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第10回稗田文芸賞

2013/02/05 16:16:02
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※初めて読まれる方は先に「稗田文芸賞」で検索して過去作から読まれることをオススメします。






第2回パチュリー・ノーレッジ賞に青娥娘々さん

 スカーレット・パブリッシングは25日、第2回パチュリー・ノーレッジ賞受賞作が、青娥娘々さんの『肢体』(道書刊行会)に決定したと発表した。
 青娥娘々さんは住所不定の仙人。受賞作となる『肢体』はデビュー作で、恋人が次々と早死にしてしまう女性が、恋人たちの死体から好みのパーツをつなぎ合わせて理想の恋人を作ろうとする、グロテスクな恋愛小説。第一回幻想郷恋愛文学賞にもノミネートされたが受賞を逃している。
 選考委員のパチュリー・ノーレッジ氏は今回の選考について、「当初は古明地さとり氏の『六花』が本命だったけれど、先んじて第9回稗田文芸賞を与えることに成功したため、それ以外の作品からの選出に切り替えた結果」と説明。『肢体』については「語り手の常軌を逸した感性と行動を、過剰に戯画化するのではなく、至極普通のものとして書く筆致に、常識や倫理から解き放たれた奔放さがある。既存の価値観に対して自由であるという意味で、本賞の意義に相応しい作品」と評した。
 受賞者には紅魔館付属図書館の永久利用パスが与えられる。

(文々。新聞 睦月26日号 3面文化欄より)





八坂神奈子賞・新選考委員に古明地さとり氏

 鴉天狗出版部は10日、八坂神奈子賞の選考委員として、第2回から作家の古明地さとり氏が新たに加わることを発表した。八坂神奈子賞の選考委員は、第1回の八坂神奈子氏、伊吹萃香氏、永江衣玖氏、姫海棠はたて本紙記者の4人に、古明地さとり氏の加入で5人体勢となる。
 古明地さとり氏は地底在住の覚妖怪。地底では文芸ブーム以前から自費出版で小説を多数発表しており、地上での商業小説デビュー作となる『六花』で第9回稗田文芸賞を受賞している。
 今回の決定について八坂神奈子氏は、「選考委員の人数が偶数では、決選投票で同率になってしまうということが前回はっきりしたからね。さとりはまだこっちで刊行された作品は少ないけれど、作家としても読み手としても巧者であることははっきりしている。これによってよりよい選考が行えるようになるだろうさ」と説明した。
 本紙の取材に対し、古明地さとり氏は「地底でいろいろ発表していたといっても趣味でのことですし、いきなりの大役に恐れ多いものを感じていますが、引き受けたからにはしっかり役割を果たせるよう努力いたします」と語った。
 第2回八坂神奈子賞は、来月5日に候補作が発表され、20日に選考会が守矢神社にて行われる予定。

(花果子念報 弥生11日号 1面より)






第2回八坂神奈子賞に黒谷ヤマメ氏、豊聡耳神子氏

 第2回八坂神奈子賞(鴉天狗出版部主催)は20日、守矢神社にて小説部門・ノンフィクション部門の選考が行われ、小説部門は黒谷ヤマメ氏の『井戸の底にて空を見る』(旧地獄堂出版)、ノンフィクション部門は豊聡耳神子氏の『逆らう事なきを宗とせよ』(道書刊行会)に決定した。授賞式は来月3日、守矢神社にて行われる。
 黒谷ヤマメ氏は、地底・旧都に暮らす土蜘蛛。第125季にデビュー作『土の家』で第8回稗田文芸賞を受賞している。『井戸の底にて空を見る』は、地上と地底が戦争状態に突入した幻想郷で、有利な休戦協定を結ぶべく、双方から送り込まれたスパイの活躍を描く冒険小説。
 豊聡耳神子氏は、夢殿大祀廟に暮らす仙人。人里では相談所を設けて人々の悩みを聞いているほか、《幻想演義》でエッセイ『お話があれば順番に』を連載中。『逆らう事なきを宗とせよ』は、古代の為政者・聖徳太子としての半生を回顧する自伝。
 小説部門受賞者には賞金60貫文、ノンフィクション部門受賞者には賞金20貫文が贈られる。

