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第14回稗田文芸賞

2018/01/16 23:25:26
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第14回稗田文芸賞候補作発表

 幻想郷文芸振興会は10日、第14回稗田文芸賞の候補作を発表した。
 今回は6作品がノミネート。うち初ノミネートが4名と、フレッシュな顔ぶれとなった。
 選考会は24日、人間の里の稗田邸にて行われる。
 候補作は以下の通り。

 大橋もみじ『千里を斬る眼』(鴉天狗出版部)
 幽谷響子『パンクロックシャウト』(命蓮寺)
 二ッ岩マミゾウ『エイリアンはもう帰れない』(稗田出版)
 卯堂院レイス『狂月の狙撃手』(竹林書房)
 青嵐リンゴ『美味しいお団子のつくりかた』(稗田出版)
 宇津保凛『石桜の降りつむ道』(旧地獄堂出版)

(文々。新聞 師走11日号より)




博麗霊夢&伊吹萃香の第14回稗田文芸賞メッタ斬り!
 本命はやはり大橋もみじか? それとも実力派の初ノミネート組から新たなスターが生まれるのか? 今回も目が離せない受賞レースをいつものコンビがメッタ斬り!

◆受賞レース予想&作品評価
(◎…本命 ○…対抗 ▲…大穴 評価はA~Eの五段階)

 霊夢 萃香
 ▲B ◎A 大橋もみじ『千里を斬る眼』(鴉天狗出版部)       四回目
 -C -C 幽谷響子『パンクロックシャウト』(命蓮寺)       二回目
 ○A ▲B 二ッ岩マミゾウ『エイリアンはもう帰れない』(稗田出版) 初
 -D -B 卯堂院レイス『狂月の狙撃手』(竹林書房)        初
 -B -C 青嵐リンゴ『美味しいお団子のつくりかた』(稗田出版)  初
 ◎A ○A 宇津保凛『石桜の降りつむ道』(旧地獄堂出版)      初



萃香 あれ、今回は菫子呼んでないの?
霊夢 知り合いの候補がマミゾウだけだからパスだって。
萃香 そんな、富士原モコの新刊『デスパレート・デスパレード』が候補にならなかったからって……(苦笑)。いやま、候補になっても獲れなかっただろうけどさ。
霊夢 それより、なんでアガサクリスQが候補じゃないのよ。今年最大の話題作じゃない。
萃香 そりゃ完結してないからに決まってるじゃん。知らない人はいないと思うけど念のため補足しておくと、アガサクリスQは今年デビューの覆面作家。短編連作形式の本格ミステリ『全て妖怪の仕業なのか』を、短編一本ごとにコンパクトな薄い本として出すという、鈴奈庵の仕掛けた分売方式が、普段小説を読まない層にも手に取りやすい分量・値段だったことで空前の大当たり。長らく幻想郷の小説最大のベストセラーは大橋もみじ『白狼の咆吼』シリーズだったんだけど、ひょっとしたら今年一年でそれを塗り替えちゃったんじゃないか、そういうレベルの大ブームになった。作品としての個人的な評価は、最初の死体消失事件の解決編がまだ書かれてないから保留。今のところ出てる中では二話目の密室殺人が一番いいかな。
霊夢 途中まででも候補にすればいいのに。今までだってシリーズの一冊目や二冊目を候補にしたことだってあるんだから。
萃香 まあまあ(苦笑)。完結すれば絶対候補にはなると思うよ。


