――レミリアと霊夢の場合
「さぁ霊夢! 私にイタズラさせなさい!」
「…なんでよ」
お茶を飲むのを止めた霊夢が至極当然な質問をする。
「今日はハロウィンだからよ!」
「あぁ、そんな行事みたいなのもあったわね。んで、なんでイタズラするの?」
「え? ハロウィンって好きな人にイタズラする行事でしょ?」
「違うわよ。正確には“とりっく・おあ・とりーと”て言ってお菓子を貰って、その貰ったお菓子を皆で持ち寄りして小さな宴会を開くことらしいわよ」
「“とりっく・おあ・とりーと”て何?」
「『お菓子をくれなきゃイタズラするぞ』て意味らしいわよ」
「んじゃあ、霊夢♪ “とりっく・おあ・とりーと”♪」
「ほい」
霊夢はどこからか甘納豆を取り出して、レミリアにぽい!と投げる
「そう簡単にイタズラはさせないわよ」
「うー……霊夢のいけず~…」
と言いながらレミリアは貰った甘納豆をモグモグと食べる。うん。美味しいです。
「ところでレミリア」
「なに?」
「“とりっく・おあ・とりーと”」
「……へ?」
「“とりっく・おあ・とりーと”て言ってるのよ。お菓子あるの? 無いの?」
「えと、無いです?」
「そう……それじゃ」
霊夢はそう言ってレミリアへとゆっくり近づいて、レミリアの小さな肩に手を置く。
――あれ? こういう役って普通は私がやるべきじゃないの?
「“イタズラ”……するからね」
結論…イベントの日に霊夢は積極的(?)になると思う。
――文と椛の場合
その日、文は違和感があった。正確には言えないが、とにかく得体の知れない違和感があった。
「何かがおかしいわ…。今日はいろんな所に行って取材するつもりだったけど止めようかしら」
長年愛用しているカメラを持ちながら文は玄関の前で佇んでいた。
仕方ないから今日は家でゆっくりするか、と決めて扉に背を向けた時―――
矢g…いや、文に電流走る……!
「ッ……!」
確かに感じた。自分が扉に背を向けた時、確かな悪寒を……。
しばらく扉を睨みつけるが、さっきの様な悪寒は無かった。
「ふぅ…気のせいですか」
そう結論付けて文は自室へと向かおうとするが、それは出来なかった。
さっき感じた悪寒がまた出てきたのだ。しかも今回は自分の後ろに誰かが居る、と確かに感じられる。
後ろを向くべきか、向かぬべきか、そう考えているとその気配はさらに文に近づいてくる。
「…ゃ~……ま~…」
「ぃ、い、いい…」
冷たい手が文の肩に置かれる。
「いやあああぁぁあぁあぁあぁあぁあぁぁ!!?」
「ちょっ! 文様! どうしたんですか!?」
聞きなれた声であるが、今の文には理解することが出来ず、物凄い勢いで扉をブチ破って大空へと飛んで行ってしまった。
「文様……せっかく文様がお菓子を持ってないであろうこの状況で、正当な理由で性的な意味のイタズラが出来ると思ってたのに……なんで逃げてしまったんでしょうか?」
甘々な展開を予想していた椛は一瞬だけ悲しそうな表情をしたが、文に“イタズラ”するために急いで椛は文の後を追って行った。
ちなみにこの後、妖怪の山の中で椛に(性的に)襲われた文は、椛をフルボッコにして手荒く寝かしつけたという。
そして、椛の側に前日作っておいたクッキーを置いてあげたというのは余談である。
結論…こんなホラー展開(?)になると思う。
――咲夜と美鈴の場合(最後に少しだけフランも)
「美鈴、“とりっく・おあ・とりーと”。そう・・・お菓子が無い・・・それじゃあ、イタズラしなきゃねいけないわね」
咲夜はそう言うと、少しばかり挑戦的な表情で相手を見る・・・・・・咲夜お手製の美鈴人形を。
「・・・よしっ! 今度こそ瀟洒らしく完璧に出来たわ! 覚悟(?)しなさい、美鈴!」
今から戦にでも行くような凄みを醸し出しながら咲夜は生クリームたっぷりのケーキを片手にドアノブを握った。
「・・・・・・・・・」
しかし1分・・・5分・・・10分・・・。
いくら時間が過ぎようがその握られたドアノブが回る様子はない。
「や、やっぱもう一回だけ練習しとこうかな? うん。練習はいくらやっても損になることはないんだから! えっと・・・」
自分に言い聞かせるようにしながら、咲夜はベッドの上に置いてある美鈴人形の前にケーキを置いて正座をする。
先程からこれの繰り返しである。無限ループって怖い。
咲夜が通算36回目となる練習をしていると、コンコンと控えめにドアをノックする音が聞こえてきた。
「咲夜さーん。美鈴ですけど、居ますかー?」
「ちょっ!? 美鈴!(や、やばい・・・この人形隠さなきゃ!)」
「あ、居ましたか。ちょっと失礼しますよ」
咲夜は酷く慌てる。そして、わたわたしてる間にゆっくりと扉が開く。
「ぅ・・・・・・うりゃああぁあぁあぁあぁああぁあぁぁ!」
「咲夜さん、あのですね――わぷっ!」
咲夜は美鈴人形を隠すためにまず、生クリームたっぷりのケーキを美鈴へ投げた。そして美鈴が怯んでいる間にすばやく人形をベッドの下へ隠した。
―――うん! 我ながら完璧な行動力d・・・・・・あれ?