黒谷ヤマメ氏の受賞の言葉
 こないだ稗田文芸賞もらったと思ったら、今度は八坂神奈子賞? やー、そんな大したもの書いたつもりはないんだけどねえ。どう違うのかよく解らないけど、貰えるものはありがたく貰っておくよ。ま、読んでくれた人が楽しんでくれたなら、それに越したことはないさね。選んでくれた人もいち読者ってことで、感謝感謝。

※豊聡耳神子氏の受賞の言葉は、取材ができなかったため割愛。

(花果子念報 卯月21日号 1面より)






第2回稗田児童文芸賞に二ッ岩マミゾウさん

 15日、第2回稗田児童文芸賞選考会(稗田出版主催)が人里の寺子屋にて行われ、二ッ岩マミゾウさんの『天野ジャックは嘘をつかない』(命蓮寺)が受賞作に決定した。
 稗田児童文芸賞は、少年少女を対象とした児童文学作品の優秀作を表象する賞。選考委員は作家・歴史家の上白沢慧音、作家・数学者の八雲藍、命蓮寺住職の聖白蓮の3氏。受賞者には賞金20貫文が贈られ、受賞作は寺子屋にて推薦図書として生徒に配布される。
 受賞作の『天野ジャックは嘘をつかない』は氏の小説デビュー作。「ついた嘘を一度だけ本当にすることができる」能力を手に入れた嘘つき少年の天野ジャックが、その能力をたったひとりの友達を救うために使おうとするストーリー。
 選考委員長の上白沢慧音氏は、「嘘をつくことをただ戒めるのではなく、他人を傷つける嘘と、他人を救う優しい嘘をはっきりと書き分けることで、単なる教訓話ではなく、優れた成長小説ともなっている。他愛もない言葉が時として他人を傷つけ縛り付けてしまう、という事実の恐ろしさを語りながらも、言葉を介して心を通わせ合う素晴らしさをまっすぐに語っており、子供たちにとって自分の使う言葉の意味について考えるいい機会となるだろう」と語った。
 受賞した二ッ岩マミゾウさんは命蓮寺に暮らす化け狸。今回の受賞については、「おやおや、あの狐が選ぶ賞で儂が選ばれるとはの。ふぉっふぉっふぉっ」と意味深な笑いを漏らした。
(文々。新聞 葉月16日号 3面文化欄より)





第2回幻想郷恋愛文学賞受賞作決定

 去る霜月10日、博麗神社にて第2回幻想郷恋愛文学賞の選考会が行われました。白岩怜(作家)、風見幽香(作家)、本居小鈴(鈴奈庵店主)の三氏による選考の結果、候補四作の中から、秋静葉さんの『神恋し森』(稗田出版)が受賞作に決定しました。

◆各選考委員の短評
 白岩氏「『神恋し森』はやわらかく、落ち着いた、とても品のある文章が、なんてことのない物語をとても味わい深いものにしていたと思うわ~。個人的な好みで言えば、もう少しドラマチックなところがあってもいいと思うけど~」
 風見氏「選考会では、水橋パルスィさんの『緑色の眼をした私』を強く押す声もあったけれど、総合力で『神恋し森』に軍配といったところかしら。受賞作は信頼を失った人間と、信仰を失った神様それぞれの孤独を上手くすくい上げていて、胸に迫るものがあるわ」
 本居氏「正直なところ受賞作みたいな恋愛小説はもう読み飽きてるんだけど、作品としての出来は好みとは別ということで。こんなの読みたくないと思ったけど受賞に異議はありません」

◆受賞者プロフィール
 秋静葉(あき しずは)…妖怪の山在住の紅葉の神様。第122季に『落ち葉の季節に逢いましょう』で作家デビューし、人間に寄り添う神様の日常を柔らかな筆致で描く作風で、静かな人気を呼んでいた。受賞作の『神恋し森』は、紅葉に色づいた森の中で出会った人間と神様の恋模様を描いた恋愛小説。

