彼女の訪問はいつも突然だ。
「大きな帽子を被ったネズミが何の用かしら?」
「おいおい、酷い言われようだな」
「持って行った本をちゃんと返してくれるというのなら、立派な客人として迎えてあげ
るわよ」
「だったらほら、今日の私は客人だぜ」
「持って行った内の一冊だけじゃない……まあいいいわ。そこに座りなさい」
「お、じゃあ遠慮無く。よう、小悪魔」
「……また来たんですか?」
「また来たぜ」
若干の呆れの混じった私の声に、魔理沙は歯を見せるように笑って答えた。
そんなこの人の表情に、この気持ちを押し込めるように私は胸元をギュッと握り締め
た。
私は、魔理沙のことが好きだ。
私がこの気持ちに気が付いたのは、つい先日のこと。とても小さなきっかけだ。
パチュリー様に紅茶を運ぶついでに魔理沙に紅茶を出した時、彼女はありがとな、と
言って私に笑顔を向けた。
それだけのことだ。私自身、笑ってしまうくらい、他人から見れば本当に取るに足ら
ない小さなことだ。
けれどそれ以降、私は彼女の屈託無く、無邪気に笑うその笑顔をもっと見てみたいと
思うようになった。
これまで何度もこの気持ちを伝えようとした。けれど、結局その勇気が持てず、今日
までそれを魔理沙に伝えられずにいた。
嫌われてしまうことの恐怖から、後一歩が踏み出すことが出来なかった。
「小悪魔?どうかしたのか?」
気が付くと、私の目の前に魔理沙の顔があった。
「ひゃわ!」
驚いて私はほとんど仰け反る様にして魔理沙から顔を遠ざける。
「どうしたの、こぁ?」
「な、何でもありませんよ。大丈夫です」
パチュリー様も心配そうな顔で私を見ていた。
そんなパチュリー様に私は笑って答える。
「すぐに紅茶をお持ちしますね」
そう言うと、私は不思議そうに私を見る二対の視線から逃れるようにその場を後にし
た。
「……はぁ」
紅茶のための湯を沸かしながら、私は小さく溜息をつく。
「小悪魔、いるかしら?」
コンコンという扉のノックの音の後、静かな声が掛かった。
「咲夜さん?」
「入っても良いかしら?」
「あ、はい、どうぞ」
私の返事に扉が開き、メイド長が姿を見せる。
「珍しいですね、咲夜さんがこんなところまで来るなんて」
「お嬢様の使いで借りていた本をパチュリー様に返しにきたのよ。それより大丈夫なの
、小悪魔?」
「何がですか?」
「小悪魔の様子が変だって、パチュリー様が心配なさっていたわよ。何か悩みでもある
んじゃないかって」
「そんな、大丈夫ですよ」
「そうかしら?私にはとてもそうは見えないけれど」
明るく振舞おうとする私の眼を覗き込むように、咲夜さんは私を見る。
空を切り取ったかのような青い瞳がジッと私を見つめる。
その瞳を見ながら、あぁ、本当にこの人には敵わないなと、私は思う。
私がパチュリー様の使い魔となる以前からこの人は人間でありながら、この悪魔の住
む紅魔館でメイドを勤めている。なぜ咲夜さんがこの紅魔館で働くことになったのか、
詳しいことは知らない。けれどこの紅魔館で勤める者として、後輩にあたる私のことを
咲夜さんはよく気にかけ、私の相談相手になってくれることも多かった。
「……わかりました。話します」
少しだけ悩んだ末、結局私は昨夜さんに相談してみることにした。
私に咲夜さんはしっかりと頷いてみせる。
それを確認してから、私はこの胸に抱いている魔理沙に対する感情を素直に咲夜さん
に話した。
「そう、それで悩んでいたの……」
全てを聞き終えて、少し驚いたような表情をして、咲夜さんは呟くように一言そう言
った。
それから考えるように、顎に手を添える。
「……そのこと、パチュリー様には話していないの?」
「はい……咲夜さんが初めてです」
「それは光栄ね。……そうか、でなければパチュリー様があんなに心配するはずが無い
ものね」
パチュリー様に心配を掛けてしまっていることに、私は申し訳なさを感じる。
「でも、まさかあなたが魔理沙に好意を寄せていたなんてね」
他人の口から改めて言われると、どうにも恥ずかしくなってしまう。
