・・・・・・あんたよ♪」
がっしりと首元を掴まれていた少女は体育すわりのポーズで空中へとほおりだされた。
どっぽーーーんっ
きゃ~~た~す~け~て~~~!と水流でくるくる回りながら流されているのは、厄神である鍵山 雛。
実は彼女、泳ぐのが苦手らしい。所謂かなづちというやつである。
体にはドーナツ型の空気袋、通称「浮き輪」が巻かれているが、ものすごい濁流のためかほとんど厄、もとい役に立っていないようだ。
「ん~やっぱり雨の次の日の水流は早いわねー」
ぐんぐん下流へと流されていく雛を、博霊 霊夢は見えなくなるまで見送っていた。
<雛の神様トレーニング-1日目->
「げほっげほっ・・・・・・いきなり濁流激しい川に放り込むとか何を考えてるの!」
「最初に最悪な状態を知っておけば、湖の水なんて怖くないかなぁってね」
「最悪なのはあなたよ! それに私は泳げないだけで、水なんか……怖くないわ!」
「チラ見してから言っても、説得力ないわよ?」
ここは妖怪の山の中腹。先ほどいた場所よりも、ずいぶんと下流に位置する。
周りは青々とした樹木に囲まれているが、川幅が広いため樹木が太陽をさえぎることなく、眩しいくらいの光りが差しこんでいる。
雛は流しに流された結果、途中にあった大きな岩に必死にしがみ付いていた。
そこへ後から追いついた霊夢がずるずると岩の上へ引き上げたのだ。
生命の危機から脱した雛は、膝と両手を地につけハァハァと喘いでいる。
体から滴る水滴が、岩に染み込み黒い影を広げていた。
「迫り来る悪の手から助けてあげたんだから感謝しなさいよ?」
「あなたが犯人でしょう!?」
雛が顔を上げ睨みつけるが、霊夢はどこ吹く風。口笛なんか吹き出している。
~BGM「妖怪の山 ~ Mysterious Mountain」~
「典型的なごまかしに突っ込めばいいのか、こんな状況でも落ち着いてしまうくらい、無駄にうまい口笛に突っ込めばいいのか……」
「むしろ私が突っ込みたい。性的な意味で」
「一人でやってなさい。あぁもう厄いわぁ・・・・・・」
どうしてこんなことになったのかと、ため息をつく雛。
美人がため息を付く姿は官能的だったり、艶かしかったりするものだが、
生憎今の雛の姿はずぶ濡れ、紺のスクール水着(香林堂産)に髪の毛は水泳キャップの中、極め付けに浮き輪だ。
さらに、雛は身長140cmほどの小柄な少女である。水も滴るいい女という表現には残念ながらミスマッチだった。
「あんたが私に頼んだんでしょうが」
「まさか殺されかけるとは思わなかったのよ」
「私は忠告したじゃない・・・・・・油断すると死ぬって」
「聞いてない聞いてない!」
「そういえば思っただけで口に出さなかったんだわ。まぁ些細なことね」
「全然些細な事じゃないし、ちゃんと口に出してよ!!」
「口でだなんて……あんた意外と大胆なのね?」
「もうこの人やだぁぁぁぁ!!」
妖怪の山に神様の叫び声が響く。
その声を多くの天狗や河童などが耳にしたが、聞かなかったことにした。
触らぬ神に祟り無し。
そもそも何故、雛がこんな目にあっているのか。
ことの始まりはいつものように博霊神社から始まった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「まぁ回想入らないんだけどね」
「いやいや入れようよ!今の入れる所でしょう!?」
「豆知識~。閻魔が好きなのは、いれずに豆を……」
「もちろん『炒れずに豆をそのまま食べる』よね!? あと回想入れないと、読者は何があったのか分からないわ!?」
「めどい、めどいわ、めどいすと」
「ああもうこの腋巫女は!」
霊夢は耳の穴を弄りながら、雛の言葉をガン無視した。
なんだこの巫女反抗期かと、厄神様は半分諦めモードになっていた。
本当にどうしてこんなことになってしまったんだろう・・・・・・
全ては博霊神社……ではなく、雛の家から始まった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私は今困っていた。
具体的にはお腹がすいていた。
このお腹を満たして貰えるなら、なんでもやりそうなくらいに切羽詰っていた。
ぐ~
「はぁ・・・・・・」
之で本日256回目の腹の虫。
ため息は512回にも達してしまった。
私たち神の主食は信仰心である。
もちろん人間と同じように動植物を食べることもできる。
しかしそれだけではお腹は膨れないのだ。
信仰心。
それは私たち神が存在する為に必要なものである。
ここ幻想郷では信仰心が無いからといって、存在が消えてしまうことは無いが、
かわりにものすごくお腹がすいてしまう。
「がんばってるつもりなのだけど。厄集め」
私は厄神だ。人間から厄を吸い取ることを仕事としている。
その報酬は熱くて濃い信仰心、だったはずなんだが……どうやら最近私の存在に気付いていない人が多いみたいだった。
この前友人である河童のにとりに
「雛。最近影薄くなってない?」
と私の左70°ずれた方向を見て言われたくらいだ。
その後にとりに厄をおすそ分けしたら、川で溺れてたけど大丈夫だろう。だって河童だし。寿司だし。
「そうだ、気づかれないなら声をかけてから、厄吸い取ればいいんじゃないかしら」
あたいったら天才ね!という言葉をぎりぎりで飲み込み、善は急げとやって来ました人里へ。
お、ちょうどいい所に厄を溜め込んだ男がいるわ。
めがねかけて変な服着てるけど、ぱっとみ好青年ぽいから問題ないわよね。
後ろに担いでる大量のガラクタと頭に巻いてる鉢巻? みたいなのが気になるけれど・・・・・・
気にしたら負けかなと、さっそく声を掛けてみる。
「そこのお兄さん。溜まってるなら私が楽にしてあげるわよ?」
・・・・・・
「な、なんなの~~~!?」
私は今困っていた。
具体的には半裸の男に追いかけられていた。
さっき声をかけた男がいきなり目の色を変えて追いかけてきたのだ。
さっきから「待て~俺の嫁~」とか「雛たんハァハァ」とか言って走ってくる。
皮肉にもその男の信仰心のおかげで全力で逃げることができるのだが。
しかし男と女、青年と少女の違いのせいか、その距離は確実に縮まってきている。
このままでは、そそわ的にアウトな描写が描かれてしまう。
そう思った私はフェイントをかけようと、足をカカカカッと動かしたところで……
道端の石に躓いてしまった。
テレテテーン♪
『鍵山雛はどじっこ属性を手に入れた!』
激しく要らない!
どこからか聞こえてきた効果音と声に突っ込みを入れたかったが、今はそれどころではない。
突如、背中に強い衝撃が走る。私は男に馬乗りされたのだ。
必死に抵抗するも男はびくともしない。男の一部がびくびくとしていたが、どこがとか考えたくも無い。
本当にこの男は人間なの?私は間違えて妖怪に声をかけてしまったのか。
でも確かに人間の匂いが、ってきゃぁぁぁ首の匂い嗅がないで!
