Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

もしもスペルカードルールが採用されなかったら

2008/04/14 04:45:51
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「ねぇ霊夢。このまま妖怪が決闘する度に力を出し切っていたら、きっと幻想郷は目茶目茶になってしまうわ」

 きっかけは先日あった吸血鬼異変だった。知っての通り、幻想郷の新参者だった吸血鬼が妖怪達を従えた上に
大暴れしたという一騒動のことである。
 現在は悪魔の契約が結ばれたため、しばらくこういった事件は起こらないはずだけれど。
 さて、今日はこの事を危険視した、名も無い妖怪達がここ博麗神社に集まって、幻想郷決闘法会議が始まった。
 どうやら、そろそろ結論を出さねばならぬ頃合だろう。

「でも、決闘のない生活が続くと、私達妖怪は力が衰えてしまう。これもまた一大事なのよね」
「霊夢、まだ良い案は出ないのか? できれば体力や実力で差が付き過ぎる方法は避けたい」
「私は見るものを圧倒するような、美しい決闘法がいいわね」
「で、できれば室内でひっそり楽しめるようなのがいいなあ……」
「人間早食い競争なんてどうよ、腹もふくらんで一石二鳥よ」
「おらは畑さ耕ずのがええと思うべ」

 多様な妖怪の要望。彼女らの意見をできるだけ取り入れなければならない。
 完全な実力主義からの脱却。しかし、全く実力に関係ない、運だけの方法では決闘にならない。
 これらの条件を踏まえるとなると、私の頭に浮かんだ、ある方法くらいしかないだろう。

 目を開ける。妖怪達が一斉に口を閉じ、鋭い目を向けてきた。
 私は腕組みを解き、そして息を吸い込んだ。

「二つ、方法が考えられるわ」

 妖怪達が一斉にどよめいたが、すぐさま静寂に返る。そしてまた、その真剣な眼差しで見つめてくる。
 わずかな間の後、出席している妖怪達の代表者がおずおずと尋ねてきた。

「二つ、か。一つ目は一体、なんだべか?」
「よく聞いてくれたわ。一つ目はスペルカ……」
「ぶぅえーっくしゅん!」
「……というルール。どうかしら?」

 改心の方法のはずである。このスペルカードルールならば、美しさも、そして妖怪にとって重要な、
思念を攻撃に取り入れることができる。実力主義にも陥らない。これなら広く受け入れられるはずだ。
 しかし、私の考えとは裏腹に、冷たい返事が返ってきた。

「ごめんけど、どういうことなのか分からなかったわ」
「私も。そもそも何言ってるかすら分からなかった」

 そうか。単に崇高な方法を掲げたとしても、なかなか広く理解されないのがオチになってしまう。
 スペルカードルール、難解すぎて受け入れられなかったのかしら。
 しかし、このようなこともあろうかと、もう一つのは単純明快な決闘法である。

「くしゃみ、すまなかっただ。では二つ目は?」
「二つ目は……」

 もし、これが受け入れられなかった場合、このせっかくの会合が水の泡になるかもしれない。
 うまく落ち着いて説明せねば。汗が額から頬へつたっていく。
 鼻から大きく息を吸い込み、口から静かに吐き出す。
 きっと大丈夫だ。

「二つ目は、叩いてかぶってじゃんけんぽん」

 ざわめく妖怪達。互いに顔を見せ合って、やはりまた私に向き直る。

「じゃんけん? そんなもので決闘を?」
「単なるじゃんけんじゃないのよ。叩いてかぶるのよ」
「叩いて、かぶる……。詳しく説明してくれるかしら」
「叩いてかぶってじゃんけんぽんか、いい響きだ」
「もうそれでいいんじゃない?」

 手ごたえ有り。上々の反応であった。だが説明をしくじった場合、最悪、振り出しに戻されるかもしれない。
 握る拳に力をこめる。妖怪達全員に目配せ、説明を続けた。

「じゃんけんの結果は直接勝敗には繋がらない。じゃんけんはあくまで、攻守決定手段よ」
「なるほど、完全な運でもなく、実力にもよらないわけか」
「その通りよ。勝った場合は攻撃。攻撃に成功したら、その時点で勝利となるわ」
「し、しかし、攻撃力も妖怪によってまちまちでは……」

