「ふぁ…今日も平和ね…」
地底に住む妖怪、水橋パルスィは欠伸をしつつも、自らの仕事を全うしていた。
たまに橋を渡る者もいるが、特に悪い奴でもないのが大半なので、まさに平和であり、
言葉を変えれば暇そのものであった。
「…ん?」
入り口の方から何かが聞こえた。
耳を澄ますと、悲鳴の様なものだ。しかも人間の。
その悲鳴は、段々はっきりと聞こえるようになり、何が来てるのかも遠目だが見て取れた。
どうやら、人…らしきものが転がって来ているようだった。
そして何を思ったのか、転がって来た奴は橋の前で止まろうとしブレーキをかけたが、
見事に勢いは止まらずに、パルスィの目の前までヘッドスライディングを決めた。
「………」
呆然。正にそういう状況であった。
いきなり人が転がって来たかと思えば、自らの目の前までヘッドスライディングを決めたのだ。
転がって来た人の容姿は、赤いロングの髪、黒いタイトスカート、頭と背中には蝙蝠の様な羽が付いていた。
背丈的にみても子供ではないだろうという事が見て取れた。
呆然としつつも、冷静にココまで分析できる私凄い、とかパルスィは思っていた。
しかし、呆然としたままでは仕方が無いのでとりあえず声はかける事にした。
「ね、ねぇ…アナタ、大丈夫?」
「………」
しかし、声をかけても返答はない。
コレってマズいのでは?そう考え始めた瞬間に
"ババッ"
なんて擬音がつきそうな位勢いよく顔を上げた。
顔立ちは整っており美人の部類には必ず入るだろうな、といった顔だった。
とりあえず生きているという事が確認できたのでホッとした…が
「あンの…!」
「…へ?」
「あンの紫もやしぃぃぃぃ!」
「…は?」
顔を上げた、までは良かったのだが、
その第一声は明らかな罵声だった。
「何なんですか!突然、『地底にある薬草を採ってきて』って!
紅魔館からどれだけ距離があると思ってるんですか!?
しかも道のりの削減とか言って最近終わった実験結果のモルモットにしてくれっちゃってるんですか!?
しかも、その実験の結果が何故に"人間大砲"なんですか!?
怖かったんですけど!?私じゃなかったら全身粉々でしたよ!?
でもそれを見越して、回復魔法をかけてくれたパチュリー様ありがとう!
でもできるならば、魔法をかけるくらいなら人間大砲なんて最初から使わないでほしかった!!」
「あ、あの…」
「第一パチュリー様は…!」
「いい加減黙れ」
「ごふっ!?」
パルスィは取り敢えず自身渾身のラリアットで黙らせた。
この橋はパルスィの仕事場、縄張りの様なもの。
如何なる理由があろうとも、橋の上もしくは橋の付近で騒いでる輩には容赦はしない。
例えそれが、いきなり目の前までスライディングしてきた女だとしてもだ。
「げほっ…げほっ…な、何するんですか!?怪我人かもしれないんですよ!?」
「悪いわね、ココは私の仕事場…ココでは私がルールよ」
「そんな理不尽な!?」
ギャーギャー喧しいので少し凄みをきかせたら簡単に怯えてしまった。
「はぁ…」
溜息を吐く程度だが、多少疲れた。
さっさとコイツと自己紹介でもしてしまおう。
名前が分からないのはもどかしいからである。
「ねぇアンタ、名前は?」
「ふぇ!?な、名前ですか?」
「…そうよ名前よ」
怯えきってしまっている…多少凄みをきかせすぎたか…
少しだけパルスィは反省した。
「え、と…私に名前は無いんですよ」
「へ…?」
「あ、いや別に変な意味じゃなくて…まだ弱い種なので…」
「あぁ…そういう事ね」
「そうです。私の種族名は"小悪魔"なのでそのまま小悪魔って呼ばれてます」
「水橋パルスィよ、よろしく小悪魔」
「はい!よろしくです!」
あれだけ騒いでいたからどんな輩かと思えば…
意外と常識を持っている奴であった。
パルスィとしてはホッとした。
さて、互いに自己紹介もし終わった…次は小悪魔の目的を探る事にした。
「小悪魔、アンタは何でこんな処に来たのかしら?」
「はい!実は地底にある薬草を採りに来たんですよ!」
「(さっきも言ってたわね…)薬草…?」
はて?この辺りに薬草なんぞあったか?
