Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

空虚

2015/07/13 19:52:29
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 東風谷早苗がふと気づいたことがある。
 こっち、幻想郷に来てからラーメンを食べていない。

「神奈子様、なんだかラーメンが食べたいです」

「んんー、どうした急に」

「いえ、ふと食べたくなりまして」

 早苗が突拍子もないことを言うのはいつものことであるが神奈子は少女の発言を聞いて思い返してみた。
 早苗が夜食として二度三度食べているところを見たことがある程度で、神奈子は目の前の少女がそんなにラーメンをこよなく愛する性格であるとは思いもよらないことであった。

「早苗、お前そんなにラーメン好きだったっけ?」

「いえそんなには。でも何だか無性に食べたいです!」

 早苗は勢い良く立ち上がると台所へ向かった。ラーメンが食べたいという一心が体を突き動かした。なにもご丁寧に出汁や具や麺にこだわったものではない。カップ麺とか袋麺のような安っぽい現代的な味を早苗の体が欲した。

「どしたの早苗」

「あぁ諏訪子様、ラーメン食べたいです」

「う~ん、なんで?」

「何でもです。無性にです!」

 諏訪子は台所をひっくり返す早苗の背中を見つめながら部屋へ引っ込んだ。可愛い可愛い娘のような存在であるが、こういう時の早苗にかかわると少なからず面倒くさいことになる。
 果たして台所にカップ麺も袋麺もなかった。早苗は深呼吸をして現状を把握した。鍋や包丁が散乱する台所、見つからない懐かしの味。

「天は我々を見放した」

 高校生の頃学校の授業のため読んだ小説の登場人物の口癖が何故か出た。

「早苗? 大丈夫?」

 神奈子の優しい声が聞こえた瞬間、早苗は泣き崩れた。神奈子の胸でおいおい泣いた。赤子のように久しぶりに泣いた。
 やがて諏訪子がやってきて、里のラーメン屋に出前を頼んだことを早苗に伝えた。そうすると今度は諏訪子のやさしさに早苗は大きな泣き声を上げた。
 自らの突拍子もない思い付きで台所をめちゃくちゃにしたのに目の前の二柱は怒るどころか早苗を慰めたのだ。

「………いただきます」

「おいしい? 早苗」

「まったく、食べたいものが無くて泣くなんて子供だねぇ」

 早苗はラーメン、神奈子は担々麺、諏訪子はオムライス。三人の食べるものはそれぞれ違ったが、笑顔はどれも等しく優しいものであった。

(おいしい。確かにおいしいけど………)

 丼に浮かぶ具や麺や出汁は、丁寧な作り方で真面目な味であった。
 しかし早苗が本当に食べたかったのは具も何もなく、麺もスープもどこかあと一歩足りないあのインスタントのラーメンだった。

(あのチープな味を食べたかったのになぁ………)

 うまいラーメンも今の早苗にはどこか上滑りな味に感じられる昼下がりの話である。
食べようと思えば食べられるものでも、機会がないとそうそう食べられない。そういう時が誰にでもあると思います。
はじめましてボロ布と申します。
ボロ布
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
あっさり目というかこれから始まるのかなという所で終わった感じがします
話の雰囲気は良かったのでもうちょっと膨らませてくれたなと思いました
2.名前が無い程度の能力削除
なんかよくわからんやっすいもの食べたくなるとき、ありますよね

早苗さんの精神的未熟さがなかなか良く出てる感。