Coolier - 新生・東方創想話

自分の心は騙せない #1

2010/02/19 22:12:37
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 巷じゃ嘘つきだとか兎詐欺だとか言われちゃいるけど、私だって根っから捻くれてるわけでもなければ誰彼構わず人を騙し歩いてるわけでもない。
 ちゃんと嘘をつく相手は選ぶし、危険な一線を踏み越えることがないように注意だってしているつもりだ。

 ……ん? 相手を選ぶってのは本当かだって?
 そりゃ、本当だよ。私は嘘なんかつかない。
 私が騙せ……もとい、騙さない相手はこの世に二人もいる。
 一人は八意永琳。私の住む永遠亭の裏ボス。こいつと来たら、一緒に暮らし始めてから数百年、一度たりとも私に隙を見せちゃくれない。
 寸借詐欺や取り込み詐欺はもちろん、単純な落とし穴にだって引っかかりはしない。下手な罠でも仕掛けようものなら、逆に引っつかまってお仕置きされるのが関の山だ。
 しかしもちろん、このままで済ますつもりは無い。私には目的があるし、その目的を叶えるためにはどうしても永琳を出し抜いてやる必要がある。
 ちなみに、騙せないもう一人というのは大国さまだ。幼い頃の私を助けてくれた大恩人。それはもう大変な美男子。
 誰に嘘をついたって、大国さまには嘘はつかない。いや、つこうとも思わない。





 ――大国さま、今頃何をやってるかなあ。
 私は大国さまの優しい笑顔を思い返し、小岩に座ったままぐるりと周りを見やる。
 天球にはまんまるの月。地上には餅をつく兎たち。聞こえてくるのはおなじみの太鼓の音。
 今日は、永遠亭で毎月行われているお月見の日だ。

 ―― 一つついては大国さま
   二つついては大国さま ――

 囃し立てる兎たちの歌声を聞きながら、私は月を見上げる。
 大国さまが自分の興したこの国を去って、どれほどの時が過ぎたのだろうか。
 一緒に付いていった兎たちは元気だろうか。大国さまは無事だろうか。
 私は、遠い昔の幸せな日々に思いを馳せ、兎たちと共に囃子歌を口ずさむ。

 「あら、あなたたちまた大国さまの歌を歌っているの?」

 また鈴仙か。
 私は思った。
 どうせまた、『大国さまじゃなく、姫さまとお師匠さまのことをお祈りしなさい』とか言ってくるのだと。
 しかし、今日は違った。
 台詞は大差ないが、喋っている人間が違う。

 「本当にあなたたち、大国さまが好きなのねえ」

 声の主はたおやかな微笑みを浮かべると、私のほうに近づいてくる。
 八意永琳。私が騙さない二人の相手のうち一人だ。

 「あ、お師匠さま。今日は外に出てくるなんて珍しいね」

 私はごくりと生唾を飲み込む。
 永琳は鈴仙と同じように、囃子歌を怒りに来たのかもしれない。
 鈴仙と違い、永琳には洒落が通じない。大国さまを敬う囃子歌に怒りを爆発されても困る。
 そしてもう一つ重要なことに、永琳の歩く先には私の掘った落とし穴がある。
 いつものように鈴仙がやってくると思って掘っておいたものだが、このままだと永琳が落ちる。
 もしかすると、今日こそは永琳が私の罠にはまるかもしれない。

 「大国さまは、兎たちのアイドルだしね。こればっかりはいくら私でも止めらんない」
 「あら、そういうあなたが一番大国さまを好きなんじゃないの?
  ほら、あなた大国さまの薬をスペルカードで使ってるじゃない」
 「そ、そりゃあ私の恩人だから」
 「そんなこと言って、本当は私の作る薬より、大国さまの薬のほうがいいものだと思ってるんでしょ。
  私という薬士が近くにいるのに、あてつけのように他の人の薬を使うんだから」

 なんと意地が悪そうな笑みか。
 永琳は頬に指をかけ、私の困った顔を楽しむかのように口の端をゆがめる。
 私は蛇に睨まれた蛙。永琳が今立ち止まった場所からあと三歩踏み出し、落とし穴にまっ逆さまに落ちるのを期待することしかできない憐れな小兎。

 「うぅ……勘弁してよ、お師匠さま」

 私は空返事をしながら、永琳が近づくのを待つ。
 あと三歩。
 私は決して気の長い方ではないが、それでも獲物が罠にかあるのを待てないほど気が短いわけでもない。
 あと三歩で、永琳は落とし穴に落ちるのだ。
 どきどきしながら、永琳が足を進めるのを待つ。
 だが、願いむなしく永琳はその場で立ち止まると、表情を和らげた。

 「ふふ。大丈夫、ちょっと驚かせてみただけで、怒ったりはしないわ。
  あの薬は私に言わせても凄いものだしね。
  あなたが長生きしてるのも、あの薬のおかげもあるんでしょう? あなたがいつも肌身離さないのもわかるわ」

 なんとこの永琳、突然大国さまの薬を褒め始めた。
 この状況は珍しい。
 例月祭に永琳が兎の様子を見に来ることもあまり無いことだし、私をからかうことだってめったに無いことだ。
 私は、真意を探ろうと言葉を続ける。

 「お師匠さまが他の人の作った薬を褒めることなんてあるんだね。
  お師匠さまは何の薬でも作れるから、大国さまの薬なんかに興味は無いのかと思ってたよ」
 「何を言ってるのよ。大国主尊の薬は、私には作れないわ」
 「えっ……?」
 「ううん、意味が分からないと言ったほうがいいかもしれないわね。
  見たところ、あなたの使っている薬は、古くからの製法どおり効用のある薬草で作られている。
  でも、あなたがいくら大事に保管していても、そんな薬が長い間効用を保てるとは思えない。
  あなたの使っている薬は、効用だけなら私にも真似できるわ。でも、そんな原始的な製法でそんなに長い間効用を保たせるのは、私には無理」
 「ふうん。お師匠さまにも作れない薬があるんだ」
 「まあ、実物があればもうちょっと詳しいことも分かるのだけれど。
  てゐ。あなた、薬を少し分けてはくれないかしら」

 私の耳がひくひくと動く。
 わざわざ私に話しかけてきたのは、これが目的なのかもしれない。
 永琳にこんな頼まれ事をされるなんて、記憶にないし。

 「えー、どうしようかな。私の宝物だし」
 「少しでいいのよ。お願い」
 「……それじゃあ、今度の満月のときに一つあげるよ」
 「あら、嬉しいわ。でも、なんで次の満月の日なの?」
 「次の満月は、お師匠さまが地上に住み着いた日じゃない。だから、それを記念してお師匠さまと姫さまへの私のプレゼント」

 永琳は一瞬呆けた顔をして、その後にっこりと笑った。

 「それは楽しみだわ」
 「うん。来月には、びっくりハプニングも考えておくよ」

 ――とびっきりのサプライズをね。
 私は永琳に負けないくらいにこやかに笑う。

 「それは楽しみだわ。
  それにしても大国さま、今どこにいらっしゃるのかしらね」

 永琳が言う。
 ちぇっ、惚けやがって。
 知ってるよ、私。

 ――……大国さまは、月にいるんだ
 口をついて、ちいさな声が漏れる。




 「……今、何か言ったかしら?」

 永琳が、まるで見えているかのように仕掛けた落とし穴をひょいっと飛び越え、私に問い返す。
 ――聞こえちゃったかな。
 聞こえたか聞こえなかったかでは大違い。これからの計画に大きく影響してしまう。
 私は、落とし穴が空振りに終わってしまったことも気にせず、永琳の顔色を伺った。
 永琳はいつもの笑顔。
 顔色からは何もわからない。

 「何も言ってないよ。……それより、落とし穴よく分かったね」

 私がそう言うと、永琳はとても可笑しそうにころころと笑い声を漏らした。

 「あなたの企んでることなんて、みんなお見通しよ」



















    遠い、遠い昔。
    あるところに、大国さまという神様が、たくさんの兄弟と共に暮らしていました。
    大国さまの兄弟は皆意地悪で、ことあるごとに大国さまを苛めていました。

    大国さまとその兄弟は、八上姫(やがみひめ)という、因幡の国のお姫さまのことが大好きでした。
    そこである日、八上姫さまに結婚を申し込もうと、皆で因幡の国に出かけたのです。
    しかし、大国さまの兄弟は皆意地悪。
    旅の荷物をすべて大国さまに持たせると、どんどん先に行ってしまったのです。

    大国さまは兄弟に遅れ、重い荷物を背負いながら道を進みます。
    やがて岬までたどり着くと、そこには裸の兎がいて、えんえんと泣きそぼっていました。
    「どうしてそんなに泣いているんだい?」
    大国さまは尋ねます。
    「実は、沖の島からこちらへ海を渡ろうと思ったのですが、方法がなかったので、海の鰐(わに)を呼んでこう言ったのです。
     『私とお前と、どっちの仲間が多いか競争しよう。仲間を集めて並んでくれたら、私がその上を走りながら数を数えるよ』。
     鰐たちはまんまと騙され、集まって一列に並んだので、私はその上を走り、こちらに渡って来くことができました。
     でも、いいことばかりは続かない。最後には鰐たちに騙したことを気づかれ、襲われてしまったのです。
     傷だらけになった私が困っていると、後からたくさんの神さまがやってきて『海に入って風に当たるといい』と言いました。
     言うとおりにしたのですが、傷はますますひどくなる一方で、痛くてたまらないのです」

    あわれ兎は、大国さまの兄弟に騙されてしまったのです。
    兎をかわいそうに思った大国さまは、真水で身体を洗い、薬草を塗って休むように伝えました。
    兎が言うとおりにすると、みるみるうちに怪我が治ります。
    兎は喜び跳びはね、大国さまに言いました。

    「八上姫さまは、他の神さまではなく、あなたさまを夫に選ぶでしょう」



    兎の言ったとおり。
    因幡の八上姫さまが選んだのは、大国さまでした。
    しかし、お姫さまの心を射止められなかった兄弟たちは面白くありません。
    大きな岩を真っ赤に燃やし、大国さまにぶつけて殺してしまいました。

    殺された大国さまを救ったのは、大国さまのお母さまと、蚶貝姫(きさがいひめ)と蛤貝姫(うむがいひめ)という二人のお姫さまでした。
    お姫さまたちの看病によってふたたびこの世に戻ったのです。
    それでも、やっぱり兄弟たちの意地悪は止まりません。
    今度は山の中に閉じ込められ、またもやお母さまに助けられる始末。
    このままではまた兄弟たちに殺されてしまうと思った大国さまは、遠く根の国に逃げ込みました。



    根の国に逃げ込んだ大国さまは、その国のお姫さま、須勢理姫(すせりひめ)と出会い、恋に落ちました。
    須勢理姫さまはお父さまである須佐之男(すさのお)さまに「素敵な人を見つけました」とご報告。
    でも、須佐之男さまは娘を取られて面白くありません。
    須佐之男さまは、大国さまを諦めさせようと、数々の試練を与えます。
    大国さまは、須勢理姫さまと力をあわせ、試練を次々と打ち破ります。
    蛇たちがうじゃうじゃ蠢く部屋に閉じ込められたときには、蛇よけの魔法がかかった布で追い払い、
    百足(むかで)と蜂だらけの部屋に閉じ込められたときには、百足と蜂よけの魔法がかかった布で追い払い。
    野原に行かされ火をつけられたときには、鼠に案内されたほら穴に入りなんとか大火を避けました。

    そしてついには須佐之男さまも大国さまのことを認めます。
    地上に帰る大国さまに向け、「出雲の国はお前のものだ。わが娘を妻とし、兄弟たちを追い払い、立派な国を作るのだぞ」と応援の言葉を贈りました。

    地上に戻った大国さまは、意地悪な兄弟たちを追い払い、越の国の沼河姫(ぬかわひめ)などと浮名を流しながら、立派な立派な大国を造りました。
    大国さまの国は、葦原中国(あしはらなかつくに。日本の国のこと)と呼ばれ、たくさんの人々が幸せに暮らしていたと言われています。
    それにしても、大国さまの周りには何人のお姫さまがいるのでしょうか。
    大国さまは大変な美男子でしたから、お相手には事欠かなかったのでしょうね。



