※バレンタイン記念。
この作品は「こんな命蓮寺~ねずみんきゅ~ぴっと~第1章 及び 第2章」とは関係ない話です。番外編でもありません。
続き物書いている途中ですが、関係の無い話を投稿します。ご了承ください。
「Dear my friend(親愛なる我が友へ)」と、紫のチョコケーキには書いてあった。
誰もがまずは驚愕した。そして頭を働かせ始めた。
予想外の吉報だ。もはや夢を諦めようとしていた少女たちにとっては、幸運の女神が微笑んでくれたようなものだった。
博麗霊夢の筆頭嫁候補と謳われたあの八雲紫に、まさかその気が無かったとは。
時はバレンタイン。外の世界じゃチョコレートに秘めたる思いを乗せる日なんて、当の昔のある種の幻想となって久しい記念日である。(リア充爆死しろ。)
人間の里近辺も、妖怪の山も、紅魔館も冥界も、どこもかしこもチョコレートの甘い匂いで満たされるおめでたい日であった。
甘い物が好物は基本事項。そんな少女たちがチョコレートをバターと共に溶かし、卵黄と砂糖と生クリーム、薄力粉とココア、後は卵白を泡立てメレンゲ完成。チョコケーキ作りに奔走する日だ。
博麗神社でも、例外なくそんな甘い匂いがした。
イベント大好きの少女たちが、そんな記念日を見逃すはずもない。各自チョコを持ちよって遊びに来ていたのだ。
普段は鬱陶しそうな博麗霊夢も、チョコが食べられるからかこの日だけは大歓迎だった。
しかし巫女さんは知らなかった。そんな少女たちが、自分にどんな目を向けているか。何を思って、そのチョコを作ってきたのかを。
そして最大の障害が実は初めから無かった事を知った今、どんな権謀術数を練っているかを。
レミリア・スカーレットはとりあえず、スペルカードを懐に忍ばせた。
あの八雲紫の妨害が無いなら、かねてより組み立てていた計画を実行に移すことができる。
それも、バレンタインなんて最高の日和にである。
計画はこうだ。霊夢を紅魔館に招待して、御馳走で気を引こうと言うのだ。もうずいぶん前から、その為に最高の酒と食材を手配していた。
欲しい物はすべて、このレミリアの手に入れる。この世の宝はすべて、この吸血鬼たるレミリアの手の中にあって然るべきなのだ。
博麗霊夢ももちろん例外なく、何としても手に入れたかった。
シンプルに、しかし盛大に、食べ物で釣るのが一番だとレミリアは考えた。
問題はこの場に、同じ志の娘たちが集まっている事だった。
見た目は子供のレミリアも500年は生きている。ただ何の策もなく霊夢を連れ出そうものなら鬼の怪力につぶされるか、虹の極光に焼かれるか、神の七光りに照らされるか、局地的暴風警報を発令されるかするだろう。
レミリアも馬鹿ではない。4対1はあまりにも不利。吸血鬼としての自信と誇りはあるが、それを差し引いてもこの状況は厳しかった。
せめて、鬼が何とかなればどうとでも出来そうなのだが……
その文字を読んでから、紫の何の照れも緊張もないチョコの渡し方を見てから、伊吹萃香の心臓は過稼働を始めていた。頭の真っ白さ度合いなら、この場で一番だったかもしれない。
まさかそんな……こんな馬鹿な事が……
ずっと、紫は霊夢の事が好きなんだと思っていた。だって、あの紫が、こうも足繁く博麗神社に通うのだから。
萃香自身も一緒だったから。霊夢が好きで、少しでも傍にいたくて神社に居候など始めてしまったから、紫も同じだと思ったのに。
妖怪らしい身勝手さをその時は意識的に活用した。霊夢の妖怪への理解度も、悪いと思いながら利用させてもらった。そして、嫌われて追い出されるのを恐れて、いつもいい酒を探しまわっている。
親友の恋心を想って身を引こうと決意した今も、高い酒をこうして持って来たのだ。チョコレートの事は判らなかったから、代わりにお酒を。
なのに、紫を想って身を引こうとしたのに、張り裂けそうな心を我慢して、独り枕を濡らす毎日だったのに、全部勘違いだったの?
どうしよう。千載一遇のチャンスなのに、なんでお酒なんか持って来たんだろう。チョコレートなんかないよ。持ってきてないよ。これでどうやって、霊夢に好きになってもらえばいいの?
