Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

お菓子と悪戯と意地悪なハロウィンを

2010/11/02 15:19:12
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 お菓子の匂いが染み付いた、元が無臭の幽霊船長である私は、お菓子の袋をサンタさんみたいに担ぎながらお菓子を配っていた。

 今日だけほんのり明るい里を走って、子供達にたくさんのお菓子を配り、常に悪戯の脅威にさらされる。
 それが私、村紗水蜜のお仕事だった。

 袋の中には、色とりどりの飴やら焼き菓子がたくさん。マシュマロにチョコにスイートポテトと、とにかくむんむんとする甘い香りを纏っていれば、可愛いく仮装した子供達が「おいしそうな匂い~」と、元気に駆けて来る。

「お姉ちゃん! とりっくおあとりーと、だよ。船長のお姉ちゃん!」
「あはは、これは可愛い猫娘さんですね」
「えへへ~」
「さあお菓子をどうぞ。悪戯は怖いですからね。仲良くわけて下さい」
「うん!」

 ちょこんとした猫耳の気ぐるみが愛らしい少女達。どうやら姉妹らしい白猫の仮装の少女と、その少女の後ろに隠れている黒猫の仮装の少女。
 手を差し出す白猫さんの方に二人分のお菓子を渡してあげると、白猫さんは嬉しそうにぱっと満面の笑顔で受けとった。

「はい!」
「……!」

 お姉ちゃんの白猫さんが、おずおずしている妹の黒猫さんにすぐにお菓子を渡すと、嬉しそうに、黒猫さんはお姉ちゃんに微笑み、そのまま白猫さんと一緒に手を繋いで駆けて行く。

「ばいばい」

 そんな微笑ましい黒白猫さん達を手を振って見送った私は、可愛いなぁとほわほわしながら帽子を被り直す。

 そんな、ハロウィンの夜。
 
 今日という夜を、子供達のイベントとして盛り上げようと、里と命連寺が協力して開催した小さなお祭り。

 笑いながら夜の里を駆ける子供たちには、森の魔女が用意した衣装を貸し与え、淡い色合いを持つ魔よけの明かりを持たせる。そして決して里の外には出てはいけないと言い含め、念の為に慧音さんと妹紅さん。そして雲山が里の周りを警護する。
 そんな密やかに頑張る大人たちの姿を知らない子供たちは、様々なお菓子をこの機会にたっぷり貰おうと元気に走り回り、普段は寝ている時刻に起きていて良いという興奮も相まって、お菓子を貰える指定ポイントをせっせとわいわい回っている。
 今日ばかりは、睡眠不足の人が大勢でそうではあるが、今日だけなので我慢して欲しいものだと、密かに思う私であった。

 そして、その指定ポイントの一つには勿論命連寺があり、むしろそこがメインともいえるたくさんのお菓子で溢れていた。
 現在、命連寺に残った聖と星は、命連寺に来た子供達にお菓子を配る担当で、ナズーリンはその道筋の警護と見張りを、使役している鼠と一緒に行っていた。

 そして残った私と一輪は、子供達にサプライズでお菓子を配るいわば、大人役である。

 私と一輪はとにかく里を徘徊し、お決まりの台詞と一緒に小さなおててを差し出す子供達に「はい」と笑顔でお菓子を配り、子供達に一つでも多くの戦利品を与えるという大切な仕事をこなしていた。

 今回唯一、まったく仕事をしていないぬえは、予想を違えないというか。
 年齢はともかく身体は大人とも呼べない悪戯好きの悪ガキなので、聖が「楽しんでらっしゃい」と快く許可をだして、今頃は狼男の仮装で嬉々として幻想郷中を飛び回っている筈だ。

 多分、紅魔館や地霊殿の妹さん達と一緒に、お菓子を食べてご満悦なのだろうなぁと、簡単に予想がつくあたりがぬえである。


「ん?」


 不意にチリッとした、気配?
 暖かい空気の中に、ひんやりとした空気が混じっていた程度のそれに、いぶかしげに後ろを振り返る。
 いくら考え事をしていたとはいえそこは幽霊。そういったものには敏感なのだけれど、振り返った先には夜の闇がぼうっと広がるだけで、特に何も無かった。

「?」

 気のせいか、それとも気の張りすぎただったのか、それとも私に感知されないだけの何かがそこにいるのか。
 そんな事を一瞬考えて。今夜はハロウィンの夜だと、苦笑して思い直す。

 何かが紛れ込んでいても不思議は無い、今宵だけは受け入れる。子供たちのお祭り。


「楽しんでいってね」


 虚空に向けて笑顔を浮かべ、袋から多めにお菓子を取り出てでっぱった石の上に乗せる。
 気のせいだと恥ずかしいけれど、それならそれで良い。私は帽子を胸に深く礼をして、もしかしたらいるかもしれない、見えない子供たちへとお菓子を渡した。

 
 月が、暗雲に隠れながらぼんやりと光っていた。










 ◇ ◇ ◇










「Trick or Treat」

 綺麗な発音が聞こえて、ざくりと足を止める。
 そろそろお菓子の補充が必要だろうかと命連寺に戻ろうとした道すがら、目の前に少女が二人、無邪気に笑いながら立っていた。

「え?」

 もう里の外れで、明かりすら届かぬ暗闇である。一応の警戒として足を伸ばした場所で子供に出会った事に驚いたけれど、それ以上に、目を向けたそこに居たとしか思えない登場に目を見張った。