    やがて、長い時が経ち。
    葦原中国に高天原(たかまがはら。大国さまたちとは違う神さまたちが住んでいる天界)と呼ばれるところから使者が来ます。
    いわく、「この葦原中国は昔から私たちの国です。私たちに国を譲りなさい」とのこと。
    さあ、大変です。
    葦原中国はてんやわんやの大騒ぎになりました。


    さて、高天原。
    騒がしい下界に腹をたて、一番の神さま天照(あまてらす)は、八意思兼(やごころおもいかね)を呼びました。

    「この国をおとなしくさせるためには、どの神に頼めば良いでしょう」

    八意思兼さまは、高天原で一番頭のよい知恵の神。
    その八意思兼さまは言います。
    「天菩比(あめのほひ)が良いでしょう」
    しかし、天菩比さまは葦原中国に行ったきり、大国さまの仲間になってしまいました。
    「今度は弓と矢を持たせ、天若日子(あめのわかひこ)を遣わせましょう」
    しかし、天若日子さまは大国さまの娘と結婚し、戻ってきません。
    「ならば、鳴き女(なきめ)という雉を天若日子の元に飛ばし、仕事をするように伝えましょう」
    しかし、雉は天若日子さまに射殺されてしまいました。

    「ならば、建御雷(たけみかづち)と天鳥船(あめのとりふね)を向かわせましょう」
    さいごに八意思兼さまは言いました。
    建御雷さまは、剣の神である天尾羽張(あめのおはばり)の子、雷の神。
    かの神さまならば、葦原中国をおとなしくさせることも苦ではありません。

    こうして、建御雷さまは葦原中国に降りてきました。
    建御雷さまは大国さまに伝えます。
    「この国は、高天原のものです。さあ、国を譲りなさい」
    大国さまは答えます。
    「私には建御名方(たけみなかた)という息子がいます。まずは、その子に了解を取ってください」

    建御名方さまは、建御雷さまに戦いを挑みますが、結局は敗れてしまいます。
    そうして、建御名方さまは信濃の諏訪湖まで追い込まれ、高天原に国を譲ることと、もう二度と諏訪から出ないことを約束させられてしまいました。
    大国さまはその話を聞き、出雲の国に大きな神殿を建てることを条件に国を譲ると、数多くの曲がり角を抜けた遠くに隠れてしまいました。



    こうして、葦原中国は高天原のものとなりました。
    天照さまの孫、瓊瓊杵(ににぎ)さまは、知恵の神八意思兼さまとともに高天原から降り、この地を平定したのです。
    大国さまはその後、幽事(かくりごと。神さまたちのすること)を治めることになり、現世の歴史からは姿を消します。
    きっと、神さまたちの世界で、たくさんのお姫さまに囲まれて過ごしているんでしょうね。













       自分の心は騙せない  #1









   九月六日 (旧暦七月二十八日)



 参道の長い階段を登ると、だらだらと流れる汗を右腕でごしごしと拭う。
 夏はもう終わったとはいえ、まだ九月も上旬。残暑はまだまだ私たち兎を苦しめる。

 「あら、珍しいお客さんね」

 ちりんと風鈴の音がひとつ。
 縁側でお茶を飲んでいた巫女が息を切らしている私を見つめる。

 「うん、ちょっと話を聞きたくて」
 「そんなこと言って、また悪さを考えてるんじゃないの?」
 「私は罪のないかわいい兎だよ。人を騙すだなんてとんでもない」

 巫女は何も言わず肩をすくめた。

 「……で、聞きたい話っていうのは何なの?」
 「うん。霊夢たち、この間月に行ったんだって?」

 私はてくてくと縁側まで歩き、よっこらせと霊夢の隣に座る。

 「あ、お茶は冷たいのがあればいいな」
 「そんなの無いわよ。ま、出がらしでよければ持ってくるわ」

 霊夢はそう言うと、奥に引っ込んでいった。私のためにお茶を用意してくれるのだろう。
 彼女は、幻想郷を護る博麗の巫女。
 やたらめったら鋭い勘を持ち、なんでか解らないけど神さまたちから盲目的に愛されている。
 私はこう見えて人間に幸運を運ぶというおかしな力を持っているが、彼女に関しては能力の範囲外。
 私が運んでくる以前に、とんでもない幸運を持ち合わせている。

 聞くところによると、彼女は湖の近くに住んでいる吸血鬼たちと一緒に月へ行ったらしい。
 吸血鬼は月を征服しようと考えてたらしいが、結局は敗れ追い返されたと聞く。
 巫女や吸血鬼が簡単に負けるだなんてとても信じられないが、まあ相手が悪かったということなのだろう。なんとも情けない奴らだと思わなくはないが、その行動力は嫌いじゃない。

 「お茶請けは煎餅でいいかしら?」
 「お構いなく。お礼に茶柱たてといたよ」
 「どうでもいい幸運ね」

 霊夢に渡されたお茶をずずっと啜る。
 地獄のように熱い。この神社のお茶はいつもこんな感じなのだろうか。
 隣を見ると、霊夢は涼しい顔をして煎餅を齧っている。
 特に嫌がらせをされているようには感じないし、多分いつもこんな地獄茶を出しているのだろう。

 「霊夢は、月の都に行ったんでしょ? そこの兎って、どんな感じだった?」
 「どうもこうも、あなたたちとそんなに変わりないわよ。なんだか能天気で。
  街にはたくさんいたわね。月人より多いくらい」
 「ふぅん。割とすごしやすそうな所なんだね、月って」
 「まあ、そうね。
  便利な道具もたくさんあったし、治安も悪くないように見えたわ。
  だけど、すごしやすいかどうかは分からないわね。
  兵隊がたくさんいたし、戦争とかあるんじゃないかしら。地上の人間との戦いに備えてるとか言ってたけど」
 「そうなんだ。お師匠さまとか見てると、地上の人間が月人に勝てるとは思えないんだけど」
 「そういえば、地上の人間が相手ならそんなに構えなくてもいいのに、やたらと仰々しかったわね。
  準備を万端にしてるってことかしら」

 霊夢は煎餅を齧る手を休め、小さく首をかしげる。
 月の都のことを思い出しているのだろう。

 「あ、思い出したわ。
  兎と言えば、なんだか捕まって連れられてるのを何人か見たわよ。
  裁判にかけるんだ、って言ってた」

 鈴仙は言っていた。最近の月では、侵入者と協力をしていると怪しまれた兎たちが不当な裁判にかけられていると。
 霊夢の言ってるのは、その兎たちのことなのだろう。
 月の兎とはいえ兎は兎。気にならないことはない。

 「何したか知らないけど、月の兎も大変だねえ。
  裁判なんかにかけられるくらいなら、逃げちゃえばいいのに」
 「逃げてもすぐに捕まっちゃうんじゃないの?
  月人たちは、凄い道具をたくさん持ってるし」

 まあ、そうなんだろう。
 鈴仙も月からの追っ手が来ないかとびくびくしていたし、そう簡単に逃げられるものではないんだと思う。

 私は、その後も月の話に花を咲かせ、お日さまが頭の上に来たころに神社を後にした。




 次に向かったのは、白玉楼。
 昔と違い、今では冥界に行くのはそう難しいことではない。ちょっと遠いが、夏でもわりと涼しいし、目的があるのなら足を運ぶのはそう苦ではない。
 私はめったに寄り付かないところではあるけど。

 ここには、月の都からお酒をくすねてきたという亡霊嬢が住んでいる。
 今度は彼女に話を聞く。私はもっと、月の都のことを知らなければならない。

 霊夢の話と、昔聞いた永琳や姫さま、鈴仙の話とでは、ずいぶんと月の印象に違いがある。
 永琳や姫さまは、月の使者から逃げるように暮らしていた。
 姫さまに限っては、蓬莱の薬を飲んだ罪で何度も何度も処刑をされたとも言っていた。
 もちろん、蓬莱人は不老不死。処刑されても死ぬことは無い。ただ、月の都でいわゆる『死刑』にされたことは確かなのだ。
 鈴仙は、戦争の前に仲間を置いて地上に逃げてきたと言っていた。
 詳しくは教えてはもらえなかったが、その言葉からはどうにも殺伐とした印象しか受けることはできない。

 では、霊夢のほうはどうだろうか。
 霊夢の話からは、月の都はかなり暢気な印象を受ける。
 霊夢たちは、形はどうあれ月を侵略しようと出かけたはずだ。
 月人に言わせれば無謀なのかもしれないが、私はそうは思わない。少なくとも、地上の人間よりは吸血鬼や巫女のほうがずいぶんと強いように思える。
 なのに、彼女たちは負けても特に罰せられることはなく、単に地上に追い返されただけだという。そこには、血生臭さはあまり感じられない。
 私だって、人間を馬鹿にしてるわけではない。常識を武器に妖怪を追い詰める人間の強さは分かっているつもり。
 それでもなお、地上人に対する『戦争』と霊夢たちに対する『お遊び』の印象には違和感がある。月人たちの行動は何か一貫していないように感じてならない。
 矛盾した二つの話があるということは、誰かが嘘をついているということだ。

 ふよふよと浮いている幽霊を追いかけながら、私はぴょんぴょんとお屋敷まで進む。




 「月の都? んー、兎がいっぱいいたわよ。
  詳しいことなら、紫のほうが知ってるんじゃないの?」
 「月の都ねえ。まあ、住みにくそうなところ。戦争はあるし、自由は無いし」

 白玉楼には、庭師と亡霊嬢のほかに、八雲紫という胡散臭い妖怪がいた。
 この妖怪は、何度も月に行ったことがあるという重要人物。
 亡霊嬢の友達だという話は聞いたことがある。今日は偶々一緒にいたってことなんだろう。
 彼女にこの場所で出会えたことは幸運だった。彼女の住処は私もよく知らず、話を聞きたくてもどうしたらいいのか分からなかったからだ。

 「住みにくそうなところ? んー、でも、便利な道具はあるって言うし、住みやすいんじゃないの?」
 「まあ、確かに科学は発展しているんだけど。
  でも、侵略者がいるとなればすぐに戦争しようとするし、規則はがちがちで窮屈だし。
  ここのほうがよっぽど気楽だわ」
 「あら。でも、美味しいものたくさんあったわよ。
  兎たちもかわいいし、私は嫌いじゃないわ」
 「それは、住んでいないからよ。
  幽々子も実際にあそこに住んだら、今のようにのんびりとは暮らさせてくれないわよ」

 亡霊嬢と妖怪の賢者はくすくすと笑いあう。
 なんというか、近所のおばさんたちのお茶会のような雰囲気だ。私みたいに若くてぴちぴちの兎にはちょっと場違いな、そんな雰囲気。
 そんなわけで、なんとなく隣の庭師に声をかける。

 「妖夢も月に行ったんでしょ? どうだった?」
 「んー? どうなんでしょう。兎と遊んだり料理をいただいたりしただけで、特別なことは何も」
 「月には、白玉楼みたいな立派なお屋敷とかはあった?」
 「それはありましたね。なんでも、月の神々が住んでいるとのことでしたが、山の神社にいる神さまと同じような感じで、人間とあまり変わりませんでした」
 「あら妖夢。でも、霊夢なんかは月にいる神さまを召喚したりできるみたいだわよ。
  月にいるのに、事あるごとに急に呼び出されるだなんて、神さまも大変よねえ」

  亡霊嬢はころころと笑う。
  ひとしきり笑うと、私のほうを見て口を開いた。
  いや、口を開いたというのはおかしいか。芙蓉の花が描かれた美しい扇子を開いているので、その口元を窺えはしない。

 「それで、兎さん。知りたいのは、大国さまのことかしら?」
 「大国さま? 大国さまは月にいるの?」

 私は、思いもよらないことを聞かれたかのように答える。
 それほど仲がいいわけでもないが、この亡霊嬢とはもう何百年も面識がある。
 彼女は私を因幡の素兎だと知っているし、神さまのことを尋ねた時にはこんな返答が来ることもあるだろうと思っていた。
 聞きたいのはまさにそこだが、わざわざ本心を教えてあげる義理もない。
 なので、私は知らんぷりをする。
 亡霊嬢は、しばらくの間私の顔を窺っていたが、やがて諦めたように続けた。

