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リリカ・プリズムリバーの朝は早い
「まぁこれをしないとルナ姉の貞操が危ないから」
最近はメルランがこちらを出し抜こうとする為気を抜けないと愚痴をこぼした
まずは朝、ルナサが居る部屋の前のチェックから始まる。
「リリカどいて、姉さん襲えない」
「低血圧を早起きさせる恐ろしさを知らないな」
今日もメルランは絶好調
リリカはハイテンションの何かをワゴンに叩き込み、食卓へと向かった
毎日の流れは大方決まっているが、最近はメルランの知能指数の上昇に合わせ
多種多様な行動を予測しなければいけないのが辛いところ、と彼女は語る。
「やっぱ朝の仕事はキツイね、愚痴ってもしかたないんだけどさ(笑)」
「でも経費をちょろまか…楽団の団結の為に必要だからね。後悔はしてないよ」
「この捕獲用ネットはダメだ。ほら、すぐに裂けてしまう」
彼女の目にかかれば、見るだけで出来不出来が分かってしまう。
長年の慣れの結果、ここにあり。
今、一番の問題は睡眠不足であるという
睡眠時間に満足できないとその日の練習をやめてしまうという、さぼりである
まあ、冗談はさておき
ルナ姉の低血圧は昔からなのは置いておくとして、最近はメル姉の挙動が激しく不審になってきているのは気のせいでは無いだろう。メル姉の吸血鬼妹を越える程の情緒不安定さはいつもの事だが。
昔はルナ姉が入っている風呂に潜入したり突撃したりするだけだったのに最近では寝込みを狙う様にすらなってきた、これでは私の健全な睡眠時間が危なくなってくるではないか。
本人の話によると「姉さんとは違う香りがする」との事だがそれが本当だとしたならば。否、本当だとしなくても我が姉である事を恥じ入るレベルの話だ。
「ともかく、姉さんに取り入ろうとしている奴がいる事は事実だわ」
「食パン一緒に食べよう、な?」
「むぐむぐ…じゃなくてよ、話を聞きなさい」
「卵焼きもあるよメル姉」
「あら、丁度良く半熟の良い焼け具合…じゃなくてよ」
「ちっ」
「気になるのは最近出会った訳じゃなさそうなのよ」
「うん?」
「馴染み深い匂いだわ…うん、私達もそいつと日常的に会っているわよ」
言っている事は何も考えずに聞き流せば格好良く聞こえるがよくよく聞かなくてもその行動は変態のそのものだ。
まあ、このぶっ飛んだ姉にそう注意したところで何が変わる訳でも無いのでスルーして促すのが適当な対応だが。
「へぇ?じゃ、名前分かるんだ」
「う~ん、馴染みのあるまでは分かるんだけど。どうにも癖が無さすぎるのよね、恐らくいつも恐ろしく癖のあるのと一緒に居るらしいわ」
「ルナ姉って交友関係少なそうだから絞れるかもねー」
「どちらかと言うと馴染ある匂いが最近濃くなってきた…うん?」
「どうしたの?食あたり?」
「…リリカ、ちょっと出かけるわよ」
「メル姉?どうしたのメル姉?」
食パンを咥えたまま徐に立ち上がりそのままずんずんと進むのはルナ姉の部屋じゃなくて以外にも玄関方向。
唐突な行動に定評のあるメル姉だが恐ろしく突飛な行動をする時には決まって誰かが恐ろしく面倒くさい目にあうとの定評もある。
なんとなく、なんとなくだが物凄く嫌な気配がしたので放っておく訳にもいかず。私はメル姉について行く事にしたのだった、リリカ予報は正確なのだ。
春がもうじきこの白玉楼の庭にも訪れようとするこの頃、リリーホワイトがもうじき春と共に花粉症をばらまき始めるので目が紅くなっちゃうわと鈴仙殿も言っていたがそれはさておいて。
私は幽々子様の部屋へと訪れて今宵外出する旨を報告することにしていた。
「幽々子様、御報告したい事が」
「どうしたのよ妖夢、そんなに畏まって」
「先日、私はルナサ殿に外出の同伴を頼まれまして」