パルスィは長く地底には居たが、薬草なんて見た事もなかった。
少し考え込もうとした瞬間に
「あぁっ!?」
いきなり小悪魔が叫んだ。
「な、何?どうしたの?」
「あ、あれは…!」
どうやらこっちの声は届いてはいないようだった。
そして、叫びだした小悪魔は目を向けていた雑草が茂っている場所に一目散に向かって行った。
パルスィも少し遅れながらも小悪魔の後を追った。
向かった先で小悪魔は、何処から出したのか分からないような分厚い本と草を見比べ、
「コレです!この草がそうです!」
と言い放った。
パルスィとしては、信じられなかった。
橋から10メートルも離れていないような場所に薬草が生い茂っている。
しかし小悪魔がそうだと言っているのだからそうなのであろう。
パルスィはそう思うことにした。
「この薬草があれば地底特有の成分がとれてですね…」
「あぁ~いいわそういうの。聞いてると頭痛くなりそう…」
「そうですか…ショボーン…」
「口でショボーンとか言う奴初めて見たわ」
全くもって妙な奴だ、パルスィはそう思った。
むしろ妙じゃない奴しか居ないのが幻想郷であるのだが。
「では、薬草を持って帰るのを手伝って下さい!」
「何が、では、なのよ…それに何で私が…」
いきなり手伝えと言ってきた。
面倒な事になりそうなのを感じ取ったパルスィだが…
「一応、この辺りのは大方持って行くつもりですし。それに、そんな量私一人じゃ持ちきれませんね」
「だからって、何で私が?」
「地底に顔を知っている方なんて居ませんし、それに…」
「それに…?」
「パルスィさんとはお友達ですし、そんな友達に手伝ってもらうのが一番いいかなって!」
「今日は私は真面目に仕事をしていた誰とも会っていない誰も見ていない」
「うわ~ん!お願いです~!手伝って下さ~い!」
いきなり腰に抱きつかれてしまった。
「はぁ…」
静かに溜息を漏らした。
何故こんなにも自分には厄介事が回ってくるのだろうか…
あぁ…厄い厄い。
このままではコイツは諦めてはくれないだろう。
そう思ったパルスィは、仕方が無いと腹を括った。
「分かったわよ。手伝えばいいんでしょ…?」
「はい!ありがとうございます!」
一転していきなり笑顔になりやがった。
少なからずイラッとしたので、殴った。額を。
右手中指の第二関節少し尖らせた形でだ。
殴られた箇所を押さえて少し蹲っていたが、パルスィとしては気が晴れたので万々歳だった。
少女達採取中…
「この位採れればいいですかね」
「はぁ…疲れた…」
一時間程採取したので随分な量が採れた。
「さぁ、持って行くのも手伝ってもらいますよ!」
「はいはい…」
小悪魔が言うには、自分の主人や自分が住んでいるという"紅魔館"まで持って行くらしい。
地底から紅魔館までの方角は完璧に覚えているという。
パルスィは紅魔館を知らないので付いて行くしかなかった。
「さぁ!行きましょう!」
「はぁ…」
自然と溜息がこぼれた。
また厄介事に巻き込まれそうな気が、嫌な予感がしたからである。
杞憂で終わってほしい。
パルスィは切に願った。
少女達移動中…
「はい!着きました!」
「へぇ…ココが紅魔館…」
パルスィの目の前には紅の色を基調とした館、紅魔館があった。
「さて、美鈴さんに挨拶しないと」
「…?誰?」
「紅魔館の門番さんです!」
「門番…ねぇ…」
そう言うと小悪魔は門の隣で寝こけている女性に話しかけた。
「美鈴さん、小悪魔無事生還いたしまいた!」
「Zzz…」
「怪我もなく健康体そのものです!」
「Zzz…」
「あ、お客様も居ますけど…ってこの様子ならOKって事ですね?」
「Zzz…」
「はい!じゃあパルスィさん、着いて来て下さいね!」
「ちょっと待って」
「?何ですか?」
パルスィは突っ込まざるを得なかった。
「全く会話が成立してなかった様に見えたんだけど」
「えぇ、成立なんてしてませんよ?」
「なんで肯定すんのよ…」
「大丈夫ですよ、美鈴さんは悪人が館に入りそうになったら全力でその悪人を退治しますから!」
「そ、そうなの…」