 「ふぅん、まあいいわ。
  大国さまがいるかどうかは知らないわね。私の知っているのは月の都の一部だけだし。
  でも、大国さまは幽事を治める方でしょう?
  ならば、あれだけ神さまがいる月にいても、おかしくは無いとは思うわ」
 「そうなのかな?」
 「そうだとしたら、どうするの?」
 「もちろん、なんとかして月に行こうと思うよ」

 私は本心を言う。

 「私が月に行きたいって言ったら、スキマを開いてくれる?」
 今度は紫の方を向いて。

 「嫌よ。もう月はこりごり。
  今後、月にちょっかい出さないって約束させられちゃったし。
  それに、大国さまは出雲にいらっしゃるんじゃないかしら。月に行っても無駄だと思うわよ」
 彼女は、真剣な顔をして私を睨む。
 「もしもあなたがそれでも月に行こうと言うのであれば、私は全力でそれを止めるわ。
  それは、幻想郷のためだけでなく、あなたのためでもある。
  あなたごときが月に行っても、何もできやしない」
 「……それは怖いな。
  分かったよ。月には行かない。私も長生きしたいし」

 私は精一杯怖がって答える。
 紫と正面から戦っても、軽く捻られるのが落ちだ。自慢じゃないが、私はそんなに強くない。

 しかし、どうも紫の力を借りるのは難しいらしい。
 まあいいさ。
 もともと、あんたの力なんて、借りようとも思ってなかったしね。
 それに、紫は大国さまは出雲にいると思ってるかもしれないけれど、あの大社に封印されてると思ってるみたいだけど、それはきっと間違い。
 紫は色んな事を知ってるけど、この事に関してだけは、私のが詳しいよ。




 私はその後も、考えられる限りの場所に行き、色々な話を聞いた。
 魔法の森、紅魔館。人里や守矢の神社にも行った。
 成果はまあ上々。
 私は意気揚々と迷いの竹林に帰る。







   九月十ニ日 (旧暦八月五日)



 永遠亭は、純日本風の建築物である。
 平安時代の貴族屋敷を模して造られたそれは、東西と北に対屋(たいのや)と呼ばれる離れ屋を持ち、南には庭園、中央に寝殿とよばれる本殿を配する。
 いわゆる、寝殿造りと呼ばれるものだ。
 ここには、白玉楼や紅魔館とは違い取り立てて腕の良い庭師はいないが、それでも兎たちの手入れによって見事な景観を保っている。
 ご存知の通り、日本家屋は密閉性が低い。
 ここ永遠亭ももちろん例に漏れない。どこの部屋からも御簾を開けさえすればすぐに外の空気が流れこみ、季節に応じた庭園の彩りを楽しむことができる。

 しかし、その奥の奥には、周りと一線を画す密室が存在する。
 金属製の厳重な扉で仕切られたそれは、不審な者の進入を決して許さない。
 永遠亭の賢者、八意永琳の研究室である。



 「……永琳、入るわよ」

 ノックの音と共に、輝夜の声が聞こえてくる。
 ちょうど息抜きをしたかったところだ。私は、どうぞと答える。

 「あら、取り込み中だったみたいね」

 輝夜は周りをきょろきょろと見回す。
 研究室は雑然としている。私がひっくり返した文献が散らばっているのだ。

 「ちょっと薬の研究をね。大国さまの薬、聞いたことがあるでしょう?」
 「ああ、いたずら者のイナバが使ってるやつね。大国主尊は医療の神なんだっけ」
 「そうね。それを復元しようとしているんだけど、上手くいかなくって」

 輝夜は、「ふぅん、永琳にも作れない薬があるんだ」と言い、椅子に腰を下ろす。
 私はお茶を入れると、輝夜の横に腰掛ける。

 「それで、今日はどうしたの? こんなところまで」
 「ああ、それね。
  大した用じゃないんだけど、ほら、もうすぐ中秋の満月でしょ? 今年のお祭りはどうするのかなあと思って」

 中秋の満月とは、旧暦で言う八月十五日の夜の満月のことだ。十五夜とも言う。
 この日は、私と輝夜にとっては特別な日でもある。
 それは、地上に流された輝夜を迎えに来た日。
 私が月の使者を斬り殺し、輝夜と共に地上に住むことを決めた日。
 輝夜と永遠の命を分かち合った日。

 「なんだか、兎たちがたくらんでいるらしいわよ。
  てゐがびっくりハプニングを用意しているって」
 「びっくりハプニング?
  やだ、ハプニングってだいたいびっくりするものじゃない。それに、話しちゃったらびっくりしないわ」

 輝夜は口元を袖で隠すと、可笑しそうにくすくすと笑う。
 こういうところは実に可愛らしい。私も思わず笑みをこぼす。

 「ま、なんだか良からぬことをたくらんでるみたいだけどね。最近姿を見かけないし」
 「それでもいいじゃない。お祝いしてくれるだけで嬉しいわ。
  昔は、私と永琳だけだったもの。今は兎たちがいて、一緒に満月を祝ってくれる。
  それに、こんなふうに十五夜を楽しみにできる日がまた来るとは、思ってもいなかったわ」

 昔、地上に降りた私たちは、月からの追っ手におびえてこの屋敷に引きこもった。
 満月は地上と月との距離が最も縮まる日でもある。
 輝夜は満月のたびに、月から追っ手が来やしないか怯え、私の側で震えていたものだ。

 しかし、その原因は私にある。
 輝夜の心も読めず、蓬莱の薬を作ってしまったこともある。
 それに、あの日輝夜は罪を許され、月に戻るところだったのだ。それなのに、私が月の使者を殺したがため、輝夜は再び地上に封させることになった。
 私はあの満月の夜のことを思い出す。
 あの日の輝夜の顔は忘れられはしない。
 私は、確かに輝夜を連れ戻すつもりだった。
 一度穢れた身なれば、月へと戻っても自由な生活はできないかもしれない。だが、それでも私がずっと支えていけばいいと思っていた。
 しかし、久しぶりに彼女の顔を見た時にはもう、彼女を月に連れ帰ろうとは思わなかった。
 あの夜。地上で見た彼女は、悲壮な決意を浮かべていた。
 たとえ罪に溺れていようとも穢れに塗れていようとも、その姿は何よりも美しかった。天球に映る十五夜の満月までもが色あせるほどに。
 彼女は言っていた。
 地上が好きだと。
 彼女は言わなかった。
 月に戻りたくないとは。
 そして私は、彼女を護ろうとする地上の兵士たちと、彼女の決意の表情とを見て悟ったのだ。
 彼女がなぜ月に戻ろうと決めたのか。彼女が何を護ろうとしているのか。
 あの夜、彼女は護りたいものを護るため、自分にただひとつ残された方法を取ろうと決心したのだ。
 たった一つだけ彼女が抱いた願い、地上への想いを永久に封印して。
 月の姫は、永久の時を犠牲にし、地上で過ごした二十年にも満たない日々を護ろうと思ったのだ。

 だから私は、彼女の想いを護った。
 私が護りたいものを護るため、永久の時を犠牲に自分にただひとつ残された方法を取ったのだ。
 「本当は帰りたくないのでしょう?」
 あの夜、私は聞いた。輝夜はずっと答えなかったが、最後に小さく頷いた。
 私は月からの使者を殺し、彼女と共に地上に住むことを決めた。



 「ねえ、永琳。
  永琳は後悔しているかしら。あの夜のこと」

 輝夜が心配そうに私の顔を覗き込む。

 「欠片も後悔などしていないわ。
  それに、過去には意味が無い。過去は無限にやってくるから、今を大切にするべきだというのは輝夜の言葉でしょ?」

 私は輝夜に答える。
 鏡を見なくても解る。今の私は、迷いのない微笑を浮かべているのだろう。
 輝夜は、私の表情に満足したかのように微笑みを返す。

 「それならよかった。
  じゃ、もう行くわね。面白い話も聞けたし、研究の邪魔をしちゃ悪いし」
 「はい、また後でね」

 永遠より須臾を尊ぶ地上の姫は、私に手を降ると研究室を去った。
 おそらく、てゐの元にでも行ったのだろう。
 輝夜のことだから、てゐの言っていた『びっくりハプニング』にもう興味津々といったところだと推測できる。
 私は、再び研究に戻ろうと、文献を紐解く。


 ――それにしても。
 私は思う。
 てゐはあのとき、『大国さまは月にいるんだ』と言っていた。
 小さな小さなつぶやきだったけど、彼女は私に聞こえていないと思っていたようだけど、私は確かに聞いていた。

 てゐというのは、掴み難い兎だ。
 初めて出会ったのは、地上に住処を移して数百年が経ったころだっただろうか。
 彼女はどこから入り込んだのか、輝夜の永遠に護られた永遠亭にやってきて、「ここは昔から私たち兎の縄張り。でも、兎たちに知恵を授けると約束してくれるなら、あなたたちの助けをするよ」と言った。
 私はぞっとした。
 この台詞を吐けるというのはただ事ではない。
 それは、私たちが兎に知恵を授けられると知っていないと言えない台詞であるから。
 永遠亭は迷い込める場所ではない。彼女はなんらかの手段で、目的を持ってここにたどり着いたのだ。
 つまり、てゐは私たちが兎に知恵を与えられることを知っていて、そして確固たる意志を持って接触してきたということになる。

 多分、てゐは輝夜を迎えに来た夜のことを知っているのであろう。
 あのとき、私たちは月の兎たちを引き連れて地上に来ていた。
 それを目撃しているのであれば、我々が兎に知恵を授けることができると考えたとしても不思議ではない。

 あのとき私は、一度は申し出を断ろうと思った。
 私たちが月人であることを知られているのはまずい。可及的速やかに兎たちを始末しようと。
 だが、輝夜は違った。
 久しぶりの客に興奮し、兎たちと一緒に暮らしていきたいと言ったのだ。
 もちろん、永遠亭は人手が足りてはいなかったこともある。
 兎たちの良いところも分かっている。月の兎に知恵を授けたのは、他でもない、私だったから。
 だけど、一番の理由は輝夜がそう言ったから。
 私は、兎が何をたくらんでいても、いざとなれば私がなんとかできるだろうと考え、最後には輝夜の意向を了承したのだ。


 その時から、私たちと兎との奇妙な合同生活が始まった。
 それは、輝夜が忌み嫌った月での生活と同じ。
 兎は能天気でたいした力を持ってはいないが、言われたことはきちんとしようとするし、単純労働力としてもペットとしても優秀だ。
 本当なら、それでもたくさんの兎たちに言うことを聞かせるためには苦労するのだが、永遠亭にはてゐがいた。兎たちはてゐの言うことをよく聞いていたから、兎の統率に追われて逆に面倒が増えるということもない。
 兎たちは時に働き、時にいたずらをし、私と輝夜だけだった永遠亭に変化をもたらせてくれた。
 兎たちと過ごしたこの数百年間、それは、決して悪い時間ではなかった。
 経緯はどうあれ、今の私は兎たちを、そのリーダーであるてゐを決して嫌ってはいない。


 だが、結局てゐは、何をたくらんでいるのだろうか。
 あのとき言っていた言葉とあわせて考える。
 彼女は、大国主尊が月にいると言っていた。
 それは正しい。
 しかし、なぜてゐはそのことを知っている?
 出雲には立派な神社が建てられ、完璧にそこにいるということになっているはずだ。
 私は兎たちと暮らすことを決めたあの日から、てゐに余計なことを漏らさぬよう常に注意していたはずだ。
 てゐが何かをたくらんでいることは、元から分かっていた。
 だから、ずっと隙を見せないようにしてきたのだ。それはもう、単純な落とし穴でさえ絶対に引っかからないように。

 「……師匠、師匠!」

 ふと、誰かが呼んでいる声が聞こえて、私は思考の海から顔を上げた。
 目の前には銀の髪と紅い瞳。
 鈴仙がじっと私のことを見つめている。
 彼女は月から逃げてきた兎。私の弟子でもある。
 それにしても、目の前にいるのに気づかなかったなんて、私もずいぶんと考え込んでいたものだ。

 「あら、うどんげ」
 「もう、何言ってるんですか師匠。さっきからずっと呼んでいるのに」
 「悪いわね。ちょっと考え事をしていたわ。
  それで、何の用かしら」
 「そろそろお食事の時間ですよ。単に呼びにきただけです」

