「クリスマスパーティだけど、アリス食べ放題とかどうかしら」
「お前はなにを言ってるんだ」
紅魔館図書館での会議は、パチュリーの、だいたい平常運転の言葉で始まった。
いつもは三魔女揃って始まる話し合いだったが、今日は珍しく、アリス抜きの会合となっていた。魔理沙の冷静なツッコミに対して、パチュリーはため息をつく。
「やっぱり魔理沙はまだまだね。これがアリスだったら、『ばっ、ばか……もう……抱いて!』ってなるのに」
「私の知ってるアリスと違う」
「ま、アリスは私にしか本当の姿を見せないから」
「とりあえず、お前とアリスの会話は相当面倒そうだなってことはよくわかったが……」
半目でパチュリーを睨みつけつつ。
「一応冷静に言っておくが、アリスは食べ物じゃない」
「なに言ってるのよ。食べるって言ったら性的な意味でに決まってるでしょ」
「せいっ……!? ……い、いや……つまり、どういうことだよ」
「とぼけちゃって。魔理沙だって、どういうことかくらいわかってるでしょうに。もしかして、もうしてるんじゃないでしょうね」
「してるかっ! お前じゃあるまいし――」
「ほら、やっぱり。どういう意味かわかってるじゃないの」
「……あー……あー……うー」
パチュリーの指摘を受けて、魔理沙の声が急激にしぼむ。
わかりやすいほど頬は赤くなる。顔は嘘をつけないようだった。
ふふ、とパチュリーは薄く笑う。
「アリスはあなたのこと、こういう話にはまったく縁がない純情娘だって思ってるみたいだけどね。魔法使いなんてやってるのに、無縁でいられるわけもないじゃない。ねえ?」
「……いや……でも、そんな、別に」
「あなたも本当はアリス見て、抱きつきたいなーとか、抱きつかれたら気持ちよさそうだなーとかくらいは思ってるんでしょ」
「……う……まあ……それくらいは」
「箒にまたがっててときどき気持ちよくなってたりするんでしょ、ほら正直に白状しなさい」
「へぁっ……!? そ、そんなことは、してない……ぜ」
「へえ。そんなことってなにかしら。私は気持ちよくなったりすることがあるんじゃないかって言っただけで、なにかをするなんて言ってないんだけど」
「……」
ここに至ると、魔理沙はもう真っ赤になってうつむいている。
うう、と喉の奥で声を漏らしてから、上目遣いで、対面に座るパチュリーを睨みつける。
「悪魔かお前は」
「だって、三人一緒だとアリスは絶対こんな話させてくれないもの。そろそろ面倒だからちょっと暴いてみたくなったのよ」
「……なにが面倒なんだ」
「魔理沙は知らないでしょうけど、私とアリスと二人だけだったら、九割方エロトークしかしてないわよ」
「いや……さすがにそれは嘘だろ」
「まあ嘘だけど」
「……」
露骨に安心した顔を見せた魔理沙を見て、くっくっと隠さずにパチュリーは笑う。魔理沙は自分の失態に気づいて、ぐ、と表情を歪ませてから、睨みつける。が、顔はゆでダコ状態であり、迫力など全くなかった。
「でも、私には割と正直にそういう話をしてくれるのは本当」
事実は、アリスもまた流されてつい、という流れになることがほとんどだったが、あえてパチュリーはそこには触れない。
「あんたの前じゃ、アリスそんな素振りも見せないでしょ」
「……」
「いつまでもお子様扱いだからね。過保護っていうか。いいんだけど、私もちょっと遠慮するのが面倒になってきたのよ」
パチュリーは、微笑みながら、魔理沙の目を見つめる。
「だから、そろそろ素直に認めてもらおうと思ってね。魔理沙もむっつりなだけで本当はえっちなことにも興味があって、そんな話にも加わりたいって」
「……いや……別に……そんな」
「『私は本当は年中二十四時間いやらしいことばかり考えてる女の子です。今まで隠しててごめんなさい』――はい復唱」
「言うかっ! それはただの変態だろっ」
「私は毎日八時間くらいはアリスを性的に弄ぶ想像してるわよ」
「変態だー!?」
「それくらいしないでアリス好きを名乗られても困るわね……」
「名乗った覚えもないが少なくとも私だったらそれくらいされるとしばらく身を隠すぞ」
「なるほど、つまり身を隠さないアリスは私が実行に移すのを本当は待ってるだけ……と?」
「言っておくがあいつは死ぬほどお人好しなだけだ」
「知ってる」
「……ああそう」
「で、クリスマスパーティだけど、アリス食べ放題とかどうかしら」
「だからお前はなにを言ってるんだ」
「いいじゃない。魔理沙も素直になってしっかり私達の絡みを見学してなさい」
「私は見学かよ! ……いやツッコミ間違えた。そんなことはしないからな」
