守矢神社、客室
「で、何があったんだ?」
「………」
空の神、八坂神奈子の前で天子が顔を俯かせながら座っている。
早苗はまた別の部屋で諏訪子と小傘に任せてある。
「聞かせてくれ、これからの事も決めなけばならない」
「…少しお待ちください」
「…分かった」
二人はお茶を啜り、言葉を発さず時間を潰す。
そして半刻―――
「天子様、お待たせしました」
静かに龍宮の使い、永江衣玖はやって来た。
「どうだった?」
「『今回の件はすまないがお前に任せる』とのことです」
「つまり今責任は全て私に在るのね。分かってたけど」
「そうですね」
「…お待たせしました、八坂様。こちらの用意も整いましたのでこれより始めさせていただきます」
「…その前に、初にお目に掛かります、八坂様。私は竜宮の使いの永江衣玖、天子様のお付きの者でございます」
「なるほど、よろしく」
「よろしくお願いします」
「…では、始めます」
そして天子は話し始めた。
とは言え、話せることなどあまりないのだが
守矢神社、境内
「妖怪?ですか?」
「うん、から傘お化け。うらめしや―」
「表はそばやー」
「……」
「?な、何か変なことでも言いましたか!?」
「い、いや…大丈夫…」
「?」
「…小傘、休んでていいよ?」
「…大丈夫です、諏訪子様」
「そう?…まあいい、整理しよう…名前は?」
「あ、えっと…東風谷早苗です」
「此処は何処?」
「えっと…えー…『守矢神社』ですか?」
これに関しては何処かに書いてあるのを見たのだろう、目が遠くを見ている。
「じゃあこの一帯の地名は?」
「えっと…分かりません…山―だとしか」
「…生年月日は?」
「分かりません…」
「そうか…妖怪や神については?」
「え、えと…小傘ちゃんは確か妖怪で…洩矢さまは確か神様で在らされると…」
「そうだね…」
「うん、あってるね…じゃあ最後に…飛べる?」
「飛べるって…私飛べるんですか!!?」
「いや、まあ…飛んでたね、うん」
「へーすごいんですね私」
「「そうだね、すごかったよ」」
「へー…そうだったんだ…」
「早苗…」
「ねえ、小傘と早苗、一緒に里まで出かけたらどうだい?お駄賃上げるから――ちょいと待ってて、はい」
「ありがとうございます」
「分かりました」
「それでは、いってきます」
守矢神社、客室
「…約50年前。早苗様が道を超え、天界の果ての中心に顕れました時に私と早苗様は接触しました、そして書に則り早苗様を神にするために、なるために、させるために『 』へお連れしました」
「『 』とはなんだ?」
「小さな大きい世界です」
「…早苗の状況は」
「…『 』とは世界の循環、何かを失い何かを得る世界の理を体現した世界。そこで彼女は神に変換されていましたが…どうやら『奇跡』の力が拒絶したそうで…」
「…それで?」
「世界の日に人形が、月に抜け殻、そしてあそこにいるのは…」
「…『奇跡』か?」
「ハイ…ですので形を持っていません、早苗様そっくりなのは早苗様は『奇跡』で『奇跡』は早苗様だからです、一番形として取りやすかったのは早苗様なのでしょう」
「…ということは…あれは早苗じゃないのか?」
「いえ、先ほども言いましたが『奇跡』とは早苗様です。一番の問題は…」
「一番の問題は?」
「誰が『早苗』か、です」
「…ふむ?」
「抜け殻に早苗の元が入っているのか、『奇跡』が元を形成しているのか、それとも、人形が元になったか。今は分かりませんが――」
「…記憶は何処にあるんだい?」
「…八坂様も知っているかもしれませんが所有権は最後に来るものです。結局、記憶は奪われても全て『早苗』が持っています。安心してください」
「…で、結局どうするんだい?」
「…『 』には現在警戒装置が起動して今あの場所は『誰そ彼』と名を取り戻しています。故に今がチャンスです、本当に最後の試練の」
「そうか…明日に行こう」
「そうですか…分かりました、私も行きます」
「…よろしくな、かしまし娘」
「…はい」
「バレたのですから本性出したらどうです?」