◆大橋もみじ『千里を斬る眼』(鴉天狗出版部)四回目
  予想…霊夢▲ 萃香◎  評価…霊夢B 萃香A

萃香 さて、今回は候補入りの回数だけ見ると露骨に大橋もみじシフトって感じだけど。
霊夢 六人中四人が初ノミネート、幽谷響子も二回目で、大橋もみじだけが四回目の候補。でもこの面子で「フレッシュな顔ぶれ」って言うのはどうなのよ? 宇津保凛とマミゾウは稗田児童文芸賞獲ってるし、卯堂院レイスだってけっこうキャリアは長いでしょ?
萃香 まあ、稗田文芸賞的にフレッシュってことでさ(苦笑)。
霊夢 で、予想は……なんだ、ほとんど一緒じゃない。
萃香 いやあ、さすがに今回は大橋もみじ、二ッ岩マミゾウ、宇津保凛の三つ巴でしょ。ほかの三人の誰かが獲ったら桜の下に埋めてくれて構わないよ。
霊夢 前回大外ししたばっかりなのに、わざわざフラグ立てるんじゃないわよ。
萃香 じゃあ、まずは世間的に大本命の大橋もみじからいこうか。『白狼の咆吼』第三部の連載が夏に終わって、来年から開始予定の第四部までの繋ぎみたいな形で秋に出た単発長編だね。主人公は千里眼で見たものを遠隔で斬る能力を持った最強の暗殺者。唯一の弱点は、顔のわからない相手は千里眼で探せないから斬れないこと。そんな主人公がある日、ひょんなことから何者かに命を狙われている記憶喪失の少女を助ける。少女の命を狙う黒幕を突き止め、少女を守ることができるのか――っていう、大橋もみじお得意の寡黙な剣豪×健気な少女のヒーロー活劇。少女の失われた記憶の謎が、主人公の過去に繋がって最後は因縁の対決になる。大橋もみじにこういう話を書かせたらもう面白くないわけがない。血のたぎるこの格好良さ!
霊夢 さすがに面白いけど、なんか『白狼の咆吼』の中の一エピソードって感じじゃない?
萃香 いや、読みどころは主人公の千里眼斬りの能力と、それへの対抗策を次々と繰り出してくる敵の知恵比べでしょ。ヒロインが死体に怯えるんで主人公は接近戦では不殺縛りがかかるから、敵はいかに千里眼斬りをかいくぐってこっちの懐に潜り込むか、主人公はそれをどうやって阻止しヒロインの視界に入る前に刺客を見分けて斬るかっていう勝負になる。こういう駆け引きは『白狼の咆吼』にはない要素じゃん。
霊夢 主人公のキャラが似てるから、なんかおんなじような印象なのよね。寡黙でクールで根は優しいけど敵には容赦しない、辛い過去持ちって、まんまあっちの主人公じゃない。
萃香 そりゃまあ、そのへんはちょっと手癖で書いてる感じはするけど。わりと人間力学重視で、直接剣を交える前に勝負はあらかた決まってるっていう戦略思想の『白狼の咆吼』に対して、こっちはひとつひとつの戦いに両者があの手この手の戦術を繰り出して勝負するわけで、むしろどっちかといえばこれは『盤上の将を射よ』の路線。『白狼の咆吼』が基本的に真の剣豪の勝負はただ一撃っていう思想だから、単発作品では直接の勝負の駆け引きが書きたいんだろうね。
霊夢 あんた大橋もみじのことになると饒舌ねえ。八坂神奈子賞では反対したくせに。
萃香 うるさいな!(苦笑) 仕方ないじゃん、大橋もみじの書くものが面白いのは空が青いのと同じぐらい自明の真理なんだから。大橋もみじに駄作なし。実力的にはまだ獲ってないことが稗田文芸賞の大失点な作家なんだから、ここであげなきゃダメでしょ。
霊夢 私はそこまで言う気にはなれないわねえ。読んでる間は楽しくてあっという間に読めるけど、読んだあと特に何も残らないから。
萃香 この格好良さに痺れない霊夢が不感症なだけじゃん! テンション低いなあ。
霊夢 あんたが盛り上がりすぎなのよ。それに、世間的な大本命がそのまま獲ったのって幽香のときが最後じゃなかった? 今回もまたそのパターンなんじゃないの。
萃香 ううむ、相手が相手だけに充分考えられるのが悔しい……(苦笑)。