だんだんと涙で霞んできた視界の先で、白黒の魔法少女の手の上にはしっかりと、綺麗に包装されているチョコが鎮座していた……
肩すかしをくらったような、そんな気がする霧雨魔理沙である。
神社の階段を上りながら、まるで戦場に赴くような心積もりであった。少なくとも昨日は、自分の寿命が悪くすればこのバレンタインデーまでかもしれないと、そう思って泣いたりもしたのに。
手の中のチョコレートを見る。我ながら綺麗に包装されているそのチョコレートには、とある仕掛けが施されていた。
どんな障害もいっぺんに払いのける仕掛け。遠くにある霊夢の心を、一挙に手元に引き寄せる会心の仕掛け。その背徳感に耐える覚悟と、それでも実行する後の無さがなければ、とても使えない究極の仕掛け。
そう、惚れ薬である。
悪いのは全部八雲紫だ。自分にこんな悪事を働かせるのは、全てアイツだ。
小さなころから一緒だった親友。昔は毎日のようにともに走り回り、お菓子を半分こに分けたり、一緒にお風呂に入ったりした仲だった。
魔理沙の中で博麗霊夢と言う少女は、ただの親友であるはずだったのだ。素っ裸を見たり見られたりしても、とくになんとも思わないくらい、まるで自分の半身であるようなくらい、身近な存在だったのだ。
だから気付くのが遅れたのかもしれない。だから、こんな暴挙に出るほど焦るのかもしれない。
紫を初めて見たとき、正確には霊夢に紹介されたとき、さながら大津波に襲われたかのような衝撃が襲いかかってきた。
世にはこんな美人がいるのかと。こんな美少女と霊夢は友達付き合いしてるのかと。
どうあっても勝てない。勝てる道理がありえない。霊夢がとられる。
そう思った瞬間、魔理沙にとっての霊夢像が、音を立てて崩れ、形を変えていったのだ。
しかし、どうやってこのチョコを食べさせようか。紫の妨害はどうやらなさそうだが、霊夢自身が食べてくれるかが問題だ。
この脇巫女は勘の良い少女である。一服盛られたこのチョコを、彼女は食べてくれないかもしれない。
いっそハート型にでもすりゃよかったかな。そしたら霊夢も恥ずかしがって、惚れ薬に気付かなかったりしたかもしれなかったのに。
そう丁度、あの自称現人神のチョコの様に……
東風谷早苗は会心の笑みを浮かべた。
勝った。現代人をなめてはいけない。スイーツへの飽くなき探求心で、自分の右に出る者はいないと自負している。
見れば、レミリアのそれは豪華だが恐らく自作ではない、メイド長のものだ。自作で無い時点で却下。心が伝わらない。この神聖なるバレンタインに、外注とかどういう神経をするのか。早急にお帰り願いたいと言うものだ。
萃香のチョコは……って、チョコじゃないじゃん!? いやいやいや、笑ってはならない。バレンタインにクッキーやケーキを作る人もたまにいるし、チョコである必然性は……いや、酒はないわ~。お菓子じゃないとかないわ~。
魔理沙のチョコはまだ包装されていて分からないが、四角い箱の中にどんなチョコが入っているのだろう。「ごみ屋敷(カオスLv12)」と呼ばれているかもしれない雑然とした家で、そんなずぼらな性格をした女が作ったチョコなど、高が知れてるに決まっている。
紫のチョコは、シンプルだが、なるほどよくできている。本当に睡眠時間12時間のグータラさんなのだろうか。そんな生活の何所に、あんなチョコを作れるようになる練習期間があったのだろう。
それとも、妖怪特有の長い時間の中で積み上げられた、経験のなせる業か?