「うるさいわよ衣玖、黙ってたと思えばいきなり…」
「ハハハ!いいことさ…」
「すいません…」
「いいさ…さて行こうか」
「何処へですか?」
「…里に、さ」
人里、近郊
「貴女は誰ですか!?」
「私?私は早苗、東風谷早苗」
「危ない!!」
咄嗟に小傘は敵が放った光の槍を空中で傘状に展開した水の壁でガードする。
「貴女…邪魔」
「消え…た!!?」
「開海「モーゼの奇跡」!!!」
上から高速で降下してくる敵の踵落しを腕をクロスして受け止め、蛇の目傘で水流から早苗を護る。
「ナイスキャッチ、でも…」
受け止められた方とは逆の足を小傘の脇に差し込みもう片方の足もすぐさま同じく差し込み、そのまま落下の勢いを利用してそのまま小傘を上空へ打ち上げた。
「あっ!?」
「秘法「九字刺し」」
縦4横5の計9本が小傘に突き刺さる。腕に、足に、腹に胸に首に深く抉り突きささる。
「ガッ!あ、ァァ…ぁ」
「頭だけは勘弁してあげる。でも死んで、邪魔」
「あ、あ…あ」
「さて、貴女」
「何で、何で小傘さんを!!」
「言ったじゃん、邪魔だったの。さて…」
―――いただきます。
そう言って早苗の顎に手を当て、唇を近付けた。
「……ろ……離れ…ろ!早苗から離れろ!!傘符「一本足ピッチャー返し」!!!」
満身創痍の体を起こし小傘はスペルカードを発動した。
「チッ!!?」
敵がいたところをギリギリ翳める高速の大弾に、さすがに回避を優先した敵はすぐさま早苗から距離を離した。
「邪魔…するな!!」
小傘にとどめを刺そうとしたその時――
「神祭「エクスパンデッド・オンバシラ」」
「神具「洩矢の鉄の輪」」
「雷符「エレキテルの龍宮」」
「要石「カナメファンネル」」
上空からスペルが大量に射出された。
「ガァ!!…なんだ…邪魔ばかり…イライラする」
「貴女は…」
「フ…何?私がボロボロにされたのが愉快?それとも私が早苗を名乗るのが可笑しい?」
「そんなわけじゃ!!!」
「…分かってるよ、そんなの。というか貴方も分かってるのね」
「……!」
「来なさい、『誰そ彼』に」
そう言い残しいて風と共に去った。
「小傘!!」
「早く永遠亭に!!」
「あ…あ…――」
「奇跡じゃダメなの!?」
「早苗の奇跡は元々私たちの力を借りる力、徐々に進化して自分の力を持ったようだけどそれでも分野が違う。それにこんな状態だ、望みは薄い…」
「じゃあ早くしなきゃ!!」
「…道がつねにあなたの前にありますように」
「…早苗?」
「風がいつもあなたの背中を押してくれますように。
太陽があなたの顔を暖かく照らし、雨があなたの畑にやさしく降り注ぎますように。
そしてふたたび会う日まで、
神様がその手のひらであなたをやさしく包んでくださいますように…」
「その言葉は…」
「あれだね…」
道がつねにあなたの前にありますように。
風がいつもあなたの背中を押してくれますように。
太陽があなたの顔を暖かく照らし、雨があなたの畑にやさしく降り注ぎますように。
そしてふたたび会う日まで、
神様がその手のひらであなたをやさしく包んでくださいますように…。
大地は諏訪子
大空は神奈子
風は早苗
そこに小傘が加わり
血のつながり以上に強い結びを祈る言葉を小傘に送った。
「…血よ止まって、息吹を強く、力は穏やかに、光は静かに、傷はそのままに…明日の未来を…」
「――これならなんとかなるわ!!もういい早苗ストップ!!!」
「…え?」
「早苗!!血!!!」
「………え?」
触れると、どうやら目と鼻から血を流しているようだ。それもかなり。
「言っただろう…分野が違うんだ…」
「…あ―――」
口から血を吐き、早苗は倒れた。
誰そ彼、日の入り
「此処ね…」
『日出ずる処の天子――』
「…書を日没する処の天子に致す」
「『恙無しや』」
『書は無いの?』
「貴女は運がいい。丁度いい本があるわ」
『へえ?』
「私の日記よ」
『…そりゃあ、スリリングな事で』
「そうね…そのまま自己嫌悪に飲まれて落ちなさい!!!!」
カオスに走らずに終わらせれるか否か、そこが問題だ