Coolier - 新生・東方創想話

大と並の境5

2010/02/10 16:11:51
最終更新
サイズ
23.75KB
ページ数
1
閲覧数
1007
評価数
2/15
POINT
640
Rate
8.31

分類タグ

注意事項:
今回から話の都合上、風陣録のキャラクターが出てきます。
しかし時間設定は守屋一家が引っ越してくる前の状態です。
なぜこんなことを書くのか気になるようでしたら、是非、拙作『大と並の境』を読んでください。
このお話は続き物なので宜しければ一度、最初から読んで頂ければ幸いです。
では始まります。







大と並の境5





季節は冬。
北風が特に栄える時期で、雲を連れては重いからここで置いていくと言わんばかりに大量の雪を降らせていく。
この時期は全ての行動に何かしらの制限が付いてしまう。
例えば、雪の寒さに耐えるように普段の着ている以上の服を着込んだり、いつ買い物に行けるか分からないから、大量に買って備えるなど。
制限がないと言えば、子供くらいだろうか。
雪を見ては近所の友達を誘い、雪合戦、雪だるま作りに専念している。

そんな季節を待っていたと言わんばかりに四人の少女たちが一箇所に集まって中むつまじくしゃべっていました。

「冬です、みなさん」
「ああ、冬だね」
「冬ですね」
「冬だな」
言っている事は同じだが後の人ほど言っている言葉が少ないのは、言う必要がないのに取り合えず言っておこうと思ったからなのか。

最初に言ったのは稗田 阿求。この家の持ち主の少女である。
阿求に先ず同意したのが藤原 妹紅。蓬莱人で死ぬことも老いることもない元人間である。
次に言ったのが射名丸 文。鴉天狗で新聞記者をしている。
最後を閉めたのが上白沢 慧音。この人里の守護者でワーハクタクである。

「みなさんに集まって頂いたのは他でもありません。幻想郷縁起改編に当たっての最後の調査対象、『レティ=ホワイトロック』を調査についてです」
「やっときましたね、この季節が。私ずっと待っていましたよ」
「そうだね。毎度この季節は寒くて面倒ごとが多いのだが、今日はちょっと楽しみかな」
「そうだな、妹紅や文の言うとおり私も大分待たせてもらったからな」
「みなさん、張り切っていますね?」
前回までの調査と違い、妙にやる気になっているような気がして、阿求は聞いてみた。

「まあ、そうだね。私の場合、いつもこの時期は何もすることは無かったしさ…けれど今回は違う感じがしてね。だからその分楽しみなのさ」
「私はこの調査をきっかけに色々な人のエピソードを聞けて、新聞記者として冥利に尽きているからですね」
「私もだ。歴史家として大儀を感じ、遣り甲斐がある」
お陰で今までのものを編纂するのに満月の時期は興奮しっぱなしだったよ、とそう聞いてみんなが笑い出した。
静かさの象徴とも言うべき冬だというのにこの家の中は温かみがあり騒がしかった。

「それを聞いて私はとても嬉しいです。最初は私の我侭から始まり皆さんに迷惑を掛けたかなと思いました。もちろんそれは今でも思っています」
阿求が三人を一度見回した。

「しかし、皆さんの意見を聞いて、これを続けて良かったなと思います。一応今回で一区切りが付きます。みなさん今回もよろしくお願いします」
そう言い括り阿求はお辞儀した。
それを見て三人は照れくさくなった。
当たり前のことを言われるとどうしても同じ反応をしてしまうあたり、ここにいる彼女たちは一つの輪で繋がっているのかもしれない。


