「暑い」
「暑いわねぇ」
2人が呟いたのはほぼ同タイミングだった。
ここは白玉楼の縁側。ただいま半人半霊の庭師、魂魄妖夢とその主の西行寺幽々子が休憩中。とはいっても、2人は起きてから朝ご飯も食べず、そのまま縁側で茶を飲んでいただだけなのだが。
「ねぇ妖夢」
「なんでごじゃいましょうか」
なんか妖夢が変な言葉を言っているが、きっと暑さで脳が茹だっているのだろう。
「ご飯まだかしら?作ってくれると嬉しいんだけど」
「いやです!いやです!暑い、暑い、饅頭怖い!」
凄まじい勢いで拒否する妖夢。なんかおかしい。
「ご飯食べないと死んじゃうわよ!」
「あなたはもう、死んでいる」
「ぐッ!・・・仕方ないわね。ならば・・・」
「勝負ですか。・・・・・・分かりました」
それから約一分後、白玉楼の庭には3メートルほど離れてお互いをにらみ合う2人の姿があった。
「幽々子さま、あなたとは戦いたくない」
「それは、私とて同じこと。だが!私はあなたを倒さねばならない!」
「南斗みょ破幽!」
「北斗幽撃みょん!」
攻撃に備えた妖夢に幽々子の攻撃が当り、妖夢が反撃に近い形で攻撃する。
いつもならここで相打ちになるはずだが、この日は暑さの所為か幽々子は足に力が入らず、妖夢のほうに倒れこむようにこけてしまった。
こける目の前に妖夢がいたので、胸の辺りに抱きつくような感じで倒れ掛かかった。
ガシッ
という音と共に、妖夢の胸から顔を上げてみると、真っ赤になった妖夢の顔があった。(もちろん抱きついたまま)
しかし、妖夢は赤い顔のまま、ぼーっとした目で、幽々子を見つめていた。
「妖夢?(なんかおかしいわねぇ)」
「あっあのっ幽々子さまっそのっ!す、すす好きですッ!」
その瞬間、幽々子の背中に妖夢の腕が回った。
(えぇー!何この展開?こけた彼女を抱きしめる、みたいなイベントですかぁ!?しかも今日の妖夢暑さでおかしくなってるし!なんか大胆になってるし!す、好きってつまりそーゆう事よね?ね?我が世の春が来たぁ~!!って、あら?)
幽々子が心の中で歓喜していると、抱きついてきた妖夢の腕の力がフッと抜け、幽々子に体をもたれかけ、気を失っていた。
「妖夢!ねぇ妖夢!しっかり!」
―――白玉楼・寝室
妖夢は気を失った後、丁度訪れた八雲紫の式、藍に応急処置をしてもらい、この部屋に寝かされている。
隣の部屋では、
「妖夢、大丈夫かしら?」
「おそらく疲れすぎでしょう。この暑さでそれが一気に来たとか」
「最近忙しかったからかしら。ところで、藍ちゃんお昼ごはんは食べたかしら?」
「いえ、食べていませんが」
「そうなの?じゃあ少し待ってて」
幽々子はふわりと立ち上がると、台所の方へ向かっていった。
一人部屋に残された藍は、幽々子様はきっとすごく心配なんだろうな、などと考えていた。
そういえば橙は大丈夫だろうか?と考え始めた頃、お盆に一切れのスイカをのせた幽々子がやってきた。
「おまたせ。どうぞ」
「えっ!あ、ありがとうございます。」
藍がスイカを少しかじると、口の中に果物の甘さが広がる。と同時に頭の隅に小さな疑問が浮かんだ。
「おいしいですねぇ、このスイカ。ところですごい冷えているんですが、これは?」
「紫が外の世界で(冷蔵庫)と呼ばれるものを持ってきてくれたのよ」
「なるほど。しかし電気がなければ動かないのでは?」
「電気はね、193電気からお金を払って送ってもらっているの」
「あぁ。なるほど」
納得したようだ。
☆ ☆ ☆
しばらくして、用事を終えた藍が帰ってから、幽々子は妖夢の様子を見に行くことにした。
妖夢が寝ている部屋の襖をそっとあけると、妖夢が寝息を立てていた。
起こさないように静かに妖夢の隣に腰を下ろし、妖夢の顔を見て、
最近無理させすぎちゃったかしらねぇ、と改めて反省した。
少ししてから再び妖夢の顔を見ると、先ほどと変わらぬ顔で眠っている。きっと明日には元気になってくれるだろう。
色々な事を考えながら、特に気になった事を思い出す。
「好きです、ねぇ。あれは妖夢の本音だったのかしら?」
「あとで本人に聞いてみましょうかねぇ。スイカでも食べながら。反応が楽しみだわぁ」
妖夢を起こさぬように静かに立ち上がり、隣の部屋へ出て行く。
部屋を出る際に、幽々子は小さく呟いた。
「私は、あなたのことが大好きよ」
ある暑い日の物語。
193電気ってwww河童の商売仇かwww