◆幽谷響子『パンクロックシャウト』(命蓮寺)二回目
  予想…霊夢- 萃香-  評価…霊夢C 萃香C

萃香 幽谷響子は第九回で阿求に絶賛された『リピート・アフター・ミー』以来だっけ。
霊夢 今回はそれとは全然路線が違うわね。
萃香 ミスティアと組んでやってるパンクバンド「鳥獣伎樂」をモデルにした音楽青春小説だね。里の旧弊な因習に苦しんでいる人間の少女が、山彦と出会ってシャウトの快感に目覚め、世の中への鬱憤を叫んで吐き出すパンクバンドとしてデビュー。大人の無理解と戦いながら青春を燃やしているうちに、その熱気が同じ鬱憤を抱えた若者へ伝播していて、里の旧弊を変える大きなうねりになっていく……っていう、要は音楽が世界を変える話。音楽小説はどうしても虹川月音と比べられる辛さがあるけど、虹川作品との差別化はうまくできてるよね。
霊夢 ここで出てくる無理解な大人って、どう考えても白蓮よねえ。
萃香 モデルなのは間違いないね(苦笑)。まあしかし、幽谷響子作品の弱点は今回も変わってない気がする。何を書いてもなんか借り物というかモノマネっぽいんだよね。人間の少女の抱える里への鬱屈は書き方が関万旗作品に似すぎだし、バンド描写は堀川雷鼓の『ハードビート・ドリーマー』の真似にしか見えない。旧弊な社会に対する若者のレジスタンス部分は河城にとりの八坂神奈子賞獲ったノンフィクション『山童プロジェクト』が元ネタだってすぐわかるし。
霊夢 そういえば、いつだったか恋愛文学賞の候補になったやつはミスティアの作品の設定丸パクリだったわね。なんだっけ?
萃香 『声を聞かせて』ね。元ネタのミスティアの作品は『くらやみのうたはきこえない』。設定は一緒だけど響子は恋愛小説でミスティアはジュヴナイルだから、まあパクリって糾弾するほどのもんじゃないと思う。これはお互い仲いいから本人の了解とってるだろうし。
霊夢 ああ、それそれ。ま、設定が似てる話なんて他にもいくらでもあるけど、なんでか響子の書くものはそこが気になるのよねえ。
萃香 たぶん過去に読んだものに影響されすぎるんだろうねえ。小説技術的には『リピート・アフター・ミー』の頃よりだいぶ上達してるんだけど、そのぶんかえって他作家からの影響が露骨に見えやすくなっちゃってる。他人の完コピも古明地さとりぐらいまでいけば一流の芸だし、過去に書かれたネタを自分なりに書き直すってのは別に間違ったことじゃないんだけど、どうもいろんな作品のつぎはぎっぽく見えちゃう。
霊夢 まあでも、散々言いたくても言えなかったことをシャウトし続けた主人公が最後、本当に一番言いたかったことがどうしても小さな声でしか言えないっていうラストシーンはいいんじゃない。ラストに大声で叫び合う『リピート・アフター・ミー』と対になる感じで。
萃香 うん、そこだけはすごくいい。だから『リピート・アフター・ミー』と一緒で読後の印象だけは妙にいいんだよね(苦笑)。今回もこのラストがいいから候補になったんだろうけど。恋愛文学賞獲った九十九姉妹を候補にした方が良かったと思うなあ。
霊夢 今回も阿求は褒めるかもしれないけど、受賞はないかしらね、さすがに。
萃香 白蓮は今回も「弟子だから」って言ってスルーだろうけど、これはちゃんと選評書いてほしいなあ(笑)。