………
……



「さて改めてですが今回の調査はレティさんです」
「レティ=ホワイトロックと言うと冬限定の妖怪ですね」
「この時期にしか見れないけど、あいつはそれ以外どうしているか知ってる、慧音?」
「そうだな、諸説あるが例えば、紅魔館前の湖の奥底、或いはその近辺の洞窟。外の世界であったり、空に居る等もあるな」
「空?どういうことですか、慧音さん?」
「言葉どおりの意味さ。なんでも上空の方が、気温が低いので、冬以外の間はそこで眠っているらしいな。……まあ、どれも確信があるわけではないが」
「慧音さんの言うとおりです。実は彼女はどこにいるのか全く分かっていないのですよ」
阿求は幻想郷縁起を取り出した。
そこには彼女の住処など全く書かれていなかった。

「お恥ずかしい話ですが、我々歴代阿礼乙女もそこには全く分かりませんでした」
「気になるなあ」
「とはいっても、不明なことは不明ですからね」
「おそらく本人に聞いても答えは返ってこないだろうな」
「弱点になりますからね」
そう、レティが天下を奮えるのは冬の時期のみ。
それ以外の季節はからっきし駄目なのである。なので教えてはくれないだろうと四人は悟った。

「で、どうするのさ。あいつの『大妖怪』としての基準何にするの?」
「そうですね、慧音さんは何か彼女について歴史はありませんか?」
「ふむ」
そう言って慧音は目を瞑った。
おそらく慧音の頭の中にある資料からレティに関しての歴史を検索しているのだろう。

「私が知る中で一軒だけある」
「それはどのようなものでしょうか?」
答えを聞いた文はちょっと前のめりになって待っていた。
けれど聞かれた慧音は苦虫を噛み潰したような顔になっていた。

「それは『幻想郷冬幻郷異変』というものだな」
「!あれですか」
阿求は慧音の答えを聞いて過剰に反応した。
存外大きな声を出したので文と妹紅は驚いて振り向いた。

「何?知ってるの、阿求?」
「ええ、正直今でも思い出したくない異変ですね」
阿求の方もやはり慧音と同じ顔をしていた。
二人が揃って同じ顔をしたことに残りの二人も薄気味悪くなった。

「その異変は事件の名前の通り幻想郷を冬だけにするといった荒業の異変です」
「具体的にはどういったものですか?」
「レティが起こした異変は自身の能力を使い一面冬景色にしたのさ。当時は暑い時期が嫌だったこともあり、多くの氷精達も賛同し手を貸した。お陰で幻想郷の四割は凍りついたのさ」
慧音の話を聞いた文は身を震わせた。恐怖というよりも寒さのイメージが進行してしまったからであろう。
雪に覆われた世界ならまだ耐えれそうだが、氷の世界となると雪以上に冷たさを感じてしまう。

「でもそういったものは長続きしません」
「レティたちは当時の博麗の巫女と八雲 紫によって成敗されたのさ」
「けれど問題はその後のほうが大きかったんですよ」
寒さ以上に何か問題があるのだろうか。
次の言葉を待っていると、

「彼女が残した禍根は根強く、その年は春が無く、冬の次には夏が来ました」
「お陰でその年は農作物が全く無く、紫に無理言って外の食糧を配給してもらったのさ」
「まるでつい最近起こった春雪異変に似ているますね」
「あれはまだ大人しい位さ。まあ、最もあれ以上冬が長引くようであれば妹紅に頼んでいただろうな」
正直あの人間たちが解決してくれて助かったと胸中に思った妹紅であった。
とは言え、食料がないというのは死活問題である。
飢餓であったり、食料を巡っての暴動が起きてもおかしくない。
幸い大量の氷を残していったので水だけは豊富にあった。
その為夏だというのに水不足には困らなかったのだろう。
しかし

「食糧の問題の次にまだ問題があったんだ」
「まだあるの?」
「はい。実は残された氷のお陰で水の確保は例年以上に容易だったので夏は水不足には困りませんでした」
「しかし過剰に水が余ってしまいそれが蒸発してしまったんだ。熱気にやられてな」
「そしたらどうなるか分かりますか?」
話をふられた妹紅と文は少し考えてみた。
水が蒸発しても水不足には困らなかったという。
いくら考えても答えが出なかったので妹紅は降参、と言った。