◆受賞のことば
 ありがとうございます。………………ええと、他に何か言わないとダメですか? いや、あの、作品については私が説明するより読んでもらったほうがいいですし……。あ、ええと、ごめんなさい、穣子みたいにこういう挨拶うまくできなくて……ごめんなさいっ(と言い残して引っ込んでしまった)

(博麗神社月報 師走号より)






第10回稗田文芸賞候補作発表

 幻想郷文芸振興会は15日、第10回稗田文芸賞の候補作を発表した。
 今回は6作品がノミネート。富士原モコ氏の自伝的な長編『永遠の途中で』、第2回パチュリー・ノーレッジ賞を受賞した青娥娘々氏の第2作『腐乱ドール』などがノミネートされた。
 選考会は23日、人間の里の稗田邸にて行われる。
 候補作は以下の通り。

 富士原モコ『永遠の途中で』上・下(稗田出版)
 永月夜姫『バイバイ、スプートニク』(竹林書房)
 霧雨魔理沙『いじわる巫女と三匹の妖精』(博麗神社)
 水橋パルスィ『緑色の眼をした私』(旧地獄堂出版)
 三輪雲衣『雲海の守護者』(命蓮寺)
 青娥娘々『腐乱ドール』(道書刊行会)

(文々。新聞 師走16日号 1面より)






博麗霊夢&伊吹萃香の第10回稗田文芸賞メッタ斬り!

 冬はメッタ斬り! もはや季語と化した感もある、恒例のメッタ斬りコンビによる言いたい放題の稗田文芸賞レース予想! ふたりの予想は果たして的中するのか?

◆受賞レース予想&作品評価
(◎…本命 ○…対抗 ▲…大穴 評価はA~Eの5段階)

 霊夢 萃香
 ◎B ◎A 富士原モコ『永遠の途中で』上・下(稗田出版)3回目
 -A ◎A 永月夜姫『バイバイ、スプートニク』(竹林書房)3回目
 -× ▲B 霧雨魔理沙『いじわる巫女と三匹の妖精』(博麗神社)4回目
 ▲B -A 水橋パルスィ『緑色の眼をした私』(旧地獄堂出版)2回目
 -C -C 三輪雲衣『雲海の守護者』(命蓮寺)初
 ○B -A 青娥娘々『腐乱ドール』(道書刊行会)初