◆二ッ岩マミゾウ『エイリアンはもう帰れない』(稗田出版)初
  予想…霊夢○ 萃香▲  評価…霊夢A 萃香B

霊夢 そういえばマミゾウって初候補だったわね。
萃香 『天野ジャックは嘘をつかない』で第二回稗田児童文芸賞を獲ってるし、露天風呂覗き集団を巡る抱腹絶倒のドタバタコメディ『眼福茶釜』で第四回八坂神奈子賞候補にもなってるけど、稗田文芸賞では初だね。ま、メインフィールドは児童文学や、別名義でやってる外の世界の狸絡みのおとぎ話の翻案だし。
霊夢 人間の里にどこかから現れた、妖怪でも妖精でも霊でも神でもない謎のエイリアンと、里の少女との友情の話。嫌味なぐらい巧くてむかつく。
萃香 むかつくのにA評価なんだ(笑)。
霊夢 仕方ないじゃない、ちょっとじんときちゃったんだから悔しいわ。
萃香 霊夢の目にも涙(笑)。いや実際ほんと惚れ惚れするほど巧い。誰もが怯える恐ろしい姿をしたエイリアンを唯一恐れない少女は、彼女もまた顔に大きな痣があって醜いと蔑まれる存在で。この幻想郷のどこにも居場所のないふたりの姿は、そのまま外の世界での妖怪の姿として読める。主人公たちは必ずしも純粋無垢な聖人君子じゃないし、主人公ふたりの醜さに偏見を向ける里の人間に対してもあくまでフラットな視線を向けて「なぜ人間は醜いものを忌避するのか」っていう話に持っていって、主人公たちを単純な悲劇のヒロインに安住させないところのバランス感覚なんか全く可愛げがない(笑)。
霊夢 人間の方が、エイリアンに掴まって空を飛ぶシーンが二回あるじゃない。
萃香 ああ、めちゃくちゃ巧いシーンだねえ。序盤で少女が初めて空を飛んだときは、自分を迫害する里を高みから見下ろしたいっていう願いで。終盤でもう一度空を飛ぶときには、同じ高さから見下ろした里の光景が全く別のものに見える。「ちっぽけな里」っていう全く同じ台詞が全く違う意味になって。夜空の三日月に重なるふたりの姿が瞼に浮かぶような名場面。
霊夢 後半の方、この私が空を飛ぶシーンでグッときたのなんて悔しいけど魔理沙のアレと宇津保凛のアレ以来よ。
萃香 『星屑ミルキーウェイ』と『イカロスは太陽を夢見る』? 霊夢、それ過去最高レベルの評価じゃん。なんで本命じゃないの?
霊夢 いい作品だけど稗田児童文芸賞で評価すべき、って言われそうじゃない?
萃香 わかる。あと一番こういうの好きそうな白蓮が選考辞退する気が。身内でしょ?
霊夢 あ、マミゾウはとっくに命蓮寺出てるわよ。
萃香 え、そうなの? 居候だと思ってた。
霊夢 信者に博打勧めたりして風紀を乱すから追い出されたって聞いたわ。だからこれも稗田出版から出てるわけじゃない。あんたはなんでB評価なの?
萃香 いや、特にエイリアンの話はめちゃくちゃ身につまされるんだけどさ。いろいろヘビーな問題に引っ掛かるように書いていながら作者自身の意見表明は周到に避けて、色んな意見のバランスを取る形で作中のテーマの処理に関して読者の批判を予想して先回りで潰してるっぽく見えるところが、いかにも世間ずれした立ち回りの巧い大人っぽくてちょっとイヤ。
霊夢 難癖じゃないのそれ。
萃香 そうだよ難癖だよ(笑)。「巧すぎて嫌味」ってのは本当言い得て妙だねこの作品は。