 落胆の声があがりはじめる場内であったが、私は臆することなく説明を続けた。

「そうよ。だから、一定の武器を使うことにするの」
「い、一定の、武器……。それは、それは一体?」

 妖怪達が固唾を呑んで、目を見開く。彼等は皆口を真一文字に結び、聞こえてくるのは風の音のみ。
 私はにやりと笑みを見せ付けて言った。

「はりせん、よ」

 河童は驚き固まり、天狗は口を広げたまま後ろずさっていく。「はりせん」という言葉が妖怪達の間で連呼される。
 妖怪のうちの一人が勢いよく立ち上がり、興奮した様子でわめきだした。

「はりせん! はりせんだと!? そんなものを決闘に持ち込む気か!?」

 その様子を見た妖怪がまた一人、また一人と立ち上がっては口々に訴えてくる。

「妖怪を何だと思っているんだ! はりせんなんて屈辱だ!」
「そうだ! はりせんなんかもっての他! 許すわけにはいかん」
「はりせん断固反対! 叩かれた側の自由も考慮すべきだ!」
「はりせんだと!? ……た、祟りじゃ……はりせんの祟りじゃあ!」
「はりせん厨まじうぜぇ」

 溢れ出す怒号、しかし一人、フォローにまわってくれた妖怪がいた。
 落ち着きなだめるような口調で彼女は私に話しかけた。

「霊夢さん、どうしてよりによって、はりせんなんかを……」
「皆落ち着いて。まず、はりせんは誰が扱っても衝撃は少なく、周囲に大きな影響が及ぶ代物ではない。
かつ、攻撃された側はそれなりに屈辱を味わえる。それが重要点よ」
「し、しかし……はりせんなんて言葉が出てきた以上、こんな会議やめだやめ!」

 立ち上がった妖怪の一人が帰ろうとし始める。
 このままではまずい。せめて最後まで聞かせなくてはならない。
 手が震え始める。引き止めなくては。
 私の訴えかけるその声は、自然と早口になっていた。

「待って! これからが大切なところ! 守備側、そう、守備の方法があるから!」

 帰りかけた妖怪の足が止まる。鋭く睨んでから、顔だけこちらを向かせて座った。
 しかし安堵するわけにはいかない。守備側に不備がもしあったとすれば……
今回は廃案のまま、この話自体無かったことになってしまうだろう。
 肺に空気を送り込み、何かがつっかえたような気管から声を絞り出した。

「守備側の、方法は……金だらい、よ」

 私の声が神社に木霊する。妖怪達はまた驚き固まっている様子であった。
 いや、よく見れば極僅かに全身を震わせているようだ。
 しばらくして、一人がけたたましい音と共に立ち上がって言った。

「金だらい……そうか、金だらいだ!」
「なるほど、金だらいをかぶるのか! これなら安心だ!」
「やった! やったぞ! いいぞ、いいぞ金だらい!」
「おぉ……おお……! 金だらい神よ……恵みじゃ、金だらいの恵みじゃあ!」
「アイラーブ、カナダライ……ウィーラーブカナダライ!」
「よし、河童達は金だらいの量産を、天狗はこのことを幻想郷中の妖怪へ!」

 こうして叩いてかぶってじゃんけんぽん法案は満場一致で可決され、
 細かい約束事を契約した後に会議は無事に終わったのであった。



 それからどれくらい経った頃だろうか。
 夏だというのに、幻想郷中を紅い霧が覆い、日の光も照らされないほどになってしまった。
 さらにこの霧、放っておけば里にまで降りていってしまうだろう。
 私はなんとなしに裏の湖が怪しいと思い、勘を頼りに出発した。まだ夜であるというのに。

 真っ暗な境内裏、こういう時はいつも昼に出発しているのだが、たまにはこういうのもいいだろう。
 どこに行ったらいいのか分からないが、なんといっても、ロマンチックなのがいい。
 道中の妖精達をホーミングはりせんで叩きながら進んでいく。
 そうしていると、闇に溶け込むような黒っぽい服をきた幼子、いやきっと妖怪が手を横に広げて待ち構えていた。

「目の前が取って食べれる人類?」

 どうやら例の決闘法をすべき時が来たようだ。ただ、実際にしたことがこれまでになかった。気をつけねば。
 つまり、初陣というわけだ。私一人で陣なのかどうかはさておき。

