Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

sleeping in a ship

2011/11/13 16:17:21
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※ほんのりムラいちっぽい

最初は時々だった。
気付いたら結構な頻度で。
そしてある日、地上の太陽の光を一身に浴びてから。
「ねぇ、村紗?」
「なに、一輪?」



いそいそと布団を並べる村紗を見ながら少しずつ蓄積された質問を投げかけた。
「え?」
「だから、なんでそんなに私と一緒に寝たがるの?」
聞こえていなかったのか、疑問符付きの単語が聞こえたので改めて問を投げた。

――最初は時々だった。
ある日の晩、みんなが寝静まった後。
何かの気配に起きたらそこに彼女が泣きながら立っていた。
曰わく、一人でいるのが寂しく辛い、と。
不安やら後悔やら、そんなものを彼女はたぶん人より多くの物を背負っているから仕方ない。少しでも重荷を軽くしてあげたくて「おいで」と招き入れた。
安心して眠れるように、いつも風にそよいでいる髪を撫でながらその晩を過ごした。
それからしばらく。彼女が不安定になった夜は一緒に過ごすことになった。

――気づいたら結構な頻度で。
ある日の晩、寝る支度をしていた時の事。
部屋を仕切る襖の外に気配を感じてあけてみると、村紗が恥ずかしそうな顔をしながら少しいいか、と聞いてきた。
曰わく、一緒に寝てくれないか、と。
真夜中にお邪魔するのを少し心苦しいと思っていたらしい。本当は一人で寝れればいいんだけれど、とも言っていた。
申し訳無さそうに喋りながらも、それでも、というような彼女が可愛くて微笑ましくて「どうぞ」と布団の半分をあけてやった。
安心して眠れるように、いつもは活発的に動く体を抱きしめながらその晩を過ごした。
それからしばらく。彼女が不安定にならないように、夜を一緒に過ごすことになった。

――そしてある日、地上の太陽の光を一身に浴びてから。
日が暮れる前、干した布団をそれぞれの部屋に運び終わって自身の部屋に着いた時、彼女が布団を抱えながら待っていた。
曰わく、今日からここで寝てもいいか、と。
どうやら私の部屋で寝る際に、私の布団の半分を使ってしまっている事を気にかけているようだった。
確かに朝起きた時に私や彼女が布団からはみ出ていたり、布団をとりあっていたりする事はあった。
夏場はそれでも良かったが、これからの季節は寒いかもしれない。けれど私たちにはあまり関係ない話のような気もした。
別に一緒の布団で私は寝てもいいのに、というと彼女は頬を少し赤く染めて、慌てた様子でそれはわるいから、と言った。不思議に思いながら部屋を覗いて様子を見る。部屋は綺麗に片付いていたし昼間に掃除もしたから埃も大丈夫だろう、と「いいよ」と彼女の布団を置くように勧めた。
安心して眠れるように、距離は離れてしまったけれど手を繋いでその晩を過ごした。
それから今まで。彼女は私の部屋で寝泊まりしている。


「あ、一人で寝れないからこっちきたんだったっけ」
昔の事を思い出しながら、質問の答えを自分で導き出してしまった。まぁなんでその相手が私なのかまではわからないけれど。
「……い、一輪は、嫌……だった?」
「いや、嫌じゃないけど」
心底ほっとしたような、安堵の表情を浮かべながら村紗はふぅ、と息をはいた。
「でも、なんで私なのかなぁって」
布団を抱えて告白されたあの日からなんとなく想像はしていたけれど、こんなに長く続くとは。毎朝自分が起きるついでに隣の村紗を起こせるという利点は確かに素晴らしいのだけど。
「あぅ」
「あまり気にしてなかったけど、折角自分の部屋があるのに」
「そ、そうなんだけどさぁ……」
別に村紗が自分の部屋を全く使ってないというわけではない。ただ寝泊まりの時だけなのだ。
「う、あぅ……」
気まずそうに枕を抱えながら村紗はこちらをチラチラと見る。
「一輪が嫌なら出ていくよ……」
「いや、そこは別にいいんだけど」
毎晩なにかされている訳でもないし、寧ろこれは彼女に言えないけれど真夜中に侵入されて起こされるより、寝る前にちょっとした問答があるより、ずっと寝やすいのだから。
「ただ私ばっかでいいの? 姐さんだっているのに」
私は一緒に寝るだけしかできないけれど、姐さんだったら彼女の不安も後悔も溶かしきってくれるんじゃないだろうか。私にはそれができないから、少し悔しい。
「いや、いや、あのその、違うの」
「うん?」
「…………いつも不安になる時に、聖の場所に行こうかな、とは思ってたの」
「うん」
「でも気づいたらここにいるんだ」
「……うん?」
村紗は布団の上でちょこんと正座しながら、涙を瞳に浮かべて話した。
「初めて不安になった時、真っ先に思い浮かんだのが一輪なの。一輪があの時、優しく撫でてくれたから私は細波の中で寝れたんだ」
彼女が俯いてスン、と鼻を啜る音がした。近づいて隣に座る。
「その後ね、不安定なの聖にバレちゃったの。『怖い夢でも見たの?』って優しく言ってくれて。そしたら私泣いちゃって、聖は私のこと抱きしめてくれて」
やっぱり姐さんは凄いな、と思う。私は心配する事ぐらいしかできないもの。
「聖は私の事心配してくれて、それがすごく嬉しくて、だからそれでもう大丈夫だって思ったんだ」
それでも、と声が掠れた。村紗が目元を腕で乱暴に拭ったのでそれを制して優しく拭ってやる。ハンカチがなかったので、袖で優しく。
「グス、それでも、やっぱりダメで」
荒波に揉まれ深い海へと飲み込まれてしまった村紗。助けて欲しくて腕を伸ばしても周りは暗い海だけだった。
「そしたら、そした、らぁ……」
「村紗、ごめんね、もういいよ」
ギュッと頭を抱きしめる。村紗は私の肩に縋りついてわんわん泣いた。服が濡れて体が冷える。こういう時、彼女が体験したことの一部を受け止めてやれれば、と思う。
そう、私は村紗を抱きしめてやるしかできなくて、悔しくて、少し泣いてしまった。


