その日。
魔理沙、アリス、パチュリーは慧音の依頼を受け、紅魔館の図書館に集まっていた。
真司から預かったSEAL-封印-のカードを量産すれば、ミラーモンスターの脅威を劇的に減少させることができる。
カードの仕組み自体は真司にも解らないため、幻想郷の頭脳派3人の出番となったのだ。
「カラーコピーじゃダメかな」と言った真司が蓮に「アホ」と突っ込まれていたのは余談である。
パチュリーが黒檀のテーブルに魔法陣を描き、中央にSEALのカードを配置する。
「行くわよ」
「いつでもいいぜ」
「OKよ」
まず、パチュリーがカードの能力を開放、カードが能力を発動した時点で魔理沙が起動した魔法を強引に魔力で押さえつけ、
処理スピードを落としている間にアリスが大量の人形たちに浮かび上がったアルゴリズムを写しとらせるという手筈になっている。
知識、力、技術の三位一体でカードに記録されている情報をコピーしようという訳だ。
パチュリーが聞き取れないほどかすかな声で呪文を詠唱する。小さな唇がすさまじい速さで動くと、細い指先がぽうっと光る。
残る2人はカードの情報を捕まえようと身構える。そしてパチュリーが光る指先で魔法陣のカードに触れた瞬間──
ドウッ!!とカードから巨大な風圧が放たれ、3人共吹き飛ばされた。
書類の束は天井まで舞い上がり、書架がドミノ倒しになり、遠くで小悪魔の悲鳴が聞こえた。
「魔理沙、早く!カードを何とかして!」
「わ、わかったぜ!!」
魔理沙は這うようにテーブルに近づくと、両手に全魔力を込め、なお烈風を放ち続けるカードのエネルギーを抑えこんだ。
そして、なんとか魔法陣に両手をつくと、カードは何事もなかったかのように大人しくなり、図書館に静寂が戻った。
「ゲホゲホッ……一応聞くけど成果はどうだった?」
喘息持ちのパチュリーが呼吸を整えてから2人に聞いた。
「見ての通りだぜ。あんなじゃじゃ馬抑えてろとかマジ無理」
「なんなのよこれ……たった1枚のカードにグリモワール3冊に匹敵する情報が集約されてる。
次元開放、強制封印、自己消滅。こんな大掛かりな術式3つなんてとてもカード1枚に圧縮できない。
できたとしても使用者が莫大な魔力を持っている必要があるわ」
「全体量としてはどれくらい?」
「1000分の1にも満たない。魔道書3冊の目次を見た程度ね」
──キィィーーーン……
その時、彼女たちの耳に甲高い音が響いた。
「無駄なことは止めろ。カードを操る資格があるのはライダーだけだ」
ハッと3人が振り向くとそこにはコートを着た長身の男が立っていた。いつからいたのか分からない。
ただ、その佇まいと声には不気味な凄みがある。3人はいつでも弾幕を放てるよう戦闘態勢を取る。
しかし、謎の男は気に留める様子もなく、
「カードの主に伝えろ。“戦え”と」
それだけを言い残し、男はミラーモンスターと同じく、ひび割れたステンドグラスに消えていった。
「何だったのアイツ……」
アリスが共通の疑問を口にすると、
「今回の黒幕よ」
忌々しげな口調で告げたのは、スキマから出てきたばかりの八雲紫だった。
「黒幕ってどういうこと……?」
「そのままの意味よ。ミラーモンスターが現れたのは、あいつの仕業」
紫は先だって先程の男と接触した時のことを話しだした。その名を神崎士郎という。
──
「……予定外の事態でライダーバトルが停滞している」
コートの男は街道を歩きながら一人対応を思案しつつ呟いた。
当然誰に話したわけでもないが、後に続くように女性の声が聞こえてきた。
「こちらも想定外の事態で困っておりますの」
振り返るとパラソルを差した女性が立っていた。
太極図のプリントが目を引く特徴的なドレスと、足元まで届こうかというブロンドが印象的で、
それにふさわしい美しい顔立ちは男女問わず見たものを思わずハッとさせる。
しかし、この美女こそが幻想郷最強クラスの妖怪にして幻想郷の管理人、八雲紫である。
「他人の家に獣を放し飼いにするのはお止めになって」
「貴様が拉致したライダーを在るべき場所へ返せ」
