Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

博麗神社縁側実況

2018/10/08 08:49:36
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「ね、ねぇ、早苗。その……そろそろ機嫌直して?」
「つーん」
「ねぇったら~。ね? そんなことないんだって、ほんとに」
「ねぇねぇ、マリサッチ」
「何だ、菫子」
「あれなに」
「見たまんま」
 今日も平和な幻想郷。
 しかし、ここ、博麗神社の縁側だけは、なぜだか雰囲気が少々悪い。
 その理由は、かくも情けなく目の前の相手に謝り倒すだけの博麗霊夢と、その彼女に対して完璧に冷たい態度の東風谷早苗が原因である。
「何があったの」
「この前のさ、完全憑依の異変、あったろ」
「ああ、あったあった。
 あたしなんて、忠告したいのか邪魔したいのかからかいたいのか、よくわからないのにつきまとわれた」
 それを傍目から、生暖かい眼差しで眺めるのは、博麗霊夢の悪友である霧雨魔理沙と、最近……というほど最近でもないが、この神社に出入りするようになった外来人、宇佐見菫子である。
「どうせなら、あたしはしんちゃんがよかったのにな~。
 あ、そうだ。しんちゃんどこ? かわいいお洋服持ってきたの」
「あいつ、この頃、お前が来る直前になると姿を消すぞ。
 多分、自分に迫る危機を本能で感じているんだ。動物みたいに」
「まさに小動物よね。かわいい~」
「懲りろよ」
 お手製なのかはたまた買ったのか、やたらふりふりたっぷりの衣装を取り出す菫子にツッコミを入れてから、『それはまぁともかく』と魔理沙。
「その時に、霊夢の奴、仙人と一緒だっただろ」
「ああ、華扇ちゃん?」
「そういえば、お前、何であいつを『ちゃん』づけするんだ?」
「マリサッチこそ、華扇ちゃんを『仙人』って呼ぶよね」
「あいつが自分のことを仙人ってふかしてるからな」
 ふーん、とうなずく菫子。
 相手がそう呼ぶことを強制しているのか、それとも魔理沙が相手にあわせているのか、それはわからなかった。
 わからなかったが、『まぁ、いいか。別に』と結論づけたらしい。
「それに、早苗が腹を立てている」
「何で?」
「曰く――」
 と、そこで魔理沙は言葉を句切る。
「そんなことばかり言って。
 真っ先にわたしに声をかけてくれたら手伝ったのに。そうじゃなくて華扇さんなんですもんね。
 そうですよね、霊夢さんにとっては華扇さんの方がいいんですよねー」
「――というわけだ」
「つまり痴話げんかか」
「うん、まぁ、そうなる」
 要するに、早苗は霊夢が『自分』ではなく他の誰かをその時に『伴侶』として選んだことにへそを曲げているのだという。
 菫子は「あの人も子供っぽいなー」と笑った。
「そういえば、早苗はお前より年上なんだっけ?」
「そうだよ。一つ上」
「へぇ。
 ……あれ? ちょっと待て。じゃあ、私、お前より年下か」
「あ、やっぱり」
「何で『やっぱり』なんだ」
「だって、マリサッチ、明らかに後輩オーラ出してる」
 背が低くてかわいらしい顔をしていて、そういうことを言うとほっぺたぱんぱんに膨らませてふてくされる辺りが、どうにも『保護欲』をそそるのだ、と菫子。
 それを言うと魔理沙は予想通りほっぺたぱんぱんにして『誰が子供だい!』と怒った。
「うちの学校に来たら、たちまち囲まれるよ。
 かわいい~、って」
「そういうのやめろ! そうやって子供扱いしてくるのは、咲夜とか天狗連中だけで十分だ!」
「あ、やっぱり子供扱いされてるんだ」
「あいつら、何かと言っちゃ人のことおもちゃにする」
 それはつまり『年上のお姉さん』達に囲まれているという、ある意味、とても羨ましい環境なのだが、菫子はそれを言わなかった。
 彼女自身、『そっち方面』の知識……というか興味は薄いのだ。
「まぁ、ともあれ。
 それで、霊夢の奴、早苗の機嫌を直すためにしばらくああやって頭を下げてるんだ」
「はぁ、レイムッチも大変だ」