 いつの間にか、日も暮れてしまったらしい。
 「わかったわ」
 私はそう言い、席を立つ。
 長い間考え事をしていたせいか、少し立ちくらみをした。







   九月十三日 (旧暦八月六日)



 「あらイナバ。ここにいたのね」

 竹林で罠をしかけていた私は「んあ?」と奇妙な声を上げる。
 姫さまだ。
 こんなところにまで、何の用だろう。

 「月のイナバに聞いたら、ここにいるって聞いて。
  またいたずらをしようとしているのね」

 この人は、本名を蓬莱山輝夜という、月の姫だ。
 私はこう見えてかなり長く生きているが、この人ほど姫っぽい姫は他に見たことがない。
 兎から見てもとても綺麗だし、物腰は柔らか。何をやっても気品に溢れる。
 それでいて我侭で、何事も他人の言に左右されない。
 永琳以外の人妖は『下々の者』と考えているようだが、それでもその下々の者には優しく接しようとしてはいるようだ。上から。
 彼女に言わせれば、姫は全ての者に平等に愛情を注ぐ、ということなのだろう。
 あんまりに姫っぽいので、私も彼女のことを姫さまと呼んでいる。

 姫さまは、私たち兎のことを全員ひっくるめて同じように『イナバ』と言う。
 一度、ちゃんと名前で呼んで欲しいと言ったことがある。お前はまだ私の名前も覚えていないのかと。
 そしたら、彼女は「姫たるもの、部下に優劣をつけてはならない。あなたの名は知っているけど、全ての兎の名前は分からない。名前のない兎もいるみたいだし。だから、私はひっくるめて『イナバ』と言うの」と言っていた。
 納得できるような気もするし、納得いかないような気もする。
 それにしても、なぜイナバなんだ。私は確かに因幡生まれだけど、他の兎がそうだとは限らないぞ。鈴仙なんて月の生まれだし。
 私が昔そう言ったら、姫さまは「それでも兎のふるさとは因幡でしょ?」などとのたまっていた。
 大雑把な奴だ。

 「で、こんなとこまで何の用なの?」
 「ふふ。あなたがびっくりハプニングとやらをたくらんでいると聞いて。
  最近姿を見せなかったのも、そのせいなの?」

 なるほど、永琳に聞いてやってきたのだな。

 「教えちゃったらハプニングじゃないよ。
  ま、十五夜にはプレゼントも考えてるから、期待しておいて」
 「プレゼント? なにそれ」
 「あ、それは師匠に聞かなかったんだね。
  師匠が大国さまの薬を欲しいって言ってたから、それ」

 姫さまはふむふむと頷く。

 「なるほどね。
  永琳、そういえば大国さまの薬を調べてるんだー、とか言ってたわ」
 「そうなの? 師匠が大国さまの薬の作り方を知らないって、本当なんだ」
 「そうみたいね」

 半信半疑だったが、やはり永琳は大国さまの薬についてよくは分かっていないようだ。
 私はほくそ笑む。

 ピースは埋まった。
 永琳には三つの隙がある。
 そのうち二つは、もう分かっていたこと。
 最後のひとつは、大国さまの薬について知らないこと。
 おまけに、私には二枚のジョーカーがある。
 理屈だけじゃない。感覚で私は確信する。
 永琳を出し抜ける。私は大国さまに会える。

 「それで、姫さま。
  びっくりハプニングがなんだか知りたくて来たの?」
 「あら、教えてくれるの?」
 「うん。姫さまだから特別。師匠には内緒だよ」

 まずは、声を潜めると、私は懐から薬を取り出した。
 大国さまの薬を。







   九月十四日 (旧暦八月七日)



 「師匠! お師匠さま!!」

 鈴仙の叫び声で目を覚ます。
 眠い目をこすりながら、周りを見回す。
 寝室の暗闇の中に、鈴仙の紅い瞳が浮かんでいるのが見えた。
 まだ夜明けは遠いようだ。こんな時分にどうしたというのだろう。

 「どうしたの、うどんげ。そんなに慌てて」
 「姫さまが……姫さまが大変なんです!
  てゐが持ってた薬を飲んだらしくて、それで、血を吐いて倒れてしまって……」

 思わぬ報告に視界が歪む。
 輝夜が薬を飲んで……? 蓬莱人に効く薬などあろうはずもないのに。
 まさか、大国主尊の薬? あれであれば、あるいは。
 ともあれ、時分の目で状況を確かめなければ何もわからない。

 「……すぐ行くわ」
 私は寝間着のまま、鈴仙の後を追った。




 輝夜の自室には煌々と灯りがともされていた。
 入り口の奥、外と繋がる蔀戸(しとみど)の側にてゐが。その手前に輝夜が横になっている。
 枕元には夥しい血。常人なら、生死が危ぶまれるところだ。
 私はすぐに輝夜に駆け寄る。わずかではあるが、呼吸はある。心音は儚い。
 顔色は悪く、慌てて口唇に指を伸ばす。青紫色をしている。チアノーゼを引き起こしているのだ。
 もちろん、輝夜は蓬莱人であり、これで死ぬことは有り得ない。
 しかし、私には違和感が付きまとって仕方が無い。見た目は血液欠乏と血素不足が併発しているように見える。だが、チアノーゼは貧血と併発しない。病状は異常だ。

 「……てゐ、これはどういうことかしら」
 私はてゐを睨む。
 鈴仙は、てゐの薬でこんなことになったと言っていた。なれば、彼女に確かめねばなるまい。

 「大国さまの薬を飲ませただけだよ。十五夜にはまだ早いけど、私の姫さまと師匠へのプレゼント」

 てゐは悪びれずもせずにそう言った。口元には笑みを浮かべている。
 私は自分の血液が沸騰するのを感じた。
 この兎が何をたくらんでいるのかは知らない。
 だが、言うに事欠いてプレゼントをしただけだと?
 兎風情が、輝夜を苦しめて許されるとでも思っているのか。

 だが、それでも私は怒りをこらえる。
 てゐの言うことには明らかな矛盾がある。そこを聞かなければならない。

 「…………あなたの持っている薬に、いや、大国主尊の薬には、こんな症状を引き起こす力はなかったはず。
  嘘を吐くな! 何をたくらんでる!」
 こらえたはずの怒気が口をついて弾ける。
 だが、てゐは笑いを止めない。
 「確かに私はこんな薬は持ってなかった。これは、大国さまのところに行って貰ってきたものだよ。
  それに、お師匠さまは大国さまの薬の何を知っているの? 私には、何も知らないように見えるよ」
 「っ……」
 私は口ごもる。

 「ま、姫さまがいくら蓬莱人でも、治せるのは大国さまの薬だけだよ。これは復讐。私たちのね」
 てゐはそう吐き捨てると、ひらりと蔀戸を乗り越える。
 「待ちなさい!」
 私は慌ててその後を追う。ここで逃がすわけにはいかない。
 「鈴仙、姫さまを頼んだわよ!」
 言い残すと、私はてゐを追って深夜の竹林に駆け出した。




 七日夜の月には様々な別名がある。
 上弦、弦月、恒月、破鏡。弓張月というのは、半円の月が弦を引いた弓に似ていることからつけられた名前だ。
 その七日夜の半月も、もう南の空に沈もうとしている。
 竹林に明かりは乏しい。真夜中の風が竹の葉を揺らす音だけがざわざわと響く。

 竹林はてゐの世界だ。
 てゐは水を得た魚のように、複雑に生い茂った竹の間を迷いも無くすり抜け駆けていく。
 彼女の通る後にはところどころ真新しく掘り返された土や笹が結び合わされた後があり、仕掛けた罠の存在を私に知らせる。
 見破るのはそれほど難しいことではない。てゐの足跡に合わせて走ればいいだけの話だ。
 実際には空を飛んだほうが簡単なのだが、生い茂る竹は自由に飛ぶことを許さない。必然、空を飛ぶのと地面を走るのをかわるがわる繰り返しながら追いかけることになる。
 もちろん手加減はしているつもりもないが、このような状況では追跡の速度も上がらず、兎との距離は広がる一方だ。

 「ずいぶんだらしがないね! そんなことで私を捕まえられると思ってるの?」
 リズミカルに竹林を駆け抜けながら、てゐが減らず口を叩く。
 だが、ここで逃がすわけにはいかない。
 私は懐から一枚のカードを取り出し、掲げた。
 「――操神『オモイカネディバイス』!」
 オモイカネ。遠い昔に用いた自らの名。
 その名を冠する秘術は、全ての視覚聴覚による情報と重ねてきた知識経験を一瞬で統合し、私に至るべき道を指し示す。
 暗闇がなんだ。罠がなんだ。人を迷わせる竹林がなんだ。
 そんなちっぽけな理由で、私から逃げることなどできやしない。
 てゐは変わらず、私を罠にはめようと右に左に蛇行しながら走っていく。しかし私は、もうそれをそのまま追いかけたりはしない。
 私の前には、一本の輝く道がある。スペルカードによって示された、正解に至る道が。
 私はその道をたどる。終着地で待ち受けるために。逃げた兎を後ろから追いかけ、前で待ち受ける。その程度のことが私には可能だ。




 道が指し示していたのは、十間(およそ18m)四方程度の開けた場所だった。
 土の上には、一面に竹の葉が散らばっている。中腰になり、足元の葉をどかしてみると、真新しい落とし穴が現れた。どうやら、この場所には無数の罠が仕掛けられているらしい。
 天球を仰ぎ見る。月が落ちた夜空に、わずかに糸のようなものが見える。おそらくはこれも罠の一種だ。
 ここは、私を振り切れなかった場合に、それでも最後に逃げ切るための場所なのだろう。が、いくら罠をはろうとも、ネタが割れていればどうということは無い。
 ただ、てゐの首根っこをひっ捕まえるだけだ。

 しばらくすると、てゐが姿を現した。
 私が待ち構えているのを見て、ぎょっとした表情をする。
 「ずいぶん遅かったわね」
 元来た道を慌てて引き返そうとするてゐは、目の前にある光の糸にたじろいだ。もちろん、私が張ったものだ。
 「なによ、これ。こんなの、いつの間に張ったの?」
 「天網蜘網捕蝶の法。天にも地にも張り巡らされた光の蜘蛛の巣は、いかなる者も逃さない」
 てゐがきょろきょろと左右を見回し、次に天空を仰ぐ。そして、その全てに青白く光る蜘蛛の糸が張り巡らされていることを知る。
 しかし、もう無理だ。
 地を走ろうとしても、そこに道は無い。空を飛ぼうとしても、網にかかるだけ。
 彼女の逃げ道はもはやどこにも無い。
 「もう、逃げようとしても無駄よ」
 私は勝利を確信し、彼女が焦燥した顔で振り返るのを待つ。
 だが、振り返った彼女の顔は、まだまだ余裕があるように見えた。

 「すごいね。この技。罠には引っかからないし、逃げてたつもりが待ち伏せられていたり、やっぱり師匠はすごい」
 「そんなお世辞、どうでもいいわ。それより、なんであんなことをしたの?
  姫さまと一緒にたくらんで、私に『びっくりハプニング』でも味わわせようとでもしてるの?」
 私はひとつの推論を口にする。
 怒りにまかせててゐを追って来たはいいが、やはり蓬莱人に効く薬というのは眉唾だ。
 また、てゐは大国主尊のところに行って薬を貰ってきたと言っていたが、それは無い。彼女が月に行けるわけが無いのだから。
 だから、てゐには輝夜に薬を盛るなどとができるはずもなく、それはつまり、今夜の事件が狂言であるという推論に至る。
 私をこうやって怒らせておいて、皆で『全部嘘でした。てへっ☆』とかやるつもりなんではなかろうか。
 でも、もしもそんな答えだったとしても、てゐにはこっぴどくお仕置きをせねばなるまい。残念ながら、私はそんなに洒落が通じる方じゃない。

 ――だが。
 だが、やはり引っかかる。
 輝夜の病状は異常だった。確認したのは短い時間ではあったが、私は確かに紫色に染まった輝夜の口唇を見た。
 あれは、健康な人間が見せる色ではない。
 だから私は、一抹の不安を捨てきれない。
 もしかすると、本当に大国主尊の薬のせいではないのか。
 輝夜は危険な状況に陥ってるのではないのか。