パルスィは呆れた様子だった。
小悪魔が言った事がにわかにも信じがたい事だからである。
「ま、気にしない気にしない」
「はぁ…まぁ、気にしないように善処するわ…」
「ありがとうございます!私の主人が居るのは館の内部の図書室に居るのでそこまで行きましょう!」
「はいはい…分かったわよ」
取り敢えず、不思議な門番も居るものだ…という認識で留めておく事にした。
少女達館内移動中…
「はい!着きました!」
「何か既視感が…」
「どうかしました?」
「いえ、多分気のせいよ…」
「?まぁ、何はともあれココが図書室です!」
パルスィの目の前には自分の体長の三倍はゆうにありそうな扉があった。
「この扉どうやって開けるのよ…?」
疑問を呟いたが
「あ、この大きいのは見せかけです、本来のはこっちです」
そう言って小悪魔は、巨大な扉の一部分をノックした
すると、ちゃんとしたサイズの扉が現れた。
「どういう館なのよここ…」
「まぁ、私も含めて変わり者しか住んでませんから…」
苦笑気味に小悪魔が答えてくれた。
取り敢えず、図書室に入る事にした。
──図書室内部──
幾冊もしまわれている本棚が並んでいる。
正に、図書室の名の通りであった。
「これは凄いわね…」
パルスィは一人呟いた。
暫く歩くと、幅が大きい机で本を読んでいる少女を見つけた。
小悪魔がその少女に向けて
「パチュリー様~!」
と声をかけた。
成る程アレが小悪魔の主人か、と姿をよく見せてもらった。
背丈は私よりも少し小さい位、紫色の長い髪、そして月のアクセサリーをつけた帽子を被っている。
「ただいま帰還いたしました!」
「あら、おかえりなさい…どうだった?初めての大砲は?感想があれば聞かせて?」
「もう二度と使わないで下さい」
「そう、善処するわ…そっちのは?」
「あ、彼女には薬草の採取を手伝ってもらった…」
「水橋パルスィよ」
「水橋…パルスィ…あぁ、アナタが…」
何か納得した様子のパチュリー
パルスィは頭に疑問符を浮かべたような状態だった。
「小悪魔貴女、彼女が誰だか知っているの?」
「え?水橋p」
「そうじゃなくて、種族よ」
「種族…ですか?えぇっと…」
「橋姫よ」
「へ?橋姫ってあの…」
「そう、その橋姫が彼女よ」
「ええっ!?」
パルスィは多少ウンザリしていた。
また種族の事かと。正直、帰りたい気分で一杯になった。
「そうよ。私が橋姫だけど何か?」
いっそ嫌われて帰ろうかと考えて言葉を発したが
「別に何も?ただ、私は貴女を歓迎するわ」
返された言葉は予想外の物だった。
「は?歓迎って…」
「嫉妬という未知のエネルギー…」
「…へ?」
「今調べずとして何時調べるか!?」
「………」
"あぁ、コイツはただの研究熱心な馬鹿か…"
心の中でそんな事を思ったパルスィだった。
「小悪魔!」
「はい」
「彼女にお茶とお茶菓子を出してあげなさい!後私の分もね」
「承知しました」
私はここに留まるなんて一言も言っていないのに勝手に話が進んでいた。
あぁ、嫌な予感は的中したか…
ゲンナリするパルスィだった。
「あ、私の名前を言っていなかったわね。私は"パチュリー・ノーレッジ"魔法使いよ、よろしく」
「はぁ…よろしく」
「さぁ早速、嫉妬の事について色々と話してもらうわよ」
「言葉が拙いかもしれないけど…そこは勘弁してよ?」
「えぇ、分かったわ」
少女説明中…
「って感じかしらね」
「…成る程…つまりアレを応用すれば似たようなエネルギーが…」
説明をし終わったが、パチュリーは思考の海にダイブしたようだった。
説明した側のパルスィとしては、疲れたという一言に尽きた。
時たま小悪魔の淹れてくれた紅茶が救いだった。
「仮定としてはコレで完成かしら…よし!」
「まとめ終わったかしら?」
「えぇ」
「それは良かった」
「さて次は…その力を私に見せてくれる?」
いきなり妙な事を言い出して来た。
「力を?」
「えぇそうよ」
「……いいわよ」
「そう、じゃあお願いするわ」
悪いが自分の力を、そうやすやすと他人に見せるわけにはいかない。
