Coolier - 新生・東方創想話

雨上がり。

2010/02/20 22:16:37
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雲の多い日。
山の巫女の予報によると、向こう一週間は雨続きらしい。
恵みの雨なのは間違いないけど、今咲いている花は軒並み洗い流されてしまうだろう。
そうなる前に出来るだけ見ておこう。綺麗に咲いていたら部屋に飾っておいてもいいかもしれない。
そしてもう一つ。
雨が降る前にしなければいけないことがある。

「ま、ついでだしね」

どちらがついでなのか自分でも分からないけど。
先に面倒な方を片付けてしまうとするか。






「こんにちわ、毒人形さん」
「こんにちわ、花の妖怪さん」
メディスン・メランコリー。毒を操る程度の能力。人間に捨てられた人形の成れの果て。
最近は多少大人しくなったとはいえ、まだまだ眼が離せない危うい新参妖怪である。
鈴蘭の季節ではないから、異変の時のように毒が舞っている事もない。
だからこうして無用心に立ち入ってもさほど害はない。…多分。
一度周囲を見回す。
ここ、無名の丘には雨風を凌げそうな木も屋根もない。
この子はどうやって雨をやりすごすというのだろう。
「これから一月ばかり雨が降り続くらしいけど、貴女はどうやって雨を凌ぐつもりかしら?」
雨の予報を鯖読みする。このぐらい大げさに言わないときっと私の誘いなんて断るもの。
しゃがんで目の高さを合わせ、様子を伺う。
「一ヶ月…」
「人形とはいえ、野ざらしは辛いでしょう? よかったら私の家にいらっしゃい」
「平気よ。今までだってずっとここにいたんだから、ここが私の居場所よ」
「妖怪は不死身じゃないのよ。無茶をすれば弱って死んでしまうんだから。
 特にあなたは妖怪化したばかりで不安定な時期。養生しておくに越した事はないと思うわ」
「ふんっ。知らなーい」
まるで駄々を捏ねる子供だ。
弾幕勝負で叩きのめしてもいいが、それでは意味がない。
今まで生き延びてきたんだから、放っておいてもどうにかなるんでしょう。
私の親切心は必要なかったのかもしれないわね。
「そう、なら仕方ないわね。残念だわ」
「ん?」
「良かれと思ったのだけど、あなたの意志がそこまで固いなら何を言っても無駄ね。
 それじゃあさようなら。一ヵ月後にまた会えるといいわね」
「え、あ、うん。  …ばいばい」
一度も振り返らず、無名の丘を後にする。
花の様子を見なければならないし、子供の機嫌をとるのも面倒くさい。
あの娘には悪いけど、変に意地を張るからこうなるのよ。








at 無名の丘

「一ヶ月、かあ」
流石に一ヶ月は嘘だと思う。でも、しばらくは雨の日が続くのだろう。
空は雲で覆われ、今にも降り出しそうな気配だ。
今はスーさんもいない。
スーさんがいないせいで毒も少量しか作れない。
毒がないせいで力が弱ってるのをひしひしと感じる。
もし本当に一ヶ月も雨が降り続いたら、体を維持できなくなるかもしれない。
そうなったら、幽香の言うとおり死んでしまうのだろうか。
「そんなの、嫌だな」
またスーさんと会いたいし、人形開放だって諦めてない。
「こんなところで死んでなんていられないんだから!」

空元気を振り絞ってみた所で、どうすればいいか考えがあるわけではない。
いつも通り岩陰に隠れて雨をやり過ごそうか。
「…ぁ」


ポツ…、   ポツポツ。

サァーー…       。



突然振り出す雨。
見晴らしのいいこの丘で、雨を防げるものがあるはずもなく。
あっという間に全身ずぶ濡れになってしまう。
今更雨から逃れる気もおきず、全てがどうでもよくなってくる。
「うん。今までずっとこうしてたんだから、きっと平気よ。
 こうして寝てれば、起きたときにはきっと青空が見えるわ」
鈴蘭の咲いてない丘で、大の字に寝転がる。
何の根拠もないが、こうしていれば全てが解決するような気になってくる。
スーさんが咲けば、きっと全て解決する。何も心配する必要なんてないじゃない。