「それに、あなたのその気持ちは私も良く知っているわ」
「咲夜さん?」
小さく呟く咲夜さんに私は首を傾げる。
「まあ、あなたの話も聞いたのだし……これは秘密よ」
「は、はい」
「私、美鈴と付き合ってるの」
「……は?」
直ぐにはその意味が理解できずに、私はしばらく呆然としてしまう。
「だ、だから、美鈴と今恋愛中なの!」
そう言いながら咲夜さんは頬を赤く染める。
咲夜さんのこういう表情を見るのって珍しいですね。
「いや、そんな言い直さないで良いですから」
咲夜さんと美鈴さんの仲の良さは知っていたけれど、まさか付き合っているとは思わ
なかった。
「でも、おめでとうございます!」
思わず頭を下げる。
「あ、ありがとう」
それに咲夜さんは照れくさそうに笑って、けれど幸せそうな表情を浮かべた。
その表情を見るだけで、咲夜さんが美鈴さんをどれだけ大切に想っているかが解って
しまう。
「でも、どうして急に私にそのことを?」
「私も誰かに恋する気持ちを知っているから、かつての私と同じ悩みで悩んでいるあな
たには言っておこうかと思ってね」
咲夜さんは私に柔らかく微笑んでみせた。
その笑みをとても綺麗だと感じた。
「だから、私はあなたを気持ちを応援するわよ」
「あ、ありがとうございます」
私は顔を真っ赤にしながら咲夜さんに頭を下げる。
と、そこで紅茶の為の湯を作るために火を付けていた事を思い出し、慌ててそちらに
目を向ける。だが、ポットに触れてみるが、「あれ、熱くない?」話込み長時間火にか
けっ放しにしていたはずのポットは、しかし火にかけ始めたばかりのようにまったく熱
を感じなかった。不思議に思って火を確認すると、火は付いているがそのまま凍り付い
たかのように停止していた。
「火の心配なら平気よ。私たち以外の時間を全て止めておいたから」
とんでもないことをなんでもないことのように話す咲夜さん。
ほんとに反則的な能力ですね。
「私は先に行くわね。あなたは後でゆっくり来なさい」
「はい」
じゃあね、と手を振ると咲夜さんは部屋を出て行った。
それを確認してから、私は改めてパチュリー様と魔理沙の紅茶の用意を始めた。
紅茶の用意をしてパチュリー様の元に戻るとパチュリー様が私に気がついたように視
線を向けた。
「あらこぁ、早かったわね。もういいの?」
「はい、心配お掛けしました」
「それは何よりだわ」
返ってきたのは素っ気無い返事。
それからパチュリー様は意地の悪い笑みを私に向ける。
「それと、咲夜から全て聞いたわ」
その一言で理解した私は勢いよく咲夜さんを見た。しかし、その動きに合わせるよう
に咲夜さんは明後日の方向を向く。
喋りましたね咲夜さん。
「なんだ、私は何も聞いてないぜ。何の話だ?」
横から魔理沙が興味津々といった顔で私達を見る。
「秘密です」
「えー」
不満そうな顔をする魔理沙。
「なー、教えてくれよ小悪魔」
それでもなお魔理沙はしつこく私に聞いてくる。
「だ、ダメです!ひゃわ!そんなところ触らないで!」
「ほらほら、教えないともっと触っちゃうぞー。あ、こら逃げるな!」
「逃げますよ!」
何とか魔理沙の魔の手から逃れた私は、広大な図書館をグルグルと逃げ回る。そんな
私を、笑いながらでワキワキと手を動かしながら魔理沙が追いかけてくる。
「フフ……赤くなっちゃって。可愛いわね、小悪魔」
「あまり埃を巻き上げないでよ、こぁ」
「そもそもお二人が原因ですよ!?」
この状況を作った元凶二人は既に傍観者に徹していた。
「ではパチュリー様。私はそろそろ戻ることにいたします」
「ええ、分かったわ。ご苦労様、咲夜」
失礼します、と咲夜さんはパチュリー様に一礼すると次の瞬間には文字通りその場か
ら姿を消していた。
結局その後、私はおよそ1時間に亘って魔理沙から逃げ続けることとなった。
「お、もうこんな時間か。今日はそろそろ失礼するぜ。また次来た時にでも今日の話は
聞かせてもらうからな」
私を散々追い掛け回した後、魔理沙は自らの時計を確認してそう告げた。
