Coolier - 新生・東方創想話

【錨の羅針盤】東方星蓮船 二の歌

2010/02/19 20:40:13
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【錨の羅針盤】

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東方星蓮船 二の歌
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宛(さなが)ら私は鳥籠 心に鬼を飼う
海鳥も浅ましく 錨の傍を飛ぶ
雁字搦(がんじがら)めのプリマドンナ
その声に誘われ死者が踊る
海の底に縛られてる



空を行く星蓮船の船べりで、村紗はため息をついていた。
「どうしたい?村紗」
「わぁ!一輪!?」
雲居一輪
甲板を守る尼兵で、雲山という雲の妖を使役する、星蓮船の姐さん用心棒だ。
「たそがれちゃってるじゃない、どうしたのさ」
「うん、ちょっとね」
ハァ、ともう一つため息。
「…聖…一人ぼっちなんだよね…」
「…ああ…」
一輪もギシリと船べりにもたれかかり空を仰ぐ。
どんな表情してるんだろうな。
「…やっぱり、さびしいかな…」
「…たぶんね…」
どんな表情してるんだろうな。
一輪は自分の事をあまり話さない。
雲山も何も言わない。
そう言えば私たち、お互い何も知らないな、なんてぼんやり思った。
「…私も昔、海の底で一人ぼっちだったなって…」
「…」
一輪は何も聞かないし何も言わない。
聖との出会いはどうだったのか。
何故聖を助けようとするのか。
どのくらい聖を助けたいのか。
何も言わない。
「私、聖に救ってもらうまで船幽霊やってて、結構ワルだったんだよね」
「プッ…」
…何故笑う。
ずっと何も言わなかったくせに。
「ちょっと、なんで笑うのさ?」
「ワルって…ぷふー…うははは!」
そんなに面白いものか。
妖はたいていワルじゃないか。
「もー、ひどいよ」
「悪いね、そうか。さっきの歌はその時の事か」
そっか、…歌、聞いてたんだ。
ちゃんと興味持ってくれてるんだ、そっか、そっか。
「うん、思い出しちゃったんだ…船幽霊になる前の私を」
「…そっか…」
なるほど…何も言わないし、何も聞かなかったのは私の方なのかもな。
そう言えば、あんまり皆に自分の事話した事って 無かったっけ。
ふと思い出したように一輪がクルリとこちらに向き直る。
「そう言えばあんた、意外と行ける口じゃないか」
「え?」
キョトンとする私に笑いかけてくれる。
姐さん、やっぱり一輪は姐さんだな。
「歌がさ。うまいって言ってるんだよ」
「はは…ありがとう…」
すごい恥ずかしいです。
ポリポリと頬を掻いて目をそらす。
「それにしても…」
「ん?」
ぐにゃりと一輪の頬がゆがむ。
「プリマドンナ…プフーーー!!うはははは!!!」
こ…こやつ…優しい顔をしながら…!
カァッと村沙の顔が真っ赤になる。
「も…もぉーーーー!!忘れて!忘れなさい!!!」
「わははははは!!!」
イイじゃないか、プリマドンナ。
かわいいじゃないか、プリマドンナ。
バンバンと背中を叩く一輪に、プンプンとむくれる村紗。

姐さんの前では妹になれる。
本人は気付いていないが、それでいい。
雲山は、そんな風に思ったか思わなかったか、
少しだけお互いを知った二人をじっと眺めていた。



~「ムラサ」は、海難事故で亡くなった亡霊と伝えられている。~



ある海辺に小さな漁村があった。
村の周辺の海は3つの海から潮がな流れ込み、豊かな漁場となっていたが、
毎年秋から冬にかけて潮の流れが変わる時期は大荒れとなる事が多かった。
秋の海神祭りには、田畑で採れた幸を、春の山神祭りでは海で取れた幸を互いに備え、
その年の豊作大漁を祈願するのが習わしだった。

ある夏、異常な日照りがあり 田畑は凶作となり、村は食うに困る状況になってしまった。
結局、この年の海神祭りを中止せざる終えなかった。
陸では糧が十分に蓄えられず、冬が迫る中、村は海で漁をして糧を得るしかないのだが、
天候は追い打ちをかけるように大荒れが続き頼みの綱の漁もままならぬ日が続いた。

