この物語は「片思い→両想い」の続編となっております。
でも、以下の相関図だけ理解してもらえたら大丈夫です。
咲夜 ―― I Love you ―→ 霖之助 ←― 恋心?―― 神綺 ―― 溺愛 ―→アリス
咲夜 ←― 好きだと自覚 ―― 霖之助 ―― 恋心 ―→ 神綺 ←― 母親 ――アリス
< 両想い←→両想い >
幻想郷の太陽が仕事を終え、夜勤の月へと交代しようという時刻。
地平線が燃えるように熱くなっている時に、それは起こった。
あたり一面を揺らすほどの爆音。
烏たちは立ち止まり、河童が水へと姿を隠す。
その爆音の中心地、香霖堂からは眩い光が放たれていた。
白く白く、虹色に目が焼かれるほどの閃光。
"マスタースパーク"というなの力の奔流が、香霖堂の屋根を突き破る。
香霖堂の一部だった物を巻き上げながら、地平線に沈み行く太陽が嫉妬するような光が、天へと昇っていた。
そんな幻想郷では、日常茶飯事な出来事が起こった日の夜。
僕は瓦礫の前で途方に暮れていた。
「全治一週間……といったところか」
それまで雨が降らなければいいが。
それよりも、修理に使う木材をどうするか。
かるーく草薙の剣で、裏の木を伐採するか。
っと、現実逃避している場合ではなかった。
とりあえず、閉店ですよっと、看板を裏返さなければ。
むしろその行為自体が、現実逃避であると心のどこかで言っていたが、
僕はその声を無視することにした。
さらに少しでも時間を先に伸ばししようと、丸い穴から空を見上げる。
あぁ……空はどうしてこんなに紅いのだろう。
「夕方だからじゃないですか?」
「なんだ。僕はてっきりマスタースパークを食らった空が、痛みで血の涙を流しているのかと思ったよ……え?」
「こんにちわ、霖之助さん。」
「き、君は……」
香霖堂のドア越しに聞こえてくる声。
柔らかな、それでいてどこか凛とした女性の声が、僕の脳を揺らした。
僕の記憶が確かならば、この声の持ち主は一人しかいない。
サイドポニーが似合う女の子。
いや、女の子というのは失礼だろう。
何せ彼女は……
「あのぅ……ドア開けてくださいませんか~。ちょっと両手塞がってまして……」
「あ、はいただいまっ!」
天使の声にいざなわれるように、がばっとドアノブに手を伸ばし、勢いよく開けた。
そこに立っていたのは、両手いっぱいに人形を抱えた女性。
にっこりと笑った魔界の神、神綺その人だった
小さな口で紡がれる言葉が、僕の耳に入ってくる。
「お久しぶりです、御元気そうでなによりです」
「神綺も……あ、中へどうぞ。ちょっと散らかっているけど」
「それではお邪魔しま……うわぁ、これはまた、すごいですね」
御店に入ってまず目に入るのは、散らばった瓦礫と、天井の大きな穴。
神綺は立ち止まることなく、瓦礫に躓きながらも穴の真下まで行き、空を見上げた。
スカーレットライトが、彼女を照らす。
夜になると月見ができそう、だなんて笑う神綺に、僕は見とれてしまっていた。
神綺の一挙一動が、僕の心をくすぶる。
あぁ……やっぱり僕は、神綺に恋をしている。
咲夜にたいする想いとは違った恋。不思議と心が躍る恋。
咲夜に対する恋心が「静」ならば、
神綺に対する恋心は「動」なのだろう。
抱きしめたくなる衝動が、僕を支配しようとする。
でも僕はその衝動をぐっと抑え、神綺に語りかけた。
「神綺、そこにいたら危ない」
