「なんのこっちゃ」
呆れる霊夢に、魔理沙は言う。
「ほら、満点って百点だし」
「ふむふむ」
「百歳になったら賞状貰えるし」
「ほうほう」
「水の沸点だし」
「ふーんふーん」
「あとはほら………………ほら!」
「………………」
「おっぱい100cmもあったらGカップ級だぜ!」
「そいつぁすげえや!!」
───────────
というごくごく自然な流れから、幻想郷の“百”を探すことになった二人。
暖のあるところで作戦会議をと思い、場所を移した。
「ここをこたつBARか何かと勘違いしないように」
こたつBAR、別名香霖堂。
店主である霖之助が戒めるものの、それはいつものことで、ポーズだ。
本気で追い出すつもりはなく、その証拠に椅子から動くこともしない。
ただ呆れた顔で、失笑しているだけである。
「あー、極楽極楽」
「霖之助さん、何かない? “百”」
「“百”?」
「実はかくかくしかじかで」
「……なんというか、まぁ…………」
暇だなぁと、言いかけたがやめた。
よくよく考えればこの二人が暇なのはいつものことだ。
当たり前のことに一々つっこむのも、なんだか面倒である。
「僕は……そうだな、これかな」
と、手に持っていた本を二人に見えるよう掲げる。
「読書百遍……ってね、いい本は何度読んでも飽きないけど、そうでもないものもそれなりの味があるのさ」
「私にとっちゃ、本は消耗品だぜ」
「面白いの? その本」
「いや全然」
そう言われ、二人は怪訝な顔をした。
その様子を見、霖之助は満足したように目で笑った。
「じゃあなんで? って顔に書いてあるよ、二人とも」
彼は続ける。
「他山の石以て玉を攻くべしと昔から言ってね、つまらないからと言って読むのをやめたり、ただ読み流すのはもったいない。
そうそう、もったいないと言えば最近は」
「さ、そろそろ行くか」
「霖之助さん、お茶ありがと」
スーパー薀蓄タイムからの脱出は流れるように行われた。
既に二人は遥か上空である。
「お茶ありがとって、僕は煎れた覚えはないんだけどな……」
見事に喰い散らかされたこたつを黙々と掃除する。
ふと空を見ると、そこには雲ひとつない青空が広がっていた。
恐らく、二人が来なければ一日中読書をしていて気づかなかっただろう。
「百聞は一見にしかず……か。 あの二人にとっても、百の語りよりも一の発見のほうがいいのかもしれないな」
どこまでも広がる青空を眺めつつ、今日は外で読書をするのもいいかもしれないと思った。
───────────
さて、出たはいいが特に行き先を決めていない二人である。
まさに行き当たりばったり。
空中でふよふよと当てもなく雲のように流れていた。
「次どこいくよ」
「んー…………幽香のところとか?」
「はいはい百花繚乱百花繚乱」
「くっ、読まれるとは……」
「だってなぁ、“百”って言っても、百のつく熟語なんて結構限られるんじゃねーか?」
「いまさらそれを言うか」
「あれだ、発想を逆転させるんだ」
「なによ」
「熟語を出してからモノを探すんだ」
「まぁそれだと確かに楽かもね」
そもそも何でこんなことをしているのか、ということに疑問を持ってはいけない。
「んーそれじゃあ………………“百発百中”でどうだ」
「“百発百中”ねぇ、飛び道具となると、永琳の矢とか、咲夜のナイフとか……」
「……お、紅魔館が見えてきたぜ。 じゃあちょうどいいから咲夜んとこ行こうぜ」
「ちょうど三時だし、いいかもね」
二人の興味は、既に咲夜から離れておやつにへと向けられていた。
───────────
「茶漬けなら出すわよ」
「まさかメイドにぶぶ漬けを勧められるとは思わなかったぜ」
「世も末ね」
いつも通り門を素通りした二人は紅魔館の庭でレミリアと咲夜に出会った。
太陽の下、ご苦労にも特大のパラソルを差して茶を飲んでいる。
「咲夜、客人に失礼でしょ」
「しかし……」
「こんな時間に茶漬けはどうかと思うわ、せめてオートミールにしなさい」
「…………」
「そうね、いいことを思いついたわ。 二人ともここで待っていなさい」
言うや否や、レミリアは小傘を差して館内へと消えていった。
後に残った三人になんとも言えない空気が漂う。
「まぁ、レミリアが京言葉知ってたらそれはそれで嫌だけどな」