船を出せず、磯に流れ着く いくばくかの藻屑拾いをして食いつないだが、
磯ですら人が波にさらわれ、皮肉にも海の藻屑と消えた。

村は、いくつかの集落からなり、その中の村紗の郷には15人程が身を寄せて暮らしていた。

秋が深まり、めっきりと冷え込む山中に二人の影があった。
「ねーちゃん」
「んー?」
落ち葉の絨毯の上でたきぎ拾いをしているのは、村紗の子供だった。
「はらへったなー」
14~5の姉と10になるかの幼い弟が、せっせと背中の籠に木の枝を集めている。
ふう、と額の汗を拭うと籠を下して休憩をしよう、枯葉の上に腰かけた。
「そうかー、じゃあねーちゃんのとっておきをあげよう」
籠を下し、籠をごそごそと探ると、中から小ぶりな柿を二つ採り出した。
「おおっすげー、ねーちゃんすげー」
「へっへー、さっき木になってるのをもいでおいたんだ」
片方を弟の手に渡してやると、弟は柿を日にかざしてまじまじと見入る。
「すげー!ねーちゃんすげー!」
「そら、食べな。しっかり食べておくんだよ」
はぐ!っとかぶりつく弟、眺める姉。
すると弟の顔がみるみる怪訝な表情に変わっていく。
「…」
「…どした?」
途端にべっと口に含んだ柿を吐き出し、大きくえずく弟。
「ぶえーっ、しぶしぶだー ねーちゃん」
「あっはっは、しぶしぶかー!あっはっは」
弟の様子に大笑いする姉。
「ぶえーっ、あははっ、ぶえーー」
つられて弟も笑う。
「そろそろ帰ろうか」

春になったらタラの芽だって蕗だって芽をだす。
そうだ、雪が溶けたら、弐の谷を越えた竹やぶに筍を堀に行こう。
そんな話をしながら手を繋いで夕暮れを歩いた。

夜、家の者が寝静まった頃、隣で寝ている弟がつぶやいた。
「ねーちゃん、起きてる?」
「んー?」
眠い目をこすり、弟の方に寝返りを打つ。
「はらへって寝れネェ」
しょうがないねぇと呆れるが、晩の膳は木の実がいくばくか、無理もない。
「そっかー、じゃあねえちゃん寝物語してやろうか」
「でも、おはなしじゃはらぁふくれネェよー」
こいつめ、と心で舌打ちをしながら姉は優しく諭す。
「ふふ、そうでもないんだなー」
「えー、うそだー」
弟はガバっと寝返りを打ち、姉の方に向き直る。
「試してみる?」
「んー、うん」
ちょっと思案すると弟はうなずいた。
「ん、じゃあおいで」
弟を自分の布団に寝かせ、並んで横になると姉はゆっくり話し始めた。
「むかしむかしあるところに…」

むかしむかし、あるところにモリヤ様という神様がいたんだって。
モリヤ様は畑を豊作にしてくれる神様で、優しい神様だったんだけど、
豊かな村を羨んだ周りの神様がつぎつぎと村を横取りしに来たの。

でも、モリヤ様は強くて村を襲ってきた神様を残らず追い返してしまった。
そうすると、モリヤ様は天下になだたる大神だって評判になって、
村はますます栄え、クニになったんだとさ。

面白くないのは負けた神様たち。
モリヤ様に仕返しをするために、皆で集まって一計を案じ、
「モリヤっていうすごい神様がいる」っていう噂を流したんだ。

評判は、都のお山に住むヤサカ様の耳にも届いた。
噂を聞いたヤサカ様は、「そんなに強いなら力比べをしてみようじゃないか!」っていって
モリヤ様を訪ねるんだよ。

モリヤ様とヤサカ様の力比べはひとつきの間ずっと続いてね、
山は爆発するし、大風で地はえぐれるし、馬乗りになってタコ打ちにしたの衝撃で、
海ほど大きな湖ができるほどすごい大喧嘩だったんだって。

「へー、すげー。」
「そうだね、でも真似しちゃだめだよ?」
弟の口に人差し指をあてて、メッする。
「うん、それで?それで?」
「それでね…」

長い長い喧嘩のあと、結局勝ったのはヤサカ様。
あんまりすごい喧嘩だったから、クニはメチャメチャになっちゃって、
人もいっぱい死んで、みんながが悲しんでたんだ。
モリヤ様はその様子に気づいて「もういいよ、ヤサカの神の勝ちで」って。