すると神綺は、悪戯を発見された子供のように、はにかみながら答えた。
「ごめんなさい。奇麗な空に見とれてしまってました」
「空、か……たしかにこの時間の空は奇麗だ」
「えぇ。なんだか、見ているだけでどきどきします」
「僕は君と一緒にいるだけでどきどきするよ……」
「え?」
「あ、いや、なんでもない」
危ないところだった。
きょとんとした神綺の顔から目をそらし、僕はカウンターまで逃げるように移動した。
いつもの調子に戻るために。
御客様を迎えるために。
深呼吸をひとつし、僕は「本日始めてのお客様」を迎え入れた。
「いらっしゃい。今日は何がご入り用かな?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
こんにちは、神綺です。
今日はアリスちゃんの家に御泊り中。
なんだけど……アリスちゃんはお風呂に入っていて、私は暇してます。
一緒に入りたいといったら、本気のヤクザキックをされてしまいました。しゅん……
理由は分かっているのですけどね。
「でも、御背中を流してあげるときって、むしょうに悪戯したくなるよね?」
「シャンハーイ?」
「脇の下とか、脇腹とか、うなじとか」
「シャンハーイ」
私の言葉に頷いてくれるのは、アリスちゃんのお人形、上海ちゃん。
まるで自我を持っているかのようなこの子は、私の膝の上でゆらゆらと揺れている。
なんだかこうしていると、数年前のアリスちゃんを思い出すなぁ。
あのころのアリスちゃんは、まだちっちゃくて……ん?
なにか窓の外が明るいです。
森の入り口の方、というよりも、霖之助さんの居られるお店の方から?
確認しようと立ち上がったら、後ろから聞きなれた声が聞こえた。
「あれは魔理沙のマスタースパークじゃない」
「シャンハーイ」
「アリスちゃん、もうあがったの?」
バスタオル一枚で、体から湯気を立ち上がらせている少女。
この子は、私の自慢の娘。アリス・マーガトロイド。
奇麗な金色の髪の毛はまだ湿っていて、窓からの光を跳ね返している。
見る者を吸いこむような瞳は、とてとてと歩いて行った上海を抱きあげてもなお、どこか不機嫌そうだった。
それはアリスちゃんが話す言葉にも、現れていた。
「また魔理沙が暴れているのね。あの様子じゃ香霖堂は壊滅かしら。ねぇ上海?」
「シャンハーイ」
アリスちゃんの言葉に、上海ちゃんが両手を上げて応えている。
可愛いなぁ。私もほしいなぁ……じゃなくって、香霖堂には霖之助さんが!!
早く助けに行かないと!!
「アリスちゃん!」
「嫌よ。いくらお母さんの頼みでもそれだけは嫌」
「まだ何も言ってないのにぃ」
「手伝って♪」
「嫌」
「せっかくお風呂に入ったのに、また埃まみれになっちゃうじゃない」
「うぅ……アリスちゃんの意地悪」
ちょっとすね気味モードで、アリスちゃんの説得を試みる。
このモードにアリスちゃんは弱いのを、私は知っていた。
でも今日のアリスちゃんは、別方向の答えを返してきた。
「……きっと明日になったら紅魔館のメイド長が直しているから、何も私たちが行く必要はないわ」
「メイド長?」
「そう、十六夜 咲夜。完全で瀟洒だけど、どこか抜けている子」
思い出した。
確か博霊神社の宴会で、仲好くなったとアリスちゃんから聞いていたはず。
でもどうしてその咲夜さんが、香霖堂を直すの?