「雲が発生するんだ」
「雲、ですか?」
それの何が困るのか見当が付かなかったので文は妙なところで言葉が区切れてしまった。

「雲は雨を降らしまた地上に水が帰る」
「先ほども言いましたようにその年は水が大量に余っていたんですよ」
「そこに水がまた足される。すると今度は川が氾濫したのさ」
「それだけじゃありません。最初に大量に水が蒸発したこともありまして、半月ほど続く長雨でした」
「お陰で例年以上の冷夏が続いてしまったので自然はめちゃくちゃさ」
文と妹紅は二人の矢継ぎ早のトークについていくのが必死であったが、それでもその異変の凄まじさは身に染みた。
海という一種のため池がない幻想郷は、今までは湖で上手く循環させていたがその時は湖でも持たなかったのだろう。
水が引かない土地というのは自然の驚異を引き起こしやすい。
地滑り、土地の腐食、浸食etc……

とにかく自然を弄くるは禁忌であることを忘れてはいけない。
しっぺ返しは必ず帰ってくるのだから。

「今の話を聞いて失礼だとは思いますが……」
暗く静かになった雰囲気を何とか変えようと文は転換を狙った。

「さっき話に出ました春雪異変。あれはもう少し長い方が良かったですね」
「どうしてそう思うのだ?」
さっきの話をしっかりと聞いていなかったのかと思い、慧音はむっとした顔で尋ねた。

「だって普段竹林に引きこもっている妹紅さんが異変解決に行くんですよ…ネタになっただろうなあと思いまして」
「え、私?」
自分に話が振られるとは思わなかった妹紅はおどろいた。

「そうすれば永遠亭のお姫様と当分縁が切れていたんじゃないですか?」
「む、なるほど。そういう考えもあったか」
それを聞いた慧音はいかにも惜しい事したなあと天を仰いでいた。
彼女たちの不毛な戦いに何とか終止符を打たせたい慧音としては魅力的な提案であったからだ。

「おあいにく様、異変は解決されてしまったよ。たらればは無意味さ」
「くすくす、みなさん論点がずれていますよ」
阿求に嗜まれ三人はお互いの顔を見て苦笑した。

「……ごほん。とにかくレティはある意味脅威の存在だ。『大妖怪』かの調査にはしっかり暖を取れる用意をした方が良いだろうな」
「用意は良いですけど、結局基準はどうしますか、阿求さん?」
「……そうですね」
しばし考えた。『幻想郷冬幻郷異変』でも良いが、それでは少々困る。
というのもあの異変でレティはやられてしまったのだ。
それでは『大妖怪』かどうか計れない。
そう悩んでいると…

「だったら、弾幕ごっこしかないかな」
「弾幕ごっこですか?」
「ああ。良い考えが無いならそれしかないだろ」
「でもそうなってくると、皆さんに負担がかかってしまいます」
「大丈夫だって。私たちは友達だろ。だったら頼りなって」
阿求は妹紅に友達といわれ、加えて頼れといわれ嬉しくなった。
こう言われては断ることも出来ない。

「分かりました。今回は弾幕ごっこでレティ=ホワイトロックが『大妖怪』に当てはまるかの基準とします。今回は今まで以上に皆さんのお力が必要になりますので、よろしくお願いします」
阿求はぺこりとお辞儀し、慧音、妹紅、文は頷いた。
今回の方針が決まり早速少女たちは用意に取り掛かった。
文は事前に友達の河童である河城 にとりから小型のヒーターを人数分借りていた。
なんでもそれを持っているだけで、自分の体温が冷気に奪われにくくなっている仕組みらしい。
文はそれをみんなに渡し、自分の用意にも取り掛かった。
今回は弾幕ごっこ。
何が起こるか分からないから、スペルカードを持てる分だけもって行こうと各自確認した。


