キィ~…バタン。
夕暮れ時、アリス家のドアが、木の擦れる音を出しながら開く。
すると、いつものメイド姿とは違う、私服の咲夜が入ってきた。
「あら、遅かったじゃない?」
目の前の人形を弄りながら問いかける。
「お嬢様に捕まって…ね」
「それは、大変だったわね」
「時間、止めてお嬢様を止めて来たわ」
「……いいの?」
アリスは咲夜を心配する。
なんせ、幻想郷内ではちょっと怖い吸血鬼という感じに思われているからだ。
「紅魔館のメイドは『自由』があるから大丈夫だわ」
咲夜はあっさりと答える。
「そういうものなのかしらね?」
「そういうものよ」
「そうそう、紅茶を持ってきたわ」
「じゃ、また咲夜の入れる美味しい紅茶が飲める…」
「そんな立派なものでは無いわ。趣味で入れてるだけよ?」
しかし、アリスは反論する。
「でも、咲夜の紅茶は絶品よ?」
「そうかしら? でも、そうアリスが言ってくれるならそう思っておくわ」
「町にお店を出しても、売れるかもね」
「あら、アリスにだけ出すから美味しく出せるのよ」
「そうなの?」
「そうよ、『愛情』がこもっているからかしらね」
「…咲夜ってたまにクサイ科白言うわよね」
「なんか言ったかしら?」
「な、何も言ってないわ」
咲夜は、持ってきたカバンの中から紅茶を持ってキッチンに行った。
「アリス、キッチン借りるわよ」
「ええ、いいわ…と、言うか咲夜はいつも勝手に使ってるじゃない」
「そうだったかしら?」
咲夜は、手馴れた手つきで、ティーポットやカップを準備していく。
アリス家のキッチンの配置はもう、ほとんど覚えたようだ。
もちろん、アリス公認の上でだが。
噂によると、どこかの魔女は盗むために
紅魔館の図書館の配置は完璧だそうだが。
「ふぅ、出来たわ」
咲夜は、紅茶をアリスの前に運んでいく。
「いい香りね」
「でも、ちょっと濃かったかしら?」
「そんなこと無いわ。ちょうどいいくらいよ」
「アリスが喜んでくれるなら、よかったけど」
「ところで、アリス?」
「なにかしら」
「今日は、泊まるわ」
「……! って、え?」
アリスは紅茶を噴出しそうになった。
「大丈夫なの? メイドの仕事は?」
「大丈夫よ、さっきも言ったじゃない」
「そ、そうだけど」
「いいわよね?」
「いいけど…ベットは1つしか無いわ」
「アリスに寄り添って寝るから問題ないわ」
すると、アリスの顔は、真紅の薔薇のように真っ紅になってしまった。
「し、仕方ないわね…」
「あ、せっかくだから私が夕食を作るわ」
「わ、悪いわね」
「せっかくだから、アリスのリクエストを聞くわよ?」
アリスは迷っているようだ。
「う~ん…そうね、カレーがいいわ」
「カレー? 分かったわ。すぐ作るわね」
<1時間後>
キッチンから美味しそうなカレーのにおいが漂ってくる
そろそろ、アリスのお腹が…
ぐぅううぅ~
「あっ」
「ふふふ、アリスは相当お腹が減ったのね?」
「くっ、何か私が不利な状況にある気がするわ」
「気のせいだわ、持っていくわね」
咲夜がアリスの居るリビングに近づくにつれ、アリスの鼻を数々のスパイスの香りが擽る。
「うーん、ますます食欲が増す香りね」
「でも、食べ過ぎると太るわよ?」
「へ、平気よっ!」
アリスは動揺しているみたいだ。
やっぱり、咲夜の有利な状況のようだ。
咲夜は、これまた手際よく、テーブルにカレーを並べていく。
その動作は、なんとなく優雅に見える。
やはり、伊達にメイドさんをしていない。
「さあ、食べましょう?」
「あ、うん」
しかし、アリスは窓の外を見たままだ。
ちなみに今、窓の外には部屋の光の反射でなにも見えない。
「どうしたの? アリス?」
「ちょっと、ね…」
「?」
「今、この咲夜との楽しい時間を過ごしているけれど、必ず『終わり』が
来てしまう。でも、この時間が永遠に続けばいいなーって」
「そうね…でも、必ず終わりがこないと私たちは何も進歩しないし
そこで、永遠と止まってしまうわ」
咲夜は、まるで経験者のようにアリスに話す。
「そうね…でも…まあ、いいわこの話は。」
アリスはいきなり話を切ってしまった。
あたかも、何か隠し事があるように。
「そ、そう? じゃあ、食べましょうかしらね」
「そうね、せっかくの咲夜特製カレーだもの。冷めたら勿体無いわ」
そう言って、二人ともカレーを口に入れていく。
「ん! 美味しい! やっぱり紅魔館のメイドさんは料理も上手ね」
「ふふふ、アリス。罠に嵌ったわね」
「え?」
「このカレーを食べてしまった者は…」
アリスは、スプーンを止め、咲夜を見る。
「者は…? 何よ?」
「…冗談よ、ただ言ってみただけだわ」
