「こんなに月もあきゃいから、楽しい……」
噛んだ――! よりにもよって決め台詞で――!?
紅い満月を背後に対峙する霊夢とレミリアの間に張り詰めていた緊張感が一気に弛緩する。
「うーん、その、何かしらね。まあ、誰だって失敗の一つや二つはあるわよ!」
「うわあああああん!!」
どこか優しい霊夢の眼差しにレミリアはその場から逃げだして「やり直しよ!!」と叫び指を弾く。
その瞬間、膨大な魔力が放出され時はレミリアが楔を打ち込んだ時間軸に巻き戻る。
「そろそろ姿、見せてもいいんじゃない? お嬢さん」
レミリアは先ほどの涙を拭き取ると、あらん限りのカリスマを放ちつつ舞い降りる。
「やっぱり、人間って使えないわね」
少し前のやり取りを繰り返す。
そう、これがレミリアの能力――運命を操る程度の能力の活用法その666であった。
※ ※ ※ ※ ※ ※
事の発端はこうだった。
幻想郷に移住して長い時が経ったが、レミリアには身内以外の友人が誰一人としていなかったのだ。
力が強い故に他の妖怪がちょっかいをかけてくることはなく、自分から友達を作ろうにも、プライドの高いレミリアにそれはできない相談であった。
(もし、友達になろうって言って断られたらどうしよう?)
脳内シミュレーションで失敗した時のことを考えるたび、落ち込んでベッドの上で体育座りをするのが日課だった。
しかし、紅魔館の主たる自分がいつまでもこれでいいのだろうか? 部下たちは呆れてはいないだろうか?
レミリアの未来シミュレーションでは、レミリアに愛想をつかしたフラン、咲夜、パチュリー、美鈴、小悪魔、妖精メイドたちが紅魔館から出ていき、荒れ放題の紅魔館の自室で絨毯の模様の数を数えている自分がいた。
涙が止まらなかった。
このままではまずいと焦っていたとき、博麗の巫女なる人間が異変解決をするシステムが幻想郷にはあるということを知った。
そのとき、レミリアに閃きが訪れた。
自分が異変を起こせば、博麗の巫女はきっと自分を退治しにやってくる。そこで熱い戦いをすれば、きっと友情が生まれるに違いない。美鈴から借りた漫画で得た知識だ。
周囲に大きな被害をもたらさないで、なおかつエレガントな異変として紅の霧を生み出すことを思いついたのはそれから一週間後のことであった。
だが、ここで一つの気がかりがあった。
肝心の巫女の実力が分からない。巫女が自分の所にたどり着かなければお話にならないのだ。
そんなわけで、サングラスと大きなマスクをつけて博麗神社に偵察に行った。
そこには、暢気な表情でお茶をすすっている霊夢が一人。
この子とお友達になりたいな、とレミリアの心に花が咲いたが、自分の所にまで無事来られるかとなると、一抹の不安を感じざるをえなかった。
そして、レミリアは霊夢を陰ながらサポートすることを決意するのであった。
※ ※ ※ ※ ※ ※
霊夢から放たれるホーミング弾が毛玉たちを駆逐していく。
その毛玉から飛び出る『P』や『点』を回収しようと無防備に前に出た霊夢の前に妖精が出現する。
「――あ」
ぴちゅーん
レミリアは頭を抱え、指を弾いた。
「やり直し!」
※ ※ ※ ※ ※ ※
チルノと対峙する霊夢は、氷の妖精の最初の弾幕をかろうじて回避する。
最初の攻撃を避けられたチルノは高らかにスペルカード宣言をする。
「いくぞー、アイシクルフォール!」
「アイシクルフォール敗れたり! 正面が安地って、けーねが言ってた!」
色々なツッコミの台詞を叫びかけたレミリアの目の前であえなく霊夢がぴちゅる。
「やり直し!」
※ ※ ※ ※ ※ ※
妖精たちの猛攻を辛くも凌ぎ切った霊夢の頭上に現れる影。
「紅美鈴参上!」
モロにキックをくらってぴちゅる霊夢。
レミリアは門番の今月の給料をカットすることを心に決めつつため息をつく。
「やり直し!」
※ ※ ※ ※ ※ ※
本の猛攻にくじける霊夢があれば
こっそり本を焼き払い
動かない大図書館に挫折する霊夢があれば