ここまでやって、ようやく咲夜は何かがおかしいことに気が付いた。
「さ~く~や~さ~ん」
「め、めいりん・・・?」
咲夜の前には、生クリームで顔を真っ白にしているが、そのクリームの下は恐らく真っ赤にして怒っているだろう美鈴が居た。
「これは、どういうことですか?」
口調こそ穏やかに聞こえるが、有無を言わさない威圧感に咲夜は身を震わせる。
「あ、あのね美鈴? まず私の話を聞いてくれる?」
「ええ、話はちゃんと聞きます。でも嘘をつくのだけは止めてくださいね」
「これはその・・・あのね・・・・・・そ、そう! 今、紅魔館では出会った人の顔にケーキを投げつけるという催しモノをやっている―――」
「ここに来るまでの間に妖精メイドさんや妹様に会ったりしましたけど、誰も私にケーキを投げてきたりしませんでしたし、誰かにケーキを投げている姿を私は見ていませんが?」
「うっ・・・だ、だからね」
「咲夜さん?」
「な、なにかしら美鈴?」
美鈴は咲夜に見せ付けるように小さな包みを取り出す。
「ちゃんと正直に話してくれたら私が作ったクッキーを一緒に食べようと思っていたんですが」
「ごめんなさい、ちょっとした事情があって思わず美鈴にケーキを投げてしまいました!」
「はい。よく言えましたね」
そう言って、美鈴は咲夜の頭を撫でながら咲夜の隣に腰を下ろす。
「じゃ、一緒に食べましょうか」
「うん・・・」
自分の計画のようなことにはならなかったが、美鈴のクッキーを食べれたので大満足な咲夜だった。
だが、そんな二人をケーキの匂いに誘われてやって来たフランに目撃されてしまい、「美鈴の隣はフランだけのなんだよー!」と涙目で訴えるフランとちょっとした乱闘を咲夜が起こしたりするのは余談である。
結論・・・どんな事されても美鈴なら笑顔で許してあげると思う。
――幽香とリグルの場合
「リグル、“とりっく・おあ・とりーと”」
「はい、幽香さん」
「・・・・・・」
グシャッ!
「えぇ~!? な、何で貰った直後にお菓子潰しちゃうんですか!?」
「リグル」
「は、はい?」
「“とりっく・おあ・とりーと”」
「えっと、はいお菓子です」
「・・・・・・」
グシャッ!