アリスは再び、スプーンを動かす。
「私、たまに咲夜の性格が解らなくなるわ…」
「それも私の性質だわ」
「………」
「あら、アリスは食べるのが早いわね」
「そうかしら?」
「あ、でもいつもお嬢様がゆっくり食事なさっているからかしらね」
「それもあるわね」
「でも、咲夜ももう少しで食べ終わるわよね?」
「そうね」
アリスは何かを思いついたらしく、食事中の咲夜に顔を近づける。
「咲夜が、食事を作ってくれたんだから、片付けは私がするわ」
「そうかしら?お言葉に甘えてお願いするわ。私もちょうど食べ終わったわ」
「じゃあ、片付けるわね」
アリスは、使った食器を持ってキッチンへ行った。
「アリス? お風呂借りるわよ?」
「ええ、いいわよ」
咲夜の声を聞いたときにアリスは何故かニヤニヤしていた。
そんなことも知らずに、咲夜はシャワーを浴びに行った。
「着替えはいいわね…」
ガチャ。
お風呂場の扉を開ける。
中はアリスらしい、シンプルな感じだ。
「ふぅー、今日はお嬢様のお世話が無くて妙な気分ね…」
と、そのとき。扉が開き、バスタオル1枚のアリスが入ってきた。
「…?! ア、アリス?!」
「どうしたのかしら? 2人で入るくらいどうってことないでしょ?」
「でも…狭いわ」
「そっち?」
その後、2人は仲良く無事に、シャワーを浴び、
そして今は、ベットの中だ。
「やっぱり、2人は狭くないかしら?」
アリスは、言う。
「私が、アリスを抱き枕にすればいいわ」
すると、咲夜はアリスに抱きつく。
「さ、咲夜? ちょっと…!」
「う~ん…スースー…」
咲夜からは、もう規則正しい寝息が聞こえてきた。
「は、早いわね…」
アリスは1人暗闇の中で考えていた。
咲夜に出会ってからのこと。
咲夜に助けられたこと。
咲夜と一緒に過ごしてきた時間のこと。
思えば、みんな咲夜が関係してる気がしてきた。
咲夜に出会う前は、引きこもりがちで…
咲夜が居なかったら…
そんなことを考えているうちに、アリスは深い眠りについていた。
<翌朝>
「…さくやぁ?」
しかし、アリスの隣には、誰も居ない。
代わりに、置手紙があった。
「ん? 置手紙かしら? どれどれ?」
『アリスへ
紅魔館の朝は早いので戻るわ。
朝食を作ったので食べて。
明後日また来るわ。
咲夜』
「咲夜らしいわ」
アリスは体を起して、リビングへ向かう。
テーブルの上には、綺麗な太陽のような目玉焼きと
サラダとパンという軽めの洋食が置いてあった。
「美味しそうね~」
いまだにパジャマ姿のアリスは、のんびりと食べているのだった。
「やっぱり、咲夜は料理が上手ね。私も見習わないとだめね」
今日もアリスの1日が始まる。
個人的にはもう少しがっつり読みたかったので、地の文が少なく感じました。
アリスにはそんな友達が多そうですね。
ところで、咲夜さんの私服は
紺色で厚手のセーターか、黒のロングコートか。
あるいは小豆色のジャージ。
異論は認める。
のほほんとしてて
そこで、永遠と止まってしまうわ」
ここは語尾の「わ」をどちらか片方にした方がいいかな?
誤字というわけでも無いけど
>趣味で入れてるだけよ?
趣味で淹れてるだけよ?
入れでもいいっちゃいい
あと、お嬢様にも茶を淹れてるけど・・・趣味の範囲内で満足してくれてるという事かな?
なんでもない日常の風景は見ていて和みます。
ほのぼのしていて良かったです。
自分でも、意外とベストカプかな?と思いました。不思議なカプかもしれません?
>>16
アリスで、ギャグとか思いっきり書くとキャラ崩壊しそうですものね。
>>18
のほほんとし過ぎると、なんも起伏がなくなってしまうので問題ですが…
>>22
咲夜×アリスは意外と浸透しないのですかね?
>>24
鼻孔をくすぐれるような作品って、意外と難しいのかもしれませんね。
>>26
修正点ありがとうございます。
「わ」は修正しましましたので。
「入れる」は敢えてそのようにしたのですが、「淹れる」のほうがよかったですね。
気をつけたいと思います。
>>31
地の文の少なさは、思っていたのですが…
敢えて、地の文を少なくし、あんまり、動いてないよっということを出したかったのですが
ちょっと、失敗でしたね。次に、生かさせていただきます。
>>34
何でも、無いような日常はかえってつまらないものを生み出してしまうときがあるので
注意が必要ですが…
>>45
満点ありがとうございます。
ほのぼのって意外と受けるのですかね~?
感想、指摘ありがとうございました。
指摘された点は、次にきっちりと…生かしていきたいと思います。
でもふいに切なさを覚えるアリスの気持ちはわかるなぁ