勝ったヤサカ様はその豊かだったクニを治めることになったんだけど、
何せ自分たちでメチャメチャにしちゃったから、
土地は痩せちゃうし人は集まらないし、散々だった。

凶作が続いて、どんどん人が死んじゃってね。
これにはヤサカ様も困ってしまった。
それでも、どうにかなりますようにって、クニの人たちはいっぱいお祈りをして、人身御供を捧げたんだ。
そうすると、村は翌年豊作に恵まれて、やっと豊かな村に戻ったんだってさ。
それから、ヤサカ様とモリヤ様は仲直りをして一緒にクニを治めていこうって約束をしたんだって。

「へぇーすげー…ほんとうのはなし?」
「ほんとうのはなしだよ」

ヤサカの神様には「オンバシラ」っていう大きな木の柱、
モリヤの神様には「ミシャグジ」っていう大きなしめ縄をつくってお祭りするんだって。

「へぇー」
「ひとみごくうってなに?」
ふと、姉の顔が曇る。
「それは…いまのお前にはまだ難しいな~」
「えーなんだよー」
はだけた布団を弟にかけなおしてやると、膨れる弟をポンポンといさめてやった。
「ふふ、もう少し大きくなったら教えてあげるよ」
「なんだよケチー…」

間もなく弟の瞼は落ち、空腹を忘れて、安らかな寝息を立てる弟。
さわっと、頭をなでてやると、姉も間もなく寝息を立てた。

翌日、姉弟は家の使いで村長(むらおさ)の家を訪ねていた。
村長は好々爺で、海と山を知り尽くした生き字引として尊ばれていた。
姉弟は村長の家で昼餉(ひるげ)を馳走になり、久しぶりに温かい麦粥に舌鼓を打っていた。

「ほうほう、あせらず食らえ、熱いぞ」
ほっほ、と笑う村長。
かつかつと弟は慌ただしく箸を動かし木椀の粥を平らげていく。
「しかし、困ったもんだのう」
村長は椀を置き、腕組をして瞑目する
「田畑の不作は仕方がないが、海まで荒れ続きとは…」
姉も椀を置き、村長に応える。
「こればかりは神様のご機嫌ですから…」
そうじゃのうと、村長は頭をピシャピシャ叩いてため息をつく。
弟はふと顔をあげ、大きな声で言った。
「むらおさ、ひとみごくうをすればかみさまもごきげんなおしてくれるじゃろうか」
「こおら!」
もう、と弟をたしなめる。
「ごめんなさい、村長。昨日寝物語でモリヤ様とヤサカ様のお話を」
「ほうほう、それでな」
「でもむらおさ、みんなはらぁへらしてる」
でも、と弟はさらに食い下がる。
「こら、止めなさい!ねぇちゃん怒るよ?」
「なんだよー、もう」
弟はむくれ顔でカツカツと粥を掻きこんだ。

「それじゃ、村長。ご馳走様でした」
「うむ、皆に達者でのう」
夕暮れ時、姉弟は村長の家を後にした。
「むらおさ、ごちそうさまでした」
「おお、ヌシもしっかりお父とお母をたすけるんじゃぞ?」
村長は、よしよしと二人を送り出すと、二人の姿が見えなくなるまで戸口に立って見送った。

「人身御供のう…」
日は傾き、村長の背中には影がさしていた。



冬はもう間近に迫っていた。



ある日、村長の家に各集落から男衆が集まり、冬の段取りを話す寄り合いが行われた。
山の木の実は採りつくし、草も寒さで枯れてしまった。
海は相変わらず波高く、船を出した男衆が海に呑まれて死んだ。
いずれの集落も状況は厳しく、寒さで年寄が亡くなり、
赤ん坊は母の乳が出ずに飢えで死んでいる、という状況が報告された。

村長は報告を黙って聞いていた。

ある男衆は、「このままでは正月は迎えられない、どうにかせねば」、と激高するが、
別の男衆は 「じゃあどうするんだ」と床を叩いて苛立ちをあらわにする。

不安と責任感と苛立ちが場を険悪にし、今にも爆発しそうな空気の中、
苦しい声で村長が口を開いた。

「…海神様に、お怒りを鎮めてもらうしか無いのう…」

一斉に男衆の視線が村長に集まる。
村長のげん骨がブルブルと震えている。

「海神様に…娘子をお捧げして…お怒りを鎮めてもらうしか…無いのう。」
血を吐くような言葉だ。

喧々諤々、罵りあっていた場が氷が張ったように静まり返る。
ゴウゴウと、風が吹き、木戸をガタガタと揺らす。

「村長、それはダメだ」
絞り出すような声で、長い沈黙を男衆の一人が破る
「…」
誰も何も言わない。
村は、皆家族。
村長は常にそう聞かせ、みなずっと平穏に過ごしてきた。
生まれて、死ぬまで戦火に見舞われることもなく、飢饉に襲われることもなく、
みな平和に過ごしてきた。