………
……



「それじゃ、もう一度確認するけど基本的には私が相手する。やばくなったら慧音、頼むよ」
「ああ、わかった」
「文は阿求を守ることだけ専念しててくれ」
「はい、わかりました」
「よろしくお願いします」
阿求はそう言って文に抱えてもらった。
毎度おなじみお姫様抱っこである。
今回の調査は主に妹紅が前線となるらしい。
四人は確認を終えレティを探す為飛びだった。

冬の季節だけ合って、お昼時だというのに外はあまり人がいない。
ひっそりとした人里は、それでも各自の家からは暖かな空気と雰囲気を出していた。



◆◆◆



何も無い。
あるのは雪、雪、雪……
見渡す限り雪に覆われた世界。
今日も今日とて降り積もる。
雪だけで何も無い、一面銀世界。
そんな何も無いところを一匹の妖怪がふよふよと漂っていた。
その妖怪は何もすることも無く、行く当ても無く、ただ顔の向いている方向に進むだけであった。

妖怪の名前はレティ=ホワイトロック。
『寒気を操る程度の能力』の持ち主で冬にしか現れないといわれる、『冬の妖怪』。
目には見えないが彼女の周りはこの寒空以上の冷たさを纏っていた。

動くことに疲れたのか下の方に降りて、立ち止まった。
そこは、元はただの原っぱだったのか、何も無い殺風景な雪原が広がっている。
雪がしんしんと降り続ける空を見上げた。
その顔は少しばかり無機質なそれでいて慈悲のあるような若干矛盾している表情を浮かべている。
何を考えているのか当人のみぞ知るといったところか。

そしてゆっくりと見上げる角度を下げ、今度は遥か彼方にある妖怪の山を見据えていた。
妖怪の山と言えば天狗や河童など本来滅多にお見えにかかれない、かつ実力者がいるといわれている場所である。
そんな山の妖怪もこの雪には勝てないのだろうか、遠くから見ても分かる通りひっそりとしている。
天狗は寒さに負けたのだろうか、河童は川の中で凍りついているのだろうか。
レティは変わらず同じ顔をしている。

「雪ってすごいわね」
俯いてそう呟いた。
ぽすっと音を立ててそこに座り込むと、また妖怪の山を見た。

天狗の強さはそのスピードである。
天狗にかかれば幻想郷の端から端まで欠伸をする間に行ける、と例えるくらい種族揃って速い。
しかしいくら速い種族でも雪を纏えばスピードも出ないし、体感もいつも異常に寒さを感じるだろう。
そう考えると愉快になった。
彼女にとって天狗の嫌な所は強者には下手に、弱者には強気にでるところである。
それは傍から見ていてセコイ。
そのようなことをしなくても十分に強い種族なのに、何故するのかレティには分からなかった。
じゃあ、自慢のスピードを封じる雪に対して、彼らは下手に出るのだろうか?
雪に対してゴマすり……

クスッ

もしそうだったら、なんと滑稽なのだろう。
まあ、私には関係ないけどね……


次に思い浮かべたのは河童。
彼らの強さは技術力である。
河童に作れないものはない(機械・工作関係限定)と噂されている。
日進月歩、昨日より今日、常に技術力を養っているらしいが、こんな雪の中で作業が出来るのだろうか?
雪はどんな生物の体温も下げてしまう。
それは河童も例外ではない。
体が冷たくなるとまず指が使いにくい。
かじかんで思い通りに動かせない。
そうすると物を作ることも難しいのでは?
そう考えてくると今の状況だと河童の強さも発揮できない。
アイデンティティがない妖怪ほど惨めなものはないわね。
可哀想に……
まあ、私には関係ないけど……

そんなことを考えながら後ろの方に倒れた。

しんしん、しんしん……


暗い空に映えるは無数の光の玉。
それらが先ほどより積もってきた。
よく見ないと判らないほどだけど私には分かる。
だって私は『冬の妖怪』。
こうして天狗も河童も、いや、彼らだけじゃない。
他の妖怪も人間もだ。
彼らはこれらによって制限が付けられてしまう。
彼らに対するこの贈り物に思わず見とれる。
毎年見れるものなのに……これが恋なのかしら?なんて…