――ずっと昔の事だ。
村紗が仕事の合間に疲れていたのか、小さな寝息を立てながら寝ていた。
だらしないな、と思いつつも日差しがあたって暖かい縁側は、なるほど確かに寝るには最適で、小さな楽園のようだった。
それなのに。そんな素敵な場所にいるというのに彼女は泣いていた。呻いて、嘆いて、誰かに助けを求めるように、泣いていた。
だから私は手をのばす。冷たい手を繋いで離さないように。名前を呼びかけてこれ以上遠くへいかないように。
村紗の目が薄く開いた。いちりん、と小さく呼ばれて、私は――


「一輪」
名前を呼びかけられてはっとなる。目の前に目を真っ赤にしながらも泣きやんだ村紗がいた。
「村紗」
「ごめんね」
「なにがよ、私が泣かせちゃったのに」
「一輪も泣いてる」
そこで頬を水が流れていることを思い出した。彼女の前では泣かないようにしていたのに。
「ごめん」
「うぅん、一輪は何も悪くない」
はぁ、と村紗がため息をついた。泣いて疲れたのか、昔を思い出させてしまったせいか、どちらにせよ顔に元気がない。
「そうだよね、いつまでも甘えてちゃダメだよね」
「いやいやいや、私はかまわないわよ?」
「うん……」
ちょっとした疑問を投げかけただけなのに、なんでこんな複雑になってしまったんだろう。
下手すれば出て行きかねない彼女をどうすれば繋ぎとめられるだろうか、そんな事をぼんやり考えていると村紗が私の袖を引っ張った。
「あのね、でもね、これだけは言っておくね」
そう言ったのはいいけれど彼女はモジモジしてなかなか喋らない
「村紗?」
「あぅ、あー……うん、その、朝、じゃなくてもいんだけど、その」
やがてまた小さく息をはいて頭をかきながら呟いた。
「起きた時にね、一輪がいると凄く安心するんだ。うぅん、一緒にいるだけで悪い夢を見ない気がして。たとえ見ても一輪が側にいるから大丈夫なの。一輪が抱きしめてくれただけで海の中が吃驚するぐらい穏やかになって、一輪が手を繋いでくれるだけで夢の中でも迷わない気がするの」
一気に巻くしたてて、村紗が俯いた。
「……それが、理由。ダメかな?」
「へっ?」
「一緒に寝る理由」
心配そうに、上目遣いに見つめられて思わず頬が熱くなるのを感じた。
「一輪」
「あ! いや、うん。じゅ、十分、です」
村紗の顔が朗らかになって今度は照れた顔で抱きつかれた。
そもそも、理由なんてどうでもよかったのだ。「なんとなく」と言われても「そうか」と受け流してさぁ寝よう、というつもりだったのだから。
(でもあんな顔……)
笑った彼女は可愛い。それに穏やかに寝ている顔は見ていて幸せになる。
きっとこの子とそういう仲になれればその人は毎日幸せだろう。そんな考えを持つ自分に呆れた。
「……今日は、一緒の布団で寝ようか」
「いいの? せまくない?」
「大丈夫よ。ひっついてくれれば」
「……ん、ありがとう」
少しだけ邪な考えを持ちながら提案すると、村紗は簡単に了承してくれた。
二人で改めて布団を敷いて、村紗が先に入り込む。それを見届けてから灯りを小さな蝋燭に移して、枕元に置いた。そして私も布団にもぐりこむ。村紗は布団から少し顔を出して不安げな目で私を見ている。
「ねぇ私……」
「ここにいて、一緒に寝よう」
ほのかに赤く染まっている村紗を見て思わず笑うと彼女が困ったような顔で笑った。
「一輪」
「うん」
「……おやすみ、また、明日」
「おやすみ……また明日もよろしく」
久しぶりに髪を撫でて、少し冷えている体を抱きしめた。
この子がまた泣かないように、少しでも守れるように、と。



~~~



――ずっと昔の、今も鮮明に憶えている事。
仕事の合間に暇ができて、誰かが通りかかることを期待して縁側で休んでいた。
だけど待てども待てども人はおろか妖怪すらこない。
気付けばうつらうつらと船をこいでいた。