ま、まさか……
「まさか咲夜さんは霖之助さんの奥さんなの!?」
「なんでやねん」
おうふ……アリスちゃんのキックが私の顔面にクリティカルヒット。
母親の顔を蹴るのはどうかと思うよアリスちゃん。
ついでに言っておくと、早くパンツを穿きなさい。
私の視線に気がついたのか、アリスちゃんはそそくさと無地の白いパンツを穿く。
でも今はそんなことよりも、咲夜さんだ。
なぜだろう、なぜか気になる。
私の中の魔界神部分が、奴に先を越されるなと忠告している。
具体的には、サイドポニーが激しくパタパタと動いている。
どうしようどうしよう。
私だけでも駆けつけるべきかな。
でも、ふ、二人っきりな店内だなんて、そんな恥ずかしくて……
「そんなに気になるなら、一人で行ってきたら? 人形くらいなら貸してあげる」
「本当!? やっぱりアリスちゃん大好き!!」
「あ、今抱きつかれたらバスタオル落ちちゃうでしょもう!」
やっぱり持つべき物は可愛い娘です。
ではさっそく上海ちゃんを。
「はい、大江戸人形。5体くらいでいいかしら。これだけいたら、お母さんお得意のミュージカル開けるでしょう?」
「ほえ? あの上海ちゃんは」
「ダメ。これから髪の毛の手入れを手伝わせるのだから」
「じゃぁ蓬莱ちゃんを」
「却下。爪磨きを手伝わせるのだから」
シャンハーイ。ホラーイ。と、二つの人形が、アリスのずれ下がったバスタオルを引き上げる。
そんな姿を見ていると、下からスカートを引っ張られた。
5体の大江戸人形だ。
体に魔力の糸を絡みつかせて、訴えるかのような目で私を見上げている。
「オー」
(訳:私達デハ)
「エドー」
(訳:オ役ニ)
「グー」
(訳:タテナイカナ?)
「!!」
可愛い、可愛すぎるよ大江戸ちゃんたちぃぃぃ!
もうぎゅっと抱きしめちゃう。ぎゅーっと。
よし決定。
これなら大丈夫、なんとか頑張れそうだよ。
「お母さん。はいこれ」
「?」
「この子達の魔術式。魔力を少量流したら、思う通りに動いてくれるわ」
ぽふっと、魔術式を受取り服の中にしまう。
よし、これで準備はOK。
さぁ急ごう。霖之助さんが待ってる!!
脳内でイケメーンな霖之助さんが、バラを散りばませ、輝きながら私だけに微笑んでいた。
「では神綺、行ってきます!!」
「はいはい行ってらっしゃい」
「すわっち!!」
テンションが最高潮にまで高まった私は、全速力で魔法の森を"歩いて"行った。
「ふぅ」
アリス邸では神綺を見送ったアリスが、バスタオル姿のままで小さくつぶやいた。
「がんばってお母さん。昔の偉い人が言っていたわ。恋愛は爆発、って」
紅の空の片隅で、筆を構えた男が、ニヤリと笑っている気がした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いらっしゃい。今日は何がご入り用かな?」
舞台へと上がってきた天使に、僕はそう語りかけた。
彼女は瓦礫の真ん中で、やさしく答える。
「シー。霖之助さんは、そこでただ見ていてくださればいいですよ♪」
そういった彼女は、両手を翼のように広げ、持っていた人形達に魔力を通わす。
華麗に着地した人形達の目に力が宿り、カーテンコールよろしくお辞儀をする。
これから何が起こるのだろう?
