夏の夜、十六夜の月をバックに紅魔館のテラスではぴしっとドレスを着こなした四人がお茶をしていた。皆どこか緊張した趣きである。
今日はレミリアが見いだした人間の子どもが、本当に紅魔館にとって使い物になるかどうかの面接があるのだった。
館の主、レミリア・スカーレット。
その妹、フランドール・スカーレット。
本を大事そうに抱えているのがパチュリー・ノーレッジ。
こだわりを持って紅茶を入れる紅美鈴。
四人の囲むテーブルの前には一つの椅子が用意されており、そこにその人間が座る予定だった。
「えっと、もうすぐ来ちゃうわね。皆準備はいいかしら?」
「準備なんて何もしていないわよお姉様?」
やっちまったいと言いながら顔をテーブルに打ち付けるレミリア。紅茶がこぼれた。
「失念だったわ、完璧主義者であるこの私が、こんな大事な日に何の準備もしていないなんて」
「レミィ、今日は館初の外部者との深い接触よ。ちゃんとキメないと、威信に関わるわ」
外部との交流を極力絶っている紅魔館の威信って何だよと思いながらも、プライドに関わるのは大きな問題だとレミリアが爪を噛む。
「美鈴、紅魔館の威信って何かしら」
「そうですねぇ、畏怖、とかですか」
良い事言ったっと指パッチン。
「皆、今日くる人間の子に畏怖を与える案を出しなさい!」
まずは紅魔館一の賢者、パチュリーが手を静かに上げた。
「やっぱりどしんと構えているのがいいんじゃないかしら、相手を睨みつけながら」
ふむと一言レミリアが言って、フランドールに意見を求める。
「うーん、私ならあ、あ、不思議意味分からない系の人にやたら見られると怖いかも! 薬でも入ってそうな人がやったら絡んできたら怖くない?」
フランドールが畏怖の新しい切り口を見いだした。
そしてそれに美鈴という理解者が付いて、理論は加速する。
「そういう意味ですと使用している言語が分からない人にやたら話しかけられても怖くないですか?」
レミリアが強く手を叩いた。
「皆全然的外れよ。パチェは普通すぎ。紅魔館じゃないわ、そんなの。フランはそれもう畏怖じゃない。美鈴、話をややこしくしないでちょうだい」
一方言われた三人は不満げだ。
「レミィはさぞ素晴らしい案を持っているのでしょうね」
「お姉様だけ言ってないよ、そんなに言うなら聞かせてよ!」
「やっぱり主であるお嬢様の意見は大事かと」
レミリアは困った。意見など持っていない。
しかし紅魔館の主たるもの、紅魔館の威信のためにもプライドのためにも、何も思い浮かんでいないですなんて言えるわけがない。この場は、アドリブで乗り切るしか道は無いのだ。
「レミィ、レミィはどんなときに畏怖を感じるのかしらね」
旧友の煽りに手汗が出る。ちくしょうノーレッジ、腹が立つ。
「む……」
むって言っちゃったー! と心の中で考えながら、「む」から始まる怖いことを考える。後戻りなんて出来るか!
「む、難しいこと一杯喋られる、とか?」
空気が凍った。威厳が台無しだ。レミリアは、せめて優雅に紅茶を飲んでおいた。
そのとき、部屋がノックされる。
「と、とりあえず打ち合わせ通りやるわよ!」
「お姉様打ち合わせなんてしてないよ?」
「しっ、扉が開くわ!」
開いた扉からは銀髪の美しいすらっとした細身の女の子。まだ十に届かないくらいの子どもに見えるが、目はしっかりと前を見ていて、心の強さを伺わせる。
「十六夜咲夜です、よろしくお願いします」
「よろしく、さあ、そこに座って」
テーブルの前に用意された空き椅子に咲夜が座った。
その瞬間、ダン! という大きな音とともにカップとクッキーを入れた皿が飛び散った。パチュリーが両足をテーブルの上に置いたのだ。
「ぱ、パチェ……?」
「へえ、十六夜咲夜。ふむ。……で?」
腕を組んで見下したような目をして腹の立つ顔。そう、パチュリーはさっき自分が言ったことを実践しているのだった。
零れた紅茶がテーブルクロスを伝ってレミリアの膝にかかった。あっつい!
「ちょっとフラン、ハンカチ持ってないかしら」
レミリアがフランドールの方を見ると、いつの間にやら前髪を全部下ろして、自慢のサイドテイルもほどいて伏せ目がちに咲夜を見つめてゆらゆらしている。
「あ、あ、あぁ。あぁぁあ」
がくがくと震えながら咲夜を指して、何かを伝えようとしている。
「あ、ああああ。リア、リア充の匂いが、する」
子どもに何言ってるんだこの吸血鬼!