私は既に涙目になっていた。運命の女神よ。なんという仕打ちを・・・・・・
男が私の両腕を無理やり押さえ、足の付け根にスカートの上から膝が触れた瞬間、どこからか歌が流れてきた。
『 少女の頬を伝わる清らかな雫を~
「逃がさないよ、子猫ちゃん」 Cv:Jim○ng
「嫌ぁ・・・」 Cv:栗林み○み
「イヒ、イヒ、イッヒッヒッヒッヒ」
「嫌ぁ…来ないでよ!」
「私の渇きを潤してくれぇぇ」
汚らわしき舌先が掬いかけた刹那~ 』
「黒魔『イベントホライズン』!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」
突如男が吹き飛んだ。
土煙を立ち上がらせながら、100メートルほど顔面からスライディングをしていた。
もし生きていたら、のっぺらぼうとして生きるしかないくらいに、顔面はすりおろされてると思う。ざまぁ味噌カツ。
「大丈夫かい、君?」
「魔理沙?」
「雛!?・・・・・・奴が起き上がる前に逃げるぜ、雛!」
「え、ええ!」
私は普通の魔法使いである霧雨 魔理沙の箒の後ろに乗らせてもらった。
先ほどの歌はどうやら魔理沙の箒から流れてきたらしい。
今は歌の中でエレ○セウスとミ○シャとオリ○ンが必死になってイリオンから逃げていた。
「魔理沙ありがとう」
「気にしなくていいぜ。こーりんの暴走を止めるのも私の役目だからな」
「こーりん?」
「さっきの変態さ。本名は森近 霖之助。魔法の森の前に香林堂って店を開いてるんだ」
「だからこーりん。なるほどね」
「普段はただの変態なんだが、呪いのアイテムでも拾ったんだろう。あそこまでの大変態になるのは神綺に振られたとき以来か」
どっちにしても変態なんだ。きっと最大SAN値が0固定なんだろう。
とりあえず私はさきほどの出来事を記憶から抹消することにした。
幻想郷は今日も平和だった。まる。
「ところでこのまま霊夢んとこ行くけど、雛はどうする?」
「そうね。疲れたからお茶でも貰いに行こうかしら」
「出がらしだぜ?」
「私は薄味派なの」
「実は私もなんだぜ?」
二人はうふふと笑いあった。
その姿はまるで仲の良い姉妹のように。
でも私たちは本当の姉妹じゃないの。だから・・・・・物足りない。
もっと会いたい。もっと一緒にいたい。そう思うのはおかしいことなのかな。
でも私は臆病だから、想いを伝えられず、ずっとずっと胸に大事に秘め続けた。
貴女の小さな背中が、会う度に大きくなっていく。
そしていつの間にか私を守れるまでに逞しくなっていた。
嬉しい反面、少し寂しい。
だってもう、見上げなければ大好きな貴女の顔が見れないのだもの。
私の大好きな笑顔がどんどん離れていく。
私の想いに気付かないまま貴女はもっと成長するのよね。
そしていつか私以外の人と結婚して家庭を持って、そしていつかは・・・・・・
イヤだ。そんなの嫌!
私を置いていかないで魔理沙!
貴女を失うくらいなら貴女を殺して私も死nバシィィ!?
「乙女ティックバースト中申し訳ないが、到着したぜ」
※説明しよう!乙女ティックバースト。それは自分の中にもう一つの世界を作り出し、
そこに登場する人物を全て思い通りに動かすことができる能力なのだ。
つまり、どんな相手とでも恋愛関係になれるのである!
しかしこの能力は自分で意識して発動することは出来ないうえ、一度発動してしまうと外部からの干渉がないと、
現実世界に戻ることが困難であるというマイナス面も持っている。
そして何より問題なのが、調子が上がってくるとつい大声で口に出してしまうのだ。
説明終わり。
「痛ぃ~~~」
高度からの垂直落下によるお尻へのダメージは深刻だった。
私は四つんばいになり、突き出されたお尻からは煙が上がっている。
「さすが神様だ。なんともないぜ」
「痛いって言ってるでしょ!」
ラサ○長みたいに言った魔理沙は、悪い悪いと笑いながらお尻を撫でてくれる。
あっ・・・ヒリヒリするけどちょっと気持ちいいかも。
「何人の家の前で痴漢行為しちゃってるわけ?」
「霊夢もやるか? 餅みたいに柔らかいぜ」
「あら本当ね。これは久々のヒットだわ」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
私は先ほどまで、変態から逃げていたのではなかったのか。
逃げた先も変態の巣だったとか、今日は厄日なの?
「ところでこの尻神は此処で何をしているの?」
「厄! お尻じゃなくて厄神です!」
いつまでも揉まれていたら話が進まないと、とりあえず立ち上がる。
土ぼこりがいたる所に付いているが、とりあえず髪の毛を中心に、見えるところだけは払う。
「まぁカクカクシカジカ四角いMOVEでな、お茶を飲みに来たんだぜ」
「ナンパデートなら他所へいきなさい」
「そんなこと言うなよ。ほら、雛の尻を好きなだけ揉んでいいからさ?」
「なんで私!?」
「お茶菓子は湿った煎餅でいいわよね♪」
「や、お尻を鷲づかみにして引っ張らないで~~~~~」
・・・・・・・・・・・・・・・・で
「雛の膝枕は最高ね」
「遠まわしにふくよかと言われている気がするだけれど」
私は何故か霊夢に膝枕をしていた。
魔理沙は散々騒いで笑ってマスタースパークを撃った後、こてっと寝てしまった。
ここまで自己主張が激しいと少しうらやましいかもしれない。
「はい、これで耳掃除終りよ」
「ん、ありがと……もう少しこのままでもいいでしょ?」
「いい加減、足が痺れてきたのだけど……本当に少しだけよ」
「じゃぁその間、あんたの悩みを聞いてあげるわ」
少し驚いた。霊夢の勘の鋭さにも、自分が悩みを持っていたという事実を、忘れていたことを。
「私ってそんなに影薄いかしら」
「薄いわね」
「そんなはっきりと!?」
「というよりも、周りが濃すぎるのよ。つまり相対的に薄く思えるって感じじゃない?」
なるほど。私は薄いのではなく、埋もれていたということなのか。
それは、秋になったら焼き芋を配って歩く秋姉妹や、光学明細とやらで姿を隠すニトリと一緒に居たら目立たないわ。
「……」
「あんたが言いたいことは分かったわ。私が悪かったと思う。ごめん」
「謝られるとより辛いのだけれど……」
「そ、そういえば昨日の新聞に"これでだれでも人気者になれる!"って広告が載っていたような」
「それよ! もう私にはそれしかないわ!」
「すごく胡散臭かったけど……えぇっと、陰陽球ちょっと新聞取ってきて」
「にゃーん」
これでやっと私も信仰が増える。お腹がすいて眠れない夜ともこれでおさらばよ!
ついに私の時代が来る! 人気投票1位! 時代は厄い緑色に染まるのよ!
ありがとう霊夢。膝枕ならいつでもいつまでもしてあげるわ。
ところで袖から出てきたあの玉、今にゃーんって言わなかった?
「よいしょっと。あったあったこれね」
「内容は!?」
「んーっとね……」
--------------------------------------------------------------------
関係者各位
守矢神社 規格部
部長 東風谷 早苗
幻想郷トライアスロン大会について
拝啓、エアコンが無くて熱い夏、皆様どうお過ごしでしょうか?
今回、守矢神社の信仰増加計画の為、幻想郷トライアスロンを開催する
ことを決定しました(やったね神奈子ちゃん信仰が増えるよ!)
つきましては参加者を募集しております。ちなみに優勝者には素敵なプレ
ゼント(下記参照)もあるので、是非ご参加下さいませ。
------------------------ 記 -------------------------
開催日時:次のミスティアさんの排卵日(いつかは本人に聞いてね♪)
開催場所:紅魔館周辺
集合場所:博麗神社(別にいいですよね霊夢さん?)
