男はただひたすら森の中を歩いていた。真昼とはいえ、木々が日光を遮り薄暗い森をどれくらい歩いたのか。
数十分、あるいは数時間。とにかく決して短くない時間をあてどなくさまよってはいたが、
男の心中に見知らぬ森で迷ったことへの焦り、恐怖は全く無かった。あるのは、渇望。ただそれだけだった。
そして、渇望が頂点に達した時、近くの木を思い切り拳で殴りつけた。
「イライラするんだよ……こんなところにいると……!!」
感情の抑制が効かなくなった男に3体の影が忍び寄ってきた。
「お前ぇ、外来人か?」
「へへへ……」
「そんなに苛ついてるならよぉ、俺達が相手になってやるぜ」
森に潜み、迷い込んだ人間を喰らう妖怪だった。鬼の出来損ないのような野良妖怪だが、
背丈は人間より二回りも大きく、筋骨隆々としており、生身の人間が戦えばまず間違いなく殺される。
「……」
だが、男は何も答えない。
「どうした、怖くて声も出ねえか?」
「まぁ、無駄にギャアギャア騒がれるより楽でいいがな。大人しく俺らのメシになれや」
男を取り囲むように3体の妖怪が徐々に距離を詰める。
「…………ハ」
なおも男は無言だが、先程とは異なり、その顔には薄笑いが浮かんでいる。
「なに笑ってんだコラァ!!」
「舐めてんのか、あぁ?」
「生きたまま引きちぎって……おい、なんだこいつ」
1体の妖怪が男の異様さに気づいた。その瞳に宿る凶暴性に。
だが、その時には全てが遅かった。──遅すぎたのだ。
「う~ん、やっぱり物が映らないもの探すほうが難儀ですよね」
「それはそうだが、水が無くては生活が……」
真司は里の広場で慧音と、一般人にも可能なミラーモンスターへの対策がないか話し合っていた。
その時、にわかに里の門から喧騒が聞こえてきた。
「貴様、許可無き妖怪は立ち入り禁止だ!」
「止まれ!止まらないと……貴様どうした一体!」
「ううぅ……」
異様な光景に猟銃を構えた番兵も思わず道を開ける。
先程、男を襲った妖怪の1体がよたよたとおぼつかない足取りで里に入ってきた。
目は虚ろで、ほぼ全身が毒液のようなものでケロイド化している。
襲撃ではなく助けを求めてきたのは明らかだ。それから妖怪は2,3歩歩いたところで力尽き、前のめりに倒れた。
慧音が妖怪に走り寄る。
「どうした、何があったのだ!?」
大声で問いかけるが、
「はぁ、はぁ……だれか、たすけて……ちょうらい……」
妖怪はそう言い残して事切れた。
「また、ミラーモンスターの仕業なのか……?」
だがこの死に方は異常だ。困惑する慧音。その時、
「ここか……祭りの場所は」
絶命した妖怪の後ろから一人の男が現れた。蛇革のジャケットに身を包み、無造作に染め上げられた茶髪が特徴的だ。
「浅倉……!!」
男の正体を知っている真司は驚きを隠せない。
浅倉はつかつかと死んだ妖怪に歩み寄ると、死体を蹴り上げ始めた。
「もっと俺を楽しませろ……」
執拗に、
「足りねえんだよこれじゃ……」
何度も、何度も、
「もっと戦ええぇっ!!!」
不満、渇望、狂気を爆発させて。
「やめろ、そいつはもう死んでる!いくら妖怪でも死者に鞭打つことはよせ!」
何も知らない慧音は浅倉に後ろから手を回し、死体から引き離そうとする。
「先生離れて!そいつは脱獄した殺人犯なんだ!」
「案ずるな!凶悪犯なら私が取り押さえよう」
「違う!そいつも……ライダーなんだ!!」
「何!?」
浅倉は聞き覚えのある声に振り返り、真司の姿を見ると、喜色満面の笑みを浮かべた。
同じライダーに出会えた喜び、すなわち再び殺し合いができるという歓喜に満ちた笑みを。
浅倉は慧音の腕を振り払うと、そばの饅頭屋の窓に貼ってあった古新聞を乱暴に剥がし、カードデッキをガラスにかざした。