言葉で語るのと、実際に見せるのとは訳が違うのだ。
パルスィは、少し誤魔化させて貰う事にした。
「…ふぅ」
パチュリーの目の前まで移動し、一息ついてから
パチュリーを自らへと抱き寄せた。
「!?」
いきなり抱き寄せられて混乱するパチュリー。
そして耳元で
「パチュリーって可愛いのね…」
と思いっきり感情を込めて囁いた。
因みにこの行動、勇儀やこいし、燐や空やさとり、ヤマメにキスメ等には絶大な効果がある。
パチュリーも例外ではなかったのか、耳と頬を真っ赤に染めているのが分かった。
「な、何を…っ!」
パチュリーの言葉を遮って、顎に手を添えて自分と目が合う様に顔を上げさせる。
この時のパルスィの顔は、誰もを惹きつける微笑をしていた。
「パチュリー…目、瞑りなさい…」
「何言って…!」
「いいから…」
「…っ!」
思いっきり感情を込めた声
経験した事がない状況
その全てがパチュリーの思考を停止させていた。
言葉の通りギュッと目を瞑るパチュリー
パルスィは徐々に顔を近付けていく。
二人の距離が残り数センチに迫った…が
「お二人とも~お茶菓子ができましたよ~」
小悪魔の声によってパチュリーはハッと我に返った。
「あれ?二人ともどうしたんですか?」
「いえ、パチュリーの具合が悪そうだったから…」
「あ、そうだったんですか…パチュリー様大丈夫ですか?お顔が少し赤いですが…」
「だ、大丈夫よ!少し熱中して話し込んだだけよ!」
「そうでしたか」
パルスィは内心"魔法使いって初心なものなのだろうか"と妙な事を考えており
耳まで真っ赤にしたパチュリーの視線に気付く事は無かった。
考え込む橋姫
耳まで真っ赤になりながらやや涙目で橋姫に視線を送る魔法使い
自らの主人に友人が増えた事を喜ぶ小さき悪魔
紅魔館内部の図書室内には妙な光景が出来上がっていた。
地底に住む妖怪、水橋パルスィは欠伸をしつつも、自らの仕事を全うしていた。
たまに橋を渡る者もいるが、特に悪い奴でもないのが大半なので、まさに平和であり、
言葉を変えれば暇そのものであった。
「…ん?」
入り口の方から何かが聞こえた。
耳を澄ますと、悲鳴の様なものだ。しかも人間の。
その悲鳴は、段々はっきりと聞こえるようになり、何が来てるのかも遠目だが見て取れた。
どうやら、人…らしきものが転がって来ているようだった。
そして何を思ったのか、転がって来た奴は橋の前で止まろうとしブレーキをかけたが、
見事に勢いは止まらずに、パルスィの目の前までヘッドスライディングを決めた。
「………」
呆然。正にそういう状況であった。
いきなり人が転がって来たかと思えば、自らの目の前までヘッドスライディングを決めたのだ。
転がって来た人の容姿は、赤いロングの髪、黒いタイトスカート、頭と背中には蝙蝠の様な羽が付いていた。
背丈的にみても子供ではないだろうという事が見て取れた。
呆然としつつも、冷静にココまで分析できる私凄い、とかパルスィは思っていた。
しかし、呆然としたままでは仕方が無いのでとりあえず声はかける事にした。
「ね、ねぇ…アナタ、大丈夫?」
「………」
しかし、声をかけても返答はない。
コレってマズいのでは?そう考え始めた瞬間に
"ババッ"
なんて擬音がつきそうな位勢いよく顔を上げた。
顔立ちは整っており美人の部類には必ず入るだろうな、といった顔だった。
とりあえず生きているという事が確認できたのでホッとした…が
「あンの…!」
「…へ?」
「あンの紫もやしぃぃぃぃ!」
「…は?」
顔を上げた、までは良かったのだが、
その第一声は明らかな罵声だった。
「何なんですか!突然、『地底にある薬草を採ってきて』って!
紅魔館からどれだけ距離があると思ってるんですか!?
しかも道のりの削減とか言って最近終わった実験結果のモルモットにしてくれっちゃってるんですか!?
しかも、その実験の結果が何故に"人間大砲"なんですか!?
怖かったんですけど!?私じゃなかったら全身粉々でしたよ!?
でもそれを見越して、回復魔法をかけてくれたパチュリー様ありがとう!