◆富士原モコ『永遠の途中で』(稗田出版)3回目
 予想…霊夢◎ 萃香◎  評価…霊夢B 萃香A

霊夢 どう考えても妹紅で決まり。以上おしまい。
萃香 いやいやいや(苦笑)。そりゃもう『永遠の途中で』の受賞は《幻想演義》で連載始まったときから決まったようなもんだったけどさ、それで終わりじゃ済まないよ、今回は。
霊夢 そんなこと言ったってねえ。永月夜姫と同時受賞はさすがにやらないでしょ。授賞式で死人が出るわよ。
萃香 そりゃそうだけどさ(苦笑)。黙って富士原モコにあげるなら、もっと候補作は穏当な、いかにも富士原モコシフトって感じの面子で揃えるべきでしょ。永月夜姫を外すのはさすがにあざとすぎるから避けたにしても、何も冒険して、水橋パルスィと青娥娘々を候補にする理由は無いよ。この二作が入ってきた時点で、私としちゃ今回の稗田文芸賞は神回なんだけどさ。
霊夢 まあ、確かに妹紅の当て馬にするには勿体ないラインナップだとは思うけど。
萃香 とりあえず、大本命からいこうか。『永遠の途中で』……とわのなかばで、って読むんだけど、これは《幻想演義》で二年ちょっと連載してた富士原モコの自伝的な長編。人外の者に家族を奪われた少女が、復讐のために永遠の命を手にしてさすらう話。不老不死の異形として人間たちの間で排斥される苦しみとか、永い時間に摩耗していく感情とか、不死になってしまった人間の苦しみを迫真の筆致で描きつつ、不死の力を手に入れた際に犯した罪への贖いと、復讐の是非も問う渾身の力作だね。上下巻合わせて八百ページと読み応えもたっぷり。
霊夢 そりゃ自分の体験してきたことそのままなんだろうから真に迫るに決まってるじゃない。読む前はもっと自己憐憫くさい話かと思ったけど、意外とそのへんドライに書いてるあたりは私も結構好きよ。不老不死の子かわいそう、っていうお涙頂戴に行った方が一般受けしそうだけど、そうしないでちゃんと自分を客観的に見れてるのはいいんじゃない。
萃香 中盤はどんどん時間をかっとばして、盛り上がりそうな場面を敢えてスルーしたり、読者がまだ覚えてる人物のことを主人公が忘れてしまっていたり、そういう不老不死になってしまったための時間意識の表現が上手いね。中盤のそういう展開の速さが、後半の仇を見つけてからの濃密さと対比される構造になっているのもいいと思う。途中までは非常にイヤなシーンもあるけど、ラストはほろ苦くも綺麗にまとまってるし、まー常識的に考えて受賞は動かない。
霊夢 選考委員の面子からしてもね。慧音は言うまでもないし、阿求も絶対これ推すでしょ。誰にでも解る話だから文や藍も強く反対はしないでしょうし、パチュリーや幽々子にしても敢えて落とそうとする理由は無いでしょうね。
萃香 いや、不安要素があるとすればねー、選考委員の面子だと思うよ。
霊夢 え?
萃香 というか、慧音がこれを今まで通り推せるのか、という(苦笑)。だってさー、後半から出てくる、主人公の心の支えになるヒロインの月夜って、これ誰がどう見たって慧音じゃん。こうも露骨に自分のこと書いてある小説を、はたして選考委員として推せるのか。普通なら選考を辞退してもおかしくないレベルだよ。
霊夢 今までの慧音からすれば、妹紅を推すときは恥も外聞も捨ててる感じじゃない?
萃香 そうだけどさ(苦笑)。自分に累が及ぶとなると、どうなるかなー。あとはまあ、上下巻ものが候補になること自体珍しいから、この長さがどう言われるか、かね。


◆永月夜姫『バイバイ、スプートニク』(竹林書房)3回目
 予想…霊夢- 萃香◎  評価…霊夢A 萃香A

霊夢 で、あんたは永月夜姫と二作受賞予想なわけね。
萃香 結局それが一番無難な落としどころだと思うわけよ(笑)。ま、実際『バイバイ、スプートニク』はすごく評判いいし、個人的にも『あの月の向こうがわ』の姉妹編としての期待を裏切らない傑作だと思うから、これで獲ってほしいなあ。そりゃもちろん『あの月』で獲るのがベストだったし、インパクトだったら『あの月』の方が上だけどさ。これで獲るのがまあ、永月夜姫にとっちゃモアベターでしょ。
霊夢 『あの月の向こうがわ』の冒頭で姿を消した少女・抄歌の視点から、あの作品の裏側を描く青春SFね。単体でも読めるけど、前作と並べて読むと、最初からこれ書くことが前提だったんじゃないかってぐらい完璧に前作の伏線回収してるのよね。そういう意味では前作読んだ直後に読む方が面白いから、前作からちょっと間が空いてるのは気がかりだけど。
萃香 SF要素は味付け程度だから、河城にとりとか苦手な人でも大丈夫。しかし姉妹編って聞いたときはあの傑作に何を付け足すのかって不安だったけど、さすがに自分の代表作に書き足そうってんだから気合い入ってるよね。富士原モコが渾身の力作を書き始めたからそれに対抗したんだと思うけど(笑)。最終的に抄歌がどうなるかは前作読んでればみんな知ってるわけで、そこでスプートニク二号に乗せられたライカ犬・クドリャフカのエピソードを作品全体の象徴に置くのはあざとすぎるぐらいにあざといんだけど、絶望的な結末へ突き進んでいく抄歌の姿を徹底して明るく描いているところが非常にいやらしい。思わず笑っちゃた直後に、そのエピソードが結末に至る布石のひとつであるということに気付いて一気に叩き落とされて、でも読み進むとまた笑っちゃって――という読者の感情の揺さぶり方が本当に意地が悪い。賛否両論だった前作のあのラストも、こういう背景があったんだとしたらまあ、納得するしかない。個人的にはそこは敢えてこういう説明つけなくても良かった気はして、そこだけちょっと不満だけど。ま、そういう意味では前作のラストに怒った人にこそ読んで欲しい小説かな。
霊夢 慧音とか?
萃香 まさしく(笑)。実際、票読みするとこっちが受賞作でも何もおかしくない。基本はコミカルでリーダビリティの高い青春SFエンタメだから、文と藍はまずこっち推すだろうし、阿求だってこっちも好きそう。幽々子も案外好きじゃないかな、こういうの。慧音が翻意したり、モコへの投票を辞退したりしたらこっちが単独受賞しちゃう可能性も無いわけじゃない。
霊夢 そうなったらそうなったで荒れそうだし、慧音は何が何でも妹紅をねじこんでくると思うけど。私も『あの月の向こうがわ』が候補になって落ちた上でこれなら合わせ技で本命だと思うけど、こっちだけ候補となると単品として評価するにはどうだろう、と思って外したわ。
萃香 今回の選考会、どっかで覗き見できないもんかなあ(笑)。