「………あー」

 でも、まあ、ハロウィンだし。そういうのもあるか。
 苦笑して、袋の中からお菓子を取り出そうとしたら、少女の一人が、綺麗な金色の髪を揺らしながらにぱりと笑う。

「いらないわ、もう貰ったもの」
「うん、今のはお約束の挨拶をしただけだものね」

 隣の青みを帯びた白髪? の少女も無邪気に笑う。
 差し出したお菓子に目もくれない少女達の台詞に、どういう意味かと首を傾げて立ち尽くすと、少女達はくすくすと笑いながら近づいて、じいっと見上げてくる。

「ふーん、まあ、いいんじゃない?」
「そうだね、いいかもね」
「ま、お姉様ほどじゃあないけど」
「あー、私のお姉ちゃんの方が素敵よ!」
「? あの」

 何やらぺたぺた触れられて、今までに無い反応にひたすら困る。「あ、やっぱり冷たい」「そう、これぐらいが良いと思うけど」「フランは体温低いからね~」「だってぇ、あんまりぽかぽかしている奴にくっついたらすぐに熱くなるんだもん」とか、私を挟んで言葉の応酬。
 害は無さそうだけれど、私にも仕事があるし。少女達は多分妖怪なので身の安全は大丈夫だろうし、と。私は頬を掻いてしゃがみこむ。
 少女達を逆に見上げる様にして、にこりとお得意の船長スマイル。

「それで、二人のレディは私に何の御用ですか?」
「あら」
「まあ」

 二人の少女の目がくりっと丸くなり、嬉しそうに楽しそうに笑う。
 金色の少女がそっとスカートの裾を持ち上げて、丁寧に挨拶。白色の少女は唇を両手で押さえてくすくすと笑ったかと思えば、ちゅ、と私の頬にキスをしてきた。

「ふぇ?!」

 流石に驚くが、二人の少女は機嫌良く見詰め合っている。

「礼儀正しいじゃない、気に入ったわ♪」
「私も私も! うふふ、お嬢様扱いされたのなんて初めてよ」
「えー、こいしも大きい家に住んでるじゃん」
「私の家の住人は全部お姉ちゃんのペットだもの。私は二の次よ」
「嘘だー」
「本当よー」

 な、何だこの子たち?
 私はひたすら置いてけぼりでぽつんと控えたままである。

「あ、あの」
「ねえ船長さん」
「ねえ幽霊さん」

 くるりと二人は同時に私の顔を見下ろすと、にっこりと八重歯が見える程に笑う。

「お菓子は貰ってしまったけれど、悪戯はさせてね?」
「大丈夫よ、ちょーっとだけだから」
「今夜だけ、ね? いいでしょう?」
「狂気と無意識を、少しいじるだけ」
「痛くなんてないわ」
「だ・か・ら、私達の大切なお友達をたあっぷりと」
「あまぁく」
「やさぁしく」

『ちゃあんと』

 二人の少女の顔が近づいてきて、目を白黒させる。
 今更、悪寒というか、彼女達が危険な存在なのだと気づかされて、身体が勝手に戦闘体勢に入ってしまう。

「大丈夫」
「落ち着いてよ」
「逃げないでね?」
「逃がさないよ?」

 ぎゅっと、挟まれる様に腕を押さえられて、二人の甘い呼気を感じるぐらい接近される。
 ごくりと、緊張で唾を飲んだ。


「いいじゃない、船長でも」
「いいよね、幽霊でも」
「死んでても」
「生きていても」
「私達の友達が」
「泣く理由にはならないもの、ね?」


 そんな事を言って、二人の手がゆっくりと私の視界を塞いだ。
 暗闇に陥って、ようやく抵抗を思い出したのだけれど。

「……っ」

 不意に、暗闇に浮かんだ一人の少女の姿に。意地っ張りな友人の姿が、思い浮かんで。
 二人の正体に。今更思い当たって。
 そうしたら、これからどうなるかも分からないというのに、そんな気は萎んでいって。

 何だか、困ってしまって。

 小さく溜息をついて、静かに。

 二人の少女の小さな頭を、さらりと撫でた。









 ◇ ◇ ◇










 ハッと目を覚ますと、道端に大の字で眠っていた。
 腹筋の力だけでがばりと起き上がり、きょろきょろと辺りを見回すが、特に変わりはなく、夢だったのだろうかと思う程に私の身体に特に変化はなかった。

「……まさか、ねぇ」

 もしかして、いやでも。
 と考えながらも、仰ぐように天を見ると、月の位置が明らかに最後に見た時と違っていた。

「……げっ」

 遅れて慌てる。
 これは、明らかに寝すぎである。慌てて身を起こして走り出す。ざくざくざくと足音を荒立てて里を走るが、ほのかに明るかった里はすでに暗く、寝静まっている。
 もしや寝過ごしまくった?!
 と慌てて命連寺まで飛んで帰ると、玄関先に一輪とナズーリンが真剣な顔で話し合っていた。

「ッ、ムラサ」
「船長」

 飛び出す様に走ってくる一輪を受け止めて、ナズーリンに「ハロウィンは?!」と尋ねる。ナズーリンは「とっくに終わっているよ」とそっけなく答えて、腕の中で「……はー」と大きく息を吐く一輪を見る。
 心配させて、何をやっているんだと叱咤された気がして、うぐ、と声を呑む。