「ちなみに紫にも仲立ちを頼んだらしいけど、『そんなの、あなたが原因でしょ。きちんと早苗ちゃんと仲直りしてらっしゃい』って怒られただけだったらしい」
「あの人、意外に厳しいね」
「いや、そうでもないと、最近は思うようになっている」
「ふぅん?」
「かわいい子には旅をさせよ、ってね」
 それは言葉の意味が違うのではないだろうか、と菫子。
 魔理沙は少し腕組みをして小首をかしげた後、『そうかもしれない』とうなずいた。
「いやいや、そうじゃなくて。ほんと、そうじゃないの。
 あ、ほら、早苗にはさ、ね、危ないこととかあんまりさせられないし」
「そんなことありません。
 わたし、弾幕勝負で霊夢さんにだって勝ってます」
「どうして、ああやって火に油注ぐようなことを言うかね」
「相手が完全なヒロインタイプならともかく、早苗さんにあれ言ったら怒られるよねぇ」
 ちなみに、菫子も早苗の実力はよく知っている。
 幻想郷に足を運ぶようになってからこっち、この世界の独特の文化である『弾幕勝負』というものに慣れ親しんだ結果である。
 この世界では弾幕勝負が全て。三日の掟以上に、それは強烈なルールなのだ。
 とりあえず気に入らなきゃ弾幕勝負で相手をたたきのめせばそれでオーケー! という世紀末溢れる世界観に、それを知った当時の菫子は戦慄したものである。
「お前が今、何を考えているか、大体わかるから言うけれど、この世の中、そんなに殺伐としてないからな」
 それを察する魔理沙は、一応、相手にツッコミを入れてから、
「早苗と霊夢のレートは3:7くらいか。
 そんなに威張って『わたしつよいんですー』なんて言える数字じゃないけど、負けるときは、霊夢が完膚なきまでにこてんぱんにされるからな」
「へぇ、そうなんだ」
「元々、霊夢は早苗に頭が上がらないから当たり前っちゃ当たり前なんだけど、こと、こういう勝負事で手加減なんてしたら向こう一週間は口利いてもらえなくなるから、霊夢も本気にならざるを得ない」
「なるほどー」
「私とあいつのレートは大体5:5だから、早苗も十分だよ」
 少なくとも、この幻想郷における『人間』枠で考えるなら、彼女の実力は間違いなくトップクラスだ、と魔理沙。
 そんな相手に『危ないことしてほしくない』などと言うのが、どれほど相手のプライドを傷つけるか。
「う、うぐ……え、えっとその……」
「霊夢さんはわたしのことをそういう目で見てたんですね。ぷいっ」
「あああああ~……」
 頭を抱えて呻く霊夢。
 ここしばらく、ずっとあんな感じなんだ、と魔理沙。一歩進んで二歩下がる、ではなくて一歩進もうとしたら自分から足下に転がっている地雷踏み抜いて天高く吹っ飛ばされることを繰り返しているのだという。
「レイムッチが情けないのか、早苗さんが手強いのか」
「普段、あまり怒らない、温厚な輩ほど怒らせるほど怖いからな」
「あ、それはわかる。
 あたしにもそういう友達いるわ。男子からも女子からも人気が高いんだけど、一回怒らせたら最後、地元の有名暴走族も全力で平謝りする、って」
「それはすごいな」
 暴走族、というやつがよくわからなかったが、とりあえず魔理沙は驚いてみせる。
 彼女、こう見えて、相手の会話に話を合わせるのは得意なのだ。
「んで? これで何日目?」
「三日目くらいかな」
「あ、そうだ。ねぇ、早苗。あのね、この前、美味しい大福作ったんだけど」
「お、食べ物で懐柔に出た」
「霊夢さんの作る大福より美味しい大福、諏訪子さまが作れますから」
「そこにすかさず早苗さんからの鋭い一撃が」
「おっと霊夢選手、その場にくずおれました」
 ついに始まる『霊夢実況』。
 しかし、その様はまさに散々で、こんな情けない『試合』、実況しても何にも面白くないと誰もが断言できる内容である。
「けど、早苗さんも厳しいね。三日間も相手があんな態度なら、いい加減許してあげてもいいのに」
「と思うだろ?」
「うん」
「横からだとよくわからないけどな、ちょっと正面回ってみろ」
 首をかしげた菫子は、言われるがまま、なるべく相手の『エリア』内に入らずに正面に回ってみる。
 そして、彼女は察した。
「なるほど。ありゃ楽しんでる」
「だろ?