疑問に思ってみていると、神綺が美しい声で語り出した。
「本日は魔界神のミュージカルへお越し下さり、ありがとうございます」
ミュージカル? どういうことだ。
僕の心の問いに答えてくれるはずもなく、神綺は続けた。
「それでは短い間ですが、じっくりとご覧くださいませ♪」
どこからともなく、音楽流れる。
それはとても神綺に合っていて、僕は震えるほどに感動を覚えた。
神綺と目があう。
その時に僕は理解した。
そう、彼女たちは女優だ。舞台女優なのだ。
これから香霖堂という舞台で、舞い、歌い踊りだすのだろう。
彼女たちの華麗なるミュージカルを、僕は純粋に見たいと思った。
片付けのことなど、すでに頭にはなかった。
いつの間にか、僕の方がお客さんになっているということにも、気がつかずに。
「それでは、神綺の華麗なる人形パレードをご覧ください」
そういうと、人形達が歩き始めた。
とてとて。
神綺が右手を上げると、人形達は瓦礫を力強く持ち上げる。
神綺がくるりとその場を回ると、瓦礫を外へと持ちだし、
戻ってきたときには、木の板を持ち運んでいる。
曲がサビへとうつり、人形達はとび跳ねながら作業を進める。
神綺の舞いはどんどん勢いをましていった。
曲が変わり、今度は激しいタンゴになっていた。
汗が舞い、人形が空を飛び、板を天井へと打ちつけていく。
神綺が動くたびに、スカートが揺れ、髪の毛が躍る。
魔力の碧い光が、まるでホタルのように舞台を縦横無尽に駆け回る。
「すごい……」
つい口から出てしまった言葉に、神綺はウインクで返した。
心臓が熱い。
僕の命の>鼓動[リズム]に合わせて、彼女たちは舞う。
咲き、散り、暖かく、時に冷たく。
人生の0から100までを感じさせてくれる。
始まりがあり、終わりがあり、さらにその先までも。
しかしその舞いも、ついに終焉を迎えた。
曲がフェードアウトしていき、笛の音色が消えていく。
しばらくして、静寂があたりを支配した。
感動で動くことも出来ない僕は、その場の「異常」に気が付くのに時間がかかってしまった。
いつの間にか。天井の穴はふさがり、埃も隅々までぬぐい取られているのだ。
丁寧にお辞儀をする神綺と人形達に、僕の口は、素直な気持ちを伝えた。
「ありがとう神綺。そして、とても奇麗だった。今まで見てきたどんなものよりも、ずっとずっと素敵だったよ」
「り、霖之助さん……」
顔を赤く染め、恥ずかしそうにする神綺。
一歩、霖之助へと歩を進める。
俯きながら、また一歩、もう一歩。
そして手を伸ばせば届く距離まで近づき、顔を上げた。
正面にはお互いの顔。
恋する男女が、お互いを見つめあっている。
そう、舞台はまだ終わっていない。
フィナーレを飾るのは、二人の愛だから。
「神綺……」
「霖之助さん……」
二人の距離が限りなく零に近づく。
だから見えていなかったのだ。
一体の大江戸人形が、こけたのを。
気がつかなかったのだ。
アリスの魔術式に仕組まれた罠に。
ぽふん、と床に体が接着した瞬間、人形は言った。
「エドー」
(約:オ約束ダヨネ)
どっこおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!
――トントントントン
深夜の香霖堂で、金づちの音がする。
せっかく治った香霖堂はその見る影もなく、みごとに全壊した。
といっても、今はほとんど治っていて、残りは看板を取り付けるだけだ。
ここまですぐに直せたのも神綺のおかげである。
僕は最後の仕上げだからと、曲がらないように丁寧に看板を打ちつけていた。
「よし、もうすぐ完了だな」
ふぅっと汗を肘で拭こうとすると、すっとピンクのハンカチが差し出された。
小さな手が、ハンカチで僕の汗を拭きとってくれる。
「ありがとう。でも、神綺は休んでいて」
「でも……」
涙ながらに訴える神綺の顔は、かなり疲れがありありと出ていた。
それはそうだろう。
全壊した家を、その膨大な魔力である程度元に戻したのだから。
もちろん店の商品もだ。
いくら魔界神とはいえ、魔法道具まで一瞬で直してしまうとは思わなかったが……
僕はまだ謝り続ける神綺の頭に手を置き、できるかぎり優しく言った。
「これが終わったら、一緒にお茶でもしようか」
僕の言葉に、神綺は笑顔で答えた。
どう答えるか迷うこともなく。
ただ一言、大きな声ではっきりと。
「私コーラが飲みたいです!!」
後、私も急いで香霖堂買わなきゃ!
でも、そういう天然な神綺様がとても可愛かったです!
Firefoxで読んでいますが、
鼓動[リズム]~~以降の文章が小さくなっていてとても読み難いです。
コーラは偉大なり!
でもダイエットコ○ラてめぇはだめだ
>けやっきーしゃま
天然っていいよねぇ
ついつい抱きしめたくなっちゃう
>3しゃま
こちらでも確認しました。
フリガナのスタイルシートは使えないのですね・・・情報感謝!