「だ、だからなんで潰しちゃうんですか!?」
「“とりっく・おあ・とりーと”」
――5分後
「あの幽香さん? もうなんか『お菓子を食べる』のが目的じゃなくて『お菓子を潰す』のが目的になっちゃってますよ」
「リグル、“とりっく・おあ・とりーと”」
さっきからお菓子を幽香に渡してはお菓子を潰す、の繰り返しで幽香の足元には小さなお菓子の残骸の山が出来上がっていた。
「あの、もうお菓子なんて持ってませんよ?」
「いよっしゃああああ!! ここまで持ってくるのに随分と時間が掛かっちゃったけど、これからはずっと私のターンよリグル! さぁ! すぐに私の家に行くわよ!」
「よかった。試しに嘘ついてみて。はい幽香さん、お菓子です」
「くっ・・・! リグルのくせにやるじゃない」
そう言って渡されたお菓子をまた幽香は潰す。
「リグル! “とりっく・おあ・とりーと”!」
「はいどうぞ。でも、幽香さんはそこまでして一体どんなイタズラをしようとしてるんですか?」
「(グシャッ!)え! そ、それはね・・・・・・」
リグルが幽香に理由を尋ねると、幽香は顔を真っ赤にしながらもじもじと髪を触る。
「その・・・貴方を家に連れてって、今日一日、私の抱き枕にしようと思ったのよ(///)」
「だ、抱き枕・・・ですか?(///)」
「そうよ・・・って、恥ずかしいこと言わせるんじゃないわよ! ほら、“とりっく・おあ・とりーと”!」
「・・・・・・」
幽香はお菓子をくれ、とリグルに求めるが、リグルは一向にお菓子を出そうとしない。
「どうしたのよリグル?」
「あのですね、実はもうお菓子ないんですよ」
「? なに言ってるのよ? その手にちゃんと―――」
持ってるじゃない、と言おうとしたら、どこからともなく出てきた蜂たちがリグルの周りに集まりだし、手に持っていたお菓子を一つ残らず持っていってしまった。
唖然としている幽香にリグルは近づく。
「だから、幽香さんの言う“イタズラ”しても大丈夫ですよ」
「ホントに・・・?」
「ただ一つだけ言わせてもらいますと――」
リグルはさらの幽香に近づくと、ぎゅっと幽香に抱きついた。
「私の場合、抱き枕というより“抱きつき枕”ですから」
「・・・っ! し、しょうがないわね! 私は別に抱きつき枕でも気にしないんだからね!」
そう言って幽香もリグルに抱きつき、しばらくの間、二人は抱きついたまま動こうとしなかった。
結論・・・幽香の考えるイタズラは可愛いものだと思う。
――チルノと大ちゃんの場合
「あ~あ~。なんで今日はみんな忙しいのかな~?」
「う、うん・・・そうだね」
チルノと大妖精は並んで湖の周りを歩いているが、大妖精は顔を赤く染めながら地面を見ている。
「霊夢はレミリアと二人だけでなんか遊んでて忙しそうだったし」
「はぅっ!」
「文も白い犬にペロペロ顔を舐められて忙しそうだったし」
「ひぅっ!」
「美鈴に会いに門の前まで行ったら『美鈴の隣はフランだけのなんだよー!』とか『いいえ! 美鈴の隣は私のです!』て声が聞こえてきたから、美鈴も忙しそうだったし」
「きゃうっ!」
「リグルも幽香と抱き合ってて忙しそうだったし」
「きゅいっ!」
チルノが一言、言うたびに赤く染まった顔を少しずつ赤く染めていき、最終的にはリンゴ以上に大妖精の顔は赤くなってしまった。
「そうだ! 大ちゃん!」
「な、何かなチルノちゃん?」
「“とりっく・おあ・とりっく”!」
「え?」
「だから! “とりっく・おあ・とりっく”だよ!」
「・・・・・・。ち、チルノちゃん? それってどういう意味か知ってる?」
「うん知ってるよ! けーねから教えてもらったから!」
そう言ってチルノはキラキラと光らせている目で大妖精を見る。
――た、多分チルノちゃんは間違えて覚えてるんだろうけど、これってチャンスなんじゃないかな?
そう考え、大妖精は意を決して一歩チルノに近づく。
「あのね、チルノちゃん?」
「うん!」
「チルノちゃんが言ったのって“イタズラしなきゃイタズラするぞ”てことだよね?」
「そうだよ!・・・・・・あれ? そんな意味だったけ?」
「だから、私イタズラされるの嫌だから、イタズラするね?」
「大ちゃん?」
さらに大妖精はチルノに近づく。そして体が限界まで近づくと今度は顔を近づけていく。そして――
ちゅっ!
