Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

この特別な夜に

2011/07/07 19:14:59
最終更新
サイズ
2.09KB
ページ数
1

分類タグ

ぱらぱらと地面を跳ね踊る雨夜の音さえも届かない深奥の図書館では。
ぱらぱらと紙面を捲る音だけが心地よい薄暗闇の中に響いていた。
いつもの場所、いつもの雰囲気。
今日が何でもない普通の日であったならば、その普段通りの平穏を神様にでも悪魔にでも感謝したいところなのだが。
しかし、今日という日を楽しみにしていた者にとっては、このどんよりとした天気と空気は何よりも物悲しさを感じさせるものだった。

「せっかくの七夕だというのに、雨なんて」

溜め息交じりの独り言を漏らしたのは図書館の主、ではなく。
今日という特別な日を楽しみにしていた者の一人、アリス=マーガトロイドだった。

「七夕祭り、行きたかったのになあ……」

「あら、何をそんなに落ち込んでいると思いきや、お祭りなんかに行きたかったの?」

「なんか、とは何よ」

「いつもは森の奥に引き籠っているくせに、お祭り事には参加したいわけね」

「あなたに言われたくはないんだけど……」

本も読まず沈んだ気分のまま紅茶のカップを傾けている客人に、先輩風を吹かせる小言を並べたのは、今度こそ図書館の主であるパチュリー=ノーレッジだった。
アリスとは対照的に、まるで雨の中で鳴いている蛙のようにご機嫌な様子の彼女。
先ほどから本の下に微笑みを湛えては、珍しく不機嫌なアリスをからかってばかりいるようで。

「……面白くないわ」

「何が?」

「何でそんなに機嫌がいいのよ」

今まで散々積み重ねられた鬱憤を晴らすがごとく、とうとうアリスはパチュリーに問い質した。
本当はあまり、こちらが気分の悪い時に、他人様の上機嫌の理由など知りたくもないのだが。
いつまでもしてやられてばかりでは、さらに気分は低気圧に入り込んでしまう。
どうせならこれを皮切りに、仕返ししてやってもいいかもしれない。
そんな適当なことを考えつつもアリスは、冷えたカップ片手に相手の出方を伺った。

「簡単なこと」

ごくり、と。
喉を通る期待と甘い紅茶。

「行くべき場所を見失った魔法使いと、二人きりでいられるからよ」

「ごほっ、ごほ……!」

しかし、すんなりと交通許可が下りることはなかった。
すでに熱さなど失っているというのに、熱湯を飲み込んでしまったかのように喉は沸き立ち始め。
そして頭も頬も顔も、やかんのように蒸気を上げ始めた。

「ねえ、アリス」

「……な、によ」

「お茶のおかわりはいかが?」

「そうね……」

星の見えない残念な七夕の夜。
けれど二人とって、これからは特別な夜になるのかもしれない。

「まだまだ長くなりそうだし、いただくとするわ」
今日が七夕と気づいて速攻で書き上げたものです。ゆえに短し。
七夕に降る雨を催涙雨と言うらしいです。
特別な名前がついているのって素敵ですね。

>七曜×七色でパチュアリの日
まさしくそのとおりでございまする。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
いっちょうめ
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
7/7は七曜×七色でパチュアリの日なのかー
短いながらも二人のこの雰囲気、いいですね~
2.奇声を発する程度の能力削除
↑ああ!今漸く気がついた!
3.名前が無い程度の能力削除
パッチェさん素敵
4.名前が無い程度の能力削除
いい。