私は妹に会う。
それが妹にとっての日常であるからだ。
だから私は、扉を開ける。
軋む音がしないように丁寧に、ゆっくりと、そっと。
時刻は、0時きっかりに。
――足を踏み入れて三歩踏み込み、それから後ろ手に扉を閉める。
部屋の中へと目を向ければ、いつものように妹が部屋の真ん中に座っていた。
その身体の前には、いつもと同じ本が六冊横に並べられていた。
普段、私が部屋に入ったときはそれを眺めている場面に遭遇することになるのだが、今日は何故だかこちらに顔を向けていた。
そんな、いつもと違う反応に戸惑いと喜びを感じながら、私は言葉を掛ける。
「今日はどんな感じかしら?」
歩いて妹へ近づきながら返答を待つ。
私が近づいても妹の視線は私を捉えることはなく、ずっと後ろへ、そう扉へと向けられていた。
妹の正面へと辿り着いたところで腰を落とす。
そのまま、顔を覗き込む。
赤い瞳は正面にいる私を鏡のように映し込んでいるにいも関わらず、どこか焦点の合わない可笑しな感じだった。
六秒程その状態を維持した後、身を引く。
すると、妹はそれを計らったかのように立ち上がるのだった。
そして、私のことを一瞥すらもすることなく横を通り過ぎていく。
――今日はどんな感じかしら、と何度も何度も繰り返しながら。
身体を捻って妹のことを視線で追い続ける。
妹は綺麗に六歩で扉に辿り着くと、ノブに手を掛ける。
そして、ゆっくりと音を立てないように開かせていく。
僅かに生まれた隙間、親指を差し込める程度だろうか。
それを眺めながら、妹は満足そうに何度も頷くのだった。
「こらこら、扉はちゃんと閉めなさいな」
私は注意をするが、妹は頷き続けるだけで全く反応は見られなかった。
――目の前に座る妹へ、改めて問う。
「今日は身体の調子はどうかしら?」
そんな私の問い掛けを無視するように妹は目の前の本の一つを手に取ると、ページを捲り始める。
聞こえていないことはないと思うのだが、念のためにもう一度繰り返す。
「今日は身体の調子はどうかしら?」
パラパラ、とページを捲る音だけが聞こえる。
仕方ないなと、内心溜息を吐きながら手を伸ばす。
伸ばした手で妹の肩を軽く叩く。
ページを捲る手が止まる。
そのまま、肩に手を置いておいてみる。
すると、物凄い勢いで妹が手を弾かれて払われてしまうのだった。
少し驚いてしまったが、それと同時にこちらのやっていることはちゃんと伝わっているのだという安心感もあった。
――妹が身体を前後に揺らす。
一定の間隔を一定の時間で行ったり来たり。
まるで玩具のようだなとそんなことを思った。
目の前の本を覗き込んでみると、タイトルこそ読めない言語で書かれていたが、同一の続き物であることが分かった。
等間隔に並べられたそれは、右から順に一巻から四巻までは順番通りに並んでいる。
だが、最後の五巻と六巻は逆になっていた。
「ねえ、これ逆じゃない?」
分かりやすいように両手でそれぞれを指し示してやる。
しかし、妹からの返事はない。
ただただ、身体を揺すり続けるだけだ。
「こっちの方が見栄えがいいと思うんだけど……」
本の順序を入れ替えてやる。
こうすれば、右から順番に並んでいて秩序立っていて映えるというものだ。
「どうかしら?」
一応同意が得られないかと思って聞いてみる。
けれども、やはり妹は身体を揺らすだけだった。
ただ、変化はあった。
好ましい変化なのかは分からないが、先程までよりも、身体の揺れが大きく激しくなった。
それと、私の真似をしてかは知らないが、どうかしら、という言葉を呟いていた。
――また明日
そのお約束の一言を残して私は妹の部屋を後にする。
扉を閉める。
バタン、という音がやけに大きく聞こえた。
廊下へと三歩足を進めると、後ろからほんの僅かな軋みが聞こえた。
振り返ってみると、扉が指一本分くらい開いていた。
あとがきの自閉症で納得はしたけど、第一印象が頭から離れない
案外、自閉症って知られてないこと多いよね
自分でもよく分からないけど、フランに恐怖を感じてしまった。
フランの行動がパターン化しているから、一見すると自閉症なのは
フランに見えるんだけど……では、同じくパターン化した行動をし
ているレミリアは?
フランの自閉症の症状もレミリアの接し方も、ただ調べただけではここまで正確に描写できない気がします。
言っちゃいけない事かもしれませんが、読ませるためのダシに使って欲しくないな、と。
でも心の病=狂気ではない、というのは全くもって同意。
フランを理解してくれる、と思った
狂気とは違うものだな
もっとおとなしいなにかだ