競技内容:水泳
― 紅魔館前の湖10週
:飛行
― 紅魔館~博麗神社5往復
:マラソン
― 博麗神社に置いてある札に書いてあるものを持って
守矢神社まで走る(能力使用不可)
優勝商品:大人気の秘訣! 私の頭につけているケロちゃんヘアピン
(これさえあればみんな貴方にときめきメ○リアル4♪)
(だけど幼馴染には注意ですよ!)
以上
--------------------------------------------------------------------
「だそうよ。……なにこれ」
「あのヘアピンがあれば容姿値が255に……」
「雛、怖い。下向いて目血ばらせて薄ら笑いしないで」
「ところで霊夢。このトライアスロンって何?」
「競技内容って書いてあるじゃない。それをすればいいんじゃないの?」
「ふーん……体力が必要みたいね」
競技は全てかなりの体力を必要としていた。
飛行もふわふわ浮いている分には疲れないが、跳ばすとなると話しは別だ。
マラソンも、ここから妖怪の山までも結構距離があるうえに、さらに山を登らないといけない。
神社ができてから道が舗装されていなければ、マラソンがリアル登山となっていただろう。
「ところで雛、泳げるの?」
「……潜水なら得意よ」
「つまりカナヅチと」
これだから巫女の勘ってやつは!
私がこの数百年間隠してきたことを簡単にばらされてしまう。
厄いわ。うぅ……
「分かったわ。特訓しましょう」
「え?」
「乗りかかった船だもの。私があんたのトレーナーになってあげる」
霊夢の目がどことなく輝いて見えるのは私の気のせいだと思う。
だってあの目の輝きになにか危険な……そう、フラワーマスターの目に近いなにかを感じたからだ。
でも、優勝の為には……
「霊夢。お願いしてもいいかしら?」
「任せておいて。一週間で雛を調教じゃなかった、教育でもない。えーっと、そう! プロフェッショナルに仕上げて見せるわ!」
すっごく不安だけど、もうやるしかない。
もう空腹で眠れない夜なんて嫌だもの。
それに、私だって一度くらい人気上位に入ってみたい!!
「そうと決まれば私は準備をしてくるわ」
霊夢はいつの間にか立ち上がって、私の後ろに立っていた。
服の皺を伸ばしているのだろう。後ろでばさばさカチャカチャと音がなっている。
お札と針を用意しているように聞こえるけど、きっと気のせい。
「そうだ雛」
「何?」
「私は今のあんたでも十分魅力的だと思うわ」
「え?」
雛が振り向いたとき、霊夢はすでに零時間移動でどこかへテレポートしていた。
・・・・・・・・・・・・・・で
一週間後、私はスクール水着を着て首根っこを霊夢に掴まれていた。
水着には胸にでかでかと「6-1 ひな」と書いてあった。
わざわざ私専用に作ってくれたみたいだ。
6-1の意味は分からないけれど、霊夢からのプレゼントとして貰ったから素直に嬉しい。
それに、私の魅力を120%引き出すことが出来るらしい。
さっき可愛いって言いながら抱きついて来たから本当なのだろう。
でも首根っこを掴まれてるのは何故?
疑問に思いながらも、胴着(スク水)を着た瞬間から修行は始まっていると言われたら従うしかない。
そのまま妖怪の山の上を30分ほど飛んだだろうか。霊夢がゆっくりと高度を下げ、地面に降り立った。
そしてごうごう唸る川の前で、霊夢は私に質問をした。
「水に流すものと言えばなんだと思う?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふぁ~・・・・・・あ、説明終わった?」
「・・・もういい。私帰る」
雛がついに不貞腐れてしまった。
こっちは必死になっているのに霊夢は適当すぎる。と頬を膨らませて怒り心頭のご様子。
私なんて信仰心なくなって消えてもいいのよ。どうせ影薄いですよ、魅力値0ですよ。とぶつぶつ呟いている。
「今あんたに消えられたら私が困るのよ」
「もう霊夢さんの厄は吸ってあげません」
「そうじゃなくて、あんたが居なくなると寂しくなるじゃない」
「・・・・・・え?」
霊夢さんは時々こんなことをいう。私だけじゃなく、人間の魔法使いが研究でしばらくこれない時とか、
妖怪の賢者が冬眠する時にも言っていた。
私だけに向けられた言葉じゃない。そう分かっているのに。
なぜだろう。霊夢さんの顔を見ていたら胸が一杯になる。
霊夢さんのその一言が、どきどきと脈打つ私の心を掴み取る。
どうしよう、どうしよう。食べてしまいたいくらい愛しい。
あぁ・・・霊夢さん。あなたの厄はどんな味がするのかしら。
「抹茶よりも苦いわよ」
「っ! 又声に出してました?」
「えぇいつものように」
きゃーきゃーどうしましょう。
知らない間に愛の告白をしてしまったようです。
これはもう今日からどどどど同衾するしかないでsまそっぷ!
「短時間で乙女ティックバーストを2回も発動するんじゃないわよ」
「痛い痛い痛い!頭頂部に針が!血が!」
「まったく・・・・・・そろそろ立ちなさい。ほら、手貸してあげるから」
雛が霊夢の手を握り立ち上がる。立ち上がっても見上げ無ければ霊夢の顔が見えない。
二人の身長差がそのまま二人の距離を現しているようで、雛は胸にチクリと痛みを覚えた。
「ほら帰って着替えるわよ。このままじゃ風邪引いてしまうわ」
「えぇ、そうするわ・・・・・・て、あれ?」
「どうしたのよ」
「おかしいな。浮き輪がぬけないの」
良く見るとちょうど胸の上に当たる部分に浮き輪が巻かれている。
豊満な胸が浮き輪の下に入りこみ、つっかえているようだ。
「あんたそんなに大きかったっけ? 今どれくらいあるの?」
「ん~現在の厄度から考えると・・・・・・102cmくらいかしら?」
「ひゃ・・・!?でもさっきまでは76.3cmだったじゃない!?」
「なんでそこまで細かく知っているかは怖いから聞かないけど。私が厄を溜めるときくるくる回るでしょ?だから遠心力で厄が胸に集中して溜まってしまうの」
どうやらこの川は厄の溜まり場だったようで、そこを数Km流された結果、溜まりに溜まったらしい。
今は見下ろす形だから見えてはいないが、浮き輪を外すと否応にもその巨大さを認識せざるを得なくなるだろう。
「でもあんた、厄は自分の周りに集めてるだけじゃなかったっけ?」
「厄が回りにあったせいで私の姿が見えない、つまり影が薄いって言われると最近気が付いたの」
「そう・・・・・・なのかしら?」
「そうに違いないわ。それから厄を全部体内に集めて、私の存在をアッピルもといアピールすることにしたの」
霊夢の勘がその厄のせいで信仰心が無くなってるんじゃないかなぁと言っていたが、あえて口に出さなかった。
だって102cmよ?ヤヴァイ。ヤヴァすぎるわ。
90とかならまだ見たことはある。冥界の姫とか、竹林の医者とか、寺子屋の先生とか。
しかし100超えとか未知なる領域だわ。
――確かめたい。
ゾクリと暗い欲望が霊夢を襲う。
しかし自分の認識できるレベル以上のものを確認したとき、人間は自分の精神が保てるかどうかは正直かなり危い。
危いを「あぶい」と読むくらい危い。
ここは諦めてもう一度川にほおりこんで無かった事にするか。
幸い今日は満月だから、人里の守護者にでも歴史を食ってもらえる。
「う~~~~ぬ~け~な~い~~っ」
諦める?おまえは何を言ってるんだ。この身長140cm程度の少女がK(慧音)点超えているのだぞ?