・・・。
やっぱり、幽香に付いていけばよかった。
もう少し粘ってくれてもいいと思うのに。
声をかけてくれたのは、きっとただの気まぐれだ。だから、絶対に戻ってこない。
戻ってこない、はずなのに。


「ご機嫌いかが、毒人形さん?」







ー少し前ー

素直に言う事を聞かないのは分かってたけどね。子供だし。
少し頭を冷やさせて、それから強引に連れていこう。
今は毒の威力も弱ってるみたいだから、問題はないわ。(念のため永琳のとこで解毒剤を貰ったけど。)
「思ったより早く降りそうね」
空に暗い雲が立ち込め、雨の日特有の臭いがする。
家に帰って雨傘を取ってこないと。
それからお人形さんを迎えにいってあげますか。



「ご機嫌いかが、毒人形さん?」



いくらなんでも雨空の下寝転がってるとは思わなかった。馬鹿なのかしら。
もっと早く来てやるんだった。体中びしょ濡れじゃないのまったく。

「幽香…」
「いいから早く立つ。嫌がっても家に連れてくわよ」
「うん」
メディスンの腕を引っ張って立たせ、傘の中に入れる。
今更濡れないように気を使っても仕方ないけど、これ以上雨に打たれるのは可哀相だ。
しっかりと抱きしめてから空を飛び、急いで家へと向かう。
「あんまり触ると毒が」
「雨で流れるわよ」
「幽香が濡れちゃうし、汚れちゃうよ」
「洗濯するし、お風呂に入るわ」
「迷惑かけてごめんなさい」
「全くね」
「あと、それから」
「なによ」
「…ありがと」
「どういたしまして」






at 風見家

「湯船に浸からなくてもいいけど、シャワーくらいは浴びなさい。体中泥だらけよ。
 それと、貴女の服は別にしておいてね。今は毒の匂いは弱いけど、遅効性の毒は厄介だから」

ー少女入浴中ー    *省略


「・・・」
「似合うじゃない。サイズもちょうどいいみたいね」
「何でこんなのがあるの?」
「知り合いにそういうのが好きな娘がいるのよ」
「あの人形遣いね」
「正解」
お風呂から上がり、濡れた服の代わりにアリスお手製の服を着せる。
何でそんなに用意がいいのかって?アリスに聞いてよ。
メディ用の服を作ったはいいけど、渡す機会がなくてタンスの肥やしになってたんですって。
その話を前に聞いてたから、少し借りてきただけよ。盗んだわけじゃないわよ。

「あ、あれ…?」
メディスンが床にへたり込む。
のぼせるほど長湯したわけでもないのに、立とうにも体に力が入らないようだ。
「思ってたよりもだいぶ弱ってるみたいね」
前に毒が命だと言っていたし、有毒植物でもあげればいいかしら。
鉢植えに溢れるほどの鈴蘭を咲かせ、メディに持たせる。
「気休めかもしれないけど、少しはマシになるでしょ」
「スーさんだっ!!」
満面の笑みで鉢に抱きつき、鈴蘭の花に顔を近づける。
毒がないと生きられないというのも、難儀な話ね。
メディスンの後ろに座って、髪を梳いてあげる。
元が人形なだけあって綺麗なものだけど、やっぱり手入れはしてないみたいね。
「あんまり触ると毒でやられちゃうよ」
メディスンは抵抗するそぶりも見せず、大人しくしている。
助けてもらった手前、少しは素直になったのだろう。
抵抗するほどの元気がないだけかもしれないが。
「そんなに柔じゃないわ。花の毒なら慣れてるもの」
「なんだか今日は優しいね」
「さっき意地悪しちゃったからね。そのお詫びよ」
「悪いのは幽香じゃないよ…」
「それとね、もう一つ大きな理由があるのよ」
「どんな?」
「女の子はみんな人形が好きなのよ」
一度捨てられた人形が愛されないなんて道理はない。
人形は人間と友達になるために創られるのだから。
人形開放なんてしてしまったら、きっとお互い寂しい思いをするに違いない。
メディスンだって、本当はよく分かっているはずだ。
「気分が悪くなったら、すぐ離れてね。  幽香が死んじゃったら寂しい」
「離れないし、死にもしないわよ」
メディスンを後ろから優しく抱きしめる。
綺麗なバラには棘がある。少しぐらいの毒は許容範囲だ。
「幽香、ありがと」
「どういたしまして」