 「……いや、確かに『びっくりハプニング』だけどね。
  それはきっと、師匠が考えてるようなことじゃないよ。姫さまは、大国さまの薬を飲んで倒れた。治せるのは大国さまの薬だけ」
 「嘘おっしゃい!」
 「嘘じゃないよ。それに……」
 「それに、なんなのよ」
 「それに、こんなところで油売ってていいの? 永遠亭には、私の他にもたくさんの兎がいるんだよ?
  姫さまが心配だとは思わない?」

 てゐは余裕の表情を崩さない。
 しかし、そんなことでは私は動じない。

 「お生憎様。屋敷には鈴仙がいるわ。いくら数がいても、地上の兎たちがあの子に勝てるとは思えないわね」
 「んー、どうだろ。でも、ちょっとは気になっていたんじゃない? 私なんて放っておいて帰ったほうがいいんじゃない?
  ほら、二兎を追うもの一兎を得ずって言うじゃない」
 「そうね、確かにそんな格言もあったわ。だったら……」
 私は自分の周囲に弾幕を作る。
 「あなたを捕まえることだけに専念するとするわ!」

 同時に飛ばしたのは四発、いや五発であろうか。てゐはしかし、瞬間的に横っ飛びをして避ける。今までてゐが立っていた地面を弾が抉る。土煙が起こる。
 てゐが撃ち返してくる。右後ろにステップ。余裕を持ってかわし、こちらも撃ち返す。
 「そんな弾には当たらないよ!」
 弾幕と共にてゐの笑い声が飛んできた。
 私は黙って応射。
 冷静に、てゐを罠に囲まれた一角に追い込んで行く。
 ここにある罠は、全ててゐが作ったものだ。しかし、今やそれは、てゐを追い詰める道具でしかない。
 「無理よ。私からは逃げられないって言ったでしょう?」
 夜空に跳ねたてゐを追って二発。着地地点に三発。
 てゐはよく逃げ回ってはいるが、捕まるのは時間の問題だ。いくら飛び跳ねたとしても、天網蜘網捕蝶の法に囲われた空間は狭い。無限に逃げ続けるのは不可能だ。
 「……っ!」
 てゐの右脚に弾がかすめる。
 余裕がなくなってきたのだろう。彼女は小さな呻き声をもらす。
 てゐはそれでも逃げ回っていたが、やがて、狙った一角に追い詰められた。
 勝負あり。
 私はてゐに狙いをつける。これで最後だ。もう逃げ場は無い。
 てゐは驚いたようにきょろきょろと周囲を見回す。
 罠に囲まれていることに気がついたのだろう。やがて肩を落とした。

 「やれやれ……」
 「あら、もう降参かしら? まあ、よくがんばったほうだと思うわ」
 「やれやれ、こんなところに追い込んで、勝ったつもりだなんて。
  月の頭脳も、焼きが回ったってところかね」

 私は、もう勝負がついたと思った。
 後はてゐをひっ捕まえて、永遠亭に戻るだけだと思っていた。
 だが。
 だが、てゐはまったく勝負を諦めてなどいなかった。
 彼女は不敵な顔を上げると、いつの間に掌に握っていただろう、一枚のスペルカードを掲げた。

 「天網蜘網捕蝶の法? 天地に張り巡らされた光の蜘蛛の巣?
  笑わせる。その程度の術じゃ、逃げる兎は捕まらないよ。
  さあ見ろっ! 脱兎、『フラスターエスケープ』!」

 スペルカードが光り、兎たちが現れる。
 兎たちは一斉に飛びはね、私から逃げて行く。
 しかし、もちろん逃げることはできない。光の糸にぶつかった兎は跳ね返され、慌てたように反対側に逃げようとする。もちろん、反対側に逃げても結果は同じ。光の糸に跳ね返されるだけ。
 仕舞いには、落とし穴に落ちる兎もいる始末。
 「こんな子供だましで、何をしようと言うの!?」
 声を張り上げながら、兎を避ける。
 このスペルカードは知っている。兎に見えるものは、形を変えた弾幕だ。避けないわけにはいかない。
 が、この弾幕は障害物に当たると跳ね返り、あちこちに飛び跳ね回るので軌道が読みにくい。
 避けられないということは決してない。注意すれば怖いスペルでもない。
 私は慎重に軌道を読み、一つ一つ兎から身をかわす。
 兎たちは飛び跳ねるのに疲れたかのように一匹一匹と消えていき、やがて全ての兎たちは消えた。
 兎たちのねずみ花火が弾けたあとは、そこにはてゐの姿もない。残るのは、ただ静寂だけ。

 「…………」
 煙幕を張り、どこに隠れたのか。
 私は、注意深く周囲を見回す。影から私を狙っているかもしれない。慎重に。
 てゐは四方を罠に囲まれていた。少しだけ目は離したが、そうそうめったなところに隠れてはいないはずだ。
 空も地上も塞いでいる。焦る必要は無い。不意打ちにさえ気をつければいい。
 空にもいない、草陰にもいない。
 残るのは、スペルカードによって生み出された兎たちが落ちた、落とし穴だけ。この中に隠れているのだろうか。

 私は、いくつも開いた落とし穴の一つに近づき、中を覗き込む。
 思ったよりも深い。奥に何か潜んでいても分からない。
 一瞬悩んだが、心を決めて降りてみる。
 大人二人ぶん程度の深さの穴の底からは、しゃがめば通れるくらいの横穴が伸びていた。どこまで続いているのかは分からない。
 「これでは、追いかけても無理ね……」
 狭い横穴では、どうしても小さく土地勘もあるてゐには追いつけないだろう。
 私は落とし穴を出ると、怒りにまかせて生えている竹をへし折った。




 屋敷に戻った私を待っていたのは、真新しい戦闘の爪痕だった。
 踏み荒らされた地面、焦げ目のついた蔀戸。いずれも、昨日までは無かったものだ。

 ――永遠亭には、私の他にもたくさんの兎がいるんだよ? 姫さまが心配だとは思わない?

 てゐの言葉を思い出す。
 私は委細構わず輝夜の部屋に駆け込んだ。
 血で汚れた寝具はすでに片付けられていた。だが、壁や床には弾幕の焦げ痕がはっきりと残る。
 「鈴仙! どこにいるの、鈴仙!」
 声を張り上げて弟子の名を呼ぶ。沈黙が返ってくる。
 いるのであれば、聞こえないわけが無い。
 私は不安になる。
 戦闘があったのはいい。
 だが、戦闘を起こした者はどこにいるのだ。
 輝夜は? 鈴仙はどこに行った?
 不安を拭うように、部屋の扉を開けていく。どの部屋にも、人の気配はしない。もちろん、兎の気配も。
 あれだけいた妖怪兎たちはどこへ行った? なぜ、全ての者がいない?
 最後に、自分の研究室にたどり着く。扉は厳重に閉ざされ、開かれた気配は無い。この部屋は、私以外に開けることは出来ない。

 鍵を開け、扉を開く。
 すると、一枚の紙がひらりと床に落ちた。
 私は拾い上げる。鈴仙の字。これは、私に宛てたメッセージだ。私以外に開けることの出来ない扉に挟まれた手紙。最初に見つけることが出来るのは私だけだ。
 手紙に目を通す。そこには、走り書きでこう書かれていた。


    兎たちが反乱を起こしました。
    ここは危険なので、姫さまと共に身を隠します。







   九月十八日 (旧暦八月十一日)



 あの日から数日が経った。
 あれから私は、屋敷に手がかりが残されていないか探し、迷いの竹林でてゐを探した。しかし、何の成果も得られていない。
 この屋敷にはいまや私しかいない。輝夜は消えてしまった。鈴仙も、てゐも。あれほど騒がしかった兎たちも姿を消した。
 輝夜と鈴仙は、未だ行方がつかめない。もちろん、屋敷にも戻ってきていない。
 なぜこんなことになったのだろう。てゐは何を考えているのだろう。
 与えられた少ない情報から、私は考える。

 てゐは、大国主尊に薬を貰ってきたと言っていた。また、これは復讐だとも言っていた。
 また、大国主尊が月にいるとも言っていた。
 ここに至っては間違いない。彼女は知っている。もしくは、高いレベルで推測している。

 遠い昔、大国主尊から私たち月の民は地上を奪った。
 あのとき、地上侵略を指揮していたのは他でもない私。
 てゐは、そのころから私の顔を知っていたのではないのか。
 彼女が永遠亭にやって来た時のことも踏まえると、さらに推測は補強される。
 てゐが言っていた言葉、『兎たちに知恵を授けてくれるのなら、協力する』。
 この言葉は、私が月の民だと知っていたことを示している。引き連れて輝夜を連れ戻しに来たあの夜、私たちはたくさんの月の兎たちを引き連れていたのだから。
 いずれにせよ、てゐの企んでいることは、この知識が礎になっているはずだ。

 今、私の前には二つの物語がある。
 一つは、こういう物語だ。
 てゐは、大国主尊の復讐のため、輝夜に毒を飲ませた。その上で、私を引き離した上で兎たちに輝夜を襲わせた。
 だが、鈴仙の機転により、輝夜はかろうじて難を逃れた。
 なるほど、輝夜を襲うというのは、私たちにとっては一番効く復讐の方法なのかも知れない。
 しかし、この物語には違和感がある。
 まず、てゐが大国主尊のところまで行けるかということ。
 そして、もう一つは単純に、今さら復讐などするだろうか、ということ。
 だが、いくら違和感があるとはいえ、私は未だこの物語を否定できずにいた。

 大国主尊は月にいる。そして、地上の兎が月に行くことは不可能だ。いや、不可能なはずだった。
 私はこの数日で、封印した月の衣、鈴仙が月から逃げてきたときに使っていた月との移動手段が無くなっていることに気がついている。
 あれがあれば、月に行くことは不可能ではない。
 復讐うんぬんについてはわからない。今更このようなことをするぐらいなら、これまでの長い時の間になんらかのアクションをしてもいいとは思う。
 だが、鈴仙に聞いた最近の月の情報の中には、反乱を企む者の存在が推測された。
 私は、その反乱は幻想郷の妖怪の賢者、八雲紫の仕業だろうと考えていたが、仮にこれが月の内部の話、それも大国主尊が関わっているとしたらどうだろうか。
 地上に来て千年余。私には圧倒的に月の情報が足りていない。
 幻想郷の者が関わっている事柄であれば、私にはある程度の予測が可能だ。
 だが、月の内部で何かが行われているとしたら、それが私の思考を超えていたとしてもおかしくは無い。

 とはいえ。
 とはいえ私は、もう一つの物語のほうが正しいと思っている。
 もう一つの物語は、すなわちこうだ。
 てゐは、大国主尊に会いたかった。そして、大国主尊がどこにいるのかわからなかった。いや、月にいることは想像できても、確信は持っていなかった。
 だから、月を良く知るであろう私に、カマをかけているのだ。
 輝夜を救うために大国主尊の薬が必要だという情報を与え、私がどこに向かうのかを探る。
 そして、もしも私が月への道を開いたらそれでビンゴ。脇から飛び出してきて感動の再会、という手はずだ。
 率直に案内を頼まなかったのは、もちろん私が承知しないためだ。だから、遠回りでも私が自ら大国主尊のいる場所に行くよう仕組んだ。

 この物語には説得力がある。
 てゐは、大国主尊の薬がなければ輝夜は治らないと言っていた。『大国さまは月にいる』とつぶやいていたのは、『私に聞かせるためだった』と考えたのかもしれない。てゐが信じさせたかった仮初の物語に信憑性を持たせるために。
 この物語の場合、気になるのはもちろん輝夜の病状だ。この事件が単なる丁稚あげだとするならば、輝夜があのような症状になるわけがない。
 私は、このことに関しても一つの推論を持っている。
 それは、鈴仙の存在だ。
 輝夜が実際にはまったくの健康体で、血を吐いたように、チアノーゼを引き起こしているように見えたのは、全て鈴仙が波長を弄り見えないものを見せていたと考えることは可能だ。
 症状を調べていたとき、私には何か違和感があった。視覚や聴覚が正常ではなかったと考えればなるほど辻褄が合う。
 私はあの時まで、何度鈴仙と目を合わせていた? 考えるまでもない。彼女がその気なら、私の波長を弄ることは決して不可能ではない。

