Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

弾む若草

2011/10/25 20:11:59
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Case:魂魄妖夢



 使いに出された魂魄妖夢は、訪れた先の永遠亭にて、門が開かれたと同時、熱烈とさえ言える歓迎で出迎えられた。

「もうしもうし、主より命を受け、魂魄妖夢、来りて候」
「こんにちは妖夢ー……って、かぁわいいーっ!」
「お久しぶりですうどみょぁぁぁ!?」

 むしろ、押し倒されていた。

「もがっ、うどんげさんうどんげさん、再会の抱擁はまた後ほどに」

 とは言え、このような扱いは慣れたもの。
 代わりの条件を提示して、妖夢はこの場を抜け出そうとした。
 加えて、こつんと額に額を軽く当て、友人、鈴仙・優曇華院・イナバの勢いを抑える。

「可愛い可愛い可愛いーっ!!」

 聞いちゃいねぇ。

「あ、ちょ、そこは! 人前じゃいやー!?」
「大丈夫よ妖夢、此処に種族人間はいないわ」
「姫様、突っ込むところはそこじゃないです」
「あらまぁ突っ込むだなんて、てゐったら。ぽ」
「お師匠、わざとらしく溜息を零さないでください」

 なんだかぞろぞろやってきた。
 順に、蓬莱山輝夜、八意永琳、因幡てゐ。
 ころころと笑い、頬に手を当て、右に左に突っ込みを入れている。

 鈴仙の反応も含め、妖夢が永遠亭を訪れた際のテンプレート的な図だ。

「ひぁ! み、皆さん、見てないで助けてくださいよぅ!」

 悲鳴か嬌声か判別しづらい声を上げつつ、妖夢は助けを求める。

「うどんげも兎だもの」
「鈴仙が楽しそうでなによりウサ」
「いやいやいや、うどんげさんのフォローではなく!?」

 妖夢の突っ込みも板についてきた。

 勿論、この間にも鈴仙のスキンシップは止まっていない。
 具体的に記すと、髪に顔を埋めている。
 そして、左右に振っていた。

 位置的に、妖夢の顔に鈴仙の胸が当たっている。

「どちらかと言えばちっぱいですが私からすればおっぱおがぐりぐりと!
 加えて、しなやか且つむちむちな腿が私の理性を苛む!
 あぁだけれど形の上だけでも助けを求めないと!」

 もうだめねこのこ。

 永琳とてゐが鈴仙を止めなかったのには理由がある。
 前者の場合、理屈でその行為を抑えようとするため、時間を要した。
 後者の場合、力技で解決しようとするが、彼我の膂力の関係上、同じく手間取ってしまう。

 何より、ペットの世話を見るのは飼い主の役目だろう。

「月因幡――待て」

 音が声と認識された時、既に鈴仙は妖夢から離れ、輝夜の傍で坐していた。



 乱れた着衣を整えた後、輝夜に頭を下げ、妖夢はぽつりと呟いた。

「もうちょっと粘っても良かったかも」
「……月因幡、ゴー」
「うさー!」

 わーわーきゃーきゃーもみもみくちゃくちゃ。



 暫くして――恍惚とした表情を浮かべる鈴仙の頭を撫でつつ、そう言えば、と輝夜が切り出す。

「ねぇ妖夢、貴女、何か用事があって来たのよね?」

 そうだった、と妖夢は懐に手を入れ、便箋を取り出した。

 主からの命は、その便箋を届けること。
 輝夜に差し出したソレは、幽々子からのものだった。
 無論、何が書かれているかなど妖夢には知りようもない。

 返答か返信が必要なものなのだろうか――思い、妖夢は、その場で輝夜が手紙を読み終えるのを待った。

「そだ、ねね妖夢」

 坐したまま、鈴仙がぴょんぴょんと近づいてくる。

「なんでしょう、うどんげさん」
「髪、切ったのね」
「ええ、切って頂きました」
「幽々子さんに?」
「です。……おかしいでしょうか」
「さっきも言ったけど、可愛い」
「……ありがとうございます」

