我らが騒霊楽団の中で一番目立っているのは、自分で言うのも何だけど私だ。
躁の音、軽快で陽気なトランペット。姉さんのバイオリンとリリカのキーボードをバックに、一番派手にメロディを吹き鳴らす盛り上げ役。
だけど、鬱の音の姉さんと、幻想の音のリリカ。三人揃って騒霊楽団なのだ。
もちろんソロで活動することもあるけれど、やっぱり私たちは三人そろってひとつ。
私の音と姉さんの音、そして間を埋めるリリカの音。重ね合わせた三つの音が奏でる旋律こそが、本当の私たちの音なのだと、私は思う。
とはいえ、そういうのはあくまで私たちの認識。
では、私たちの演奏を好んで聴いてくれる人たちはどうかといえば。
一番目立っているのは私。それは誰に訊いても同じ答え。
――じゃあ、一番目立たないのは誰?
これもたぶん、不届きなことに、みんな同じ答えを帰してくる。
リリカが一番目立たない、と。
いや、もちろんそれは、リリカがそうであることを望んでいるからではある。
リリカは自分が表に出ることを好まない。それは控えめな性格だから――というわけではなく、単になるべく楽をしたいだけなのだけれども。
それに加えて、リリカの幻想の音というのは少し特殊だ。
元気になりたい人は私の音を好むし、落ち着きたい人は姉さんの音を好む。
けれど幻想の音は、躁の音や鬱の音のように、精神に直接働きかけることはない。
それは現実には存在しない音。止まった振り子のような、色のない中間の音色。
もちろん、リリカの音が間に挟まるから、真逆と私と姉さんの音が喧嘩しなくて済むのだ。
でも普通の聴衆は、仕方ないけれどそんなところまで解ってはくれない。
結果、どうなるかといえば。
私の個人的なファンと、姉さんのそれと、リリカのそれと。
コンサートの客席でその数を見比べてみれば、一目瞭然。
明からにリリカが一番少ないのである。
――これは全く、けしからぬ事態と言わざるを得ない。
リリカは地味だと言う。目立たないと言う。――不人気だとまで言う者までいる。
問いたい。小一時間問い詰めたい。どこに目をつけているのかと。
リリカの可愛さを、愛らしさを、その魅力を解らない者が幻想郷には多すぎる。
嘆かわしい、実に嘆かわしいと言わざるを得ない。
まずそのキーボードにも隠れがちな小柄な体躯。それだけでぎゅっと抱きしめたいほどに愛らしい。細い手足は華奢で繊細で、すらりとした清廉な少女性を内包していると言える。
ボブカットにした柔らかな栗色の髪は、いつもふわりとして乱れることがない。手で触れてみるとまるで毛糸玉でも触っているかのような感触で、いつまでも撫でていたいと思ってしまう。
身体の華奢さに比して少しふっくらした顔立ちは、そのアンバランスさがまた絶妙なハーモニーを奏でている。あのほっぺたに触れてみるがいい。もちもちとした赤ん坊のままのような肌触りに、手を離せなくなること請け合いである。髪と同じ薄い栗色の瞳はつぶらで、覗きこむと吸い込まれてしまいそうだ。色の薄い唇も、飾り気のないその顔立ちのバランスを引き立てている。
そんな飾らない顔立ちと体躯を包む、赤い衣装というこれまた絶妙の配色。例えば私や姉さんが赤を着たらどうだろう。私ならけばけばしすぎるだろうし、姉さんなら服の色だけが浮きすぎてしまうに違いない。
けれどそんな赤が、リリカにはとてもよく似合う。それはきっとリリカのあどけなさが故なのだろう。赤は子供のような無邪気な明るさを放つ色。リリカの華奢で小柄な体躯と、その顔に浮かぶ明るい笑みは、そんな赤によってひときわ引き立つのだ。
リリカ・プリズムリバーという存在の造形は、その全てが絶妙のバランスで組み立てられた完璧なものと言わざるを得ないことがこれでご理解いただけたかと思う。解らないなんて言う輩には今すぐヒノファンタズムだ。
しかし、その造形が完璧すぎるが故に埋没してしまうのかもしれない。全てが絶妙であるが故に、とんがったところが無い(ついでに身体の凹凸も無い)リリカの美しさ愛らしさは、そうと解っている人にしか気付けないのかもしれない。とかく人はとんがったところに目がいきがちだから。たとえば胸部とか。
――それに、とさらに人は付け加える。
リリカはなんだか性格が悪そうだ、などと。
全くもって不届きな発言である。けしからぬ。ゴーストクリフォードぶつけんぞコラ。
確かにリリカは、姉さんのように生真面目で誠実なタイプではない。どちらかといえば世渡り上手で計算高いタイプだ。それは認めよう。実際、リリカは常に自分の利を最優先に行動する。相手のことや場の状況を三手先まで読んだ上で。
それをずる賢い、性格が悪い、と評すのなら――嘆かわしいと言う他ない。
なんと表面的にしかリリカという存在を見ていないのか。呆れるしかあるまい。
計算高い、狡猾なリリカ。それは一面の真実であるが、あくまで一面でしかない。
その裏には、本当に女の子らしい素直で純情な顔が隠されているのだ。
――え? その面について語らないのかって?
どうしてそんなことを誰かに語らなければいけないのか。
リリカは可愛い。純情で照れ屋でテンパりやすいリリカは本当に愛おしい。
そんなリリカを知っているのは、自分だけで充分だ。
そう、誰にも渡すものか。姉さんにだって渡しはしない。
照れて真っ赤になるあの顔も、テンパって目を白黒させる顔も、躊躇いがちに目を閉じてキスを待つときのあの顔も、敏感なところに触れたときの羞恥の顔も、感情が高ぶり潤んだ瞳でこちらを見つめるときの切なげなあの顔も。
全部、私だけのものなのだから。
リリカ・プリズムリバーは世界で一番可愛い女の子。
これは全世界に遍く知れ渡るべき普遍的絶対的真理にして真実。
皆、もっとリリカを愛でよ、祭れ、讃え崇めひれ伏し敬慕を尽くせよ。
――でも、リリカは私のものだから、誰にもあげない。
以上、メルラン・プリズムリバーによるリリカ・プリズムリバーの魅力についての第一講をここに終える。引き続き第二講に――ああ、いや、その前に。
リリカが上目遣いでこっちを見つめてくるので、ちょっと押し倒してくる。
それじゃ、また次回。
(稗田出版社『幻想音楽 12月号』連載コラム「メルラン・プリズムリバーの今日もハッピー♪」より)
だがリリカはかわいい。異論があろうはずがない。
ガチど忘れしたっ;
>>2の方のコメントでやっと思い出せた。
まあ、可愛いから仕方ないけど。
だが、しかし!!俺は姉萌え属性なのだ~~。
ルナ姉が世界一ィイイイイ!