「それはデートのお誘いね、やるじゃない妖夢」
「やはり、これはで、で、でーとでしたか」
「何をそんなに固くなるのよ、折角この日の為に下準備をしてきたんじゃない」
自信持ちなさいとばかりになぜか右手に持っていたしゃもじでこちらをぽんぽんと叩く幽々子様に今更突っ込んだ所で埒が明かないのでスルーをしておくが、やはり先日のあの申し出はその…そう、でーとのお誘いであった。
でーと、噂には聞いていたがそれは大層恐ろしい行事であると巷では専らの噂であるらしい。
紫殿の弁ではそれはエスコート役の耐久度、忍耐、強さ、そして甲斐性を試す為の試練であり。今までに星の数ほどの猛者がそのあまりの難易度、そして恐ろしさに玉砕したと言う事だ。
また、同じく藍殿の弁では一言「油断したら死ぬ」、これほどその恐ろしさを言い表した表現は無いのではないだろうか。
しかしその通過儀礼を耐え忍んだ暁には二人の仲を更に進展させると約束されていると言う大変待ち遠しくもあり、また恐ろしくもある行事なのだ。
だが、ルナサ殿と付き合う以上避けられぬこの日の為にこの妖夢、ただ手を拱いていた訳では無い。
現在の服飾は普段着の下に職人に作らせた頑強な鎖帷子、懐には藍殿から頂いた暗器を少々、抜かりの無い様この両剣も鍛錬し強度の強化を施し、半霊も新調した。この妖夢に死角は無し。
同じボブカットだと万が一にもルナサ殿と私を間違えて襲う暴漢も現れるかもしれない ので念には念を重ね少々御洒落と言う物にも凝った髪型にしてもらった、これは後にルナサ殿に“前より格好良くなった”と褒められる事となった、思わぬ副産物だ。
さて、長年の修業も実を結びそろそろ私もこの行事に赴けるだけの実力を得たと思う。
後は今日の丑の刻にあの洋館に行くのみ、草木も眠る丑三つ時に誘われるとは私も信用されたものだ。
………大丈夫、幽霊なんて怖くない。この震えは武者震いに違いない。
大丈夫、きっと大丈夫だ
ルナサ殿との八年間のお付き合いの結果を見せる時が来た、ここで気合いを見せずにいつ見せるか。
「幽々子様、必ずやこの妖夢生きて帰ってまいります」
「何だか知らないけど頑張ってね」
「はい」
一通りの会話を盗聴した私達はメル姉が数秒で掘り上げた穴から脱出した。
メル姉は顎に手を当てて厳しい顔で唸っている。
「成程」
「メル姉いつの間に土遁の術なんて覚えたのよ」
「射命丸通信講座 忍術編」
「なにそれ凄く怪しい」
メル姉に連れられて白玉楼に行ったは良いが、まさかルナ姉と妖夢がそんな仲だとは予想もしてなかった、不覚だ。
だって言葉の端々から理解するにあの二人はまだ個別には会っていないと言う事らしい。
そうなると当然いつも会っていたのは宴会か、その準備の時しか会って無いと言う事で、ただでさえスケジュール建てや楽譜整理、練習に作曲活動に多忙なルナ姉がそんなに自由な時間を取れるわけでも無し、妖夢の方も普段の多忙さから察するに自由時間は少ないだろう、となると普段会っていたのは白玉楼か。
ルナ姉の自由時間は大方外に出かけていたが私は買い物か外で気晴らしに練習をしていると思っていたし宴会の時なんて私は金儲けの算段しているか酒飲んでいるか寝ているかしかないのだ。
そりゃルナ姉が白玉楼の宴会に招かれた時だけ準備段階から手伝いに行ったり、普段はそそくさと一人ストイックに酒を飲んでいるのに気が付くと妖夢と何か話しながら飲んでいたり、妙に個別に外出したがったりするのは知っていた、知っていたが、さりげなさすぎるだろう。
ルナ姉がそういった色恋沙汰に興味があるとは思えなかったしあの二人の付き合いなんて私達が白玉楼にお世話になり始めてからずっと続いていたものだから見落としていた、灯台下暗しだ。
それにしても考えてみればお似合いの組み合わせではなかろうか、大人しいし苦労絶えなさそうだし。
