季節は夏、香霖堂には暑さを凌ぐ道具がない。
そのため団扇や、扇子などといった自分で風を起こす以外に涼しさを得ることが出来ないのだ。
「あ~つ~い~」
今日も暇なのだろうか、天子が香霖堂に来ていた。
「暑いなら家で大人しくしていたほうがいいんじゃないか?」
向こうのほうが涼しいと思うし、空調を利かしたモノがありそうな気がするんだが……。
「やだ。家にいると父様がうるさいんだもん。あれやれだのこれやれだのもう聞き飽きたのよ!」
天子がバンと勘定台を叩くと少しだけ軋むような音が僕の耳に届いた。
頼むから壊すことだけはやめてくれよ。
「それに霖之助のところなら暑さを凌げるって思ってたんだもん~」
ぐでーっと勘定台に上半身を預ける。
「残念ながら僕のところにそういった道具はないのでね」
「ぶーぶー」
「ぶーたれても何も出ないよ」
「あ~つ~い~」
結局そこに戻ってくるのか。
「暑いなら紅魔館に行ってみたらどうだい? あそこの図書館は涼しいと聞いたが」
「あそこの主がやけにえらそうでやだー」
僕の提案をだるそうな声で断る天子。
「なら、冥界は? あそこも涼しいと思うぞ?」
「行ったら食べられちゃいそうだしー?」
誰にだというツッコミは敢えていれなかった。
多分、幽々子のことだとは思うが……。
「永遠亭は? 輝夜の部屋にエアコンと呼ばれる空調機があるらしいぞ」
「行くの面倒くさい~」
だるそうにそう答えた。
「妖怪の山に水浴びは?」
「水浴びした後の暑さがいやだし、あの文屋に会いそうだから行きたくない」
文も嫌われたものである。
そんなに邪険にするものでもないだろうに。
「地底なら涼しくないか?」
「あそこにいると気分が滅入るから行きたくない」
地底は結構観光としてもいいところだと聞いているんだけどな。
この前も地霊殿の主がここまで宣伝にしにきていたし、フラフラな状態で。
「命蓮寺は――」
「あそこはもう一回なんか分かんないやつに説法くらったから行かない」
完全なる拒絶。よほどきつく言われたのだろうな。
これ以上は天子の機嫌が悪くなりそうだからやめておいた。
「博霊神社は?」
「霊夢、私に冷たいんだもん。お茶も出してくれないし」
まあ、参拝客ではないから霊夢の対応は間違ってはいないな。正しくもないが。
「だったらどこが一番いいんだい?」
言うところ言うところこうも却下されるとどこがいいのか分からなくなる。
「――がいい」
「え? なんだって聞こえなった。もう一回言ってもらってもいいかい?」
「――がいいの」
やはり、聞き取れない。
「りん――けのいるここがいいの」
さっきよりははっきりとした声だが途中が聞き取れなかった。
「一回だけ言うわよ! 霖之助のいるこの香霖堂が一番居心地がいいの! 分かった!?」
勢いよく立ちあがり捲し立てるかのように天子がそう言った。
ここが……一番居心地がいい?
はてさて、天子には別におもてなしも何もしていないような気がしたんだが。
「ここのどこが居心地がいいんだい? 店主である僕が言うのもなんだが居心地はよくないと思うんだが…
…」
「べ、別になんでもいいでしょ」
顔が少し赤く――
「ちょ、ちょっと! 顔見ないでよっ」
別に覗き込んでいたわけではないが、天子はぷいっと顔を逸らした。
「暑い。霖之助ー、お茶か何かちょーだい」
顔はこっちを向いていないが、僕に向かって飲み物が欲しいと注文をしてきた。
僕も何か飲みたいと思っていたところだから丁度いい。
「やれやれ仕方ないな。ちょっと待っててくれ」
そういって僕は天子と自分の分のお茶を淹れて戻ってくる。
「ほら」
「ありがとー」
天子はお茶の入っている湯呑みを受け取り、一気に飲み干した。
「おかわりっ!」
満面の笑みを浮かべながらそう言った。
こんな日もたまにはいいか。
そう思いながら僕はお茶を一口啜ったのであった。
朴念仁店主と乙女天子いいよ!!!
最近天霖増えてますなぁ
個人的には天霖よりも天之助の方がしっくり
>>そう思いながら僕はお茶を一杯啜ったのであった
この場合、一口啜った、がしっくり来ます。なんか原文の場合、一口でお茶を飲み干したかのような印象を受けます。
……私だけ?