Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

てんまさまとこがらすいちわ

2011/05/18 02:02:57
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 秋らしく、乾いた空気が心地いい午後。その日、わたしは自室でのんびりと過ごしていた。
 わたし、天魔は天狗社会の長ではあるが、仕事の量自体はそんなに多くない。やることといえば、実際に山を治めておられる鬼の方々や神々へのご挨拶と、文書に目を通して印を押すことぐらい。他の細かいことは大天狗始め、かわいい部下の天狗達がやってくれているから楽なことこの上ない。
 だからこんな風に何もしなくていい時間たくさん取れるのだ。いまは丁度古い文献に目を通していて、これがなかなか興味深い。ついつい時間が経つのも気にせず、一文字一文字、目でしっかりと追ってしまっていた。
 しばらくして、少し休憩しようかと大きく伸びをした。長い間同じ姿勢でいると体が凝り固まってしまう。
 そのまましばらく体を動かしていたら、カタカタッ、と軽い物音がした。音がした方角を見ると、障子が小刻みに揺れている。
 おかしいな、今日は大した風も無いのに。よく見れば障子に小さな影坊主が写っている。
 わたしは書物を机の上に置き、影に声をかけた。
「ほら、そんなとこに突っ立っていないでこっちにいらっしゃいな」
 そっ、と障子が開かれると、幼い鴉天狗の女の子が顔を半分覗かせていた。クリッとした眼を不安げに伏せ、こちらを見つめている。
 わたしが手招きすると、彼女はパッと顔を綻ばせて走り寄ってきた。
「てんまさまー」
 子天狗は胡坐をかいたわたしの膝の上に飛びついた。
「あらあら、文ったら」
 肩を抱いてちゃんと座らせてあげると、文は真ん丸な眼で見上げてきた。
「てんまさま、あたしのことをごぞんじなんですか?」
「もちろん。鴉天狗の射命丸文。元はわたしのお付きの鴉で、天狗に転生したのはほんの数年前。この時間は確か 大天狗に修行をつけてもらってるはずだけど……」
 わたしがそう言うと、文はばつが悪そうな顔をして目を逸らした。
やっぱり。また抜け出してきたのね。
「文は修行嫌い?」
「いいえ、ちがいます! 好きです……けど、なんというか……その……」
 よしよし。涙目で訴えられてはあんまり叱る気にもならないもの。元よりそんな気はなかったけれど。
「まぁ、たまには休みたいときもあるわよね。」
 大天狗の赤ら顔を相手取るならば特に、ね。
 文はさも不思議そうにわたしの顔を見た。
「てんまさまも、おやすみのおじかんなのですか?」
「ええ、読書中」
「なにをおよみに?」
「昔の天狗が書いた物よ。攫った人に色んなものを見せて、その様を面白おかしく書き連ねているの」
 興味を持ったのか、文はわたしの足を踏みつけ向きを変え、書物を手に取った。
「……うー、よめない」
 書は漢語で記されており、天狗となってからまだ日の浅い彼女には難しかった。
「さすがにまだ早かったかしらね……そうだ」
 わたしは手を振って小さなそよ風を起こした。風はゆっくりと本棚から巻物を一つ取り出して、文の手元に落とした。
「こっちは人が書いた物語でね。仮名で書かれているし、挿絵もあるから読みやすいはずよ」
 絵巻を広げると、色鮮やかな着物を着た人々や花がまるで踊るかのように描かれている。これならば文でも楽しめるだろう。それなのに、覗き込んだ彼女は浮かない顔をしている。
 どうしたの、とわたしが尋ねると、文は小さな声で謝った。
「……ごめんなさい。てんまさまのごべんきょうをじゃましてしまって……」
 羽まで元気をなくし、シュンとして垂れ下がってしまっていた。
 どうもこの子は責任という物を重く考えすぎている。天狗の子としては間違っていないのだが、この場合は少々面倒だ。
 わたしは優しく言い聞かせることにした。
「文、読書というのはどういう意味か分かる?」
「え、えーっと……どくしょだから、ごほんをよむから……」
「そう。読書とはただ本を読むだけ。だから、難しい漢語の書も楽しい絵巻物でも、することに変わりはないわ」
 だからあなたが気にやむことではないのよ。少し不満げな様子の文の頭を撫でてやった。鴉だった頃から変わらない、真っ黒な艶は細い髪の毛にちゃんと残っている。
「へりくつじゃないですか」
「小難しい論理のほうが納得しやすいでしょ?」
 文はしばらく考え込んでいたが、やがてパッと晴れやかな表情を浮かべた。
「わかりました。じゃあ、長いものに巻かれることにしまーす」
 そう言って、空いているわたしの腕を取って自分の体に巻きつけた。
 まったく、どこでこんな口の利き方覚えてくるんだか。
「しょうがないわねぇ。じゃあ、こっち持って」
「はーい」
 えへへ、と白い歯を出して笑った顔が見上げてくる。わたしも自然と顔がゆるむのを感じた。
『いずれのおんときにか、にょうご、こういあまたさぶらひたまひけるなかに――――』
 

 爽やかで元気な風が吹きかけてくる、とても穏やかな昼下がりのことであった。




 ~某月某日妖怪の山の宴会にて~
 
天 魔「…………ってなこともあったわねぇ。懐かしいでしょ、文?」
 文 「そうですねー、あの頃は楽しかったですねー…………って天魔様の罰ゲームなのに、何で私の恥ずかしい話してるんですか!」
 椛 「へー……小っちゃい頃の文さんって、ずいぶんと甘えん坊さんだったんですねぇ」
 文 「何百年も前の話だから! 今もそうとかそんなわけないから!」
天 魔「大丈夫。いまだって十分かわいいわよ」
 文 「うぅぅ………………////」
他天狗(射命丸め、天魔様の膝とかパルすぎる……!)
 天魔様が山の天狗みんなのおかあさんだったらいいなぁ、という妄想。
 
 初投稿でありますが、なにとぞよろしくお願いします。

◆追記:不自然な空白削除しました。評価ありがとうございます。 
レイカス
http://twitter.com/kusakuuraykasu
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
ロリ文可愛い!!!
2.香霖堂本店削除
ロリ文最高!!!!
3.tukai削除
天魔様が楽しいお方だ
4.名前が無い程度の能力削除
天魔様が女性・・・
ありだな、幻想郷だもの!!