◆霧雨魔理沙『いじわる巫女と三匹の妖精』(博麗神社)4回目
 予想…霊夢- 萃香▲  評価…霊夢× 萃香B

萃香 そして本当に巡り合わせが悪いのが魔理沙。今回も作品はいいんだけど、大本命が他にふたつもある状況じゃいかんともしがたいね。
霊夢 あー。うん、私はこれパス。
萃香 だから、自分のこと書いてある小説にコメントするのって厳しいじゃん?(笑)
霊夢 確かにねえ。
萃香 博麗神社の近所に住み着いてる三妖精をモデルにしたほのぼの小説。幻想郷の四季折々の移ろいを妖精視点で眺めつつ、三匹の妖精が人里の人間にいたずらをしては、神社のいじわるな巫女に懲らしめられて、っていう短編連作で。たいへん微笑ましいし、妖精視点の何気ない描写から、幻想郷における人間と妖怪や妖精の関わりを浮かび上がらせるっていうテーマも上手く書けてる。そういう意味では、黒谷ヤマメの第八回受賞作『土の家』と作品のタイプ的にはわりと近いかな。
霊夢 小松町子と一緒で、軽すぎるって言われて終わりじゃないの? だいたい、なんで私がいじわる巫女なのよ。こんな理不尽な暴力巫女扱いされるいわれは無いわよ。
萃香 えっ。
霊夢 あによ?
萃香 ……ああ、うん。自分を客観的に見られるかどうかって大いなる問題だよね、うん。
霊夢 何が言いたいのよ。
萃香 妖怪や妖精から見た霊夢はこういう存在だってことだよ(苦笑)。
霊夢 なんでよ。私は博麗の巫女の仕事をしてるだけであって、いじわるや理不尽なことなんて何ひとつしてないわよ。
萃香 いじわると理不尽の定義付けが必要だなあ(苦笑)。
霊夢 あんたも私のことこういう風に見てるわけ?
萃香 え、私? いや私はなんというかその……いや、そういうのはいいから! ま、ともかく、幽々子や藍はこういうの好きそうだし、慧音も案外これは認めるんじゃないかなあ。妖精の子供っぽい思考がすごくよく書けてるし。阿求が反対するのは目に見えてる気もするから、受賞はまずありえないとは思うけど、他はもっと無さそうだし一応大穴はつけておこうと。
霊夢 私は断固としてこれは受賞してほしくないわ。
萃香 なんでさ? 自分とこの本じゃん。
霊夢 またうちの神社に変な評判立ちそうじゃない。
萃香 それならそもそもなんで出版したのさ(苦笑)。
霊夢 魔理沙の本は売れるんだから仕方ないでしょ。背に腹は代えられないのよ。
萃香 世知辛い話だねえ。