「もう、いつまでも帰ってこないから、心配したじゃない」
「といっても、予定より半刻過ぎただけだけれどね」
「ナ、ナズーリン! それでも心配なのよ! それで、一体何があったのムラサ?」
「ぁ……えっと」

 説明に困って、夢か現かすら曖昧な二人の少女の説明を上手くできる自信もなくて、私は一輪の体温を感じ入りながら言葉を濁す。
 ぴくりと、一輪の目元が反応して、ちらりとナズーリンと目配せ。

「……?」
「ムラサ、駄目じゃない」
「え?」
「仕事中に眠っちゃうなんて子供じゃないんだから、どうして我慢できなかったのよ? 今度はちゃんとお昼寝しておくのよ」
「…へ?」

 一輪に鼻をぎゅっと押されて怒られた。
 だが寝てしまったのは事実なのでけっこう動揺していたら、ナズーリンが埃を取るように指先で草の葉を摘み取る。

「まったく。地面の上で寝るほどに睡眠不足だったとは。船長の仕事がそこまで重労働だったなんて初耳だよ」
「うぐ?!」
「……と、いう事にしておいてあげよう」
「ええ、ありがとうナズーリン」
「え? えぇ?!」

 ぐりぐりと額を抉るように拳で捻られ、一輪の胸で頬を潰されながらナズーリンを見るが、ナズーリンは既に背中を見せて門を潜っていってしまう。
 一輪を見上げると、彼女は私の服の汚れとかを綺麗に払い落としながら「もう」と苦笑。

「……何があったのか知らないけど、あんまり心配かけないで。寿命が縮むわ」
「一輪?」
「言えないんでしょう?」
「……」

 こつんと、額と額をあわせて、一輪が微笑む。
 でも、その笑顔は少し無理をしていて、本当に心配をかけていたのだと、今更焦げ付きそうな程に後悔して、一輪をそっと抱き寄せた。

「ごめんね」
「いいわよ、もう」
「ん、ごめん」
「いいってば」

 ここぞとばかりに胸に顔を埋めてぐりぐりすると「こら」とぺちぺち叩かれた。
 柔らかくて癖になる一輪の感触に、ほわんとしそうになるのを堪えて、私はぽんっと一輪の背中を叩く。

「今度から、門限を越えない様に気をつけるからさ」
「……うん」
「迷惑かけて、本当にごめん」
「……いいって言ってるのに」
「ん~、いいなら、一輪はどうして私を離してくれないのかな?」

 悪戯っぽく笑うと、一輪はムッとした顔でふいっと目を逸らしてしまう。けれど、両の手が私の背中から離れる事は無かった。

 本当に心配させちゃったんだなぁ。って、申し訳なくも少しだけ嬉しくて。

 一輪の気がすむまで、このままで居ようと彼女の胸にまた顔を埋めた。
 今度は、一輪も何も言わずに、私の頭を撫で続けた。








 それから。
 私は一輪にこざっぱりと洗われて、お菓子の匂いを石鹸の香りで覆いながら、濡れた髪をぐしぐしと拭いていた。
 聖と星は、ナズーリンから聞いていたのか、少し困った顔で注意をしてくれて、それだけだった。
 星には「一輪が凄く慌てふためいていました」ってこっそり教えて貰って、やっぱり心配かけすぎたかと再度反省。でもナズーリンが「何、聖がこれでもかと慰めるよ」と真理を呟き、星と一瞬目を合わせて、声を殺して爆笑した。
 今頃は、一輪はそそくさと聖の部屋に行って、甘えている頃合なのだろうなぁと微笑を噛み殺す。
 そんな事を考えていたら、くあぁ、と欠伸が出てきた。

 さ、寝るかな。

 自室の戸を開けるのを面倒がって、髪を拭いたまま壁抜け。
 少し苦手だけれど、こういう時には幽霊って便利だなぁと。私はとんっと室内に入る。

 瞬間。

 殺意満点に此方を睨みつける友人が足を組んで狙いを定めていた。


「…………………」


 よっし予想外!
 眠気とか一瞬で吹き飛んだ。
 弓と矢で此方を射る気満々の狼仮装のぬえを前に、私は即座にタオルを投げ出して万歳していた。
 降伏ポーズである。

「ど、どど、どーしたのぬえ?!」
「うるさいよ死ねよ」
「声がどす黒いよぬえさん?!」

 封獣ぬえ。正体不明の彼女は、今日も今日とて正体不明に此方の命を狙っていた。
 ひぃー?! と悲鳴を上げるが、ぬえはお構い無しである。
 マジな顔でぎりぎりと歯軋りしている。

「あんた、さ。何なの?」
「何が?!」
「……帰っきたら、まだ帰っていなくて? 本当に遅くて? ようやく帰ってきたと思ったら? 玄関前で熱い抱擁? でかい胸に鼻の下を伸ばして? 舐めてんの?」
「怖い! 本っ気で怖いから!」

 身に覚えがありすぎるので何ともいえないが、少なくとも鼻の下を伸ばした覚えはない! と反論する程空気が読めない訳でもない。
 ぬえが、目の前の彼女が本気で私に腹を立てているという事が、嫌でも伝わってくる。
 さあどうやって乗り切るかで、明日の私の運命が変わってくる、と、言い訳が頭の中に浮かんで。