 笑顔で感想を述べる鈴仙に、妖夢はほんの少し歯切れ悪く、礼を返した。

 そう、妖夢は髪を切っていた。
 切り揃えていた以前と違い、少しばらけさせている。
 それを本人が気にしているのか、時折後ろ髪を指で弄っていた。

 一見、妖夢の行動はそう言うように映る。

 しかし、事実は違う。
 妖夢は今の髪形を、大層気に入っていた。
 鏡の前で数瞬呆け見詰めいるなど、自身でも驚くほどだ。
 その変化のため、妖夢には望む言葉がある。
 だからこそ、鈴仙への返答も歯切れの悪いものになってしまった。

「それはそれで似合ってるよ」
「ええ、印象が変わったわね」
「……てゐさん、永琳さん」

 その心境を解っていないのは、この場においては鈴仙のみ。

「幼い印象が強い貴女だけど……ねぇうどんげ」
「結構雰囲気も違って見えるねぇ……なぁ鈴仙」

 故に、師と友が、お膳立てをする。

「えっと、うどんげさん?」
「……ちょっと訂正」
「はい」

 こくりと頷き、妖夢は鈴仙の言葉を待った。



「ちっちゃい子が背伸びしているみたいで、可愛い!」
「みょーん!?」

 仰け反る妖夢。
 鈴仙の感想は的確すぎた。
 月兎はもう少し人慣れする必要があると思います。



 騒然とする場において、手紙を読み終えた輝夜は、小さく息を吐き微苦笑を浮かべた。

「解っていないのが、もうヒトリ……」
「彼女の場合、解った上で書いているんじゃない?」
「覗き見なんてはしたないわね。……でも永琳、貴女の言う通りなのかもね」

 記されていた内容は、以下。

『妖夢の髪を切りました。
 とても可愛く切れたと思います。
 ですので、思う存分愛でてください 幽々子』





Case:東風谷早苗



 踵を合わせ、直立する。
 右に一度、左に一度、腰を捻った。
 向きを正面に戻し、右足を上げ、くるりとその場で一回転。

 そして、たんと再度両足を揃え、スカートのように袴を摘み、一礼する。

 一拍遅れて、癖のある――否、より癖を付けた長い髪が、ゆるりと舞った。

「如何でしょう?」

 顔を上げた拍子に目にかかる髪を左手で押さえ、東風谷早苗は問う。

「うー……」

 応えた、と言うより唸りを返したのは、彼女たちのいる神社の当代巫女、縁側に坐す、博麗霊夢だった。

 その反応に、早苗は首を捻る。

 どうにも煮え切らない。
 霊夢と言う少女は、基本、竹を割ったような性格をしている。
 勿論、全ての事柄に対してそうかと言うとまた違う話なのだが、今提示した話題は、十分に基本の範囲だ。
 つまり、似合うか似合わないかの二択。
 判断する時間は十二分にあったはずで、だから結論は出ていると推測できた。

 ならば何故答えが返ってこないのだろう?

 思った矢先――

「……似合ってるわ。綺麗よ」

 ――霊夢が言った。

 霊夢からと言うことを抜きにしても、髪型を変えた少女への最大級の賛辞だろう。
 しかし、それでも、いや、だからこそ、早苗は再度、首を捻った。
 数秒の躊躇い、その間に見せた戸惑いの色。

 何時か見た覚えがある――早苗は、記憶を呼び起こした。

 幼き折、初めて風の力を現した時。
 傍らに立つ神奈子に、優しく頭を撫でられた。
 けれど、伸ばされた手が届いたのは、何時もより遅かったように思う。

「あぁ……」

 嘆息の理由は、反応の解答に見当がついたから。

 もう一つの何時かを思い出す――それは、諏訪子より身長が高くなった時、彼の神が見せた表情。

「霊夢さん、時々ですけど、私のことを娘のように見ていませんか?」

 勿論、早苗にとって二柱は親ではなく、一般論に置き換えていた。

 親とは、自身の童の成長を喜ぶものだ。
 しかし一方で、留めていたいと願う難儀な面も持っている。
 早苗が捉えた先の霊夢の表情は、正にそう言った類のもののように見えた。