今のフランドールは不思議系なのだ。宛にならない。
「あああああああ!」
がしゃんがしゃんどがっしゃん。急にばたついたフランドールが、勢い余ってテーブルを倒してしまう。もう台無しだ。文字通り台無しなのだった。
「美鈴、なんとかしてちょうだい!」
美鈴のほうを見ると、そこには空席があるのみ。いつの間にか咲夜の目の前で身振り手振りをしながら話しかけていたのだった。
「○×”#$%&’’&%$%&$%&’’&%! HAHAHAHAHA!」
訳の分からない言語を喋って高笑いをする美鈴。それを無視する形で凛とした咲夜。
「()R''&'(UOPIIOY'(&%&R&R&'%'UY'(&? HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!」
美鈴がばんばんと咲夜の背中をたたき出す。あまりにも強く叩きすぎたせいで、咲夜は前に倒れてしまった。
レミリアは辺りを見回す。零れた紅茶、倒れた机、暴走する妹。相変わらずふてぶてしい友人。意味の分からない美鈴。目の前に突っ伏している来客。
ここでようやくレミリアは自分の置かれた状況を理解した。
そう、異端の中で正常は異端なのだ。今回の一件、まともなやつほど損をする。
そう思ったレミリアは、今度は自分の番なのだと理解する。
意思を固めたレミリアが深呼吸をして落ち着くと、不思議と皆が応援してくれているのが分かった。
相変わらず「で?」とか言いながらパチュリーは親指を立ててグドッラック(しているように見える)。
あぁあぁうなっているフランドールは姉であるレミリアを引き立てようとしている(そう見えなくもない)。
言語崩壊した美鈴はちらちらとレミリアの出るタイミングを伺っている(はずである)。
レミリアは手を叩いて注目を集めた。
「まず交流を深めましょう。そうねえ、皆が見ている金星って、だいたい2分前の金星って話、知っているかしら。光の速さの限界による現象なのよ」
キまった。そう確信した。
「レミィ、何を言っているの? そんなに近い位置にある金星見えるわけないじゃない」
「そうよお姉様、金星が見えるのは一番近い位置から微妙にずれた位置。宵の明星、明けの明星」
「妹様の言う通りですね、確か太陽との位置の関係上、一番近い位置は見えないんですよね」
「レミリア様、でよろしかったでしょうか。失礼ながら見えるのはだいたい9分前の金星でございます。出過ぎたまねをお許しください」
レミリアは怖くなった。全員に畏怖した。
「何なんだよもー! チクショー!」
その後レミリアを除いた4人が宇宙の話で盛り上がり、そのままの流れで咲夜は採用となった。
今日はレミリアが見いだした人間の子どもが、本当に紅魔館にとって使い物になるかどうかの面接があるのだった。
館の主、レミリア・スカーレット。
その妹、フランドール・スカーレット。
本を大事そうに抱えているのがパチュリー・ノーレッジ。
こだわりを持って紅茶を入れる紅美鈴。
四人の囲むテーブルの前には一つの椅子が用意されており、そこにその人間が座る予定だった。
「えっと、もうすぐ来ちゃうわね。皆準備はいいかしら?」
「準備なんて何もしていないわよお姉様?」
やっちまったいと言いながら顔をテーブルに打ち付けるレミリア。紅茶がこぼれた。
「失念だったわ、完璧主義者であるこの私が、こんな大事な日に何の準備もしていないなんて」
「レミィ、今日は館初の外部者との深い接触よ。ちゃんとキメないと、威信に関わるわ」
外部との交流を極力絶っている紅魔館の威信って何だよと思いながらも、プライドに関わるのは大きな問題だとレミリアが爪を噛む。
「美鈴、紅魔館の威信って何かしら」
「そうですねぇ、畏怖、とかですか」
良い事言ったっと指パッチン。
「皆、今日くる人間の子に畏怖を与える案を出しなさい!」
まずは紅魔館一の賢者、パチュリーが手を静かに上げた。
「やっぱりどしんと構えているのがいいんじゃないかしら、相手を睨みつけながら」
ふむと一言レミリアが言って、フランドールに意見を求める。
「うーん、私ならあ、あ、不思議意味分からない系の人にやたら見られると怖いかも! 薬でも入ってそうな人がやったら絡んできたら怖くない?」
フランドールが畏怖の新しい切り口を見いだした。
そしてそれに美鈴という理解者が付いて、理論は加速する。
「そういう意味ですと使用している言語が分からない人にやたら話しかけられても怖くないですか?」
レミリアが強く手を叩いた。
「皆全然的外れよ。パチェは普通すぎ。紅魔館じゃないわ、そんなの。フランはそれもう畏怖じゃない。美鈴、話をややこしくしないでちょうだい」
一方言われた三人は不満げだ。
「レミィはさぞ素晴らしい案を持っているのでしょうね」
「お姉様だけ言ってないよ、そんなに言うなら聞かせてよ!」
「やっぱり主であるお嬢様の意見は大事かと」
レミリアは困った。意見など持っていない。
しかし紅魔館の主たるもの、紅魔館の威信のためにもプライドのためにも、何も思い浮かんでいないですなんて言えるわけがない。この場は、アドリブで乗り切るしか道は無いのだ。
「レミィ、レミィはどんなときに畏怖を感じるのかしらね」
旧友の煽りに手汗が出る。ちくしょうノーレッジ、腹が立つ。
「む……」
むって言っちゃったー! と心の中で考えながら、「む」から始まる怖いことを考える。後戻りなんて出来るか!