 ―――と。

 脳裏に、閃光の様に唐突に浮かぶ。二人の少女の姿。
 
 え? と思う間もなく、ブルッ! と、身体が震えて、くらりと膝を突いて背後の戸にガンッと頭をぶつけてしまう。
 急に、足腰に力が入らなくなっていた。

「! ムラサ」
「……あれ?」

 くらくらと眩暈。
 おかしいなと額を押さえて、戸惑った顔のぬえを見る。
 別に、いつもと変わらない光景、の筈だ。
 おかしくなんてない。

 私が、何かをして、ぬえが殺意を向けて攻撃してきて、結局はなぁなぁで仲直りするという、いつもと変わらない日常の一ページ、の筈だ。今日はいつもより危険だけれども。
 変わらない、のに。

 なのに。ざわざわと胸騒ぎがする。

 チカチカと視界がぶれて、慌てて頭を振った。
 込み上げる訳の分からない衝動を押し殺す。

「……ちょっと、どうしたのよ?」
「っ、……う、ん。なんか、頭が痛い、かも」
「え…っ?」

 ぬえが慌てて、投げ捨てられたタオルを拾って、私の濡れたままの髪を拭いていく。
 優しくはないけれど、どこか必死な動きだった。

「ば、馬鹿じゃないの! っていうか、幽霊の癖に体調不良とか、濡れたり乾いたり、っていうか触れるとか、中途半端なのよムラサは!」
「……ん」

 いや、その問題はもう半妖半霊って事でいいんじゃないのかな? っていう命連寺家族会議で結論が出たから。
 便利なのだし、気にしなくても良いのよ。そう言って、聖と一輪が頭を撫でてくれたからーって、その時にぬえは遊びに行っていたか。

 ツキツキと、こめかみが痛む。

「……ムラサ?」

 声を落として、覗き込むぬえを見ていると、ツキツキが大きくなる。
 もしも、私の心臓が稼動していたのならば、もっと自分の感情が分かるだろうにと、伸ばしかけた指が止まる。
 暖かそうなほっぺだなとか、タオル越しにも伝わる体温に、奥歯を噛む。

 そんな私を、ぬえが敏感に察したのか。
 私の手を見て、すぐに先程まで少しは心配してくれていたのに、また燃える様な苛立ち混じりの顔で「ちょっと…ッ!」と睨む。


「何、我慢してるのよ」
「え……?」

 ツキン、と。

「い、今、私にしようとした事を、どうして止めるのよ……! 一輪には、するでしょう?! あんなに簡単に、するじゃない!」

 荒げる声に、ハッとした時には湧き上がる恐怖で後ずさろうとしていた。
 予想外の言葉に、思考が停止した。

 えっ、嘘、
 まさか、だってぬえに、ばれてる、筈が……ッ

 潜在的な恐怖に、偶然だろうけれど触れられて、慌ててぬえから離れようと固まりかけた身体で壁抜けをしようとして、ぬえに押さえ込まれる。
 首に指を絡まれて、髪を引っ張られて、とても集中できない。

「…ッ」
「知ってるわよ! ムラサが、ムラサの事だもん!」
「いや、まっ、待って! ちょっと待って!?」

 知ってるって、何を?!
 私は、別に。そんな事は、なくて。

「な、ななな何赤くなってんのよ! ムラサの馬鹿! 阿呆! 変態!」
「あか、赤く?! 嘘、ええぇ?!」

 慌てて自分の頬に触るが、変わらず冷たいままでさっぱり分からない。動揺して更に壁を抜ける所ではなくなって、あわあわとずり下がり、いつの間にかぬえに馬乗りにされている。

「む、ムラサなんか、本当に馬鹿だっつの! 嫌い! 死ね! 変質者!」
「なぁ、な、なぅぐう?!」

 変な声しか出てこなくてぐるぐるする。
 頭痛すら忘れて、とんでもなく恥をさらしている気がして逃げ出したくて仕方がない。
 
「……ムラサ!」
「はい?!」

 押し倒されたままビシッと涙目で姿勢を正すと、ぬえがふんぞりかえって腕組みをして。
 目を伏せた。


「Trick or Treat」


 最近聞いたような、綺麗な発音。
 じん、とこめかみが鈍く痛んで、目を見張ると、ぬえが。
 顔を真っ赤にして、身じろぎしたと思えば、がばあっと、私の頭を挟む様に両手を床について、私に息がかかる程近くで、睨んでくる。

「…………はい?」

 情けなくも、それしか言えずに、しおしおと情けなく萎れる私を、ぬえは「悪戯、だから」って。
 すっと耳に歯を立てた。

「いたッ?!」

 ギリッと、思わずぬえのお腹をつかんで、引き剥がそうとする。
 それでも、ギリギリと歯軋りするみたいに、ぬえは歯をたてるのを止めずにぎりぎりぎりぎりぎりぎり。
 として、そして。


「――――好き」


 そし、て。
 
 
 一瞬で、私を沸騰させた。



「…………………はい?」



 情けない私は、そんな涙声の返事しか出せずに、あぅ? と犬みたいに彼女の様子を伺っていて。
 ぬえは、今度は唇で食む様に、ただ耳を食べていて。
 無言で、沈黙で、ただ暖かくて。
 カタカタと、指先が震える。
 