「ふえぅっ! だ、大ちゃん!?」
「・・・・・・! えと、ごめんね!」
そう言って大妖精は凄いスピードで走り去ってしまった。
そんな大妖精をチルノは、キスされた頬を触りながら見ていることしか出来なかった。
少しの間そのまま動かなかったが、チルノは「はっ!」と思い出す。
「ま、待ってよぉ~大ちゃ~ん! あたいも大ちゃんにイタズラしちゃうんだから~!!」
意味を理解しているのか、理解してないのか。どちらなのかは分からないが、とにかく大妖精にイタズラをするために、チルノは赤い顔をしながら大妖精を追いかけて行った。
結論・・・チルノだってちゃんと恥ずかしがるが、なんで恥ずかしいのか理解してないと思う。
「さぁ霊夢! 私にイタズラさせなさい!」
「…なんでよ」
お茶を飲むのを止めた霊夢が至極当然な質問をする。
「今日はハロウィンだからよ!」
「あぁ、そんな行事みたいなのもあったわね。んで、なんでイタズラするの?」
「え? ハロウィンって好きな人にイタズラする行事でしょ?」
「違うわよ。正確には“とりっく・おあ・とりーと”て言ってお菓子を貰って、その貰ったお菓子を皆で持ち寄りして小さな宴会を開くことらしいわよ」
「“とりっく・おあ・とりーと”て何?」
「『お菓子をくれなきゃイタズラするぞ』て意味らしいわよ」
「んじゃあ、霊夢♪ “とりっく・おあ・とりーと”♪」
「ほい」
霊夢はどこからか甘納豆を取り出して、レミリアにぽい!と投げる
「そう簡単にイタズラはさせないわよ」
「うー……霊夢のいけず~…」
と言いながらレミリアは貰った甘納豆をモグモグと食べる。うん。美味しいです。
「ところでレミリア」
「なに?」
「“とりっく・おあ・とりーと”」
「……へ?」
「“とりっく・おあ・とりーと”て言ってるのよ。お菓子あるの? 無いの?」
「えと、無いです?」
「そう……それじゃ」
霊夢はそう言ってレミリアへとゆっくり近づいて、レミリアの小さな肩に手を置く。
――あれ? こういう役って普通は私がやるべきじゃないの?
「“イタズラ”……するからね」
結論…イベントの日に霊夢は積極的(?)になると思う。
――文と椛の場合
その日、文は違和感があった。正確には言えないが、とにかく得体の知れない違和感があった。
「何かがおかしいわ…。今日はいろんな所に行って取材するつもりだったけど止めようかしら」
長年愛用しているカメラを持ちながら文は玄関の前で佇んでいた。
仕方ないから今日は家でゆっくりするか、と決めて扉に背を向けた時―――
矢g…いや、文に電流走る……!
「ッ……!」
確かに感じた。自分が扉に背を向けた時、確かな悪寒を……。
しばらく扉を睨みつけるが、さっきの様な悪寒は無かった。
「ふぅ…気のせいですか」
そう結論付けて文は自室へと向かおうとするが、それは出来なかった。
さっき感じた悪寒がまた出てきたのだ。しかも今回は自分の後ろに誰かが居る、と確かに感じられる。
後ろを向くべきか、向かぬべきか、そう考えているとその気配はさらに文に近づいてくる。
「…ゃ~……ま~…」
「ぃ、い、いい…」
冷たい手が文の肩に置かれる。
「いやあああぁぁあぁあぁあぁあぁあぁぁ!!?」
「ちょっ! 文様! どうしたんですか!?」
聞きなれた声であるが、今の文には理解することが出来ず、物凄い勢いで扉をブチ破って大空へと飛んで行ってしまった。
「文様……せっかく文様がお菓子を持ってないであろうこの状況で、正当な理由で性的な意味のイタズラが出来ると思ってたのに……なんで逃げてしまったんでしょうか?」
甘々な展開を予想していた椛は一瞬だけ悲しそうな表情をしたが、文に“イタズラ”するために急いで椛は文の後を追って行った。
ちなみにこの後、妖怪の山の中で椛に(性的に)襲われた文は、椛をフルボッコにして手荒く寝かしつけたという。
そして、椛の側に前日作っておいたクッキーを置いてあげたというのは余談である。
結論…こんなホラー展開(?)になると思う。
――咲夜と美鈴の場合(最後に少しだけフランも)
「美鈴、“とりっく・おあ・とりーと”。そう・・・お菓子が無い・・・それじゃあ、イタズラしなきゃねいけないわね」
咲夜はそう言うと、少しばかり挑戦的な表情で相手を見る・・・・・・咲夜お手製の美鈴人形を。
「・・・よしっ! 今度こそ瀟洒らしく完璧に出来たわ! 覚悟(?)しなさい、美鈴!」
今から戦にでも行くような凄みを醸し出しながら咲夜は生クリームたっぷりのケーキを片手にドアノブを握った。
「・・・・・・・・・」
しかし1分・・・5分・・・10分・・・。
いくら時間が過ぎようがその握られたドアノブが回る様子はない。
「や、やっぱもう一回だけ練習しとこうかな? うん。練習はいくらやっても損になることはないんだから! えっと・・・」
自分に言い聞かせるようにしながら、咲夜はベッドの上に置いてある美鈴人形の前にケーキを置いて正座をする。
先程からこれの繰り返しである。無限ループって怖い。
咲夜が通算36回目となる練習をしていると、コンコンと控えめにドアをノックする音が聞こえてきた。
「咲夜さーん。美鈴ですけど、居ますかー?」
「ちょっ!? 美鈴!(や、やばい・・・この人形隠さなきゃ!)」
「あ、居ましたか。ちょっと失礼しますよ」
咲夜は酷く慌てる。そして、わたわたしてる間にゆっくりと扉が開く。
「ぅ・・・・・・うりゃああぁあぁあぁあぁああぁあぁぁ!」
「咲夜さん、あのですね――わぷっ!」
咲夜は美鈴人形を隠すためにまず、生クリームたっぷりのケーキを美鈴へ投げた。そして美鈴が怯んでいる間にすばやく人形をベッドの下へ隠した。
―――うん! 我ながら完璧な行動力d・・・・・・あれ?