幻想(OPPAI)を愛でる会副会長たる私が確認しないなどあってはならない事!
ほら見てみろ。力ずくで浮き輪を下げようとしてるからスクール水着が引っ張られてわずかに谷間が・・・・・・
「谷間(ジャスティス)!!」
おおお信仰心が鼻からっ!落ち着くのよ霊夢。出来る子でしょう?
あんたはあの慧音に陰陽玉を挟ませるという偉業を達成させるほどの実力を持っているのよ。
さぁ立ち上がりなさい。立って幻想を愛でる会の第三条を思い出すのよ。
『第三条:芸術は実際に触って確かめる事。』
そうか・・・・・・触感ならば視界による脳へのダイレクトアタックじゃなく、手というショックアブソーバーが働いてくれるわ!
ありがとう私!ありがとう幻想を愛でる会!
よし、さぁいざ行かんレジェンディアへ。
「かかか鍵山さん。すすすすこしだけ触ってみてもいいかしら??」
「なんでもいいから浮き輪外すの手伝って~」
なんでもいい?
いまこの子なんでもいいって言ったわよね?
なんでもいいってことは『なにをしてもいい』ってことよね。
ふ・・・ふふふ。許可を得たんだ。もう何も迷う必要はない。
アノ娘(の胸)は私のモノダ。
「私に任せなさい!霊符『夢想封印』!!」
「え、ちょっと、きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
霊夢の手から繰り出される、光り輝くお札が雛を包み込む。
之だけの高威力ならば浮き輪など木っ端微塵に違いない。
光が収まるまで数十秒。しかし霊夢にはそれが1時間にも2時間にも感じられた。
やがて紺色が薄っすらと見えてきた。残念ながらスクール水着は無傷のようだ。
さすが香林堂産。防御力255は伊達じゃない。
霊夢は光が収まるのを待ちきれず、勢い良く手を雛の方へと伸ばした。
全てはヒマラヤ山脈を手に入れるために!
そしてついに霊夢の手は、むんずと雛の胸を鷲づかみにした。
つるぺたーん
「・・・・・・あれ?」
『――霊符『夢想封印』
物理法則を無視した光の弾で、「有無を言わさずに封印」する。
「The Grimoire of Marisa」より抜粋』
「幻想が・・・一瞬で⑨になった・・・・・・」
「ガーン!! 適度に溜めてた厄までも封印された!?」
灰となった霊夢と頭を抱える雛。
二人はあまりのショックにただ呆然とするばかりだ。
しかし霊夢は気が付いた。此処はまだ山の中腹だと。
そして雛も気が付いた。此処はまだ地獄の真っ只中だと。
二人のタイムラグはわずか0.3秒。
しかし弾幕少女の世界では、一瞬でも行動が遅れたら即ピチュるのである。
つまり結果は・・・・・・
どっぽーーーんっ
きゃ~~た~す~け~て~~~!と叫ぶ暇も無く、水流でくるくる回りながら雛はどんどん流された。
浮き輪が無い為、体が沈ずむ。がんばって頭を水面から出すが又すぐ沈む。
霊夢が「あ、やば」と呟くが時既に遅し。「八百屋のタイムサービスが!」と叫ぶが時既に遅し。
ついには体力が切れ、頭を上げることが出来なくなり、
そして最後に天に向けて立てた親指も、
ゆっくりと水中へ吸い込まれて行った。
一日目終了。
がんばれ雛!まけるな雛!
トライアスロン当日まであと6日!
-----------------------------------------------
――一方その頃
「こーりん。その頭に巻いてるのはなんだ?」
「これかい?これは欲望倍加鉢巻だそうだ」
「なんだそれ」
「紫に渡された物なんだが・・・効果があるのかは眉唾ものだな」
「ふーん(効果抜群すぎるぜ。最悪な方にな)」
私がその鉢巻をどうするか考えているとき、突如目の前に亀裂が走った。
そしてその中からぬるりと、妖怪が一人姿を現した。
「こんにちわ霖之助さん」
「お、噂をすれば紫じゃないか」
「いらっしゃい。今日も仕入れ物の確認かい?」
八雲紫。妖怪の賢者と呼ばれるほど、知識と経験豊富な淑女である。
こーりんが外の世界の物を仕入れた時、危険が無いか毎回チェックしに来るらしい。
ちなみに最近ミニスカートで若さをアッピルしてると文々。新聞に書いてあった通り、
今日はミニのフラワースカートを穿いている。
「ええ、そんなところですわ。じゃぁ少しお邪魔しまおっとこんなところにバナナの皮が!そして豪快にすべってしまったぁ!しかもスカートがめくれて魅惑のデルタゾーンが丸見えですわ!」
・・・・・・なんだこいつ。
ついにボケたのか。そっとしておいてやるのが人間としての優しさだよな。人間でよかったぜ。
と私が考えているのも露知らず、紫はこーりんの目を真っ直ぐ見ている。
こーりんはというと、じっと魅惑のなにがしを凝視しつつ、声を口にした。
「紫、それ・・・あ、いや、大丈夫かい? 立てないなら手貸すよ」
「あ、ありがと」
「魔理沙、バナナの皮は滑りやすいから店内に捨てないでくれよ?」
「え? あ、あぁ・・・すまない。って私じゃないぜ」
「じゃぁだれが・・・・・・」
おっとこーりん、私を巻き込まないでくれ。私は傍観者になることを決めたんだ。うん決めた、たった今決めた。
たとえ今そこで扇子で床にスキマを空けて下準備をしている紫を見ても私は何も言わない。
所謂の活動写真館の観客ってやつだ。
ほら、敵が何かをしていても正義の味方に情報は伝えられないだろう?それと一緒だぜ。
「きゃ~~下からヤラしいスキマ風が!おぅモーレツ♪」
こーりんの目が又魅惑なにがしへと真っ直ぐ突き刺さる。
私は知っている。あの目は欲望じゃなく好奇心のそれだと。
そんなことも知らない妖怪の賢者様は「いやん、みちゃだめぇ(はーと)」とか言って両手を頬に当ててやがる。
はいはい可愛い可愛い。
お、こーりんが何かに気が付いたようだ。
「紫、ちゃんと穿いた方がいいぞ。妖怪とはいえこの季節は風邪を引いてしまう」
「な・・・・・・」
「な?」
「なんでよぉ~~~~~~~~はぅっネズミ捕りが足にっ!もうやだぁ~~~~!」
店の壁をぶちやぶって走り去っていく妖怪の賢者。
どうやら恋愛の経験はあまり無いらしい。後であっきゅんに教えてやろう。
「あれはなんだったんだろう?」
「こーりん。いい事教えてやる。あれは穿いてないんじゃなくて、前張りっていうんだ」
「なるほど。妖怪は歳を重ねると穴が無『そこまでよ!』と思ってたよ。ありがとう魔理沙」
「手にとってやったら喜んでたと思うぜ」
「前張りか・・・氷精や紅魔館の主とか似合いそうだ(キラン」
「キイチャイネェ」
今日も一部を除いて幻想郷は平和です。
「流し雛!」
「惜しい。答えは・・・・・・あんたよ♪」
がっしりと首元を掴まれていた少女は体育すわりのポーズで空中へとほおりだされた。
どっぽーーーんっ