ガラスの中と現実世界の浅倉の腰に変身ベルトが現れる。
「……変身!」
コブラが獲物を捕えるように右手を素早く動かし、ベルトのバックル部分にデッキを装填すると、
浅倉の体に鏡写しのビジョンが折り重なり、パープル色の装甲が特徴的な、仮面ライダー王蛇へと変身した。
「……来いよ」
王蛇はガラスのほうを顎でしゃくって真司を挑発した。またライダー同士の潰し合いが始まるのか。
真司がためらっていると、王蛇がいつの間にか“SWORD VENT”で発動したベノサーベルで、妖怪の死体を指し示した。
“また誰かがこうなるぞ”という無言の脅迫だった。
「くそっ!」
真司もガラスにカードデッキをかざし、龍騎に変身。浅倉が仮面の奥でニヤリと笑う。
王蛇と龍騎は同時にミラーワールドに突入。左右反転した里の中央広場に出た。
今は巻き添えを出さずに済むことを無理にでも幸運に思い、戦うしか無い。
━━
「……さぁ、やろうぜ」
「……」
『SWORD VENT』
龍騎は無言でカードをドローし、ドラグセイバーを召喚すると、王蛇に駆け寄り斬りかかった。
王蛇も斬撃をベノサーベルで受け止める。鍔迫り合いになり、両者の顔が至近距離まで近づく。
「久しぶりだな、ちょっとは強くなったのか」
「浅倉……まだ殺し合いを続けるつもりか!?」
「他に何をやれってんだ?こんな楽しいところでよ……!」
両者互いの剣を振り払い、後方にジャンプ。距離が空いたところで、龍騎が再びカードをドロー。
『STRIKE VENT』
龍騎の右腕にドラゴンの頭部を模した像が現れた。
パンチを繰り出すように、その右腕を王蛇に向けて突き出すと、ドラゴンの口から火球が発射され、王蛇に命中。
爆風で土煙が舞い上がる。だが、数秒後には土煙から両腕をクロスして火球を防御した王蛇が現れ、有効的な決定打には至らなかった。
「いいねえ……楽しくなってきたよ……!!」
王蛇もここに来て始めてカードをドロー。ベノサーベル柄部分のカードスロットに装填した。
『STEAL VENT』
「なんだ、剣が……お、おい待て!!」
すると、龍騎のドラグセイバーが強力な磁石で引き寄せられるように、王蛇の方へ飛んでいった。
相手の武器を盗むスチールベントで丸腰にされてしまった龍騎。対して、二刀流となった王蛇は龍騎に攻撃を仕掛けんと迫ってきた。
そして、笑い声を上げながら、猛烈な勢いで何度も斬撃を浴びせる。
「う……ぐっ!……あがっ!」
何度も身を打たれつつ、龍騎は左手で身をかばいながら、なんとかカードを1枚ドロー。
真横にジャンプして緊急回避した一瞬の隙に、ドラグバイザーにカードを装填した。
『GUARD VENT』
巨大なドラゴンの手の形をした盾を召喚し、なんとか斬られ放題の状態は脱したが、王蛇の攻撃は止まない。
━━
一方現実世界では、二者の戦いを見て里人達に動揺が広がっていた。
「おい、“かめんらいだー”の人たちが戦ってるべ……」
「どうして……仲間なんじゃないのか?」
「真司さん、押されてるわ!」
「ど、どっちを応援するべきなんだ!?」
「とにかくみんな離れるんだ!どこかにモンスターがいないとも限らない!」
慧音が声を上げて里人達をガラスから遠ざける。
「道を開けろ!!」
エンジンの排気音と共に、蓮の声が聞こえてきた。ライダーの存在を察知し、出前を中断してシャドウスラッシャーを飛ばしてきたのだ。
一瞬ドリフトして急ブレーキした蓮は、ガラスに駆け寄り、カードデッキをかざして変身。彼もミラーワールドへと飛び込んだ。
━━
「真司!ここまで来い!」
「蓮……」
走っても後ろから斬られる。全身の痛みをこらえ、龍騎はナイトの元へジャンプする。