でもできるならば、魔法をかけるくらいなら人間大砲なんて最初から使わないでほしかった!!」
「あ、あの…」
「第一パチュリー様は…!」
「いい加減黙れ」
「ごふっ!?」
パルスィは取り敢えず自身渾身のラリアットで黙らせた。
この橋はパルスィの仕事場、縄張りの様なもの。
如何なる理由があろうとも、橋の上もしくは橋の付近で騒いでる輩には容赦はしない。
例えそれが、いきなり目の前までスライディングしてきた女だとしてもだ。
「げほっ…げほっ…な、何するんですか!?怪我人かもしれないんですよ!?」
「悪いわね、ココは私の仕事場…ココでは私がルールよ」
「そんな理不尽な!?」
ギャーギャー喧しいので少し凄みをきかせたら簡単に怯えてしまった。
「はぁ…」
溜息を吐く程度だが、多少疲れた。
さっさとコイツと自己紹介でもしてしまおう。
名前が分からないのはもどかしいからである。
「ねぇアンタ、名前は?」
「ふぇ!?な、名前ですか?」
「…そうよ名前よ」
怯えきってしまっている…多少凄みをきかせすぎたか…
少しだけパルスィは反省した。
「え、と…私に名前は無いんですよ」
「へ…?」
「あ、いや別に変な意味じゃなくて…まだ弱い種なので…」
「あぁ…そういう事ね」
「そうです。私の種族名は"小悪魔"なのでそのまま小悪魔って呼ばれてます」
「水橋パルスィよ、よろしく小悪魔」
「はい!よろしくです!」
あれだけ騒いでいたからどんな輩かと思えば…
意外と常識を持っている奴であった。
パルスィとしてはホッとした。
さて、互いに自己紹介もし終わった…次は小悪魔の目的を探る事にした。
「小悪魔、アンタは何でこんな処に来たのかしら?」
「はい!実は地底にある薬草を採りに来たんですよ!」
「(さっきも言ってたわね…)薬草…?」
はて?この辺りに薬草なんぞあったか?
パルスィは長く地底には居たが、薬草なんて見た事もなかった。
少し考え込もうとした瞬間に
「あぁっ!?」
いきなり小悪魔が叫んだ。
「な、何?どうしたの?」
「あ、あれは…!」
どうやらこっちの声は届いてはいないようだった。
そして、叫びだした小悪魔は目を向けていた雑草が茂っている場所に一目散に向かって行った。
パルスィも少し遅れながらも小悪魔の後を追った。
向かった先で小悪魔は、何処から出したのか分からないような分厚い本と草を見比べ、
「コレです!この草がそうです!」
と言い放った。
パルスィとしては、信じられなかった。
橋から10メートルも離れていないような場所に薬草が生い茂っている。
しかし小悪魔がそうだと言っているのだからそうなのであろう。
パルスィはそう思うことにした。
「この薬草があれば地底特有の成分がとれてですね…」
「あぁ~いいわそういうの。聞いてると頭痛くなりそう…」
「そうですか…ショボーン…」
「口でショボーンとか言う奴初めて見たわ」
全くもって妙な奴だ、パルスィはそう思った。
むしろ妙じゃない奴しか居ないのが幻想郷であるのだが。
「では、薬草を持って帰るのを手伝って下さい!」
「何が、では、なのよ…それに何で私が…」
いきなり手伝えと言ってきた。
面倒な事になりそうなのを感じ取ったパルスィだが…
「一応、この辺りのは大方持って行くつもりですし。それに、そんな量私一人じゃ持ちきれませんね」
「だからって、何で私が?」
「地底に顔を知っている方なんて居ませんし、それに…」
「それに…?」
「パルスィさんとはお友達ですし、そんな友達に手伝ってもらうのが一番いいかなって!」
「今日は私は真面目に仕事をしていた誰とも会っていない誰も見ていない」
「うわ~ん!お願いです~!手伝って下さ~い!」
いきなり腰に抱きつかれてしまった。
「はぁ…」
静かに溜息を漏らした。
何故こんなにも自分には厄介事が回ってくるのだろうか…
あぁ…厄い厄い。
このままではコイツは諦めてはくれないだろう。
そう思ったパルスィは、仕方が無いと腹を括った。
「分かったわよ。手伝えばいいんでしょ…?」
「はい!ありがとうございます!」
一転していきなり笑顔になりやがった。