こっそりグングニルをかまして文字通り動かなくし
残機とボムに苦しむ霊夢があれば
こっそり『B』と『1UP』を投げ
メイド長に翻弄される霊夢があれば
こっそり何度でもやり直しをし
日が差す昼は館に引きこもり
闇が支配する夜も館に引きこもり
みんなにカリスマと呼ばれ
叱られもせず
邪険にもされず
そういうカリスマに
わたしは
なりたい
※ ※ ※ ※ ※ ※
「なんか道中ずっと調子がいいわ。やっぱ私って天才ね♪」
何百回、何千回と繰り返すうち、自分でも気付かないうちに霊夢の実力はついていった。
記憶に残らずとも、身体が覚えているのだ。
一方でレミリアは、百時間近く一睡もせずに付きっきりで霊夢を陰ながらサポートしていた。意識が若干朦朧とする中、冒頭のような失敗をしつつも、ついに勝負の時を迎える。
「こんなに月も紅いから、楽しい夜になりそうね」
「こんなに月も紅いのに、長い夜になりそうね」
その後、レッドマジックを乗り越えるのにさらに時間がかかったが、ついに霊夢はレミリアを倒すことができるのであった。
レミリアは思わず霊夢に抱きつきたくなったが、その感情をグッとこらえて霊夢と向かい合う。
「さあ、この変な霧を止めなさいよ」
「ふん、いいわよ。これも私にとってはただの余興に過ぎないから」
紅の霧が少しずつ晴れていく中、霊夢はその場から離れようとしたのでレミリアは慌てて声をかける。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「何よ?」
「えっと……その……」
様々な感情が交錯して、レミリアは言いたいことが何なのか、伝えたいことが何なのか、混乱して分からなくなってしまった。
泣きそうな表情で翼をピコピコ動かすレミリアを見て霊夢は大きなため息をつくと、レミリアの前まで行き、少しかがんで視線を合わせる。
「そういえば、まだあなたの名前、聞いていなかったわね。私は霊夢、博麗の巫女、博麗霊夢よ」
その霊夢の振りに、レミリアは一瞬ぱあっと笑顔を浮かべ、しかし慌てて真剣な表情を作る。
「わ、私はレミリア・スカーレット。誇り高き吸血鬼にして、スカーレット家の当主よ」
「じゃあレミリア、もう異変なんて起こさないでよ、めんどくさいから」
「わ、分かったわ。そのかわり、れ、霊夢の神社に遊び……じゃなくて、顔を出してもいいかしら?」
霊夢は驚いたような表情になり、それを見たレミリアは慌てる。
「め、迷惑はかけないわ。人間の巫女がどんな生活をしているのか、そう、気になるのよ! ……ダメ? かしら……」
再びシュンとなり翼がしおしおとへたれるレミリアの頭に霊夢は手をのせる。
「あー、そんな泣きそうな顔しないでよ。別にかまわないわよ。お茶菓子とか持ってきてくれるとありがたいわね」
レミリアは今度こそ花のような笑顔を浮かべた。
こうして二人は友達となった。
レミリア・スカーレット、まさに吸血鬼生の絶頂のひと時。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「ふわぁ……」
初めて自分の努力で友達ができた興奮は冷めないが、さすがに体力・魔力とも限界に近い。
レミリアはようやく全てから解放されてベッドに座る。
「さて、全てが成功したこの時間軸に楔を打っておかないと……」
最後の大仕事だ。
ここで楔を打っておけば、何らかの不慮の出来事があってもここに戻れる。
楔を打ち、魔力を注いで――
注いで――
――――
※ ※ ※ ※ ※ ※
時は中世。
吸血鬼の名家スカーレット家に、ついに跡取りとなる吸血鬼が生を受ける。
まだ赤子ながら強い魔力を宿した銀髪の娘にスカーレット家当主は満足そうな笑みを浮かべ、高らかに宣言する。
「この娘の名前はトンヌ――」
※ ※ ※ ※ ※ ※
魔力注入中に意識を落とすと楔が破損する可能性があります。
噛んだ――! よりにもよって決め台詞で――!?