クスッ

「雪ってすごいわね」
今度は楽しそうに呟いた。


………
……



レティは一刻経ってもずっと同じようにしていた。
おかげで雪に体が埋もれてきた。
少し横を見て深さを確認した。
でもそれが気にならない量なのかまた正面を向いた。
あれから少しも雪は止もうとしない。
目に入った雪が邪魔で手でどかした。

「何考えていたんだっけ?」
妖怪の山のことを考えていたのは覚えていたのだがそれから先は思い出せないようだ。
考えるそぶりを見せたが、結局思い出せずまた大の字になった。
しばらくしてむくりと起き上がると周りを見だした。

「湖でも見に行こうかしら?」
そう言って最初と同じように漂い始めた。
まるで綿毛が飛ぶようにふわふわと飛んでいたが、強い風が吹いてもどこ吹く風ぞと言わんばかりに方向がぶれずに飛んでいた。

しかし彼女はいったい何を考えているのだろうか、その方向は先ほどまで見据えていた妖怪の山。
口に出していた湖とは方向が違う。
決して彼女は方向音痴というわけではない。
それでもただ無心に進んでいた。
行く道は同じ景色付いているようだ。
これほど変化のない景色はどうも飽きてしまう。
彼女もそう思ったのか。
少しスピードを上げる。
少しでも今の光景を終わらせるためだ。

そうしてたどり着いたのは、やはり妖怪の山。
山道は誰も通っていないのか足跡がひとつも見つからない。
どうやら今日は誰も出入りをしていないのかもしれない。
とは言え、それは飛べない妖怪や人間に限っての事。
天狗なんかは空を飛んでいるので歩行での行動は滅多にない。
それに人間も好き好んで山に近づこうとしない。
故に足跡が付いていないのかもしれない。

「綺麗な道ね」
足跡が付いていない山道は綺麗に舗装されたゲレンデのようである。
こうなってくると誰もが、自分が最初の人という証を付けたくなってしまうだろう。
レティもそのようで楽しそうに山道に踏み入れようとした。

シャクッ

小気味の良い音が聞こえた。
それは雪道を歩けばどこでも聞こえる普通な音。
けれどまだ手付かずのところに踏み入れた足音は格別である。

「~♪」
レティはその音が気に入りそのまま妖怪の山に足を踏み入れて行った。
もはや最初の目的であった湖など頭の片隅に追いやられたのだろう。
排他的で知られる妖怪の山にレティはどんどんと踏み入れていった。



◆◆◆



「どこに居るんでしょうかね?」
阿求は今回の対象であるレティが見つけられずにいた。

「そうですね~、よくチルノさんと一緒に居るからと思い湖に来ましたけど」
「見つからないな」
文の言葉をつないだ慧音も周りを見渡したが見つからずに居た。

人里を飛びだった四人はレティが高確率で居るであろう湖のほとりに来た。
ここではたびたび氷精のチルノと一緒に居ることが目撃されている。
なのでやってきたのだが、周りを見渡しても誰も居ない。

「なあ、こんだけ探しても居ないんだったら、別の場所に居るんじゃ?」
「そうだろうな。今日はまだ来ていないか或いはもう行ってしまったか?」
「こうなってくると、私には見当がつきませんね」
レティはここにいないようであったら、他に寄るところが決まっていない妖怪である。
そのため、四人は手が詰まってしまったのである。