「そう……こぁ、魔理沙を図書館の先まで送ってあげて頂戴」
「え、だけどパチュリー様、魔理沙は別に私が送る必要は」
私の言葉を遮り、パチュリー様は私の耳に口を寄せる。
「いいから、行ってきなさい。……あなたの悩んでいる姿をいつまでも見ているのは嫌
なんだから」
「パチュリー様……」
小さく微笑むとパチュリー様は私の背中をそっと押す。
私は一歩足を踏み出す。
目に前には魔理沙がいる。
「魔理沙、図書館の前まで送ります」
「お、そうか?悪いな、小悪魔」
少しだけ振り返ると、私にパチュリー様は小さく手を振っていた。
それを目にして、私は覚悟を決めた。
魔理沙と二人きり、静かな図書館を出口に向かい歩く。
「ねえ、魔理沙」
「ん、何だ小悪魔?」
図書館の大扉の前まで魔理沙を送り、私は扉の前で魔理沙に話掛けた。
私の方へと魔理沙が顔を向ける。
緊張のあまり心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。
自分を落ち着かせる為に大きく息を吸い、吐き出す。
「どうしたんだ?」
首を傾げる魔理沙に向き直る。
「ちょっと、聞いて欲しいことがあるの」
まっすぐ魔理沙の眼を見つめる。
私の顔に何かを感じたのか、魔理沙の表情が引き締まる。
私は、ゆっくりと口を開いた。
「……魔理沙は、私が魔理沙のことを好きって言ったらどうする?」
「……む」
「どうしたの、お姉様?」
レミリアの対面に座り、紅茶を飲んでいたフランが首を傾げる。
「今、また一つ運命が結びついたようね」
「ふーん」
レミリアは小さく笑う。興味無さそうにフランが答える。
「お姉様が何かしたんじゃないの?」
「まさか。私は身内の運命まで操るようなそんな真似はしないわ。それに、誰かの恋路
はただ眺めているだけでも十分面白いもの」
「ふーん」
「今後、あの子達がどんな運命を私に見せてくれるのか楽しみね」
レミリアは優雅に笑い、ティーカップを持ち上げると、それに口付けた。
「お姉様……紅茶、零してるよ」
「大きな帽子を被ったネズミが何の用かしら?」
「おいおい、酷い言われようだな」
「持って行った本をちゃんと返してくれるというのなら、立派な客人として迎えてあげ
るわよ」
「だったらほら、今日の私は客人だぜ」
「持って行った内の一冊だけじゃない……まあいいいわ。そこに座りなさい」
「お、じゃあ遠慮無く。よう、小悪魔」
「……また来たんですか?」
「また来たぜ」
若干の呆れの混じった私の声に、魔理沙は歯を見せるように笑って答えた。
そんなこの人の表情に、この気持ちを押し込めるように私は胸元をギュッと握り締め
た。
私は、魔理沙のことが好きだ。
私がこの気持ちに気が付いたのは、つい先日のこと。とても小さなきっかけだ。
パチュリー様に紅茶を運ぶついでに魔理沙に紅茶を出した時、彼女はありがとな、と
言って私に笑顔を向けた。
それだけのことだ。私自身、笑ってしまうくらい、他人から見れば本当に取るに足ら
ない小さなことだ。
けれどそれ以降、私は彼女の屈託無く、無邪気に笑うその笑顔をもっと見てみたいと
思うようになった。
これまで何度もこの気持ちを伝えようとした。けれど、結局その勇気が持てず、今日
までそれを魔理沙に伝えられずにいた。
嫌われてしまうことの恐怖から、後一歩が踏み出すことが出来なかった。
「小悪魔?どうかしたのか?」
気が付くと、私の目の前に魔理沙の顔があった。
「ひゃわ!」
驚いて私はほとんど仰け反る様にして魔理沙から顔を遠ざける。
「どうしたの、こぁ?」
「な、何でもありませんよ。大丈夫です」
パチュリー様も心配そうな顔で私を見ていた。
そんなパチュリー様に私は笑って答える。
「すぐに紅茶をお持ちしますね」
そう言うと、私は不思議そうに私を見る二対の視線から逃れるようにその場を後にし
た。
「……はぁ」
紅茶のための湯を沸かしながら、私は小さく溜息をつく。
「小悪魔、いるかしら?」
コンコンという扉のノックの音の後、静かな声が掛かった。
「咲夜さん?」
