うだるような暑さが段々と遠のいていき、心地よい涼しさがそろそろと近付いてくる。
食卓では、ざるそばの代わりに蕎麦が出てくるようになった。
西瓜も葡萄にその場を明け渡す。デザート。
つまり、夏が去り、秋がやってきた――。
――天高く馬肥ゆる秋、皆さまどう過ごされるつもりでしょうか!?
『静葉と穣子の! 冬まで狂いのオヲトシハーベスター!』、始まるよぅ。
パーソナリティは豊穣の神こと私、秋穣子と!
紅葉の神こと。
「秋静葉……」
で、お送りいたします!
「……穣子ちゃん、前振りが前回と同じよ?」
こう言うのは恒例とかお約束とか言うのよ姉さん!
声だけだから、繰り返し言って覚えてもらわないと。
映像が付いたら、また違ってくるんだろうけどね。
「確かに、森田さんは賛否両論あるものね……」
誰よ森田さん!?
「……この番組は、皆様の信仰心で提供しております」
流すなぁ!
――と、ともかく!
今回はお葉書特集です!
貴女の葉書は読まれるでしょうか、楽しみに聞いて頂戴な。
「その前に、一曲……」
え、あ、そうなの?
わっ、姉さんが歌うんだ。
懐かしいなぁ、小さな頃は子守唄とかよく……。
「『二個一』」
……あの、姉さん、近い。
「背中に耳をぴっとつけて抱きしめた――――♪」
うわぷ、いきなり抱きつかないで!?
や、しかも、前だから!
解りにくいかもしれないけど胸の方だから!
そりゃ姉さんの方がおっきいけど……って、近い近い近い!?
「姉さんは何も禁止なんかしてない――――♪」
オチだろうけど解りにくいよ!?
「愛してる。愛してる。愛してる」
あ、オチそう……じゃない!
こほん!
気を取り直しまして、葉書を読んでいきますね。
ほら姉さんも、わざとらしくほっぺ膨らませてないで選んで頂戴。
えーと、一通目、読むよ。
『こんにちは、穣子さん、静葉さん。
漸く秋がやってきましたね、待ち遠しかったです。
でも、放送を聞くのは、少し複雑だったり……。
私にも姉がいるのですが、こいつがもう、静葉さんと違って頓珍漢なんですよ!
格好付けなのに決まらないし、子供っぽいし。
ほんと、穣子さんが羨ましくて、聞くたびに凹んじゃいます。
……あっと愚痴になっちゃいましたね、ごめんなさい。
ではでは、今日の放送も届けられることを祈って――』
こんにちは、ちゃんと届いているかな?
葉書の内容だけど、うーん。
姉さんを褒めてくれたのはありがとう。
けど、謝ることなんて何もないよ。
むしろ、えへへ、ちょっと下世話だけど、にまにましちゃった。
だってね、何度も何度も、お姉さんの所で書き直している。
――貴女が『頓珍漢なお姉さん』を大好きなのが、とっても伝わってくるわ。
「……お姉様よ、穣子ちゃん」
ん、姉さん、どういうこと?
「フェイスネーム『地下室から狂気を込めて』さんからのお便りでした……」
妹様でしたか。
なし!
今のなしっ!
私が壊されちゃう!?
「穣子ちゃんを壊す……? 負けないわ」
違った!
明らかに『壊す』の響きが違った!
狂気と言うより狂喜って感じで、微妙にヤらしかったよ!?
「……放送室から歓喜を込めて、引き続きお届けいたします」
しないしないしない!
「遠慮しなくてもいいのに……。
では、次のお葉書にうつりますわ。
FN『実際にランドセルを背負ったら諸々に引かれたでござる』さん」
何そのFN。と言うか、この放送、地底まで届いてたんだ……。
「『前年から拝聴しております。
早速なのですが、今回は相談に乗って欲しく、筆をとりました。
静葉さんと同じく、私にも妹がいます。
第三の目に入れておきたいくらい、可愛いんですよ?
……少し脱線してしまいました。
私は妹を、可愛らしく、愛おしく思っています。
だけど、私には妹のことが解らないのです。
静葉さんのように、穣子さんの心の衣を一枚一枚はぎ取っていくにはどうすればいいのでしょうか?』」
私がはぎ取られているのは確定!?
「……穣子ちゃんは、自分から脱いでいくものね」
ヒトを痴女みたいに言うなーっ!