これで2対1となり、圧倒的不利な状況は脱した。
「いいじゃねえか、マジでいいじゃねえか……!」
しかし、獲物が増えて嬉しいのか、王蛇の喜びの感情を隠そうとしない。
「奴とまともにやりあうな、とにかく時間を稼げ!」
「……そうか!!」
すっかり忘れていた。ライダーもミラーワールドでは10分しか活動できない。
10分を超えてミラーワールドにとどまった場合、消滅してしまうのだ。ナイトはカードを1枚ドロー。ダークバイザーに装填。残り7分。
『TRICK VENT』
4体の分身が現れ、王蛇に躍りかかる。
「チッ、人形に用はねえんだよ……!!」
王蛇は二振りの剣を前方に付き出した。分身の一体が刺し貫かれ、消滅した。残り5分。
王蛇は分身には構わず、ナイトの方へ駆け寄ろうとするが、後ろから分身の攻撃を何度も食らい、行動を妨害される。
ダメージはほとんどないが、イライラが一気に頂点に達する。
「ウゼえんだよおお!!!」
デッキから乱暴にカードを抜き取ると、ベノサーベルに装填した。
『ADVENT』
契約モンスターを直接召喚し、戦力とするカード。浅倉の契約したベノスネーカーが異次元から現れた。
紫色の巨大なコブラ型モンスターは恐るべきスピードで地を這い、ナイトの分身へ襲いかかった。まさに一瞬だった。
まず1体を頭から食い殺し、2体目を強力な毒液で焼き殺した後、最後の1体を刃物のように鋭い巨大な頭部両脇で真っ二つにした。残り3分。
「さぁ、派手に死んでもらおうか……!!」
分身を全て始末した王蛇が2人に歩み寄る。
「来るぞ。耐えろ真司」
「ああ……」
ナイトはカードをドロー。同時に王蛇も最後のカードをドローした。後1分。
『GUARD VENT』
『FINAL VENT』
ナイトはコウモリの翼を模した盾を召喚。王蛇はファイナルベントを発動した。
前傾姿勢でダッシュを始めた王蛇にベノスネーカーが追随し、次の瞬間、王蛇が大ジャンプで空中を1回転した。
そして、立ち上がったベノスネーカーが後方から高圧力の毒液を噴射。
王蛇が龍騎達に向け猛スピードで突進。そして龍騎とナイトは盾を構え、「ベノクラッシュ」に備える。
同時に毒液の加速を得た王蛇が強烈な連続キックを2人に浴びせる。毒液とキックの威力で盾はどんどん崩れていく。耐えろ。あと少し……!
願いが通じたのか、2人の盾が砕けると同時に王蛇のファイナルベントが終わった。
「おい、なに2人でずっと固まってんだ…… やる気ねえなら死んじまえよ…… あ?」
王蛇の体から煙のようなものが立ち上り始めた。タイムアップ。ライダーが活動できる限界を迎えようとしているのだ。
「くっ……あああああ!!」
ライダー2人を相手にしながらどちらも殺せなかった。王蛇は2振りの剣を地面に叩きつけた。
不完全燃焼の渇望は浅倉の怒りを爆発させた。仕方なく元来たガラスへと帰る王蛇。彼は帰り際、振り返らずに言った。
「今度つまらねえ戦い方しやがったら外の連中ブチ殺すぞ」
そして現実世界へと帰っていった。
━━
ガラスから出てきた浅倉は、ふてくされた様子でブラブラと里の外へと歩いて行った。
途中、浅倉は欲求不満が解消されなかったせいか、魚の切り身が並べられた陳列樽を思い切り蹴飛ばしていった。
姿が見えなくなっても、壁の向こうから「うおおおおぉ!!」という絶叫が聞こえてくる。里人たちは怯えきっていた。
「あー、今度のライダーは……わりと困ったちゃんみたいねぇ」
さすがの紫もドン引きといった様子だ。
「手当たり次第に連れてくるからだ!真司の警告を忘れてたのか!」
「知らないわよ、本当に!あんな協調性皆無のライダー戦力になるわけないじゃない!