お互い初対面だが、名乗りも挨拶もせず要求だけをぶつけあった。
「わたくしも必要ならば外界に赴いて調べ物くらいは致しますの。
当然貴方のこともよく知っていますのよ、清明院大学出身の神崎士郎さん?」
「それで俺を“よく知った”気でいるのか。幻想郷の世話係、八雲紫」
「あら、わたくし達をご存知とは光栄ですわ」
「ライダー達に無限のバトルフィールドを用意している俺が、ここの存在を知らないとでも思っていたのか」
「では、幻想郷にミラーモンスターを放ったのはそれなりの理由と覚悟があっての事かしら?」
「副次的な現象だ。外界で行われていたライダーバトルの余波が、ここまで及んでいるに過ぎない」
「なら今すぐバケモノ共を何とかしろ!!」
紫は、それまでの淑女然とした口調から一転、殺意を帯びた怒声を上げた。
しかし、神崎は動じることなく、
「知った事か。貴様らも人のことを言えた義理ではあるまい」
「何が言いたい。言葉は慎重に選べ。さもなくば後悔する前に八つ裂きにする」
「ここの“掟”とやらだ。“外界人は殺して食って構わない”そして、その外界人を攫っているのは他ならぬ貴様だ。
殺すのはいいが殺されるのは御免被る。随分愉快なルールだな」
「……死にたがっている者、自殺志願者だ」
「たかが、いちモンスターが神にでもなったつもりか?命の扱いを決めて良いのは所有者だけだ。
所詮ミラーモンスターと貴様ら妖怪共がしていることは同じこと。
ライダー達はその命をライダーバトルに掛けた。それを妨害する権限は貴様には無い」
それだけを言い残し、神崎は去っていった。
後ろから攻撃したところで奴には効くまい。紫はそれを見過ごすことしか出来なかった。握りしめたパラソルは完全にひしゃげていた。
──
「幻想郷の“ルール”ね……」
パチュリーがため息混じりにつぶやく。
「確かにそれ言われると辛いなぁ……」
そしてボリボリと頭をかきながら魔理沙が続くと、
「何?あなたも奴の言い分が正しいっていうの!?私たちの幻想郷が存在自体間違いだったって言いたいの!?」
八雲の怒りに火がつき、魔理沙に食って掛かる。
「そ、そんなこと言ってないし、私に八つ当たりされても困るんだぜ……と、とにかく私は慧音に実験は失敗だったってこと伝えてくる」
魔理沙は逃げるようにSEALのカードを持って箒で飛び去っていった。
「私も帰るわ。なんだかたった1時間で凄く疲れた……」
アリスも空を飛ばずにドアから退室し、帰路についた。疲労しているときは飛ぶより歩いたほうが楽らしい。
「認めない……あの男……引きずり出して……」
まだ怒りの収まらない紫は何やらブツブツ言いながらスキマで帰っていった。
「……はぁ、これどうしよう」
誰もいなくなった後、貧乏くじを引かされた形になったパチュリーは、めちゃくちゃになった図書館を見て一人ため息をついた──
……と、本来は一旦ここでの話は終わる。しかし、図書館の惨状に紛れてしまい、パチュリーも気づかなかったが、
神崎の去り際に、とある死闘が演じられていたことも語らなければならない。一旦時系列を巻き戻す。
『TIME VENT』
「無駄なことは止めろ。カードを操る資格があるのはライダーだけだ」
ハッと3人が振り向くとそこにはコートを着た長身の男が立っていた。いつからいたのか分からない。
ただ、その佇まいと声には不気味な凄みがある。3人はいつでも弾幕を放てるよう戦闘態勢を取る。
しかし、謎の男は気に留める様子もなく、
「カードの主に伝えろ。“戦え”と」
それだけを言い残し、男はミラーモンスターと同じく、ひび割れたステンドグラスに消え──ようとした。
「お待ちになって。当館では不法侵入者には相応の対価を支払って頂いておりますの」
いつの間にかメイド服を着た銀髪の少女が神崎のそばに立っていた。
少し離れたところにパチュリー達がいるのだが、皆、蝋人形にでもなったかのようにピクリとも動かない。
少女が特殊能力で自分と神崎の周囲以外の時間を停止させたのだ。銀髪のメイドは軽く辺りを見回し、続ける。