「質問にお答えしましょう……。
葉書を拝見する限り、貴女は過保護気味なのではないでしょうか。
実際に接する時間を言っているのではありません。
心が、常に妹さんへと向いているのではないか、と思うのです。
……少し、ほんの少し、離れてみませんか?」
む。
姉さんはそうじゃない、と。
私から離れてることもあるんだ。ふーん。
「――そうすれば、このように相手から脱いでくれるかもしれませんよ?」
は、謀ったな、姉ぇぇぇ!?
もぅ、次、次!
時間ないんだから、どんどん読んでいかなくちゃ!
んと、じゃあこの一枚……なんだろう、二つ折りになってる?
「……? 開いてみて」
――――♪
わ、凄い凄い!
メロディカードだ、これ!
んー、楽しい音だね、姉さん!
「FN『演奏隊』さんからのお葉書です……」
『姉妹揃って、わいわいと聞いています。
何時も楽しませて頂いているので、代わりと言ってはなんですが、私たちの音をお届けしますね。
因みに、姉は静葉さんの、妹は穣子さんのファンです。
……勝手ながら、姉も妹も、どこか似ていると感じているからでしょうね。
私はと言うと、どちらも、同じくらいファンです。好きです。姉さん、リリカ、大好きよ』
――って、書いたのメル……ぽう?
「……穣子ちゃん、本名を出してはいけないわ。
でも、ふふ、仲がいいのね。
負けないわ」
っぷぁ、またなんか目の光が粘っこくなってるような……。
でもさ、何時かスタジオに来てもらいたいね。
ゴニン入るかな?
やってやれないことはないと思うんだけど。
あ、こういうのはどうだろう。
姉さんたちで集まって、私たちは私たちで集まるの。
結構面白そうな企画だと……あ、いや、駄目だ。
私たちはともかく、姉さんとあの人じゃ、きっとすぐに放送事故になっちゃうね。
「やる……やらない……放送事故……。
穣子ちゃんたら、もう、破廉恥なんだから。
でも、安心して……? 体はともかく、心は貴女だけのものよ」
姉さんたち、会話しないでアイコンタクトだけで終わりそうだもん。
時々、『ふふ……』とか笑い声が零れるの。
一部のマニアには受けそう。
「流すのが上手くなって……嬉しさ半分切なさ半分の姉さんです」
じゃあ流さなくてもいいような話をしてよ!
「恋する姉さんはせつなくて穣子ちゃんを想うと……」
? 想うと、何?
あー……聞かない方がいいみたいだね。
外で、にとりんが物凄い速さで首を横に振ってるし。
「あの子も意外と……ふふ」
この頃、よく遊びに行っている里の人間の所為なんだろうなぁ。
「さて……ここでまた一曲」
今回多いね。
あれ、マイク取らないんだ。
姉さんが歌うんじゃないの? 蓄音器、回す?
「穣子ちゃんも、一緒に……」
へ?
や、でも、そんな打ち合わせしてないよ。
私が姉さんに合わせられるのって、それこそ子守唄とか童謡とかしかないし。
「……私に任せて。大丈夫」
うーん……まぁ、姉さんがそう言うんなら……。
「では、お待たせしました。
幻想郷の悩める姉妹方にお届けします。
そして、『演奏隊』の皆さんにお返しを――」
わ、今回は綺麗に締められそうだね。よきかなよきかな。
「――負けないわよ」
ちょい待ち。
なんかきな臭くなってきた。
肝心の曲名は? まだ聞いてなかったよね?
「……『ちゅっちゅの才能』」
駄目そうな名前きた!
と言うか、そんな歌知らないよ!?
合わせるも何も、歌詞知らないんじゃどうしようもないじゃない!
「歌わないもの……?」
じゃあ演奏?
って、どう考えてもそっちのが難しいよ!
大体此処に楽器なんて一つもな――あの、姉さん、近い。
「二つ、あるわ。
……一つは、私。
もう一つは、穣子ちゃん、貴女よ」
近い近い近い! おでこと鼻が当たってる!?
「――と言う訳で、全篇ノーカット、チュパ音でお送りします」
できるかぁぁぁ!?
「……やってやれないことはない」
滅茶苦茶笑顔で囁かないで!?
違う、そーいう意味じゃないよ!
放送できないって言って――んくんくんくぅん……んっ!