◆水橋パルスィ『緑色の眼をした私』(旧地獄堂出版)2回目
 予想…霊夢▲ 萃香-  評価…霊夢B 萃香A

萃香 さて、今回の影の目玉。
霊夢 あんた、前に候補になった奴はボロクソに言ってなかった?
萃香 あー、なんだっけ、『さようなら、恋』か。いや、あれがダメだったのは語り手の独りよがりが無自覚に肯定され続けるからであってさ、客観的に自分を見てどうか、っていう部分が致命的に欠けてたからね。そういう意味で、まるっきり別物と言っていいぐらい良くなった。
霊夢 生まれてから自分の顔を一度も見たことがなく、自分は世界で一番醜いのだと信じて育った少女が、鏡に映った自分自身に惚れてしまって、やがて自分自身への嫉妬から破滅へ突き進んでいくっていうダークな恋愛小説。
萃香 自分自身がそれなりに美しいことを知らずに、世界中の全てが自分より美しいと思って全てに嫉妬する主人公の姿を、滑稽に描いているところが今回のポイントだね。このネタなら叙述トリックにも出来たと思うけど、敢えてそうしないで「自分を客観的に見ることができないが故の苦しみと、傍から見たときのその滑稽さ」にテーマを絞ってるからスマートに仕上がってる。もともと迫力のあった嫉妬描写は今回も健在で、シチュエーションがシチュエーションだけにその迫真の嫉妬描写が全部コメディに転換して非常に笑えるんだけど、状況はどんどん洒落にならない展開に突き進むから笑う顔がだんだん引きつってくるあたりが上手い。そのへんは意外と『バイバイ、スプートニク』と読み口の感じは近いかも。
霊夢 そう? 私はわりと最後まで笑って読んだけど。
萃香 霊夢は劣等感とかと一番縁の無い人間だから、ほら(笑)。
霊夢 あによ、バカにしてる?
萃香 いやいや、私ゃ霊夢のそういうところが好きだよ。
霊夢 ま、しかし大穴はつけたけど、受賞はないでしょうねえ。先に幻想郷恋愛文学賞でも落ちたし。パチュリーあたり気に入るかしら?
萃香 選考委員の面子もこういうねじくれた自意識に共感してくれそうなのはいないからねえ。そういや幻想郷恋愛文学賞では鈴奈庵の小娘がこれ推したんだっけ?
霊夢 かなり気に入ってたみたいよ。そういえばあの子、こっちの予備選考委員もやってたから、無理矢理ねじ込んできたのかしらね。小鈴も大概いい趣味してるわ、小説に関しては。


◆三輪雲衣『雲海の守護者』(命蓮寺)初
 予想…霊夢- 萃香-  評価…霊夢C 萃香C

霊夢 三輪雲衣って、なんかアレなの書いてる作家じゃなかった?
萃香 女性向け耽美小説書いてた作家だね。十六夜咲夜なんかよりもっとそっち方面に特化したやつで、『ネズミの僕はトラに噛みつく』とか、『素直になりなよベイビー』とか、『君の海に碇を沈めて』とか、中身についてここで語るのはちょっと憚られる系の(苦笑)。
霊夢 これもちょっとそういうところあるわよね。それがメインじゃないけど、なんかこう、相棒関係というには距離が近すぎるよーな。
萃香 ま、それはさておき(苦笑)。これは三輪雲衣初の冒険小説。雲の上を駆け巡る飛行船の船長と、その船の護衛をする拳士のちょっと過剰な友情と、ハラハラドキドキの冒険の話。いや、悪くはないんだよ。若者向けの冒険ファンタジーとしてのツボは押さえてるし、船長と拳士の友情には一部読者がメロメロになってしまうのも解るんだけどさ(苦笑)。
霊夢 なんかこう、これといった特徴というか強みが無いのよねえ、これ。
萃香 まさしく。ストーリーの骨格は門前美鈴の『風雲少女・リンメイが行く!』みたいな少年少女向け冒険活劇なんだけど、キャラ付けは普段の三輪雲衣的で、テーマ的には後半意外と抹香臭い方向に行くんだよねえ。色んな層に受ける要素を入れようとして焦点が不明瞭になってしまったというか、かえってニッチな方向に進んでしまったというか……。そういうアンバランスさぐらいしか特徴が無い。耽美ものでの文体がアクションに活かされてるかっていうとそうでもないし、キャラ付けも読者の妄想を煽る方に特化しすぎで話の中での掘り下げという意味では物足りないし。
霊夢 別につまらなくはないんだけど、この候補作の中じゃ完全に埋もれちゃってるわね。これなら幻想郷恋愛文学賞獲った秋静葉の『神恋し森』でも入れれば良かったのに。
萃香 いや、このラインナップの中だとあれ入れても埋もれると思うけど(苦笑)。ま、いちばん普通のエンタメだから、文あたりは評価してくれそうな気もするけど、選考会ではほとんどスルーされて終わるんじゃないかな。