◆卯堂院レイス『狂月の狙撃手』(竹林書房)初
  予想…霊夢- 萃香-  評価…霊夢D 萃香B

萃香 卯堂院レイスの候補入りは仰天したね。稗田文芸賞だけは絶対ないと思ってた。
霊夢 前に八坂神奈子賞の候補になったやつは読んだわよ。なんだっけ。
萃香 『喪心創痍の狂視調律師』ね。ちなみに「そうしんそういのイリュージョンシーカー」と読みます(笑)。で、今回の『狂月の狙撃手』の読みは「ルナシューター」(爆笑)。
霊夢 このへんの作品よく知らないんだけど、レミリアと同じ枠ってことでいいの? あんたこのへんもだいたい読んでるんでしょ。
萃香 子供向けの児童文学・ジュヴナイルと大人向けの一般小説のちょうど中間層を狙った、俗っぽい娯楽小説だね。里の若者とか血の気の多い若い妖怪に好んで読まれるタイプのやつ。幻想郷ではミス・レッドラムの血みどろアクション小説とか、プリンセス公魚のラブコメ小説とか、キース桶井のB級ホラー小説とかが代表的なところかな。神奈子によると外の世界では「ライトノベル」っていうらしい。菫子がいれば詳しく聞きたかったんだけど。
霊夢 その中で卯堂院レイスってどういうポジションの作家なわけ?
萃香 売れっ子ってほどじゃないけど、熱心な固定ファンに支えられた中堅作家かな。
霊夢 ふうん。まあ、これもそんな悪くはないけど、わざわざ候補にするほどのもの?
萃香 どうだろうねえ(苦笑)。まあ、卯堂院作品の中では一番一般受けしそうではある。卯堂院作品の特徴はなんといっても造語とルビ芸で、作中にガンガン変な造語を突っ込んで、何でもない単語にまでいちいちかっこよさげなカタカナのルビを振る(笑)。でも今回はそれがちょっと控えめ。
霊夢 これで控えめなの? ま、確かに前に読んだやつはもっと多かった気がしたけど。
萃香 話の方は去年の月侵略騒ぎがモデルだね。主人公は月からの脱走兵。ある日、月が何者かに襲撃され、旧友が救援を求めてくる。月の兵器が一切通用しない敵を倒せるのは、地上の穢れをその身に宿した主人公だけ。月時代からの愛銃を手に、主人公は故郷を救うため単身月へと向かう。言ってしまえば門前美鈴の格闘小説のガンアクション版(笑)。今までの卯堂院作品は無駄に凝った設定の話が多かったんだけど、今回はシンプルだね。そのぶんスマートにまとまってて、ルビ芸にさえ慣れれば大人でも読みやすいと思うし、卯堂院作品の中ではベストに入る出来だと思うけど、霊夢の評価は低いね。Dつけるほどじゃなくない?
霊夢 いや、いくらなんでも自分を美化しすぎでしょ。
萃香 そこかよ! いやあ、そいつは言いっこなしでひとつ(苦笑)。
霊夢 だからモデルが露骨な話って当人の顔が浮かぶから反応に困るのよ。
萃香 気持ちはわかるけどさ。まあでも、受賞はさすがにないよね。