――――<ぷつっ>
食卓では、ざるそばの代わりに蕎麦が出てくるようになった。
西瓜も葡萄にその場を明け渡す。デザート。
つまり、夏が去り、秋がやってきた――。
――天高く馬肥ゆる秋、皆さまどう過ごされるつもりでしょうか!?
『静葉と穣子の! 冬まで狂いのオヲトシハーベスター!』、始まるよぅ。
パーソナリティは豊穣の神こと私、秋穣子と!
紅葉の神こと。
「秋静葉……」
で、お送りいたします!
「……穣子ちゃん、前振りが前回と同じよ?」
こう言うのは恒例とかお約束とか言うのよ姉さん!
声だけだから、繰り返し言って覚えてもらわないと。
映像が付いたら、また違ってくるんだろうけどね。
「確かに、森田さんは賛否両論あるものね……」
誰よ森田さん!?
「……この番組は、皆様の信仰心で提供しております」
流すなぁ!
――と、ともかく!
今回はお葉書特集です!
貴女の葉書は読まれるでしょうか、楽しみに聞いて頂戴な。
「その前に、一曲……」
え、あ、そうなの?
わっ、姉さんが歌うんだ。
懐かしいなぁ、小さな頃は子守唄とかよく……。
「『二個一』」
……あの、姉さん、近い。
「背中に耳をぴっとつけて抱きしめた――――♪」
うわぷ、いきなり抱きつかないで!?
や、しかも、前だから!
解りにくいかもしれないけど胸の方だから!
そりゃ姉さんの方がおっきいけど……って、近い近い近い!?
「姉さんは何も禁止なんかしてない――――♪」
オチだろうけど解りにくいよ!?
「愛してる。愛してる。愛してる」
あ、オチそう……じゃない!
こほん!
気を取り直しまして、葉書を読んでいきますね。
ほら姉さんも、わざとらしくほっぺ膨らませてないで選んで頂戴。
えーと、一通目、読むよ。
『こんにちは、穣子さん、静葉さん。
漸く秋がやってきましたね、待ち遠しかったです。
でも、放送を聞くのは、少し複雑だったり……。
私にも姉がいるのですが、こいつがもう、静葉さんと違って頓珍漢なんですよ!
格好付けなのに決まらないし、子供っぽいし。
ほんと、穣子さんが羨ましくて、聞くたびに凹んじゃいます。
……あっと愚痴になっちゃいましたね、ごめんなさい。
ではでは、今日の放送も届けられることを祈って――』
こんにちは、ちゃんと届いているかな?
葉書の内容だけど、うーん。
姉さんを褒めてくれたのはありがとう。
けど、謝ることなんて何もないよ。
むしろ、えへへ、ちょっと下世話だけど、にまにましちゃった。
だってね、何度も何度も、お姉さんの所で書き直している。
――貴女が『頓珍漢なお姉さん』を大好きなのが、とっても伝わってくるわ。
「……お姉様よ、穣子ちゃん」
ん、姉さん、どういうこと?
「フェイスネーム『地下室から狂気を込めて』さんからのお便りでした……」
妹様でしたか。
なし!
今のなしっ!
私が壊されちゃう!?
「穣子ちゃんを壊す……? 負けないわ」
違った!
明らかに『壊す』の響きが違った!
狂気と言うより狂喜って感じで、微妙にヤらしかったよ!?
「……放送室から歓喜を込めて、引き続きお届けいたします」
しないしないしない!
「遠慮しなくてもいいのに……。
では、次のお葉書にうつりますわ。
FN『実際にランドセルを背負ったら諸々に引かれたでござる』さん」
何そのFN。と言うか、この放送、地底まで届いてたんだ……。
「『前年から拝聴しております。
早速なのですが、今回は相談に乗って欲しく、筆をとりました。
静葉さんと同じく、私にも妹がいます。
第三の目に入れておきたいくらい、可愛いんですよ?
……少し脱線してしまいました。
私は妹を、可愛らしく、愛おしく思っています。
だけど、私には妹のことが解らないのです。
静葉さんのように、穣子さんの心の衣を一枚一枚はぎ取っていくにはどうすればいいのでしょうか?』」
私がはぎ取られているのは確定!?
「……穣子ちゃんは、自分から脱いでいくものね」
ヒトを痴女みたいに言うなーっ!