きゃ~~た~す~け~て~~~!と水流でくるくる回りながら流されているのは、厄神である鍵山 雛。
実は彼女、泳ぐのが苦手らしい。所謂かなづちというやつである。
体にはドーナツ型の空気袋、通称「浮き輪」が巻かれているが、ものすごい濁流のためかほとんど厄、もとい役に立っていないようだ。
「ん~やっぱり雨の次の日の水流は早いわねー」
ぐんぐん下流へと流されていく雛を、博霊 霊夢は見えなくなるまで見送っていた。
<雛の神様トレーニング-1日目->
「げほっげほっ・・・・・・いきなり濁流激しい川に放り込むとか何を考えてるの!」
「最初に最悪な状態を知っておけば、湖の水なんて怖くないかなぁってね」
「最悪なのはあなたよ! それに私は泳げないだけで、水なんか……怖くないわ!」
「チラ見してから言っても、説得力ないわよ?」
ここは妖怪の山の中腹。先ほどいた場所よりも、ずいぶんと下流に位置する。
周りは青々とした樹木に囲まれているが、川幅が広いため樹木が太陽をさえぎることなく、眩しいくらいの光りが差しこんでいる。
雛は流しに流された結果、途中にあった大きな岩に必死にしがみ付いていた。
そこへ後から追いついた霊夢がずるずると岩の上へ引き上げたのだ。
生命の危機から脱した雛は、膝と両手を地につけハァハァと喘いでいる。
体から滴る水滴が、岩に染み込み黒い影を広げていた。
「迫り来る悪の手から助けてあげたんだから感謝しなさいよ?」
「あなたが犯人でしょう!?」
雛が顔を上げ睨みつけるが、霊夢はどこ吹く風。口笛なんか吹き出している。
~BGM「妖怪の山 ~ Mysterious Mountain」~
「典型的なごまかしに突っ込めばいいのか、こんな状況でも落ち着いてしまうくらい、無駄にうまい口笛に突っ込めばいいのか……」
「むしろ私が突っ込みたい。性的な意味で」
「一人でやってなさい。あぁもう厄いわぁ・・・・・・」
どうしてこんなことになったのかと、ため息をつく雛。
美人がため息を付く姿は官能的だったり、艶かしかったりするものだが、
生憎今の雛の姿はずぶ濡れ、紺のスクール水着(香林堂産)に髪の毛は水泳キャップの中、極め付けに浮き輪だ。
さらに、雛は身長140cmほどの小柄な少女である。水も滴るいい女という表現には残念ながらミスマッチだった。
「あんたが私に頼んだんでしょうが」
「まさか殺されかけるとは思わなかったのよ」
「私は忠告したじゃない・・・・・・油断すると死ぬって」
「聞いてない聞いてない!」
「そういえば思っただけで口に出さなかったんだわ。まぁ些細なことね」
「全然些細な事じゃないし、ちゃんと口に出してよ!!」
「口でだなんて……あんた意外と大胆なのね?」
「もうこの人やだぁぁぁぁ!!」
妖怪の山に神様の叫び声が響く。
その声を多くの天狗や河童などが耳にしたが、聞かなかったことにした。
触らぬ神に祟り無し。
そもそも何故、雛がこんな目にあっているのか。
ことの始まりはいつものように博霊神社から始まった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「まぁ回想入らないんだけどね」
「いやいや入れようよ!今の入れる所でしょう!?」
「豆知識~。閻魔が好きなのは、いれずに豆を……」
「もちろん『炒れずに豆をそのまま食べる』よね!? あと回想入れないと、読者は何があったのか分からないわ!?」
「めどい、めどいわ、めどいすと」
「ああもうこの腋巫女は!」
霊夢は耳の穴を弄りながら、雛の言葉をガン無視した。
なんだこの巫女反抗期かと、厄神様は半分諦めモードになっていた。
本当にどうしてこんなことになってしまったんだろう・・・・・・
全ては博霊神社……ではなく、雛の家から始まった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私は今困っていた。
具体的にはお腹がすいていた。
このお腹を満たして貰えるなら、なんでもやりそうなくらいに切羽詰っていた。
ぐ~
「はぁ・・・・・・」
之で本日256回目の腹の虫。
ため息は512回にも達してしまった。
私たち神の主食は信仰心である。
もちろん人間と同じように動植物を食べることもできる。
しかしそれだけではお腹は膨れないのだ。
信仰心。
それは私たち神が存在する為に必要なものである。
ここ幻想郷では信仰心が無いからといって、存在が消えてしまうことは無いが、
かわりにものすごくお腹がすいてしまう。
「がんばってるつもりなのだけど。厄集め」
私は厄神だ。人間から厄を吸い取ることを仕事としている。
その報酬は熱くて濃い信仰心、だったはずなんだが……どうやら最近私の存在に気付いていない人が多いみたいだった。
この前友人である河童のにとりに
「雛。最近影薄くなってない?」
と私の左70°ずれた方向を見て言われたくらいだ。
その後にとりに厄をおすそ分けしたら、川で溺れてたけど大丈夫だろう。だって河童だし。寿司だし。
「そうだ、気づかれないなら声をかけてから、厄吸い取ればいいんじゃないかしら」
あたいったら天才ね!という言葉をぎりぎりで飲み込み、善は急げとやって来ました人里へ。
お、ちょうどいい所に厄を溜め込んだ男がいるわ。
めがねかけて変な服着てるけど、ぱっとみ好青年ぽいから問題ないわよね。
後ろに担いでる大量のガラクタと頭に巻いてる鉢巻? みたいなのが気になるけれど・・・・・・
気にしたら負けかなと、さっそく声を掛けてみる。
「そこのお兄さん。溜まってるなら私が楽にしてあげるわよ?」
・・・・・・
「な、なんなの~~~!?」
私は今困っていた。
具体的には半裸の男に追いかけられていた。
さっき声をかけた男がいきなり目の色を変えて追いかけてきたのだ。
さっきから「待て~俺の嫁~」とか「雛たんハァハァ」とか言って走ってくる。
皮肉にもその男の信仰心のおかげで全力で逃げることができるのだが。
しかし男と女、青年と少女の違いのせいか、その距離は確実に縮まってきている。
このままでは、そそわ的にアウトな描写が描かれてしまう。
そう思った私はフェイントをかけようと、足をカカカカッと動かしたところで……
道端の石に躓いてしまった。
テレテテーン♪
『鍵山雛はどじっこ属性を手に入れた!』
激しく要らない!
どこからか聞こえてきた効果音と声に突っ込みを入れたかったが、今はそれどころではない。
突如、背中に強い衝撃が走る。私は男に馬乗りされたのだ。
必死に抵抗するも男はびくともしない。男の一部がびくびくとしていたが、どこがとか考えたくも無い。
本当にこの男は人間なの?私は間違えて妖怪に声をかけてしまったのか。
でも確かに人間の匂いが、ってきゃぁぁぁ首の匂い嗅がないで!