「なんでよ、見ていけばいいじゃない。一生もののネタになるわよ」
「そんなこと人に話せるかっ!」
「ネタっていうのはそうじゃなくてね……ああ。こういう言葉は知らなさそうね、あんた。よく考えるのよ、あんたがいつも想像してるアリスの裸体やエロく乱れる姿が実際に見れるのよ、こんな機会そうそうないでしょ」
「してないからっ!」
「本当に? 一回も?」
「……」
「もう本性はバレてるんだし、素直になればいいのよ」
「……本性とか言うな。その……そりゃあ……ちょっとくらいは、興味、だって、あるけどさ……普通だろ、それくらいは……」
「別にだから責めてはいないでしょ。興味あるなら楽しめばいいじゃない。はっきり言って、魔理沙がいると一切エロワードが禁止になるせいでたまに狂いそうになるのよ私」
「お前のそれは病気だと思うが……」
「初めはみんなそう言うのよ」
「せめてお前が末期の例であってほしい」
「ちょっと、さすがに咲夜と一緒にされるのは心外だわ」
「さりげなく酷いこと言うなおい」
「ああ、ちょっと魔理沙をメイドにしてみるのもいいかもしれないって思ってきたわ。一ヶ月後の魔理沙がどう生まれ変わってるか、心底楽しみだわ」
「いったいなにが起きるんだ……」
「で、クリスマスパーティなんだけど」
「アリス食べ放題はもういいからな」
「――なんの話、してるのよ……」
パチュリーの言葉を魔理沙が遮った、その直後。
そこにいないはずのもう一人の声が、割り込んできた。
パチュリーは「あら」と平静に返すだけだったが、魔理沙はびくっと震えてそのまま固まってしまう。
横から現れたアリスは、魔理沙の様子を伺ってから、今度はパチュリーの顔を見て、深くため息をついた。
「なんか、変な話してたでしょ」
「さあ、なんのことかしら」
「もう、魔理沙に変な話しないでって言ったでしょ。ほら、なんか魔理沙赤くなってるし……大丈夫?」
「お、おお、だ、大丈夫だ……」
「アリス、魔理沙ももう大人の階段を登りつつあるのよ。そんなに心配しなくても――」
「ほらやっぱりそんな話してたのね。魔理沙、こんなに動揺してるじゃない。ダメよ、魔理沙に変なこと言っちゃ。寒いのに汗もかいてるし……大丈夫じゃなさそうじゃない。魔理沙、ちょっと休んだほうがいいんじゃない? なにか変なこと聞いて頭ぐちゃぐちゃになってるかもしれないけど、とりあえず寝て忘れてもいいのよ。一人で帰れる? 送ろうか?」
「い、いや、いや、大丈夫だって。ちょっと……びっくりしただけだからな」
「でも、さっきよりまた赤くなってきてるし……」
「も、問題ないっ」
頬に手を伸ばそうとするアリスを、首を横に振って魔理沙は遮る。
アリスは、それを見て、少し寂しそうに手を引いた。
「……本当に大丈夫なの?」
「……ああ。びっくりしただけだ、本当に」
「そう……」
「ねえ、アリス。私達、ちょっとね、アリスへのサプライズプレゼントについて話していたところなの。だから、申し訳ないんだけど、もうちょっとだけ席を離してもらっていいかしら」
「……そうなんだ。なんかもうサプライズじゃなくなっちゃったけど……ありがと。わかった、けど、魔理沙にあんまり変なこと吹きこまないでよ?」
「はいはい、わかってますって」
「……」
アリスはまだ心配そうに魔理沙の顔を眺めていたが、魔理沙が、大丈夫だ、大丈夫だと繰り返したのを聞いて、渋々といった感じで、引いた。
「じゃ、また後でね」
「ごめんな」
「ううん、プレゼント楽しみにしてるわ」
最後に笑顔で言い残して、アリスが去る。
それを確認してから、魔理沙はテーブルに突っ伏した。
「……恥ずかしい……」
「さっきまであんな話してたところに本人だものね。なに、なんか想像しちゃった?」
「……うー」
「に、しても、魔理沙も大変ね、あれはあれで」
「……」
「正直、妹か、最悪、娘だと思われてる感じよね」
「言うな……わかってる……」
「真面目に、私が協力してあげないと、あんたずっと純情派箱入り娘扱いじゃないかしら」
「……」
テーブルから、魔理沙は顔を上げる。
まだ迷いのある目だったが、小さな声で、場合によっては、頼む、と呟いた。
パチュリーは微笑んで、よし、と首を縦に振った。
「じゃ、アリス食べ放題の話なんだけど」
「頼むからそこからは離れてくれ」
メリークリスマス!
それにしてもパチュリーはぶれませんねw
パチェが平常運転で安心した
もっと二人の会話を読み続けたかったな
まりさは
かわいい
な
すごくいい
百合はいいものだ