大方、結界の綻びから迷い込んだのよきっと」
「やはりお前の管理の問題ではないか!」
「それは結界のシステム上仕方ないでしょう!なんでもかんでも私のせいにしないでちょうだい!」
人目もはばからず言い争いを始める慧音と紫。とばっちりを食らっては堪らんと里人たちは三々五々散っていった。
真司も止めに入った方がいいかな、と考えたが、“2人から同時に「うるさい!」と怒鳴られる”お約束のパターンが想像できたので、放っておくことにした。
こういう時は気の済むまでやらせておいたほうがいい。うん。決して怖いわけではない。
それより懸案事項が増えてしまったことが問題だ。ミラーモンスターだけでも手一杯の状況で、ライダーバトルを加速させる存在が現れてしまった。
「くそ、よりによって浅倉が来るなんて。これじゃあミラーモンスター撃滅どころじゃない。せめてもっと強いカードがあれば……あ!」
デッキのカードを再確認し、より有効な戦法がないか考えていると、1枚のカードに目が止まった。
「先生……これ、使えますよ!」
真司はブラックホールのようなイラストが描かれたカードを慧音に見せた。言うだけ言って気が済んだのか、慧音は落ち着きを取り戻している。
「あぁ、さっきは見苦しいところを見せてしまったな。これは……君たちのスペルカードじゃないか。一体どんな効果があるんだ?」
「ミラーモンスターを封印できるんです!これを持ってるとモンスターは怯えて近寄ってこないんです!」
「本当か!?」
「はい、でもこれ1枚しかなくって……なんとかコピーできればいいんだけど」
「心配ない。スペルカードの分析と研究のプロに心当たりがある。悪いがそのカード、しばらく貸してくれないか」
「ええ、もちろん」
「“SEAL”の量産か……お前にしては悪くないアイデアだな」
会話を聞いていた蓮がシャドウスラッシャーに体を預けながら言う。
「へへ、まぁな」
「でも本当に凄いのはそのカードのプロだけどな」
「たまには素直に褒めろって……」
浅倉はともかく、ミラーモンスターへの対抗手段の手がかりが得られたことは大きな収穫であった。
数十分、あるいは数時間。とにかく決して短くない時間をあてどなくさまよってはいたが、
男の心中に見知らぬ森で迷ったことへの焦り、恐怖は全く無かった。あるのは、渇望。ただそれだけだった。
そして、渇望が頂点に達した時、近くの木を思い切り拳で殴りつけた。
「イライラするんだよ……こんなところにいると……!!」
感情の抑制が効かなくなった男に3体の影が忍び寄ってきた。
「お前ぇ、外来人か?」
「へへへ……」
「そんなに苛ついてるならよぉ、俺達が相手になってやるぜ」
森に潜み、迷い込んだ人間を喰らう妖怪だった。鬼の出来損ないのような野良妖怪だが、
背丈は人間より二回りも大きく、筋骨隆々としており、生身の人間が戦えばまず間違いなく殺される。
「……」
だが、男は何も答えない。
「どうした、怖くて声も出ねえか?」
「まぁ、無駄にギャアギャア騒がれるより楽でいいがな。大人しく俺らのメシになれや」
男を取り囲むように3体の妖怪が徐々に距離を詰める。
「…………ハ」
なおも男は無言だが、先程とは異なり、その顔には薄笑いが浮かんでいる。
「なに笑ってんだコラァ!!」
「舐めてんのか、あぁ?」
「生きたまま引きちぎって……おい、なんだこいつ」
1体の妖怪が男の異様さに気づいた。その瞳に宿る凶暴性に。
だが、その時には全てが遅かった。──遅すぎたのだ。
「う~ん、やっぱり物が映らないもの探すほうが難儀ですよね」
「それはそうだが、水が無くては生活が……」
真司は里の広場で慧音と、一般人にも可能なミラーモンスターへの対策がないか話し合っていた。
その時、にわかに里の門から喧騒が聞こえてきた。
「貴様、許可無き妖怪は立ち入り禁止だ!」
「止まれ!止まらないと……貴様どうした一体!」
「ううぅ……」