 早苗が本当にふてくされてたのなんて、事実を知ったその日くらいなもんだよ」
 横から眺めると、本当に『わたし、機嫌悪いんです』な顔をしていた早苗だが、正面に回ってみると、あら不思議、笑っているのだ。
 明らかに、霊夢をからかって遊んでいるのである。
 あんな表情が出来るなんてすごいなぁ、と菫子は素直に感心する。
「あいつ、たまにあーいういたずら心出すんだよ。
 霊夢のことからかうの、楽しくてたまらないみたいだ」
「手玉に取られてるってことね。
 外の世界だと、そんなことしてたら、逆に相手から愛想を尽かされることもあるだろうに」
「そこはちゃんと駆け引きを心得ているってところじゃないか。
 押してもダメなら引いてみろ、なんて。
 霊夢にゃ通じない」
「経験値足りなすぎるな、レイムッチ」
「そりゃそうだ」
 それこそ『初々しい』と言うべきなのかもしれないが。
 しかし、こうやって遊ばれている霊夢にとってはたまったものじゃないだろう、と魔理沙。
「あ、ほんとだ、泣きそうになってる」
「三日間が限界だったな。以前は半日もたなかったんだけど、少しは早苗ロスに慣れてきたのかもしれない」
「よくわからん」
「わからなくてもいいと思う」
「けど、人間ってそんなものだよね」
 と、そこで早苗が一瞬だけ魔理沙と菫子を振り向いた。
 彼女はウインクして人差し指を口元に当てた後、霊夢へと振り返る。
「仕方ないですねぇ」
 ぱっと顔を輝かせた霊夢が早苗の顔を見る。
 その様を見て、魔理沙と菫子はほぼ同時に『あ、わんこがいる』と思ったとか。
「じゃあ、霊夢さん。もう次からはこういうことをしないと約束をするということで」
 うんうん、とうなずく霊夢。
 そこで早苗は言った。
「今回は唇にちゅーで許してあげますよ」
「えっ」
 ぴしっ、と固まる霊夢。
 自分の唇をちょんちょんと触る早苗。霊夢は顔を真っ赤にして、何やらよくわからない、わたわたとした動作を伴ってから決心したのか、早苗の肩に手を置いた。
 ――そして、そのまま、経過することおよそ五分。
「えー、解説の魔理沙さん。霊夢選手、全く動きませんがどのように思いますか」
「霊夢さんにはそのような度胸はありませんからねぇ。
 あのままほったらかしておけば、一時間でも二時間でも固まっていることでしょう」
「ああ、霊夢選手、それはいけません」
 何やらよくわからない実況が始まってしまう。
 霊夢は何やら口元をもごもご動かしている。自分に何かを言い聞かせているのかもしれない。
 しかし、『いざ』となると度胸が出ないのか、その動きが途中で止まる。
「このまま何もしない状態ですと戦意喪失と言うことでペナルティが課せられます。
 どのように思いますか、解説の魔理沙さん」
「霊夢選手にペナルティが課せられたのは一度や二度ではありません。しかし、三度目となると退場処理になってしまうかもしれません」
「そうなってしまっては、この勝負、なかったことになってしまいますねぇ。観客は実にがっかりしてしまうでしょう」
「ええ。困ったものです」
 霊夢の視線が自分から外れた一瞬、早苗がくすっと笑うのを、魔理沙と菫子は見逃さない。
「全くもう」
 早苗はぽんぽんと霊夢の頭を軽く叩くと、
「今回はこれで許してあげます」
 と、霊夢のおでこに自分の唇をちゅっと押しつける。
 霊夢は、またよくわからないことを叫んで飛び上がり、顔を真っ赤に染めて後ろに転がって、「お、お茶! お茶淹れてくる!」とどたばた足音を立てて家の中に逃げていった。
「これで霊夢選手、絶好調の連敗記録を更新してしまいました」
「ふーむ、実にワンサイドゲームですねぇ。次回こそは、是非とも、逆転して欲しいものです。
 ねぇ、解説の魔理沙さん」
「いやいや、全くです。
 それでは、『博麗神社の縁側実況』、これでおしまいとさせて頂きます」
 魔理沙と菫子の解説も終わりを告げたところで、
「しかし、情けないなぁ、レイムッチ。もっと度胸見せてくれないと」
「私もそれをあいつに言うんだけど、大抵、怒って夢想封印仕掛けてくる。
 だけど、全く狙いも定まってないもんだから、その場に棒立ちしてても当たらないんだけど」
 人間の精神ってのは、弾幕の動きによく表れる、というのは魔理沙のその時の名言である。
「レイムッチの恋愛経験値と恋愛レベルが低すぎるのが問題なのよね。
 女の子を前にしたら優柔不断は嫌われるし、情けないのは失望させるだけなのにさ。やっぱり、男ならがつんと………………………………?」
 何やら少し違和感があったらしいが、菫子はしばらく沈黙した後、『ま、いいか』とそれを横に放り投げる。
「おーい、早苗ー。霊夢いるかー?」
 そこで、魔理沙が何気なく声をかけた。
 早苗は「いますよー」と魔理沙たちのことなど、ついぞ今まで知らなかったという風に声を上げて返事をし、「霊夢さーん、魔理沙さんと菫子さんですよー」と家の中に声をかけるのだった。


 なお――、
「早苗さん、あんまりレイムッチのことからかうとかわいそうだよ」
「わかってるんですけどねー。
 だけど、あんまりかわいくて」
「わかるわかる」
 そんな会話に、果たして、「何しにきたのよ、帰れ帰れ!」と明らかに普段とは違う剣幕で怒る霊夢が気づいたかどうかは、また別の話。
「そういえば、菫子。お前、『マリサッチ』とか『レイムッチ』って何だ?」
「あだ名。かわいいでしょ?」
「じゃあ、お前はあれか。『スミッチ』とか」
「何か墨汁みたいじゃない? それ」
「んじゃ……『すみ れいこ』とか」
「語尾に『でございます』ってつきそうだね。それなら魔理沙は『マッチ』だね」
「ギンギラギンにさりげなさそうだな」
「マリサッチってさ」
「うん」
「実は結構年食ってるでしょ」
「きゅーはちだしね」
お後がよろしいようで
haruka
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
良かったです