 泣きそう、になる。

「ぬ、ぬえ?」
「……」
「いた、ずらって、それ……?」
 
 何を口走っているのか、だけれど、震えながら涙目の船長なんか、格好良くなんて出来なくて。
 ぬえの歯が、次第に強く、噛みきりそうなぐらい力が篭っているのにも、対処できなくて。ぎゅっと目を瞑る。

「……何よ、それ」
「ぬ、ぬえ?」
「……ふざけんな」
「あの」
「……死んじゃえ」
「ご、めん」

 がじ、がじ、がじ。力の無い噛み具合に、自分が本当に情けなくて嫌で、唇が固まり、全身がぎくしゃくと自由にならない。

「……ぬえ」
「うるさい」
「……えと、返事」
「黙れ。しゃべるな」
「……でも」
「冗談よ。いた、悪戯よ! 騙されて、馬鹿じゃないの……! 私は、ムラサ嫌いだもん」

 言葉が、氷みたいに冷ややかに鋭く胸を抉り、私は開いた口を閉じてしまう。でも、ぐっとお腹に力を入れて、意を決してゆっくりと開けた。

「ぬえ」
「うっさい」
「私は」
「うるっさい!」
「ぬえの事」
「うるさいってば!」
「――――大好きだからッ!」

 なりふり構わずに叫んだ。


「ち、ちゃんと、好き、だから! わた、私は、ぬえが想うよりずっと、ぬえの事が好き、だから!」


 叫んで。
 脳裏をよぎるのは、あの少女達の。


 いいじゃない、船長でも
 いいよね、幽霊でも

 死んでても
 生きていても

 私達の友達が
 泣く理由にはならないもの


「……ッ」

 自分でも知らなかった、無意識の葛藤。
 押し込んでいた、死者が生者を求める狂気。

 ぬえは、性格が悪くて、意地悪ばかり言ってきて、よく分からない事で怒ってくるけど、地底で最初の友達で。

 とにかく乱暴で、酷い目にばかり合わされてきたけれど。
 だけど。
 彼女はすぐに笑う。
 泣いて、怒って、悩んで、慌てて、照れて、正体不明だけれど表情豊かで、分からないのに分かって。

 なんか。
 すごく。

 生きているって、感じなんだ。

 初めて知った、仲間達以外の誰かと仲良くなれる喜び。
 傷だらけにしかされないけれど、ぬえはいつも、気づいたら傍にいてくれて。

 落ち込んだら、無理やりにでも私を怒らせたりして、拳を振り回して、泣くなッ! って、叫んでくれて。
 
 いい。
 もういい。

 私が、ぬえを密かにどう思っていたとか、ぬえがどうこうとか、今は関係ない。
 首を振る。唖然として口の端から、私の血を流すぬえを見上げて、両手を伸ばす。

 言葉は、今は飲み込んで。
 怖がっていた、躊躇していた、それをしよう。

 君の、体温を奪うのが怖かった。
 触れて、冷たいと、生気を吸われるのではと、思われるのが嫌だった。

 まるで死体に触るみたいだと、嫌悪されたらと。
 いつでもどこかで怖がって、触れなかったぬえを、私は思い切り。

 ――――抱き寄せて、抱きしめた。

 息が零れる。心が絞られる。馬鹿みたいに震えて、ぬえの感触がよく分からないぐらい頭の中は真っ白で、でも。

 泣くぐらいには、嬉しかった。









 ◇ ◇ ◇










 涙は止まらない。

 ハロウィンの夜は越えて、新しき月に入った深い夜。
 こんなにもいけない事になっているのは、私だけじゃないだろうかって、ぬえの涙を拭いながら思う。

「ふあ、ぁあ……うあぁぁあん……ぬぅえぇん……っ!」

 ……な、なんで、ぬえが泣くんだろう?
 あれ? と腑に落ちないものを感じながら、止まらない涙を拭っていく。

 私も泣いていたけれど、全てを流しきる前に驚きで止まってしまった。ぬえは、顔を真っ赤にしてぐしゅぐしゅとしていて、私としては泣く理由がさっぱりで。ひたすら困る。

「……ぬえ?」

 というか、その。
 もじもじと、ぬえの泣き顔を見ながら顔を伏せて、小さくあぅと呻いた。

 ……ぞくぞくするんですけど。ぬえの泣き顔見てると。

「…………」

 い、いや待て。待ってよ私。
 違うというか明らかにおかしいというか。

 ちゃんとぬえに、好きと伝えて、触れて、抱きしめて。そしたら泣かれてしまった現在。
 何で、密かに想いを寄せていたぬえが泣いているのに、どっかで喜んでるの?!

