Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

U.N.オーエンは満塁ホームランの夢を見ない

2020/11/21 00:54:08
最終更新
サイズ
8.24KB
ページ数
1

分類タグ

 私、悪魔の妹ことフランドール・スカーレットにはいくつかの悪癖があり、自分でも悪い癖であることは自覚しているのだが、癖というのは自分では治しようが無いからこその癖なのだからどうしようもないよなぁと半ば諦めてしまっている。その中でも一際タチが悪いものがある。私は、夢を見ると気分が不安定になる。
 夢なんてものは往々にしてコントロール不可能なもので、これをどうにか治す方法があるのなら教えてほしいものなのだが、我らが不動大図書館まじかるパッチェさん辺りに言わせれば消極的に夢をコントロールする方法の十や二十くらいは教えてもらえることであろう。絶対にやらない。あやつの「消極的にうんたらかんたら」は十割がた回りくどい方法ばかりなので、その方法もろともパチュリーを爆散させるほうがよっぽど現実的かつ建設的なのだ。
 閑話休題、夢の話である。その夜も私は棺桶の中で夢を見ていた。
 青空だった。
 青空! なんと懐かしい響きであろうか。四百九十五年級引きこもりの私にとって、それを最後に見たのはいつだっただろうか。よりにもよってそのにっくき青空に夢の中でまみえようとは、開幕からして最悪と言って良いであろう。
 何はともあれ、青空の下に何人かの人物たちが集まっていた。そやつらは人間であろうか妖怪であろうか、今一つはっきりしないのだが、おそらく種族などどうでも良いのだろう。肝心なのは、そやつらが整備された広場に集まっていることと、揃いも揃って白い運動着らしきものを着こなしており、白と黒のキャップをかぶり、なにがしかの運動をしようとしているという点にあった。
 みんなそれぞれに、球とこん棒と手袋を持っていた。
 外の世界にいた頃にテレビで見た記憶があったかも知れないが、私はその競技のルールを知らない。名前も度忘れしてしまった。
 ともかくも競技を始めるらしい。プレイボールと誰かがのたまった。運動場の一番端っこから誰かが球を投げた。ずいぶん遠くから投げるものだ。運動場の端から端まであっという間に駆け抜けたその球は、対戦者のどてっ腹に見事に命中した。しかし敵もさるもの、球を食らう直前にこん棒を地面に叩きつけていた。巻き上げられた土砂が四方八方に散らばり、地面に落ちた時には綺麗な薔薇の模様を描いていた。いくらなんでも綺麗すぎて気色が悪かった。
 ここでようやく気が付いた。「私、今、夢を見ている」。
 ああそうかこれは明晰夢だ。夢を見ていると気付きながら見る夢のこと。だとすると最悪さは五倍増しだ。理由は後で説明する。
 プレイ続行、どてっぱらに球を食らった対戦者は力尽きてその場で寝てしまったので代わりにお姉さまが出てきて走ることになった。何故レミリア・スカーレットがここにいる、お姉さまを再現するならちゃんと傘を差せ。もちろん傘など差さずに元気に走っていった。帽子はちょっと似合ってて可愛かったのが余計に腹立たしかった。
 さらに次の誰かがこん棒を持って現れた。どうやらこん棒を持てるのはこの場で一人だけと決まっているらしい。ちなみにそのこん棒を持って出てきた誰かとは紫色の髪をしていて背が低くて腕が短い女の人なのだが、私はそいつに会ったことがない。察しはつくが。そして球が放たれる。今度は三球同時に投げつけていた。球は何個でもいいらしい。
 ともあれ、紫髪の腕が短い女が、こん棒を大きく振り回した。球を三個同時に、見事に捉える。力任せにひっぱたく。三個の球が、物凄い速さで、てんでバラバラに飛んでいく。本当に凄い速さで、球はそれぞれ運動場の端にたどり着いたかと思うと壁にぶつかって跳ね返り、その後も勢いとどまることなく反対側の壁まで飛んでは跳ね返り、跳ね返り跳ね返り跳ね返り、三球ともがどこまでも止まらない。
 そして、飛び回る球にみんなが右往左往している間にお姉さまが全力で走っていた。吸血鬼が全力で走るんだからそりゃあもう速い速い、あっという間に運動場を一周して戻ってくる、どうやら一周すれば何かに勝てるらしい。
 そして勝利を目前にした次の瞬間にお姉さまの前に立ちはだかるのは、誰であろうこの私、フランドール・スカーレットだった。やっぱり傘を差していない、笑えると同時にはらわたが煮えくり返る。
 その私に向かって、跳ね返り続けた三つの球がそのままの勢いで戻ってくる。直列に並んで戻ってくるその球はまるで三連星、トリプルストリームだんご三兄弟だ。その三つの球を受け止めてお姉さまにぶつけることができれば私の勝利だ。そこまで確信した私は、同時に、強い強い危機感を覚えた。
 向かってくるお姉さまも。
 お姉さまを追い越そうとする三つの球も。
 球を打った姿勢で美しいフォロースルーを描いたまま悦に浸っている紫髪の女も。
 勝負の行方にエキサイトする運動場も。
 全て、全てが目くらましに他ならない。奴は死角からやってくる。そう、お姉さまの向こう、三つの球の向こうから音を消して現れる。そいつは時間を跳躍したかのように常識を無視した動きで三つの球とお姉さまを追い越して、その手には。
 包丁が。
「死ねぇ!」