「そうですわね。貴方には……お嬢様の夕食になっていただきましょう」
「……任せる」
神崎はメイドを見ることもなく、それだけを言い残すと、今度こそステンドグラスに消えていった。
「待ちなさい!」
銀髪のメイド、十六夜咲夜も追いかけようとしたが、目の前に黄金色の人影が立ちはだかる。
「フンッ!」
その人影は、突然咲夜に向かって裏拳を放ち、追跡を止めた。
咲夜は瞬時に身を屈めて裏拳を回避したが、神崎を取り逃がしてしまった。
咲夜は改めて謎の人影を見る。黄金の装飾が施されたアーマーとベルト。そして身の丈ほどある鳳凰を象った錫杖を持っている。
このライダーこそが、ライダーバトルの大きな鍵となる存在。仮面ライダーオーディンである。
咲夜は考える。これが今、幻想郷を騒がせている仮面ライダーの1人なのか。
しかし、いずれにせよ紅魔館にとって敵なのは間違いない。幻想郷、ひいてはお嬢様に仇なす存在に死の制裁を。
咲夜はどこに仕舞っていたのか、両手の指にナイフを挟み、銃弾のような速さでオーディンに投げつける。
しかし、オーディンは直立姿勢を崩さず、瞬間移動してナイフをことごとく回避する。
鳳凰が羽ばたくかのように、移動したルートに輝く羽が舞い散る。
「貴様ごときでは神崎に触れることすらできない」
「安物の悪役地味たセリフは控えた方がよろしくてよ」
普通に投げても当たらない。ならばやはりスペルカード。弾幕ごっこではないから手加減は不要。
時間の二重停止は魔力を激しく消耗するけど、手段を選ばせてくれる相手でもなさそう。
──幻象「ルナクロック」
時間停止した世界で更に時間停止してオーディンの動きを止め、咲夜はスペルカードを発動。
オーディンの周囲に無数のナイフを配置。あらゆる方向に乱れ飛ばすことにより、極めて回避が困難なナイフの弾幕を張る。
二重停止解除。
「!?」
静止したナイフがオーディンの周りを乱舞する。オーディンも瞬時に反応し、錫杖でナイフを払い落とすが、背中に3本、胴体に2本が刺さった。
「……そうか。貴様も時間に干渉する能力を持つ者か」
「まるで貴方も時間を止められるような口振りですわね。是非一度拝見したいですわ」
「いいだろう。貴様の能力など……」
オーディンはカードデッキから“TIME VENT”をドローし……
「ふん、馬鹿馬鹿しい」
デッキに仕舞った。これはライダーバトルの要となる重要なカード。小娘相手に軽々に使用すべきものではない。
オーディンは胸部に刺さった2本のナイフを払いのけると、瞬間移動で咲夜の周囲を、三角形を描くように高速回転し始めた。
オーディンが移動した軌道上に黄金の羽が舞う。奇襲攻撃を警戒し、極限まで集中力を高める咲夜。
だが、オーディンは何度か回転を繰り返した時点で停止した。
「あら、一芸を見せてくださるのではないの?」
攻撃のチャンスを窺いながら、後ずさりしつつオーディンから距離を取る咲夜。
だが、次の瞬間、舞い散った羽と咲夜のスカートが触れ、チッと音がした瞬間「二重停止!!」、爆発が起きた。
崩れた吹き抜け二階廊下にジャンプし、すんでのところで爆風を回避した咲夜。
あと一瞬時間停止が遅れていたら死んでいた。奴の羽が爆弾だったとは。
心臓が激しく鼓動する。極度の緊張とスペルカード使用。そして二度の無茶な二重時間停止で咲夜の体力は限界に達しようとしていた。
そんな咲夜のそばにオーディンが姿を表した。そして咲夜の首を捕まえ、体を壁に押し付けた。
「ぐぅっ……!!」
これじゃ時間停止しても逃げられない。
「もう一度時を止めてみろ。止まった時の中で窒息死するのも面白かろう」
「ふふ……」
時間停止“したら”、の話だけれど。
「何が可笑しい」
「背中のナイフが痛むのではなくて?3本刺さった手応えがありましたもの」
「刺さったことにはならんがな。かろうじて留まっているに過ぎん」
「……そして、再び時は動き出すの」
首を掴まれながらも、咲夜はポケットから懐中時計を取り出すと、カチッと竜頭を押した。
チク、タク、チク、タク……部分的に時間停止を解除したため、再び動き出す懐中時計。
