Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

こあ等のマーチ

2013/06/08 00:03:19
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いつものようにレミリアは紅茶を噴出した。
「咲夜。今度の紅茶にはなにを入れた?」
「ツ○ラの1043番ですわ」

「福寿草とかでなく、とうとうそういうのにまで手を出すようになったの?」と呆れ顔のパチュリーに対し、
「業者が関わっている分、素人の私より品質管理の面では改善しておりますが」まったくのすまし顔で答えるメイド長。
「いや、そういう……まあいいや」
そんな、紅魔館でありがちな月夜のお茶会が、今、おわった。
バルコニーに見える満月も西のほうに傾き。あと三刻もすれば東の空が白むはずだった。


「じゃ、私はそろそろ図書室に戻るわ。こあ?」
パチュリーは帰ろうと、背後の使い魔に声をかける。
が、レミリアはそれを許さなかった。
「ごめん、パチェ。ちょっとそいつだけ借りていいかしら? 」
「そういうの四ヶ月振りくらい? 別にいいけど」
「ありがと。あと咲夜、フランをここに呼んできて」

レミリアにとっての知覚的には次の瞬間、お姫様抱っこしたフランドールを床におろす咲夜の姿があった。
「咲夜、しばらく外して。そうね、一時間くらい。深夜御飯でもゆっくり食べてるといいわ」
少しだけ逡巡する様子を見せた後、メイド長は首肯する。
「わかりました。御用があればいつでも及びくださいませ」

「じゃあ、私もこあを貸したから、今のうちに夜食兼朝食の手配をしておこうかしら。咲夜、一緒してもいい?」
「ええ、パチュリー様。かまいませんわ」


足音が二つ、徐々に遠ざかり、やがて消えた。

「――行った?」
「みたいですね」

慎重に辺りをうかがう二人に、フランはあきれたように言った。
「お姉様、この三人ってことは、例のあの話し合い?」
「ええフラン。ドアを閉めて、ついでに鍵をしっかりかけて。メイドたちにも聞かれないように。あいつら、口の軽さだけは一流だから」
「はいはい」

三人のいる部屋は、密室となった。
そして始まる、紅魔館の因縁の物語。



「さて、と」
小さな円卓に座る三人。お互いが膝を突き合せるくらいに。
今年に入って二度目の、おでこごっつんこタイムの始まりである。

「例のアレの件なんですが、いいかげん何とかしましょうよ」
レミリアが小悪魔に丁寧口調で口火を切る。
「でも……どうやって?」
小悪魔の返答に、レミリアは思わず口ごもる。少しの間をおいた後、レミリアは再び口を開いた。
「本当ならあのあとすぐに真相をばらせばよかったんですよ」
「それはそうですけど」


「もう! そんなこといっていつまで経っても結論出さないから今のこのざまなんじゃん」
「フラン、それは言わない約束でしょ」
「でもこの百年、話しあうったってずうっとこのへんの話題をループしてるだけじゃん」
「そりゃあまあ、そうだけど」

「なら、もういっそのことパチュリーに打ち明ける事前提で、どうやって打ち明けるかを話し合おうよ!」
「それはわかるけど、じゃあどういえばパチェを傷つけることなく真実を教えられるの?」
「そ、それは……」

レミリアは言う。
「失敗につぐ失敗の結果、ようやく一度だけ成功して。本人が自信を持って、本格的に魔法使いになろうって決意した切っ掛けである、悪魔召喚の魔法。それが実は成功していませんでした。なんて」
「絶対に傷つくでしょうねえ」小悪魔の相槌。
「そうだけど……」

「妹様のいうとおり、思い返せば、最初のときにいえればよかったんですけどね」
「そうですけどねえ」その姉の言葉に、フランは思い出す。
「パチュリーが召喚魔法の失敗爆発させたときに、おねえさんがパチュリーの前に召喚されたふりして出現して見せた?」


同時にため息をつく。
三人の脳裏には、
「ねえあなた、名前、おなまえはっ? やっぱり悪魔? 悪魔なのっ? レミィみてっ! みて! 私やったわ! できたのよ!」と、地下室で文字通り飛び回って喜ぶ、およそ百年前の幼いパチュリーの姿があった。

小悪魔は言った。
「でも、正直、あのときの笑顔。すっごくかわいかったじゃないですか。それにとっても純真で。そんな中『実は私、召喚された悪魔じゃありませーん』なんてヘラヘラいえますか?」
「いえないよねえ」
「いえませんよねえ」