紅い満月を背後に対峙する霊夢とレミリアの間に張り詰めていた緊張感が一気に弛緩する。
「うーん、その、何かしらね。まあ、誰だって失敗の一つや二つはあるわよ!」
「うわあああああん!!」
どこか優しい霊夢の眼差しにレミリアはその場から逃げだして「やり直しよ!!」と叫び指を弾く。
その瞬間、膨大な魔力が放出され時はレミリアが楔を打ち込んだ時間軸に巻き戻る。
「そろそろ姿、見せてもいいんじゃない? お嬢さん」
レミリアは先ほどの涙を拭き取ると、あらん限りのカリスマを放ちつつ舞い降りる。
「やっぱり、人間って使えないわね」
少し前のやり取りを繰り返す。
そう、これがレミリアの能力――運命を操る程度の能力の活用法その666であった。
※ ※ ※ ※ ※ ※
事の発端はこうだった。
幻想郷に移住して長い時が経ったが、レミリアには身内以外の友人が誰一人としていなかったのだ。
力が強い故に他の妖怪がちょっかいをかけてくることはなく、自分から友達を作ろうにも、プライドの高いレミリアにそれはできない相談であった。
(もし、友達になろうって言って断られたらどうしよう?)
脳内シミュレーションで失敗した時のことを考えるたび、落ち込んでベッドの上で体育座りをするのが日課だった。
しかし、紅魔館の主たる自分がいつまでもこれでいいのだろうか? 部下たちは呆れてはいないだろうか?
レミリアの未来シミュレーションでは、レミリアに愛想をつかしたフラン、咲夜、パチュリー、美鈴、小悪魔、妖精メイドたちが紅魔館から出ていき、荒れ放題の紅魔館の自室で絨毯の模様の数を数えている自分がいた。
涙が止まらなかった。
このままではまずいと焦っていたとき、博麗の巫女なる人間が異変解決をするシステムが幻想郷にはあるということを知った。
そのとき、レミリアに閃きが訪れた。
自分が異変を起こせば、博麗の巫女はきっと自分を退治しにやってくる。そこで熱い戦いをすれば、きっと友情が生まれるに違いない。美鈴から借りた漫画で得た知識だ。
周囲に大きな被害をもたらさないで、なおかつエレガントな異変として紅の霧を生み出すことを思いついたのはそれから一週間後のことであった。
だが、ここで一つの気がかりがあった。
肝心の巫女の実力が分からない。巫女が自分の所にたどり着かなければお話にならないのだ。
そんなわけで、サングラスと大きなマスクをつけて博麗神社に偵察に行った。
そこには、暢気な表情でお茶をすすっている霊夢が一人。
この子とお友達になりたいな、とレミリアの心に花が咲いたが、自分の所にまで無事来られるかとなると、一抹の不安を感じざるをえなかった。
そして、レミリアは霊夢を陰ながらサポートすることを決意するのであった。
※ ※ ※ ※ ※ ※
霊夢から放たれるホーミング弾が毛玉たちを駆逐していく。
その毛玉から飛び出る『P』や『点』を回収しようと無防備に前に出た霊夢の前に妖精が出現する。
「――あ」
ぴちゅーん
レミリアは頭を抱え、指を弾いた。
「やり直し!」
※ ※ ※ ※ ※ ※
チルノと対峙する霊夢は、氷の妖精の最初の弾幕をかろうじて回避する。
最初の攻撃を避けられたチルノは高らかにスペルカード宣言をする。
「いくぞー、アイシクルフォール!」
「アイシクルフォール敗れたり! 正面が安地って、けーねが言ってた!」
色々なツッコミの台詞を叫びかけたレミリアの目の前であえなく霊夢がぴちゅる。
「やり直し!」
※ ※ ※ ※ ※ ※
妖精たちの猛攻を辛くも凌ぎ切った霊夢の頭上に現れる影。
「紅美鈴参上!」
モロにキックをくらってぴちゅる霊夢。
レミリアは門番の今月の給料をカットすることを心に決めつつため息をつく。
「やり直し!」
※ ※ ※ ※ ※ ※
本の猛攻にくじける霊夢があれば
こっそり本を焼き払い
動かない大図書館に挫折する霊夢があれば
こっそりグングニルをかまして文字通り動かなくし
残機とボムに苦しむ霊夢があれば
こっそり『B』と『1UP』を投げ
メイド長に翻弄される霊夢があれば
こっそり何度でもやり直しをし
日が差す昼は館に引きこもり
闇が支配する夜も館に引きこもり
みんなにカリスマと呼ばれ
叱られもせず
邪険にもされず
そういうカリスマに
わたしは
なりたい
※ ※ ※ ※ ※ ※
「なんか道中ずっと調子がいいわ。やっぱ私って天才ね♪」
何百回、何千回と繰り返すうち、自分でも気付かないうちに霊夢の実力はついていった。