「入っても良いかしら?」
「あ、はい、どうぞ」
私の返事に扉が開き、メイド長が姿を見せる。
「珍しいですね、咲夜さんがこんなところまで来るなんて」
「お嬢様の使いで借りていた本をパチュリー様に返しにきたのよ。それより大丈夫なの
、小悪魔?」
「何がですか?」
「小悪魔の様子が変だって、パチュリー様が心配なさっていたわよ。何か悩みでもある
んじゃないかって」
「そんな、大丈夫ですよ」
「そうかしら?私にはとてもそうは見えないけれど」
明るく振舞おうとする私の眼を覗き込むように、咲夜さんは私を見る。
空を切り取ったかのような青い瞳がジッと私を見つめる。
その瞳を見ながら、あぁ、本当にこの人には敵わないなと、私は思う。
私がパチュリー様の使い魔となる以前からこの人は人間でありながら、この悪魔の住
む紅魔館でメイドを勤めている。なぜ咲夜さんがこの紅魔館で働くことになったのか、
詳しいことは知らない。けれどこの紅魔館で勤める者として、後輩にあたる私のことを
咲夜さんはよく気にかけ、私の相談相手になってくれることも多かった。
「……わかりました。話します」
少しだけ悩んだ末、結局私は昨夜さんに相談してみることにした。
私に咲夜さんはしっかりと頷いてみせる。
それを確認してから、私はこの胸に抱いている魔理沙に対する感情を素直に咲夜さん
に話した。
「そう、それで悩んでいたの……」
全てを聞き終えて、少し驚いたような表情をして、咲夜さんは呟くように一言そう言
った。
それから考えるように、顎に手を添える。
「……そのこと、パチュリー様には話していないの?」
「はい……咲夜さんが初めてです」
「それは光栄ね。……そうか、でなければパチュリー様があんなに心配するはずが無い
ものね」
パチュリー様に心配を掛けてしまっていることに、私は申し訳なさを感じる。
「でも、まさかあなたが魔理沙に好意を寄せていたなんてね」
他人の口から改めて言われると、どうにも恥ずかしくなってしまう。
「それに、あなたのその気持ちは私も良く知っているわ」
「咲夜さん?」
小さく呟く咲夜さんに私は首を傾げる。
「まあ、あなたの話も聞いたのだし……これは秘密よ」
「は、はい」
「私、美鈴と付き合ってるの」
「……は?」
直ぐにはその意味が理解できずに、私はしばらく呆然としてしまう。
「だ、だから、美鈴と今恋愛中なの!」
そう言いながら咲夜さんは頬を赤く染める。
咲夜さんのこういう表情を見るのって珍しいですね。
「いや、そんな言い直さないで良いですから」
咲夜さんと美鈴さんの仲の良さは知っていたけれど、まさか付き合っているとは思わ
なかった。
「でも、おめでとうございます!」
思わず頭を下げる。
「あ、ありがとう」
それに咲夜さんは照れくさそうに笑って、けれど幸せそうな表情を浮かべた。
その表情を見るだけで、咲夜さんが美鈴さんをどれだけ大切に想っているかが解って
しまう。
「でも、どうして急に私にそのことを?」
「私も誰かに恋する気持ちを知っているから、かつての私と同じ悩みで悩んでいるあな
たには言っておこうかと思ってね」
咲夜さんは私に柔らかく微笑んでみせた。
その笑みをとても綺麗だと感じた。
「だから、私はあなたを気持ちを応援するわよ」
「あ、ありがとうございます」
私は顔を真っ赤にしながら咲夜さんに頭を下げる。
と、そこで紅茶の為の湯を作るために火を付けていた事を思い出し、慌ててそちらに
目を向ける。だが、ポットに触れてみるが、「あれ、熱くない?」話込み長時間火にか
けっ放しにしていたはずのポットは、しかし火にかけ始めたばかりのようにまったく熱
を感じなかった。不思議に思って火を確認すると、火は付いているがそのまま凍り付い
たかのように停止していた。
「火の心配なら平気よ。私たち以外の時間を全て止めておいたから」
とんでもないことをなんでもないことのように話す咲夜さん。
ほんとに反則的な能力ですね。
「私は先に行くわね。あなたは後でゆっくり来なさい」
「はい」