私は既に涙目になっていた。運命の女神よ。なんという仕打ちを・・・・・・
男が私の両腕を無理やり押さえ、足の付け根にスカートの上から膝が触れた瞬間、どこからか歌が流れてきた。
『 少女の頬を伝わる清らかな雫を~
「逃がさないよ、子猫ちゃん」 Cv:Jim○ng
「嫌ぁ・・・」 Cv:栗林み○み
「イヒ、イヒ、イッヒッヒッヒッヒ」
「嫌ぁ…来ないでよ!」
「私の渇きを潤してくれぇぇ」
汚らわしき舌先が掬いかけた刹那~ 』
「黒魔『イベントホライズン』!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」
突如男が吹き飛んだ。
土煙を立ち上がらせながら、100メートルほど顔面からスライディングをしていた。
もし生きていたら、のっぺらぼうとして生きるしかないくらいに、顔面はすりおろされてると思う。ざまぁ味噌カツ。
「大丈夫かい、君?」
「魔理沙?」
「雛!?・・・・・・奴が起き上がる前に逃げるぜ、雛!」
「え、ええ!」
私は普通の魔法使いである霧雨 魔理沙の箒の後ろに乗らせてもらった。
先ほどの歌はどうやら魔理沙の箒から流れてきたらしい。
今は歌の中でエレ○セウスとミ○シャとオリ○ンが必死になってイリオンから逃げていた。
「魔理沙ありがとう」
「気にしなくていいぜ。こーりんの暴走を止めるのも私の役目だからな」
「こーりん?」
「さっきの変態さ。本名は森近 霖之助。魔法の森の前に香林堂って店を開いてるんだ」
「だからこーりん。なるほどね」
「普段はただの変態なんだが、呪いのアイテムでも拾ったんだろう。あそこまでの大変態になるのは神綺に振られたとき以来か」
どっちにしても変態なんだ。きっと最大SAN値が0固定なんだろう。
とりあえず私はさきほどの出来事を記憶から抹消することにした。
幻想郷は今日も平和だった。まる。
「ところでこのまま霊夢んとこ行くけど、雛はどうする?」
「そうね。疲れたからお茶でも貰いに行こうかしら」
「出がらしだぜ?」
「私は薄味派なの」
「実は私もなんだぜ?」
二人はうふふと笑いあった。
その姿はまるで仲の良い姉妹のように。
でも私たちは本当の姉妹じゃないの。だから・・・・・物足りない。
もっと会いたい。もっと一緒にいたい。そう思うのはおかしいことなのかな。
でも私は臆病だから、想いを伝えられず、ずっとずっと胸に大事に秘め続けた。
貴女の小さな背中が、会う度に大きくなっていく。
そしていつの間にか私を守れるまでに逞しくなっていた。
嬉しい反面、少し寂しい。
だってもう、見上げなければ大好きな貴女の顔が見れないのだもの。
私の大好きな笑顔がどんどん離れていく。
私の想いに気付かないまま貴女はもっと成長するのよね。
そしていつか私以外の人と結婚して家庭を持って、そしていつかは・・・・・・
イヤだ。そんなの嫌!
私を置いていかないで魔理沙!
貴女を失うくらいなら貴女を殺して私も死nバシィィ!?
「乙女ティックバースト中申し訳ないが、到着したぜ」
※説明しよう!乙女ティックバースト。それは自分の中にもう一つの世界を作り出し、
そこに登場する人物を全て思い通りに動かすことができる能力なのだ。
つまり、どんな相手とでも恋愛関係になれるのである!
しかしこの能力は自分で意識して発動することは出来ないうえ、一度発動してしまうと外部からの干渉がないと、
現実世界に戻ることが困難であるというマイナス面も持っている。
そして何より問題なのが、調子が上がってくるとつい大声で口に出してしまうのだ。
説明終わり。
「痛ぃ~~~」
高度からの垂直落下によるお尻へのダメージは深刻だった。
私は四つんばいになり、突き出されたお尻からは煙が上がっている。
「さすが神様だ。なんともないぜ」
「痛いって言ってるでしょ!」
ラサ○長みたいに言った魔理沙は、悪い悪いと笑いながらお尻を撫でてくれる。
あっ・・・ヒリヒリするけどちょっと気持ちいいかも。
「何人の家の前で痴漢行為しちゃってるわけ?」
「霊夢もやるか? 餅みたいに柔らかいぜ」
「あら本当ね。これは久々のヒットだわ」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
私は先ほどまで、変態から逃げていたのではなかったのか。
逃げた先も変態の巣だったとか、今日は厄日なの?
「ところでこの尻神は此処で何をしているの?」
「厄! お尻じゃなくて厄神です!」
いつまでも揉まれていたら話が進まないと、とりあえず立ち上がる。
土ぼこりがいたる所に付いているが、とりあえず髪の毛を中心に、見えるところだけは払う。
「まぁカクカクシカジカ四角いMOVEでな、お茶を飲みに来たんだぜ」
「ナンパデートなら他所へいきなさい」
「そんなこと言うなよ。ほら、雛の尻を好きなだけ揉んでいいからさ?」
「なんで私!?」
「お茶菓子は湿った煎餅でいいわよね♪」
「や、お尻を鷲づかみにして引っ張らないで~~~~~」
・・・・・・・・・・・・・・・・で
「雛の膝枕は最高ね」
「遠まわしにふくよかと言われている気がするだけれど」
私は何故か霊夢に膝枕をしていた。
魔理沙は散々騒いで笑ってマスタースパークを撃った後、こてっと寝てしまった。
ここまで自己主張が激しいと少しうらやましいかもしれない。
「はい、これで耳掃除終りよ」
「ん、ありがと……もう少しこのままでもいいでしょ?」
「いい加減、足が痺れてきたのだけど……本当に少しだけよ」
「じゃぁその間、あんたの悩みを聞いてあげるわ」
少し驚いた。霊夢の勘の鋭さにも、自分が悩みを持っていたという事実を、忘れていたことを。
「私ってそんなに影薄いかしら」
「薄いわね」
「そんなはっきりと!?」
「というよりも、周りが濃すぎるのよ。つまり相対的に薄く思えるって感じじゃない?」
なるほど。私は薄いのではなく、埋もれていたということなのか。
それは、秋になったら焼き芋を配って歩く秋姉妹や、光学明細とやらで姿を隠すニトリと一緒に居たら目立たないわ。
「……」
「あんたが言いたいことは分かったわ。私が悪かったと思う。ごめん」
「謝られるとより辛いのだけれど……」
「そ、そういえば昨日の新聞に"これでだれでも人気者になれる!"って広告が載っていたような」
「それよ! もう私にはそれしかないわ!」
「すごく胡散臭かったけど……えぇっと、陰陽球ちょっと新聞取ってきて」
「にゃーん」
これでやっと私も信仰が増える。お腹がすいて眠れない夜ともこれでおさらばよ!
ついに私の時代が来る! 人気投票1位! 時代は厄い緑色に染まるのよ!
ありがとう霊夢。膝枕ならいつでもいつまでもしてあげるわ。
ところで袖から出てきたあの玉、今にゃーんって言わなかった?
「よいしょっと。あったあったこれね」
「内容は!?」
「んーっとね……」
--------------------------------------------------------------------
関係者各位
守矢神社 規格部
部長 東風谷 早苗
幻想郷トライアスロン大会について
拝啓、エアコンが無くて熱い夏、皆様どうお過ごしでしょうか?
今回、守矢神社の信仰増加計画の為、幻想郷トライアスロンを開催する
ことを決定しました(やったね神奈子ちゃん信仰が増えるよ!)
つきましては参加者を募集しております。ちなみに優勝者には素敵なプレ
ゼント(下記参照)もあるので、是非ご参加下さいませ。
------------------------ 記 -------------------------
開催日時:次のミスティアさんの排卵日(いつかは本人に聞いてね♪)
開催場所:紅魔館周辺
集合場所:博麗神社(別にいいですよね霊夢さん?)
競技内容:水泳
― 紅魔館前の湖10週
:飛行
― 紅魔館~博麗神社5往復
:マラソン
― 博麗神社に置いてある札に書いてあるものを持って
守矢神社まで走る(能力使用不可)
優勝商品:大人気の秘訣! 私の頭につけているケロちゃんヘアピン
(これさえあればみんな貴方にときめきメ○リアル4♪)
(だけど幼馴染には注意ですよ!)