記憶に残らずとも、身体が覚えているのだ。
一方でレミリアは、百時間近く一睡もせずに付きっきりで霊夢を陰ながらサポートしていた。意識が若干朦朧とする中、冒頭のような失敗をしつつも、ついに勝負の時を迎える。
「こんなに月も紅いから、楽しい夜になりそうね」
「こんなに月も紅いのに、長い夜になりそうね」
その後、レッドマジックを乗り越えるのにさらに時間がかかったが、ついに霊夢はレミリアを倒すことができるのであった。
レミリアは思わず霊夢に抱きつきたくなったが、その感情をグッとこらえて霊夢と向かい合う。
「さあ、この変な霧を止めなさいよ」
「ふん、いいわよ。これも私にとってはただの余興に過ぎないから」
紅の霧が少しずつ晴れていく中、霊夢はその場から離れようとしたのでレミリアは慌てて声をかける。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「何よ?」
「えっと……その……」
様々な感情が交錯して、レミリアは言いたいことが何なのか、伝えたいことが何なのか、混乱して分からなくなってしまった。
泣きそうな表情で翼をピコピコ動かすレミリアを見て霊夢は大きなため息をつくと、レミリアの前まで行き、少しかがんで視線を合わせる。
「そういえば、まだあなたの名前、聞いていなかったわね。私は霊夢、博麗の巫女、博麗霊夢よ」
その霊夢の振りに、レミリアは一瞬ぱあっと笑顔を浮かべ、しかし慌てて真剣な表情を作る。
「わ、私はレミリア・スカーレット。誇り高き吸血鬼にして、スカーレット家の当主よ」
「じゃあレミリア、もう異変なんて起こさないでよ、めんどくさいから」
「わ、分かったわ。そのかわり、れ、霊夢の神社に遊び……じゃなくて、顔を出してもいいかしら?」
霊夢は驚いたような表情になり、それを見たレミリアは慌てる。
「め、迷惑はかけないわ。人間の巫女がどんな生活をしているのか、そう、気になるのよ! ……ダメ? かしら……」
再びシュンとなり翼がしおしおとへたれるレミリアの頭に霊夢は手をのせる。
「あー、そんな泣きそうな顔しないでよ。別にかまわないわよ。お茶菓子とか持ってきてくれるとありがたいわね」
レミリアは今度こそ花のような笑顔を浮かべた。
こうして二人は友達となった。
レミリア・スカーレット、まさに吸血鬼生の絶頂のひと時。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「ふわぁ……」
初めて自分の努力で友達ができた興奮は冷めないが、さすがに体力・魔力とも限界に近い。
レミリアはようやく全てから解放されてベッドに座る。
「さて、全てが成功したこの時間軸に楔を打っておかないと……」
最後の大仕事だ。
ここで楔を打っておけば、何らかの不慮の出来事があってもここに戻れる。
楔を打ち、魔力を注いで――
注いで――
――――
※ ※ ※ ※ ※ ※
時は中世。
吸血鬼の名家スカーレット家に、ついに跡取りとなる吸血鬼が生を受ける。
まだ赤子ながら強い魔力を宿した銀髪の娘にスカーレット家当主は満足そうな笑みを浮かべ、高らかに宣言する。
「この娘の名前はトンヌ――」
※ ※ ※ ※ ※ ※
魔力注入中に意識を落とすと楔が破損する可能性があります。
ぼうけんのしょは
きえてしまいました」
れみりゃ最大のピンチ!!
>>2
そんな理不尽な扱いが美鈴に似合うと外道な考えを。愛ゆえに。
>>3 >>31 >>39
私も欲しいです……。セーブ枠3つとかじゃなくて1つでいいから。
>>3 >>38
たぶん、メイド長あたりがバックアップを取ってます。瀟洒ですから。
>>9
ありがとうございます、そう言われると励みになります。
>>11 >>18
レミリアはかわいくて不器用なのです。そして、不器用だからますます可愛いのです。
>>37
過去に戻ってやり直すタケル……はドラゴンナイト4か。
ツリー上にシナリオ分岐が分かるように表示されるシステムの先がけに近かった作品でしたっけ。
プレイしたのは間違いない、随分前に。elfでしたっけ。
そうか、リトライの能力だったのか。凄く納得出来る。確かにそういう能力なんだ。
>>54
きっと、そんな些細なことは気にしない気がします。レミリアの父ですし。
>>57
運命は残酷です……。
>>59
お嬢様の能力は、それをテーマにするだけで色々話を発展させられそうで楽しいです。