自己主張の少ないあの二人の事だ、きっとあそこまで行き着くのには相当な時間がかかったに違いない、そう考えた所で私の中の小悪魔が笑った気がした。
白玉楼はお得意様、しかもお偉いさんから重要な仕事を言いつけられているらしくとってもお金持ちでギャラなぞは桁一つ抜きんでている。
それにその潤沢な資金で催される宴会は必然的に参加者の財布の紐を緩ませる、これ以上無いビジネスチャンスだ。
もしルナ姉と妖夢が正式に付き合う事となれば無論上手く行くだろう、恋愛は熱しやすいと冷めやすいが熱しにくいと冷めにくいのだ。
そうなれば必然的に楽団と白玉楼の付き合いが増えると言う事で、更にはルナ姉の気分の緩みも生まれるかもしれない言う事で、うしし。
「リリカ、あなた今物凄くあくどい顔してたわよ」
「えー?そんな訳無いわよ」
決めた、何としても今晩のデートを成功させてやろう。
その為には排除しなければいけない要因が一人、無論目の前に居るメル姉だ。
メル姉はどうにかしてデートを邪魔しようかと目論んでいる。
どうしようか、こう見えて楽団一の魔力量を誇るメル姉に正面切っても不意を突いても勝てるとは思わないし。少し策を弄する必要がありそうだ。
楽しそうなことになってきた、そう思う私の頬は少しだけ釣り上がっていた。
「むぅ…」
低血圧だが、今日は高気圧らしい
今晩に向けてたっぷり寝たからか、それとも他の原因があるのか分からないけど。
「む…?リリカ?メルラン?」
屋敷の中は静かだ
どうやら他の二人は出かけたらしい、片方が出る事はあるが両方が居なくなるなんて珍しい事もあるものだ、何か企んでなければいいのだが。
それよりもこれからの事だ、なにせ今晩は妖夢と一緒に出掛ける予定なのだから。
付き合い始めて三年頃だったか。その事を初めて提案した時は僅かにたじろいだ後まだ、私は未熟者だと断わられた。
それから三年経って二度目に言った時もやっぱり断られた、後二年待ってくださいと。
そして今年、丁度その二年が過ぎた。付き合い始めて早八年となる今年にようやくこの日がやって来た。
楽しみだ、普段の性格からは予想もできないくらいわくわくしているのが自分でもよく分かる。
遅めの夕食を軽く取って、それから身支度を整える。準備は万端、後は妖夢を待つのみ。
振り子時計の短針が二つを刺す10分前に、玄関でノックをする音がした。
まずは落ち着いて深呼吸、それからゆっくりと扉を開く。
「今晩は、ルナサ殿」
「妖夢、頼んだ事を忘れたのか」
「む…しかし、恥ずかしいのですが」
「言う事を聞いてくれないと泣くかもしれない」
仏頂面で言っても狼狽えてくれる妖夢、可愛い
そして渋っても結局は言う事を聞いてくれる妖夢が好きだ
「迎えに来ました、ルナサ」
「それでいい」
「では、行きましょうか」
いそいそと出て行こうとすると手を差し出された、こういう時は手を繋ぐものだと幽々子嬢が教えたらしい。
そう言えば手を繋ぐのもこれが初めてだと思い出したが、随分と進展した事にしみじみと感慨深いものを覚える。
あまり待たせると悪い、多少の恥ずかしさはあるが妖夢はそれの倍恥ずかしいだろう。
なぜか嫌な予感がひしひしと感じられるがまあ、後の事は後で考えればいいだろう。
私は妖夢の手をそっと掴んで静かな月夜の晩へと繰り出すことにした。
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自信?
フルバージョンはいつ出ますか?
ジェネじゃルナみょんは少ないからもっとやって下され。
フルバージョンの需要があるのは確定的に明らか
製品版までもう待てないです!
>付き合い始めて早八年
八年とはまたすごいカップルですなあ。
いや、種族的に考えれば別に長くもないのか?
ところでフルバージョンはどこにあるんでしょうか?