「本気で殺しにくるから大好きだよあんた」
「っ……! いつから、気付いて……?」
 余裕げに答える私、フランドール・スカーレットであるが、内心ではそこまで余裕だったわけではない。もしも私が人間だったら心臓バクバクで鼻血の一つや二つは吹いていたところだろう。もちろん私は吸血鬼なのでそこまでヤワではないし、自分を解体したこともないから心臓なる器官が自分の体内に実在するかもわからないのだが。
 起き抜けに狙いあやまたず、胸の中央へと吸い込まれるところだった包丁を、私は片手で握りしめていた。刃の部分を力任せに。
 包丁の持ち主? 決まっている。私の愛しいお友達、実在しているかイマジナリーフレンドなのかも定かではないプリティーウーマン古明地こいしだ。
「夢を見せたでしょう。あんたの夢、私の思いつかないものを遠慮なしに流し込んでくるからすぐに夢だとわかるのよ。そんなことできるの、こいしだけよ」
「それがいいんじゃない……! あなたの夢の中を私で満たして、現実の方でも私とあなた、全部一緒になるまでぐちゃぐちゃになりたかったの!」
「そう。そうよね、あんたそういう女だわ。こうやっておしゃべりしている間も、全然思いとどまらずに力いっぱい私を刺しに来てるもんね」
 こちとら吸血鬼だ、膂力で言うなら幻想郷でも指折りのはずだ。まして私は単純な腕力ならお姉さまよりも遥かに強い。その私がこうして包丁を握って止めているのに、全く力負けせずに無理やり押し込んでくるのだ。そりゃあ私は起き抜けでこいしにマウント取られてはいるが、そういう問題ではない。こいしの強さというのは、単純な強さ弱さの話ではない。古明地こいしは、一切の行動を躊躇わない。全ての行動に百パーセントどころか一万パーセントの力を込める。つまり、こいつを「強い」と形容するのは誤りだ。「おかしい」というべきなのだ。
「ね、ね、いいでしょ、今日も明日も昨日も去年も私たちは友達だよ。だから私、フランドールを食べたらお姉ちゃんに会いに行くの。きっとお姉ちゃんとフランドールはお似合いだと思うから」
「そういえば夢に出てきた、紫の」
「お姉ちゃん!」
「ボール三つ同時打ちは神業すぎない? あれ練習無しで一発でやるの私でも無理だよ」
「お姉ちゃんも出来ないと思うけど、でも、頼めばやってくれると思うわ」
「あんたほんと自分の姉が大好きよね……まあ、でも」
 わざとらしく、私は一拍置いた。なぜだろう、こういうわざとらしさがこいしは好きらしいのだ。
「私がお姉さまを好きな気持ちよりは、ずいぶん負けるんじゃないかな?」
「そ――そんなことないもん! いくらフランドールでも言っていい事と悪い事が」
 ほんの少し力が緩んだ隙を突いて、私は包丁をしっかりと握り、こいしの胸を思いっきり下から蹴飛ばした。こいしが飛んでいく。放物線を描いて部屋の端から端まで飛んでいく。私はそのこいしをダッシュで追いかける。
 こいしが床に叩きつけられ、私がこいしに追いつく。上からのしかかる。こいしの両目が私を捉える。私もまた正面から睨みつける。眼と眼が合い、互いに互いの考えることが――
 いや、こいつの考えることなんてたぶん一生わからないけど。
「大好きよ、こいし。さようなら」
 こいしから奪い取った包丁を力いっぱい、こいしの胸の真ん中に突き刺した。





 翌日、また夢を見た。今度もまた青空だった。広場だった。九回裏ツーアウト満塁打席にはフランドール・スカーレット。そしてピッチャーマウンドには。
「まさか二日連続で寝込みを襲われるとはね!」
「やだぁ、起きるの早ぁい」
 今度は包丁を取り出す前に目を覚まし、こいしを捕まえて押し倒してやった。棺桶ベッドの中にこいしを押し込み、手足を固定して身動きを取れなくしてやる。こいしはこうやって、しっかり捕まえられるのが大好きらしい。私にはさっぱりわからない趣味だった。
「同じことを二日続けるのって、芸が無いって思わない?」
「天丼っていう芸なんだって、お燐とお空が話してたの」
「あんたの家のペットにも、一度会ってみたいものね、実在するならだけど……その時はそいつらにも、包丁をお見舞いしてやるわ」
 そしてもちろん、昨日包丁を突き刺したはずのこいしは私に押し倒されながらピンピンしているのだった。まあ昨日包丁を刺したあの時は、大して流血もせずに突き刺した部分を中心に花びらになって開花して綺麗に消え失せたのだから、絶対殺せてないとは思っていたのだが。きっとこのイマジナリーかもしれないフレンドは、きゅっとしてドカーンしても殺せない。
 それでも私は、この女を殺すことを諦めきれないのだろう。そしてそれはきっと、この女も同じこと――ああ最悪だ。「そうであったらいいなぁ」と思ってしまった! なんて気色悪い!
「おはよ、フランドール。今日こそ私と星を見に行こう!」
「おはようございます、こいし。ノーサンキュー、今日も私は元気に引きこもりよ」
 私とあなたは、曇りの無い笑顔で笑い合う。本当に、見とれてしまうくらいの良い笑顔だった。
東方版深夜の真剣物書き60分一本勝負に参加、70分ほどで書けました。
なんかこう、電波が降りてくると瞬発力スイッチが入って調子よく書けたりします。書けないことの方が多いです。
こいしちゃんのキャラクターがさっぱりつかめていませんが、たぶん今後も一生、自作に出すとしてもよくわからないままに登場させることになると思います。こいしちゃんは無意識ゆえに誰とでも絡ませられるし、誰とも噛み合わないという反則な子なのだと思います。

kuiasb@aol.jp
http://weeklywriggle.blog.fc2.com/
コメント



1.サク_ウマ削除
好きです。助かりました。