村長ですら、初めてなのだ。
村の全滅、あとひと月しないうちに、皆飢えて死ぬ。
しかし、打つ手がない。
山は丸はげ、木の実もなく、山の獣も息をひそめている。
海は大荒れ、手を出す事はまるで出来ない。

弱いものからじわじわと死んでいき「我慢」が通る限界は、とうに過ぎていた。
『しかし、他に手が…』
「それでもダメだ!」
『じゃあどうするって言うんだ!』

ダン!と床に拳を打ちつけた手からは、血が流れている。
ギリっと唇を噛み、ふう、ふう、と興奮した呼吸を必死で落ちつけている。

「ワシは…」
村長が重く、重く、言葉を紡ぐ。
「村を守らねばならん

 皆を生かさねばならん

 座して待てばみな死ぬ

 何をしても死ぬかもしれん

 早いか、遅いか

 しかし…わずかでも…」
言葉は重く…あまりにも重く、端々は聞き取れない。

「…人身御供を行う。異論は認めぬ…」
村長の瞳は落ち窪み、暗く沈んでいたが、決意した目だった

男衆は皆無念を飲み込み唯一人を除いて頷いた。

翌日、直ちに器量の良い村娘が幾人か集められ、未通であるとの理由から「村紗の娘」が選ばれる。
人身御供の報せに家の者は皆嘆き悲しんだ。
 「おねえちゃん いってらっしゃい」
翌日、悲痛な顔で父と母が見守るのを、弟は不思議そうに眺めながら、姉に手を振る。
 「行ってくるね」
姉は「仕方がない子ね」と、ため息をつき、手を振った。
村沙の娘は儀式に備え、最期の一晩を村長の屋敷で過ごす。

その日の夜、怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨
怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨
怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨
怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨
怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨
怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨

ビョウビョウと風が吹きすさび、雲も月のない、星灯りがまぶしい夜だった。



夜が明けるころ、失意と疲れで朦朧とした村紗の娘は、白装束を着せられて海辺へと運ばれる。
「死にたくない、まだ死にたくない」
すでに死人のようにやつれ、ぶつぶつと呟く娘は、以前の快活さなど見る影もなかった。
裏切られ、おとしいれられ、ただ、自分の不幸と自分を蹂躙した者たちを呪った。

浜には小舟が用意されており、娘には棺桶のように映った。
娘を男たちは縄で手、足、胴を縛り上げ縄の先には大きな石をくくりつけた。
そうして、無理やり小舟に乗せると、荒れる海原に押し出していく。
「いやだ、許して、やめて」
最後の力で暴れ、泣き叫ぶ。
いやだ、いやだ、死にたくないと喚き散らす。
吹きすさぶ波と風が無情にもという娘の叫びをかき消し、ほどなく波は小舟を飲み込む。
なぜ自分だけがこんなひどい終わり方なのか。
娘の口から大きな泡の塊が吐き出され、鼻を海水が浸食し、着衣が水底へと引き込んでいく。
「許さない、私を人身御供にした村長も私を慰み者にした男達も私の代わりに助かった娘達も
 私を助けてくれなかった父も母も私を笑顔で見送った弟もみんなみんな許さない」
苦しみと恐怖の中、娘は自分を殺した村人を強く憎み、鬼が生まれた。
「死ねばいい、皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆死ねばいい」

翌日、逆巻いていた荒海は嘘のように、穏やかさを取り戻した。
村では漁が再開され、厳しいながら冬を乗り切り、明くる春にはいつも通り山神祭りが開かれた。
こうして、村は平穏を取り戻していく。



村紗の娘は、名前を「水蜜」と言った。
錨の羅針盤を聞いてたら書きたくなったったった。
多分2/11くらい。
それにつけてもパチュリーあいしてる。
パチュリー大好き
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コメント



0.320簡易評価
6.90名前が無い程度の能力削除
たぶん一輪も白蓮に救われたんだろうな・・・
次回は聖との出会いの話もお願いします。