何がしたいのかがわからないオーディンだったが、次の瞬間、その意味を知る。
カチ、カチ、カチ……背中に刺さったナイフの柄部分が同様に駆動音を発していたのだ。
すぐさま振り払おうと手を動かした瞬間──爆発。
ドゴォォォン!!と、時間が流れていれば、全ての窓ガラスが割れていたであろう轟音が限られた空間に響いた。
皮肉にも、オーディンの強固なアーマーが、咲夜を爆発から守る形となった。
「ぐおおっ!!」
強烈な爆風の直撃で、床に叩きつけられるオーディン。
C4プラスチック爆弾。粘土状の特殊爆薬を、ナイフの木製の柄をくり抜き仕込んでいたのだ。
「お気に召しましたかしら。たまたま河童が質入れしたものが香霖堂に並んでいたから、
物珍しさで仕入れてみたのだけれど、3本ほど持っておいて正解でしたわ。雷管の調達には苦労しましたけど」
「小娘が、味な真似を……!!」
決して小さくないダメージを受けたオーディンがようやく立ち上がる。
今度こそ“TIME VENT”を使うべくデッキに手を伸ばした時、
──キィィーーーン……
またしても甲高い音が響く。神崎士郎だ。砕け散った鏡からオーディンに呼びかける
「もういい。無意味な戦いだ。お前はライダーバトルの監視に戻れ」
「……決着は預ける」
「待ちなさい、逃げるつもり!?」
咲夜を見たまま後ろに歩くオーディンを追う咲夜だったが、オーディンが窓ガラスに飲み込まれる方が早かった。咲夜の手が宙を掴む。
「……仮面ライダーも一枚岩じゃないみたいね」
咲夜は締められた首をさすりながら、小悪魔が書架の下敷きになっていないか確かめに行った。
魔理沙、アリス、パチュリーは慧音の依頼を受け、紅魔館の図書館に集まっていた。
真司から預かったSEAL-封印-のカードを量産すれば、ミラーモンスターの脅威を劇的に減少させることができる。
カードの仕組み自体は真司にも解らないため、幻想郷の頭脳派3人の出番となったのだ。
「カラーコピーじゃダメかな」と言った真司が蓮に「アホ」と突っ込まれていたのは余談である。
パチュリーが黒檀のテーブルに魔法陣を描き、中央にSEALのカードを配置する。
「行くわよ」
「いつでもいいぜ」
「OKよ」
まず、パチュリーがカードの能力を開放、カードが能力を発動した時点で魔理沙が起動した魔法を強引に魔力で押さえつけ、
処理スピードを落としている間にアリスが大量の人形たちに浮かび上がったアルゴリズムを写しとらせるという手筈になっている。
知識、力、技術の三位一体でカードに記録されている情報をコピーしようという訳だ。
パチュリーが聞き取れないほどかすかな声で呪文を詠唱する。小さな唇がすさまじい速さで動くと、細い指先がぽうっと光る。
残る2人はカードの情報を捕まえようと身構える。そしてパチュリーが光る指先で魔法陣のカードに触れた瞬間──
ドウッ!!とカードから巨大な風圧が放たれ、3人共吹き飛ばされた。
書類の束は天井まで舞い上がり、書架がドミノ倒しになり、遠くで小悪魔の悲鳴が聞こえた。
「魔理沙、早く!カードを何とかして!」
「わ、わかったぜ!!」
魔理沙は這うようにテーブルに近づくと、両手に全魔力を込め、なお烈風を放ち続けるカードのエネルギーを抑えこんだ。
そして、なんとか魔法陣に両手をつくと、カードは何事もなかったかのように大人しくなり、図書館に静寂が戻った。
「ゲホゲホッ……一応聞くけど成果はどうだった?」
喘息持ちのパチュリーが呼吸を整えてから2人に聞いた。
「見ての通りだぜ。あんなじゃじゃ馬抑えてろとかマジ無理」
「なんなのよこれ……たった1枚のカードにグリモワール3冊に匹敵する情報が集約されてる。
次元開放、強制封印、自己消滅。こんな大掛かりな術式3つなんてとてもカード1枚に圧縮できない。
できたとしても使用者が莫大な魔力を持っている必要があるわ」
「全体量としてはどれくらい?」
「1000分の1にも満たない。魔道書3冊の目次を見た程度ね」
──キィィーーーン……
その時、彼女たちの耳に甲高い音が響いた。