「あれ、あんたたちどうしたのさ?」
「おや、チルノさん?」
そこへ現れたのがレティと仲の良い『氷の妖精』チルノである。

チルノは妖精にしては力が強いため妖精の中では注目の存在である。
『冷機を操る程度の能力』はこの季節は迷惑な存在であるが夏には誰しもの注目の存在である。

「丁度良かった。チルノさんお聞きしたい事があるのですが?」
「なにさ?」
「レティさんがどこに居るか知っていますか?」
「レティ~?」
文にレティのことを聞かれ渋い顔をしながら、ウ~ンと頭をひねってみた。
考えているというポーズでこんなことするのはチルノ以外あまり居ないのでは。
まるでかき氷の食べすぎで頭が痛くなるような表情である。

「わかんない」
「そうですか…」
待った答えがわからないときたので本格的に四人は困り始めた。

「あ、でも……」
悩んでいた文にチルノは

「たぶん、妖怪の山に居るんじゃないかな?」
「山に…ですか?」
と答えたが、まさか想像もしていなかった答えがきたので文は驚いた。

「どうしてそう思うのですか?」
「雪が降ってるから」
「?」
何か要領がつかめない理由なので文に限らず聞いていた他の三人も反応に詰まっていた。

「雪は昨日やそれ以前も降っていましたよ?」
「うん。だから山に行ってるよ」
「?」
困った顔をして文はチルノの顔をのぞいていた。

「?どうしたの?」
「いえ、なんでも……」
どうしようか、チルノの言葉を信用してよいのだろうか、四人はそう顔を見合わせていた。

「まあさ、結局此処には居ないって言うのが判ったから、山に行かない?」
「そうですね、それで駄目でしたら次を考えましょう」
「そうだな。取り合えずチルノ感謝するぞ」
慧音に感謝をされて照れながらふんぞり返ってこういった。

「ふふん、当然よ。あたいって最強なんだから」
よく聞くフレーズを聞いて四人は苦笑し、また飛びだった。
文は考えていた。
あの冬の妖怪が何故、妖怪の山に向かったのか?
何か目的があるのか?

「雪が降ってるから」

チルノの言った言葉を思い出しながら山に向かっていった。



◆◆◆



「やっぱり排他的ね」
心の中で呟いていたつもりだがつい声に出ていた。
レティは足跡を聞く事が楽しくなり、最初の証を付けることに夢中になっていると、突然前に何かが飛んできたことに気づいた。
そして前を向くと一匹の天狗が通せんぼしていた。

「止まれ、そこの妖怪!」
威勢の良い声でレティに威圧を掛けてきた。
その妖怪は文のように黒い翼を持っているわけではなく、むしろ雪のように真っ白なふさふさとした尻尾を靡かせていた。
ああ、白狼天狗ね、と思い出しぼ~っと見ていた。

「此処から先はお前のような余所者が入って良い場所ではない。引き下がるのなら見逃してやる。だがそれ以上踏み出そうというのなら……」
天狗は一度言葉を区切り背中に背負っていた大剣を抜いた。

「この刀で討ち取らせてもらう」
そういわれた、レティはただ正面を見ていた。
きらきらと光る刀の刃先がこのくらい雪山を照らし出しているようだ。

(小さななりなのにしっかりしてるわね)
そう思いながら今度は刀の方に目を向けた。

(でも、これだから天狗って嫌ね。せっかくの楽しさが興ざめね)
これ以上先に進もうというのであれば容赦なく攻撃してくるだろう。
そうなっては興ざめどころではない。
それに天狗はこの一匹とは限らないかもしれない。
倒せたとしても先のことを考えていると、どうしても損なような…
そうして置かれている現状を考えながら、どうしたものかと考えていると

「あっ…」
そういわれて来るのかと思い、思わず白狼天狗は身構えた。
けれども襲ってこない。そのことに混乱していると、レティが自分の足元を見ていたことに気づき自分も見た。
しかし見ても何もわからず余計に混乱した。
すると

「あなた、人の楽しさを奪っといて、どうなるか判っているわね?」
そう言われて白狼天狗はレティの顔を見た。
そこには目元は髪のせいで良く見えないが口元が笑っていた。
けれど楽しそうにではなく、愉しそうに笑っていた。
その顔に白狼天狗は全身の鳥肌が立ち、尻尾がピンと立った。
拙い、殺される。
そのことを本能で感じ取った。