以上
--------------------------------------------------------------------
「だそうよ。……なにこれ」
「あのヘアピンがあれば容姿値が255に……」
「雛、怖い。下向いて目血ばらせて薄ら笑いしないで」
「ところで霊夢。このトライアスロンって何?」
「競技内容って書いてあるじゃない。それをすればいいんじゃないの?」
「ふーん……体力が必要みたいね」
競技は全てかなりの体力を必要としていた。
飛行もふわふわ浮いている分には疲れないが、跳ばすとなると話しは別だ。
マラソンも、ここから妖怪の山までも結構距離があるうえに、さらに山を登らないといけない。
神社ができてから道が舗装されていなければ、マラソンがリアル登山となっていただろう。
「ところで雛、泳げるの?」
「……潜水なら得意よ」
「つまりカナヅチと」
これだから巫女の勘ってやつは!
私がこの数百年間隠してきたことを簡単にばらされてしまう。
厄いわ。うぅ……
「分かったわ。特訓しましょう」
「え?」
「乗りかかった船だもの。私があんたのトレーナーになってあげる」
霊夢の目がどことなく輝いて見えるのは私の気のせいだと思う。
だってあの目の輝きになにか危険な……そう、フラワーマスターの目に近いなにかを感じたからだ。
でも、優勝の為には……
「霊夢。お願いしてもいいかしら?」
「任せておいて。一週間で雛を調教じゃなかった、教育でもない。えーっと、そう! プロフェッショナルに仕上げて見せるわ!」
すっごく不安だけど、もうやるしかない。
もう空腹で眠れない夜なんて嫌だもの。
それに、私だって一度くらい人気上位に入ってみたい!!
「そうと決まれば私は準備をしてくるわ」
霊夢はいつの間にか立ち上がって、私の後ろに立っていた。
服の皺を伸ばしているのだろう。後ろでばさばさカチャカチャと音がなっている。
お札と針を用意しているように聞こえるけど、きっと気のせい。
「そうだ雛」
「何?」
「私は今のあんたでも十分魅力的だと思うわ」
「え?」
雛が振り向いたとき、霊夢はすでに零時間移動でどこかへテレポートしていた。
・・・・・・・・・・・・・・で
一週間後、私はスクール水着を着て首根っこを霊夢に掴まれていた。
水着には胸にでかでかと「6-1 ひな」と書いてあった。
わざわざ私専用に作ってくれたみたいだ。
6-1の意味は分からないけれど、霊夢からのプレゼントとして貰ったから素直に嬉しい。
それに、私の魅力を120%引き出すことが出来るらしい。
さっき可愛いって言いながら抱きついて来たから本当なのだろう。
でも首根っこを掴まれてるのは何故?
疑問に思いながらも、胴着(スク水)を着た瞬間から修行は始まっていると言われたら従うしかない。
そのまま妖怪の山の上を30分ほど飛んだだろうか。霊夢がゆっくりと高度を下げ、地面に降り立った。
そしてごうごう唸る川の前で、霊夢は私に質問をした。
「水に流すものと言えばなんだと思う?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふぁ~・・・・・・あ、説明終わった?」
「・・・もういい。私帰る」
雛がついに不貞腐れてしまった。
こっちは必死になっているのに霊夢は適当すぎる。と頬を膨らませて怒り心頭のご様子。
私なんて信仰心なくなって消えてもいいのよ。どうせ影薄いですよ、魅力値0ですよ。とぶつぶつ呟いている。
「今あんたに消えられたら私が困るのよ」
「もう霊夢さんの厄は吸ってあげません」
「そうじゃなくて、あんたが居なくなると寂しくなるじゃない」
「・・・・・・え?」
霊夢さんは時々こんなことをいう。私だけじゃなく、人間の魔法使いが研究でしばらくこれない時とか、
妖怪の賢者が冬眠する時にも言っていた。
私だけに向けられた言葉じゃない。そう分かっているのに。
なぜだろう。霊夢さんの顔を見ていたら胸が一杯になる。
霊夢さんのその一言が、どきどきと脈打つ私の心を掴み取る。
どうしよう、どうしよう。食べてしまいたいくらい愛しい。
あぁ・・・霊夢さん。あなたの厄はどんな味がするのかしら。
「抹茶よりも苦いわよ」
「っ! 又声に出してました?」
「えぇいつものように」
きゃーきゃーどうしましょう。
知らない間に愛の告白をしてしまったようです。
これはもう今日からどどどど同衾するしかないでsまそっぷ!
「短時間で乙女ティックバーストを2回も発動するんじゃないわよ」
「痛い痛い痛い!頭頂部に針が!血が!」
「まったく・・・・・・そろそろ立ちなさい。ほら、手貸してあげるから」
雛が霊夢の手を握り立ち上がる。立ち上がっても見上げ無ければ霊夢の顔が見えない。
二人の身長差がそのまま二人の距離を現しているようで、雛は胸にチクリと痛みを覚えた。
「ほら帰って着替えるわよ。このままじゃ風邪引いてしまうわ」
「えぇ、そうするわ・・・・・・て、あれ?」
「どうしたのよ」
「おかしいな。浮き輪がぬけないの」
良く見るとちょうど胸の上に当たる部分に浮き輪が巻かれている。
豊満な胸が浮き輪の下に入りこみ、つっかえているようだ。
「あんたそんなに大きかったっけ? 今どれくらいあるの?」
「ん~現在の厄度から考えると・・・・・・102cmくらいかしら?」
「ひゃ・・・!?でもさっきまでは76.3cmだったじゃない!?」
「なんでそこまで細かく知っているかは怖いから聞かないけど。私が厄を溜めるときくるくる回るでしょ?だから遠心力で厄が胸に集中して溜まってしまうの」
どうやらこの川は厄の溜まり場だったようで、そこを数Km流された結果、溜まりに溜まったらしい。
今は見下ろす形だから見えてはいないが、浮き輪を外すと否応にもその巨大さを認識せざるを得なくなるだろう。
「でもあんた、厄は自分の周りに集めてるだけじゃなかったっけ?」
「厄が回りにあったせいで私の姿が見えない、つまり影が薄いって言われると最近気が付いたの」
「そう・・・・・・なのかしら?」
「そうに違いないわ。それから厄を全部体内に集めて、私の存在をアッピルもといアピールすることにしたの」
霊夢の勘がその厄のせいで信仰心が無くなってるんじゃないかなぁと言っていたが、あえて口に出さなかった。
だって102cmよ?ヤヴァイ。ヤヴァすぎるわ。
90とかならまだ見たことはある。冥界の姫とか、竹林の医者とか、寺子屋の先生とか。
しかし100超えとか未知なる領域だわ。
――確かめたい。
ゾクリと暗い欲望が霊夢を襲う。
しかし自分の認識できるレベル以上のものを確認したとき、人間は自分の精神が保てるかどうかは正直かなり危い。
危いを「あぶい」と読むくらい危い。
ここは諦めてもう一度川にほおりこんで無かった事にするか。
幸い今日は満月だから、人里の守護者にでも歴史を食ってもらえる。
「う~~~~ぬ~け~な~い~~っ」
諦める?おまえは何を言ってるんだ。この身長140cm程度の少女がK(慧音)点超えているのだぞ?
幻想(OPPAI)を愛でる会副会長たる私が確認しないなどあってはならない事!
ほら見てみろ。力ずくで浮き輪を下げようとしてるからスクール水着が引っ張られてわずかに谷間が・・・・・・
「谷間(ジャスティス)!!」
おおお信仰心が鼻からっ!落ち着くのよ霊夢。出来る子でしょう?
あんたはあの慧音に陰陽玉を挟ませるという偉業を達成させるほどの実力を持っているのよ。
さぁ立ち上がりなさい。立って幻想を愛でる会の第三条を思い出すのよ。
『第三条:芸術は実際に触って確かめる事。』
そうか・・・・・・触感ならば視界による脳へのダイレクトアタックじゃなく、手というショックアブソーバーが働いてくれるわ!