「無駄なことは止めろ。カードを操る資格があるのはライダーだけだ」
ハッと3人が振り向くとそこにはコートを着た長身の男が立っていた。いつからいたのか分からない。
ただ、その佇まいと声には不気味な凄みがある。3人はいつでも弾幕を放てるよう戦闘態勢を取る。
しかし、謎の男は気に留める様子もなく、
「カードの主に伝えろ。“戦え”と」
それだけを言い残し、男はミラーモンスターと同じく、ひび割れたステンドグラスに消えていった。
「何だったのアイツ……」
アリスが共通の疑問を口にすると、
「今回の黒幕よ」
忌々しげな口調で告げたのは、スキマから出てきたばかりの八雲紫だった。
「黒幕ってどういうこと……?」
「そのままの意味よ。ミラーモンスターが現れたのは、あいつの仕業」
紫は先だって先程の男と接触した時のことを話しだした。その名を神崎士郎という。
──
「……予定外の事態でライダーバトルが停滞している」
コートの男は街道を歩きながら一人対応を思案しつつ呟いた。
当然誰に話したわけでもないが、後に続くように女性の声が聞こえてきた。
「こちらも想定外の事態で困っておりますの」
振り返るとパラソルを差した女性が立っていた。
太極図のプリントが目を引く特徴的なドレスと、足元まで届こうかというブロンドが印象的で、
それにふさわしい美しい顔立ちは男女問わず見たものを思わずハッとさせる。
しかし、この美女こそが幻想郷最強クラスの妖怪にして幻想郷の管理人、八雲紫である。
「他人の家に獣を放し飼いにするのはお止めになって」
「貴様が拉致したライダーを在るべき場所へ返せ」
お互い初対面だが、名乗りも挨拶もせず要求だけをぶつけあった。
「わたくしも必要ならば外界に赴いて調べ物くらいは致しますの。
当然貴方のこともよく知っていますのよ、清明院大学出身の神崎士郎さん?」
「それで俺を“よく知った”気でいるのか。幻想郷の世話係、八雲紫」
「あら、わたくし達をご存知とは光栄ですわ」
「ライダー達に無限のバトルフィールドを用意している俺が、ここの存在を知らないとでも思っていたのか」
「では、幻想郷にミラーモンスターを放ったのはそれなりの理由と覚悟があっての事かしら?」
「副次的な現象だ。外界で行われていたライダーバトルの余波が、ここまで及んでいるに過ぎない」
「なら今すぐバケモノ共を何とかしろ!!」
紫は、それまでの淑女然とした口調から一転、殺意を帯びた怒声を上げた。
しかし、神崎は動じることなく、
「知った事か。貴様らも人のことを言えた義理ではあるまい」
「何が言いたい。言葉は慎重に選べ。さもなくば後悔する前に八つ裂きにする」
「ここの“掟”とやらだ。“外界人は殺して食って構わない”そして、その外界人を攫っているのは他ならぬ貴様だ。
殺すのはいいが殺されるのは御免被る。随分愉快なルールだな」
「……死にたがっている者、自殺志願者だ」
「たかが、いちモンスターが神にでもなったつもりか?命の扱いを決めて良いのは所有者だけだ。
所詮ミラーモンスターと貴様ら妖怪共がしていることは同じこと。
ライダー達はその命をライダーバトルに掛けた。それを妨害する権限は貴様には無い」
それだけを言い残し、神崎は去っていった。
後ろから攻撃したところで奴には効くまい。紫はそれを見過ごすことしか出来なかった。握りしめたパラソルは完全にひしゃげていた。
──
「幻想郷の“ルール”ね……」
パチュリーがため息混じりにつぶやく。
「確かにそれ言われると辛いなぁ……」
そしてボリボリと頭をかきながら魔理沙が続くと、
「何?あなたも奴の言い分が正しいっていうの!?私たちの幻想郷が存在自体間違いだったって言いたいの!?」
八雲の怒りに火がつき、魔理沙に食って掛かる。
「そ、そんなこと言ってないし、私に八つ当たりされても困るんだぜ……と、とにかく私は慧音に実験は失敗だったってこと伝えてくる」
魔理沙は逃げるようにSEALのカードを持って箒で飛び去っていった。
「私も帰るわ。なんだかたった1時間で凄く疲れた……」