じゃあね、と手を振ると咲夜さんは部屋を出て行った。
それを確認してから、私は改めてパチュリー様と魔理沙の紅茶の用意を始めた。
紅茶の用意をしてパチュリー様の元に戻るとパチュリー様が私に気がついたように視
線を向けた。
「あらこぁ、早かったわね。もういいの?」
「はい、心配お掛けしました」
「それは何よりだわ」
返ってきたのは素っ気無い返事。
それからパチュリー様は意地の悪い笑みを私に向ける。
「それと、咲夜から全て聞いたわ」
その一言で理解した私は勢いよく咲夜さんを見た。しかし、その動きに合わせるよう
に咲夜さんは明後日の方向を向く。
喋りましたね咲夜さん。
「なんだ、私は何も聞いてないぜ。何の話だ?」
横から魔理沙が興味津々といった顔で私達を見る。
「秘密です」
「えー」
不満そうな顔をする魔理沙。
「なー、教えてくれよ小悪魔」
それでもなお魔理沙はしつこく私に聞いてくる。
「だ、ダメです!ひゃわ!そんなところ触らないで!」
「ほらほら、教えないともっと触っちゃうぞー。あ、こら逃げるな!」
「逃げますよ!」
何とか魔理沙の魔の手から逃れた私は、広大な図書館をグルグルと逃げ回る。そんな
私を、笑いながらでワキワキと手を動かしながら魔理沙が追いかけてくる。
「フフ……赤くなっちゃって。可愛いわね、小悪魔」
「あまり埃を巻き上げないでよ、こぁ」
「そもそもお二人が原因ですよ!?」
この状況を作った元凶二人は既に傍観者に徹していた。
「ではパチュリー様。私はそろそろ戻ることにいたします」
「ええ、分かったわ。ご苦労様、咲夜」
失礼します、と咲夜さんはパチュリー様に一礼すると次の瞬間には文字通りその場か
ら姿を消していた。
結局その後、私はおよそ1時間に亘って魔理沙から逃げ続けることとなった。
「お、もうこんな時間か。今日はそろそろ失礼するぜ。また次来た時にでも今日の話は
聞かせてもらうからな」
私を散々追い掛け回した後、魔理沙は自らの時計を確認してそう告げた。
「そう……こぁ、魔理沙を図書館の先まで送ってあげて頂戴」
「え、だけどパチュリー様、魔理沙は別に私が送る必要は」
私の言葉を遮り、パチュリー様は私の耳に口を寄せる。
「いいから、行ってきなさい。……あなたの悩んでいる姿をいつまでも見ているのは嫌
なんだから」
「パチュリー様……」
小さく微笑むとパチュリー様は私の背中をそっと押す。
私は一歩足を踏み出す。
目に前には魔理沙がいる。
「魔理沙、図書館の前まで送ります」
「お、そうか?悪いな、小悪魔」
少しだけ振り返ると、私にパチュリー様は小さく手を振っていた。
それを目にして、私は覚悟を決めた。
魔理沙と二人きり、静かな図書館を出口に向かい歩く。
「ねえ、魔理沙」
「ん、何だ小悪魔?」
図書館の大扉の前まで魔理沙を送り、私は扉の前で魔理沙に話掛けた。
私の方へと魔理沙が顔を向ける。
緊張のあまり心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。
自分を落ち着かせる為に大きく息を吸い、吐き出す。
「どうしたんだ?」
首を傾げる魔理沙に向き直る。
「ちょっと、聞いて欲しいことがあるの」
まっすぐ魔理沙の眼を見つめる。
私の顔に何かを感じたのか、魔理沙の表情が引き締まる。
私は、ゆっくりと口を開いた。
「……魔理沙は、私が魔理沙のことを好きって言ったらどうする?」
「……む」
「どうしたの、お姉様?」
レミリアの対面に座り、紅茶を飲んでいたフランが首を傾げる。
「今、また一つ運命が結びついたようね」
「ふーん」
レミリアは小さく笑う。興味無さそうにフランが答える。
「お姉様が何かしたんじゃないの?」
「まさか。私は身内の運命まで操るようなそんな真似はしないわ。それに、誰かの恋路
はただ眺めているだけでも十分面白いもの」
「ふーん」
「今後、あの子達がどんな運命を私に見せてくれるのか楽しみね」
レミリアは優雅に笑い、ティーカップを持ち上げると、それに口付けた。
「お姉様……紅茶、零してるよ」