「質問にお答えしましょう……。
葉書を拝見する限り、貴女は過保護気味なのではないでしょうか。
実際に接する時間を言っているのではありません。
心が、常に妹さんへと向いているのではないか、と思うのです。
……少し、ほんの少し、離れてみませんか?」
む。
姉さんはそうじゃない、と。
私から離れてることもあるんだ。ふーん。
「――そうすれば、このように相手から脱いでくれるかもしれませんよ?」
は、謀ったな、姉ぇぇぇ!?
もぅ、次、次!
時間ないんだから、どんどん読んでいかなくちゃ!
んと、じゃあこの一枚……なんだろう、二つ折りになってる?
「……? 開いてみて」
――――♪
わ、凄い凄い!
メロディカードだ、これ!
んー、楽しい音だね、姉さん!
「FN『演奏隊』さんからのお葉書です……」
『姉妹揃って、わいわいと聞いています。
何時も楽しませて頂いているので、代わりと言ってはなんですが、私たちの音をお届けしますね。
因みに、姉は静葉さんの、妹は穣子さんのファンです。
……勝手ながら、姉も妹も、どこか似ていると感じているからでしょうね。
私はと言うと、どちらも、同じくらいファンです。好きです。姉さん、リリカ、大好きよ』
――って、書いたのメル……ぽう?
「……穣子ちゃん、本名を出してはいけないわ。
でも、ふふ、仲がいいのね。
負けないわ」
っぷぁ、またなんか目の光が粘っこくなってるような……。
でもさ、何時かスタジオに来てもらいたいね。
ゴニン入るかな?
やってやれないことはないと思うんだけど。
あ、こういうのはどうだろう。
姉さんたちで集まって、私たちは私たちで集まるの。
結構面白そうな企画だと……あ、いや、駄目だ。
私たちはともかく、姉さんとあの人じゃ、きっとすぐに放送事故になっちゃうね。
「やる……やらない……放送事故……。
穣子ちゃんたら、もう、破廉恥なんだから。
でも、安心して……? 体はともかく、心は貴女だけのものよ」
姉さんたち、会話しないでアイコンタクトだけで終わりそうだもん。
時々、『ふふ……』とか笑い声が零れるの。
一部のマニアには受けそう。
「流すのが上手くなって……嬉しさ半分切なさ半分の姉さんです」
じゃあ流さなくてもいいような話をしてよ!
「恋する姉さんはせつなくて穣子ちゃんを想うと……」
? 想うと、何?
あー……聞かない方がいいみたいだね。
外で、にとりんが物凄い速さで首を横に振ってるし。
「あの子も意外と……ふふ」
この頃、よく遊びに行っている里の人間の所為なんだろうなぁ。
「さて……ここでまた一曲」
今回多いね。
あれ、マイク取らないんだ。
姉さんが歌うんじゃないの? 蓄音器、回す?
「穣子ちゃんも、一緒に……」
へ?
や、でも、そんな打ち合わせしてないよ。
私が姉さんに合わせられるのって、それこそ子守唄とか童謡とかしかないし。
「……私に任せて。大丈夫」
うーん……まぁ、姉さんがそう言うんなら……。
「では、お待たせしました。
幻想郷の悩める姉妹方にお届けします。
そして、『演奏隊』の皆さんにお返しを――」
わ、今回は綺麗に締められそうだね。よきかなよきかな。
「――負けないわよ」
ちょい待ち。
なんかきな臭くなってきた。
肝心の曲名は? まだ聞いてなかったよね?
「……『ちゅっちゅの才能』」
駄目そうな名前きた!
と言うか、そんな歌知らないよ!?
合わせるも何も、歌詞知らないんじゃどうしようもないじゃない!
「歌わないもの……?」
じゃあ演奏?
って、どう考えてもそっちのが難しいよ!
大体此処に楽器なんて一つもな――あの、姉さん、近い。
「二つ、あるわ。
……一つは、私。
もう一つは、穣子ちゃん、貴女よ」
近い近い近い! おでこと鼻が当たってる!?
「――と言う訳で、全篇ノーカット、チュパ音でお送りします」
できるかぁぁぁ!?
「……やってやれないことはない」
滅茶苦茶笑顔で囁かないで!?
違う、そーいう意味じゃないよ!
放送できないって言って――んくんくんくぅん……んっ!
――――<ぷつっ>
どう考えたら引かれないという自信が生まれるのかww
カレーパンが食べたいです。