「はぁ……なにもフォローになってないわよ」
言葉の意味を知ったときの主人のことを思うと、不憫で仕方なかった。
しかも原因が自分にある手前、二人にも強くあたれない。
「そもそも、あなた達がいきなり来て、スイーツよこせなんて言わなかったらこんなことにならなかったのよ」
「「スイーツ(笑)」」
「刺殺か斬殺かくらいは選ばせてあげるわ」
「おおっと、いいのか客人に対してそんな暴挙を働いて」
「あ、ナイフで思い出した」
霊夢が例の“百発百中”について咲夜に説明する。
しかし、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「私はそこまで自惚れていないわ」
「ほえ?」
どういうこったという二人に対し、咲夜は次のように言った。
「いくらなんでも、100%当てるのは難しいわね。 元々は数撃って当てる派なのよ」
と、レミリアの使っていたテーブルナイフを手に取る。
「そういうわけで、“百発百中”じゃないわね、残念だけど」
それを手でくるくると器用に回す咲夜に、魔理沙はつまらなさそうに言った。
「なんだ、結構大した事ないんだな」
瞬間、魔理沙が手を置いていたテーブルに風が奔った。
ちょうど彼女の中指と薬指の隙間に一本、テーブルナイフが揺れていた。
「ま、せいぜい“百発九十九中”ね」
咲夜はナイフを抜くと、二つに分かれたハエを掃った。
そうこうしているうち、レミリアが何やら鍋のようなものを抱えて飛んできた。
両手がふさがっているものだから、頭から煙が出ている。
次の瞬間には咲夜が傘を差してレミリアの横についていた。
「さぁ、食べなさい!」
「…………うわぁ」
「…………うわぁ」
ポイント1:煮えたぎる液面
ポイント2:辺りに漂う異臭
ポイント3:おーとみーるという名称の薬品らしい
ポイント4:そもそも白くない
ポイント5:満面の笑み
「これは美味しそうなオートミールですねおぜう様、二人ともとっても嬉しそうですわ」
レミリアの死角、咲夜のナイフが見えまくった。
なんか刀身に殺意って書いてあった。
「…………うわぁーい」
「…………うわぁーい」
「咲夜の分もあるからね!」
「!?」
この後、紅魔館の妖精メイドを含め総勢100名が病に倒れるという紅魔館史上最大のピンチが訪れたという。
100名の体内から例外なく同じ毒物が発見された為、幻想郷では一時新種の病原菌騒ぎになったとかなんとか。
───────────
「ソロモンよ! 私は帰ってきぶヴァッハ!」
「わからない人がいるネタはやめなさい」
「うぅ……これが病み上がりの魔理沙さんにすることか」
「お互い様だっての…………ねぇ、もうやめていい?」
「却下。 というか、いまさらやめるなんて霊夢らしくないな」
「だってねぇ、もう二ヶ月も寝込むのは嫌だもの」
「まさにあれこそ百発百中だぜ」
「当たるものが“食”ってところがむかつくわね」
その後、レミリアの毒殺スキルについて愚痴を言い合っていた二人だったが、話は例の“百“に関するものへと移っていった。
今度は霊夢がということで彼女が出した慣用句は、“百戦錬磨”だった。幻想郷では鬼のようにいるだろう。
「だって、ぶっちゃけ早く帰りたいし」
「まてよ……鬼、か…………ありかもな」
有無を言わせず、魔理沙は跳んだ。
こうなれば彼女が満足するまで帰れないと諦めたのか、霊夢は箒の後姿をしぶしぶ追っていくのだった。
───────────
「ふーん、私が百戦錬磨、ね」
ぐいっと杯を傾ける勇儀を前に、無料酒をご馳走になる。
「確かに、私も昔は色々無茶やったからねぇ……あのことは若かったなぁ」
しみじみと、遠い目で虚空を眺める勇儀にほどよく酔った魔理沙が言った。
「それこそ、百戦百勝なんじゃねえの」
「それも“百”、ね」
「ははっ、確かにそうだった。 よしよし、そんなに言うなら今日は私の名勝負百選を肴に酒盛りといこうか」
一つ目の話が終わったとき、二人は気づくべきだった。
九つ目の話が終わったとき、二人はやっと気づいた。
五十番目の武勇伝が話し終わったとき、二人は意識が朦朧としていた。
一話ごとに酒を一升空けるといったペースだったので、気持ち悪いを通り越して三途の川が見え始めていたと、後に二人は話し合っている。