「むら、しゃなん、かぁ……っ! ばかぁ……!」
「っ」
「しね、ばか、きらい、きらいだ、もん……っ、ぐしゅ……っ!」

 う。
 また、ぞくっと来てしまった。
 そんな自分にサア、と青くなる。何だこれ? おかしいぞこれ? 自分の心境の変化というか心のあり方がぐちゃぐちゃで、不安しか起こらない。
 いや。だって―――


 今夜だけ、ね? いいでしょう?
 狂気と無意識を、少しいじるだけ


「……あ」

 ぴたりと、止まる。
 既に夢とはいえない、濃い記憶。
 
「…………」

 いや、まさか、うん。ないよねそれは。
 涙を拭う手の止まった私を、泣き濡れた顔で鼻をすすりながら見るぬえと、記憶の中の二つの声が、頭の中でぐるぐるし始める。

 な、ないって、それは。

 狂気と無意識。
 少しいじられた、私のそれが。

 ぬえの、泣き顔を。


「……ムラサ?」
「っ」
「なっ、なによ、急に、黙りこくって……っ、お、怒ったの……?」

 ぞくぞく、させる、なんて。
 

「……別に」


 つい素っ気無く返しながら、まさかまさかまさか、と。背中に嫌な汗をかく。
 船長なのに、紳士を目指しているのに、まさか、私って苛めっ子?!
 そんな恐るべき予感に眩暈がして、でも、今日のはいじられただけ、だから。本心ではないのだろう、なんて、情けない言い訳ばかりがぐちゃぐちゃと。
 私は。

「む、ムラサ」
「へ?」

 慌てた、どこか焦っているぬえの声に視線を戻すと、ぬえがどこか恐怖を交えた瞳で、私の服を掴んでいた。

「?!」

 今の自分にその顔はやばいと、一瞬突き放そうとするが、ぬえはぐっと身を寄せる。
 本人的には厳しい表情を作っているつもりなのだろうけれど、此方としては子犬が生え揃ってない牙を見せるぐらいの弱々しい顔だった。

「っ」
「な、なに、よ。怒ってるなら、怒ってるって、言えばいいじゃん……っ!」
「や、ちが」
「でも、でも私だけが悪いんじゃない、んだから。ムラサだって、悪いん、だから。だから……っ、だから!」

 キッと睨みながら、ぽろっと涙をこぼしてぬえが私の胸倉をつかんだ。


「す…好きって言ったの、訂正したら、殺すんだからッ!」


 ――――。


 あ、駄目だ。

 なんか、ぷつんときて、きゅん、ってした。


「…………」

 暗い愉悦、というか、過去の感情が湧きあがってきて、一度大きくブルッと震える。

「む、ムラサ? 何よ、なん、とか言いなさいよ……」
「うん」
「……?」
「どうしよっかなぁーって」

 もう、抑えられなかった。
 ぞくぞくとした、快楽に、私は知らず身を任せて、小首を傾げて微笑んで、いた。

 すぅ、と。
 なんだか、何かが軽くなって、楽になった。

 ぬえが、びくっと襟首から手を離して「ぁ」って顔を赤くして焦り始める。
 じわりと、また涙がこみあげて、今にも零れそうになる。

「……訂正、したらどうする?」
「ッ、や、ヤにきまってるじゃん! 馬鹿っ!」
「ばか?」
「…あ、ちが、くて。……うぅ」

 両手の指を絡めて、その上に顎を乗せてにこにこと微笑む。
 ぬえの顔が、赤くなったり青くなったり忙しい、可愛い、と。
 日の光の下、真っ青に光り輝く海が、夜の下、ただの闇しか映さない、のっぺりと無機質なものになる様に、本質は変わらないのに。
 私の中で、カチリとスイッチが入っていた。
 どこかで、水が零れる音がする。


「ね、ぬえ?」
「……何よッ!」
「ぬえってさ、本当に私の事を好きなの?」
「はぁ?!」
「やっぱり嫌い?」

 ずざざっと離れるぬえの動きが面白くて、ゆるく胡坐をかいて見つめる。
 ぬえの顔は、真っ赤に熟れていて、触れたらじゅうっと音をたててしまいそう。

「き、嫌いに決まってるじゃん! 馬鹿っ馬鹿っ! ムラサの馬鹿船長っ!」
「そっか、私も嫌いだよ」
「――――ぅ」

 ぴたりと止まる小さな唇を見て、かわいいなぁって。
 ぽたたっ、と服を濡らす涙が、いとしいなぁって。
 一瞬で絶望的に、そんな顔をしなくても良いのになぁって。

 気づけば、身体は動いていた。


「――――ん?!」


 その頬を逃げやすい様に挟んで、笑いながら震える唇を深く塞いだ。
 舌を伸ばして、恐ろしく熱い口内を貪る。
 後ろ髪と背中に、爪痕が深く残るぐらいには、濃厚に。

「ん……ふぅ」

 鼻にかかる声に、チリッ、と。
 どこかで、静止を促す声が聞こえたが気がして、ぴたりと、舌の動きを止めて、ゆっくりと離れる。
 深い口付けで息を乱すぬえを見ていると、どうして止めたのだろうと不思議で、でも可愛くて笑った。

「うそだよ」
「ぁ」
「ぬえの事、好きだよ。キスできるぐらい」
「……ッ!」

 慌てて両手で唇を押さえて、だけど拭ったり唾を吐いたりもせずに、ただ抑えたまま耳も首も赤くして、代わりに言葉を吐き捨てた。


「き、嫌い、嫌い死ね……ッ!」


 って。

 そういう台詞は、そんな顔で言うものではないよね、と。
 私は笑って、また、手を。



「はいストーップ」
「危なかったねぇ、ぬえ」
「……ふぎゅ」


 伸ばそう、として。
 意識がふにっと、どこか唐突に、でも優しく。ふわりと途切れていった。


「えっ?! なん、何であんた達がって、ムラサに何してんのよこらぁッ!」
「いやね、これ以上やるとぬえが殺されそうだったから」
「いやー、この幽霊さんが悪霊だって事忘れてたよ。失敗失敗」