念のため、後で永琳のとこで診てもらうとしよう。
メディスンの毒で死ぬなんて、万が一にもあってはならないことだから。






ー 三日後 ー
まだ雨は降り続く。一向に止む気配もない。
風見家では窓辺のテーブルに座り、二人仲良くティータイム。
片や香り高いレディグレイ、片や一口で彼岸行きのベラドンナドリンク。
実に平和である。

「なに見てるの?」
「外を眺めてるのよ」
「楽しい?」
「それなりに。これからどんな花が咲くのか楽しみね」
「私は早くスーさんに会いたいな。とっても綺麗なんだよ」
「ええ、知ってるわ。早く咲くといいわね」
「うんっ」
暇つぶしのネタも尽き、退屈な時間を過ごしている。



コン、コン。

「お邪魔するわ」「お邪魔しまーす」

雨の日に訪問客が二人。
「いらっしゃい。そろそろ来る頃だと思ったわ」
「こんぱろー…」
訪問客を見て動きが止まる幽香。メディスンは怖がって幽香の後ろに隠れてしまった。
二人のうち一人は馴染み深いアリス。もう片方はというと。
「メディスンさん初めまして。谷カッパのにとりです」
自己紹介してくれたし、声からしてもきっとにとりなのだろう。
だが格好が問題だ。いつもの服に長靴にグローブ。ここまではいい。
なんでガスマスクなんて着けている。

「変質者を呼んだ覚えはないんだけど、なにこれ?」
「私に言われても困るんだけど」
「生体毒ガス製造機がいると聞いて、ガスマスクの試用をしようと思いまして。
 ちなみにボイスチェンジャー付ですよ」
声色を変えて自慢げなにとり。その格好でやっても不気味さが増すだけなのだが。
紅白巫女に遭ったら問答無用で撃ち落とされるに違いない。
「毒を吸いたいなら、五月に無名の丘に行きなさい。
 いいからこれ外しなさいよ。メディが怖がってるじゃないの」
「わ、わ、わ?! は、外すからアイアンクローで持ち上げるなー!!!」

「メディ、飴をあげるわ。幽香に酷い事されなかった?」
「ありがと。幽香は優しかったよ」
「元気そうで安心したわ。困った事があったらいつでも言ってね」
「…うん」


「そういえば、頼んでいた物はできたの?」
光学迷彩で消えてしまったにとりを探すのを諦め、幽香が口を出す。
アリスは軽く頷いて、持ってきた鞄の中を探す。
「メディ、あなたにプレゼントよ」
「え?」
プレゼントは合羽とレインブーツ。赤を基調として随所に鈴蘭のモチーフをあしらっている。
メディスンのために作られたものだ。
「かわいい…。これ、貰っていいの?」
「ええ、そのために作ったんだから」
「アリスさんにデザインしてもらって、河童の技術で作りました。このぐらいお茶の子さいさいですよ」
「おわあ!?」
突然隣に現れたにとりに驚くメディスン。
「もう、いい加減にしないと!」
メディスンの周りにほのかに立ち上る毒。
量は少ないが、その威力は折り紙つきだ。
「ひゅい!? ガスマスクも壊されちゃったし、逃げろや逃げろ」
「あ、外に逃げた。アリス、早速使わせてもらうね。素敵なプレゼントありがとう!」
外へ逃げたにとりと、合羽と長靴を着けて外へ駆けていくメディスン。
メディスンの顔はとても楽しそうで。
本当はにとりのことはどうでもよくて、素敵な贈り物を着て雨の中を駆け回りたかったのだろう。
にとりはそれを察して気を使ったのか、ただ単に雨が好きなのか。
どちらにせよ、メディが笑っているならそれが一番いい。