 それでも、鈴仙がそんなことをするだろうか?
 あの、臆病だった月の兎。未熟かもしれないが、精一杯私の言うことを吸収しようとがんばっていた彼女。不肖の弟子ではあるが、決して師を裏切るような者ではなかったはずだ。
 輝夜と共に姿を消したのも気になる。
 もしも鈴仙の力で、私に理解不能な病状と思わせるのが目的だったのであれば、輝夜は私の目の届くところにいなければならない。
 そうでなければ、私が輝夜の病状に匙を投げることもないし、仮に大国主尊の所に行き解毒薬を手に入れても、それを使用する相手がいない。
 鈴仙の力は、ああ見えて非常に恐ろしいものだ。完全な健康体を不治の病人に見せることなど造作も無い。
 なれば、それこそ鈴仙が輝夜と共に消えたのは引っかかる。
 こちらの物語も、確信を持てるところまではいかない。

 しかし、どちらにせよ今の私にできる事は少ない。
 前者の物語であれば、結局のところ大国主尊の所まで行き、私は薬を手に入れなければならない。
 後者の物語であれば、てゐは私が大国主尊がいる場所への扉を開かなければ姿を現さないだろう。
 つまり、いずれにしても月への道を開かないと先に進めないということだ。

 「面倒な事をしてくれるわね……」

 私は誰もいない部屋で一人ごちた。







   九月二十二日 (旧暦八月十五日)



 「てゐさま! てゐさま!!」

 一人の妖怪兎が大声を張り上げながら私の元に走ってきた。
 永琳の様子を探らせていた兎だ。

 「永琳さまが、月への道を開こうとしています!
  今はお屋敷で準備中ですよ!」

 兎は興奮を抑えず、まくし立てる。
 「そうかい。うまくいったようだね、ありがとさん」
 「はい!」
 私は、嬉しそうに答える兎の頭をぐりぐりと撫でた。
 集まった兎たちの間に、ざわめきが広がる。

 ここにいる兎は、全て永遠亭で暮らしている地上の妖怪兎である。
 年を取った者もいれば、まだ若い者もいる。
 残念ながら、大国さまと暮らしたころから生きている兎は、もう私だけになってしまった。
 しかし、兎たちの歴史は、その精神は今もなお継がれている。

 遠い昔、私たちは因幡の国で熊や狐に怯えるように、身を寄り添って暮らしていた。
 そんな私たちに安全をくれたのが大国さま。
 私たちは大国さまのもとで、時にいたずらをし、時に雑用をし、人間たちと一緒に楽しく暮らしていた。
 でも、そんな幸せな日々もあの日崩れ去った。
 外の世界から来た神々が、大国さまから国を奪ったのだ。
 兎たちは再び安息の地を失った。
 そして、一部の者は国を追われた大国さまについて行った。わずかでも、大国さまの力になれるように。
 残った者たちは次の住処を求め、放浪の旅に出た。
 私も、兎たちのリーダーとして共に彷徨うことになった。
 旅は過酷を極めた。
 兎は力の強い生き物では無い。知恵と逃げ足だけを頼りに、人間や妖怪から身を護ったが、それでも次第に数は減り。
 この地、迷いの竹林にたどり着いたころには、たったの二十羽ほどになっていた。

 だから、私が大国さまを追って月に行くと言ったときには、皆は反対しなかった。
 今はあの頃と違う。
 鈴仙もいるし、姫さまや師匠だっている。私がいなくなっても、兎たちは大丈夫。

 「……それじゃあ、そろそろ行くね」

 私が周りを見回して言う。
 もう、戻ってくることは無いかもしれない。
 千年を暮らした迷いの竹林。長い時を共に歩んできた兎たち。
 この場所に住み着いたときから一緒にいる年寄り兎。鈴仙が来た後に生まれた子供兎。何もかもが眩しい。

 「みんな、今までどうもありがとう」

 万感の想いを胸に、皆に礼を言う。

 「てゐさまこそ、今までありがとうございました!」
 「月の仲間にも、よろしく言ってください!」
 「姫さまたちと一緒にがんばります!」
 「てゐさま……やっぱり、いなくなると寂しいです……」
 「後のことは心配しないでください!」

 万雷の声が、兎たちから上がる。

 「えへへ……。私、幸せだったね」

 私は照れ隠しに笑うと、真っ赤になった目をごしごしと擦り、住み慣れた我が家にさよならをした。






 ▽






 永遠亭の南には、庭園がある。そしてその庭園には広い池があり、今は天空に浮かぶ月を静かに映している。
 今宵は十五夜。
 中秋の満月にして、月と地上の距離が一番狭まる日。
 例年なら、この日は盛大な祭りが開かれる。兎たちは餅をつき、月に釣られた外の人妖までもがやって来て呑み騒ぐ。
 しかし、今年は寂しい祭りだ。
 永遠亭にいるのは私ただ一人。
 客はおろか、兎たちも、主である輝夜までもがいない。

 私は、池の四方に符を結んだ針を打つと、さらにそこから90度傾けた四方に次の針を打つ。
 これで、池の八方を符で結んだことになる。
 これは、池に浮かんだ月から、『偽りの』月へ道を開く秘術だ。
 もちろん、偽りの月は実在しない。この術は、単純に月への扉が開いたように見えるというだけの意味しか持たない。

 あれから私は考え、結局この手段をとることにした。
 一番の問題は、てゐを月に行かせてしまうことだ。
 月との余計な接触は輝夜や鈴仙の立場を危うくさせてしまうし、何よりてゐ自身が危険に陥る。
 だから、てゐを月に行かすことだけは防がなければいけない。

 てゐが月を知らないなら。
 大国主尊の薬を輝夜に盛ったという話が嘘であるなら、偽りの月への扉を開いた時点で姿を見せるだろう。
 そうであれば、私は月に行くことなく、てゐを捕まえることができる。
 そして、もしもてゐが姿を見せないのであれば、その時は仕方が無い。真なる月への扉を開く。
 てゐが既に大国主尊と接触していて輝夜の病状が本当であるのなら、てゐが今日私に接触してくることは無いはずだ。だから、私は一人で月に行ける。
 しかしもしも、真の月への扉を開いた時にてゐが現れたら。
 その時は面倒なことになる。


 私はもう、てゐに対して怒りは抱いていなかった。
 あの後、彼女が何をやりたかったのかを考え、彼女と過ごしてきた日々を想った。
 大国主尊を国から追放したのは、他でもない、私だ。
 てゐがそのことが原因で何かを企んでいるのなら、私が受け止めなければならない。
 だから、てゐを全力で止める。


 月を祝福する偽りの祝詞を口にする。
 真の祝詞が真の月への道を開くのならば、偽りの月には偽りの祝詞がよく似合う。
 八方に打った符が光り、水面を覆う細波は次第に収まる。やがて波は消え、水面は鏡へと形を変える。
 そして、月を映していた鏡が割れ、道は開かれた。






 ▽






 「開いた……!」
 私は、永琳が月への道を開くのを見て、草陰から飛び出そうとする。
 だが、彼女はそんな私の肩を握った。
 「あれは偽物。慌てては駄目だ」






 ▽






 偽りの道を開き、しばし待つ。てゐの現れる気配は無い。
 辺りを包むのは、風が揺らす竹の葉の音と、秋の訪れを告げる鈴虫の鳴き声だけ。

 「……仕方ないわね。月への扉、本当は開きたくなかったのだけれど」

 つぶやくと、再び術式の展開をはじめる。
 八方に張った符は光を失い、水面は波を取り戻し、池の穴に流れ込む。
 轟音を立てながら、穴が次第に閉じていく。
 完全に閉じたことを確認し私は再び口を開く。
 地の支配者、己の甥の子孫でもある皇孫と、月の支配者月夜見とを祝福する真の祝詞を紡ぐと、符は再び力を取り戻し、目を潰さんばかりの眩い光を放ち出した。
 呼応するように水面は静止し、再び鏡と化す。
 今度は水面だけではない。
 周囲の時は止まり、竹の葉は風に揺らぐことをやめ、もはや鈴虫の声さえ聞こえない。

 物理的な方法で月に行くことは、私にとって決して難しいことではない。兎たちの使う月の衣も、輝夜を迎えに来た時に使った牛車も、元をたどれば私の発明である。
 しかし、月と地上の距離を縮め、瞬く間に移動することは私でも難しい。
 弟子である豊姫や、スキマを操る紫とは違い、私には距離を操る能力が欠けている。
 だが、今宵だけは。
 月が満ちる夜だけは別。
 その時、地上と月との距離は限りなく短くなり、古来より約された真なる祝詞さえ紡げば、隣にやってきた月への扉を叩くことができる。
 最後の祝詞を唱え終わると。
 水面に映る月は割れ、周囲に光が満ちた。




 「…………来たのね、てゐ」

 姿を見せた素兎に向かい、私は言った。

 「……うん。それが、月への道なの?」
 てゐが興味深そうに池に開かれた穴を見る。
 「まあ、そうね。もちろん、あなたを行かせはしないけど」
 「それはどうだろう? 私、行くと言ったら行くよ」
 私は肩をすくめる。彼女の行動力は認めざるを得ない。もちろん、それでも通すつもりは無いが。

 「……それで、聞かせてもらえるかしら。なんでこんなことをやったのか」
 「ただ師匠に嫌がらせをしたかっただけ」
 「嘘おっしゃい。あなたの企んでることなんて、みんなお見通しよ」

 それは嘘ではない。
 先ほどまでは、てゐの真意には確信が持てなかった。しかし、こうしててゐが姿を現し、私に相対している時点でもはや答えは明らかだ。

 「大国さまに会いたくて、一芝居打ったんでしょう?
  ずいぶん回りくどいことをするのね」
 「…………」
 「あなたは、大国さまが月にいると知り、会いに行こうと思った。
  そこで、鈴仙と共謀し、姫さまが毒を飲んだと私に思わせた。
  解毒にはやはり大国さまの薬が必要だとなれば、私が月への道を開くと考えた」
 「……そこまで解ってるなら、他に聞きたいことなんかないんじゃないの?」
 「いいえ、聞きたいことは山ほどあるわよ。
  なんで月に大国さまがいることを知ったのか。鈴仙はなぜ姿を消したのか。なぜさっき開いた道が本物ではなく、偽物だと気づいたのか」

 てゐはしばらく私の顔をじっと見ると、やがて意を決したように口を開いた。






 ▽






 「……それで、聞かせてもらえるかしら。なんでこんなことをやったのか」

 永琳はそう言うと、私の目をじっと見つめた。

 「ただ、嫌がらせをしたかったから」

 私はそう答えた。
 これは嘘だ。
 もともと、私は永琳に憎まれ口をたたきながら、すぐに月へ続く穴に飛び込もうと思っていた。だから、そう言ったのだ。
 変に私のことを心配して、月まで追って来ないように。憎たらしい兎が月で野たれ死のうと構わないと思わせるために。

 「嘘おっしゃい。あなたの企んでることなんて、みんなお見通しよ」

 だが、どうにも永琳には通じなかったようだ。
 でまかせの嘘など、すぐに見破られる。

 「大国さまに会いたくて、一芝居打ったんでしょう?
  ずいぶん回りくどいことをするのね」
 「…………」

 繰り返すが、私はすぐ月へ行こうと思っていた。
 だが、永遠亭を見るのもこれが最後になるかもしれないと思ったら、永琳の顔を見るのも最後になるかもしれないと思ったら、思いもかけず足が止まった。
 最後に、師匠の話を聞いてみたいと思ったのだ。私がずっと騙そうと思って騙せなかった月の賢者が、何を思ったのかと。

 「あなたは、大国さまが月にいると知り、会いに行こうと思った。
  そこで、鈴仙と共謀し、姫さまが毒を飲んだと私に思わせた。
  解毒にはやはり大国さまの薬が必要だとなれば、私が月への道を開くと考えた」
 「……そこまで解ってるなら、他に聞きたいことなんかないんじゃないの?」
 「いいえ、聞きたいことは山ほどあるわよ。
  なんで月に大国さまがいることを知ったのか。鈴仙はなぜ姿を消したのか。なぜさっき開いた道が本物ではなく、偽物だと気づいたのか」

