妖怪の山の頂に位置する守矢神社にて。
その日もまた、風祝の少女――東風谷早苗は面白く無さそうな表情を浮かべながら、境内の掃除に精を出していた。
人間の里の近くに出来た空飛ぶ寺のせいもあってか、近頃は参拝者も減るばかり。
神々への信仰が失われた外の世界から、わざわざ信仰を求めて幻想郷へやって来たと言うのに、これでは商売敵のせいで神社が潰されてしまいかねないではないか。
早苗の胸中は荒むばかりである。
「あー……憂鬱です。ほんっとーに、面白くない」
そんなこんなで、早苗が不景気そうな表情で境内の掃除をやっていた、その時。
「おーいっ! さーなえっ!」
空から、ふわりと風に舞いながら、一人の少女が舞い降りたのだ。
若干癖が付いた薄緑の髪はセミロング。左右非対称で紅と蒼のオッドアイ。手に持つのは、紫色の珍妙な柄をした唐傘。
人懐っこそうな笑顔を浮かべた唐傘の付喪神・多々良小傘。
そのスカートの腰元には、何やら見慣れない道具を携えていた。
ぱっと見る限りでは、武士が小太刀を袴に差しているのと同じ様に見えるかもしれない。
「……ああ。付喪神ですか。どうもこんにちわ。人間を驚かして悪さをするつもりなら、調伏しますのでそのおつもりで」
「う、うぐっ……出会い頭にいきなり宣戦布告とは、何ともばいおれんすな……」
「バイオレンス上等。幻想郷の巫女は、基本的に対妖怪ではモヒカンモードですし」
「わ、わちきは汚物じゃないもんっ! 立派な付喪神だもんっ!」
何時もの如く軽口を叩き合う二人。
微笑ましいのやら、食う側と食われる側なのやら。何にせよ二人はそれなりに楽しそうである。
「……で、本日は何の御用でしょうか?」
挨拶もそこそこに、早苗は小傘に問う。その視線は、小傘のスカート腰部分に差された筒らしき道具へと向けられていた。
「うむっ! 実は、面白い道具を道具屋でゲットしたのだっ!」
「その筒っぽい物ですか?」
「にひひっ、その通り! 実はこれは致死性の毒矢を仕込んだ吹き矢で――」
刹那。早苗の手の中には、何時の間にやらお祓い棒が握られていた。しかも霊力が充填されているのか、淡く緑色の輝きを放っている状態で。
ヤバイ。冗談は通じない。小傘の額をタラリと冷や汗が伝う。
「……ってのはジョーダン! だからその物騒なのを仕舞ってお願いっ!」
涙目で訴える小傘は、さながら蛇に睨まれる蛙の如し。
当然、蛇は早苗の側。気のせいか、早苗の髪飾りの蛇がニヤリと笑った様な気もした。
「……はい、本題」
「は、はひっ! えっと、これは店主さん曰く"誰かを元気付けたい時に使う道具"なんだって」
大慌てになりながら、小傘は腰に差していた一本の棒を差し出す。
細長い円錐形。ラッパから、曲がりくねった部分や指で操作をする部分を丸ごと取り除き、全体をシャープにした様な形をしている。
色は浅黒く、質感からして素材は動物の角と思われる。
早苗にそって、その道具は初対面の存在だった。
「ふーん。そんな道具があったんですか」
「それでね、今日はこの道具で早苗を元気にしてあげようと思ったの」
「……へ? 私を?」
「そうだよ。早苗を」
「どうして? 何故に、私なんですか?」
ポカンとした表情で、早苗が問う。
面白い道具を手に入れたからそれの自慢をされるのかと思いきや、それで自分を元気付けてくれると言っているのだ。
意表を突かれたせいだろうか。早苗の頭の上には大きなハテナマークが浮かんでしまう。
「……んー……何となく? 最近、早苗が妙に不機嫌そうだったから、ちょっと気分が沈んでいるのかなぁって思っていたし」
「それだけの理由で、ですか?」
「それだけの理由があれば、わちきは早苗に元気になって欲しいって思うのだ」
にぱり、と満面の笑顔で小傘は微笑んでいた。
えへへ、驚いただろう? その笑顔には、早苗の意表を突けた事への喜びも含まれていたのかもしれない。
「あー……うん。分かりました。小傘ちゃんがそこまで心配してくれていたなら、特別にそのご好意を受け取りましょう」
ぽりぽりと、若干恥ずかしそうに頬を指先で掻きながら早苗も返答をする。
少しだけ赤らんだ頬は、小傘の好意に照れているせいだろうか。
(ああもう……この娘は、どうしてこうも純粋で真っ直ぐで……私に対して懐いているんでしょうか…………そんなに悪い気はしないから、嬉しいですけどね)
ついつい、早苗の口元には胸中の感情が漏れてしまう。
元気付けとやらが終わったら、お礼の言葉と一緒にお茶とお菓子でも出してあげようかなぁ――そんな事も、ふと考えてしまう。
「よしっ! それでは、わちきによる早苗の応援の始まりなのだ!」
対する小傘は、早苗の期待に応じるべく手に入れた道具を手に構えていた。
期待に添えられる様に、頑張って早苗を元気付けよう。頭の中はそれ一色だ。
すぅ、と一度大きな深呼吸をする事で肺の中に空気を充填。店主が言うにはこの道具は肺活量が命だと言う。妖怪の山の空気を一杯に吸い込んで、準備は完了だ。
そして、小傘は細長い吹き口に唇を添えると、早苗への思いを込めながら全力でその道具――ブブゼラを吹き鳴らした。
ボェェェェェェェェェェェエエェエェェェェェェエエェエェェェエェェェエェェエェェエェェェェエエェエェェェェェエエエェェェェェエェェエェェェェエエ
「あ、ちょ、ちょっt――」
ヴェェェエェェェェエェェェェェェエエェエェェェエェェェエェェエェェエェェェェエエェエェェェェェエエエェェェェエェェェエェェエェェエェェェェエエェエェェェェェエエエェェェ
「いや、あの、小傘ちゃん! これ滅茶苦茶うるさくて――」
ブォォォオオォォオォォオォォオォォオォォオォォオォォオォォオォォオォォオォォオォォオォォオォォオォォオォォオォォォオォォオォォオォォオォ
「――喧しいわ――――ッ!!」
んぶわぁあああぁぁぁぁああぶわああぁぁああああぶぅぅぅゎぁあああベシリぶぶぶぶっ――!!
「あいたーっ!?」
小傘の脳天に叩きつけられたお祓い棒は、全開の霊力を込められたせいか、太陽の如き輝きを放っていたそうな。
あと日本頑張れ!
小傘が可愛い、後ブブゼラwww
幻想郷少女たちのちゅっちゅでみんな幸せですね。
世界じゃそれをちゅっちゅと呼ぶんだぜ。
ちゅっちゅのお陰で日本頑張ってます。さあ、もっとちゅっちゅして応援するんだ!
ちゅっちゅ!
それは素晴らしい。ちゅっちゅ。