フランは腕を組んだ。そのままため息をつき、ふと首をかしげる。
「そういえば、あのときおねえさんとパチュリーは初めて出会ったのよね。でも、おねえさん。あの時は普通に隣の家に住んでたような」
「パチュリー様は基本的には外出しない性質ですから」
「それにしたって、あの時私たちがすんでた外界の村って、千人もいなかったよね。確か」

「ま、でも。あのときのパチェは悪魔召喚の魔法以外何にも眼に入らない状況だったし、仕方ないといえば仕方ないわ」
レミリアのその言葉に、フランはようやくうなずく。
「魔法使いになりたいけど。私には才能が無いのかしら、私は捨虫の法を会得すべきではないのかしら、そもそも私は捨虫の法を会得できるのかしらって。よりにもよって私にまで相談するくらい追い詰められてたね、そういえば」
「そうね。アレからよね。パチェが目に見えて魔法使いとしての素質を開花させるようになったのは」

三人の、在りし日の、魔法使いにあこがれる魔法少女候補の思い出だった。
「そうそう。パチュリーはもともと魔法使いの素質はあったけど、その前までは見事にひとつの魔法も使えなかったんだっけ? そのへんにごろごろ転がってそうなただの人間みたいに」
「ええ。でも魔法使いの素質自体はあった。素質すらなければ私の近くにいることすら許さないから。そもそもはね」
姉妹の話に小悪魔は頷く。
「精神的に落ち着いて、自分に自信を持ったからでしょうね」


そこで、三人は現実に引き戻される。
「その切っ掛けだった初めて成功した大魔法が、実は失敗だったと」
「いえないよねー」
「ですよねー」
ため息。

「でもおねえさん。いつかはいわなきゃでしょ。だって、言い方悪いけど私たちパチュリーを裏切ってるわけだし」
「あ、フラン」
「そう、そうですよね……あー。わたし、パチュリー様を裏切ってるんですよね……現在進行形で」小悪魔は両手で、覆いこむように頭を抱え、追い詰められた野兎のように小刻みに体を振るわせる。

ヤッチマッターと叫びだしたい顔つきを表に出さぬよう、フランはつとめて澄ました声で言った。
「お、お姉様。わたし、のど渇いたわ。ワインでも空けない?」
「そうね。これ、とっときの赤。吸血鬼専用の人血入りのがあるのよ」レミリアは三つのグラスワインにそれを惜しげもなく注ぎ入れ。


「あら、おいしい。お姉様、これ、誰の血?」
「魔理沙よ。本人はあずかり知らぬことだと思うけど」
「なるほどね。やっぱり舌触りが違うわね。コクも、私はこれくらいあっさりしたほうが好み」
「ねえさんもほら、ぐいっと一杯」
レミリアに薦められるまま、暗い顔つきでワイングラスを空ける小悪魔。


「んっ」
「ほらねえさん。もう一杯どうです?」
「……くっ」
レミリアに操られた人形のように、ワインを飲み始めた小悪魔だったが。
三杯目を空けるころには、先ほどまで部屋に蔓延していた、死んだ目つきで中空を見るような陰湿さからは綺麗に解放されつつあった。
レミリアの見るところ、どうやら峠はこしたらしい。


「でも、」とほっとしたレミリアはすこしだけ笑う。
「思い出しちゃった。パチェが最後に召喚したとき、当のねえさんも、ものすごくノリノリだったじゃないですか。パチェもそうだったけど、あのときのねえさんの表情も輝いてましたよ」
「そうね、お姉様。たしかこんな感じで――」フランが、両手を前に突き出す。
「『わーれーの、ねーむーりーを、さーま、たげるのはだれじゃー』って途中でなぜか台詞回し速くなるし。あれ、なんで?」
「息が続かなかったんですよう」

レミリアは聞いた。
「でも、ねえさん。よかったんですか? ものすごく今更なんですけど」
「なにがです?」
「さすがに百年以上続くことがわかってたら、私もあの時使い魔のふりを続けてくれとは頼んでいませんよ。いくら近所に住む私達の一族だからって」


「ああ、そのことですか」小悪魔は微笑む。

「そのことだったら気にしないで。私は吸血鬼としてはほとんど力がない方ですし。逆にあの時パチュリー様の使い魔のお仕事をもらえなかったら、毎日無目的に何もせずにだらだらニートしてたように思えますし」

「でも、だからといって吸血鬼が使い魔の振りして――」
「あの子。仕えてみたらいちいちすっごくかわいいんですよ。ぶっちゃけあの子の観察日記付けるだけで使い魔になるだけの価値はありますよ。毎日どのくらいかわいらしいか聞きます? がんばって要約すれば三時間くらいに収める自信はありますけど」