彼女が敵で無くてよかった。本当に良かった。
八雲紫は、自分より霊夢との付き合いが長い。一緒に異変解決をするくらい、強い信頼関係で結ばれているのだ。
信頼関係が、恋愛感情に結び付く事。この件は百合物だが、マンガやラノベには良くある展開だ。早苗はそんな話も大好きだった。
チョコがハート形なのは、言わば最後の悪あがきだったのだ。せめて、想いを形にしたかった。ただ、霊夢と紫はできていると思ってたから、ハート形であるところを指摘されたら「外ではハート形にするのだ」とでも言い訳するつもりだった。
言い訳する必要が無くなったのだ。バレンタインのチョコはハート。そして、十数年来のお菓子作りの趣味で培われたこの腕前、とくとご覧じろである。
負けませんよと視線を移す。その先の記者の少女はさっきから手帳とにらめっこしていた……
情報量になら自信がある。料理の腕には自信もないが。
射名丸文には、今日この日ほど自分が烏天狗であることを幸せに思った日もなかった。
自分は生粋の新聞記者だと吹聴して幾千年。周囲の友人も、上司も後輩も、皆呆れたような眼で自分を見た。
当然、好きな人はいないのかとか、腰を落ち着ける気はないのかとか、花嫁修業はいつするのかとか、いらんお世話を皆焼くのだ。
天狗とは元来排他的だが、裏を返せば仲間思いと言える。新聞を書くことに集中し過ぎて、その他の物事を置き去りにする文を心配しない者など、天狗の中には誰もいなかった。
文は特に有能で、容姿も人柄も(天狗社会的には)良かったのでなおさら注目を浴びていたのだ。
そしてそんな周りの心配を、ありがたいと思いながら黙殺するのが文であった。そんな文を変えたのが、博麗霊夢との出会いである。
暗い部屋の天窓を開けるように。瞬間、世界が開いたようだった。
さて、ライバルたちのチョコは非常によくできていた。しかし、自分だって頑張ってきたさ。出来が悪いなら、せめて他の所に強みがなければならない。文の強みは何と言っても情報量とパイプの多さだ。
今日この日のために、このチョコのために博麗霊夢の好みを調べつくし、その好みに合わせたチョコの作り方を調べつくし、八雲紫の弱点なども調べつくし、その為の協力者はそれこそ星の数ほどいる。今日この日のために何度頭を下げ、何度「頭を上げて下さい」と言われたか知れない。だからこそ、天狗の誇りにかけても霊夢の心をその手におさめなければなるまい。
あのスキマ妖怪が障害で無くなった今、他の障害に屈する訳にはいかないのだ。
協力してくれた仲間たちと、そして自分自身のために。
一触即発の空気。殺る気満々の少女と、なぜか泣きベその少女と、難しい顔をする少女と、勝ち誇った少女と、メモを読む少女。少し離れたところから見れば非常に滑稽だが、その場にはかなり張りつめた空気が流れていた。
誰が一番初めに渡すか。
こう言ったケースで、一番手となるのは大きな賭けだ。一番手は基準となる。受けが良ければ霊夢の舌が肥えてしまい、後の者が大きく不利となる。しかし不評なら、霊夢の判断基準が甘くなるのだ。結果として、後に続く者が有利となる。
出るに出られない。しかし、出られる訳にもいかない。牽制の応酬、そんな応酬を破ったのは、
「こんにちは~」
酷くのほほんとした、新たなる介入者の声だった。
冬妖怪? 何をしに来た?
そこには、色白で柔らかそうな美少女がいた。
そう、冬の妖怪レティ・ホワイトロックである。
否、時期的には、別段疑問を感じる必要性もあるまい。今は2月。まだ寒い季節である。
問題は、このバレンタインに何をしに来たかである。
寒さに強いのはいいが、こんな一触即発の戦場に来てよかったのだろうか? 溶けるよ? と言うか、溶かすよ?
「えへへ~ごめんなさいね~。美味しいケーキを食べてほしかったから、作り直してたら時間がかかっちゃった」
「テイクいくら?」
「えっとね、テイク……6?」
「材料勿体なッ!?」
何やら霊夢とも親密そうに話しながら、警戒する5人などアウト・オブ・眼中と言わんばかりに、
「と言う事で……ね?」
「ん。ありがと」
霊夢にチョコを渡してしまった。渡してしまった!!
(((((し……しまったッ!!)))))
一番手を取られた! それもこんな訳のわからん冬妖怪に!
レティの持って来た物は、これまた可愛らしく丁寧に包装された、ハート形(!?)の箱である。とりあえず早苗のアドバンテージ撃沈。しかしそれだけではなかった。
霊夢が箱を開ける。中には作ったレティ本人の様な、可愛らしいチョコレートケーキが入っていた。
「Dear my Lover(愛しの貴女へ)」と、そのチョコレートには書いてあった。
(((((こいつッ!? こいつ勇者かッ!?)))))