 なるほど。
 永琳は、鈴仙が私と繋がってることにも気がついていたのか。
 悪いのは私だけ。兎は私の命令を聞いただけだし、鈴仙と姫さまは兎に襲われた被害者、ということにしたかったんだけど、なかなか上手くいかない。
 私は少しだけ考える。
 「それは違う、鈴仙は関係ない!」と言うべきか。何も言わず、月への穴に飛び込むか。
 しかし、どっちにしても鈴仙に対する疑いは消えないだろう。
 ――ならば、答えを話そうか。
 私はそう思った。
 疑いが晴れないなら話したところで構わないし、なにより、私の考えを師匠に聞いてもらいたいと思ったのだ。


 「私は、大国さまを追いやったのが師匠だってこと、最初から分かっていたよ」

 私はぽつりぽつりと話し始めた。

 「あの時、師匠たちはどこかからやって来て、大国さまに国譲りを迫った。今なら分かるよ。月から来たんだ。
  大国さまが国を造る前から、月の都は存在していた。そして師匠は、その都を作った神さまの一人」

 永琳は黙って耳を傾ける。
 月の都ができたのは一億年も前だと聞いたことがある。私は、そんなに昔から生きてはいない。
 だから、永琳たちが月から来たのは確実。他のところにいて、大国さまから国を奪った後に月に行ったわけでは無い。

 「で、その月から来た師匠たちは、月の兎を一羽も連れていなかった。
  これは不思議な話だよね。だって、姫さまを連れ戻しに来たときには、確かに兎を連れていたんだから。
  だから、私は一つ推測を立てたんだ。
  月の民は、地上の兎を参考に、月の兎を作ったんじゃないかって。
  これなら、時期的に辻褄は合う」
 私は続ける。
 「月の兎とは言っても、やることは私たちとそう違わない。
  餅をついたり、主人と決めた人の言うことを聞いたり、遊んだり。
  私には、どうにも地上の兎と月の兎に何の関係もないようには思えなかった。
  もしかすると、大国さまについていった兎から、月の民が月の兎を作ったんじゃないかと考えた」

 「……大国さまから国を奪ったときには兎を連れて来なかっただけとは考えないの?」
 永琳がそう聞いてきた。それは、私も一度は考えたこと。
 「そう考えたこともあったけど、それは無いよ。
  月の民は、穢れを恐れて戦闘はできる限り兎に任せている。
  地上の神と戦争をするのに、兎を連れてこないわけが無い」
 「地上との戦闘の後、月の兎を教育することを覚えた可能性もある」
 「気が遠くなるくらい月にいるのに、そんな最近に覚えたの?
  月には月の民と兎しかいないって聞いてるよ。昔から兎がいるなら、もっと早く教育するでしょう」
 「それでも、月の兎が地上の兎から作られたと考えるのには弱いわ」
 「……師匠。
  私が始めて永遠亭に来たとき、何て言ったか覚えてる?
  『兎に知恵を授けて欲しい』って言ったよね。
  あれは、私のカマかけ。確信がもてないから、カマをかけてみた。
  あのとき、師匠は応じたよね。兎に知恵を与えることを了承した。
  それはつまり、兎に知恵を与える方法を知っているということ。月の兎だけじゃない。地上の兎にも」

 永琳はしばらく身じろぎもせずに私を見つめた。
 やがて、小さくため息をつくと、再び口を開いた。

 「……多少は粗があるけど、見事な推論ね。よろしい、月の兎が地上の兎から作られたことを認めましょう。
  しかし、それでもそれは、大国さまが月にいることの証左にはならない。
  大国さまを無理やり出雲に閉じ込めた上で、地上の兎を浚うこともできる」
 「それも無理だよ。
  大国さまは無理やり閉じ込めることなんてできない。そんなことができるなら、月の民は端から無理やり大国さまを閉じ込めればよかった。
  古事記を読んでごらん。
  大国さまにしても、建御名方さまにしても、どこかに封じ込めるには了承が必要だったはずだよ。
  だから、師匠たちは回りくどいやり方でも、地上の神に力の差を見せて恭順を迫ったんだ」
 「封じ込めるのが面倒なら、殺せばいいじゃない」
 「神さまは信仰がある限り死にはしない。大国さまから信仰が失われるわけがない。だって、兎たちが毎日祈っているもの」
 「ならば、了承の上で大国さまを封じ、その後に兎を浚えばいい」
 「……それは可能だね。でも……」

 私は言葉を区切る。
 この先の言葉を紡ぐには、想いが必要になる。

 「でも、大国さまは、自分を慕ってついてくる兎が浚われるのを許したりしない。
  たとえ封じられても。いや、封じられる前に兎を逃がすはずだ。でも、あのとき大国さまについていった兎は戻っては来なかった。
  だから、私は信じてる。兎たちが戻ってこないなら、まだ大国さまの側にいるってことを。
  出雲には兎はいない。大和の大神神社にも兎はいなかった。葦原中国すべての大国さまの神社に行った。でも、兎はいなかった!」

 迷いの竹林にたどり着くまでの長い日々を思い出す。
 仲間たちと共に、国中の神社を旅して回った。
 時には人や妖怪に追い立てられ、それでも、どこかに仲間がいると信じて。

 「だから、もう月しかないんだ。
  大国さまが兎を裏切ったのでなければ、月にいることを信じるしかないんだ」

 天球には満月。水面には月への穴。辺りは静まり返り、虫の声さえ聞こえない。
 私はもう言葉を続けない。永琳の言葉を待つだけ。
 永琳はとても、とても長い時間私の顔を見て、それから言った。

 「……なるほど、あなたが月に行こうとした理由は、大国さまに会いたいだけじゃないのね。
  だけど、なんでもっと早く行動しなかったの? 私があなたに出会ってから、もう数百年にもなろうとしているのに」
 「たった数百年だよ。
  それに、私は師匠に敵わなかったし、月のこともよく知らなかった。
  鈴仙が来て、もう一人のレイセンも来て、月のことを知って。
  それで、師匠が大国さまの薬のことを知らないということに気づいて、初めて行動が起こせた」
 「恨んでないの? 私のこと」
 「最初は恨んでたけど、もうどうでもいい。
  師匠は兎たちに良くしてくれたし、月の兎にも優しかった。情が移ったのかもしれない」
 「……そう」

 永琳は、ほっとしたような、理解したような、そんな微笑を浮かべた。
 私は荷物の中から、薬を取り出した。

 「思えば、この薬が月に行くきっかけをくれたのかもしれない。
  大国さまの導きと思うのは、ちょっと虫のいい話かな」
 地面にそっと、大国さまの薬を置く。
 「十五夜のプレゼントだったよね。ここに置いておくよ。
  私がいなくなっても、鈴仙や兎たちをよろしくね」

 もう、話はお仕舞い。
 後は、月に向かうだけ。
 私は立ち上がり、きっと永琳の瞳を見る。
 永琳は私の視線を正面から受け止め、睨み返してきた。


 「あなたの理由は分かったわ。
  でも、私はあなたを行かせるわけにはいかない。月には、あなたの居場所は無い。弟子を死地に行かせるわけにはいかない」

 そして、静かに懐から呪符を取り出す。

 「月へ至る道、閉じさせてもらうわよ!」
 「兎の足には敵わないって、まだ気がつかないの!? 意地でも通らせてもらう!」

 そこからは競争。
 永琳の唱えた呪言に呼応して溢れる光が揺らぎ、水面に細波が現れる。
 偽りの術を見たおかげで、これから起こることはわかる。
 水が穴に流れ込み塞ぐ前に、あの穴に飛び込まなければならない。
 大丈夫、このタイミングなら間に合う。
 走る。ただひたすらに走る。
 さえぎる茂みを、庭を彩る植え込みを振り払って。楽しかった永遠亭での思い出も振り払って。
 池のほとりまであと少し。
 ここから先は水面。ここから先は、空を飛ばないとならない。波の無い水面に足を踏み入れるとどうなるか分からない。
 私は一息でほとりにたどり着くと、思い切り土を蹴った。

 「逃がさないわ!」

 永琳の声が追いかけてくる。
 おそらく、呪言を唱え終わったのだろう。もちろん振り返りはしない。
 時をおかず、飛び上がった私の目の前に光の糸が現れる。
 ぎりぎりで首をすくませ、避ける。
 この光は見たことがあった。竹林で永琳から逃げた時、あの時、天を地上を覆ってた光の蜘蛛の糸だ。
 その蜘蛛の糸が、またもや私を絡めとろうと襲い掛かってくる。

 「天網蜘網捕蝶の法。今度こそは捕まえてみせる!」

 背後に永琳の声を聞く。言わなくても分かってる。いちいち叫ばなくていい。こっちは、それを避けるのに忙しいんだ。
 上から、下から。左からも右からも光の糸が延びてくる。
 右から回り込んできた光の糸をくぐって避ける。
 視点が下に下がり、真下から伸び上がってきた糸を確認する。身体を捻って回避。
 そのままきりもみ状に一回転し、まだ隙間が空いている上の方に飛び上がる。しかし、その左側から糸。間に合わず、顔をぶつける。
 ぶつけた鼻頭を押さえる。どんどんと包囲網は縮まる。
 だけど、諦めるわけにはいかない。
 ここで諦めたら、今まで積み重ねてきた策も、ずっと抱き続けた大国さまへの想いも、全部無駄になってしまうから。
 吹き出た鼻血を拭い、網の抜け目を探る。
 左下にまだ道がある。すぐさまそこに飛び込む。
 水面が近づく。浮上しようと急いで周りを見回す。
 空には切れ目の無い蜘蛛の糸。いつの間にか包囲されている。
 ――ならば!
 私は躊躇もせず、水の中に飛び込む。
 あの時、光の糸は地面の中までは伸びていなかった。
 ならば、水の中は大丈夫なはずだ。穴まではもう近い。流れ込む水と共に、私も流れ込んでやる!


 ――残念。同じ失敗はしないわ。


 …………永琳の声が聞こえた気がした。
 水の中に入った私を待っていたのは、空と同様に切れ目の無い光の蜘蛛の糸。
 もはや、穴への道は残されていない。
 私は諦め、水の上に浮上する…………。


 「惜しかったわね。だけどもう無理。月への道はもうすぐ塞がるわ」
 永琳がこっちを見ていた。
 冷静に、冷徹に。
 勝利を確信してあざ笑っているわけでも、策が敗れた私に同情しているわけでもなかった。
 ただ、気を許さず、私の一挙手一挙動を注目していた。
 だから、言った。
 「……無理なのは師匠の方だよ。言ったでしょ、私は月に行くって。
  どれだけ私を止めようとしたって、どれだけ凄い術を使ったって。
  私は止まらない! 絶対に月に行く!」
 そして、次の瞬間。
 雷鳴にも似た轟音が響き、天球から現れた巨大な柱が光の蜘蛛の糸を切り裂いた。

 永琳が驚き、天空を仰ぎ見る。
 柱は一本では止まらない。
 次の巨柱は、水面の東の地面に突き刺さった。
 次は西。続けて南、北。
 最初の一本を除き都合四本の巨柱は池を包囲するように突き刺さり、そして穴に流れ込み続けている水流も静止した。
 その巨柱はまさしく御柱。
 諏訪の山中に生えた樅の大木を削り造られた、荒ぶる武神を祭る神殿の柱。
 四方に突き刺された御柱は、そこが神殿であることを示す。四柱に囲まれた水面はもはや神域。そこには、何人たりとも決して手を出すことができない。
 ――神域の主である、諏訪の武神を除いては。


 「術式を展開するのに時間がかかった。すまんな」

 十五夜の満月を背負い、天球に神域の主が姿を見せる。
 「さあ、ぼっとするな。大国主尊に会いに行くんだろ?」
 山の神の声に背中を押され、私は空を駆ける。
 「待ちなさい!」
 もう、追いかけてくる光の糸は無い。追いかけてくる思い出も振り切った。今は、追いかけてくるのは永琳の声だけ。私を止めるものは何も無い。
 すぐに穴にたどり着く。
 この先は月。
 穴の中に、月の地面が映る。
 姫さまの故郷。鈴仙の故郷。永琳が造った、穢れなき神々の地。
 最後に私は振り返る。
 懐かしい景色が見える。千年を過ごした、迷いの竹林。兎たちと、姫さまや永琳と支えあった日々。
 最後に私は、永琳の方を向き、深々と頭を垂れる。