◆青嵐リンゴ『美味しいお団子のつくりかた』(稗田出版)初
  予想…霊夢- 萃香-  評価…霊夢B 萃香C

霊夢 タイトル見たとき料理書だと思ってスルーしてたわ。
萃香 同じく。候補になったって聞いて「小説だったのかよ!」って慌てて読んだよ。内容はミスティア・ローレライ『歌声屋台繁盛記』とか、小松町子『幽霊屋台の縁日騒動』とかの系列のお店もの……と見せかけたスポ根料理バトル小説(笑)。ごく近所に店を構える、ライバル関係の二軒の団子屋の話。片方は本能で美味い団子を作っちゃう天才団子職人、もう片方はそれに勝てない努力型という人物配置の時点でスポ根みたいだなと思ってたら、幻想郷全土を巻き込んだ団子職人トーナメントの話になるのには唖然としたね。
霊夢 里の大手商家が大規模な総合甘味店を作ることになって、小さな甘味屋たちがそれに対抗するために立ち上がるって話が、なんでトーナメントになるんだか。いや、面白いけど。
萃香 里の甘味屋代表として主人公ふたりがタッグを組んでトーナメントに挑むわけだけど、何しろ普段は競合店のライバル同士だから全然息が合わない。総合甘味店側がいちいち姑息な妨害工作を仕掛けてきて、それに対抗しているうちにお互いだんだん認め合って、互いの弱点を埋めあうパートナーになっていくっていうバディものになってくと。
霊夢 天才の方は、抜群の閃きはあるんだけど怠け者なせいでアイデアを生かし切れないっていう弱点があって、レシピ通りにしか作れない努力家の方はその几帳面さで天才のアイデアを完璧に形にする。いいわねこういう関係、楽できて。作中のお団子が実際に美味しそうで、お腹が空くのは困りものだけど。
萃香 霊夢も異変解決こういう形でやれば?(笑) 霊夢が異変の犯人を勘で当てて、実際の解決は魔理沙に丸投げするの。
霊夢 うーん、楽そうでいいけど、いちおう博麗の巫女としての沽券が……。
萃香 はいはい(苦笑)。ま、普通に面白いんだけど、熱血とバカバカしさとの中間でどっちつかずな感じがもったいないと思う。バカな設定なんだから「こまけえこたあいいんだよ!」で熱血に振り切ればいいのに、言わずもがなのセルフツッコミがちょっとサムい。ところでこれさ、後で知ったんだけど里の「清蘭屋」って団子屋でコラボやってたんだって。作中のお団子を実際に再現してみましたってやつ。
霊夢 マジで? なんで誰も教えてくれなかったのよ!
萃香 今はもうやってないみたいだけど、受賞したらまたやるんじゃない?
霊夢 今度食べに行くわ。


◆宇津保凛『石桜の降りつむ道』(旧地獄堂出版)初
  予想…霊夢◎ 萃香○  評価…霊夢A 萃香A

萃香 最後は満を持しての宇津保凛。『地の底のイカロス』からのイカロスシリーズ三部作で第一回稗田児童文芸賞を獲って脚光を浴び、その後も『墓場のリンリンちゃん』シリーズや、『運び屋ほむら』『メニューの多すぎる焼肉屋』『地獄極楽ゴーストタウン』などヒット作を連発、今や幻想郷の児童文学では押しも押されぬ巨匠のひとり。大人向けの作品も既に『空に太陽がない限り』や『廃獄グッドバイ』といった作品があったわけで、稗田文芸賞が取り上げるのは遅すぎるってぐらいなもんだけど、大人向けでは間違いなくこれが現時点の最高傑作だから候補になって本当に良かった。
霊夢 マミゾウとどっち本命にするか迷ったけど、まあこっちでしょ。イカロスシリーズで巧いのは解ってたけど、改めてこう見せつけられると降参するしかないわ。
萃香 私はあくまで大橋もみじが本命だと思うけど、作品の出来でいえば獲るべきはこっちと言われれば頷くしかない。地底に降る石桜の景色が懐かしくなったよ。話自体は別に派手な展開があるわけじゃなく、三人の登場人物が石桜の花見をしながら、過去に失った友人のことを回想する形の三編の連作。それぞれの記憶の中のちょっとした疑問が物語のフックになるから、敢えてジャンル分けすれば過去探し系のミステリーだね。その回想は他の二人に向けて語ってるわけじゃないところがミソで、読んでいくと三人の回想がちょっとずつ重なり合って、読者にだけ物語の全体像が見えてくる。語り手の三人はみんな一切その全体像には気付かないまま、真実とは全然違う結論を自分の中で出して終わるんだけど、それでいいんだって思わせる距離の取り方がホント絶妙。
霊夢 桜の下に埋められた死体の魂が結晶化して地底に降る石桜が、語り手それぞれの記憶は死者にとっては事実の断片でしかないっていうことの象徴になってて。誰もいない旧都の街道にしんしんと石桜が降り積もっていくラストシーン、ほんと綺麗よね。
萃香 語り手が疑問に思う記憶の謎の部分が、読んでる自分にだけ答えがわかってる。こういう形は下手にやるとイライラするだけなんだけど、この作品は読者の優越感を絶妙にくすぐってくる。全知だけど全能じゃない神様になって物語を見下ろす快感ともどかしさ。
霊夢 宇津保凛って地霊殿のあの猫でしょ? この構造ってさとりの能力ネタなのかしらね。
萃香 たぶんね。心が読めるからひとりだけ真実が見えるサトリ妖怪の立場を小説化するみたいなコンセプトなのかな。だから構造が古明地さとりの第九回稗田文芸賞受賞作『六花』に似てるんだけど、こっちの方がずっとわかりやすくて読みやすい。『六花』をクサした霊夢が絶賛してるんだからそれは保証する(笑)。
霊夢 うっさいわよ。パチュリーがいたら『六花』の方がずっといいって言うんでしょうけど、いないんだからこれが獲るでしょ。慧音だって白蓮だって藍だって阿求だってこれには文句言わないでしょうし。抵抗するのは文ぐらいじゃない?
萃香 自分の作風に近い幽々子がどう出るかな。
霊夢 あー、確かに幽々子の『桜の下に沈む夢』とか『蝶』のイージーモードっぽいわね、ちょっと。でも幽々子は別に何かを落とすために全力出すようなタイプじゃないし。
萃香 だねえ。まあでも、前回がああだったから蓋を開けてみないことには……(苦笑)。