少なからずイラッとしたので、殴った。額を。
右手中指の第二関節少し尖らせた形でだ。
殴られた箇所を押さえて少し蹲っていたが、パルスィとしては気が晴れたので万々歳だった。
少女達採取中…
「この位採れればいいですかね」
「はぁ…疲れた…」
一時間程採取したので随分な量が採れた。
「さぁ、持って行くのも手伝ってもらいますよ!」
「はいはい…」
小悪魔が言うには、自分の主人や自分が住んでいるという"紅魔館"まで持って行くらしい。
地底から紅魔館までの方角は完璧に覚えているという。
パルスィは紅魔館を知らないので付いて行くしかなかった。
「さぁ!行きましょう!」
「はぁ…」
自然と溜息がこぼれた。
また厄介事に巻き込まれそうな気が、嫌な予感がしたからである。
杞憂で終わってほしい。
パルスィは切に願った。
少女達移動中…
「はい!着きました!」
「へぇ…ココが紅魔館…」
パルスィの目の前には紅の色を基調とした館、紅魔館があった。
「さて、美鈴さんに挨拶しないと」
「…?誰?」
「紅魔館の門番さんです!」
「門番…ねぇ…」
そう言うと小悪魔は門の隣で寝こけている女性に話しかけた。
「美鈴さん、小悪魔無事生還いたしまいた!」
「Zzz…」
「怪我もなく健康体そのものです!」
「Zzz…」
「あ、お客様も居ますけど…ってこの様子ならOKって事ですね?」
「Zzz…」
「はい!じゃあパルスィさん、着いて来て下さいね!」
「ちょっと待って」
「?何ですか?」
パルスィは突っ込まざるを得なかった。
「全く会話が成立してなかった様に見えたんだけど」
「えぇ、成立なんてしてませんよ?」
「なんで肯定すんのよ…」
「大丈夫ですよ、美鈴さんは悪人が館に入りそうになったら全力でその悪人を退治しますから!」
「そ、そうなの…」
パルスィは呆れた様子だった。
小悪魔が言った事がにわかにも信じがたい事だからである。
「ま、気にしない気にしない」
「はぁ…まぁ、気にしないように善処するわ…」
「ありがとうございます!私の主人が居るのは館の内部の図書室に居るのでそこまで行きましょう!」
「はいはい…分かったわよ」
取り敢えず、不思議な門番も居るものだ…という認識で留めておく事にした。
少女達館内移動中…
「はい!着きました!」
「何か既視感が…」
「どうかしました?」
「いえ、多分気のせいよ…」
「?まぁ、何はともあれココが図書室です!」
パルスィの目の前には自分の体長の三倍はゆうにありそうな扉があった。
「この扉どうやって開けるのよ…?」
疑問を呟いたが
「あ、この大きいのは見せかけです、本来のはこっちです」
そう言って小悪魔は、巨大な扉の一部分をノックした
すると、ちゃんとしたサイズの扉が現れた。
「どういう館なのよここ…」
「まぁ、私も含めて変わり者しか住んでませんから…」
苦笑気味に小悪魔が答えてくれた。
取り敢えず、図書室に入る事にした。
──図書室内部──
幾冊もしまわれている本棚が並んでいる。
正に、図書室の名の通りであった。
「これは凄いわね…」
パルスィは一人呟いた。
暫く歩くと、幅が大きい机で本を読んでいる少女を見つけた。
小悪魔がその少女に向けて
「パチュリー様~!」
と声をかけた。
成る程アレが小悪魔の主人か、と姿をよく見せてもらった。
背丈は私よりも少し小さい位、紫色の長い髪、そして月のアクセサリーをつけた帽子を被っている。
「ただいま帰還いたしました!」
「あら、おかえりなさい…どうだった?初めての大砲は?感想があれば聞かせて?」
「もう二度と使わないで下さい」
「そう、善処するわ…そっちのは?」
「あ、彼女には薬草の採取を手伝ってもらった…」
「水橋パルスィよ」
「水橋…パルスィ…あぁ、アナタが…」
何か納得した様子のパチュリー
パルスィは頭に疑問符を浮かべたような状態だった。
「小悪魔貴女、彼女が誰だか知っているの?」
「え?水橋p」
「そうじゃなくて、種族よ」
「種族…ですか?えぇっと…」
「橋姫よ」
「へ?橋姫ってあの…」
「そう、その橋姫が彼女よ」
「ええっ!?」