 たまったものではない。そう強い意思を込め、早苗は視線で霊夢の瞳を射抜いた。

「娘?
 そうは思ってなかったけど。
 早苗が娘かぁ……うん、悪くないかも」

 返されたのは、意外なまでの好感触。

 本当に思慮の外だったのだろう。
 問いの後、数秒のラグがあり、霊夢がにへらと笑う。
 少し大きくなった自身と少し小さくなった早苗を想起していた。

 たまったものではない。早苗の二度目の嘆息は、ほんの少し、わざとらしかった。

「……いや、待って下さい」
「んぅ、なにかしら、早苗?」
「『そうは思っていなかった』?」

 微妙に甘ったるくなった声に負けず、早苗は問い返した。

 霊夢の目が細くなり、口角が釣り上がる。

「れ・い・む・さん?」

 ぷぃす、と顔が背けられた。

「いや、ほら。
 あんたって、背丈とか色々の割に子供っぽい所があるじゃない?
 そんな大人っぽい髪型にしちゃったら、そう言う面が災いして、悪い虫がついちゃったりしないかな、なんて」

 言葉に、早苗の目も細くなる。
 先の霊夢とは違い、上向きではなく下向きに。
 同じく釣り上がる口角は、諸々の感情により微かに震えていた。

 親と子、その関係に近い間柄に、早苗は今、気付いた。

「ほう。で、思っていたことは?」

 親等は一つ遠ざかるが、それがどうしたと言う話。
 前述の難儀な面もばっちり完備だ。
 所謂、姉妹。



「時々、歳の離れた妹みたいに思う」
「わぁ酷い追い打ちですね」
「可愛いの。困っちゃう」

 自身の頬に手を当てて、惚気るように言う霊夢。

 困っちゃうのは私の方です――飛び出そうになる悲哀を飲み込んで、早苗は身をもってその関係を断固拒否した。

「これでもですか! これでもそんな戯言を仰いますか!」

 つまり、霊夢の頭を胸に抱きこんだ。



「いやだからこういう所がね」
「うりゃ、うりゃっ!」
「相変わらずやぁらかい」



 ――その拍子に若草の緑髪が舞い、射干玉の黒髪に、じゃれるように絡みついた。





                      <了>


《Case:博麗霊夢》

「私も、髪型変えてみようかしら」
「時々変えているじゃないですか」
「伸びたり切ったりしてるだけじゃない」
「ふむ、長いから色々試せそうですね」
「じゃなくて、ばっさりショートに」

《数秒間の沈黙の後、早苗さんが涙目になりました》
・目立って髪型が変わった二名のあれこれと言うお話でした。お読み頂きありがとうございます。

・妖夢の変更理由が文中の鈴仙の言葉としか思えません。可愛い。
・基本的には早苗さん>霊夢、所により霊夢>早苗さん。

・霊夢の髪は風神録のイメージが強いです。もしくは萃夢想や緋想天。髪だけなら「絶対の美」レベル(笑。

いじょ
道標
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
髪型ネタ、良いと思います!
2.名前が無い程度の能力削除
早苗さんそんな変わったっけとか思っちまったw
確認せねば
妖夢が可愛くてホクホクした
3.名前が無い程度の能力削除
霊夢や早苗で想像すると普通の髪型が思い浮かぶのに、なぜか魔理沙で想像するとアフロが浮かんだ
4.名前が無い程度の能力削除
姉妹巫女…そういうのもあるのか!
子供っぽい早苗さんと達観した霊夢、バッチリだと思います

しかし幽々子様…その手紙の内容はどういうことなの…
まあ当人が幸せそうなので問題はないですけどw
5.名前が無い程度の能力削除
なんて愛らしいんだ!
6.名前が無い程度の能力削除
可愛いので二組とも早く結婚すべき。