※前回の「ちょっかい」の設定を引き継いでいます。
でも、読んでなくても一応大丈夫です。
西行寺幽々子の朝は匂いで始まる。
「ふわぁ…ぁ。ん、これは妖夢の作った味噌汁の匂い!」
こうして、毎朝起きてすぐに朝食にありつく生活が毎日続いている。
現在時刻 AM4:50
「…早すぎでしょう。いくらなんでも。」
修行で毎日早く起きる妖夢もさすがに呆れた。
(明)朝食をとるためにわざわざこんなに早い時間に起きてこられては、ご飯を作るだけで時間を費やしてしまい修行どころではない。
いや、もうこれが修行とも言うべきか。
しかし幽々子とて、ただ朝食をとりたいという欲望を満たすためだけにこんなに早く起きているわけではない。
「いやいや、妖夢。『アレ』が毎朝来るのは知っているでしょう?」
「『あの方』を避けるためにこんなに早く起きて朝食をとっているんですか?」
「そうよ。親友とはいえどこかに避難しないとやってられないわ。」
『アレ』、『あの方』。
1週間前に幽々子がねっちょねっちょにされそうになった相手である。
その名も……『八雲紫』。
あの時は妖夢というストッパー(ギリギリだったが)がいたおかげでなんとか貞操の危機は免れた。
しかし、いつも幽々子の近くに妖夢がいるとは限らない。
もしかしたら、妖夢が買い物に行ってる時を狙うかもしれない。
はたまた、妖夢が厠に行ってる時の一瞬さえも見逃さないのかもしれない。
幽々子からしたらあの日から毎日の一瞬一瞬が怖くて仕方が無かった。
だが、隙をつかれるのであれば最初から気づかれない場所に逃げれば良い、という結論に至ったのだ。
どこか抜けている冥界主従は、『そんな場所は幻想郷には存在しない』と言うことも気づかずに……
???
「幽々子ったら…唯一無二の親友に向かって『アレ』呼ばわりなんて。 これは、お仕置きしないとねぇ…」
「すいません紫様。掃除の邪魔ですので、ちょっと幻想郷の裏側まで行っててくれませんか?」
「幻想郷に裏側なんて無いわよ!!」
白玉楼
「じゃあ、とりあえず単純に博麗神社に行くわ。留守番よろしくね。」
「はい。お気をつけて。…あ、ちょっと待ってください。」
「ん?」
妖夢がたたっと台所の方に走っていき、すぐに戻ってきた。
その手には、小さな包みが一つ。
「これは…」
「一応、おにぎりを3個ほど入れておきましたが…多いですか?」
「ううん。これで大丈夫よ。ありがとう、妖夢。」
幽々子は、妖夢のほんのちょっとした気遣いに後押しされ白玉楼を後にした。
そして決心する。
必ず貞操を守り抜き、ここに戻ってくると。
……目的がずれるのも冥界主従の醍醐味だろう。
???
「幽々子は私の嫁よおおぉ!! 妖夢なんかに幽々子は渡さないわ!!」
「分かりましたから。とりあえず、土に頭だけ埋めておいてください。うるさいので。」
「扱いが雑すぎるわよ藍!?」
博麗神社
ふわふわと降り立つ。
周囲を警戒しつつ、なんとか神社の境内まで到達した。
「杞憂であってくれればいいけど、いつ来るか…」
あの紫ほどの妖怪なら、もはや安全な場所などほぼ存在しえないだろう。
だからこその警戒。決して徒労などではない。
「あら、珍しいじゃない。何の用?」
「紫から逃げてるのよ。」
「あいつに目をつけられてるの? それはまた………中に入る?」
少し間が開いたのが気になるが、(今幽々子が勝手に決めた)幻想郷の頂点である博麗霊夢に任せるほかない、と幽々子は神社の中に入っていった。
だが、幽々子は後にここに来たことを後悔するはめになるとはまだ知る由もなかった。
「じゃあ、とりあえずお茶淹れてくるわね。」
「ええ。わざわざ悪いわね。」
「適当にくつろいでてー」
幽々子が通された部屋の中央にはちゃぶ台が一脚、箪笥が数棹ある程度でいたって普通の部屋だった。
外を見たり、部屋を見渡したりしていると霊夢が戻ってきた。
「お待たせ。お茶請けも探してたら時間かかっちゃって。余ってるからどんどん食べちゃっていいわよ。」
「そんな、そこまでしなくていいの…に…?」
霊夢が『お茶請け』と言って持ってきたものは底が浅い皿に何故か堆く積まれている甘味物だった。
それを、顔色一つ変えず持ってくるあたりさすがは博麗の巫女と言ったところだろうか。
幽々子はそれに関心している場合ではなかったが。
「い、いやいや。こんなの食べられるわけないじゃない?」
「ん? 何言ってるのよ。あんたそれでも亡霊なの?」
「こんなの、死んでようが生きてようが食べられる人いないわよ。」
人から貰ったものだし、いりません等と人の気持ちを無碍にはできない。
しかし大食ではない幽々子からしたら、この量はどう考えても胃に入らない。
しかし、霊夢も何故か考え方を変えようとしない。
「しょうがないわね。じゃあ、私が全部食べさせてあげるわ。」
「え?」
いつもと違う霊夢に幽々子も何かがおかしいと気づく。
(私への嫌がらせ、ということは霊夢も紫側…?)