居合わせた5人は目を剥くしかなかった。彼女らが「紫にその気がない事実」を知ったのは、今日この場所での事であったのだ。あのスキマ妖怪相手に横恋慕するなど、接触信管の核ミサイルに正面からライダーキックを仕掛けるようなものである。
あの文でさえ数十通りの弱点と、それを突く数百通りの戦術を調べてきてなお不安との闘いだったと言うのに。
その自殺行為を、この冬妖怪はやってのけたのだ。紫の居合わせるだろうこのバレンタインに、紫の目の前で愛の告白をするという自殺行為を。
「くすくす。ご依頼のとおり本番の監督はしなかったけれど、上手にできていらっしゃいますわ」
「ええ、その節はありがと~。おかげで今年はうまく行きそうよ」
(((((八雲紫公認……だと……!?)))))
違った。これは決死の特攻なんかじゃない。
会話から察するに、あの箱の中身は紫監修のもとに作られたと言う事だ。つまり、レティ・ホワイトロックは初めから紫と霊夢の関係を知っていたのだ!
あり得ん! 手強過ぎるッ!!
これはあまりに条件が違う。紫の威光に怯えて消極的な手段に打って出るしかなかった5人に対し、あの冬妖怪は大手を振って正面ゲートを通る事が出来たのだ。彼女一人だけが正面から攻める権限を与えられていたのだ。
瞬間、5人は頭を切り替えた。自分が攻めるための策は後回しだ。まずはあの冬妖怪を血の海に沈める算段をしなければならない。
唯の三下妖怪だと思っていたが、思わぬ伏兵がいたものだ。いや、この場ではラスボスと言った方がいいだろうか。八雲紫と言う名の壁が取り払われた奥に、新たなる壁があったと言う気分である。
しかし、少女たちは楽観していた。早苗に至っては、会心の笑みを取り戻していた。確かに条件は違うが、相手はあの冬妖怪である。たとえ真冬であったとしても負ける気はしない。その上今は立春も過ぎ、暦の上で春なのだ。
負けない。負ける道理がない。撃ち合いのケンカになったとしてもスペカ一枚でぶっ殺す事ができる。(弾幕ごっこは本来不殺生の遊戯であるから、もちろん比喩表現である。)
そんな事を考えていた矢先である。
「レティ」
「なあに?」
博麗霊夢が動き出したのは。
「……ん」
「え? あら! チョコ作ってくれたの!?」
「バレンタインだし……さ……なによ? いらないんだったらいいわよ?」
「いるいるもらうっ! ありがと~幸せ~」
(((((―――ッ!!!!???!?)))))
霊夢が、レティ・ホワイトロックに、チョコを渡したのだ!!
思えば少女たちは自分の事とレティの事に集中するあまり、肝心の霊夢の感情を失念していたのだ。
霊夢はレティにチョコを渡されて、どんな顔をしていた?
レティのチョコに書かれた一文を読んで、どう反応しただろうか?
誰も見ていなかった。少なくとも5人の中では誰も。レティの一挙手一投足に集中するあまり、霊夢の一挙手一投足を見逃すなんて。恋の中で恋を忘れてしまうだなんてッ!
レティがリボンをほどき、包装紙をはがして行く。
箱の形などもう意識の外に追いやりたかった。逆さまにした桃の形に見えるのは現実逃避だろうか? それとも……
「チョ~コ~チョ~コ~れいむのチョ~コ~♪」
いっそムカつくくらいご機嫌な鼻歌交じりに、箱の蓋に手をかけた。
不味い! 誰かあの冬妖怪を止めろ!
あの箱を開けさせてはならない。その中身を見せてはならない! あの中には絶望が入っている! あれは希望の入っていないパンドラの箱だッ!!
少女たちは一斉に腰を浮かせた。
しかし、もう全てが遅かった。
「Dear my Letty(私のレティへ)」
少女たちの恋の野望が、ここに潰えた瞬間である。
そして後書きのジャックwwww
ここでレイヴンと出会えるとは…なんという僥倖。
俺の尻なら幾らでも貸そう
干<梃子摺ってるようだな、尻を貸そう。
四つんばいで待ってますのでチョコください。あなたのチョコバナナだったら咥えます。
『知らかった』
→『知らなかった』?
『ジンプル』
→『シンプル』?
『美味しいケーキが食べてほしかった』
→『美味しいケーキを食べてほしかった』?
そして、あなたの書く興干ssをwikiにて全裸で正座して待ってる。
咲魔理と神奈霊はアウトですか……アウトですよね……。
「足蹴く」→「足繁く」かな?
握手してください。
それは黒幕!!
スイカがかわいすぎる