妖夢のアルバイト紀行～人形作り編作者: 玉機

「暇だ～」

ある日の朝、日課である見回りと鍛練を終えた私はする事がなくなってしまった。
私は庭師だが白玉楼の庭は放っておいてもそうそう荒れたりはしない。
何故か？
答えは簡単、冥界に生える庭木は生きていないからだ。
庭の手入れは幽々子様が飽きられる事がないように少しずつ見た目を変えているだけに過ぎない。
庭師の仕事など元々そこまで忙しいものではなかったのだが、一時顕界から沢山観光客が訪れた時に片付けの仕事が増えた事があったので、最近は余計に暇に感じられる。
他に趣味か仕事でもあればよいのだが。

「仕事……そうだ、バイトでもしてみようかな」

どうせ庭師の仕事では給金が貰える事はないのだ。
暇が潰せてお金も貰えるなら言う事はない。
よし、仕事を探しに行こう。

「そこの貴方、今日はちょっと出かけてくるから私の分の昼御飯は作らなくていいわ」

食事係の霊に昼御飯を断り、私は人里に向かって出発した。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＊

幻想郷職業安定所、通称「ハローパスタイム」。
妖怪はスペルカードルールの制定により合法的に人間を襲えるようになったが、時の流れで妖怪の性質も多様化し、人間と同じように仕事に就いて働きたいという変わり者も現れ始めた。
そんな需要の多様化に対応すべく設立されたのがこの施設……らしい。紫様が以前そんな説明をしていた。
永久就職から一時的な手伝いの募集まであらゆる依頼がここに集まっている。
最近では人間もここで仕事を探すことがあるらしい。
私もここで仕事を探せばきっとやりたい事が見つかるだろう。

「どれにしようかな」

辺境までの護衛、土木工事、寺子屋の教師、新聞の印刷……本当になんでもある。
これだけあるなら多少は選り好みしても良いだろう。
今日は試しに簡単な手伝いがしてみたい。

「おっ、これはなかなか」

――――――――――――――――――――――――
『人形作りの手伝い』
依頼者：アリス・マーガトロイド

人里で売る人形を作るのを手伝って下さい。
裁縫の心得がない方も歓迎します。

必要な物：こちらで用意します
集合場所：魔法の森のアリス・マーガトロイドの家
集合時刻：午前１０時
報酬：洋酒、お菓子、現金などから好きな物
――――――――――――――――――――――――

「よし、これにしてみよう」

裁縫は服の修繕でやった事があるから多分大丈夫だ。
私は依頼受理の申し込みをするとそのままアリスの家へ出発した。

アリスの家へ向かっている道中に意外な人物がいた。

「あれ、店主さんこんな所で何してるんですか？」
「ん？君か。僕はアリスの人形作りの手伝いに行く所だよ。
　君こそこんな所で何をしているんだい？」
「私もアリスの依頼を受けてきたんですよ。
　でも店主さんもこの依頼を受けていたなんて意外でした。わざわざ外に出て仕事をするような人じゃないと思ってましたから」
「まあ、確かに普段は商品を入荷する時を除いて滅多に出かける事はないけどね。
　ちょっと売り上げが少なくなっているから副業でもしようと思ったんだ」
「普段からあまり売れてないんじゃないですか？」

私の言葉に店主さんは顔をしかめた。まずい、流石に失礼だっただろうか。

「確かに売り上げは良いとは言えないが買っていってくれる客はちゃんといるんだよ。
　最近は、たまたま客が少なかっただけさ。
　あと、君はもう少し口に気を付けた方が良いと思うよ」
「す、すみませんでした」
「やれやれ」

店主さんと話をしている内にアリスの家に着いていた。
先を歩いていた店主さんが戸を叩く。

「どちら様？」
「人形作りの手伝いに来た者です」
「は～い、今出ます」

しばらくするとアリスが家から出てきた。

「いらっしゃい、霖之助さん……と、妖夢も手伝いに来てくれたのかしら？」
「はい、私も依頼を受けてきました」
「ありがとう、二人共上がってちょうだい」
「「お邪魔します」」

「じゃあこれが見本。やり方はこの紙に書いてあるから分からない事があったら遠慮なく聞いて」
「分かった」「分かりました」

アリスが見せた見本はいつもアリスが使っている人形を大きくした、人形というよりもぬいぐるみのようなものだった。
そういえばさっき人里で似たようなものを抱えている子供を何人か見かけた気がする。
こうして手伝いが必要になるということは人気があるのだろう。
子供達が欲しがるようなぬいぐるみができるように頑張らなくては。
私はアリスの人形が渡してくれた布と針を使って早速ぬいぐるみを作り始めた。
・
・
・
い、意外と難しい。
服を直すのとは違って場所によって縫い方を変えたり、幅を均等にしなければならないので大変だ。