 意識が落ちるまで、どこかで聞いた声が聞こえて。
 ぬえの悲鳴に、少しだけ心配になる。

 
「いいからどけえ! ああもう、ムラサ大丈夫?!」
「……わあ、けっこう命の危機だったのに、やっぱりぬえってば船長さん好きなんじゃん」
「素直になれないお年頃って奴ね」


 眠い。


「まあ、今回は私達にも責任あるからね」
「ちゃんと、戻しとくから」
「戻すって、まさか!? ちょっと、何してんのよあんた達! ど、どうりでムラサが意地悪で格好良かったと……ッ!」


 ちょっと、寒い。


「まあ、謝っとくべき場所があるとすれば、ねえ」
「うん。あのさぬえ」
「何よ?!」
「ちゃんと弄ったの直したけれどぉ」
「この幽霊さん、元々そういう素質あったみたいだから」
「は?」
「明日から、ほどほどに苛められちゃうかもね~」
「そんで、調教されちゃったりするかもね~」
「ちょぅ?! って、あんたらマジで何してんのよ私のムラサにッ!」


 でも、なんか。あったかい。
 すぅ、と。
 お布団の中で丸くなっているみたいな、穏やかな心持ちで、私は眠りに付いた。

 声にならない声で、おやすみと言った気がする。
 すると、
 三つの声が返ってきた、
 そんな不思議な夢を、一瞬だけ見た。










 ◇ ◇ ◇










 水音がする夢。
 波が寄せては引く海の夢。

 久しぶりに見る夢は、だけれどどこか清々しい、夜の光景ではなく。
 明け方の、目に痛いぐらいの光に溢れた。

 始まりの朝の夢。







 ぱちり、と。
 夢見のおかげか、すっきりとした気持ちで目が覚めた。

「ムラサ!」
「起きた!」

 そして、起きたら一輪とぬえが泣きそうな顔で私を見ていて。
 へ?
 と目を丸くした。

 流石に状況が追いつかなくて、さっきまで海にいたのに、今は二人の顔と天井が見えて、ちぐはぐする。
 そうやって、身体を起こそうとしたら、途端に飛びつかれてつぶされかけた。

「ぐッ?!」
「……よ、良かった目を覚ましたのね!」
「いち、りん?」
「ばば、馬鹿この馬鹿! 丸一日も寝てるっていうか、何で目を覚まさないのよ! もうちょっとであいつら殺しに行くとこだったわよ!」
「ぬえ?」

 驚いて、寝ぼけも吹き飛んだ。
 慌てて二人に圧し掛かられたまま身体を起こして抱きしめながらあやすと。騒ぎを聞きつけた聖たちが駆け込んでくる。

「目が覚めたのね、ムラサ」
「ひ、聖、あの」
「まったく、人騒がせだな君は」
「ナズーリン?」
「……ムラサ、貴方は異常に力を失いながら、丸一日眠りつづけていたのですよ?」
「星? いや、ええ?」

 確認を求める様に一輪を見ると、一輪は子供みたいに泣きそうになりながらこくこくと頷いた。
 そうすると横合いから手が伸びて「一輪」と優しく呼ぶ声。一輪は泣き顔のままその手を取って立ち上がり、聖の腕の中に入っていく。
 その、流れる様な動作を見送りながら、首をぎゅうぎゅうに絞めるぬえの背をぽんぽんと叩く。

 ……。

 状況説明は、充分ではないけれど自分の状態は分かった。
 流石に皆には言えないけれど。彼女達に自分の中の何かをいじられて、それで体調を崩したってところだろう。
 そのせいで、意地っ張りのぬえが皆の前で抱きつくぐらい心配させてしまったのかと思うと、可哀想な事をしてしまったと心苦しくて、ぞくっとした。

「……ん?」

 ふと。何かが違う気がしたけれど、気のせいだろうと頭を振る。

 聖と一輪は、私の無事を喜んで笑って話している。一輪の涙を人差し指で拭い取る聖はいつも通りに美人だし。星とナズーリンも私がこうなった原因を真剣に話し合って、星が変な事を言ってナズーリンに睨まれていた。
 いつもどおり。
 だから、どこもおかしくない。

 あぁ、そうだ……


「ぬえ、ぬえってば」
「な、何よ。も、本気で、も」
「ごめんってば、もう心配かけないから」
「ほ、本当ね! 本当だかんね! 嘘付いたら殺す!」
「もう死んでるってば。えっとね」

 笑って、泣くぬえにぞくぞくしながら、その頭を撫でて、私に不安そうな意地っ張りな瞳を見せる。
 
「実はさ」
「なに?」
「まだ、言ってなかったから」
「?」


「Trick or Treat」


 はっきりと。

 驚くぬえの顔と、皆の顔が見えるけれど。私は気にせずに「ねえ」とぬえに笑う。


「もうハロウィンは終わっちゃったけれど、悪戯してもいいかな?」


 もう狼の仮装は脱いでしまったぬえを見て。残念だけれど思っていたことがある。


「ぬえってさ、首輪が似合うと思うんだ。だから、させてよ。首輪」


 うっとりと、首輪をするぬえを思い描いて、言葉を紡ぎながら首筋を撫でると、ぬえは一瞬で真っ赤になって。
 皆が様々な顔で驚きを表して。一気に騒がしくなった。


「わっ、私のムラサがあ! 何かすごい事を言ってます姐さん?!」
「落ち着くのよ一輪。そして貴方は私の一輪ですからね?」
「なず、ナズーリン?! ムラサが、あのムラサが凄い台詞を」
「落ち着きたまえご主人。いいか、船長だって年頃なんだ、だから、あんなエロい顔であんな凄い台詞ぐらい、簡単に、簡単に……ッ。即座に原因を解明してご主人にもあんな凄い台詞を言って貰うべきだ私が!」

