Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ノット・モンスター・ペアレント!

2011/07/22 23:33:25
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 ――たのもー、たのもー!



 緑が映える白玉楼。
 縁側で茶菓子を摘まむ西行寺幽々子は小首を捻った。
 入口から届けられる声には聞き覚えがあり、誰何で悩んでいる訳ではない。

 幽々子の疑問は、挑戦者の来訪理由だった。

 そも白玉楼に来る客は少ない。
 自身と従者の友を合わせても、月に一度あるかないかだ。
 だと言うのに、此処一週間で既に数度、今日の挑戦者のような声を聞いている。

(何かあったかしら……)

 幾ばくか考えるも、推測すら浮かんでこなかった。

 頭が回らないのは糖分が足りていないからだと思い、幽々子は続けて茶菓子を口に運ぶ。
 ぱくりと齧ると濃厚な甘みが口全体に広がった。
 今日のお菓子は饅頭だ。

 齧る合間に、弾幕の爆ぜる音がする。

 解っていることが一つ。
 挑戦者の目的は、幽々子ではなく従者の魂魄妖夢にあるようだ。
 その理由は明白で、数度の内に一度たりとも幽々子は挑まれていなかった。
 では、妖夢が追い返したという可能性はないだろうか。
 残念ながら、その可能性は極めて低く、考えるに値しない。

 何故かと言うと――「みょわー!?」――大概において、挑戦者よりも従者の悲鳴が先に耳を打っていたからだ。

 残った饅頭をごくんと飲み込み、幽々子は結論に至った。

(後で妖夢に聞きましょう)



 ――ピチューン。





 暫くして。
 幽々子は妖夢を呼び出した。
 何時もよりほんの少し遅い到着に弾幕ごっこの勝敗が透けて見え、微苦笑を浮かべる。

「何用でしょうか、幽々子様」

 膝をつき顔をあげる妖夢には、予測の通り、手痛い敗北の証が見て取れた。

「その前に……ねぇ妖夢、風祝はまた腕をあげたの?」
「‘力‘は勿論、戦い方に幅が……え、私、早苗さんだと言いました?」
「いいえ、言っていないわ。私はなんでもお見通し」

 『見た』のではなく『聞いた』なのだが。
 加えて、妖夢の頬には解りやすい印が貼られていた。
 それは大きめの絆創膏であり、デフォルメされた蛙が踊っている。

 尊敬の眼差しを向けてくる妖夢に今更説明する気にもなれず、幽々子は話を続けた。

「だけど、そう……。
 あの子も此方に来て結構になるものね。
 妖夢、貴女もうかうかしていられないんじゃないかしら?」

 笑みながらも、内心、意地の悪い言い方だと思う。

 弾幕の技量という点で見れば、風祝の上達具合は他と話にならないほど高い。
 当然だろう、彼女は数年前まで、ただの人間に近い状態で暮らしていたのだから。
 よくある話で例えれば、60点の者が80点を取るよりも10点の者が50点を取る方が容易と言う訳だ。

 ――ともかく、少し考えれば解る話なのだが、生憎と幽々子の従者は考えない。

「はい、うかうかしていられません」

 故に意地の悪い言い方だと幽々子自身が思ったのだが、どうやら妖夢には妖夢の考えがあるようだ。

「あら……じゃあ、貴女はどうするの?」

 幽々子に向けられた視線には、何時もより熱が籠っている。

「花の、大結界異変を覚えていますか?
 その頃に使っていた技を磨き直しているんです。
 カードほどの威力はありませんが、何度でも撃てるのは魅力だと思いました。
 ただ、どうしても力を貯める時間が必要になりますので、その短縮を計っています。
 今はまだ試行錯誤の段階なので後れをとることも多々ありますが、あと少しで実戦でも通用するかと思います」

 妖夢にしては珍しい熱弁だった。

 思う思うと繰り返す妖夢に微苦笑しつつ、そのはしゃぎように幽々子の表情も緩くなる。

「いつも一緒にいると解りにくいけれど、貴女も日々成長しているのね。母様は嬉しいわ」
「私は幽々子お嬢様の刀にして盾。お褒めの言葉は身に余る光栄です」
「ことさら臣下の面を強調したわね!?」

 あと、瞳の熱が一気に冷めていた。

 親の心子知らず。
 主の心僕知らず。
 尤も、知ったところで何がどうなる訳でもないのだが。

 小さくため息をつき、幽々子は話を続けた。

「貴女の事情は解ったけれど、それにしても貴方のお友達は随分と親切ね」
「うどんげさんやアリスさん、早苗さんに関しては同意しますが……」
「あら、月兎も来ていたの? あがっていけば良かったのに」
「あ、いえ、うどんげさんとは先日、永遠亭にて一勝負を致しまして」
「そうなの。じゃあその話を聞いて、人形遣いや風祝が助力に来たと言う訳なのね」