 「師匠! 長い間ありがとうございました!」

 私は、最後にそう言うと、穴に飛び込んだ。
 住み慣れた我が家と、ずっと私を支えてくれたたった一人の師匠に、さよならを告げた。






 ▽






 「そう、あなただったのね。てゐに、偽りの月のことを教えたのは。
  あの子も、考えうる限り最悪の相手に協力を頼んだものだわ」

 空に座しこちらを見つめるのは諏訪の神、八坂神奈子。
 私はその神を睨めつけ、愛用の弓を握る。

 「それで、何のつもりかしら? あなた、てゐとは何の関係も無いでしょう?」

 神奈子は可笑しそうに口端をゆがめる。

 「月の賢者の台詞とは思えないな。
  諏訪の祭神は知ってるだろう? 建御名方神。最後まで月の民に抗った、大国主尊の子だ。
  大国主尊の恩人でもある兎に、大国主尊に幸せを届けに行くから協力してくれと頼まれたんだ。
  迷う理由などあるわけもない」
 「確かに祭神はそう。
  でも、あなたは建御名方神ではない。大和の神、いわば我々の同族のはず。
  てゐに協力する理由は、やはり見当たらないわ」
 「確かに私は建御名方神では無いがね。
  それでも、諏訪の祭神は建御名方神なんだ。
  神が信仰によって生きているのは知っているだろう。私が建御名方神だったかどうかは関係ない。
  ただ、建御名方神を信仰する者から力を貰っている限り、私はそれを無視することなどできない」

 迷いもなく、神奈子は言い放つ。
 彼女は、たかがそんな理由だけで、私の邪魔をしようとしているのだ。
 諏訪の田舎神が、遙か長い時を生きた神々の重鎮、この八意思兼に喧嘩を売ろうとしているのだ。

 「お前は、自分を建御名方神の化身と言うのだな。
  それでは、建御名方神に命じるとしよう。
  そこを退け。お前は、諏訪の地から出ないと約定したはず。
  私の邪魔をしないというのであれば見過ごそう。しかし、そうでないのであれば、古の約定により、お前に罰を与える」
 「これは可笑しな事を言う。
  八意永琳、お前は月を追われているはずだ。
  神の理から逃げ出したお前に、私を罰する権利など無い。
  ここは通さんよ。てゐとの約束だからな」

 神奈子は私を通さないという言を身体で示すかのように両手を広げた。
 ならば戦おう。
 山の神に、本当の神威というものを教えてやる。

 私はそう決意すると、握った弓に矢を番えた。










続きます
まずは、ここまで読んでいただいてありがとうございます。
読むのに力がいるお話だったと思います。なのに、最後まで読んでいただいたことに、感謝を。


さて、私は日本神話が好きです。
休日には神社めぐりをして、ご朱印をいただくのも趣味の一つ(お寺も巡りますが)。
そんなこともあり、こんなお話を書こうと考えたのですが、これがどうして、書き始めるととても難しい。
一次設定一次資料とはなるべく乖離しすぎないようにと考えたのですが、いろんな意味で難しかったです。
もちろん、独自設定・独自解釈はあります。
願わくば、粗があっても大らかな気持ちで読んでやってください。

このお話は、3~4回で終わりにするつもりです。
長いお話ですが、もしもお暇があれば、是非お付き合いください。


最後に、二三注釈です。

■大国主尊の行方について
大国主がどこに行ったのかが不明なようにお話を作りましたが、実際には古事記の前後の文脈から出雲大社におられるということで間違いないです。
なお、本文中に出てくる大神神社は奈良にあります。
出雲大社も良いところですが、この神社も大変いい神社です。

■建御名方神について
建御名方神は諏訪の祭神です。
ですが、東方の設定によると、神奈子は「大和の神(=大国主尊から国を譲り受けた神々。天津神)ということです。
なお、諏訪の神社では表向きの祭神が建御名方神で、本当の祭神は諏訪の土着神だと儚月抄にありました。
かといって、諏訪子が建御名方神かというとそれも違うような気もするし、なかなか複雑です。
実際の建御名方神は、東方には存在しないと考えるのが正解のような気はします。
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コメント



0.2060簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
続きを楽しみにしてお待ちします
7.100名前が無い程度の能力削除
楽しませていただきました^^


諏訪子は土着信仰たるミシャグジの頂点。つまり、建御名方神が追いやられる前から、諏訪の地に存在していたのだと私は解釈してます。

神奈子は難しいですね。個人的には八坂刀売神だと嬉しい。
何故かって?
だって、人妻の神奈子様だぜ……なんか良くない?
良くないか、そうか……
10.100名前が無い程度の能力削除
続きが楽しみです
永琳が今後どうなるのか
13.100名前が無い程度の能力削除
素敵です。なんだか、某○鹸屋の名曲が想起されます。
いつかあの空の月まで届け
飛び跳ねてお月様の果てまで、なんて

ところで、神奈子様は八坂刀売神から思いついたと
神主自身が語っていたようにおもうのですが……
15.100名前が無い程度の能力削除
神話関連のくだりがすごく面白かったです。
ところでたしか「因幡の素兎」を祭る神社が存在します。
東風谷一族は信仰を得て(現人)神になったという設定なので、てゐも信仰で神になったのではないでしょうか?
もっとも早苗さんの祖先も寿命とかで死んでいる(はず)なので、生粋の神ほど不老不死ではないでしょうが。
16.100マンキョウ削除
おもしろい!
押し付けるつもりはありませんが、私も『神奈子=八坂刀売乙女』説がいいなぁと。
大国主は月にという事は、他の神々も出てくるのかな。楽しみです!
17.100夕凪削除
これは大作になりそうな予感。
続き楽しみにしています。
20.100名前が無い程度の能力削除
神様のお話大好きな私が来ましたよ。
タケミナカタ様は、記紀じゃ地祗だけど、風神録元ネタの諏訪絵詞だと天神なのよね……。このお話では二つの顔を持ってるのかな?
更に神主の東方的解釈も入る事を考えると、神奈子様の役回りは夢が広がりんぐですね。
これからの展開に大いに期待。
22.100名前が無い程度の能力削除
うおおおおお神奈子さまもてゐもかっこいいよおおおおお
理想のてゐすぎて失禁したよおおおお
漏らしながら続き待ってます!
23.無評価名前が無い程度の能力削除
かっこいい神奈子様が大好きだぁあああ。
そしてこんなてゐも大好きだぁあああ。
つまりはこの作品を待っていた。

さて、永琳VS神奈子。
どちらも東方最強の一角ですからね、どのような結果になるか。
方や最も古い神々(だった者)の一人。方や最も高い信仰を受け続けた者の一柱。
いろんな意味でわくわくが止まりません。
24.100名前が無い程度の能力削除
点数忘れorz
29.100名前が無い程度の能力削除
こういうてゐは大好きです
届け!月まで!
31.100名前が無い程度の能力削除
いい!!
最高ですよ。独自の神話解釈も違和感なくすんなりと読めました。
そして最後の神奈子も神々しくて良かったです。建御名方神が出た時点で神奈子が絡むのでは?と思っていたのですがドンピシャでしたね。
次の神対神の戦いや月に行ったてゐの話も期待してます!
32.100名前が無い程度の能力削除
こういうお話とても好きです。
続きを楽しみに待ってます。
34.100名前が無い程度の能力削除
えてして、こういう作品は設定ばかりが先走り。
肝心の文章としての楽しさが追いついていない、独りよがりの作品が多いものです。
しかし、この作品は違いますね。
娯楽としての文章として出来上がっており、それを成り立たせる魅力的な設定と補完しあっています。
文句のつけようがありません。
素晴らしい
36.100名前が無い程度の能力削除
なんだこれスゲェぞ
37.100名前が無い程度の能力削除
続きが気になって仕方ない・・・
期待して待ってます!
38.100名前が無い程度の能力削除
おお、もろ好みです。続き頑張ってください。

しかし、永琳VS神奈子……
……その頃紫さまは、頭を抱えてるか、まあ面白そうと微笑んでいるか、
見なかったことにして寝なおすことにしたか……
舞台裏も気になりますね(笑
39.100名前が無い程度の能力削除
壮大だ
風呂敷を広げているのではない
スケールが元から違うのだ
限りなく狭く、限りなく広い話だ
44.100名前が無い程度の能力削除
他の方々の感想を読むと、記紀神話好きの方々が続々と惹きつけられて集っているようですねw

神奈子と永琳の対決が楽しみですねえ。
永琳自身が言っているように、神としての格はかなり永琳に分がありますが、
それが逆にまるで強大なボスがやられるフラグのようで気になりますw
45.100名前が無い程度の能力削除
盛り上げに盛り上げて、ここからさらに締めへ収束していくのだと思うとたまらないです。
46.無評価2号削除
たくさんのコメントありがとうございます!
1000点いかなくてもがんばって完結させようと考えていたのですが、予想外の暖かいコメントに嬉しい悲鳴です。

>2様
続きがんばります。ありがとうございます。

>7様
八坂刀売神はモチーフ的にもいいし、謎が多い神様ですし、いいですね。
御神渡なんかを演出に使っても楽しいかもしれません。
人妻もいいね!!

>10様
永琳も謎の多いキャラですが、少しでも生き生きと書ければいいなと思います。

>13様
あの歌は私も大好きです。
やっぱり、てゐはかっこいいですね。

>15様
白兎神社ですねー。海の近くで景色もよく、とてもいい神社です。
こないだ行ってみました。てゐの絵馬もたくさんありました。

>マンキョウ様
神様がたくさん出てくる展開も楽しいのですが、このお話では東方のキャラに焦点をあわせていきたいなーと思ってます。
月のお話ですし、オリジナルキャラは多分出てくると思いますが、主役を邪魔したりしないようにと。
「かみさまっ!!」も楽しみにしてます。がんばってください。

>夕凪様
長いお話になりますが、楽しんで書こうと思います。ありがとうです。

>20様
こういったお話ですと、読んでる皆様の考えてるキャラ像・神様像と乖離しすぎてしまうことがないだろうか怖くなります。
日本神話は研究されつくされてますし、私の知識などちっぽけなものですし。
これは自分の解釈だと割り切りながら、キャラへの愛は忘れずに書ききろうと思います。
ありがとうございます。

>22様
てゐも神奈子さまもかっこいい!
なるべくそのかっこよさを表現したいです!

>23様
大変な好カードなだけに、うまく書けるかどきどきです。がんばります!

>29様
楽しんでもらえて何よりです。
かっこいいてゐをがんばって書いていきます!

>31様
ありがとうございます。神奈子さまもカリスマを出せるよう、がんばります。

>34様
設定によりすぎないか、独りよがりになっていないかは、本当に悩んでしまうところです。
34様の言われるとおり、エンターテイメント性を忘れてはいけないと思います。がんばります。

>36様
ありがとう!

>37様
皆様のコメントが続きを書く一番の原動力です。ありがとですー!

>38様
紫や、霊夢が異変とか感じるかどうかはわかりませんw

>39様
手がつけられない広さにならないよう、精進してまいります!

>44様
どっちが勝つにしても、うまく見せ場を作れたらと思います。ありがとうございます。

>45様
きちんとまとめて終わらせるようにがんばりますー!
49.100名前が無い程度の能力削除
続き楽しみにまってます
51.100名前が無い程度の能力削除
てゐと大国主、思兼としての師匠、建御名方としての神奈子様など、話題には上がるけれど、お話としては中々お目に書かれない要素ばかりで、大変興奮しました。
てゐや姫様のキャラクターも素晴らしく、あっという間に読み終わってしまいました。
続きも期待しています。
63.100名前が無い程度の能力削除
こんにちは。
神話を下敷きに東方の原作設定と絡めて、ここまで話を膨らませるとは!
とても面白かったです。
特にてゐと永琳の対決あたりからぐいぐい話しに引き込まれましたね。続きも期待してます。
64.100名前が無い程度の能力削除
うーん、面白い。続きも見に行きます。