◆青娥娘々『腐乱ドール』(道書刊行会)初
 予想…霊夢○ 萃香-  評価…霊夢B 萃香A

萃香 最後は青娥娘々の第一短編集。霊夢、これに対抗つけてるんだ。なんで? 面白いけど、どう考えたって受賞の目はありえないと思うんだけど。
霊夢 妹紅以外はわりと適当につけたからねえ。ま、パチュリーが推すでしょ。幽々子も好きそうじゃない?
萃香 パチュリーは自分で前作に賞やってるからこれに関しては大人しいと思うけど。ええと、これは《幻想演義》に掲載された短編を集めた短編集。二十四時間ごとに記憶がリセットされるゾンビの少女とその主の奇妙な愛情関係を描く表題作のほかに、壺に閉じ込められた少女を襲う理不尽な災厄をコミカルに書いた「とじこめられて」、連続放火魔の炎に向ける偏執的な愛情と恐怖を徹底的に掘り下げる「炎のめざめ」、誰にも聞こえない声が聞こえてしまう少女の狂気を描く「耳子」の全四編。たいへん粒ぞろいのホラー短編集だね。
霊夢 『肢体』もそうだったけど、常識から一歩どころか百歩ぐらい間違った方向に踏み出してる連中のズレた価値観や倫理観を、まるでそれが当たり前みたいに書くのよね。どう考えてもおかしいのに誰も突っ込まないのが不気味っていう。
萃香 でもこの作者に関しては、それは狙って書いてるんじゃなくて、ナチュラルに作者自身がズレてるだけなんじゃないかとは思うけど(苦笑)。パチュリー賞もそういうズレをナチュラルに描いたことを評価しての受賞だったみたいだけどさ。でも、小説の書き方としては青娥娘々はむしろ極めて真っ当。びっくりするほど普通に上手いよ。私は「とじこめられて」が好きだなー。みんな壺の中に誰かいるの解ってて、中の人が助けを求めてるのにも気付いてるのに、なんやかんや理由をつけてそれをスルーして壺を好き勝手に使う、無邪気な無関心の残酷さ。やー、うん、色々思い当たるところがあって胸が痛い(苦笑)。
霊夢 あんた本気で反省してんの? 私は「耳子」が好きかしらね。他人にできないことができちゃうと色々めんどくさいっていうのはわりと身につまされるわ。
萃香 博麗の巫女が博麗の巫女であることをめんどくさがりなさんなよー(苦笑)。ま、しかし、嬉々としてグロテスクな描写入れるあたりの露悪的なところは顔しかめる選考委員がいそうだし、小説技術とは関係ないところで文句言われて落とされる気しかしないんだよなあ。こういうブラックな作品も評価してやってほしいんだけどね。


◆ まとめ ◆
霊夢 結局妹紅と輝夜の一騎打ち? 順当すぎて面白みに欠けるわねえ。
萃香 そうだけど、他の作品の目はさすがに無いと思うなあ。いや、候補作の粒は揃ってるから、富士原モコと永月夜姫が万一相討ちにでもなれば一気に面白くなりそうではあるんだけどさ。まあでも、他の作者はまだチャンスあるだろうけどモコと夜姫はここで獲れなきゃ一生獲れないかもしれないから、ここであげておくのが人情ってもんだと思うよ(笑)。
霊夢 ダブル受賞って当人同士が一番喜ばなさそうな結末だけど。
萃香 そいつは言いっこなしってことで、さ(苦笑)。

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