異様な光景に猟銃を構えた番兵も思わず道を開ける。
先程、男を襲った妖怪の1体がよたよたとおぼつかない足取りで里に入ってきた。
目は虚ろで、ほぼ全身が毒液のようなものでケロイド化している。
襲撃ではなく助けを求めてきたのは明らかだ。それから妖怪は2,3歩歩いたところで力尽き、前のめりに倒れた。
慧音が妖怪に走り寄る。
「どうした、何があったのだ!?」
大声で問いかけるが、
「はぁ、はぁ……だれか、たすけて……ちょうらい……」
妖怪はそう言い残して事切れた。
「また、ミラーモンスターの仕業なのか……?」
だがこの死に方は異常だ。困惑する慧音。その時、
「ここか……祭りの場所は」
絶命した妖怪の後ろから一人の男が現れた。蛇革のジャケットに身を包み、無造作に染め上げられた茶髪が特徴的だ。
「浅倉……!!」
男の正体を知っている真司は驚きを隠せない。
浅倉はつかつかと死んだ妖怪に歩み寄ると、死体を蹴り上げ始めた。
「もっと俺を楽しませろ……」
執拗に、
「足りねえんだよこれじゃ……」
何度も、何度も、
「もっと戦ええぇっ!!!」
不満、渇望、狂気を爆発させて。
「やめろ、そいつはもう死んでる!いくら妖怪でも死者に鞭打つことはよせ!」
何も知らない慧音は浅倉に後ろから手を回し、死体から引き離そうとする。
「先生離れて!そいつは脱獄した殺人犯なんだ!」
「案ずるな!凶悪犯なら私が取り押さえよう」
「違う!そいつも……ライダーなんだ!!」
「何!?」
浅倉は聞き覚えのある声に振り返り、真司の姿を見ると、喜色満面の笑みを浮かべた。
同じライダーに出会えた喜び、すなわち再び殺し合いができるという歓喜に満ちた笑みを。
浅倉は慧音の腕を振り払うと、そばの饅頭屋の窓に貼ってあった古新聞を乱暴に剥がし、カードデッキをガラスにかざした。
ガラスの中と現実世界の浅倉の腰に変身ベルトが現れる。
「……変身!」
コブラが獲物を捕えるように右手を素早く動かし、ベルトのバックル部分にデッキを装填すると、
浅倉の体に鏡写しのビジョンが折り重なり、パープル色の装甲が特徴的な、仮面ライダー王蛇へと変身した。
「……来いよ」
王蛇はガラスのほうを顎でしゃくって真司を挑発した。またライダー同士の潰し合いが始まるのか。
真司がためらっていると、王蛇がいつの間にか“SWORD VENT”で発動したベノサーベルで、妖怪の死体を指し示した。
“また誰かがこうなるぞ”という無言の脅迫だった。
「くそっ!」
真司もガラスにカードデッキをかざし、龍騎に変身。浅倉が仮面の奥でニヤリと笑う。
王蛇と龍騎は同時にミラーワールドに突入。左右反転した里の中央広場に出た。
今は巻き添えを出さずに済むことを無理にでも幸運に思い、戦うしか無い。
━━
「……さぁ、やろうぜ」
「……」
『SWORD VENT』
龍騎は無言でカードをドローし、ドラグセイバーを召喚すると、王蛇に駆け寄り斬りかかった。
王蛇も斬撃をベノサーベルで受け止める。鍔迫り合いになり、両者の顔が至近距離まで近づく。
「久しぶりだな、ちょっとは強くなったのか」
「浅倉……まだ殺し合いを続けるつもりか!?」
「他に何をやれってんだ?こんな楽しいところでよ……!」
両者互いの剣を振り払い、後方にジャンプ。距離が空いたところで、龍騎が再びカードをドロー。
『STRIKE VENT』
龍騎の右腕にドラゴンの頭部を模した像が現れた。
パンチを繰り出すように、その右腕を王蛇に向けて突き出すと、ドラゴンの口から火球が発射され、王蛇に命中。
爆風で土煙が舞い上がる。だが、数秒後には土煙から両腕をクロスして火球を防御した王蛇が現れ、有効的な決定打には至らなかった。
「いいねえ……楽しくなってきたよ……!!」
王蛇もここに来て始めてカードをドロー。ベノサーベル柄部分のカードスロットに装填した。
『STEAL VENT』
「なんだ、剣が……お、おい待て!!」