「怪符『テーブルターニング』」
静かに宣言されたスペルカード。
そして白狼天狗は訳もわからず山道からはずれた林の方に吹き飛ばされた。レティも追いかけた。
誰もいなくなった山道には今までの最初の証と「二番目の足跡」が残っていた。


………
……



しばらくして所々白とは正反対の色が付いたレティが林から出てきた。
本当ならこの二色のコンビはめでたい色なのかもしれないが、今はそう思えない。
林の方を覗くととてもではないがそう思えなかった。
天狗達(白狼天狗や援軍に来た鴉天狗も含め)は無残にもやられ、妖怪の山にもうひとつの山が形成されていた。
むせ返るほどの血の匂いが辺りを包んでいた。
やられた数はゆうに三十は超える。
それだけの数をレティは五分もかからずに倒してしまった。
先にも言ったが天狗は決して弱くない、いやむしろ強い種族である。
なのにレティは彼らを平然と倒してしまった。
まるで餌を巣に運んでいる必死な蟻を潰す様に…

実際、彼らは必死であった。
仲間が襲われているのでそれを助けようとした天狗が居た。
逆にもっと援軍を呼ぼうとその場から遠ざかる天狗も居た。
けれど冬の妖怪の前には彼らは無力であった。
多勢に無勢という言葉がある。
どれだけ屈強なものも数には勝てないという意味だ。
けれどレティは違った。
数は少ないものの質の高さは折り紙付き。
いわゆる一騎当千であった。

「あ~あ、本当に興ざめね」
ほんとうに悲しそうな顔をしたレティが空を見上げていた。
舞い降る雪が白くない部分を包み隠すように纏わり付く。
それを見たレティは儚そうな顔をして、微笑んだ。
その顔はまるで困った子供をあやすような母の顔をした冬の妖怪がたたずんでいた。
そして行きとは違い、ふよふよと漂いながらその場を後にした。



◆◆◆



「つ、強い……」
山の一部がレティに聞こえないように呟いた。
呟いた白狼天狗、犬走 椛はレティを通さないように上から命令を下されたので足止めに来た。
一目で冬の妖怪だというのは認識したが、最初は簡単にあしらえると思った。
『下っ端哨戒天狗』とは言え立派な天狗の一人である。
そこいらの妖怪にやられるとは思わなかった。
けれど結果は違った。
林の方に吹き飛ばされた後、何も抵抗が出来ず、されるがままに弾幕を浴びせられた。

援軍に来た天狗は椛を助けようと弾幕を張りレティにぶつけようとしたが、彼女が張った弾幕がそれらを通さなかった。
それどころか援軍の天狗には手を出さずただ、ひたすらに椛にぶつけていた。
ぶつけられながらもチラッとレティを見るとその顔は愉快そうに笑っていた。
その顔が怖くて、弾幕が痛くてされるがままに我慢していた。
天狗達は必死に抵抗するもレティが椛に対して攻撃をやめたのはいたぶることを飽きたときであった。

そうなると次の矛先は周りに居たほかの天狗である。
力を振るい続けレティはただひたすらに弾幕を繰り出した。
結果、援軍に来た天狗もレティの弾幕に太刀打ちできず、無残な山の一部となった。
とは言え、椛も含め天狗達は死んではいない。
奇跡か或いはわざとか…

(私が何をしたって言うんだ)
悲しくなってきた。
ここは妖怪の山。
誰も近づけず、余所者が入ってきたら追い返す。或いはそれ以上を……
これが当然だというのに、あの妖怪は私を的のように弾幕をぶつけてきた。
秩序を守ろうとしただけの天狗が、このような仕打ちを喰らっては理不尽さも感じてくるだろう。
涙を、嗚咽を堪えていた。
それは悔しいからじゃない、まだ向こうにいる冬の妖怪が怖いからだ。