「む、難しいこと一杯喋られる、とか?」
空気が凍った。威厳が台無しだ。レミリアは、せめて優雅に紅茶を飲んでおいた。
そのとき、部屋がノックされる。
「と、とりあえず打ち合わせ通りやるわよ!」
「お姉様打ち合わせなんてしてないよ?」
「しっ、扉が開くわ!」
開いた扉からは銀髪の美しいすらっとした細身の女の子。まだ十に届かないくらいの子どもに見えるが、目はしっかりと前を見ていて、心の強さを伺わせる。
「十六夜咲夜です、よろしくお願いします」
「よろしく、さあ、そこに座って」
テーブルの前に用意された空き椅子に咲夜が座った。
その瞬間、ダン! という大きな音とともにカップとクッキーを入れた皿が飛び散った。パチュリーが両足をテーブルの上に置いたのだ。
「ぱ、パチェ……?」
「へえ、十六夜咲夜。ふむ。……で?」
腕を組んで見下したような目をして腹の立つ顔。そう、パチュリーはさっき自分が言ったことを実践しているのだった。
零れた紅茶がテーブルクロスを伝ってレミリアの膝にかかった。あっつい!
「ちょっとフラン、ハンカチ持ってないかしら」
レミリアがフランドールの方を見ると、いつの間にやら前髪を全部下ろして、自慢のサイドテイルもほどいて伏せ目がちに咲夜を見つめてゆらゆらしている。
「あ、あ、あぁ。あぁぁあ」
がくがくと震えながら咲夜を指して、何かを伝えようとしている。
「あ、ああああ。リア、リア充の匂いが、する」
子どもに何言ってるんだこの吸血鬼!
今のフランドールは不思議系なのだ。宛にならない。
「あああああああ!」
がしゃんがしゃんどがっしゃん。急にばたついたフランドールが、勢い余ってテーブルを倒してしまう。もう台無しだ。文字通り台無しなのだった。
「美鈴、なんとかしてちょうだい!」
美鈴のほうを見ると、そこには空席があるのみ。いつの間にか咲夜の目の前で身振り手振りをしながら話しかけていたのだった。
「○×”#$%&’’&%$%&$%&’’&%! HAHAHAHAHA!」
訳の分からない言語を喋って高笑いをする美鈴。それを無視する形で凛とした咲夜。
「()R''&'(UOPIIOY'(&%&R&R&'%'UY'(&? HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!」
美鈴がばんばんと咲夜の背中をたたき出す。あまりにも強く叩きすぎたせいで、咲夜は前に倒れてしまった。
レミリアは辺りを見回す。零れた紅茶、倒れた机、暴走する妹。相変わらずふてぶてしい友人。意味の分からない美鈴。目の前に突っ伏している来客。
ここでようやくレミリアは自分の置かれた状況を理解した。
そう、異端の中で正常は異端なのだ。今回の一件、まともなやつほど損をする。
そう思ったレミリアは、今度は自分の番なのだと理解する。
意思を固めたレミリアが深呼吸をして落ち着くと、不思議と皆が応援してくれているのが分かった。
相変わらず「で?」とか言いながらパチュリーは親指を立ててグドッラック(しているように見える)。
あぁあぁうなっているフランドールは姉であるレミリアを引き立てようとしている(そう見えなくもない)。
言語崩壊した美鈴はちらちらとレミリアの出るタイミングを伺っている(はずである)。
レミリアは手を叩いて注目を集めた。
「まず交流を深めましょう。そうねえ、皆が見ている金星って、だいたい2分前の金星って話、知っているかしら。光の速さの限界による現象なのよ」
キまった。そう確信した。
「レミィ、何を言っているの? そんなに近い位置にある金星見えるわけないじゃない」
「そうよお姉様、金星が見えるのは一番近い位置から微妙にずれた位置。宵の明星、明けの明星」
「妹様の言う通りですね、確か太陽との位置の関係上、一番近い位置は見えないんですよね」
「レミリア様、でよろしかったでしょうか。失礼ながら見えるのはだいたい9分前の金星でございます。出過ぎたまねをお許しください」
レミリアは怖くなった。全員に畏怖した。
「何なんだよもー! チクショー!」
その後レミリアを除いた4人が宇宙の話で盛り上がり、そのままの流れで咲夜は採用となった。
リア充の匂いってありますよね。
奇声を発する程度の能力様
たまにこういうのやりたくなるのです。思いつくままにうっひょいひょいって感じで!
3様
一番レベル高いのは、実はこの流れを裏から仕込んだ小悪魔。
4様
理想郷ですから!
桜田ぴよこ様
威厳ありまくりですよ! だってこんなに素晴らしい人達が付いていくお方ですから!
6様
d
7様
ありがとうございます! 最近音のサンプリングが趣味なので、その声サンプリングさせていただきました!
8様
いや本当リア充の匂いってあるんですって!
ぷんぷん香りますって!
なぜ金星ww