すると、龍騎のドラグセイバーが強力な磁石で引き寄せられるように、王蛇の方へ飛んでいった。
相手の武器を盗むスチールベントで丸腰にされてしまった龍騎。対して、二刀流となった王蛇は龍騎に攻撃を仕掛けんと迫ってきた。
そして、笑い声を上げながら、猛烈な勢いで何度も斬撃を浴びせる。
「う……ぐっ!……あがっ!」
何度も身を打たれつつ、龍騎は左手で身をかばいながら、なんとかカードを1枚ドロー。
真横にジャンプして緊急回避した一瞬の隙に、ドラグバイザーにカードを装填した。
『GUARD VENT』
巨大なドラゴンの手の形をした盾を召喚し、なんとか斬られ放題の状態は脱したが、王蛇の攻撃は止まない。
━━
一方現実世界では、二者の戦いを見て里人達に動揺が広がっていた。
「おい、“かめんらいだー”の人たちが戦ってるべ……」
「どうして……仲間なんじゃないのか?」
「真司さん、押されてるわ!」
「ど、どっちを応援するべきなんだ!?」
「とにかくみんな離れるんだ!どこかにモンスターがいないとも限らない!」
慧音が声を上げて里人達をガラスから遠ざける。
「道を開けろ!!」
エンジンの排気音と共に、蓮の声が聞こえてきた。ライダーの存在を察知し、出前を中断してシャドウスラッシャーを飛ばしてきたのだ。
一瞬ドリフトして急ブレーキした蓮は、ガラスに駆け寄り、カードデッキをかざして変身。彼もミラーワールドへと飛び込んだ。
━━
「真司!ここまで来い!」
「蓮……」
走っても後ろから斬られる。全身の痛みをこらえ、龍騎はナイトの元へジャンプする。
これで2対1となり、圧倒的不利な状況は脱した。
「いいじゃねえか、マジでいいじゃねえか……!」
しかし、獲物が増えて嬉しいのか、王蛇の喜びの感情を隠そうとしない。
「奴とまともにやりあうな、とにかく時間を稼げ!」
「……そうか!!」
すっかり忘れていた。ライダーもミラーワールドでは10分しか活動できない。
10分を超えてミラーワールドにとどまった場合、消滅してしまうのだ。ナイトはカードを1枚ドロー。ダークバイザーに装填。残り7分。
『TRICK VENT』
4体の分身が現れ、王蛇に躍りかかる。
「チッ、人形に用はねえんだよ……!!」
王蛇は二振りの剣を前方に付き出した。分身の一体が刺し貫かれ、消滅した。残り5分。
王蛇は分身には構わず、ナイトの方へ駆け寄ろうとするが、後ろから分身の攻撃を何度も食らい、行動を妨害される。
ダメージはほとんどないが、イライラが一気に頂点に達する。
「ウゼえんだよおお!!!」
デッキから乱暴にカードを抜き取ると、ベノサーベルに装填した。
『ADVENT』
契約モンスターを直接召喚し、戦力とするカード。浅倉の契約したベノスネーカーが異次元から現れた。
紫色の巨大なコブラ型モンスターは恐るべきスピードで地を這い、ナイトの分身へ襲いかかった。まさに一瞬だった。
まず1体を頭から食い殺し、2体目を強力な毒液で焼き殺した後、最後の1体を刃物のように鋭い巨大な頭部両脇で真っ二つにした。残り3分。
「さぁ、派手に死んでもらおうか……!!」
分身を全て始末した王蛇が2人に歩み寄る。
「来るぞ。耐えろ真司」
「ああ……」
ナイトはカードをドロー。同時に王蛇も最後のカードをドローした。後1分。
『GUARD VENT』
『FINAL VENT』
ナイトはコウモリの翼を模した盾を召喚。王蛇はファイナルベントを発動した。
前傾姿勢でダッシュを始めた王蛇にベノスネーカーが追随し、次の瞬間、王蛇が大ジャンプで空中を1回転した。
そして、立ち上がったベノスネーカーが後方から高圧力の毒液を噴射。
王蛇が龍騎達に向け猛スピードで突進。そして龍騎とナイトは盾を構え、「ベノクラッシュ」に備える。
同時に毒液の加速を得た王蛇が強烈な連続キックを2人に浴びせる。毒液とキックの威力で盾はどんどん崩れていく。耐えろ。あと少し……!