 納得したと頷く幽々子だったが、当事者の妖夢は曖昧に首を横に振る。

「或いはそうだったのかもしれませんが……」

 次第に語尾が掠れていく様に、幽々子は別の、何らかの理由があったのだろうと推測する。
 その思考に間違いはなく、確かに『従者の友達』は各々目的があり、此処を訪れていた。
 けれど、幽々子にしてその目的は見当もつかず、また、同一のものであるとは思いもしなかった。

「弾幕ごっこで賭けをしていたんです。負けた方が勝った方の言うことを聞く、と」
「貴女の場合は修業の練習台よね? 連戦連敗だけど」
「返す言葉もございません」

 余りにも身近にいるために、従者の特質をそう捉えていなかったのだ。

「それで、ですね。
 ほら、結構暑くなってきたじゃないですか。
 ですので皆さん、異口同音に『一晩抱いて寝かせろ』と求められまして」

 そう、純粋な霊ほどではないにしろ、妖夢の体温は低い。
 寝苦しい夜に最適な抱き枕である。
 凹凸も少ないし。

「何処からか悪意を感じる――って、あの、幽々子様?」

 流石は妖夢、勘が良い。
 だが、揶揄の先を探るよりも気に留めなくてはならないことがあった。
 眼前の主が、顔を俯かせ、肩を震わせ、わなわなともろ手を挙げている。

 衝撃的な宣言に、幽々子は感情のまま、妖夢の両肩を掴み、叫ぶ。

「妖夢! 私は貴女をそんなふしだらな子に育てた覚えはないわよ!?」
「あぁ、その手の問答は皆さんとやり飽きました」
「例えば!?」

 例えば――

『間に合ってるぜ』
『あら駄目よ、そう言うことは高等部になってから』
『間に合ってるわ』
『その代り、冬はぎゅっとしてあげる。温かいんだから』
『なんなら永遠の寵愛を約束するわよ?』

 ――こんな。

「一番悲しかったのは霊夢です。『は?』って。酷い」
「なんだか表情が浮かぶわー。……さっきはどう?」
「『うふ』の一言でした。怖いけどドッキドキ」

 ほんとに妖夢はむっつりさんですね。

「また悪意が!?」
「妖夢、いきなり抜刀しないで頂戴」
「あ、幽々子様でしたか。うぉぉぉい!?」

 その怒号もどうだろう――思いつつ、幽々子は扇を取り出し、音と共に広げた。

 しゃん。
 短くも鋭い音が耳を打つ。
 少なくとも、妖夢の平静は取り戻された。

 刀が鞘に収められると同時、幽々子は妖夢に視線を合わせる。

「それで、日程は決まっているの?」
「まだ具体的には……ただ、近日中にと頼まれています」
「そう。約束を反故にするのはいけないわね。……仕方ない、か」

 しゃん。
 幽々子は呟き、扇を閉じる。
 次に開かれた扇は、けれど音を立てなかった。

 何故なら、その扇は‘力‘の現れ――妖力によるものだったからだ。

「ゆ、幽々子様!?
 まさか幽々子様も私を抱きたいと!
 全力で抵抗する所存で、かかってこぉいっ!」

 言いつつも、また刀を構える妖夢。
 微苦笑し、幽々子はその頭を扇で打つ。
 こつん、と小さな音が鳴った。

 そして、小さな小さな罠を張る。

「繰り返しになるけれど……母様は妖夢をそんなふしだらな子に育てた覚えはありません」
「幽々子様が肉親でしたらとっくの昔にぱついち殴っています」
「時々手をあげられているような」

 急いでそっぽを向く従者に、幽々子は笑みを浮かべる。
 微笑の理由は、易々と張った罠にかかったから。
 だけれど、それだけでもない。

(ほんとにもぅ、頼りない子ねぇ)――細められた目には、隠しようもない親愛の情が滲んでいた。



「ともかく――‘近日中‘になる前に、貴女のお友達をこてんぱんにしないとね」
「んな!? 子供の喧嘩に出張る親のような……あ!」
「そう、私は貴女の親ではないのよ」



 言葉尻を捉え、会心の笑みを浮かべつつ、幽々子は続けた。

「だから、誰にも、勿論、貴女にも、そう言うことを止められる理由はないわよねぇ?」





                         <了>



《因みに、妖夢としては嬉しさ半分煩わしさ半分といった具合でした》



 さて。
 博麗神社、魔法の森、紅魔館をクリアして、幽々子と妖夢は次なる目的地へと辿り着いた。
 常日頃は来訪者を拒み閉ざされた感のあるその道筋は、どう言う訳かオープンガード、スカートを膝上二十センチほどまでたくしあげた女子のようであった。

