Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

魔理沙としいたけ栽培

2016/06/22 00:11:15
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その日の魔理沙は機嫌が良かった。自宅で栽培しているしいたけの生育が順調だったからだ。
魔理沙は自宅兼店舗である霧雨魔法店の裏庭に設けたビニールハウスで、おが屑と米ぬかを混ぜた固まりにしいたけの菌糸を植え付け、育てていた。

「ふふん、やっぱり食用キノコは自家栽培が基本だぜ。手塩にかけて育てたキノコの味は格別だし、そもそも野生のキノコを常食するなんて自殺行為!」

嬉しさに独り言が止まらない魔理沙。確かに野生のキノコはプロでも毒性と食生の判別が難しい場合がある。
あまり金回りが良いとは言えない魔理沙は、こうして食費の節約のためにしいたけを自家栽培していた。
魔法の森で収穫する野生のキノコはあくまで魔法の実験用である。

「お、こいつなんか大きく太った傘がいい感じじゃないか!」

一際大きく育ったしいたけを見つけた魔理沙は、さっそく一本もいで籠に入れた。
魔理沙は次の菌床に移ると、食べ頃に育ったものがないかチェックする。

「う~ん、こいつらはまだ伸びしろがあるな……とりあえず明日また様子を見るか」

どれも決して小さくはないが、今もいでしまうのはもったいない気がする。もう少し育ててからでも遅くはないだろう。
全ての菌床を見まわり、目ぼしいものを収穫した魔理沙は、ビニールハウスから出て伸びをした。

「ふぁ~あ。さて、今日の収穫は終わったし、あのデカイやつ食べてみるか!」

魔理沙は裏口からキッチンへ入ると、しいたけの入った籠を下ろした。
そして、先ほどの大きなしいたけを取り出すと、おが屑を払い、軽く水で流すとまな板の上に置いた。
まずは半分に割き、片方を上からトントントントン、と薄く包丁を入れる。切り終わると、もう片方も同じ要領で切っていく。
しいたけを切り終わったら、魔理沙は冷蔵庫からバターと醤油を取り出した。ちなみに、この冷蔵庫は香霖堂からタダ同然で買ってきた故障品だ。
幻想郷に電気は通っていないため、電源は入っていないが、氷結魔法で内部に冷気を滞留させているため、密閉さえできていれば問題ない。
さて、ここからが本番、と言ってもやることはほとんど無い。まずフライパンを熱し、バターを溶かして広げる。
そして切ったしいたけを炒めて、醤油で味付け。皿に盛り付ければ出来上がり。しいたけのバター醤油炒めの完成である。

「わお、いい匂いだぜ!いただきま~す!」

香ばしい匂いの出来立て熱々を口に放り込む。

……美味い!!
頭の中でファンファーレが鳴り、背後でピンクのライトが輝きそうなほど美味い!

「さっすが私のキノコだぜ!やっぱ専門家が育てると違うな!」

単にしいたけの汎用性が高いだけの気もするが、とにかく魔理沙は自画自賛すると、バター醤油炒めをあっという間に平らげてしまった。
さて、これからどうしよう。皿を洗いながら魔理沙は考える。しいたけの世話は済ませてしまったし、午後の予定はない。

「よし、パチュリーのところに本でも読みに行くか」


魔理沙は表に出ると箒にまたがり、紅魔館目指して飛び立った。
魔理沙邸から紅魔館までは歩くと少しばかり距離があるが、空を飛べばほんの10分ほどで到着する。
あそこだ。開け放たれた図書館の大きな窓。地上で門番がこちらに向かってなにやら叫んでいるがよく聞こえないので無視。
滑りこむように図書館に侵入すると、中で本を読んでいた少女の前に飛び降り、着地を決めた。

「……窓ガラスぶち破らなかったことは褒めてあげる」

図書館の主、パチュリー・ノーレッジは目だけを動かして魔理沙を見て、ぼそぼそとつぶやいた。
慣れたものらしい。別段騒ぎ立てることもなく、再び本に目を落とした。

「よっ、パチュリー。今日はいいもん持ってきてやったぜ!うちで採れたばかりのしいたけ!」

魔理沙は得意気に、しいたけが5,6個入ったネットを見せつけた。

「いらないわ……」
「なんだよ~、バター醤油で炒めると最高なのに……まぁ、いいや。ちょっと暇なんだ、本読ませてくれよ!」

どうせ帰れと言っても帰るまい。ちょうど少し目が疲れてきたところだ。うっかり“借り”られないよう、監視も兼ねて話し相手にでもなってもらおう。

「貴女が普通のキノコを育ててるなんて意外ね。放射性物質の固まりに生える毒々しい色の怪しいキノコにしか興味が無いと思ってたわ」
「失礼だな!人をマッドサイエンティストみたいに!」
「しいたけを育ててるの?それなら、効率的な栽培法を記した本が書架第138572番にあったはずよ」
「じゅうさんまん……あぁ、パチュリー?それってすぐ持ってこれないのか?」
「ふふ、大丈夫よ。今、検索魔法をかけるから」