しかも寝ると勇儀が起こし、また話すといったふうだったので、酒盛りは文字通り三日三晩行われた。
百話語り終えたあと、勇儀は満足したように倒れたので、それと時同じくして二人は倒れた。泥のように眠った。
次の日か二日後か、夜が明けようかという時間、目を覚ました。
勇儀はいなかったので、二人は二日酔いという土産を貰ってさっさと帰ることにした。
「百一番目の犠牲者になるところだったわね」
「ぜったいあいつ自分の血液以上の酒飲んでるって」
「酒は百薬の長なんていうくらいだし、大丈夫なんじゃない」
「酒は万病の元、とも言うけどな」
揃ってふらふらと漂っていると、霊夢が足元に何かを見つけた。
妖怪の群れだった。
ここは妖怪の山。特に珍しくもない光景だが、痛む頭で霊夢は思い出した。
「あー、これぞ、百鬼夜行ってやつね」
「カタシハヤ。エカセニクリニ。タメルサケ。 テエヒアシエヒ。我シコニケリ」
「は?」
「百鬼夜行に出会ったときの、おまじないだぜ。 昔の文献に載ってた」
「ふーん、言わないとどうなるの」
「死ぬらしい」
それを聞き、からからと霊夢は笑い出す。
「もう、頭痛いんだから笑わせないでよ」
「はぁ……もういいや、帰ろうぜ」
「やっと? あー、お風呂入りたいわ。 久々にこんな無駄な時間すごした気がする」
「帰って霊夢の葬式の準備しないとな」
ニヤっと微笑む魔理沙に、笑顔で目潰しをかまして満足する。
じゃあねと背を見せた霊夢の後ろから、魔理沙は言った。
「紅白に白黒、私らに共通する色は白ってことで」
「……その心は?」
「百点満点には、一点足りない」
「二人なら198点でしょ、十分よ」
「だな」
二人は揃って微笑んだ。
ニヤっとしたと言ったほうが正確か。
「これからもよろしくね、魔理沙」
「百も承知、さ」
背を向け合い、今度こそ二人は分かれた。
幻想郷に、日が昇る。
紅白巫女と白黒魔法使いは今日も飛ぶ。
この二人がいる限り、幻想郷に異変が途絶えることは、百に一つもない。
呆れる霊夢に、魔理沙は言う。
「ほら、満点って百点だし」
「ふむふむ」
「百歳になったら賞状貰えるし」
「ほうほう」
「水の沸点だし」
「ふーんふーん」
「あとはほら………………ほら!」
「………………」
「おっぱい100cmもあったらGカップ級だぜ!」
「そいつぁすげえや!!」
───────────
というごくごく自然な流れから、幻想郷の“百”を探すことになった二人。
暖のあるところで作戦会議をと思い、場所を移した。
「ここをこたつBARか何かと勘違いしないように」
こたつBAR、別名香霖堂。
店主である霖之助が戒めるものの、それはいつものことで、ポーズだ。
本気で追い出すつもりはなく、その証拠に椅子から動くこともしない。
ただ呆れた顔で、失笑しているだけである。
「あー、極楽極楽」
「霖之助さん、何かない? “百”」
「“百”?」
「実はかくかくしかじかで」
「……なんというか、まぁ…………」
暇だなぁと、言いかけたがやめた。
よくよく考えればこの二人が暇なのはいつものことだ。
当たり前のことに一々つっこむのも、なんだか面倒である。
「僕は……そうだな、これかな」
と、手に持っていた本を二人に見えるよう掲げる。
「読書百遍……ってね、いい本は何度読んでも飽きないけど、そうでもないものもそれなりの味があるのさ」
「私にとっちゃ、本は消耗品だぜ」
「面白いの? その本」
「いや全然」
そう言われ、二人は怪訝な顔をした。
その様子を見、霖之助は満足したように目で笑った。
「じゃあなんで? って顔に書いてあるよ、二人とも」
彼は続ける。
「他山の石以て玉を攻くべしと昔から言ってね、つまらないからと言って読むのをやめたり、ただ読み流すのはもったいない。
そうそう、もったいないと言えば最近は」
「さ、そろそろ行くか」
「霖之助さん、お茶ありがと」
スーパー薀蓄タイムからの脱出は流れるように行われた。
既に二人は遥か上空である。
「お茶ありがとって、僕は煎れた覚えはないんだけどな……」
見事に喰い散らかされたこたつを黙々と掃除する。
ふと空を見ると、そこには雲ひとつない青空が広がっていた。
恐らく、二人が来なければ一日中読書をしていて気づかなかっただろう。