アリスも空を飛ばずにドアから退室し、帰路についた。疲労しているときは飛ぶより歩いたほうが楽らしい。
「認めない……あの男……引きずり出して……」
まだ怒りの収まらない紫は何やらブツブツ言いながらスキマで帰っていった。
「……はぁ、これどうしよう」
誰もいなくなった後、貧乏くじを引かされた形になったパチュリーは、めちゃくちゃになった図書館を見て一人ため息をついた──
……と、本来は一旦ここでの話は終わる。しかし、図書館の惨状に紛れてしまい、パチュリーも気づかなかったが、
神崎の去り際に、とある死闘が演じられていたことも語らなければならない。一旦時系列を巻き戻す。
『TIME VENT』
「無駄なことは止めろ。カードを操る資格があるのはライダーだけだ」
ハッと3人が振り向くとそこにはコートを着た長身の男が立っていた。いつからいたのか分からない。
ただ、その佇まいと声には不気味な凄みがある。3人はいつでも弾幕を放てるよう戦闘態勢を取る。
しかし、謎の男は気に留める様子もなく、
「カードの主に伝えろ。“戦え”と」
それだけを言い残し、男はミラーモンスターと同じく、ひび割れたステンドグラスに消え──ようとした。
「お待ちになって。当館では不法侵入者には相応の対価を支払って頂いておりますの」
いつの間にかメイド服を着た銀髪の少女が神崎のそばに立っていた。
少し離れたところにパチュリー達がいるのだが、皆、蝋人形にでもなったかのようにピクリとも動かない。
少女が特殊能力で自分と神崎の周囲以外の時間を停止させたのだ。銀髪のメイドは軽く辺りを見回し、続ける。
「そうですわね。貴方には……お嬢様の夕食になっていただきましょう」
「……任せる」
神崎はメイドを見ることもなく、それだけを言い残すと、今度こそステンドグラスに消えていった。
「待ちなさい!」
銀髪のメイド、十六夜咲夜も追いかけようとしたが、目の前に黄金色の人影が立ちはだかる。
「フンッ!」
その人影は、突然咲夜に向かって裏拳を放ち、追跡を止めた。
咲夜は瞬時に身を屈めて裏拳を回避したが、神崎を取り逃がしてしまった。
咲夜は改めて謎の人影を見る。黄金の装飾が施されたアーマーとベルト。そして身の丈ほどある鳳凰を象った錫杖を持っている。
このライダーこそが、ライダーバトルの大きな鍵となる存在。仮面ライダーオーディンである。
咲夜は考える。これが今、幻想郷を騒がせている仮面ライダーの1人なのか。
しかし、いずれにせよ紅魔館にとって敵なのは間違いない。幻想郷、ひいてはお嬢様に仇なす存在に死の制裁を。
咲夜はどこに仕舞っていたのか、両手の指にナイフを挟み、銃弾のような速さでオーディンに投げつける。
しかし、オーディンは直立姿勢を崩さず、瞬間移動してナイフをことごとく回避する。
鳳凰が羽ばたくかのように、移動したルートに輝く羽が舞い散る。
「貴様ごときでは神崎に触れることすらできない」
「安物の悪役地味たセリフは控えた方がよろしくてよ」
普通に投げても当たらない。ならばやはりスペルカード。弾幕ごっこではないから手加減は不要。
時間の二重停止は魔力を激しく消耗するけど、手段を選ばせてくれる相手でもなさそう。
──幻象「ルナクロック」
時間停止した世界で更に時間停止してオーディンの動きを止め、咲夜はスペルカードを発動。
オーディンの周囲に無数のナイフを配置。あらゆる方向に乱れ飛ばすことにより、極めて回避が困難なナイフの弾幕を張る。
二重停止解除。
「!?」
静止したナイフがオーディンの周りを乱舞する。オーディンも瞬時に反応し、錫杖でナイフを払い落とすが、背中に3本、胴体に2本が刺さった。
「……そうか。貴様も時間に干渉する能力を持つ者か」
「まるで貴方も時間を止められるような口振りですわね。是非一度拝見したいですわ」
「いいだろう。貴様の能力など……」
オーディンはカードデッキから“TIME VENT”をドローし……
「ふん、馬鹿馬鹿しい」
デッキに仕舞った。これはライダーバトルの要となる重要なカード。小娘相手に軽々に使用すべきものではない。