パチュリーは立ち上がると、書架が立ち並ぶ空間に手をかざした。
するとパチュリーの手のひらに魔法陣が浮かび上がり、書架を囲む三方の壁が異次元と化した。
そして次の瞬間、重さ数百キロはある書架が、凄まじい速さで組み木パズルを解くように配置を変え始めた。

「うおっ!?」

猛スピードで動く重量物に圧倒される魔理沙。
異次元から次々と書架が出ては消え、出ては消えを繰り返し、数分で動きをピタッと止めた。異次元化した壁も元に戻っている。

「あったわ」

パチュリーが1冊の本を指差すと、その本は吸い寄せられるように飛んできて、その手に収まった。“きのこの生体と科学”というタイトルの本。
パチュリーが魔理沙に手渡そうとした瞬間にひったくられた。

「サンキュー、パチュリー!これで私の可愛いしいたけも元気よく育つぜ!」
「言っとくけど禁帯出だから」
「ふむふむなるほど、キノコは痛めつけられるとよく育つのか」

聞いちゃいない。まぁ、どうせしいたけを育てることなんて一生ないから別にいいけど。
……いや、やっぱり美鈴に花の代わりに栽培させてもいいかも。

「よし!すっごい参考になった。ありがとなパチュリー!これしばらく借りてくから!」
「話聞いてた?」

言い終わる前に魔理沙は窓から飛び去ってしまった。しいたけ栽培は諦めよう。今はそれより大事なこともあるし。

「咲夜」

パチュリーは誰もいない空間に向けて呼びかけた。

「はい」

するとメイド姿の少女が突然現れた。瞬間移動などではなく、その空間に気配もなく1人の存在が出現した。

「……しいたけはバター醤油でお願い」
「かしこまりました」


所は再び魔理沙邸に。
魔理沙はさっそくパチュリーから借りた本に書いてあった方法を試そうとしていた。
あの本には、ほぼ全身を覆うような真っ白い作業服を着た農家の男性が、先端が丸い金属の棒で、キノコに静電気を浴びせている写真が載っていた。
今朝収穫しなかった中途半端な大きさのしいたけも、この方法を試せばすぐに成長するはずだ。
魔理沙は右手に八卦炉を固定し、雷の術式を唱えながら、少しずつ慎重に魔力を注ぎこむ。すると八卦炉がパチパチと小さな放電を始めた。
よし、今んところは順調。そして、こんもりとしいたけが生えている菌床に近づけると、静電気がしいたけの傘を叩き始めた。

「よ~し、よ~し、大きくなれよ」

全てのしいたけにまんべんなく電気を浴びせると、魔理沙は他の菌床にも八卦炉をかざしていく。

「うりうり、これがいいのか?このドMめ!」

だんだん楽しくなってきた魔理沙は、時間が立つのも忘れて全てのしいたけに刺激を与えていった。


翌日。
「うおおおおお!!」

はた迷惑な叫び声で野鳥たちがバサバサと飛び去っていった。声の主はもちろん魔理沙である。

「で、でかい!こいつも、こいつも、あっちもだ!」

早くも昨日与えた電気ショックの効果が現れていたのだ。
あの採るべきかどうか迷ったしいたけ達は、どれも肉厚な傘と立派な軸に成長していた。
他の菌床のしいたけも、今までとは比べ物にならない速さで大きくなっている

「すごい!すごいぜ、電気ショック!」

それからも魔理沙は、新たなしいたけ栽培法で大ぶりのしいたけを大量生産していった。
苗床の数も増やし、ローテーションで育てることにより、毎日Lサイズしいたけで、バター醤油炒め、煮付け、味噌焼きなどで舌鼓を打ち、豪遊(?)生活を送っていった。
しかし、いくらしいたけの調理法が多くとも、食材が同じではいつかは飽きが来る。

「あー……もう食べらんない」

魔理沙も正直しいたけ三昧の生活に若干嫌気が差し始めていた。
とは言え、肉など買う金などあるはずもなし、増やしすぎたしいたけを処分するのはもったいない。
その時、天啓が降りたというべきか、小人閑居してなんとやらというべきかはこの際捨て置き、とにかく魔理沙に一つのアイデアがひらめいた。