「百聞は一見にしかず……か。 あの二人にとっても、百の語りよりも一の発見のほうがいいのかもしれないな」
どこまでも広がる青空を眺めつつ、今日は外で読書をするのもいいかもしれないと思った。
───────────
さて、出たはいいが特に行き先を決めていない二人である。
まさに行き当たりばったり。
空中でふよふよと当てもなく雲のように流れていた。
「次どこいくよ」
「んー…………幽香のところとか?」
「はいはい百花繚乱百花繚乱」
「くっ、読まれるとは……」
「だってなぁ、“百”って言っても、百のつく熟語なんて結構限られるんじゃねーか?」
「いまさらそれを言うか」
「あれだ、発想を逆転させるんだ」
「なによ」
「熟語を出してからモノを探すんだ」
「まぁそれだと確かに楽かもね」
そもそも何でこんなことをしているのか、ということに疑問を持ってはいけない。
「んーそれじゃあ………………“百発百中”でどうだ」
「“百発百中”ねぇ、飛び道具となると、永琳の矢とか、咲夜のナイフとか……」
「……お、紅魔館が見えてきたぜ。 じゃあちょうどいいから咲夜んとこ行こうぜ」
「ちょうど三時だし、いいかもね」
二人の興味は、既に咲夜から離れておやつにへと向けられていた。
───────────
「茶漬けなら出すわよ」
「まさかメイドにぶぶ漬けを勧められるとは思わなかったぜ」
「世も末ね」
いつも通り門を素通りした二人は紅魔館の庭でレミリアと咲夜に出会った。
太陽の下、ご苦労にも特大のパラソルを差して茶を飲んでいる。
「咲夜、客人に失礼でしょ」
「しかし……」
「こんな時間に茶漬けはどうかと思うわ、せめてオートミールにしなさい」
「…………」
「そうね、いいことを思いついたわ。 二人ともここで待っていなさい」
言うや否や、レミリアは小傘を差して館内へと消えていった。
後に残った三人になんとも言えない空気が漂う。
「まぁ、レミリアが京言葉知ってたらそれはそれで嫌だけどな」
「はぁ……なにもフォローになってないわよ」
言葉の意味を知ったときの主人のことを思うと、不憫で仕方なかった。
しかも原因が自分にある手前、二人にも強くあたれない。
「そもそも、あなた達がいきなり来て、スイーツよこせなんて言わなかったらこんなことにならなかったのよ」
「「スイーツ(笑)」」
「刺殺か斬殺かくらいは選ばせてあげるわ」
「おおっと、いいのか客人に対してそんな暴挙を働いて」
「あ、ナイフで思い出した」
霊夢が例の“百発百中”について咲夜に説明する。
しかし、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「私はそこまで自惚れていないわ」
「ほえ?」
どういうこったという二人に対し、咲夜は次のように言った。
「いくらなんでも、100%当てるのは難しいわね。 元々は数撃って当てる派なのよ」
と、レミリアの使っていたテーブルナイフを手に取る。
「そういうわけで、“百発百中”じゃないわね、残念だけど」
それを手でくるくると器用に回す咲夜に、魔理沙はつまらなさそうに言った。
「なんだ、結構大した事ないんだな」
瞬間、魔理沙が手を置いていたテーブルに風が奔った。
ちょうど彼女の中指と薬指の隙間に一本、テーブルナイフが揺れていた。
「ま、せいぜい“百発九十九中”ね」
咲夜はナイフを抜くと、二つに分かれたハエを掃った。
そうこうしているうち、レミリアが何やら鍋のようなものを抱えて飛んできた。
両手がふさがっているものだから、頭から煙が出ている。
次の瞬間には咲夜が傘を差してレミリアの横についていた。
「さぁ、食べなさい!」
「…………うわぁ」
「…………うわぁ」
ポイント1:煮えたぎる液面
ポイント2:辺りに漂う異臭
ポイント3:おーとみーるという名称の薬品らしい
ポイント4:そもそも白くない
ポイント5:満面の笑み
「これは美味しそうなオートミールですねおぜう様、二人ともとっても嬉しそうですわ」
レミリアの死角、咲夜のナイフが見えまくった。
なんか刀身に殺意って書いてあった。
「…………うわぁーい」
「…………うわぁーい」
「咲夜の分もあるからね!」
「!?」
この後、紅魔館の妖精メイドを含め総勢100名が病に倒れるという紅魔館史上最大のピンチが訪れたという。
