今日のパチュリー様は鋭かった。物理的に。
「ちょっと、お茶を入れてきて頂戴」
私の方も見ずにおっしゃるパチュリー様はいつもの椅子に座っていた。訂正。いつもの椅子にぶっ刺さってお遊びになられた。それなりに堅固な黒檀の安楽椅子だ。こう、ちょうど投げ頃な感じの投擲用槍がその椅子の2センチはあろうかという天板を見事に貫通しつつ優雅に本を読んでいたと思ったらそれがパチュリー様だった。何を言ってるかわからねーと思うが小悪魔もわかんないきゃぴるん☆
「お茶ー」
「現実逃避の自由の保障を要求します」
幻想郷は全てを受け入れるとかそういうレベルの話じゃねぇ。ラプラスの悪魔とかマクスウェルの悪魔ともマブダチで世界をそれなりに見てきた海千山千のワタクシでさえパチュリー様の自由さには毎度毎度神経性胃炎のうえ脳捻転でございます。
「現実って、なんでしょう……?」
パチュリー様は小さな顔を少し傾けて言った。
「それどっちかっていうと私のセリフですよね?」
私はすぐ答えた。「ああもうわかりましたよダージリンでいいんですねダージリンでっていうかもうダージリンしかありませんからダージリン淹れますよダージリン」
ところでマクスウェルの悪魔(通称マッ君)なんですが、小学生の頃はちびでいじめられっ子だったんですよね。それで中学生の時はその反動か、「俺のことはマックスって呼べよな!」とか言い出して少々痛々しい行動が増えまして色々オモシロおかしい伝説を残しているのですが今でもその話をすると顔真赤にしちゃうんですよHAHAHA。などといった小話をしているうちにお茶が入りましてパチュリー様のところに取って返したところやはり鋭いままだったので現実とかマジクソゲー。本の世界に入りたい……「眼球譚」とか「隣の家の少女」とか「ビアンカ・オーバースタディ」とか。
「パチュリー様お茶が入りましたダージリン」
細長い胴のパチュリー様が細長い手でそれを受け取り細長い目で紅茶の水面を見つめる。何かを考え込んでいるようであるし、でもこういう時だいたいこの人何も考えてない。
「あなた、今日は肌が綺麗ね」
「あ、ありがとうございます」
「なんだか良いにおいがするわ」
「紅茶の香りじゃないんですか?」
「誰か来たわね?」
今日もパチュリー様は鋭かった。洞察力的に。
「……魔理沙さんが」
「食べたの?」
「ええそりゃあもう良い声で泣いてくれまして」
「死ねゲロカスビッチ」
「舌鋒鋭い!」
っていうか手癖の悪い魔理沙さんをつかまえてパチュリー様の代わりにオシオキしてあげたんですからどっちかというと褒められるべきところじゃないんですかねここー? こぁマジ心外ー(>_<)
あーもーホント現実クソゲーですよね……本の世界に行ってしまいたい……「人間失格」とか「死の棘」とか「あらゆる場所に花束が……」とか。
「……つかぬことをお聞きしますが」
「何」
「なんで鋭いんですか?」
「そういう日もある」
ねぇよ。
「パチェ、パチェ!」
図書館の無駄に思い扉がスイングドアめいた軽々しさで開かれバターン! とやかましく叫んで閉じる。地響きしましたよ地響き。
「パチェ、どこなの!」
レミリア様のちびっこボイスがむやみやたらと大音声で天井の高い図書館に大反響。地響きしてるってば。
「騒々しくてよレミィ」
「ああパチェ! 聞いてよ、フランにオセロで勝てないものだから姉の沽券にかかわるっていうかお花摘みと称して抜け出してきたんだから必勝法をこっそりじっくり教えなさい知識の魔女……」
知識の魔女安っ。
「……ああ、パチェ! 何なのその姿!」
レミリア様の神経がまともでこぁ感激です。
「そういう日もある」
ねぇよ。
「なるほど」
ねぇよ。……はい。期待したこぁが愚かでした。
「見事な紡錘形だわ」
「てれりこ」
「投げ頃ねぇ」
「投げても、いいのよ」
「本当に……!? ああ、パチェ……!」
滂沱せんばかりのレミリア様がパチュリー様(鋭い)を手に取り、椅子から引き抜く。ごーまーだーれー。パチュリー様(鋭い槍)を構えるレミリア様。やだかっこいい。アーサーみたい。魔界村の。普段はレッドアリーマーなのに。
「手触り、重さのバランス、鋭さ……ああパチェ、すごいわ。あなた、どこに出しても恥ずかしくない投げ槍よ。夜の王である私さえ、今から投げようというのに、胸が高鳴りすぎて手が震える……」
「ありがとうレミィ。私は貴方の友達であることを誇りに思うわ……さぁ、思いっきりやっちゃいなさい」
パチュリー様の言葉にレミリア様は深くうなずく。顔を上げたときにはもう夜の王の目をしておいでだ。闘気があかあかと燃えあがりオーラになって見えそうになる。その闘志をオセロに燃やしたらどうですか。ただのストレス解消じゃんこれ。
「ううぅぅぅ……!!」
パチュリー様(鋭い)を構えた腕が後ろに引かれる。上半身が弓なりに反り、吸血鬼のまさにバケモノ級の膂力を溜めに溜める。助走など必要ない。その曲線美、足と腕、槍(パチュリー様)先の奇跡的均衡……今の瞬間のレミリア様を石膏で型取りしてギリシア風の像にして残しておきたいくらい。その一瞬の緊張を目にできた僥倖を味わうほどの刹那もあったかどうか。均衡は崩れる。いや、恐怖の権化、誇り高き吸血鬼がその手ずから、破壊する。その目が大きく見開かれる。
智槍「スピア・ザ・カドゥケウス」
神速で放たれたパチュリー様(鋭い)は当たりの本棚をなぎ倒しながら一直線に飛んだ。長年積もりに積もったホコリを巻き上げ、舞い上がった魔導書たちが魔力の風を巻き上げそれがまた別の魔導書を目覚めさせ、炎は上がるわ吹雪は噴くわ雷鳴はとどろくわの阿鼻叫喚の連鎖の無間地獄。ひとつまばたきする間にそのようなお祭り騒ぎを引き起こした槍(パチュリー様)が向かった先には、例の魔法使いこと魔理沙さん(先にスタッフが美味しくいただきました)。転んでもただでは起きなかったらしく、乱れた着衣を押さえながら片手にはしっかりと風呂敷いっぱいの本。その魔理沙さん(うなじが特に美味しかったです)の可愛いドロワーズに包まれたお尻の位置の絶妙さに私が神の采配というものを信じそうになって讃えたり呪ったりしようとするまもなくパチュリー様はするりとそのお尻に吸い込まれてゆき「ぴっ」という魔理沙さん(非常に美味でした。大事なことなので三回言いました)の悲鳴が爆発しようというそのときにぽろりと風呂敷からこぼれた本はというとこれが私にも見覚えがありまして、魔理沙さんが特に好きそうな装丁とタイトルが施されたその本はもちろん罠でして開いただけでマダンテ的なことが起こるという今週のビックリドッキリガジェットなわけでございまして。
拝啓、田舎のお父さん、お母さん。
紅魔館は、今日も爆発オチです。
なら仕方ないですね兄弟(ドルーグ)