「そういうことならば、叩いてかぶってじゃんけんぽんで勝負よ!」
「そーなのかー」

 まずは相手の様子を観察することから始めねばならない。
 勘の良さを頼りに、とはいかない。勘とは経験の蓄積によって生まれるもの。
 従って初戦の相手に対して勘を頼りにするということは難しいだろう。よって観察することで勘を働かせ、推測するのだ。
 この少女は両腕を広げ、「パー」の姿勢で待ち構えている。そう、これが手がかりになるはずだ。
 私の経験上、「じゃんけん……」と掛け声をした時点で、グーであるとチョキ、パーを出しやすく、
パーであると、グー、チョキを選びやすい。やはり、初期状態の手を全く変えずに出すのは勇気が要るのだろう。
 今見える相手の手は、開ききったパー。ひょっとすると、私のチョキを誘っているのかもしれない。
 もし私の勘が正しければ、彼女はパーを選ばない。グーかチョキである。
 そうなると、最善手は……グー。彼女が私のチョキを誘ってグーを出したとしても、しのげる。
 さらにいうならば、彼女は拳、つまりグーで語るタイプではない。一種の狡猾さ、裏の手を好みそうなタイプだ。
 こういったタイプはやはり、経験上チョキを選びやすいものである。ちなみにパーはやっぱりパーなイメージがある。

「妖怪少女さん、準備はできた?」
「うふ、いいよ?」

 互いに向き合い、右側に、はりせんを、左側に金だらいを浮かばせた。
 私はグーを出すことに決めた。相手はチョキを出すだろう。予想が当たれば……右だ。万一外れたら……左。
 しかし彼女の口から、信じられない言葉が発せられた。

「じゃあいくよ……最初はグー!」

 盲点だった。それまでパーであった彼女の手が一瞬にしてグーに変わってしまった。
 これまでの予想が台無しである。しかし、もう考える時間の余裕は無い、勘を信じるしかない!

「じゃんけん……」

 彼女の拳が一瞬振り上げられ、そして勢いよく振り下ろされる。
 その指がじわりと動くのが見えた。その伸びていく指は……人差し指だ!
 しかし油断はできない。もしもそのまま中指以外が開かれると、パーの可能性が濃厚だ。
 彼女の口が笑ったように思えた。次に伸びていく指は……親指であった。
 しかし動揺してはならない。手が確定するのは、「ぽん」の合図と同時。
 後には引けない。私はグーを思い切り振り下ろした。

「ぽん!」

 彼女の出した手は……人差し指と親指だけが伸びていた。
 田舎チョキ使いか! 田舎チョキは……そうか、裏をかいてチョキと変わらぬ意味である。
 瞬間の判断が遅れる。左の金だらいに彼女が手を伸ばす。
 ――このままでは、間に合わない。
 しかし、方法はある。金だらいで最初に防ごうとするのは、前頭部。つまり狙うべきなのは……。

「この勝負、もらった!」

 即座にはりせんを手に取る。同時に右足を軸にして体にねじれを加える。
 金だらいが、彼女のおでこにまで上がる。間に合うか。
 体のねじれが回転を引き起こし、そのまま彼女の後頭部を狙う。

「間に合え!」
「しまっ……」

 乾いた音が響き渡る。手にしびれを感じる。息を切らしている自分に気がついた。
 判定をしなければならない。恐る恐る、はりせんを見ると、彼女の頭部に当てられたままであった。

「私、勝った……勝ったのね!」
「いい勝負だったね、またいつかやりましょう」

 妖怪少女が笑顔で手を伸ばし、握手を求めてきた。スポーツを一試合分、終えたような心地であった。

「私は博麗霊夢。あなたは?」
「ルーミア。次は負けないからね」

 そう言って、自然に結ばれた手が解かれる。そのままルーミアは闇に紛れていった。



 初勝利を収めたことで気を良くして、湖へと向かう。既に明るくなりはじめていたが、
やはり霧のせいで視界が悪い。ましてやこの湖はただでさえ霧が出ているのだ。
 道に迷いながらも夢想はりせんで雑魚を一掃、アイテムを回収して進む。
 すると今度は青い、比較的大きめの妖精が行く手をふさいだ。

「道に迷うのは妖精のせいなの」
「会話はスキップ、問答無用! 早速決闘よ」
「ふふん、あたいに勝てると思ってるのかしら」

 自信ありげに笑う妖精。しかし実際、一番やりにくい相手がこういうタイプである。
 凝り固まった思考を持っている者ほど相手の手を想像するのは容易い。
 しかし、妖精という気ままな存在であると、出す手が完全にランダムに近いのである。
 だが私には、策がある。

