「えっと……『ふふ、ここが良いんでしょう、フラン? 少し意地悪さを含んだ声で、レミリアは囁いた。するとフランドールは顔を赤くし――』」
「何読んでるのさ!?」
「あ、次の部分は私ですね。『お姉様のばかぁ。羞恥で震えるものの、せめてもの抵抗の意思を込めて、フランドールはそう返し――』」
「なんで続けるの!? 馬鹿なの!? 二人とも馬鹿なの!?」
フランドールの叫びに、パチュリーも小悪魔もそこでようやくフランドールの方へと向いた。
「あら妹様、いつの間に?」
「あ、もし良かったら妹様も参加します?」
「割と最初から居たよ! あと参加しないよ!? そもそも本当何してるのさ!?」
「何って、これよ」
パチュリーが差し出したのは、さっきまで読みあげていた薄い冊子だ。表紙は何も書かれておらず、一見するとただ赤いだけの冊子である。
しかし、フランドールが受け取って中をぱらぱらと捲ってみると、そこには先程パチュリーと小悪魔が読みあげていたような内容があった。
思わずかぁっと顔を赤くし、冊子を閉じる。
「な、なななな何これ!?」
「今日は朗読の日だからね。せっかくだし、何か朗読しようと思ったのよ」
「それでなんでこれチョイスしたのさ!? ミスチョイスも良いとこだよ!」
「……『レミリアはフランドールの太股をゆっくりと撫で回し、じわりじわりと奥へ――』」
「小悪魔何続き読み始めてるの!?」
「あ、いえ、続きが気になったもので」
てへっと笑顔で舌を出す小悪魔を見て、フランドールは心底殴りたい衝動に駆られた。
だが、なんとか我慢する。すぐ殴るなんてのは、器の小さい者がすることだ。フランドールはそう思っているから、吸血鬼の誇りにかけてそんなことはしない。
「でも見てください、これ。ほら、このフランドール様が次第に乱れていく過程、中々胸が熱くなるものがあると思うんですが――」
「せぇいっ!」
「ごふぁっ!」
殴った。主に腹部を、そこそこの力込めて。ぐっばい、吸血鬼の誇りとやら。
その場に蹲る小悪魔から、フランドールはパチュリーへと視線を移す。そしてにこっと笑う。何も知らない者が見れば、それはとても可愛らしい笑みだ。しかしパチュリーにはそれが、次は貴様の番だと訴えてるようにしか見えなかった。
「まぁまぁ妹様、落ち着いて」
「落ち着けないよ。大体こんなもの、どっから持って来たのさ」
「この本? 数ヶ月くらい前に、レミィが書いたものよ」
「お姉様何やってるの!?」
「レミィにも、深い理由があったのよ」
「絶対無いよね!?」
「なんか妹様を見ていてムラッとしたから書いた、って言ってたわ」
「ほらやっぱり碌な理由じゃなかった! 分かってたけどさ!」
「『フラン、可愛い。耳元でそう囁かれたフランドールは――』」
「せぇい!」
「ごふぁっ!」
回復して再び読み始めた小悪魔に、フランドールはすかさずボディーに正拳突きを放った。再度その場に蹲る、小悪魔。
そして小悪魔の持っていた分の本も奪い、きゅっとしてドカーン。
「あぁ、レミィが愛情込めて作った本なのに。せっかくの朗読の日だというのに、これで朗読する本が無くなってしまったわ」
「こういう愛情はいらないことこの上ないよ。あと朗読する本なら、この図書館にいくらでもあるでしょ? せっかく朗読するなら、もっとまともなの朗読しなよ」
「そうは言っても、ここにあるのは魔法書が多いから。魔法書を感情込めて声に出して読んだところで、さほど面白くはないと思うわ」
「でも一応物語系の本もあるでしょ? ほら、前に私も読んだあの本とか。なんだっけ、タイトル思い出せないけど……えーっと」
「妹様が読んでた物語系の本? えいって声で信号機の色が変わるやつ? それともかぷかぷ笑ったりするやつ?」
「うーん、それらじゃなかったと思うけど。まぁいいや。とにかく、もっとちゃんとしたものを朗読しなよ?」
「でも相撲取りがひたすら食事をするお話なんて、この図書館にあったかしら……」
「それは多分ちゃんこだよね!? ちゃんと、だよ! どんな間違え方さ!?」
「読む本が無いのなら、これなんて如何でしょう?」
復活した小悪魔が、いつの間にやら新たな冊子を持っていた。
パチュリーもフランドールも、一体なんだと首を傾げる。
「何それ?」
「源氏物語です」
「……あ、えぇ、悪くないんじゃないかしら」
「……そ、そうだね、うん」
急に普通なものを持って来られたので、それが正しいはずなのに思わず言葉に詰まってしまった二人だった。
「ほら、フランドール様も一緒に」
「え、え? 私も?」
「まぁ妹様もせっかくだし、朗読して行ったら?」
「う、うーん……それじゃあ」
こうして三人は朗読を始めた。
集中し、感情を込めて読み始めた。
そして十数分後、何故か内容が源氏物語からレミリアとフランドールのえっちぃ話(パート2)に変わっていた。だが集中しきっているため、それに突っ込むことも忘れ、ひたすら朗読を続ける。
そんな中、小悪魔はにやっと笑いながら、心の中で叫んだ。
すり替えておいたのさ! と。
フランドール→紫の上
許せる!
でしたー。
たー。
さすがにちゃんこの話はないでしょうw
喉飴さんの作品一通り読ませていただきました!
最高でした!
お嬢様なに書いてるんですかーもうー
ということでごちそうさまでした
実際に源氏物語が朗読されることは、珍しいことではないようなので。
>>3様
なるほど!
>>5様
だがそれが良いというやつですね!
>>奇声を発する程度の能力様
ありがとございます。
>>7様
ありがとうございますっ! ますっ!
>>8様
宮沢賢治良いですよっ!
>>9様
ありがとうございますっ。
>>10様
そう言っていただけると嬉しいです。
ちゃんこはないですねw
>>文次様
な、なんと一通り!? 200作以上あるので、相当面倒だったと思いますががが。
えっと、えっと……本当にありがとうございます!
>>12様
小説も書けるお嬢様のカリスマですね!
>>13様
投稿するのは結構お久し振りでした!
読んでくださってありがとうございます。