◆まとめ
萃香 さて、どうする? いちおう票読みしとく?
霊夢 なんで弱気なのよ。
萃香 いやだってさ、前回ここでの票読み自体はだいたい当たってたわけじゃん。そのうえで推すのは幽々子ぐらいじゃないかって言った通りだった秋静葉が受賞したわけだから、こうなると果たして票読みに意味があるのか(苦笑)。
霊夢 票読みしなきゃこの予想コーナーが終わらないからするのよ。
萃香 はいはい(苦笑)。つっても今回は全体的に票が読みにくい気がするんだけど。
霊夢 ああ、確かに慧音とか『千里』『エイリアン』『石桜』のどれ推してもおかしくないわね。まあでも『石桜』じゃない? 阿求も順当に『石桜』でしょ。
萃香 案外慧音は『千里』が好きそうだと思うんだけどなあ。人間を守る話だし(笑)。白蓮は一番好きそうなのが『エイリアン』だけど、マミゾウはもう身内じゃないってことで推すのかね。そうでなきゃ『千里』だと思う。幽々子は『お団子』が好きそうだけど(笑)、推すとしたら『石桜』か『エイリアン』かな。
霊夢 咲夜と藍は?
萃香 その二人が一番読めないね。どっちも好みのど真ん中って感じの作品が候補になってないから、三強のうちどれを推してもおかしくないけど。
霊夢 藍とマミゾウって仲悪くなかった?
萃香 狐と狸だからね(笑)。でも藍が選考委員やってる児童文芸賞をマミゾウが獲ってるわけだし。これで藍と咲夜が二人して『狂月』に行って文も乗って受賞させたら潔く予想屋の看板下ろそうかな(笑)。
霊夢 あとは文が『千里』を推すのかどうか、ってとこ?
萃香 第九回で『盤上の将を射よ』を推さなかったぐらいだからなあ……(苦笑)。
霊夢 『千里』を推さなかったら『狂月』か『エイリアン』でしょうね、文は。
萃香 結局『千里』と『石桜』の二作受賞あたりと予想しとくのが無難なのかなあ。
霊夢 普通に『石桜』の単独受賞じゃないの?
萃香 とか言ってるとマミゾウの単独受賞だったりするわけだよ(笑)。もうわからん!
霊夢 じゃ、サイコロでも振って決める?
萃香 サイコロ博打になったらマミゾウの勝ちだろうね(笑)。

(文々。新聞 師走20日号より)

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