「え、いや、それはまたの機会に」
「むしろ喋らせてください。二時間に圧縮することに挑戦しますから」
「え、あの」
「たとえばこれは一週間前のことなんですか――」

微妙な笑顔をそれでも絶やさない姉の姿を見た後、フランは悟ったような目つきで、部屋の外に続く窓を見やる。
「このパターンは、最近では三年位前だったかしら」




その一方で。
三吸血鬼のあずかり知らぬ狂気の宴が、紅魔館の別の一角で行われていた。


「でもぶっちゃけまして。とっさの時とか、どういう態度とればいいか困りますよね、実際」とは咲夜の弁。
「わかるかも。特に咲夜の立ち居地ならね」目付け役のいない今、ここぞとばかりセカンドブラザー的特大ラーメンをすするパチュリー。現在の時刻が真夜中の何時なのかなどといった些細な事象は気にしないのが魔女たるパチュリーのポリシーであった。
「わかります。あんまり会わない私でも。たまに会ったときとか、あの方に対して口調をもちょっと丁寧にしたほうがいいんじゃないかと悩むことがありますもん」そういった美鈴に、咲夜は山に盛り付けられたヤサイを咀嚼することで同意を示した。

「気にしすぎ、といったところでどうにもなるものじゃないしね」
パチュリーのそんな言葉に、咲夜は、ふうと動かす手を休める。
「実際、パチュリー様に教えていただいてから十年くらい経ちますけど、この件に関してだけは永久に慣れないんじゃないかと思います」
「四十年くらい経った辺りから、そんなのどうでも良くなるわよ。あくまでも私の経験談だけど」
「そんなものですか」
「そんなもんよ」げえっぷ。パチュリーの額には、大粒の汗が数筋、自己申告的には儚げに流れ落ちた。


咲夜の額も後に続く。
「前から気になってたんですけど。実際彼女が吸血鬼の一族だと知って、ぶっちゃけどう思いました? 裏切られたとか思いました?」
「あ、それ私も知りたいです。私が門番として雇われたときはもう今の状態になってましたし」
「そんなのいちいち覚えていないわよ」

「えー?」
「そんな昔のこと、今更覚えてるわけ無いじゃないの」
ビシッ! と、パチュリーは、不必要なまでにアブラが卑猥にぬめりつく箸を、美鈴と咲夜に向ける。

「最初のほうはやっぱがっかりしたというか。そのへんのマイナス感情はでたわよ。そりゃ」
ふう、と額をぬぐう。パチュリーの両頬はあたかも初恋をしたかのように紅く染まって。

「でもさ、あいつは善意でやってくれてるし、しかも今の状態が続いてもいいと思ってるみたいだし。私との関係とか」
「まーそうですよねー」
「覚り妖怪でなくてもそれくらいはわかりますよね、おふたりの普段の態度とか見てれば」

「でも、やっぱり微妙ですよね。今の状況」
「たまに『絶対怒らないからカミングアウトして!』って言いたくなる事がありますもん」美鈴と咲夜は肯きあう。


が、パチュリーは、
「私はどうだろ。心の準備ができて無いかも」
「えー?」
「なんでですか。知ってからの期間は私らの中で一番長いじゃないですか」


「いや、だってさ、向こうが誠実に告白してきた場合、こちらも誠実に応えるべきでしょ」
「そうでしょうね」
「で、私が『知ってた』って答えた後、『いつから知ってたの?』という質問が来ることは容易に想像できるわ。その問いに対してよ?『あ、うん。ざっと八十年前』って。いえる?」

「なるほど」
「いえませんね……」

「でしょ? そりゃいつかは解決してすっきりさせるべき問題だけれど。よほどうまいタイミングで切り出さない限り失敗して気まずくなるでしょ? なら、いまの微妙だけどうまくいってる関係のほうがましよ」
「そうかもしれませんけど」
「それに私としてはすっきり解決する時期がくれば動くつもりではいるわ。単に今は、その適切な時期が来るまでは慎重に待っているだけ」

「で、八十年ですか」
「ん。はちじゅうねん」
「ながいですねー」
「お互い、寿命はあって無いようなもんだからその辺は気楽なんだけれどね」


「あ、ところで。さっきまで私たち、あの三人の会話をあの人の聴覚越しに聞けてましたけど、あの人そもそも悪魔じゃないなら、パチュリー様と悪魔使役の契約できてないんじゃないですか? じゃ、どういう仕組みで盗聴できてたんですか?」

「気づいてはいけないところに気づいてしまったわね、美鈴」麺を完食したパチュリーは、口の端で悪辣に笑った。
「私があいつの正体に気づいた、自分の魔法が失敗していたことに気づいた十年後くらいに、私が独自に似た契約魔術を開発して。ある夜、あいつが寝てる隙にかけなおしたの」