オーディンは胸部に刺さった2本のナイフを払いのけると、瞬間移動で咲夜の周囲を、三角形を描くように高速回転し始めた。
オーディンが移動した軌道上に黄金の羽が舞う。奇襲攻撃を警戒し、極限まで集中力を高める咲夜。
だが、オーディンは何度か回転を繰り返した時点で停止した。
「あら、一芸を見せてくださるのではないの?」
攻撃のチャンスを窺いながら、後ずさりしつつオーディンから距離を取る咲夜。
だが、次の瞬間、舞い散った羽と咲夜のスカートが触れ、チッと音がした瞬間「二重停止!!」、爆発が起きた。
崩れた吹き抜け二階廊下にジャンプし、すんでのところで爆風を回避した咲夜。
あと一瞬時間停止が遅れていたら死んでいた。奴の羽が爆弾だったとは。
心臓が激しく鼓動する。極度の緊張とスペルカード使用。そして二度の無茶な二重時間停止で咲夜の体力は限界に達しようとしていた。
そんな咲夜のそばにオーディンが姿を表した。そして咲夜の首を捕まえ、体を壁に押し付けた。
「ぐぅっ……!!」
これじゃ時間停止しても逃げられない。
「もう一度時を止めてみろ。止まった時の中で窒息死するのも面白かろう」
「ふふ……」
時間停止“したら”、の話だけれど。
「何が可笑しい」
「背中のナイフが痛むのではなくて?3本刺さった手応えがありましたもの」
「刺さったことにはならんがな。かろうじて留まっているに過ぎん」
「……そして、再び時は動き出すの」
首を掴まれながらも、咲夜はポケットから懐中時計を取り出すと、カチッと竜頭を押した。
チク、タク、チク、タク……部分的に時間停止を解除したため、再び動き出す懐中時計。
何がしたいのかがわからないオーディンだったが、次の瞬間、その意味を知る。
カチ、カチ、カチ……背中に刺さったナイフの柄部分が同様に駆動音を発していたのだ。
すぐさま振り払おうと手を動かした瞬間──爆発。
ドゴォォォン!!と、時間が流れていれば、全ての窓ガラスが割れていたであろう轟音が限られた空間に響いた。
皮肉にも、オーディンの強固なアーマーが、咲夜を爆発から守る形となった。
「ぐおおっ!!」
強烈な爆風の直撃で、床に叩きつけられるオーディン。
C4プラスチック爆弾。粘土状の特殊爆薬を、ナイフの木製の柄をくり抜き仕込んでいたのだ。
「お気に召しましたかしら。たまたま河童が質入れしたものが香霖堂に並んでいたから、
物珍しさで仕入れてみたのだけれど、3本ほど持っておいて正解でしたわ。雷管の調達には苦労しましたけど」
「小娘が、味な真似を……!!」
決して小さくないダメージを受けたオーディンがようやく立ち上がる。
今度こそ“TIME VENT”を使うべくデッキに手を伸ばした時、
──キィィーーーン……
またしても甲高い音が響く。神崎士郎だ。砕け散った鏡からオーディンに呼びかける
「もういい。無意味な戦いだ。お前はライダーバトルの監視に戻れ」
「……決着は預ける」
「待ちなさい、逃げるつもり!?」
咲夜を見たまま後ろに歩くオーディンを追う咲夜だったが、オーディンが窓ガラスに飲み込まれる方が早かった。咲夜の手が宙を掴む。
「……仮面ライダーも一枚岩じゃないみたいね」
咲夜は締められた首をさすりながら、小悪魔が書架の下敷きになっていないか確かめに行った。
オーディンは咲夜さんと能力が被るので面白かったです。
物語は中盤かな?
ブレイドのラウズカードなら封印できるけど、あれはアンデット専用だしな。
ここからの盛り上げが大変だと思うけど、作者さんのお手並みを酒を飲みながら楽しみにしたいと思います。まる。
いつも読んでくださってありがとうございます。
投稿頻度につきましては、種を明かすと、ずいぶん前から東方と龍騎が絡んだら面白そう、と思って
いくつもネタを書き溜めていただけなんです。そのネタもそろそろなくなりそうなので、
今後投稿ペースが落ちるかもしれないです。申し訳ありません。
どういうラストにするかは、ぼんやりとイメージがあるのですが、ご指摘の通りそこまでどう持っていくかが課題です。