 晒しが見えるか見えないかのラインと例えてもいい。

 ともかく、主従が降り立ったのは、‘不思議なお屋敷‘と書にも記された永遠亭である。

「さ、流石に若い子との連戦は疲れるわー」
「そーゆー言い回しは止めてください!」
「あのね、貴女、穿ち過ぎよ」

 そんな主従の会話を聞きつけたのか、迎えたのもまた、永遠亭の主従。

「妖夢だ! こんにちは、妖夢!」
「それと、幽々子もね。御機嫌よう」

 否、ペットと飼い主だった。

「はぁい、御機嫌よう輝夜」
「お久しぶりです、うどんげさん」

 飼い主に挨拶を返す幽々子だったが、視線はそのペットへと向けていた。
 守矢の風祝も残っているのだ、時間をかけてはいられない。
 無邪気な鈴仙を愛でつつも、自身の体に鞭を打った。

 いきなり‘力‘を展開し、手を伸ばす――弾幕ごっこへの誘いだ。

「抱き枕の件、覚えているわよね? 奪い返させてもらうわ」
「あら、大人げのないこと。だけど、いいわよ、きなさい」
「ふぅん、言うようになったじゃない、かぐ……あ?」

 返された言葉に、幽々子は、珍しくも本気で首を傾げる。



「妖夢のことでしょ?」
「えと、その、うん」
「あ、輝夜さんもです」

 輝夜の確認にぱくぱくと口を開閉する幽々子、妖夢もこくりと頷いた。



 数秒の間。

「ちょっと輝夜、貴女の力量なら私に勝負を挑んで妖夢の件を頼むべきでしょう!?」
「いえ幽々子様、うどんげさんの後に、私から手合わせをお願いしました」
「そも弾幕したのも含めて聞いてないわよ!?」
「はて、含められた方は言っていたはずですが……」
「あー、『永遠の寵愛』云々ね。そんなんで解る訳ないでしょー!?」



 更に数秒の、間。

「ねぇ幽々子、それはつまり、貴女も倒して主従両名とも抱きなさいと言う誘いかしら?」

 姫様がなんか言いだした。



 一瞬、ぽかんとする幽々子。
 彼女の視界には、三つの顔が映っていた。
 ころころと笑む輝夜、小首を傾げる鈴仙、そして、顎を落とさんばかりの妖夢。

 誘いに乗って、幽々子は口を開く。同時、首元のリボンも解かれた。

「あぁぐーや、ウチを好きにしてもええから、妖夢は、妖夢だけは堪忍よ……」
「くふふ、それは貴女の態度次第、愉しませてくれるなら考えてあげる」
「そんな妖夢の前でだなんて!? いや、やめて、……あぁっ」

 注。幽々子様と姫様は何もしていません。

「あぁ! これが噂の主従丼!?」
「ど、丼もの? 親子丼とかそういう……?」
「はっ、いけませんうどんげさんそんな破廉恥な言葉を!」
「え、え? あ、ともかく、姫様を止めないと! 幽々子さん嫌がってるし」
「否っ! 幽々子様のあれは駆け引きの一種! いやよやめてはOKサインもしも愛なら紛い物で栗の――!」

 注。むっつりと天然は真剣です。

 妖夢の言葉が続けられるよりも速く、幽々子と輝夜は動いた。
 前者はぽいっと扇を放り投げる。
 後者は皮衣だった。

 その目標は、従者でありペット。

「はなんっ!?」
「う、うさ!?」

 驚きの声があげられると同時、幽々子と輝夜は‘力‘を展開させる。ごっこ遊びのための‘力‘を。



「もう、妖夢ってば……」
「月因幡に見せるのはまだ早い」
「貴女も大概ペット馬鹿……って、え、本気?」



 袖で口元を隠し、輝夜が目を細める。

 眉根を寄せて、幽々子も微苦笑を浮かべた。

 そして、妖夢と幽々子の貞操をかけた弾幕ごっこが始められるのだった――。



《/因みに、妖夢としては嬉しさ半分やらしさ半分といった具合でした》
・負けてください幽々子様。お読み頂きありがとうございます。

・子供扱いしたい幽々様→子供扱いされたくない妖夢→逆手に取る幽々様、と言うお話でした。
・妖夢は微妙なお年頃。褒めて欲しいけど露骨には構われたくない模様です。
・勿論、幽々様はお見通し。

・あと。幽々様と姫様のとぼけた会話を書くの、凄く楽しい。

いじょ
道標
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
幽々子様はやっぱりお母さん気質。
なんというむっつり妖夢。
2.名前が無い程度の能力削除
霊夢、アリス、魔理沙(『間に合ってるぜ』の台詞から推測)、紅魔館の誰か(咲夜?)、鈴仙、輝夜、早苗
少なくとも7人に抱かれる約束をしちゃったとか

妖夢はやっぱりふしだらな子。
3.名前が無い程度の能力削除
夏は冷やっこい子が好かれるよね。
続かないのかな、残念。
4.名前が無い程度の能力削除
ゆゆ様もひゃっこい上にむちむちだから抱き心地が良いに違いない。