「たっだいまー」「戻りましたー」
「冷えたでしょ、お風呂入ってきなさい」
「「はーい」」
一緒に遊んで仲良くなったのか、二人は並んでお風呂場に行く。
これからもいい遊び相手になってくれそうだ。
「着替えを用意しないと、場所借りるわね」
鞄から次々と服を引っ張り出すアリス。
鞄の大きさと内容量があってないのは魔法のせいだとしても、
「さすがに作りすぎじゃない?」
「それは認めるけど。素材がいいんだから、絶対可愛くなるわよ。幽香も見てみたくない?」
「そうねえ。興味はあるけど、嫌がったらすぐやめるのよ」
「分かってる。押し付けたりはしないわ」




「あーっ。次あれ着たい!」
「もう少しこの格好のままでいて。髪形変えるとイメージが変わるわよ」
メディスンはアリスの着せ替え人形になってはしゃいでいる。
あれだけ服が並んでるのを見れば、誰だってこうなるかもしれないが。
人形は元々女の子の遊び相手だし、メディスンも構ってもらえるのが嬉しいのだろう。
メディの相手はアリスに任せておいて良さそうね。人形の扱いは手馴れてるみたいだし。
「あのー…」
紅茶を飲んで賑やかな二人を眺める幽香に、おずおずと話しかけるにとり。
「似合ってるわよ」
「いや、そうじゃなくてですね。何で私までこんな格好を」
にとりは背中の開いた黒のイブニングドレスに、可愛い髪飾りをつけている。
アリスがにとりの服を隠して、着替えとして用意したものだ。
「アリスの趣味ね。たまにはそういう格好もいいと思うわよ」
「うぅ…。後でちゃんと服返して下さいね。なんだか落ち着かないし」
「笑ってた方が可愛いわよ。メディのとこにいって一緒に遊んできなさい」
にとりの頭を軽く叩き、一押ししてやる。
メディも毒の制御が出来るようになれば、人間と一緒に遊べるはずだ。
それまでは妖怪が遊び相手になって、あの子の心を溶かしてあげないといけない。
面倒は増えるけど、放っておく事はできないもの。
酔狂さではスキマといい勝負かしらね。


放っておかれて寂しかったので、はしゃぐ三人をまとめて抱きしめる。
雨があがったら、みんなでピクニックに行こう。
青い空、雨に濡れた草花、湿った土の匂い、澄んだ空気。
きっと楽しくなるわ。
身長は 幽香>アリス>>にとり>メディ くらいで
にとりとメディをもっと愛でようぜ。

『メディ子の強さは鈴蘭の咲いている時期がピークで、そこからどんどん弱体化。毒が足りなくなると仮死状態になる』という設定で書きましたが実際どうなんでしょうか。
鈴蘭の咲かない時期は風見家かマガトロ家に居候してるととても嬉しいです。

こんぱろー


おまけ
お風呂シーン
幽アリ
みをしん
http://tphexamination.blog48.fc2.com/
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コメント



0.1810簡易評価
3.90名前が無い程度の能力削除
おもしろい
…が、描写がたりないぃぃぃぃぃい
5.90ぺ・四潤削除
ー少女入浴中ー    *省略
えええええええええええーーーーーーーーー!!

珍しいメディありがとうございました。
ゆうかりんとアリスとメディで親子関係だと嬉しい。年の離れた三姉妹でもなおよし。
こんぱろー。
10.100名前が無い程度の能力削除
入浴シーンは省略しないほうがいいと思います
14.100奇声を発する程度の能力削除
こんぱろ~
正直100点じゃ足りないぐらいです!
そして、入浴シーンは省かない方が良いと思います!
18.100名前がない程度の能力削除
省略・・・・だと・・・・・・?
そこの描写が一番大切だと思った俺は末期。
20.90名前が無い程度の能力削除
メディにはもっと光があたって欲しいですね。

誤字(?):無名の丘→無銘の丘、かと。
23.80名前が無い程度の能力削除
こんぱろ!梅雨が楽しみになったよ。
24.100名前が無い程度の能力削除
メランコ可愛いよメランコ
心がほかほかあったまりました。
28.100名前が無い程度の能力削除
ベラドンナドリンクwwwww
39.100ずわいがに削除
あなたはよりによって肝心なところを省略してしまってからに……と思ったら!
ブログの方の入浴シーンや幽アリsideも読ませて頂きましたので、それらも含めてこの点数をば
44.90幻想削除
これが噂の幽香お母さんかっ!