パルスィは多少ウンザリしていた。
また種族の事かと。正直、帰りたい気分で一杯になった。
「そうよ。私が橋姫だけど何か?」
いっそ嫌われて帰ろうかと考えて言葉を発したが
「別に何も?ただ、私は貴女を歓迎するわ」
返された言葉は予想外の物だった。
「は?歓迎って…」
「嫉妬という未知のエネルギー…」
「…へ?」
「今調べずとして何時調べるか!?」
「………」
"あぁ、コイツはただの研究熱心な馬鹿か…"
心の中でそんな事を思ったパルスィだった。
「小悪魔!」
「はい」
「彼女にお茶とお茶菓子を出してあげなさい!後私の分もね」
「承知しました」
私はここに留まるなんて一言も言っていないのに勝手に話が進んでいた。
あぁ、嫌な予感は的中したか…
ゲンナリするパルスィだった。
「あ、私の名前を言っていなかったわね。私は"パチュリー・ノーレッジ"魔法使いよ、よろしく」
「はぁ…よろしく」
「さぁ早速、嫉妬の事について色々と話してもらうわよ」
「言葉が拙いかもしれないけど…そこは勘弁してよ?」
「えぇ、分かったわ」
少女説明中…
「って感じかしらね」
「…成る程…つまりアレを応用すれば似たようなエネルギーが…」
説明をし終わったが、パチュリーは思考の海にダイブしたようだった。
説明した側のパルスィとしては、疲れたという一言に尽きた。
時たま小悪魔の淹れてくれた紅茶が救いだった。
「仮定としてはコレで完成かしら…よし!」
「まとめ終わったかしら?」
「えぇ」
「それは良かった」
「さて次は…その力を私に見せてくれる?」
いきなり妙な事を言い出して来た。
「力を?」
「えぇそうよ」
「……いいわよ」
「そう、じゃあお願いするわ」
悪いが自分の力を、そうやすやすと他人に見せるわけにはいかない。
言葉で語るのと、実際に見せるのとは訳が違うのだ。
パルスィは、少し誤魔化させて貰う事にした。
「…ふぅ」
パチュリーの目の前まで移動し、一息ついてから
パチュリーを自らへと抱き寄せた。
「!?」
いきなり抱き寄せられて混乱するパチュリー。
そして耳元で
「パチュリーって可愛いのね…」
と思いっきり感情を込めて囁いた。
因みにこの行動、勇儀やこいし、燐や空やさとり、ヤマメにキスメ等には絶大な効果がある。
パチュリーも例外ではなかったのか、耳と頬を真っ赤に染めているのが分かった。
「な、何を…っ!」
パチュリーの言葉を遮って、顎に手を添えて自分と目が合う様に顔を上げさせる。
この時のパルスィの顔は、誰もを惹きつける微笑をしていた。
「パチュリー…目、瞑りなさい…」
「何言って…!」
「いいから…」
「…っ!」
思いっきり感情を込めた声
経験した事がない状況
その全てがパチュリーの思考を停止させていた。
言葉の通りギュッと目を瞑るパチュリー
パルスィは徐々に顔を近付けていく。
二人の距離が残り数センチに迫った…が
「お二人とも~お茶菓子ができましたよ~」
小悪魔の声によってパチュリーはハッと我に返った。
「あれ?二人ともどうしたんですか?」
「いえ、パチュリーの具合が悪そうだったから…」
「あ、そうだったんですか…パチュリー様大丈夫ですか?お顔が少し赤いですが…」
「だ、大丈夫よ!少し熱中して話し込んだだけよ!」
「そうでしたか」
パルスィは内心"魔法使いって初心なものなのだろうか"と妙な事を考えており
耳まで真っ赤にしたパチュリーの視線に気付く事は無かった。
考え込む橋姫
耳まで真っ赤になりながらやや涙目で橋姫に視線を送る魔法使い
自らの主人に友人が増えた事を喜ぶ小さき悪魔
紅魔館内部の図書室内には妙な光景が出来上がっていた。
ニヤニヤさせてもらいました。
○○パルシリーズも一旦ストップということで非常に残念ではありますが、また違う作品を楽しみにしております。
さなパルを書いてもいいんですよ?(小声)
燐とか空とかも抱きしめたりしてたの!?パルさんマジパネェっす
そして始まる紅魔館吸血鬼姉妹ルート…
パッチェさんがイチコロとか、もうコイツは幻想郷の支配者になる日が近いよ!(ハーレムエンド的な意味で)