「えー」
「そこまでやりますか?」
「魔女はしつこい。そういうものよ」
ごくごく。パチュリーは自分のどんぶりを空にした後、ほっと一息。ぽっこりと膨れ始めた自らの腹をいとおしそうになでおろす。

「あと、それもあるのよ。私の側から動きづらいっていう理由のひとつ。これ、契約魔法というより吸血鬼の使役術みたいなものなの。つまりやろうと思えばレミィにすら一方的にかけることができるのよ。できることはせいぜい感覚の共有くらいなものなんだけど」
「そんな強力なんですか」
「魔法かけたとはいえさすがにそこは若気の至りで。感覚の共有もこういうときくらいに、たまにしか使わないし、今となってはこの魔法、解除したいんだけどさ。なにぶん、私が独自に編み出したものだから、解除魔法が実はいまだに完成してなくて」

「なるほど……」
「で、あいつが自分の正体を明かしてきた場合、私もこの魔法のこと伝えなくちゃいけないとおもうんだけど」
「まあそうですね」



「ねえ、どういう感じで打ち明ければいいかしら。咲夜、美鈴。どう思う?」
「それは、難題ですね」苦笑いする咲夜に、同情する美鈴。
「結論出せませんよね。そういうことなら」

「でしょ? だから、私も半年に一回くらいこうやって深夜のラーメン大会開くことになるのよ」
「健康的にも感心できませんけどね」そういって、門番とメイド長は笑いあう。

が、パチュリーは口に手を押さえ、顔を青ざめ始める。
「やっばいわー、やっぱ。私、あの子に嫌われたくないのもの。許されるものなら死んで詫びるまではする覚悟はあるけどさ。てか、あの子が私の元から離れるなんて、考えただけで、考えただけでもう私――」

「元気出してくださいよ! あのかた、パチュリー様が死ぬ様な真似したらむしろ哀しむような……」
「いやでも、メイド長の私の立場から図書館のやり取り見てる感じでは、あのかた、そもそもそういう感覚共有術が自分に掛かっていることを知っていなきゃ不自然な仕え方をしているような気が……」
「――うえっぷ」


閑話休題。
ソファに横になったパチュリーはほっと一息をつく。
「ありがと咲夜。さすがの黒烏龍茶ね。これならあともう一杯食べられそうね」
「いえ。さすがの黒烏龍も万能では」
「冗談よ。烏龍、もう一杯もらえる?」
「喜んで」咲夜がメイド長に戻る。


「咲夜さん、じゃあわたし、ラーメンのお代わりいいですか?」
「え、美鈴。あなたが食べたのって、大よね? 大丈夫なの?」
「はい。私、どんなに食べても太らない体質ですから」






「で、夜中に駆けつけた私に、パチュリー様は少し泣きながら『こぁ? こあ、あなたなの?』って――」
小悪魔の話が四度目の佳境に入ったところで、紅魔館は全体がゆれるような轟音と振動に包まれた。


「いまのなに?」辺りをうかがうフランの傍らで、レミリアは未来の運命を読み取っていた。

門番の折檻が行き過ぎたようでした、と謝るメイド長。
酔った小悪魔を肩を貸しながら、パチュリーがいかに魅力的かを聞かされつつ小悪魔の私室に向かうメイド長。
すべて今から三十分以内に起こる出来事であるらしい。
レミリアはため息をついた。
今回も、結論を出すことはできないらしい。
美鈴「解せぬ」
万年
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
ぱちぇこあ美味しい
けど二郎は勘弁してくださいw
2.奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
3.名前が無い程度の能力削除
二郎系を汁まで飲んでだいじょうぶか、パッチェさんw
4.名前が無い程度の能力削除
斬新!!
これ面白かったです。
5.名前が無い程度の能力削除
百年前はあんなに可愛らしかったパチュリーさんも、今ではある意味こんなに素敵な魔法使いになってしまいましたとさ。
あと、美鈴さんが太らないのは単に運動量の差だと思いますよ、パッチェさん。
6.名前が無い程度の能力削除
魔理沙の血入り赤ワインとかありそうで困る。面白いすれ違い話でした。
とっとき、ってとっておきの口頭語的表現なんすね。どうでもいいとこで勉強になった。
7.ビタミンCを作り出す程度の能力削除
微笑ましいすれ違いだなあw
8.名前が無い程度の能力削除
こういう話は大好きです
基本本人の預かり知らぬ間に何かをする点においては流石ファミリーですね