ここまでやって、ようやく咲夜は何かがおかしいことに気が付いた。
「さ~く~や~さ~ん」
「め、めいりん・・・?」
咲夜の前には、生クリームで顔を真っ白にしているが、そのクリームの下は恐らく真っ赤にして怒っているだろう美鈴が居た。
「これは、どういうことですか?」
口調こそ穏やかに聞こえるが、有無を言わさない威圧感に咲夜は身を震わせる。
「あ、あのね美鈴? まず私の話を聞いてくれる?」
「ええ、話はちゃんと聞きます。でも嘘をつくのだけは止めてくださいね」
「これはその・・・あのね・・・・・・そ、そう! 今、紅魔館では出会った人の顔にケーキを投げつけるという催しモノをやっている―――」
「ここに来るまでの間に妖精メイドさんや妹様に会ったりしましたけど、誰も私にケーキを投げてきたりしませんでしたし、誰かにケーキを投げている姿を私は見ていませんが?」
「うっ・・・だ、だからね」
「咲夜さん?」
「な、なにかしら美鈴?」
美鈴は咲夜に見せ付けるように小さな包みを取り出す。
「ちゃんと正直に話してくれたら私が作ったクッキーを一緒に食べようと思っていたんですが」
「ごめんなさい、ちょっとした事情があって思わず美鈴にケーキを投げてしまいました!」
「はい。よく言えましたね」
そう言って、美鈴は咲夜の頭を撫でながら咲夜の隣に腰を下ろす。
「じゃ、一緒に食べましょうか」
「うん・・・」
自分の計画のようなことにはならなかったが、美鈴のクッキーを食べれたので大満足な咲夜だった。
だが、そんな二人をケーキの匂いに誘われてやって来たフランに目撃されてしまい、「美鈴の隣はフランだけのなんだよー!」と涙目で訴えるフランとちょっとした乱闘を咲夜が起こしたりするのは余談である。
結論・・・どんな事されても美鈴なら笑顔で許してあげると思う。
――幽香とリグルの場合
「リグル、“とりっく・おあ・とりーと”」
「はい、幽香さん」
「・・・・・・」
グシャッ!
「えぇ~!? な、何で貰った直後にお菓子潰しちゃうんですか!?」
「リグル」
「は、はい?」
「“とりっく・おあ・とりーと”」
「えっと、はいお菓子です」
「・・・・・・」
グシャッ!