願いが通じたのか、2人の盾が砕けると同時に王蛇のファイナルベントが終わった。
「おい、なに2人でずっと固まってんだ…… やる気ねえなら死んじまえよ…… あ?」
王蛇の体から煙のようなものが立ち上り始めた。タイムアップ。ライダーが活動できる限界を迎えようとしているのだ。
「くっ……あああああ!!」
ライダー2人を相手にしながらどちらも殺せなかった。王蛇は2振りの剣を地面に叩きつけた。
不完全燃焼の渇望は浅倉の怒りを爆発させた。仕方なく元来たガラスへと帰る王蛇。彼は帰り際、振り返らずに言った。
「今度つまらねえ戦い方しやがったら外の連中ブチ殺すぞ」
そして現実世界へと帰っていった。
━━
ガラスから出てきた浅倉は、ふてくされた様子でブラブラと里の外へと歩いて行った。
途中、浅倉は欲求不満が解消されなかったせいか、魚の切り身が並べられた陳列樽を思い切り蹴飛ばしていった。
姿が見えなくなっても、壁の向こうから「うおおおおぉ!!」という絶叫が聞こえてくる。里人たちは怯えきっていた。
「あー、今度のライダーは……わりと困ったちゃんみたいねぇ」
さすがの紫もドン引きといった様子だ。
「手当たり次第に連れてくるからだ!真司の警告を忘れてたのか!」
「知らないわよ、本当に!あんな協調性皆無のライダー戦力になるわけないじゃない!
大方、結界の綻びから迷い込んだのよきっと」
「やはりお前の管理の問題ではないか!」
「それは結界のシステム上仕方ないでしょう!なんでもかんでも私のせいにしないでちょうだい!」
人目もはばからず言い争いを始める慧音と紫。とばっちりを食らっては堪らんと里人たちは三々五々散っていった。
真司も止めに入った方がいいかな、と考えたが、“2人から同時に「うるさい!」と怒鳴られる”お約束のパターンが想像できたので、放っておくことにした。
こういう時は気の済むまでやらせておいたほうがいい。うん。決して怖いわけではない。
それより懸案事項が増えてしまったことが問題だ。ミラーモンスターだけでも手一杯の状況で、ライダーバトルを加速させる存在が現れてしまった。
「くそ、よりによって浅倉が来るなんて。これじゃあミラーモンスター撃滅どころじゃない。せめてもっと強いカードがあれば……あ!」
デッキのカードを再確認し、より有効な戦法がないか考えていると、1枚のカードに目が止まった。
「先生……これ、使えますよ!」
真司はブラックホールのようなイラストが描かれたカードを慧音に見せた。言うだけ言って気が済んだのか、慧音は落ち着きを取り戻している。
「あぁ、さっきは見苦しいところを見せてしまったな。これは……君たちのスペルカードじゃないか。一体どんな効果があるんだ?」
「ミラーモンスターを封印できるんです!これを持ってるとモンスターは怯えて近寄ってこないんです!」
「本当か!?」
「はい、でもこれ1枚しかなくって……なんとかコピーできればいいんだけど」
「心配ない。スペルカードの分析と研究のプロに心当たりがある。悪いがそのカード、しばらく貸してくれないか」
「ええ、もちろん」
「“SEAL”の量産か……お前にしては悪くないアイデアだな」
会話を聞いていた蓮がシャドウスラッシャーに体を預けながら言う。
「へへ、まぁな」
「でも本当に凄いのはそのカードのプロだけどな」
「たまには素直に褒めろって……」
浅倉はともかく、ミラーモンスターへの対抗手段の手がかりが得られたことは大きな収穫であった。
それはカップ焼きそば。
次に来るのはライアかシザースか。作品を作る苦しみも楽しみの一つでありんす。
頑張ってください。
あとは浅倉の口調にちょっと違和感を感じたのと、連が真司を呼ぶときに名前呼びなのが気になった
読んでいただきありがとうございます。美味しそうに食べてましたね、カップ焼きそば。
あいにく円盤はまだ幻想入りしていないようですが(笑)。
あまり大風呂敷を広げると、私の技量ではまとめきれなくなりそうなので、
全ライダーを出せるかは微妙ですが、面白い話にできるよう努力するつもりです。
お読みいただきありがとうございます。そしてごめんなさい!
さっそく色々破綻してしまってるようで申し訳ないです。
好きな作品なので色々覚えてたつもりだったのですが、甘かったです。
せめて劇場版だけでも見直して勉強し直します。
また、封印のカードに関しては、メインの続きに絡んでしまってるので、
オリ設定ということでお目こぼし頂けるとありがたいです。早めに退場させますので…