「世界で一番でっかいしいたけを作ってやる!紫のパラソルみたいに!」

なんでこんなこと考えたんだろう、と後に本人は述懐するが、今は今の話を続けたい。
魔理沙は裏庭のビニールハウスに向かうと、一番大きなしいたけを選び、念入りに電気ショックを与えた。
翌朝見てみると、やはり一回り大きくなっていた。その日も大きくなったしいたけに、入念に電気を浴びせてから寝床についた。一層成長したしいたけを夢見ながら。
そして次の朝、立派になったしいたけを期待してビニールハウスに飛び込んだ魔理沙は落胆した。腐っていたのだ。
たくましかった軸はぐにゃりと折れ曲がり、傘の裏側からもなにやら液体が漏れている。

「えー……何がいけなかったんだ?」

その後も、農業用肥料を与えてみたり、他の菌床と離して育ててみたり、試行錯誤を繰り返してみたが、どうしてもある程度の大きさで頭打ちになってしまうのだ。

「一体なにがいけないっていうんだ?」

腕組みをして考える魔理沙。そうしてうんうん唸っていると、右手に目が行った。

「そうだ、これだ!これだよ!電気が足りなかったんだ!」

そうと決まれば話は早い。魔理沙は八卦炉を天に掲げ、雷の術式を詠唱した。
すると、それまでの青空が一転、暗雲に覆われ、ゴロゴロと雷鳴が轟き始めた。
魔理沙は雷雲に向けて八卦炉を通し、フルパワーの魔力を撃ち込んだ。

「サンダアアァーーーーーー!!」

一瞬。空が光り、一条の雷がビニールハウスに落下した。
それから何分経っただろう。雨で体はびしょ濡れだが、体は冷えきっていないことから、少しの間気を失っただけだということはわかった。
いや、代わりに多くのものを失った。ビニールハウスのシートはドロドロに溶け、化学物質特有の臭いを発していた。
鉄骨は焼け焦げ、何より、手塩にかけて育ててきたしいたけが菌床もろとも消し炭になってしまっていた。

「ああ……私のしいたけ、ライフライン、マイドリーム……」

魔理沙はショックで足から力が抜け、地に手をついた。


数日後。
ようやく外出する程度の気力を取り戻した魔理沙は紅魔館に向け、箒を飛ばしていた。
いつものように門番が叫んでいるが魔理沙の耳には届かない。その目は虚ろで何も考えず、感覚だけで図書館に入っていった。

「元気ないわね。あのしいたけ、なかなかだったわよ。魔法使いなんて辞めて、キノコ農家に転職したら?」
「……返す」

パチュリーのからかいにも耳を貸さず、魔理沙は1冊の本をテーブルに置いた。“きのこの生体と科学”。先日パチュリーから強引に借りて行った本だ。

「あら珍しい。貴女が本を返すなんて。ついでに今まで貸した本も返してくれると嬉しいのだけど?」
「頼む……」
「え?」
「何か食べさせてくれ……ここんとこ、なにも食べてないんだ」
「そういえば頬がこけてるわね。別にいいけど……咲夜!」
「はい、こちらに」

咲夜がドームカバーを置かれた一皿をカートに乗せてやってきた。そして、咲夜がドームカバーを取ると。

「ひっ!」
「しいたけの直火焼き、バルサミコソース添えでございます」
「もお、しいたけはたくさんだああぁぁぁ!!!」

ちゃんちゃん
昔、DECOというオリジナリティのある良質なゲームを作る会社があったのですが、しいたけ栽培で…いえ、なんでもないです。バター醤油焼きはエリンギにもいいですよね。
AK
コメント



1.ほうじ茶削除
幻想郷は今日も平和だね。いい雰囲気でした。
しかし途中で魔理沙が何かに目覚め…何でもないです、すみません(^^;
2.AK削除
>ほうじ茶 さん
お読みいただきありがとうございます。
なんだか途中から東方SSか、しいたけSSかわからなくなりそうでしたが、
ちゃんとした形になったみたいでよかったです。
魔理沙の趣味については…お互いノーコメントにしときましょうか(笑)
3.名前が無い程度の能力削除
欲をかいて失敗するあたりが魔理沙らしいですね。

こちらの勘違いであれば申し訳ないのですが、もしや石づきを傘と勘違いされていませんか?
石づきは軸の根元の硬い部分のことです。
4.AK削除
>名前が無い程度の能力 さん
あ、おっしゃるとおりです。完全に傘の部分と思い込んでいました。お恥ずかしいです。
ご指摘&お読みいただきありがとうございました。
5.AK削除
ご指摘いただいた点を修正しました。「石づき」から「傘」としました。龍騎の時は迷った挙句、ご指摘のコメントと本文が食い違うと、
後からご覧になった方が意味不明になるのではと思い、あえて修正しなかったのですが、今後は間違えていた内容と修正内容を併記することにします。