「だ、だからなんで潰しちゃうんですか!?」
「“とりっく・おあ・とりーと”」
――5分後
「あの幽香さん? もうなんか『お菓子を食べる』のが目的じゃなくて『お菓子を潰す』のが目的になっちゃってますよ」
「リグル、“とりっく・おあ・とりーと”」
さっきからお菓子を幽香に渡してはお菓子を潰す、の繰り返しで幽香の足元には小さなお菓子の残骸の山が出来上がっていた。
「あの、もうお菓子なんて持ってませんよ?」
「いよっしゃああああ!! ここまで持ってくるのに随分と時間が掛かっちゃったけど、これからはずっと私のターンよリグル! さぁ! すぐに私の家に行くわよ!」
「よかった。試しに嘘ついてみて。はい幽香さん、お菓子です」
「くっ・・・! リグルのくせにやるじゃない」
そう言って渡されたお菓子をまた幽香は潰す。
「リグル! “とりっく・おあ・とりーと”!」
「はいどうぞ。でも、幽香さんはそこまでして一体どんなイタズラをしようとしてるんですか?」
「(グシャッ!)え! そ、それはね・・・・・・」
リグルが幽香に理由を尋ねると、幽香は顔を真っ赤にしながらもじもじと髪を触る。
「その・・・貴方を家に連れてって、今日一日、私の抱き枕にしようと思ったのよ(///)」
「だ、抱き枕・・・ですか?(///)」
「そうよ・・・って、恥ずかしいこと言わせるんじゃないわよ! ほら、“とりっく・おあ・とりーと”!」
「・・・・・・」
幽香はお菓子をくれ、とリグルに求めるが、リグルは一向にお菓子を出そうとしない。
「どうしたのよリグル?」
「あのですね、実はもうお菓子ないんですよ」
「? なに言ってるのよ? その手にちゃんと―――」
持ってるじゃない、と言おうとしたら、どこからともなく出てきた蜂たちがリグルの周りに集まりだし、手に持っていたお菓子を一つ残らず持っていってしまった。
唖然としている幽香にリグルは近づく。
「だから、幽香さんの言う“イタズラ”しても大丈夫ですよ」
「ホントに・・・?」
「ただ一つだけ言わせてもらいますと――」
リグルはさらの幽香に近づくと、ぎゅっと幽香に抱きついた。
「私の場合、抱き枕というより“抱きつき枕”ですから」
「・・・っ! し、しょうがないわね! 私は別に抱きつき枕でも気にしないんだからね!」
そう言って幽香もリグルに抱きつき、しばらくの間、二人は抱きついたまま動こうとしなかった。
結論・・・幽香の考えるイタズラは可愛いものだと思う。
――チルノと大ちゃんの場合
「あ~あ~。なんで今日はみんな忙しいのかな~?」
「う、うん・・・そうだね」
チルノと大妖精は並んで湖の周りを歩いているが、大妖精は顔を赤く染めながら地面を見ている。
「霊夢はレミリアと二人だけでなんか遊んでて忙しそうだったし」
「はぅっ!」
「文も白い犬にペロペロ顔を舐められて忙しそうだったし」
「ひぅっ!」
「美鈴に会いに門の前まで行ったら『美鈴の隣はフランだけのなんだよー!』とか『いいえ! 美鈴の隣は私のです!』て声が聞こえてきたから、美鈴も忙しそうだったし」
「きゃうっ!」
「リグルも幽香と抱き合ってて忙しそうだったし」
「きゅいっ!」
チルノが一言、言うたびに赤く染まった顔を少しずつ赤く染めていき、最終的にはリンゴ以上に大妖精の顔は赤くなってしまった。
「そうだ! 大ちゃん!」
「な、何かなチルノちゃん?」
「“とりっく・おあ・とりっく”!」
「え?」
「だから! “とりっく・おあ・とりっく”だよ!」
「・・・・・・。ち、チルノちゃん? それってどういう意味か知ってる?」
「うん知ってるよ! けーねから教えてもらったから!」
そう言ってチルノはキラキラと光らせている目で大妖精を見る。
――た、多分チルノちゃんは間違えて覚えてるんだろうけど、これってチャンスなんじゃないかな?
そう考え、大妖精は意を決して一歩チルノに近づく。
「あのね、チルノちゃん?」
「うん!」
「チルノちゃんが言ったのって“イタズラしなきゃイタズラするぞ”てことだよね?」
「そうだよ!・・・・・・あれ? そんな意味だったけ?」
「だから、私イタズラされるの嫌だから、イタズラするね?」
「大ちゃん?」
さらに大妖精はチルノに近づく。そして体が限界まで近づくと今度は顔を近づけていく。そして――
ちゅっ!
「ふえぅっ! だ、大ちゃん!?」
「・・・・・・! えと、ごめんね!」
そう言って大妖精は凄いスピードで走り去ってしまった。
そんな大妖精をチルノは、キスされた頬を触りながら見ていることしか出来なかった。
少しの間そのまま動かなかったが、チルノは「はっ!」と思い出す。
「ま、待ってよぉ~大ちゃ~ん! あたいも大ちゃんにイタズラしちゃうんだから~!!」
意味を理解しているのか、理解してないのか。どちらなのかは分からないが、とにかく大妖精にイタズラをするために、チルノは赤い顔をしながら大妖精を追いかけて行った。
結論・・・チルノだってちゃんと恥ずかしがるが、なんで恥ずかしいのか理解してないと思う。