明るく澄んだ空の下、風がさらさらと吹いて温かい日差しを受けながらゆらゆらと船の上で寝ていたら、風が強く吹いて海へと落ちた。
慌てて自分の船を探す。けれど周りに船はない。探しているうちに海が私を暗い内臓へと引きずり込んだ。
息苦しくて辛い。明るかった空も黒に染まって、そよいでいた風は荒波となって私を深く深く底へと落とす。
誰もいない、暗い世界。地上に、聖に助けられて縁側にいたはずなのに、それがひどくおぼろげな夢物語であったような、そんな想いがわき上がる。
遠くで誰かの背中が見えた。だけどその背中はどんどん遠ざかっていく。叫びたくても声は泡となって、泣きたくても涙は波となって届かない。
涙の味が肺を満たしてごぼり、と大きな泡が私の代わりに昇っていった。
また一人になった。いいや、ずっと一人だったのかもしれない。今までもこれからもずっと。
諦めて深い海を覗きこんだ。底まで行けば一人ぼっちの楽園だってあるかもしれない。
深く深く沈んでいく。呆然としながら遠い空を思った。頬に当たるそよ風を懐かしんだ。
不意に、手のひらが焼けたように熱くなって意識が覚醒する。同時に懐かしい名前を呼ばれた気がした。

『あ……』
燦々と明るく澄んで待ち望んでいた空が見えた。風がそよいで私の頬を叩いてから彼女の髪を靡かせていく。
『いちりん』
繋がれている手がひどく熱を持っていた。冷たい海の底とは全く別の温度で私を掴んで離さない。
『……おかえり、村紗』



あれから、私が帰る場所は彼女だと知った。
(あったかい)
彼女はあどけない顔で、私を守るように寝ている。
ぎゅう、と抱き付くとまた少し涙がこぼれた。
(よかった……)
彼女に拒絶されなくて。彼女に泣かれるのも困るけど、泣いてくれて嬉しいとも思った。
一輪には内緒にしているけれど、その後も聖に夢の内容を打ち明けた事によって、もう昔のように自分が沈む夢はそうそう見なくなった。
それは一輪がいるからかもしれないけれど、別に毎日一緒に寝なくても大丈夫な気がするのは確かだった。
(寧ろ一緒に寝てた方が危ないような)
暖かすぎて溶けてしまうそうな。
親友以上の好意を持ってしまいそうで、でも離れがたくて布団を別に毎日こうして寝ている。
……彼女がいなくなってしまったら私はどうなってしまうんだろう。
そんなつまらない考えを振り払って無理やり目を瞑った。
一度死んだ身でも明日は来る。その一日をまた大切な人たちと暮らせるように。
「……おやすみ、一輪。また明日」
ゆらゆらと波間に漂い、空に抱かれる夢に思いを馳せながら、静かに意識を手放した。
どうして一輪さんタグが一向に増えないんだ(ダンッ
さてさて、ここまでの読了感謝です。またムラいち……ムラいち?
普段は無邪気だけど実は寂しがり屋で甘えんぼな船長かわいいよ船長。
そんな船長に頼られて嬉しいけど自分で役に立ってるか悩んじゃう一輪さんかわいいよ一輪さん。


どこかおかしい所や誤字脱字などご指摘いただけると幸いです。
それでは、これにて。

一輪さんのお布団が雲山じゃないことを祈って。いやそれはそれでもふもふしたいな。
まろ茶
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
可愛すぎてマジでどうにかなりそうです…
2.名前が無い程度の能力削除
確かに一輪タグが増えないのはおかしいですね、何かの陰謀かもしれません。
是非是非この状況を打破すべく、この二人のお話をもっと・・・。
3.名前が無い程度の能力削除
ふたりとも可愛すぎて変な声出た
4.名前が無い程度の能力削除
キィャァァア 二人が可愛すぎてやばい
5.名前が無い程度の能力削除
一輪さんにもっと
6.名前が無い程度の能力削除
ムライチなら一輪さんタグも一緒に増やせますよね(ダンッ