100名の体内から例外なく同じ毒物が発見された為、幻想郷では一時新種の病原菌騒ぎになったとかなんとか。
───────────
「ソロモンよ! 私は帰ってきぶヴァッハ!」
「わからない人がいるネタはやめなさい」
「うぅ……これが病み上がりの魔理沙さんにすることか」
「お互い様だっての…………ねぇ、もうやめていい?」
「却下。 というか、いまさらやめるなんて霊夢らしくないな」
「だってねぇ、もう二ヶ月も寝込むのは嫌だもの」
「まさにあれこそ百発百中だぜ」
「当たるものが“食”ってところがむかつくわね」
その後、レミリアの毒殺スキルについて愚痴を言い合っていた二人だったが、話は例の“百“に関するものへと移っていった。
今度は霊夢がということで彼女が出した慣用句は、“百戦錬磨”だった。幻想郷では鬼のようにいるだろう。
「だって、ぶっちゃけ早く帰りたいし」
「まてよ……鬼、か…………ありかもな」
有無を言わせず、魔理沙は跳んだ。
こうなれば彼女が満足するまで帰れないと諦めたのか、霊夢は箒の後姿をしぶしぶ追っていくのだった。
───────────
「ふーん、私が百戦錬磨、ね」
ぐいっと杯を傾ける勇儀を前に、無料酒をご馳走になる。
「確かに、私も昔は色々無茶やったからねぇ……あのことは若かったなぁ」
しみじみと、遠い目で虚空を眺める勇儀にほどよく酔った魔理沙が言った。
「それこそ、百戦百勝なんじゃねえの」
「それも“百”、ね」
「ははっ、確かにそうだった。 よしよし、そんなに言うなら今日は私の名勝負百選を肴に酒盛りといこうか」
一つ目の話が終わったとき、二人は気づくべきだった。
九つ目の話が終わったとき、二人はやっと気づいた。
五十番目の武勇伝が話し終わったとき、二人は意識が朦朧としていた。
一話ごとに酒を一升空けるといったペースだったので、気持ち悪いを通り越して三途の川が見え始めていたと、後に二人は話し合っている。
しかも寝ると勇儀が起こし、また話すといったふうだったので、酒盛りは文字通り三日三晩行われた。
百話語り終えたあと、勇儀は満足したように倒れたので、それと時同じくして二人は倒れた。泥のように眠った。
次の日か二日後か、夜が明けようかという時間、目を覚ました。
勇儀はいなかったので、二人は二日酔いという土産を貰ってさっさと帰ることにした。
「百一番目の犠牲者になるところだったわね」
「ぜったいあいつ自分の血液以上の酒飲んでるって」
「酒は百薬の長なんていうくらいだし、大丈夫なんじゃない」
「酒は万病の元、とも言うけどな」
揃ってふらふらと漂っていると、霊夢が足元に何かを見つけた。
妖怪の群れだった。
ここは妖怪の山。特に珍しくもない光景だが、痛む頭で霊夢は思い出した。
「あー、これぞ、百鬼夜行ってやつね」
「カタシハヤ。エカセニクリニ。タメルサケ。 テエヒアシエヒ。我シコニケリ」
「は?」
「百鬼夜行に出会ったときの、おまじないだぜ。 昔の文献に載ってた」
「ふーん、言わないとどうなるの」
「死ぬらしい」
それを聞き、からからと霊夢は笑い出す。
「もう、頭痛いんだから笑わせないでよ」
「はぁ……もういいや、帰ろうぜ」
「やっと? あー、お風呂入りたいわ。 久々にこんな無駄な時間すごした気がする」
「帰って霊夢の葬式の準備しないとな」
ニヤっと微笑む魔理沙に、笑顔で目潰しをかまして満足する。
じゃあねと背を見せた霊夢の後ろから、魔理沙は言った。
「紅白に白黒、私らに共通する色は白ってことで」
「……その心は?」
「百点満点には、一点足りない」
「二人なら198点でしょ、十分よ」
「だな」
二人は揃って微笑んだ。
ニヤっとしたと言ったほうが正確か。
「これからもよろしくね、魔理沙」
「百も承知、さ」
背を向け合い、今度こそ二人は分かれた。
幻想郷に、日が昇る。
紅白巫女と白黒魔法使いは今日も飛ぶ。
この二人がいる限り、幻想郷に異変が途絶えることは、百に一つもない。
オートミールで毒物とか、出来なくもない・・・か?
それはそうと、こたつBAR 香霖堂に改名した方が客足が多くなりそうだと感じるのは私だけだろうか・・・
オチも秀逸ですな
シメがきれいで感動しましたwそっか、99歳も白寿って言いますもんね。