研究中の参考文献を借りようと私はアリスの家に行った。
そうしたら、アリスは私の下着を頭にかぶっていた。
「おい、それは私のだぞ」
「あら、いいじゃない。たまにはこういうのも悪くないものよ」
そういうものだろうか。
魔法使いとしての経歴はあちらのほうが長い。彼女の言葉をそう簡単に否定するのも躊躇われた。もし在り来たりに「お前、変態だったんだな」などと口にしようものなら、嘆息と嘲笑と共に「あら、貴女にはこの魔法的効果が解らないの? これだから田舎魔法使いは、おほほほほ」などと辛辣な言葉が返ってくるだろう。
忘れてはならない。アリスは魔法使い界最高レベルの都会派なのだ。モダンなのだ。理知的で論理的なのだ。そんな彼女が意味もなく私の下着を頭にかぶるわけがない。
やはり、何らかの意味があるのだろう。私には解らないが、きっとそうなのだろう。
「まあ、そうかもな。そういうのも、時々なら好いものなのかもしれないな。私は専門じゃないから好く解らないけれど」
「専門も専門じゃないもないわよ。パチュリーだってたまにやっているわ。もちろん、貴女の下着でね」
「そうか、私の下着を使用して行うことに意味があるのか。深いぜ。やっぱり、種族的に魔法使いの奴らは私とは違うな」
「そう? 極めて一般的なことだと思うけれど」
アリスはそう言っている途中で、上海が紅茶を運んできた。並列思考。人形を操ると言うことは、自らが人形になると言うことでもある。一挙手一投足にわたる全ての動作をリアルタイムで演算しなくてはならない。それを同時に何体も平気な顔で操作できるアリスは、やはり偉大な魔女の一人だった。
紅茶でよかったわよね――そう呟きながら、アリスは柔和な笑みを浮かべた。
私は、上海から紅茶を受け取ると、一息に飲み干す。魔法的な効果が含まれているのだろう。何となく生臭い変な匂いがした。
「お前には一般的でも、私には違うんだ。正直に言うと、どういう原理すらも理解できない」
「あらあら。そう難しいことでもないでしょうに。まあ、私も元人間の時はこんなこと考えもつかなかったから、そういうものなのかもしれないわね」
「人間ではやっぱり難しいのか?」
「ええ、誇りだとか自尊心だとか、そんなくだらないものが邪魔をするもの。己の欲望に正直になりきれない。逆を言うと、己の欲望に忠実になった瞬間に、その人間は人でありながら人を止めるのよ」
「誇りは、捨てられない。私は人間だ」
「でしょうね。だから、魔理沙は魔理沙なのよ。とても素晴らしいことだと思うわ。口惜しいくらいに」
一瞬、悲しげに目を伏せるアリス。だが、私はそれにあえて気がつかないふりをした。
「まあ、この話しはこれくらいにしようぜ。ほら、お前も紅茶を飲めよ。一口も口をつけてないじゃないか」
「ええ、そうね。私も飲むことにしましょう」
私の言葉を受けて、アリスは上海から紅茶を受け取り、あくまでも優雅にそれに口をつけた。むろん、音をたてるようなはしたない真似はしない。目元を少し落とし、匂いを楽しむようにして息を吸い、ゆっくりと口をつけて一口。完璧だった。
その光景に、思わず心が奪われた。綺麗だ。純粋に、そう感じる。
「そんなに見つめられると少し照れてしまうわ。情熱的なのね」
くすくす、とアリスは笑う。
私は慌ててそっぽを向いた。なんだか、とても気恥ずかしい。
「あ、ああ、いや、別に、お前を見ていたわけじゃないんだぜ? この紅茶、少しばかり変な匂いがするから何を材料に使っているのかなと思ったんだ」
「ああ、そう。そうね。確かに、少しばかり香りが強すぎたからしら? 貴女がトイレで捨てた生理用品を少し煮詰めすぎたのかもしれないわね」
「おい、今なんて言ったんだ?」
「え? ごく当たり障りのない普通のことを言っただけよ、私は。なんだかおかしな魔理沙。何度も言うようだけれど、幻想郷が誇る賢者の一人、パチュリーだってやっているごくごく当然のことなのに」
「……そうだな。ああ、そうだな。確かに、私は少しばかり聞き間違いをしたようだ。なんだか酷く私の乙女を傷つけられて、修復不能にされるような言葉を聞いた気がするんだが、なに、お前がそこまで言うんだ。きっと私の勘違いに違いないぜ」
「ふふ、おかしな魔理沙」
アリスは微笑みながら、再び、愛おしげに紅茶に口をつけた。
恍惚に身を任せているような、だらしのない表情を一瞬浮かべたような気がしたのは気のせいだろう。先ほども聞き間違いをしてしまったし、私はきっと研究に煮詰まっていて少しばかり疲れているに違いない。
「それで、魔理沙。今日は何しに来たのかしら? いえ、別に用がなければ来てはいけないというわけではないけれど、貴女は人間であり魔法使い。用事がないなんてことはない。違うかしら?」
「言い回しが回りくどいぜ。何を言いたいのかさっぱりだ」
「生き急いでる貴女を私はとても心配しているということよ」
「種族魔法使いには解らない悩みだろうな。実は研究に煮詰まってしまって、参考になりそうな資料を借りていこうと思ったんだ」
「返却はいつかしら?」
おどけたように、笑いながらアリスは尋ねた。
だから、私も道化のように両手を広げていつもの言葉を口にした。
「私が死んだら、さ」
アリスはおかしそうに、くすくすと笑った。
口煩くてすみません、キャラ崩壊タグをつけといた方がいいかと
そそわでやるなよ・・・
久々に原点を見た気がする
たまにはいいんじゃないかな!
自由に書いてくれ!
同じ印象を受けたよ。もうダメかもしれんね…