(さっきから私を襲うチャンスは何度もあったはず。それをしなかったという事は…時間稼ぎ?)
(つまり、この霊夢の嫌がらせは紫が別のことをするための枷?)
(まさか……)
「あっ、えっと、急に別の用事を思い出しちゃったわ! 悪いけどまた今度にしてくれないかしら?」
「ふーん…ま、いいけどね。じゃあまた今度ね。」
「悪いわね。」
…気をつけることね。
「ん、霊夢何か言った?」
「いや、何も。それより巫女の勘が言ってるわよ。急いだ方が良いって。」
「わざわざ忠告ありがとう。」
「あぁ。あと、もう一つ。」
「あんた、私より小さいわねぇ…くすっ」
「うわあぁーーーん!!! 霊夢のバカーーーー!!!」
幽々子は泣きながら白玉楼に全速力で飛んでいった。
霊夢は幽々子の姿が見えなくなるまで、心の底から満足げな顔をしていた。
白玉楼
「幽々子のは~っと…」
紫は霊夢が足止めをしているうちに、幽々子の下着をを回収していたのだ。
とんだ変態である。
「失礼ね。変態じゃなくて淑女よ。」
地の文に突っ込みを入れるのは勘弁して欲しいのだが…
兎に角、脇に抱えたスキマにポイポイと下着を放り込んでいるあたりこちらの世界では紛れもない犯罪である。
…常識とはなんだったのか。
一方の幽々子は、秒速150キロで白玉楼に向かっている。
あと数秒で着くだろう…と言ってる間に着いてしまったようだ。
「紫いいぃ!! もう許さないわよっ!!」
「あら、随分と早く帰ってきたわね…って何で泣いてるの?」
「うるさいうるさい! 紫はあるから分からないのよっ!!」
「…まぁ、何言ってるか分からないけど、幽々子。着物の下って何も着ないのが普通らしいわよ…?」
「襦袢くらい着たっていいじゃない!」
「そうね。じゃあ、これはいらないわよねぇ。」
そう言って、スキマから先ほどのブツを幽々子に見せる。
「あっ! それは…」
「そう。幽々子のドロワよ。」
「かっ返してよぅ…」
「だーめ。どうしても返して欲しいなら、今穿いてるドロワ寄越しなさいな。」
「えっ!? いや、これはダメに決まってるじゃない…。」
幽々子は明らかな動揺を見せた。
紫にとっては、それが興奮する材料とも知らずに。
「ふーん…自分の穿いてるモノは守ると言うことね。でも、それも無駄なこと…」
そう言って、紫は指をパチンと鳴らす。
すると、焦った様子で幽々子は手で下半身を押さえていた。
「あっ、あれ? あれ!?」
「ふふふ。あらあらぁ? どうしたのかしら、幽々子ちゃ~ん?」
「まさか、取ったの…?」
どうかしらねぇ、とあまりにも紫の余裕の態度に、幽々子はこれから何をされるのかという不安しかなかった。
涙を目いっぱいに溜めながら紫を睨み付ける幽々子だったが、ついに我慢の限界が来てしまった。
「ぅ…うっ、ぇぐ…ひぐっ…」
「あ、あら? 幽々子?」
「酷い…ひぐっ、こんな事っして…。」
いくら幽々子が亡霊だろうと、6ボスだろうと、カリスマだろうと、一人の少女であることに変わりはないのだ。
いたいけな少女がこんな仕打ちされたら誰だって泣いてしまうだろう。
幽々子は嗚咽する声を堪えながら、紫に言う。
「ね、ぇ。本当にっ、私のっ事好きなの…?」
「当たり前じゃない! 好きでもない子にこんな事しないわ!」
「好きな人に、こんな事するの?」
「好きだから出来るのよ。でも、幽々子が嫌だって言うならやっぱり止めるしかないわね…。ごめんなさいね。」
そう言って、紫はスキマを開いて帰ろうとする。
「ま、待って! 別に帰らなくても…」
「え? じゃあ、続きしてもいいのね?」
「…もう、いやーーっ!!」
白玉楼に漂ったシリアスな雰囲気は、紫の一言と幽々子の叫びによってかき消されてしまった。
今日も、この2人はドタバタとせわしなく生きるのだろう。(1人死んでいるが。)
けれどドタバタ感や藍様の対応、変態っぷりが面白かったですw
霊夢より小さいって所で幽々子の身長が脳内で一気に縮んだ