(あ、文様に伝えなきゃ)
椛は無理矢理意を固め、レティが去ったと同時に動き始めた。
『千里先まで見通す程度の能力』で早く文を見つけようと空から見渡した。
文様がレティに出会いませんように、と祈りながら…



◆◆◆



一方、チルノと分かれた四人は現在、妖怪の山に進行中であった。

「今日は雪がおとなしいですね」
「そうですね。昨日とかはとても吹雪いていましたしね」
今日も雪は降っていたが、昨日よりはおとなしいらしく文は昨日の雪のひどさを思い出していた。

「そういえば、昨日みたいな雪がひどい日は、文はどうしてるんだい?」
「私ですか?私はこういう日だからネタが転がっているんじゃないかと、外に出てましたよ」
「それでどうだったんだい?」
「残念ながら、何もありませんでした」
首を軽く振りながらため息をついた。
その反応を見て妹紅は笑っていた。

「そりゃそうさ。あんな日は家に篭るってもんだろ?」
「ですよね。単純に考えればそうなんですが…どうも気にかかるものがありまして、つい」
「あまり無茶はしない方が良いぞ?いくら妖怪の体だからって風邪を引くことくらいあるのだからな」
「肝に銘じておきます」
慧音に注意された文は素直に頷いた。

天からの贈り物は本当に穏やかだった。
阿求は手を前に出し降ってきた贈り物に触れたが、直ぐに解けて水滴になった。
今はこの状態だから阿求は微笑んでいられる。

けれどこれらは途中で牙をむき出すこともある。
ひどい時は前も見えず、一面が真っ白な世界になり、訳も判らず自分も飲み込まれてしまう。
そうなっては命に関わることを幻想郷の住民は人間、妖怪問わず知っている。
だからそのような日は滅多に出歩かない(文みたいな一部を除く)。
しかしそういう日に限って彼女は現れる。

レティ=ホワイトロック

冬の妖怪が現れるからか、それとも彼女が力を振るっているからか、それは定かでない。
けれど今日みたいに穏やかな天気の日は、彼女は現れないといわれる。
今日は無理かな、と誰しもが思っていると、突然突風が吹いた。
『風を操る程度の能力』の持ち主である文でさえこの風には驚き、目を瞑って阿求を守っていた。
何事か、と四人は辺りを見回すと前方に件の妖怪、レティが漂いながら山のある方向とは真逆の方向に向かっていた。

「いました!」
見つけた文は嬉しくなり、大きな声をあげて近づいていった。
それに倣う様に妹紅も慧音も続いた。

穏やかな雪はこれからもそういてくれるのだろうか、それとも『冬の妖怪』がいるから牙をむくのか。
空を見上げてもどちらに転んでもおかしくないほど微妙な様子であった。
レティに会ったのはそんな時であった。




続く……
祈ったのに思い通りいかないときってありますよね。
これから阿求達はどうなるのでしょうか?
…まぁ、自分次第なのですが。

お世話になります。
アクアリウムです。
今回で最後のターゲット、レティ=ホワイトロックになります。

自然の妖怪という事もあるのでかなり強い部類に入ると思いますが、それが伝わっているか不安です。
ぜひ何か意見がありましたら教えてください。
期待に添えれるように努力していきます。

レティ編はトリということもあってまだまだ続きます。
もう少しお付き合いください。
ではでは……
アクアリウム
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.500簡易評価
11.60名前が無い程度の能力削除
随分サディストなレティさんだ……結構新鮮
今までの話を見るに、ただサディストなだけじゃないとは思いますが……。
所々誤字があったので(最初の注意書きの「風陣録」とか)、IMEを導入するなりしてみたらどうでしょうか。余計なお世話かもしれませんが。
続きを楽しみにしています。
12.80ずわいがに削除
ちょっ、レティさんマジ鬼畜;
冷害で幻想郷も大打撃だったでしょうに
慧音たちは大丈夫なのか?