「ごめんアリス、ここはどうしたらいいの？」
「ああ、ここはこっちから針を通して、いったん切ってからここから針を入れるのよ」
「なるほど」

私がアリスに聞きながらなんとか進めている横で店主さんは手際よく人形を作っていた。
アリスに至っては人形にも作らせながら私の手伝いまでしてくれている。
二人共すごいなぁ。

一時間半後……

ついにぬいぐるみを一体完成させることができた。

「できた！アリス、どうかしら？」
「うん、良く出来てると思うわよ。霖之助さんもうまいわね」
「君ほどではないと思うが一応慣れているからね」
「じゃあ二人共一段落したみたいだしそろそろお昼にしましょうか」

そう言うとアリスは人形を使ってお茶と食事を出してくれた。
ぬいぐるみを作りながら、食事も作らせていたのか。魔理沙が全て本人が操っているのが嘘くさいというのも分かる気がする。

「ところで」
「何、霖之助さん？」
「君の腕なら手伝いを呼ばなくても大丈夫だったと思うのだが。
　何故わざわざ依頼を出したんだい？」
「あ、確かに」

店主さんが一つのぬいぐるみを作り上げる間にアリスは人形を使って三つ完成させていた。
アリス本人は私を手伝いながら作っていたので、効率を上げるならむしろアリス一人で作業に集中した方が良かったのではないか……

「うん、まあ確かにそうなんだけどね。ずっと一人で人形作り続けてると退屈なのよ。これは私の研究とは関係ない作業だし。こうして誰かと一緒に作業をしてる方が楽しいからいいの。だから妖夢、そんな不安そうな顔しなくていいのよ」
「え、私そんなに顔に出てた！？」
「君は顔を見れば何を考えているのか大体分かるよ。
　まあ、僕は何を考えているのか分からない子よりも分かりやすい子の方が好きだけどね」
「霖之助さん、それ口説き文句みたい」

二人に笑われてしまった。
でも、アリスが楽しいと言ってくれて良かった。

「それに妖夢は素直に言う事聞いてくれるし、霖之助さんは何も言わなくても真面目に作業してくれるし……」
「まるで別の誰かはちゃんとやってくれなかったみたいな言い方だね」
「この前も手伝いを募集したんだけどその時は霊夢と魔理沙がきたのよ」
「うわぁ……それは」

あの二人が来たとなるとなんとなく想像が付いてしまう。

「霊夢はまあいいのよ。仕事は雑だけど、雑だけど、一応ちゃんとやってくれたから。
　でも魔理沙は勝手に別の物作り始めたり私の作業の邪魔したり」
「魔理沙……」

店主さんが頭を抱えてしまった。
あんな妹分がいては店主さんも大変だろう。

「一応楽しかったから良いんだけどね」
「済まなかったね。一応僕の方からも魔理沙に言っておくから」
「いいわよ、どうせ霖之助さんから言っても素直に聞くような奴じゃないでしょう」
「魔理沙が店主さんの言う事を素直に聞く奴だったら今頃店主さんここにいなかったかも知れませんね」
「本当に申し訳ない……」
「いやだから霖之助さんは謝らなくていいわよ。魔理沙は決して悪い子でもないから」

まあ、あの傍若無人さも含めて魔理沙の魅力は成り立っているのだろう。
周りを振り回すような奴だからこそ、多分みんなあいつと付き合うのだ。

「さて、じゃあ午後の作業も頑張りましょうか」
「ご馳走様、美味しかったよ」
「ご馳走様でした。アリスは料理も上手なのね。
　洋食を作る練習もしようかな」
「これくらいの料理なら誰でもすぐに作れるようになると思うわよ。
　なんだったら私が教えてあげようか？」
「本当？じゃあ今度お願いしようかな」
「洋食か……たまには作ってみるかな」

こうして午後も楽しく作業をしながら作業をする事ができた。
私は昔から仕事は一人するのが当たり前だったから気付かなかったが、こうして誰かと楽しく話をしながら仕事をするのも良い物だ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＊

「二人共今日はありがとう。報酬は何がいいかしら？」
「私はお菓子でお願いします」
「僕は現金でお願いするよ」
「霖之助さんもう少し店の経営考えた方が良いと思うわよ」
「そうだね、善処しよう」
「はぁ……」

店主さんは餓死する事はないらしいが……
機会があればまた会いに行った方が良いかも知れない。

「おかえりなさい妖夢。今日はどこに行ってたのかしら」
「あはは、少し友達の家に……
　あ、お菓子を貰ってきたので晩御飯を食べたら一緒に食べましょう」
「それは楽しみね。じゃあ晩御飯はもうできてるから早く食べましょう」
「はい、分かりました！」

今日は楽しかったな。
また明日も別のバイトを探しに行ってみよう。

妖夢のアルバイト紀行～人形作り編

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