ありがとう私!ありがとう幻想を愛でる会!
よし、さぁいざ行かんレジェンディアへ。
「かかか鍵山さん。すすすすこしだけ触ってみてもいいかしら??」
「なんでもいいから浮き輪外すの手伝って~」
なんでもいい?
いまこの子なんでもいいって言ったわよね?
なんでもいいってことは『なにをしてもいい』ってことよね。
ふ・・・ふふふ。許可を得たんだ。もう何も迷う必要はない。
アノ娘(の胸)は私のモノダ。
「私に任せなさい!霊符『夢想封印』!!」
「え、ちょっと、きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
霊夢の手から繰り出される、光り輝くお札が雛を包み込む。
之だけの高威力ならば浮き輪など木っ端微塵に違いない。
光が収まるまで数十秒。しかし霊夢にはそれが1時間にも2時間にも感じられた。
やがて紺色が薄っすらと見えてきた。残念ながらスクール水着は無傷のようだ。
さすが香林堂産。防御力255は伊達じゃない。
霊夢は光が収まるのを待ちきれず、勢い良く手を雛の方へと伸ばした。
全てはヒマラヤ山脈を手に入れるために!
そしてついに霊夢の手は、むんずと雛の胸を鷲づかみにした。
つるぺたーん
「・・・・・・あれ?」
『――霊符『夢想封印』
物理法則を無視した光の弾で、「有無を言わさずに封印」する。
「The Grimoire of Marisa」より抜粋』
「幻想が・・・一瞬で⑨になった・・・・・・」
「ガーン!! 適度に溜めてた厄までも封印された!?」
灰となった霊夢と頭を抱える雛。
二人はあまりのショックにただ呆然とするばかりだ。
しかし霊夢は気が付いた。此処はまだ山の中腹だと。
そして雛も気が付いた。此処はまだ地獄の真っ只中だと。
二人のタイムラグはわずか0.3秒。
しかし弾幕少女の世界では、一瞬でも行動が遅れたら即ピチュるのである。
つまり結果は・・・・・・
どっぽーーーんっ
きゃ~~た~す~け~て~~~!と叫ぶ暇も無く、水流でくるくる回りながら雛はどんどん流された。
浮き輪が無い為、体が沈ずむ。がんばって頭を水面から出すが又すぐ沈む。
霊夢が「あ、やば」と呟くが時既に遅し。「八百屋のタイムサービスが!」と叫ぶが時既に遅し。
ついには体力が切れ、頭を上げることが出来なくなり、
そして最後に天に向けて立てた親指も、
ゆっくりと水中へ吸い込まれて行った。
一日目終了。
がんばれ雛!まけるな雛!
トライアスロン当日まであと6日!
-----------------------------------------------
――一方その頃
「こーりん。その頭に巻いてるのはなんだ?」
「これかい?これは欲望倍加鉢巻だそうだ」
「なんだそれ」
「紫に渡された物なんだが・・・効果があるのかは眉唾ものだな」
「ふーん(効果抜群すぎるぜ。最悪な方にな)」
私がその鉢巻をどうするか考えているとき、突如目の前に亀裂が走った。
そしてその中からぬるりと、妖怪が一人姿を現した。
「こんにちわ霖之助さん」
「お、噂をすれば紫じゃないか」
「いらっしゃい。今日も仕入れ物の確認かい?」
八雲紫。妖怪の賢者と呼ばれるほど、知識と経験豊富な淑女である。
こーりんが外の世界の物を仕入れた時、危険が無いか毎回チェックしに来るらしい。
ちなみに最近ミニスカートで若さをアッピルしてると文々。新聞に書いてあった通り、
今日はミニのフラワースカートを穿いている。
「ええ、そんなところですわ。じゃぁ少しお邪魔しまおっとこんなところにバナナの皮が!そして豪快にすべってしまったぁ!しかもスカートがめくれて魅惑のデルタゾーンが丸見えですわ!」
・・・・・・なんだこいつ。
ついにボケたのか。そっとしておいてやるのが人間としての優しさだよな。人間でよかったぜ。
と私が考えているのも露知らず、紫はこーりんの目を真っ直ぐ見ている。
こーりんはというと、じっと魅惑のなにがしを凝視しつつ、声を口にした。
「紫、それ・・・あ、いや、大丈夫かい? 立てないなら手貸すよ」
「あ、ありがと」
「魔理沙、バナナの皮は滑りやすいから店内に捨てないでくれよ?」
「え? あ、あぁ・・・すまない。って私じゃないぜ」
「じゃぁだれが・・・・・・」
おっとこーりん、私を巻き込まないでくれ。私は傍観者になることを決めたんだ。うん決めた、たった今決めた。
たとえ今そこで扇子で床にスキマを空けて下準備をしている紫を見ても私は何も言わない。
所謂の活動写真館の観客ってやつだ。
ほら、敵が何かをしていても正義の味方に情報は伝えられないだろう?それと一緒だぜ。
「きゃ~~下からヤラしいスキマ風が!おぅモーレツ♪」
こーりんの目が又魅惑なにがしへと真っ直ぐ突き刺さる。
私は知っている。あの目は欲望じゃなく好奇心のそれだと。
そんなことも知らない妖怪の賢者様は「いやん、みちゃだめぇ(はーと)」とか言って両手を頬に当ててやがる。
はいはい可愛い可愛い。
お、こーりんが何かに気が付いたようだ。
「紫、ちゃんと穿いた方がいいぞ。妖怪とはいえこの季節は風邪を引いてしまう」
「な・・・・・・」
「な?」
「なんでよぉ~~~~~~~~はぅっネズミ捕りが足にっ!もうやだぁ~~~~!」
店の壁をぶちやぶって走り去っていく妖怪の賢者。
どうやら恋愛の経験はあまり無いらしい。後であっきゅんに教えてやろう。
「あれはなんだったんだろう?」
「こーりん。いい事教えてやる。あれは穿いてないんじゃなくて、前張りっていうんだ」
「なるほど。妖怪は歳を重ねると穴が無『そこまでよ!』と思ってたよ。ありがとう魔理沙」
「手にとってやったら喜んでたと思うぜ」
「前張りか・・・氷精や紅魔館の主とか似合いそうだ(キラン」
「キイチャイネェ」
今日も一部を除いて幻想郷は平和です。
挙句に霖之助の一面であるこーりんに犯罪者のレッテルはり…そんなやつに彼を愛する資格はあるのか。
過激な思想を知れば森近霖之助はきっと悲しむだろう。彼は大人の紳士なのだから。
それはともかく面白いSSでした。なので偏見抜きで作品の中身でつけた点数をどうぞ。
次回作にも期待してます。
なるほど、まだ一日目なのか……
ちょっと怖いけど続きに期待して70点入れさせていただきます
同じ場面で視点があちこちに移動していてわかりにくかったのが気になりました。
三点リーダーはできれば後者で統一しましょう。
もう少し練り上げれば面白い話になりそうなテーマなので次回に期待しています。
何事もほどほどが大事だぜ?
もしかしたら作者さんが書きたいものを詰め込みすぎた結果ではないかと。
十分魅力的とか、そんなん言われたら厄神様でなくても惚れてしまうだろう
しかし懐かしい気がするのはなぜだ……?
……あー、そうだこれ、コ○コ○コミックのテンションなんだ。
次回、なにげに期待。
雛のそれはもう爆乳の枠じゃないですよ、魔乳とかですよ。