 周りがいつもよりうるさないなと、ぬえの首のサイズを測っていく。
 うん、細くて白くて、壊れやすくて、いいなと思う。


「ね、いいでしょうぬえ?」
「――――」

 声の無いぬえを見て。
 どうしたのかなと顔を寄せると、ぬえがぱくぱくと口をあけたり閉じたり、金魚みたいにして。
 すぐに、ふいっと顔を背ける。
 真っ赤に熟れた、その色で。


「知るか。ばか。しね。ばか。……勝手にしろ!」
「うん」


 じゃあ、勝手にするよって、笑った。
 嬉しいなってその首を見つめて、ぬえを抱きしめて、白くて美味しそうな首筋に口付けると、ぬえと皆の悲鳴が木霊して。

 私はつい、あははははは、って、本当に愉快で久しぶりに、腹の底から笑ってしまった。

 窓から差し込む光を感じて。今日は良い天気になりそうだねと、大好きなぬえに、囁く様に耳を食みながら言った。











 
 
 
 船長さんがこれから毎日狼さんなムラぬえ。
 
 ちなみに、雲山は一輪さんが呼べば即座に現れますが、それまでは女性だけの命連寺に無闇に入らない紳士なイメージ。

 大遅刻でこれです。ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございます!
 
 
 
 
 ※ 修正しました。4の方どうもありがとうございます!
 
夏星
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
俺のニヤニヤがマッハでヤバい。甘すぎて頬がおちまひた(^p^)
2.tukai削除
ドSキャプテン? いいですとも!
EX妹ズGJ

さりげなく色々ダメなひじりんとかなずりんに和みました。
3.桜田ぴよこ削除
ムラサはイケメンでいぢめっこでかわいい彼女がいてほんともうずるいなぁちくしょい!
安心と信頼の糖度でした!
4.名前が無い程度の能力削除
ひとが見てる前で「首輪させて」てなんちゅー悪霊だと思ったら
作者名見て納得した

さて首輪プレイの続きはどこですか?


×不眠症
○睡眠不足
5.名無し削除
素晴らしい
6.名前が無い程度の能力削除
俺の中のムラサのキャラはあなたが作り出している!
7.奇声を発する程度の能力削除
首輪プレイを詳しk(ry
8.再開発削除
首輪、いいですよね。
9.名前が無い程度の能力削除
糖分過剰で死にそうです。にやにやが止まりません!

あと、ぬえに首輪は正義だと思います!
10.名前が無い程度の能力削除
読み進めていってふとスクロールバー見たら長さに驚いた。

後半、もしかしたらR指定入っちゃうんじゃないかとドキドキしてしまったよ。
いやというかコレその後は結構イロイロと危険なことになってるんじゃなかろうか?
だがまあアリだな。

ぶっちゃけ船長がSっ気があるというよりも、ぬえちゃんは首輪プレイでも悦ぶMなんじゃないかと想像してしまった。
11.名前が無い程度の能力削除
船長覚醒☆こいつぁやべえぞ
12.名前が無い程度の能力削除
Sなキャプテン凄ぇ!!
13.名前が無い程度の能力削除
素晴らしいお話だったw
ところで続編はどこですか?
14.名前が無い程度の能力削除
なんという綱渡り……、いつskmdyになってしまうのかとハラハラしましたよ!
15.名前が無い程度の能力削除
あんまるすぁ過ぎるでしょコレ、これからこの寺どうなっちゃうのよー!
16.名前が無い程度の能力削除
聖がどさくさにまぎれて凄いこといったような。あれ、何かの話見逃したっけ。
17.名前が無い程度の能力削除
ぬえ可愛いーーーーーー!

本編もすごい素晴しかったですが
最後の雲山の説明にうんざんかっけぇ!と思ってしまった・・・w
18.幻蒼削除
なんだこの船長やばい
19.名前が無い程度の能力削除
作者クリック余裕でした(^q^)
そろそろ糖尿病になれそうですWWムラぬえワッショイ!!
20.名前が無い程度の能力削除
せ、船長……!
でもぬえちょっと嬉しそう?
ボクらのアンデッド・サディスティック・クリーチャーの、誕生だ!
21.名前が無い程度の能力削除
ようやっと進展したか……と村鵺に妙な安堵感を覚えたのも束の間、聖→一輪という新たな不安定材料がががw

で、今更だけど狂気を操るのってフランじゃなくて鈴仙じゃね?と突っ込み
理性のTAGAをぶち壊すってことならフランでもあながち間違いじゃあないんだが
そこんとこ、どーなんだ?
22.名前が無い程度の能力削除
この寺にい!まともな奴はあ!居らんのかあ!
最後の大騒ぎを見た限りだと星ちゃんくらいしかいなさそうで困る。
さて続きはどこにうpしてあるのでしょうか?