「ねぇ妖精さん。私は今から、グーを出すわ」
「え、何? グーを出すのね?」

 妖精は概して思考能力が高くない。それを利用して手を封じるのだ。
 この質問をした場合、相手は「私が本当にグーを出す」か「私がパーを誘っておいてチョキを出す」かという
どちらかのみの読みに偏りがちとなる。これに嵌れば、相手はパーかグーに縛られることとなる。
 この思考の罠に陥らせると、相手のチョキを封じたも同然。つまりパーが最善手となる。
 先ほどと同じく左に金だらいを、右にはりせんをセットした。そして互いに、にらみ合う。

「じゃんけん、ぽん!」

 相手の手がパーから握りこぶしに移るのが見えた。
 咄嗟に、はりせんを取る。相手は金だらいを掴んですらいない。
 一気に間合いをつめ、はりせんを強く握り、振り上げる。

「覚悟!」

 瞬間、目標が消える。代りに眼前に現れたのは、妖精の足であった。
 打撃目標が視線から完全になくなっている。

「頭部はどこ!?」

 足を追って視線を下にやれば、彼女は金だらいに頭から突っ込んでいた。
 この状態で打撃は、不可能だろう。

「へへ、必殺、たらいかぶりー」
「やるわね、妖精。しかし、次で決着をつける!」

 あいこ、又は連戦の場合の読みも存在する。
 やはり私の経験上、同じ手を連続して出すのは、まれである。特に、負けた手なら尚更である。
 相手はグーを出して負けたのだから、それを学習してグー以外を出そうとするはずである。
 チョキ、パーに対する最善手は当然、チョキ。
 攻撃に失敗しても、もう一度じゃんけんで勝つまでだ。

「もう一度いくわよ、じゃんけん、ぽん!」

 妖精が不敵な笑みを浮かべたのを視線の片隅で捉える。
 私の視界の中央にあったものは……グーであった。

「負けるわけには!」

 例え読みで負けても、反射神経という実力でカバーすれば良いまで。
 金だらいに一目散に手を伸ばしてつかんだ。
 しかし。

「いやぁ、つめた!」

 刺すような凍気。しまった、彼女は氷精だったのか。
 このままでは握ることすらできない。
 氷精がはりせんを振り上げるのが見える。
 そうだ、握ることができなければ、顔から突っ込めばいい!
 相手の技を盗むのも大切なことよ霊夢!
 勇気を出して金だらいに顔を!

「ぎゃー」




 翌日の文々。新聞の一面を飾ったのは、金だらいが顔に凍りついたままの霊夢の姿であった。




 結論:決闘は弾幕に限る

どうでもいい事を大真面目に書くのって楽しいよね。
本当は間違えて金だらいでスパコーンと叩いて終わるオチを想定してましたが、
どっかの芸人さんに取られちゃってこちらになりました。
どっちにしても痛いよー。でも絵的に有りかと思ってそのままに。
筆が遅いのですがこつこつとがんばって参りますよ。
飛び入り魚
コメント



1.名無し妖怪削除
やってみたい
2.名無し妖怪削除
まさか2面にラスボスが鎮座しているとは。チルノはこのルール、そして人間に対してなら最強を名乗れるかもですな。あと霊夢含め皆アツい奴等ばっかりなのが中々ツボにはまります。
3.欠片の屑削除
このノリがエエ感じですねw
しかしじゃんけんかぁ…あの拳法は駄目ですか?えっと確か…野球k(夢想封印)
4.名無し妖怪削除
どんだけ金だらい好きなんだおまいら・・・
5.グランドトライン削除
そしてどんだけハリセンが嫌いなんだ…
それにしても最後を想像して思わず笑ってしまった。
6.名無し妖怪削除
ちょっ、最後の部分こわすぎて笑えない
氷や冷たい金属などがはりつくの危険すぎ
7.名無し妖怪削除
冷えた金属は危険ですよ~
そしてなんでハリセンは嫌いなんだ…
8.名無し妖怪削除
くしゃみしたやつ表出ろ
9.樽合歓削除
「はりせん厨まじうぜぇ」にww
なぜに金ダライで納得できるんだあなた方
10.名無し妖怪削除
だめだ吹いた。
なんで妖怪達の会議に農民Aみたいな人が混じってるんだ。